行政書士の将来性|AI時代に需要が伸びる分野
行政書士の将来性をデータで分析。登録者数の推移、AI・DXの影響、今後需要が伸びる入管・建設業・相続分野、電子申請の普及と行政書士の役割変化について、最新の動向を踏まえて詳しく解説します。
行政書士の将来性を考えるために
「行政書士に将来性はあるのか」「AIに仕事を奪われるのではないか」という不安を抱えている方は少なくありません。確かにAIやDX(デジタルトランスフォーメーション)の進展は、行政書士の業務に大きな影響を与えつつあります。
しかし、結論から言えば、行政書士の将来性は「どの分野で、どのように仕事をするか」によって大きく異なります。単純な書類作成業務はAIに代替される可能性が高い一方で、コンサルティング要素の強い業務や複雑な判断を要する業務は、むしろ需要が拡大する見通しです。
この記事では、行政書士を取り巻く環境の変化を客観的なデータとともに分析し、今後需要が伸びる分野と、行政書士が生き残るために必要な戦略について解説します。
行政書士の登録者数の推移
行政書士の将来性を考える上で、まず登録者数の推移を確認しましょう。
登録者数の推移(近年)
登録者数は毎年着実に増加しており、2024年時点で約5万2000人に達しています。これは行政書士の需要が一定以上あることを示していますが、同時に競争が激化していることも意味します。
試験の受験者数と合格率
2020年以降、受験者数は増加傾向にあります。コロナ禍をきっかけに資格取得への関心が高まったこと、在宅で勉強できる環境が整ったことなどが背景にあると考えられます。合格率は近年やや上昇傾向にあり、毎年5,000〜6,000人程度の新たな合格者が誕生しています。
AI・DXが行政書士に与える影響
AIやDXの進展は、行政書士の業務にどのような影響を与えるのでしょうか。ポジティブな影響とネガティブな影響の両面を分析します。
AIに代替されやすい業務
以下のような「定型的」な業務は、AIによる代替リスクが高いとされています。
- 定型的な書類作成: 申請書のフォーマットに沿った単純な記入作業
- 情報収集・整理: 法令や通達の検索・整理
- 添付書類の確認: チェックリストに基づく書類の過不足確認
- 翻訳業務: 外国語の書類の翻訳(AI翻訳の精度向上により)
野村総合研究所とオックスフォード大学の共同研究(2015年)では、「行政書士」は「AIやロボットに代替される可能性が高い職業」の一つとして挙げられました。この研究結果は大きな話題となりましたが、注意すべきなのは、これは行政書士の業務「全体」が代替されるという意味ではなく、業務の「一部」が代替される可能性があるという意味です。
AIに代替されにくい業務
一方で、以下のような業務はAIによる代替が困難とされています。
- コンサルティング業務: 顧客の状況を総合的に判断し、最適な許認可の方針を提案する
- 複雑な案件の判断: 法令の解釈が分かれるケース、前例のない申請など
- 行政機関との交渉・折衝: 申請に際しての事前相談、補正対応など
- 顧客との信頼関係構築: 外国人のビザ申請における生活相談、相続における家族間の調整など
- 制度変更への対応: 新しい法令や制度改正への迅速な対応
AIを「使う側」になることが重要
AIの進展は、行政書士にとって脅威であると同時にチャンスでもあります。AIツールを積極的に活用することで、以下のようなメリットが得られます。
- 業務効率の大幅な向上: 書類作成時間の短縮、情報収集の高速化
- 品質の向上: AIによるチェック機能でミスの削減
- コスト削減: 人件費や外注費の削減
- 新たなサービスの提供: AI活用を前提とした新しいコンサルティングサービス
AIを「敵」ではなく「味方」として活用できる行政書士が、今後の競争で優位に立つことは間違いありません。
今後需要が伸びる5つの分野
行政書士の業務分野の中で、今後特に需要の成長が期待される5つの分野を紹介します。
1. 入管業務(外国人のビザ・在留資格)
日本の外国人労働者数は年々増加しており、2023年10月時点で約204万人と過去最高を記録しました(厚生労働省「外国人雇用状況の届出状況」)。
2019年4月の改正入管法施行により「特定技能」の在留資格が創設され、外国人材の受入れが本格化しました。2024年には特定技能の受入れ対象分野が拡大され、今後もこの流れは加速する見込みです。
入管業務は手続きが複雑で、入管法や関連する通達・ガイドラインの知識が不可欠なため、AIだけでは対応しきれない業務です。外国人本人とのコミュニケーション能力も求められるため、人間の行政書士にしかできない付加価値を提供できます。
2. 建設業許可関連
建設業許可は、行政書士にとって最も安定した収入源の一つです。
- 建設業許可業者数は約47万業者(2024年3月末時点、国土交通省発表)
- 建設業許可は5年ごとの更新が必要で、リピート案件が発生する
- 2020年の建設業法改正で「経営業務の管理責任者」の要件が見直され、新たな申請需要が発生
- 建設キャリアアップシステム(CCUS)の普及に伴い、関連する届出業務も増加
- インフラ老朽化に伴う公共工事の増加で、経営事項審査(経審)の需要も堅調
建設業許可は法改正が頻繁に行われるため、最新の法令に精通した行政書士の需要は今後も続くでしょう。
3. 相続・遺言関連
高齢化の進展に伴い、相続・遺言関連の業務需要は着実に増加しています。
- 年間死亡者数は約157万人(2023年、厚生労働省「人口動態統計」)で、今後も増加の見込み
- 2019年の相続法改正(配偶者居住権の新設、自筆証書遺言の保管制度など)により、新たな業務ニーズが発生
- 法務局における「自筆証書遺言書保管制度」の利用件数は年々増加中
- 相続登記の義務化(2024年4月施行)に関連する業務も増加
行政書士は、遺産分割協議書の作成、相続人調査(戸籍収集)、遺言書の起案支援、相続財産目録の作成など、相続に関する幅広い業務を行うことができます。
4. 補助金・助成金申請支援
コロナ禍以降、中小企業向けの補助金・助成金の種類と予算規模が大幅に拡大しました。
- 事業再構築補助金: 1件あたり最大1億円(中小企業枠)
- ものづくり補助金: 1件あたり最大1,250万円
- 小規模事業者持続化補助金: 1件あたり最大200万円
- IT導入補助金: 1件あたり最大450万円
補助金申請の支援は、事業計画書の作成という高度なコンサルティング能力が求められるため、報酬単価も高くなります。成功報酬型で補助金額の10〜15%を報酬とするケースが一般的で、大型案件では1件で数十万〜100万円以上の報酬を得ることも可能です。
5. ドローン・自動運転関連の許認可
新技術の普及に伴い、新たな許認可業務が生まれています。
- ドローン(無人航空機): 2022年の航空法改正により「無人航空機の登録制度」が開始。飛行許可・承認の申請業務が増加
- 自動運転: 2023年の道路交通法改正で「レベル4」の自動運転が解禁。今後、関連する許認可業務が増える見込み
- 電動キックボード: 2023年7月から新たな交通ルールが適用。事業者向けの許認可対応
新たな規制が生まれるたびに、行政書士の業務フィールドは拡大します。こうした最先端分野にいち早く対応できる行政書士は、先行者利益を得ることができます。
行政書士の登録者数は近年減少傾向にある。
電子申請の普及と行政書士の役割変化
行政手続きの電子化は、行政書士の業務に大きな変革をもたらしています。
電子申請の現状
政府はデジタルガバメント推進の一環として、行政手続きのオンライン化を急速に進めています。
- 2021年: デジタル庁が発足し、行政のデジタル化が加速
- 2022年: マイナンバーカードの普及率が50%を超える
- 2023年: 各種行政手続きの電子化が本格化
- 2024年: 建設業許可申請の電子化システム(JCIP)の運用が本格化
主な電子申請の状況は以下の通りです。
電子申請時代の行政書士の役割
電子申請の普及により、「紙の書類を作成して窓口に提出する」という従来型の業務は縮小する可能性があります。しかし、これは行政書士の仕事がなくなることを意味するわけではありません。
むしろ重要性が増す役割
- 制度の案内役: 複雑な電子申請システムの操作方法を顧客に代わって対応する
- 申請戦略の立案: どの許認可をどの順番で申請すべきかを総合的に判断する
- 添付書類の準備・管理: 電子申請であっても、添付書類の準備は必要。適切な書類を揃え、電子化する作業は引き続き行政書士の重要な業務
- 行政機関との橋渡し: 電子申請でエラーが発生した場合や、追加書類を求められた場合の対応
- コンプライアンスの確保: 許認可後の変届出や更新手続きのスケジュール管理
電子申請に迅速に対応できる行政書士は、従来以上に顧客から重宝されることになるでしょう。
行政書士が生き残るための5つの戦略
AI時代において行政書士として成功し続けるための戦略を提案します。
戦略1: 専門特化でポジションを確立する
「何でもやる行政書士」から「特定分野のエキスパート」へと転換することが重要です。専門分野を絞ることで、以下のメリットが得られます。
- 特定分野における知識と経験が蓄積される
- その分野での認知度・信頼度が高まる
- SEOでも上位表示されやすくなる
- 報酬単価を上げやすくなる
戦略2: コンサルティング能力を強化する
書類作成という「作業」ではなく、顧客の課題を解決する「コンサルティング」を提供することを意識しましょう。
- 顧客の事業を理解し、最適な許認可戦略を提案する
- 許認可取得後の事業展開についてもアドバイスする
- 関連する法令の改正情報をタイムリーに提供する
- 他士業と連携したワンストップサービスを提供する
戦略3: デジタルスキルを身につける
AIやDXのツールを使いこなすことで、業務効率を大幅に向上させることができます。
- 生成AI(ChatGPT、Claudeなど): 文書作成の下書き、情報収集、翻訳に活用
- 電子申請システム: 各種電子申請システムの操作に習熟する
- クラウドツール: 顧客管理、案件管理、ファイル共有にクラウドサービスを活用
- Webマーケティング: SEO、SNS運用、広告運用のスキルを身につける
戦略4: ネットワークを拡大する
一人で完結する時代は終わりつつあります。他士業や異業種とのネットワークを構築し、複合的なサービスを提供することが重要です。
- 司法書士、税理士、社会保険労務士との業務提携
- 不動産業者、金融機関、人材紹介会社との紹介ネットワーク
- 行政書士同士のネットワーク(専門分野の異なる行政書士間での紹介)
戦略5: 継続的に学び続ける
法令は常に変わり、社会のニーズも変化し続けます。学びを止めた瞬間に、時代に取り残されるリスクがあります。
- 行政書士会の研修に積極的に参加する
- 法改正情報を常にキャッチアップする
- 関連する資格の取得にチャレンジする
- 異業種のセミナーや勉強会にも参加し、視野を広げる
2019年4月の改正入管法施行により創設された「特定技能」の在留資格は、行政書士が申請取次を行うことができる。
まとめ
行政書士の将来性は、「何もしなければ厳しい、しかし戦略的に動けば明るい」というのが率直な結論です。
将来性が明るい理由
- 外国人労働者の増加に伴う入管業務の需要拡大
- 高齢化社会における相続・遺言業務の増加
- 建設業許可をはじめとする許認可業務の安定的な需要
- 新技術(ドローン、自動運転など)に伴う新たな許認可の登場
- 補助金・助成金申請支援の需要増
注意すべきリスク
- AIによる定型業務の代替
- 電子申請の普及による「窓口代行」ニーズの低下
- 登録者数の増加による競争激化
- 法改正による業務範囲の変動
これからの行政書士に求められるのは、「書類を作る人」から「顧客の課題を解決するコンサルタント」への進化です。AIを味方につけ、専門分野を確立し、デジタルスキルを磨くことで、行政書士としてのキャリアは今後も大きな可能性を秘めています。
行政書士を目指している方は、こうした時代の変化をポジティブに捉え、自身の強みを活かせる分野を見つけてください。変化の多い時代だからこそ、行政書士という資格の価値を最大限に引き出すチャンスがあるのです。