違憲審査制|付随的違憲審査制の意味と重要判例
憲法81条の違憲審査制を解説。付随的違憲審査制(アメリカ型)と抽象的違憲審査制(ドイツ型)の違い、統治行為論、部分社会の法理、重要判例を整理します。
はじめに|違憲審査制は統治分野の最重要テーマ
行政書士試験の憲法・統治分野において、違憲審査制は最も出題頻度の高いテーマの一つです。憲法81条が定める違憲審査権の性質、司法権の限界に関する判例法理、そして立法不作為の違憲が問われた重要判例は、択一式・多肢選択式のいずれにおいても繰り返し出題されています。
本記事では、違憲審査制の基本的な仕組みから、統治行為論・部分社会の法理といった司法権の限界に関する論点、さらには法令違憲と適用違憲の区別、条約の違憲審査の可否まで、行政書士試験で問われるポイントを体系的に解説します。
違憲審査制の論点は、大きく次の4つのブロックに分けて整理すると理解しやすくなります。第一に「誰が・どのような契機で審査するのか」という審査制の類型(付随的か抽象的か)、第二に「どこまで審査できるのか」という司法権の限界(統治行為論・部分社会の法理)、第三に「どのように違憲と判断するのか」という違憲判断の方法(法令違憲・適用違憲)、第四に「違憲判決にどのような効力があるのか」という違憲判決の効力です。この4つの軸を意識しながら読み進めると、個々の判例が制度全体のどこに位置するのかが見えてきます。
憲法81条の意味|違憲審査権の根拠条文
条文の確認
最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である。
― 日本国憲法 第81条
この条文は、最高裁判所に違憲審査権を付与した規定です。ただし、違憲審査権は最高裁判所のみが有するわけではなく、下級裁判所も違憲審査権を行使することができます。81条は、最高裁判所が違憲審査に関する「終審裁判所」であること、すなわち違憲審査の最終的な判断権限を有することを定めたものです。
下級裁判所も違憲審査権を持つ理由
「最高裁判所は…終審裁判所である」という81条の文言だけを読むと、違憲審査権は最高裁判所の専権のようにも見えます。しかし、判例・通説は下級裁判所も違憲審査権を行使できると解しています。その根拠は次のとおりです。
- 76条1項の司法権はすべての裁判所に属する: 違憲審査は司法権の作用であり、下級裁判所も司法権を行使する以上、当然に違憲審査権を持つ。
- 81条は「終審」を定めたにすぎない: 81条が最高裁判所を「終審裁判所」と位置づけているのは、下級裁判所が違憲審査を行うことを前提に、その最終判断を最高裁判所が行うという審級構造を示したものと理解される。
- 裁判官の憲法尊重擁護義務(99条): すべての裁判官は憲法を尊重し擁護する義務を負っており、憲法に反する法令を適用しないことが求められる。
最高裁判所も、下級裁判所が違憲審査権を有することを早くから認めています(最大判昭和25年2月1日が、裁判所一般が違憲審査権を持つことを前提とした判断を示しています)。試験では「違憲審査権は最高裁判所のみが有する」という誤った肢が定番ですので、ここは確実に押さえておきましょう。
違憲審査の対象
81条が列挙する違憲審査の対象は以下のとおりです。
注意点: 条文上「条約」は明示されていませんが、条約の違憲審査の可否については後述する学説上の議論があります。
「処分」に裁判(判決)は含まれるか
81条にいう「処分」に、裁判所の「裁判(判決)」が含まれるかも論点です。判例は、裁判も81条の「処分」に含まれ、違憲審査の対象となると解しています。最高裁は「裁判は一般的抽象的規範を制定するものではなく、個々の事件について具体的処置をつけるものであるから、その本質は一種の処分である」として、裁判も81条の対象となることを認めました(最大判昭和23年7月8日)。
つまり、下級裁判所の裁判が憲法に違反する場合、上級審において違憲審査の対象となり得るということです。一方で、立法行為そのもの(国会の議決手続など)が「処分」に含まれるかという形ではなく、後述する立法不作為の違憲・国家賠償という形で問題となる点に注意してください。
付随的違憲審査制と抽象的違憲審査制
二つの違憲審査制の比較
違憲審査制には、大きく分けて二つの類型があります。
二つの類型の違いを理解する視点
付随的違憲審査制では、違憲審査はあくまで「具体的な事件を解決するための手段」として行われます。たとえば、ある刑罰法規で起訴された被告人が「その法律は違憲だ」と主張し、裁判所がその刑事事件を解決するためにその法律の合憲性を判断する、という構造です。違憲審査は事件解決に「付随」してなされるため、付随的違憲審査制と呼ばれます。
これに対し、抽象的違憲審査制では、具体的な事件がなくても、法律そのものの合憲性を審査することができます。ドイツの連邦憲法裁判所のように、一定の機関(政府や議会の一部議員など)が法律の合憲性を直接争うことができ、違憲とされればその法律は一般的に効力を失います。
この違いは、後述する「違憲判決の効力」の論点(個別的効力説か一般的効力説か)と直結します。付随的違憲審査制では事件限りの解決が原則となるため個別的効力説と親和的であり、抽象的違憲審査制では法律そのものを無効にするため一般的効力が当然の前提となるという関係です。
日本は付随的違憲審査制
日本国憲法が採用しているのは付随的違憲審査制です。これは通説・判例の立場であり、以下の根拠に基づきます。
付随的違憲審査制を採用していると解する根拠
- 憲法76条1項: 「すべて司法権は、最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する」とあり、司法権の行使として違憲審査を行う
- 81条の位置づけ: 81条は第6章「司法」の章に置かれており、司法権の作用として違憲審査権を定めている
- 司法権の定義: 司法権とは「具体的な争訟について、法を適用し、宣言することにより、これを裁定する国家作用」であり、具体的事件性を前提とする
- アメリカ型の継受: 日本国憲法がアメリカ憲法の影響のもとに制定された経緯
81条を抽象的審査の根拠とする少数説
なお、学説の一部には、81条は司法裁判所に抽象的違憲審査権をも認めた規定であると解する見解(抽象的審査制説)も存在します。この説は、81条が独立の章ではなく司法の章に置かれていても、特別の権限として抽象的審査を授権したものと読めるとします。しかし、後述の警察予備隊違憲訴訟で最高裁がこの立場を明確に否定したため、現在では通説・判例ともに付随的違憲審査制を前提としています。試験では「日本は抽象的違憲審査制を採用している」という肢は誤りとなります。
警察予備隊違憲訴訟(最大判昭和27年10月8日)
付随的違憲審査制を判例として確認した最重要判例が、警察予備隊違憲訴訟です。
事案: 社会党の議員(鈴木茂三郎党首)が、警察予備隊の設置および維持に関する一切の行為の無効確認を最高裁判所に直接訴えたもの。原告は81条を根拠に、最高裁判所が第一審にして終審の裁判所として抽象的に違憲審査を行えると主張しました。
判旨: 最高裁判所は、次のように判示して訴えを却下しました。
わが裁判所が現行の制度上与えられているのは司法権を行う権限であり、そして司法権が発動するためには具体的な争訟事件が提起されることを必要とする。我が裁判所は具体的な争訟事件が提起されないのに将来を予想して憲法及びその他の法律命令等の解釈に対し存在する疑義論争に関し抽象的な判断を下すごとき権限を行い得るものではない。
― 最大判昭和27年10月8日(警察予備隊違憲訴訟)
すなわち、具体的事件を離れて抽象的に法律の合憲性を審査する権限を有しないと判断したものです。
この判決は、日本の違憲審査制が付随的違憲審査制であることを明確にした判例として、行政書士試験で最頻出です。
意義: この判決により、日本の裁判所は具体的な事件・争訟を前提としてのみ違憲審査を行うことが確定しました。憲法問題だけを抜き出して裁判所に判断を求めることはできず、必ず何らかの具体的な権利義務をめぐる紛争の中で、その解決に必要な限りで違憲審査が行われるという原則が確立されたのです。
日本国憲法のもとでは、最高裁判所は具体的な訴訟事件が提起されなくても、法律が憲法に適合するかどうかを審査する権限を有する。
法律上の争訟|違憲審査の前提となる事件性
法律上の争訟とは
付随的違憲審査制の前提として、違憲審査は「法律上の争訟」の中でのみ行われます。裁判所法3条1項は次のように定めています。
裁判所は、日本国憲法に特別の定のある場合を除いて一切の法律上の争訟を裁判し、その他法律において特に定める権限を有する。
― 裁判所法 第3条第1項
判例によれば、「法律上の争訟」とは、(1)当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争であって、(2)法律を適用することにより終局的に解決できるもの、をいいます(最判昭和56年4月7日・板まんだら事件など)。この2要件を欠く場合には、そもそも裁判所が審理判断できず、当然に違憲審査も行われません。
法律上の争訟にあたらない例
- 抽象的に法令の解釈・効力を問うもの: 警察予備隊違憲訴訟のように、具体的紛争を離れて法令の合憲性だけを問う訴え。
- 学問上・技術上の論争: 国家試験の合格・不合格の判定の当否など、学問的・技術的判断にとどまるもの(最判昭和41年2月8日・技術士国家試験事件)。
- 宗教上の教義をめぐる争い: 寄付金返還請求の前提として宗教上の価値や教義の判断が必要となり、それが請求の核心をなす場合(板まんだら事件)。
これらの論点は、違憲審査制そのものというより「司法権の範囲・限界」の論点として出題されますが、付随的違憲審査制の理解とセットで押さえておくと理解が深まります。
法令違憲と適用違憲|違憲判断の方法
違憲判断の方法には、大きく分けて「法令違憲」と「適用違憲」があります。
法令違憲
法令(法律の規定)そのものが憲法に違反すると判断する方法です。法令違憲の判決が出された場合、当該法律の規定は一般的に適用できなくなると解されます(もっとも、日本の付随的違憲審査制のもとでは、当該事件限りの効力しかないのが原則です)。
法令違憲と判断された主な判例
法令違憲の判決は、最高裁判所の歴史上それほど多くありません。違憲とされた法令の系統を「平等原則(14条)違反」「経済的自由(22条・29条)違反」「選挙権・参政権(15条等)の制限」などのテーマ別に整理しておくと、他の人権分野の学習とも結びつき、記憶が定着しやすくなります。
適用違憲
法令自体は合憲であるが、当該事件への適用の仕方が違憲であると判断する方法です。法令の規定そのものを無効にするのではなく、特定の事件における法令の適用が憲法に違反するとするものです。
適用違憲の判断は、法令違憲よりも限定的な影響にとどまるため、裁判所が違憲判断を回避しつつ当事者の権利を救済する手法として用いられることがあります。
法令違憲と適用違憲の使い分け
裁判所が法令違憲と適用違憲のどちらを選ぶかには、いくつかの考慮があります。法令そのものに違憲の瑕疵がある場合(規定の文言自体が不合理な差別を生むなど)は法令違憲となりますが、法令自体は合理的でも、特定の場面での運用・適用が憲法上の権利を侵害する場合には適用違憲が選ばれます。
適用違憲を選ぶ背景には、「憲法判断回避の準則」という考え方があります。裁判所は、事件の解決に必要でない限り憲法判断(とりわけ法令違憲の判断)に立ち入るべきではない、という自制の原則です。下級審の有名な例として、公務員の政治活動を理由とする刑事事件で、当該事案への国家公務員法等の適用が違憲であるとした猿払事件第一審判決がありますが、最高裁(最大判昭和49年11月6日)はこれを覆し、合憲としています。試験では「適用違憲=法令を無効にする」という誤解が問われやすいので、適用違憲はあくまで当該適用の限度で違憲とするものである点を押さえてください。
よくある誤解|違憲判断の方法をめぐって
- 誤解1: 「最高裁が違憲と判断すると、その法律は自動的に廃止される」→ 違憲判決には法律を廃止する効力はありません。廃止(改正)は国会の立法作用によります。違憲判決はあくまで当該法律を当該事件で適用しないという司法判断です。
- 誤解2: 「適用違憲も法令違憲も効力は同じ」→ 法令違憲は法令の規定そのものを憲法違反とするのに対し、適用違憲は当該事件への適用に限って違憲とするもので、射程が異なります。
- 誤解3: 「下級裁判所は違憲判断をしてはいけない」→ 下級裁判所も違憲審査権を持ち、法令違憲・適用違憲のいずれの判断も行えます。
統治行為論|司法権の限界
統治行為論とは
統治行為論とは、直接国家統治の基本に関する高度に政治性のある国家行為については、法律上の争訟として裁判所が判断を下すことが可能であっても、その高度な政治性ゆえに司法審査の対象としないとする理論です。
統治行為論は、三権分立の原理に基づき、高度な政治判断を裁判所ではなく政治部門(国会・内閣)に委ねるべきとする考え方です。
統治行為論の根拠|なぜ司法審査を控えるのか
統治行為論を基礎づける考え方には、大きく二つの系統があります。
苫米地事件の判旨は、政治的責任を負わない裁判所がこの種の問題を判断するのは適当でないという自制的な発想を前面に出しています。一方で、統治行為論を無制限に認めると、憲法保障としての違憲審査制が空洞化する危険があるため、学説では統治行為論の適用範囲を厳格に限定すべきとの主張も有力です。
砂川事件(最大判昭和34年12月16日)
事案: 在日米軍の基地拡張に反対するデモ隊が基地内に立ち入り、日米安全保障条約に基づく刑事特別法違反に問われた事件。米軍の駐留が憲法9条2項にいう「戦力の保持」に該当するか、ひいては日米安全保障条約が合憲かが争われました。
判旨: 最高裁判所は、日米安全保障条約のような行為について次のように判示しました。
主権国としてのわが国の存立の基礎に極めて重大な関係をもつ高度の政治性を有するものというべきであつて、その内容が違憲なりや否やの法的判断は、その条約を締結した内閣およびこれを承認した国会の高度の政治的ないし自由裁量的判断と表裏をなす点がすくなくない。それ故、右違憲なりや否やの法的判断は、純司法的機能をその使命とする司法裁判所の審査には、原則としてなじまない性質のものであり、従つて、一見極めて明白に違憲無効であると認められない限りは、裁判所の司法審査権の範囲外のものである。
― 最大判昭和34年12月16日(砂川事件)
ポイント: 砂川事件は完全に司法審査の対象外とするのではなく、「一見極めて明白に違憲無効」の場合には司法審査が及ぶとする限定付きの統治行為論を採用しています。なお、砂川事件の判旨は純粋な統治行為論というより、条約の高度の政治性に着目した変則的な統治行為論(一部に裁量論を含む)と評価されることもあります。
苫米地事件(最大判昭和35年6月8日)
事案: 衆議院の解散(いわゆる「抜き打ち解散」)の合憲性が争われた事件。解散により議員資格を失った苫米地義三が、解散は憲法7条のみを根拠とするもので違憲・無効であるとして、議員の地位確認と歳費の支払を求めました。
判旨: 最高裁判所は、次のように判示しました。
直接国家統治の基本に関する高度に政治性のある国家行為のごときはたとえそれが法律上の争訟となり、これに対する有効無効の判断が法律上可能である場合であつても、かかる国家行為は裁判所の審査権の外にあり、その判断は主権者たる国民に対して政治的責任を負うところの政府、国会等の政治部門の判断に委され、最終的には国民の政治判断に委ねられているものと解すべきである。
― 最大判昭和35年6月8日(苫米地事件)
砂川事件との違い: 苫米地事件では、砂川事件のような「一見極めて明白に違憲無効」という留保を付けておらず、より徹底した(純粋な)統治行為論を展開しています。衆議院の解散という統治行為そのものを正面から司法審査の対象外としました。
砂川事件と苫米地事件の比較
この二つの判例の違い(とくに「一見明白に違憲無効」の留保の有無)は、択一式で繰り返し問われる最重要ポイントです。
砂川事件において最高裁判所は、日米安全保障条約について一切の司法審査が及ばないと判示した。
部分社会の法理|司法権の限界
部分社会の法理とは
部分社会の法理とは、自律的な法規範を有する団体(部分社会)の内部問題については、その団体の自律的な判断に委ねるべきであり、原則として裁判所の司法審査の対象とならないとする法理です。ただし、一般市民法秩序と直接関係する問題については司法審査が及ぶとされます。
統治行為論が「高度の政治性」を理由とする司法権の限界であるのに対し、部分社会の法理は「団体の自律性の尊重」を理由とする司法権の限界です。両者は司法権の限界という点で共通しますが、根拠が異なる点を区別しておきましょう。
部分社会の法理が問題となる団体
部分社会の法理は、地方議会・大学・政党・労働組合・弁護士会・宗教団体など、自律的な法規範を持つ団体一般について問題となります。判断の分かれ目は、争われている事項が団体内部の自律的運営の問題にとどまるか、それとも一般市民法秩序と直接関係するかという点です。後者であれば司法審査が及びます。
富山大学事件(最判昭和52年3月15日)
事案: 大学が学生に対して行った単位不認定処分の取消しを求めた事件。
判旨: 最高裁判所は、「大学は、国公立であると私立であるとを問わず、学生の教育と学術の研究を目的とする公共的な施設であり、法律に格別の規定がない場合でも、その設置目的を達成するために必要な事項を学則等により一方的に制定し、これによって在学する学生を規律する包括的権能を有する」としたうえで、単位の授与・認定は純然たる大学内部の問題であるとして、司法審査の対象外としました。
ただし、退学処分のように学生の身分を剥奪する重大な措置については、一般市民法秩序と直接の関係を有するため、司法審査の対象となると判示しました。同じ大学の処分でも、単位不認定(対象外)と退学処分(対象)で結論が分かれる点が、本判例最大のポイントです。
共産党袴田事件(最判昭和63年12月20日)
事案: 政党(日本共産党)が党員(袴田里見)に対して行った除名処分の効力が、党が貸与していた家屋の明渡請求の前提として争われた事件。
判旨: 最高裁判所は、次のように判示しました。
政党の結社としての自主性にかんがみると、……政党が組織内の自律的運営として党員に対してした除名その他の処分の当否については、原則として自律的な解決に委ねるのを相当とし、……当該処分が一般市民法秩序と直接の関係を有しない内部的な問題にとどまる限り、裁判所の審判権は及ばないというべきであり、他方、右処分が一般市民としての権利利益を侵害する場合であつても、その処分の当否は、当該政党の自律的に定めた規範が公序良俗に反するなどの特段の事情のない限り右規範に照らし、右規範を有しないときは条理に基づき、適正な手続に則つてされたか否かによつて決すべきである。
― 最判昭和63年12月20日(共産党袴田事件)
すなわち、政党内部の処分が一般市民法秩序と関係する場合でも、裁判所の審査は手続の適正さに限られ、処分の実体的当否そのものには立ち入らないという、政党の自主性を強く尊重した判断です。
地方議会の議員出席停止処分
地方議会の議員に対する出席停止処分については、従来は部分社会の法理により司法審査の対象外とされてきましたが(最大判昭和35年10月19日)、最大判令和2年11月25日において判例変更がなされ、出席停止処分は司法審査の対象となると判断されました。
令和2年判決は、出席停止の懲罰は議員としての中核的な活動(住民の負託を受けて議事に参与し議決に加わる権能の行使)を妨げ、議員報酬の減額を伴うこともあるなどとして、その適否は司法審査の対象となるとしました。地方議会の自律性を尊重しつつも、議員の権利・職責への影響を重視して司法審査を肯定したものです。この判例変更は近年の試験で出題される可能性があるため、注意が必要です。
なお、地方議会の議員に対する除名処分は、議員の身分を失わせる重大な措置であるため、判例変更前から一貫して司法審査の対象とされてきました。
部分社会の法理のまとめ
立法不作為の違憲|在外邦人選挙権事件
立法不作為の違憲とは
立法不作為とは、国会が憲法上必要とされる立法を行わないこと、または不十分な立法しか行わないことをいいます。立法不作為が違憲かどうかは、(1)違憲かどうかという憲法判断の問題と、(2)国家賠償法上の違法となるかという問題に分けて考えると整理しやすくなります。判例は、両者を区別したうえで、一定の場合に立法不作為について国家賠償責任を認めています。
在外邦人選挙権事件(最大判平成17年9月14日)
事案: 海外に居住する日本国民が、在外選挙制度が選挙区選挙について投票を認めていなかったことについて、立法不作為の違憲確認と国家賠償を求めた事件。
判旨: 最高裁判所は、以下のように判断しました。
- 選挙権の制限は原則として許されない: 「国民の選挙権又はその行使を制限することは原則として許されず、国民の選挙権又はその行使を制限するためには、そのような制限をすることがやむを得ないと認められる事由がなければならない」
- 在外選挙を認めないことは違憲: 在外国民の選挙権の行使を制限したことについて「やむを得ない事由があるとは到底いうことができない」として違憲と判断
- 立法不作為の国家賠償責任を肯定: 「国会議員の立法行為又は立法不作為が国家賠償法1条1項の適用上違法となるかどうかは、国会議員の立法過程における行動が個別の国民に対して負う職務上の法的義務に違反したかどうかの問題」であるとし、本件では国家賠償責任を認めた
この判決は、立法不作為について国家賠償責任を認めた画期的な判例として、行政書士試験でも頻出です。
立法不作為と国家賠償|判例の流れ
立法不作為の国家賠償をめぐる判例は、次のように整理できます。
- 在宅投票制度廃止事件(最判昭和60年11月21日): 国会議員の立法行為が国家賠償法上違法となるのは、容易に想定し難いような「例外的な場合」に限られるとし、極めて限定的な立場を示しました。
- 在外邦人選挙権事件(最大判平成17年9月14日): 上記の例外的場合の判断枠組みを引き継ぎつつ、立法の内容が憲法上保障された権利を違法に侵害することが明白であるにもかかわらず、国会が正当な理由なく長期にわたって改廃を怠った場合などには、例外的に国家賠償法上違法となるとして、本件で初めて立法不作為の国家賠償責任を肯定しました。
- 在外邦人国民審査権事件(最大判令和4年5月25日): 在外国民が最高裁判所裁判官の国民審査に投票できないことを違憲とし、立法不作為について国家賠償責任を認めました。
これらは、行政法(国家賠償法1条1項の「違法」)の論点とも重なるため、憲法と行政法を横断して理解しておくと得点源になります。
条約の違憲審査
条約は違憲審査の対象か
憲法81条は違憲審査の対象として「法律、命令、規則又は処分」を列挙していますが、条約を明示していません。条約が違憲審査の対象となるかについては学説の争いがあります。
通説(肯定説)は条約も違憲審査の対象となるとしつつ、砂川事件判決のように高度な政治性を有する条約については統治行為論により実際の審査は制限されるという立場です。
条約と憲法の優劣(条約優位説・憲法優位説)
条約の違憲審査の前提として、「条約と憲法のどちらが上位か」という論点があります。
- 憲法優位説(通説): 憲法は国の最高法規であり(98条1項)、憲法改正には厳格な手続(96条)が必要であるのに対し、条約締結は通常の手続で行われることなどから、憲法が条約に優位するとします。この立場では、条約も憲法に反することはできず、違憲審査の対象となり得ます。
- 条約優位説: 98条2項が条約の誠実遵守を定めていることや、前文の国際協調主義などを根拠に、条約が憲法に優位するとします。この立場では条約の違憲審査は否定的になります。
通説は憲法優位説であり、これを前提に条約の違憲審査肯定説が導かれます。砂川事件で最高裁が日米安全保障条約について「一見極めて明白に違憲無効」の場合には審査が及び得るとしたことも、条約が違憲審査の対象となり得ることを前提とした判断と理解されています。
憲法81条は違憲審査の対象として「条約」を明文で列挙している。
違憲判決の効力
個別的効力説と一般的効力説
違憲判決の効力については、以下の二つの学説があります。
通説は個別的効力説を採用しています。付随的違憲審査制のもとでは、違憲審査は具体的事件の解決のためになされるものであるから、その判決の効力も当該事件に限られるというのがその根拠です。
法的効力と事実上の効力
個別的効力説に立つと、最高裁が法令違憲の判決を下しても、その法律は形式的にはなお存在し続けます。しかし実際には、次のような形で違憲判決は強い影響力を持ちます。
- 国会による改廃: 最高裁が法令違憲の判決を下した場合、国会はその趣旨を尊重して法律を改正・廃止することが通例です(尊属殺重罰規定の刑法200条が削除されたのは違憲判決から約20年後の平成7年でしたが、実務上は違憲判決後ただちに適用されなくなりました)。
- 行政・下級審の対応: 行政機関は違憲とされた規定を適用しなくなり、下級裁判所も最高裁の判断を尊重するため、事実上一般的効力に近い効果を生じます。
このように、法的には個別的効力にとどまりつつ、運用上は一般的効力に近い実効性を持つというのが、日本の違憲審査制の特徴です。
違憲判決の将来効・遡及効
違憲判決の効力をいつから生じさせるか(過去にさかのぼるか、将来に向かってのみ効力を認めるか)という論点もあります。たとえば議員定数不均衡訴訟では、最高裁は定数配分規定を違憲としつつも、選挙そのものを無効とすると混乱が生じるため、「事情判決の法理」を用いて選挙を無効とはしない(違法を宣言するにとどめる)という処理を行ってきました(最大判昭和51年4月14日など)。違憲の効果を画一的に貫くのではなく、法的安定性に配慮した柔軟な処理がなされている点を押さえておきましょう。
通説(個別的効力説)によれば、最高裁判所が法律を違憲と判断しても、その法律が当然に廃止されるわけではない。
過去問で問われる角度・頻出論点の整理
出題されやすい「ひっかけ」のパターン
横断整理|司法権の限界の全体像
司法権の限界(裁判所が判断できない・控える領域)は、次のように整理できます。
違憲審査制の論点は、このうち「統治行為」「部分社会の法理」と密接に関わります。司法権の範囲・限界の全体像の中に違憲審査制を位置づけて理解すると、横断的な出題にも対応できます。
まとめ
違憲審査制は、憲法の統治分野の中核をなすテーマです。判例の事案と判旨を正確に理解し、各論点の違いを横断的に整理しておくことが、択一式での確実な得点につながります。最後に学習の優先順位を確認しておきましょう。
択一式で頻出のポイント
- 日本の違憲審査制は付随的違憲審査制であること(警察予備隊違憲訴訟)
- 下級裁判所も違憲審査権を行使できること(81条は終審を定めたにすぎない)
- 統治行為論の二つの判例(砂川事件と苫米地事件)の違い(「一見明白に違憲無効」の留保の有無)
- 部分社会の法理の各場面における司法審査の可否(とくに令和2年の判例変更)
- 立法不作為の違憲と国家賠償責任(在外邦人選挙権事件・在外邦人国民審査権事件)
- 条約の違憲審査に関する学説(憲法優位説と肯定説)の整理
- 違憲判決の効力(個別的効力説と一般的効力説)
学習の優先順位
- 最優先: 付随的違憲審査制の意味と警察予備隊違憲訴訟、下級裁判所の違憲審査権
- 高優先: 統治行為論(砂川事件・苫米地事件)、部分社会の法理(令和2年判例変更を含む)
- 中優先: 法令違憲と適用違憲の区別、立法不作為の違憲と国家賠償
- 低優先: 条約の違憲審査、違憲判決の効力に関する学説
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