違憲審査制|付随的違憲審査制の意味と重要判例
憲法81条の違憲審査制を解説。付随的違憲審査制(アメリカ型)と抽象的違憲審査制(ドイツ型)の違い、統治行為論、部分社会の法理、重要判例を整理します。
はじめに|違憲審査制は統治分野の最重要テーマ
行政書士試験の憲法・統治分野において、違憲審査制は最も出題頻度の高いテーマの一つです。憲法81条が定める違憲審査権の性質、司法権の限界に関する判例法理、そして立法不作為の違憲が問われた重要判例は、択一式・多肢選択式のいずれにおいても繰り返し出題されています。
本記事では、違憲審査制の基本的な仕組みから、統治行為論・部分社会の法理といった司法権の限界に関する論点、さらには法令違憲と適用違憲の区別、条約の違憲審査の可否まで、行政書士試験で問われるポイントを体系的に解説します。
憲法81条の意味
条文の確認
憲法81条
「最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である。」
この条文は、最高裁判所に違憲審査権を付与した規定です。ただし、違憲審査権は最高裁判所のみが有するわけではなく、下級裁判所も違憲審査権を行使することができます。81条は、最高裁判所が違憲審査に関する「終審裁判所」であること、すなわち違憲審査の最終的な判断権限を有することを定めたものです。
違憲審査の対象
81条が列挙する違憲審査の対象は以下のとおりです。
注意点: 条文上「条約」は明示されていませんが、条約の違憲審査の可否については後述する学説上の議論があります。
付随的違憲審査制と抽象的違憲審査制
二つの違憲審査制の比較
違憲審査制には、大きく分けて二つの類型があります。
日本は付随的違憲審査制
日本国憲法が採用しているのは付随的違憲審査制です。これは通説・判例の立場であり、以下の根拠に基づきます。
付随的違憲審査制を採用していると解する根拠
- 憲法76条1項: 「すべて司法権は、最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する」とあり、司法権の行使として違憲審査を行う
- 81条の位置づけ: 81条は第6章「司法」の章に置かれており、司法権の作用として違憲審査権を定めている
- 司法権の定義: 司法権とは「具体的な争訟について、法を適用し、宣言することにより、これを裁定する国家作用」であり、具体的事件性を前提とする
- アメリカ型の継受: 日本国憲法がアメリカ憲法の影響のもとに制定された経緯
警察予備隊違憲訴訟(最大判昭和27年10月8日)
付随的違憲審査制を判例として確認した最重要判例が、警察予備隊違憲訴訟です。
事案: 社会党の議員が、警察予備隊の設置および維持に関する一切の行為の無効確認を最高裁判所に直接訴えたもの。
判旨: 最高裁判所は、「わが裁判所が現行の制度上与えられているのは司法権を行う権限であり、そして司法権が発動するためには具体的な争訟事件が提起されることを必要とする」として、具体的事件を離れて抽象的に法律の合憲性を審査する権限を有しないと判断し、訴えを却下しました。
この判決は、日本の違憲審査制が付随的違憲審査制であることを明確にした判例として、行政書士試験で最頻出です。
日本国憲法のもとでは、最高裁判所は具体的な訴訟事件が提起されなくても、法律が憲法に適合するかどうかを審査する権限を有する。
法令違憲と適用違憲
違憲判断の方法には、大きく分けて「法令違憲」と「適用違憲」があります。
法令違憲
法令(法律の規定)そのものが憲法に違反すると判断する方法です。法令違憲の判決が出された場合、当該法律の規定は一般的に適用できなくなると解されます(もっとも、日本の付随的違憲審査制のもとでは、当該事件限りの効力しかないのが原則です)。
法令違憲と判断された主な判例
適用違憲
法令自体は合憲であるが、当該事件への適用の仕方が違憲であると判断する方法です。法令の規定そのものを無効にするのではなく、特定の事件における法令の適用が憲法に違反するとするものです。
適用違憲の判断は、法令違憲よりも限定的な影響にとどまるため、裁判所が違憲判断を回避しつつ当事者の権利を救済する手法として用いられることがあります。
統治行為論|司法権の限界
統治行為論とは
統治行為論とは、直接国家統治の基本に関する高度に政治性のある国家行為については、法律上の争訟として裁判所が判断を下すことが可能であっても、その高度な政治性ゆえに司法審査の対象としないとする理論です。
統治行為論は、三権分立の原理に基づき、高度な政治判断を裁判所ではなく政治部門(国会・内閣)に委ねるべきとする考え方です。
砂川事件(最大判昭和34年12月16日)
事案: 米軍の駐留が憲法9条2項にいう「戦力の保持」に該当するかが争われた事件。
判旨: 最高裁判所は、日米安全保障条約のような「主権国としてのわが国の存立の基礎に極めて重大な関係をもつ高度の政治性を有するもの」については、「一見極めて明白に違憲無効であると認められない限りは、裁判所の司法審査権の範囲外のもの」であると判示しました。
ポイント: 砂川事件は完全に司法審査の対象外とするのではなく、「一見極めて明白に違憲無効」の場合には司法審査が及ぶとする限定付きの統治行為論を採用しています。
苫米地事件(最大判昭和35年6月8日)
事案: 衆議院の解散(いわゆる「抜き打ち解散」)の合憲性が争われた事件。
判旨: 最高裁判所は、「直接国家統治の基本に関する高度に政治性のある国家行為のごときはたとえそれが法律上の争訟となり、これに対する有効無効の判断が法律上可能である場合であっても、かかる国家行為は裁判所の審査権の外にあり、その判断は主権者たる国民に対して政治的責任を負うところの政府、国会等の政治部門の判断に委ねられるべき」であると判示しました。
砂川事件との違い: 苫米地事件では、砂川事件のような「一見極めて明白に違憲無効」という留保を付けておらず、より徹底した統治行為論を展開しています。
砂川事件において最高裁判所は、日米安全保障条約について一切の司法審査が及ばないと判示した。
部分社会の法理
部分社会の法理とは
部分社会の法理とは、自律的な法規範を有する団体(部分社会)の内部問題については、その団体の自律的な判断に委ねるべきであり、原則として裁判所の司法審査の対象とならないとする法理です。ただし、一般市民法秩序と直接関係する問題については司法審査が及ぶとされます。
富山大学事件(最判昭和52年3月15日)
事案: 大学が学生に対して行った単位不認定処分の取消しを求めた事件。
判旨: 最高裁判所は、「大学は、国公立であると私立であるとを問わず、学生の教育と学術の研究を目的とする公共的な施設であり、法律に格別の規定がない場合でも、その設置目的を達成するために必要な事項を学則等により一方的に制定し、これによって在学する学生を規律する包括的権能を有する」としたうえで、単位の授与・認定は純然たる大学内部の問題であるとして、司法審査の対象外としました。
ただし、退学処分のように学生の身分を剥奪する重大な措置については、一般市民法秩序と直接の関係を有するため、司法審査の対象となると判示しました。
共産党袴田事件(最判昭和63年12月20日)
事案: 政党(日本共産党)が党員に対して行った除名処分の効力が争われた事件。
判旨: 最高裁判所は、「政党の結社としての自主性にかんがみると、政党の内部的自律権に属する行為は、法律に特別の定めのない限り尊重すべきであるから、政党が組織内の自律的運営として党員に対してした処分の当否は、原則として自律的な解決に委ねるのが相当である」と判示しました。
地方議会の議員出席停止処分
地方議会の議員に対する出席停止処分については、従来は部分社会の法理により司法審査の対象外とされてきましたが、最大判令和2年11月25日において判例変更がなされ、出席停止処分は司法審査の対象となると判断されました。
この判例変更は近年の試験で出題される可能性があるため、注意が必要です。
部分社会の法理のまとめ
立法不作為の違憲|在外邦人選挙権事件
在外邦人選挙権事件(最大判平成17年9月14日)
事案: 海外に居住する日本国民が、在外選挙制度が選挙区選挙について投票を認めていなかったことについて、立法不作為の違憲確認と国家賠償を求めた事件。
判旨: 最高裁判所は、以下のように判断しました。
- 選挙権の制限は原則として許されない: 「国民の選挙権又はその行使を制限することは原則として許されず、国民の選挙権又はその行使を制限するためには、そのような制限をすることがやむを得ないと認められる事由がなければならない」
- 在外選挙を認めないことは違憲: 在外国民の選挙権の行使を制限したことについて「やむを得ない事由があるとは到底いうことができない」として違憲と判断
- 立法不作為の国家賠償責任を肯定: 「国会議員の立法行為又は立法不作為が国家賠償法1条1項の適用上違法となるかどうかは、国会議員の立法過程における行動が個別の国民に対して負う職務上の法的義務に違反したかどうかの問題」であるとし、本件では国家賠償責任を認めた
この判決は、立法不作為について国家賠償責任を認めた画期的な判例として、行政書士試験でも頻出です。
条約の違憲審査
条約は違憲審査の対象か
憲法81条は違憲審査の対象として「法律、命令、規則又は処分」を列挙していますが、条約を明示していません。条約が違憲審査の対象となるかについては学説の争いがあります。
通説は条約も違憲審査の対象となるとしつつ、砂川事件判決のように高度な政治性を有する条約については統治行為論により実際の審査は制限されるという立場です。
憲法81条は違憲審査の対象として「条約」を明文で列挙している。
違憲判決の効力
個別的効力説と一般的効力説
違憲判決の効力については、以下の二つの学説があります。
通説は個別的効力説を採用しています。付随的違憲審査制のもとでは、違憲審査は具体的事件の解決のためになされるものであるから、その判決の効力も当該事件に限られるというのがその根拠です。
ただし、実際には最高裁判所が法令違憲の判決を下した場合、国会はその趣旨を尊重して法律を改正することが通例であり、事実上の一般的効力を持つといえます。
試験対策のまとめ
択一式で頻出のポイント
- 日本の違憲審査制は付随的違憲審査制であること(警察予備隊違憲訴訟)
- 下級裁判所も違憲審査権を行使できること
- 統治行為論の二つの判例(砂川事件と苫米地事件)の違い
- 部分社会の法理の各場面における司法審査の可否
- 立法不作為の違憲と国家賠償責任(在外邦人選挙権事件)
- 条約の違憲審査に関する学説の整理
学習の優先順位
- 最優先: 付随的違憲審査制の意味と警察予備隊違憲訴訟
- 高優先: 統治行為論(砂川事件・苫米地事件)、部分社会の法理
- 中優先: 法令違憲と適用違憲の区別、立法不作為の違憲
- 低優先: 条約の違憲審査、違憲判決の効力に関する学説
違憲審査制は、憲法の統治分野の中核をなすテーマです。判例の事案と判旨を正確に理解し、各論点の違いを横断的に整理しておくことが、択一式での確実な得点につながります。
法律科目対策
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