裁判を受ける権利(32条)|裁判の公開と迅速な裁判
憲法32条の裁判を受ける権利を中心に、裁判の公開(82条)と迅速な裁判を受ける権利(37条1項)を判例とともに解説。高田事件や裁判所へのアクセス権など、行政書士試験で問われる重要論点を整理します。
はじめに|裁判を受ける権利の重要性
憲法32条は「何人も、裁判所において裁判を受ける権利を奪はれない」と定めています。この権利は、基本的人権の侵害に対する最終的な救済手段として、すべての人権保障の基盤となる極めて重要な権利です。
何人も、裁判所において裁判を受ける権利を奪はれない。
――日本国憲法32条
いくら憲法が多くの人権を保障していても、それが侵害されたときに裁判所で救済を求めることができなければ、人権保障は「絵に描いた餅」になってしまいます。裁判を受ける権利は、まさに「人権の中の人権」ともいうべき存在です。
本記事では、裁判を受ける権利の内容、裁判の公開原則、迅速な裁判を受ける権利について、判例とともに体系的に解説します。
この記事で押さえるべき全体像
裁判を受ける権利のテーマは、憲法の人権分野(受益権・国務請求権)の中でも出題頻度が高い領域です。学習にあたっては、次の3つの条文を「セット」で整理すると混乱しません。
32条は「受益権(国務請求権)」として全国民・全事件を対象とする総則的な権利、82条は司法制度の客観的な原則、37条1項は刑事被告人の主観的権利、という性格の違いをまず意識しておきましょう。試験ではこの3条を絡めて誤りの選択肢が作られることが多いため、後述する「よくある誤解」まで含めて押さえておくと得点が安定します。
裁判を受ける権利の内容
32条の保障内容
裁判を受ける権利には、以下の内容が含まれるとされています。
- 民事裁判を受ける権利: 民事上の紛争について、裁判所に訴訟を提起して裁判を受ける権利
- 刑事裁判を受ける権利: 刑事事件において、裁判所の裁判によらなければ刑罰を科されない権利
- 行政裁判を受ける権利: 行政機関の処分に対して、裁判所に取消訴訟等を提起して裁判を受ける権利
この3つは、性質が異なる点に注意が必要です。民事・行政の場面では「裁判所に訴えを起こして救済してもらう積極的・能動的な権利(請求権的側面)」として現れます。これに対して刑事の場面では「裁判所の裁判によらなければ刑罰を科されない」という、国家からの不当な処罰を防ぐ防御的・受動的な側面(自由権的側面)として現れます。したがって刑事被告人にとっては、裁判を受ける権利が「義務」としてではなく「裁判を経ずに処罰されない保障」として機能します。
32条の法的性格
裁判を受ける権利は、講学上「受益権」あるいは「国務請求権」に分類されます。これは、国民が国家に対して一定の積極的な行為(=裁判という役務の提供)を要求できる権利であり、消極的に国家の介入を排除する自由権とは性格が異なります。
もっとも、上記のとおり刑事手続では自由権的な性格も併せもちます。さらに、この権利の主体は「何人も」と規定されているとおり、日本国民に限られず、外国人にも保障されると解されています。また自然人だけでなく法人にも、その性質上可能な限り保障が及びます。
「裁判所」の意味
憲法32条にいう「裁判所」とは、憲法76条1項に基づいて設置された裁判所を意味します。すなわち、最高裁判所および法律の定めるところにより設置される下級裁判所(高等裁判所・地方裁判所・家庭裁判所・簡易裁判所)です。
憲法76条2項は「特別裁判所は、これを設置することができない」と定めており、行政機関が終審として裁判を行うことはできません。ただし、行政機関が前審として裁判を行うことは、裁判所への出訴が保障されている限り許容されます。
特別裁判所は、これを設置することができない。行政機関は、終審として裁判を行ふことができない。
――日本国憲法76条2項
ここでいう「特別裁判所」とは、特定の人・事件についてのみ裁判権を行使する、通常の裁判所の系列から独立した裁判所をいいます。明治憲法下に存在した行政裁判所・軍法会議・皇室裁判所などがその典型例です。現行憲法はこれを全面的に禁止しました。なお、家庭裁判所は通常裁判所の系列に属し、最高裁判所を頂点とする審級制度に組み込まれているため、特別裁判所には当たらないとされています(最大判昭和31年5月30日)。
「裁判」の意味
32条にいう「裁判」が、具体的にどのような内容の裁判を意味するかについては議論があります。
通説は、32条の裁判を受ける権利は、すべての事件について少なくとも1回は正規の裁判所による裁判を受ける機会を保障するものであると解しています。しかし、必ずしも三審制(三回の審級を経る機会)までが憲法上保障されているわけではありません。
最高裁も、三審制は憲法上の要請ではなく、法律によって定められた制度に過ぎないとの立場をとっています。上告理由が法律によって限定されていることや、跳躍上告・特別上告などの制度が存在することも、三審制が憲法上当然に保障されているわけではないことの現れといえます。
「公開・対審・判決」という裁判の保障内容
判例上、32条が保障する「裁判」とは、原則として、後述する82条の定める「公開」かつ「対審・判決」という手続による裁判を意味するとされています。すなわち、当事者が対立して攻撃防御を尽くす対審構造と、その結果としての判決が、公開の法廷で行われることが想定されています。
この点で重要なのが、家事審判や過料の裁判など「非訟事件」の手続が、公開・対審を経ないまま行われても32条・82条に反しないか、という論点です。最高裁は、純然たる訴訟事件(実体的権利義務の存否を終局的に確定する裁判)については公開・対審の保障が及ぶが、非訟事件(後見的立場から具体的内容を裁量的に形成する裁判)については必ずしもこれが及ばない、という枠組みを示しています。たとえば、夫婦の同居義務に関する家事審判について、最高裁は次のように述べました。
性質上純然たる訴訟事件につき、当事者の意思いかんにかかわらず終局的に、事実を確定し当事者の主張する権利義務の存否を確定するような裁判が、憲法所定の例外の場合を除き、公開の法廷における対審及び判決によつてなされないとするならば、それは憲法82条に違反する……(中略)……家事審判法の同居の審判は……夫婦同居の義務等の実体的権利義務自体を確定する趣旨のものではなく……公開の法廷における対審及び判決によつてする必要はない。
――最大決昭和40年6月30日(夫婦同居審判事件)
このように、「純然たる訴訟事件」かどうかが公開・対審保障の有無を分けるメルクマールとなります。試験では、過料の裁判や非訟事件の決定手続が非公開でも合憲とされる、という形で出題されることがあります。
裁判所へのアクセス権
訴訟費用と裁判を受ける権利
裁判を受ける権利を実質的に保障するためには、裁判所への「アクセス」が確保されていなければなりません。過大な訴訟費用や複雑な手続は、事実上、裁判を受ける権利を侵害する可能性があります。
この観点から、以下のような制度が設けられています。
- 法律扶助制度: 経済的に余裕のない者に対して、弁護士費用や訴訟費用を立て替える制度(総合法律支援法に基づく日本司法支援センター=法テラスによる支援)
- 訴訟救助制度: 訴訟費用を支払う資力がない者に対して、裁判所が訴訟費用の支払いを猶予する制度(民事訴訟法82条)
- 国選弁護制度: 刑事事件において、資力のない被告人に対して国が弁護人を選任する制度(憲法37条3項)
これらは「裁判を受ける権利の実質化」という観点から整理できます。形式的に裁判所の扉が開かれていても、費用や情報の壁によって事実上利用できなければ、権利保障は不十分だからです。なお、訴え提起の手数料(印紙)を訴額に応じて課すこと自体は、合理的な制度として合憲と解されています。
裁判を受ける権利の制限
裁判を受ける権利も、無制限に保障されるわけではありません。法律によって一定の制限が課されることがあります。
- 出訴期間の制限: 行政事件訴訟法は、取消訴訟の出訴期間を処分があったことを知った日から6か月以内(処分の日から1年以内)と定めています(14条)。この出訴期間制限は、法的安定性の確保のために合理的なものとして合憲と解されています。
- 不服申立前置主義: 一定の行政処分について、裁判所に訴訟を提起する前に行政機関に対する不服申立てを経ることを要求する制度です。これも裁判を受ける権利を否定するものではなく、合憲と解されています。
制限が許される理由の整理
これらの制限が合憲とされるのは、いずれも「裁判を受ける権利そのものを否定するのではなく、その行使に合理的な条件・手続を付すにすぎない」からです。出訴期間は法律関係の早期安定という公益のため、審査請求前置は専門技術的判断を行政にまず行わせ訴訟の負担を軽減するため、という正当な目的があり、かつ制限の程度も裁判の機会自体を奪うものではありません。
なお、現在の行政事件訴訟法は原則として「自由選択主義」を採用しており、審査請求前置はあくまで個別法が定めた場合の例外である点に注意が必要です。2014年(平成26年)の行政不服審査法・関連法の大改正により、審査請求前置を要求する法律は大幅に整理・削減されました。
裁判の公開(82条)
裁判公開の原則
憲法82条は、裁判の公開原則を定めています。
裁判の対審及び判決は、公開法廷でこれを行ふ。
――日本国憲法82条1項
裁判の公開は、裁判の公正さを担保し、国民の裁判に対する信頼を確保するために不可欠な原則です。公開により、裁判官の恣意的な判断を防止し、適正な裁判手続の実現を図る趣旨です。
ここで「対審」とは、訴訟当事者が裁判官の面前で口頭でそれぞれの主張を述べることをいい、民事訴訟の口頭弁論、刑事訴訟の公判手続がこれに当たります。「公開」とは、傍聴の自由が認められること、すなわち一般国民が裁判を傍聴できる状態に置くことを意味します。
裁判の公開と「権利」性の有無
82条の公開原則は、国民が「裁判を傍聴する権利」までを具体的に保障したものか、という論点があります。最高裁は、82条1項は裁判を一般に公開して裁判が公正に行われることを制度として保障したものであって、各人が裁判所に対して傍聴することを権利として要求できることまで認めたものではない、という立場をとっています(後述のレペタ事件参照)。つまり、82条は客観的な制度的保障であり、個々人の傍聴請求権を直接保障したものではない、という点が試験で問われます。
公開停止の要件
82条2項は、例外的に裁判の対審(口頭弁論等)を非公開とすることを認めています。
裁判所が、裁判官の全員一致で、公の秩序又は善良の風俗を害する虞があると決した場合には、対審は、公開しないでこれを行ふことができる。但し、政治犯罪、出版に関する犯罪又はこの憲法第三章で保障する国民の権利が問題となつてゐる事件の対審は、常にこれを公開しなければならない。
――日本国憲法82条2項
公開停止が認められるための要件は以下のとおりです。
- 裁判官の全員一致: 合議体を構成する裁判官の全員が一致して非公開を決定すること
- 公の秩序又は善良の風俗を害するおそれ: 公開することによって公序良俗に反する事態が生じるおそれがあること
ただし、以下の事件の対審は、常に公開しなければならず、非公開とすることはできません。
- 政治犯罪に関する事件
- 出版に関する犯罪に関する事件
- 憲法第三章で保障する国民の権利が問題となっている事件
公開停止のルールを表で整理
公開・非公開のルールは選択肢で頻繁にひっかけられます。次の表で「何が・どの要件で・非公開にできるのか」を確実に整理しておきましょう。
「全員一致」を「過半数」、「公序良俗」を「公共の福祉」、対象に「判決」を含める、といった改変が誤りの選択肢の定番です。
判決は常に公開
重要な点として、判決は常に公開法廷で行わなければならないことを押さえておきましょう。対審については例外的に非公開とすることが認められていますが、判決については例外なく公開が要求されます。
この区別は、82条2項本文が「対審は、公開しないでこれを行ふことができる」と規定し、「判決」を一切含めていないことから導かれます。判決は裁判の結論そのものであり、その公開を絶対的に要求することで、国民による裁判の監視と信頼確保を担保しているのです。
レペタ事件(最大判平成元年3月8日)
法廷でのメモ(筆記行為)が裁判の公開との関係で問題となった事件です。アメリカ人弁護士のレペタ氏が、裁判の傍聴中にメモを取ることを許可されなかったことを争いました。
最高裁は、「法廷でメモを取る行為は、尊重に値し、故なく妨げられてはならない」としつつも、法廷における筆記行為の自由は、憲法21条1項の精神に照らして尊重されるべきものではあるが、憲法上の権利として保障されているとまではいえないと判示しました。
そして、法廷における筆記行為を許可するかどうかは、裁判長の法廷における訴訟指揮権(裁判所法71条)の範囲内にあるとしました。
筆記行為の自由は、憲法21条1項の規定の精神に照らして尊重されるべきであるといわなければならない。……(中略)……傍聴人のメモを取る行為が公正かつ円滑な訴訟の運営を妨げるに至ることは、通常はあり得ないのであつて、特段の事情のない限り、これを傍聴人の自由に任せるべきであり、それが憲法21条1項の規定の精神に合致する。
――最大判平成元年3月8日(レペタ事件)
レペタ事件のポイント整理
レペタ事件は択一で頻出です。次の3点を区別して覚えましょう。
- 法廷でのメモは「21条1項の精神に照らして尊重に値する」(21条そのものの権利ではない、という言い回しに注意)
- しかし「憲法上の権利として保障されているとまではいえない」
- メモの許否は裁判長の訴訟指揮権の範囲内である
なお同判決は、82条1項の趣旨について、「裁判を一般に公開して裁判が公正に行われることを制度として保障し、ひいては裁判に対する国民の信頼を確保しようとすることにある」とし、各人が裁判所に対して傍聴することを権利として要求できることまで保障したものではない、と判示した点も重要です。「傍聴の権利」「メモを取る権利」をいずれも憲法上の権利として認めなかった、という結論を押さえておきましょう。
法廷の撮影・録音とプライバシー
裁判の公開と関連して、法廷内での写真撮影・録音・放送については、裁判所の許可制がとられています(刑事訴訟規則215条等)。最高裁は、法廷内の写真撮影等を裁判所の許可にかからしめることは、公判廷の秩序維持と被告人等の人格権保護のために合理的であり、合憲であるとしています(北海タイムス事件・最大決昭和33年2月17日)。裁判の公開原則は、法廷での撮影・録音まで無制限に認めるものではない、という点が問われることがあります。
迅速な裁判を受ける権利(37条1項)
37条1項の保障
憲法37条1項は、刑事被告人の権利として「迅速な公開裁判を受ける権利」を保障しています。
すべて刑事事件においては、被告人は、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有する。
――日本国憲法37条1項
迅速な裁判を受ける権利は、刑事裁判が不当に長期化することによって被告人が受ける精神的・経済的・社会的不利益を防止するための権利です。長期化する刑事裁判は、被告人を不安定な地位に置き続けるだけでなく、証拠の散逸により真実発見をも困難にします。
37条1項は、「公平な裁判所」「迅速な裁判」「公開裁判」という3つの要素を刑事被告人に保障しています。82条の公開原則が客観的な制度的保障であるのに対し、37条1項の公開裁判は刑事被告人の主観的権利として保障されている点で性格が異なります。
高田事件(最大判昭和47年12月20日)
迅速な裁判を受ける権利に関する最も重要な判例が、高田事件です。
この事件では、第一審の審理が起訴から約15年間にわたって中断・放置されていたことが問題となりました。最高裁は、以下のように判示して、憲法37条1項に基づく画期的な判断を示しました。
「憲法37条1項の保障する迅速な裁判を受ける権利は、憲法の保障する基本的な人権の一つであり、右条項は、単に迅速な裁判を一般的に保障するために必要な立法上及び司法行政上の措置をとるべきことを要請するにとどまらず、さらに個々の刑事事件について、現実に右の保障に明らかに反し、審理の著しい遅延の結果、迅速な裁判を受ける被告人の権利が害せられたと認められる異常な事態が生じた場合には、これに対処すべき具体的規定がなくても、もはや当該被告人に対する手続の続行を許さず、その審理を打ち切るという非常救済手段がとられるべきことをも認めている」
つまり、迅速な裁判を受ける権利の侵害が著しい場合には、具体的な法律の規定がなくても、裁判の打ち切り(免訴判決)という非常救済手段が認められるとしたのです。
……このような審理の著しい遅延の結果、迅速な裁判を受ける被告人の権利が害せられたと認められる異常な事態が生ずるに至つた場合には……判決で免訴の言渡をするのが相当である。
――最大判昭和47年12月20日(高田事件)
高田事件の意義
高田事件判決の意義は、以下の点にあります。
- 具体的権利性の承認: 37条1項を単なるプログラム規定ではなく、具体的な権利を保障する規定と解した
- 非常救済手段の創設: 法律に明文の規定がなくても、憲法の規定から直接に救済手段(免訴判決)を導いた
- 判断基準の提示: 迅速な裁判の保障に反する「異常な事態」の有無を、遅延の期間・理由・被告人の不利益等を総合的に考慮して判断するとした
試験で問われる高田事件の急所
高田事件で特に問われるのは、「救済の方法」が何であったかです。最高裁は審理を打ち切る方法として、公訴棄却ではなく免訴判決によるべきとしました。択一では「公訴棄却の判決をすべきとした」と書き換える誤りの選択肢が頻出です。あわせて、「具体的な法律の規定がなくても」憲法37条1項から直接に救済を導いた点(=プログラム規定説の否定、具体的権利性の承認)が最大のポイントです。
また、迅速性の侵害かどうかは形式的に「○年経過したら違反」と決まるのではなく、遅延の期間・原因・被告人が被った不利益などを総合的に考慮して判断される、という相対的な判断枠組みである点も理解しておきましょう。
裁判の迅速化に関する制度
迅速な裁判の理念を制度的に支えるものとして、裁判迅速化法(2003年制定)が第一審の訴訟手続を2年以内のできる限り短い期間内に終局させることを目標として掲げています。また、刑事手続では公判前整理手続(争点・証拠の整理)や即決裁判手続が、迅速化の具体的な仕組みとして整備されています。これらは憲法37条1項の趣旨を具体化する立法上の措置と位置づけられます。
公平な裁判所と裁判官の独立
公平な裁判所
37条1項は「公平な裁判所」の裁判を受ける権利も保障しています。ここでいう「公平な裁判所」とは、偏見や予断なく事件を審理する裁判所を意味します。判例は「公平な裁判所」とは構成その他において偏頗(へんぱ)のおそれのない裁判所をいうと解しています。
裁判の公平を確保するための制度として、以下のものがあります。
- 裁判官の除斥: 裁判官が当事者と一定の関係にある場合に、法律上当然にその裁判から排除される制度
- 裁判官の忌避: 裁判官に裁判の公正を妨げるべき事情がある場合に、当事者の申立てにより裁判から排除する制度
- 裁判官の回避: 裁判官が自ら上記の事情を認めて、裁判から退く制度
これらは「除斥=法律上当然」「忌避=当事者の申立て」「回避=裁判官自ら」と、誰の働きかけで排除が生じるかで区別すると整理しやすくなります。
裁判官の独立(76条3項)
裁判の公平を制度的に保障するために、憲法76条3項は裁判官の独立を定めています。
すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される。
――日本国憲法76条3項
裁判官の独立は、外部からの干渉(立法権・行政権からの干渉)だけでなく、司法部内部からの干渉(上級裁判所や裁判所の管理部門からの干渉)からも保護されるものです。
ここでいう「良心」とは、裁判官個人の主観的・個人的な良心ではなく、裁判官としての客観的良心(憲法と法律に従って公正に判断する職業上の良心)を意味すると解するのが通説・判例の立場です。裁判官の独立を制度的に支える保障として、76条3項のほか、裁判官の身分保障(78条=公の弾劾・心身の故障による裁判によらなければ罷免されない)や報酬の減額禁止(79条6項・80条2項)が用意されています。
行政事件訴訟と裁判を受ける権利
行政事件訴訟法の意義
行政機関の処分に不服がある場合に裁判所で争う手段を定めたのが、行政事件訴訟法です。この法律は、憲法32条の裁判を受ける権利を行政分野において具体化するものです。
行政書士試験では、行政事件訴訟法は主要な出題科目の一つであり、裁判を受ける権利との関係を理解しておくことが重要です。
行政処分の司法審査
憲法76条2項後段は「行政機関は、終審として裁判を行ふことができない」と定めています。したがって、行政機関が準司法的な手続(審査請求に対する裁決等)を行うことは認められますが、最終的には裁判所による司法審査が保障されていなければなりません。
これを「司法権の優位」といい、行政事件訴訟制度の根拠となっています。行政機関が「前審として」裁判類似の判断を行うことは、その後に裁判所への出訴が確保されている限り、76条2項にも32条にも反しません。逆に、行政機関の判断が終審となり裁判所での争訟が一切できないとする制度は、許されません。
原告適格と裁判を受ける権利
行政事件訴訟法は、取消訴訟の原告適格を「法律上の利益を有する者」に限定しています(9条1項)。この制限が裁判を受ける権利を侵害しないかが問題となりますが、判例は、原告適格の要件は訴訟制度の合理的な運用のために必要なものであり、裁判を受ける権利を侵害しないとしています。
ただし、原告適格が狭く解釈されすぎると、実質的に裁判を受ける機会が奪われることになるため、2004年の行政事件訴訟法改正では、原告適格の判断基準が明確化・拡大されました(9条2項の追加)。具体的には、処分の根拠法令の趣旨・目的や、処分において考慮されるべき利益の内容・性質を考慮して原告適格を判断すべきこと、その際には根拠法令と目的を共通にする関係法令の趣旨・目的をも参酌すべきことなどが明文化されました。
頻出論点・出題ポイント
行政書士試験では、裁判を受ける権利に関連して次の角度から繰り返し問われます。本試験前の最終確認用にチェックリストとして使ってください。
過去問で問われた角度
これまでの本試験では、(1) 32条の主体や保障内容を他の人権規定と組み合わせる形、(2) 82条の公開停止要件を「全員一致」「判決の公開」を軸にひっかける形、(3) 37条1項について高田事件の結論(免訴・明文規定不要)を問う形、が中心です。さらに、非訟事件(家事審判・過料の裁判)が公開・対審を経なくても合憲とされる点や、特別裁判所の禁止(家庭裁判所が特別裁判所に当たらないこと)を組み合わせた出題も見られます。条文の文言レベルの正確さが得点に直結する分野です。
よくある誤解
- 「三審制は憲法上保障されている」: 誤り。三審制は法律上の制度であり、32条が保障するのは少なくとも1回の正規の裁判の機会です。
- 「対審の公開停止には過半数の一致でよい」: 誤り。裁判官の全員一致が必要です。
- 「判決も非公開にできる」: 誤り。判決は例外なく常に公開です。82条2項で非公開にできるのは対審のみです。
- 「公開停止の理由は公共の福祉である」: 誤り。条文の文言は「公の秩序又は善良の風俗を害する虞」です。
- 「傍聴やメモは憲法上の権利である」: 誤り。82条は制度的保障であり、レペタ事件も法廷メモを憲法上の権利とは認めていません。
- 「高田事件では公訴棄却で打ち切った」: 誤り。免訴判決によるべきとされました。
- 「裁判を受ける権利は日本国民にのみ保障される」: 誤り。外国人や法人にも性質上可能な限り保障されます。
判例の整理
32条・82条・37条1項の主要判例
憲法32条の裁判を受ける権利は、すべての事件について三審制(三回の審級を経る機会)を保障しているものと解されている。○か×か。
憲法82条2項によれば、裁判所が裁判官の過半数の一致で公の秩序を害するおそれがあると決した場合には、対審・判決ともに公開しないで行うことができる。○か×か。
高田事件(最大判昭和47年12月20日)において、最高裁は、約15年間審理が中断・放置されていた事件について、迅速な裁判を受ける権利の侵害を認め、具体的な法律の規定がなくても審理を打ち切るという非常救済手段が認められるとした。○か×か。
レペタ事件(最大判平成元年3月8日)において、最高裁は、傍聴人が法廷でメモを取る行為は憲法21条1項によって直接保障される権利であり、裁判長はこれを禁止できないと判示した。○か×か。
純然たる訴訟事件についての裁判であっても、その性質に応じて非公開・非対審の手続で行うことは、憲法82条に違反しない。○か×か。
まとめ|裁判を受ける権利を体系的に理解する
裁判を受ける権利は、すべての人権保障の基盤となる重要な権利です。
本記事のポイントを整理すると、以下のとおりです。
- 裁判を受ける権利(32条): 民事・刑事・行政のすべてについて裁判所で裁判を受ける権利。外国人・法人にも及び、純然たる訴訟事件には公開・対審が必要
- 三審制は憲法上の要請ではない: 法律上の制度にすぎない
- 特別裁判所の禁止(76条2項): 行政機関は終審として裁判できない。家庭裁判所は特別裁判所に当たらない
- 裁判の公開(82条): 対審は裁判官全員一致で非公開可能、判決は常に公開。政治犯罪・出版犯罪・第三章の権利が問題となる事件の対審は常に公開
- 迅速な裁判(37条1項): 高田事件で具体的権利性と非常救済手段(免訴判決)が認められた
- レペタ事件: 法廷メモは尊重に値するが、憲法上の権利ではない。82条は傍聴を権利として保障する規定ではなく制度的保障
これらの条文と判例は、行政書士試験で繰り返し出題されるテーマです。条文の文言を正確に押さえるとともに、各判例の結論と理由を理解して、確実に得点できるようにしましょう。
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