生存権と社会権|25条のプログラム規定説と重要判例
憲法25条の生存権と社会権を解説。プログラム規定説・抽象的権利説・具体的権利説の違い、朝日訴訟・堀木訴訟の判例、教育を受ける権利・勤労権・労働基本権を整理します。
はじめに|社会権とは何か
社会権とは、国家に対して積極的な作為(給付や施策)を求める権利です。自由権が国家からの不干渉を求める「国家からの自由」であるのに対し、社会権は「国家による自由」ともいわれます。
社会権は、資本主義経済の発展に伴って生じた貧富の格差や社会的弱者の問題に対応するため、20世紀に入って憲法上保障されるようになった権利です。1919年のワイマール憲法がその先駆とされます。ワイマール憲法151条1項は「経済生活の秩序は、すべての者に人間に値する生存を保障することを目的とする正義の諸原則に適合しなければならない」と定め、人間に値する生存(人間たるに値する生活)の保障を国家の責務として宣言しました。この理念が、日本国憲法25条の「健康で文化的な最低限度の生活」という文言にも受け継がれています。
自由権が18〜19世紀の市民革命を背景に「第一世代の人権」として確立したのに対し、社会権は「第二世代の人権」と位置づけられます。両者は対立するものではなく、社会権の保障によって実質的な自由の前提条件が整えられるという補完関係にある点を押さえておきましょう。
日本国憲法は、以下の4つの社会権を保障しています。
行政書士試験では、特に25条の生存権の法的性格に関する学説と朝日訴訟・堀木訴訟の判例が繰り返し出題されています。本記事では、社会権の体系全体を見通しつつ、試験頻出論点を丁寧に解説します。
社会権と自由権の違い(出題の前提)
社会権を理解するうえで、自由権との性質の違いを正確に押さえておくことが学習の出発点になります。両者の違いは択一の選択肢の前提として頻繁に登場します。
社会権は財政的裏付けや立法による制度設計を必要とするため、裁判所が直接その内容を確定して給付を命じることが難しいという特徴があります。この「立法裁量の広さ」が、後述する生存権の法的性格論や堀木訴訟の論理に直結します。
生存権(25条)
条文の確認
「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」(憲法25条1項)
「国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。」(憲法25条2項)
25条1項は国民の「権利」として生存権を規定し、25条2項は国の「義務」として社会福祉等の施策を推進することを規定しています。
25条1項と2項の関係(1項2項分離論)
25条は1項と2項に分かれていますが、両項の関係をどう理解するかも論点となります。通説は、1項と2項を一体のものとして理解し、2項は1項の生存権を実現するための国の責務を定めたものと解します(一体的把握)。
これに対し、堀木訴訟の控訴審(大阪高判昭和50年)で示され学説上も主張されるのが1項2項分離論です。これは、2項を「事前の防貧施策(生活水準の全般的な向上・防貧)」、1項を「事後の救貧施策(最低限度を下回った者の救済)」と区別する考え方です。この立場によれば、防貧施策である社会保障の領域(2項)では、最低限度の生活を直接問題とする1項よりもさらに広い立法裁量が認められることになります。
最高裁は堀木訴訟の上告審でこの1項2項分離論を明示的には採用しませんでしたが、いずれにせよ広い立法裁量を認めた点は同様です。試験では「1項=救貧、2項=防貧」という対応関係を押さえておくと、学説問題に対応しやすくなります。
生存権の法的性格|3つの学説
25条が定める生存権の法的性格については、主に3つの学説があります。これは行政書士試験で最も問われやすい論点の一つです。
学説が対立する根本的な理由は、25条1項が「権利」と明記しているにもかかわらず、その内容である「健康で文化的な最低限度の生活」がきわめて抽象的で、財政事情や政策判断に左右されるため、裁判所が直接その内容を確定して救済を命じることが難しいという点にあります。各説は、この「権利性」と「裁判による実現可能性」のバランスをどう取るかで分かれます。
プログラム規定説
プログラム規定説の論拠としては、(ア)資本主義経済のもとでは自らの生活は自らの責任で維持するのが原則であること、(イ)生存権の実現には財政的裏付けが必要であり、予算をどう配分するかは立法府・行政府の判断に委ねられること、(ウ)25条の文言が抽象的で裁判規範として機能しにくいこと、が挙げられます。
抽象的権利説(通説)
抽象的権利説のポイントは、「25条単独では給付請求できないが、生活保護法のような具体化立法が存在する場合には、その立法の解釈・適用や違憲審査の場面で25条が裁判規範として機能する」という点です。つまり、25条は法律と結びついて初めて裁判で意味を持つと考えます。
具体的権利説
具体的権利説についての注意点として、この説も「25条を直接根拠に金銭給付そのものを請求できる」とまで主張するわけではない点を押さえておきましょう。多くの具体的権利説は、立法不作為が違憲であることの確認(立法不作為違憲確認訴訟)を求める範囲で具体的権利性を認める立場です。給付の内容まで裁判所が直接命じられるとする見解は少数にとどまります。
3つの学説の比較
試験対策ポイント: 行政書士試験では、3つの学説の内容と違いが択一式で問われることが多いです。特に「プログラム規定説では25条は法的権利を定めたものではない」「抽象的権利説では具体化立法の違憲審査が可能」「具体的権利説では25条を直接の根拠に請求できる」という各説の核心を正確に押さえましょう。
よくある誤解・引っかけポイント
学説問題では、各説の名称と内容を入れ替えた選択肢が頻出します。次の誤りパターンに注意してください。
- 誤り①「抽象的権利説では25条は政治的・道義的目標の宣言にすぎない」→ これはプログラム規定説の内容。抽象的権利説は法的権利性を認める。
- 誤り②「プログラム規定説でも具体化立法の違憲審査ができる」→ プログラム規定説は裁判規範性そのものを否定するため、原則として違憲審査の余地を認めない。
- 誤り③「具体的権利説では25条を直接根拠に給付金そのものを請求できる」→ 多くの具体的権利説は立法不作為の違憲確認を認める立場であり、給付内容の直接請求まで認めるわけではない。
- 誤り④「判例(朝日・堀木)は具体的権利説を採用した」→ 判例はむしろプログラム規定説に近い立場であり、広い立法・行政裁量を認めている。
抽象的権利説によれば、憲法25条は国の政治的・道義的な目標を宣言したものにすぎず、国民に法的権利を保障するものではない。
朝日訴訟|生存権の判例(1)
最大判昭和42年5月24日
事案: 国立岩手療養所に入所していた朝日茂氏は、厚生大臣が定めた生活保護基準(月額600円の日用品費)が「健康で文化的な最低限度の生活」を下回るとして、保護変更決定の取消しを求めました。
判旨: 第一審では朝日氏側が勝訴しましたが、控訴審で逆転敗訴。上告審の審理中に朝日氏が死亡したため、最高裁は訴えの利益が消滅したとして上告を棄却しました。
訴えの利益が消滅した理由は、生活保護受給権が一身専属の権利であり、相続の対象とならないため、受給権者の死亡によって訴訟が終了すると判断されたためです。生活保護法に基づく保護受給権は、被保護者本人の最低限度の生活を維持するための権利であり、他人に譲渡したり相続したりすることはできないとされました。
ただし、最高裁は傍論(obiter dictum)として生存権の法的性格について重要な判示をしました。
「憲法25条1項は、すべての国民が健康で文化的な最低限度の生活を営み得るように国政を運営すべきことを国の責務として宣言したにとどまり、直接個々の国民に対して具体的権利を賦与したものではない。」
「何が健康で文化的な最低限度の生活であるかの認定判断は、いちおう、厚生大臣の合目的的な裁量に委されており、その判断は、当不当の問題として政府の政治責任が問われることはあっても、直ちに違法の問題を生ずることはない。ただ、現実の生活条件を無視して著しく低い基準を設定する等憲法および生活保護法の趣旨・目的に反し、法律によって与えられた裁量権の限界をこえた場合または裁量権を濫用した場合には、違法な行為として司法審査の対象となりうる」
ポイント:
- 最高裁の判断は傍論であり、判決の結論(訴えの利益消滅)を導くために必要な判断ではない
- 傍論の立場はプログラム規定説に近いとされる
- 生活保護基準の設定は厚生大臣の広い裁量に委ねられるが、裁量の逸脱・濫用があれば司法審査の対象となるとした
- 生活保護受給権は一身専属の権利であり、相続の対象とならない(訴えの利益消滅の理由)
意義: 朝日訴訟は「人間裁判」とも呼ばれ、生存権の保障水準を社会に広く問いかけた点で歴史的意義を持ちます。最高裁は本案について判断しなかったものの、傍論で示した「広い行政裁量+逸脱・濫用の司法審査」という枠組みは、その後の堀木訴訟や老齢加算廃止訴訟にも引き継がれる基本的な発想となりました。
堀木訴訟|生存権の判例(2)
最大判昭和57年7月7日
事案: 全盲の堀木フミ子氏が、障害福祉年金と児童扶養手当の併給を禁止する児童扶養手当法の規定が25条に違反するとして争った事件です。堀木氏は障害福祉年金を受給していましたが、子を養育していたため児童扶養手当も申請したところ、併給禁止規定により支給が認められませんでした。25条のほか、14条(法の下の平等)違反も主張されました。
判旨: 最高裁は、併給禁止規定は合憲であると判断しました。
「憲法25条の規定は、国権の作用に対し、一定の目的を設定しその実現のための積極的な発動を期待するという性質のものである。しかも、右規定にいう『健康で文化的な最低限度の生活』なるものは、きわめて抽象的・相対的な概念であつて、その具体的内容は、その時々における文化の発達の程度、経済的・社会的条件、一般的な国民生活の状況等との相関関係において判断決定されるべきものであるとともに、右規定を現実の立法として具体化するに当たつては、国の財政事情を無視することができず、また、多方面にわたる複雑多様な、しかも高度の専門技術的な考察とそれに基づいた政策的判断を必要とするものである。したがつて、憲法25条の規定の趣旨にこたえて具体的にどのような立法措置を講ずるかの選択決定は、立法府の広い裁量にゆだねられており、それが著しく合理性を欠き明らかに裁量の逸脱・濫用と見ざるをえないような場合を除き、裁判所が審査判断するのに適しない事柄である。」
― 最大判昭和57年7月7日(堀木訴訟)
ポイント:
- 25条の具体化は立法府の広い裁量に委ねられるとした(広い立法裁量論)
- 裁判所の審査は、立法が「著しく合理性を欠き明らかに裁量の逸脱・濫用」にあたる場合に限定される
- 朝日訴訟が傍論であったのに対し、堀木訴訟は判決理由として生存権の法的性格に言及した点で重要
- 併給禁止は広い立法裁量の範囲内であり合憲とされた
- 14条(平等)違反の主張についても、社会保障給付における区別には合理的理由があるとして退けた
意義と注意点: 堀木訴訟は、生存権の法的性格について最高裁が判決理由(ratio decidendi)として正面から立法裁量論を展開した点で、朝日訴訟以上に重要です。なお、最高裁は「立法府の広い裁量」を認めつつも、裁量に対する司法審査の余地を完全に否定したわけではない点に注意が必要です。「著しく合理性を欠き明らかに裁量の逸脱・濫用」という限定された場面では違憲審査が及び得るため、純粋なプログラム規定説(裁判規範性を一切認めない)そのものとは異なると評価されています。
朝日訴訟と堀木訴訟の比較
試験対策ポイント: 両判例の最大の違いは「傍論か判決理由か」「行政裁量か立法裁量か」です。朝日訴訟は生活保護基準を定める厚生大臣の行政裁量が問題となり、堀木訴訟は社会保障制度を設計する立法府の立法裁量が問題となりました。問題文で「立法府の広い裁量」「併給禁止」とあれば堀木訴訟、「生活保護基準」「厚生大臣」「一身専属」とあれば朝日訴訟と判別できます。
堀木訴訟において最高裁は、憲法25条の規定の趣旨にこたえて具体的にどのような立法措置を講ずるかの選択決定は立法府の広い裁量に委ねられるとし、障害福祉年金と児童扶養手当の併給禁止規定を合憲と判断した。
朝日訴訟において最高裁は、生活保護受給権は相続の対象となるとして、原告の死亡後も相続人による訴訟の続行を認めたうえで、生活保護基準の違憲性について本案判断を行った。
老齢加算廃止訴訟
最判平成24年2月28日・最判平成24年4月2日
事案: 生活保護の老齢加算(70歳以上の高齢者に対する上乗せ給付)が段階的に廃止されたことについて、保護基準の改定が25条に違反するとして争われた事件です。複数の地域(東京・福岡など)で同種の訴訟が提起され、最高裁が相次いで判断を示しました。
判旨: 最高裁は、老齢加算の廃止は違法ではないと判断しました。
- 生活保護基準の改定は厚生労働大臣の裁量に委ねられている
- その裁量判断に判断の過程および手続における過誤・欠落がないかという観点から審査すべきとした
- 本件では、専門家の意見を踏まえた検討結果に基づいて段階的に廃止されており、裁量権の逸脱・濫用はないとした
意義: この判例の特徴は、結論の当否そのものを審査するのではなく、結論に至る判断過程が合理的かを審査する「判断過程統制」の手法を生存権の領域に明確に取り入れた点にあります。実体的な「最低限度の生活」の内容に裁判所が踏み込むことには慎重でありつつ、専門技術的・政策的な判断の前提となる事実認定や検討過程に過誤・欠落がないかをチェックすることで、行政裁量に一定の歯止めをかけようとする発想です。
試験対策ポイント: この判例は、朝日訴訟・堀木訴訟と並んで生存権の判例として出題されることがあります。「判断の過程・手続における過誤・欠落」という審査手法は、行政裁量の司法審査において重要な概念です。朝日訴訟の「裁量権の逸脱・濫用」という結果に着目した審査から、判断過程に着目した審査へと、司法審査の手法が精緻化している点も意識しておくとよいでしょう。
生存権をめぐるその他の重要判例
生存権の周辺には、25条の理解を支える判例がいくつかあります。択一の選択肢として混在することがあるため、概要を押さえておきましょう。
学生無年金障害者訴訟(最判平成19年9月28日)
事案: 20歳以上の学生について国民年金が任意加入とされていた当時、未加入の間に障害を負った学生が障害基礎年金を受給できないことが25条・14条に違反するとして争った事件です。
判旨: 最高裁は、学生を強制加入の対象とせず任意加入としたことや、無年金となった者への救済措置を設けなかったことについて、立法府の裁量の範囲内であり25条・14条に違反しないとしました。堀木訴訟と同じく、社会保障制度の設計における広い立法裁量を確認した判例です。
塩見訴訟(最判平成元年3月2日)
事案: 障害福祉年金の受給資格について、国籍要件(日本国民であること)を定めていた当時の国民年金法の規定が、外国籍であることを理由に受給を認めない点で25条・14条に違反するかが争われました。
判旨: 最高裁は、社会保障上の施策において在留外国人をどう扱うかは立法府の裁量に委ねられているとし、限られた財源のもとで自国民を在留外国人より優先的に扱うことも許されるとして合憲と判断しました。生存権の保障が及ぶ範囲(外国人への適用)に関する判例として押さえておきましょう。
これらの判例はいずれも、社会保障の制度設計について立法府の広い裁量を認め、堀木訴訟の枠組みを踏襲している点で共通します。
教育を受ける権利(26条)
条文の確認
「すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。」(26条1項)
「すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。義務教育は、これを無償とする。」(26条2項)
教育を受ける権利は、社会権の一つであると同時に、子どもの学習権を保障する性質を持つと理解されています。旭川学テ事件でも、最高裁は26条の背後に「子どもの学習する権利(学習権)」が存在することを認めました。
教育権の所在|旭川学テ事件
旭川学テ事件(最大判昭和51年5月21日)は、教育権の所在をめぐる重要判例です。
事案: 文部省が実施した全国中学校一斉学力テストに対し、教職員組合がこれを阻止する実力行動をとった事件です。教育内容の決定権が国にあるのか(国家の教育権説)、教師にあるのか(国民の教育権説)が争われました。
判旨: 最高裁は、いずれの説も極端かつ一方的であるとして、折衷的な立場を採りました。
- 子どもには学習権があり、26条はその充足を国に求める権利を保障している
- 親は家庭教育や学校選択の自由を有する
- 教師にはある程度の教授の自由が認められるが、完全な教育の自由が認められるわけではない
- 国も、必要かつ相当と認められる範囲で、教育内容を決定する権能を有する
- 子どもの教育は、教師と国の双方が一定の範囲でかかわるものであり、いずれかが独占するものではない
試験対策ポイント: 「国家の教育権説」「国民の教育権説」のいずれかを全面的に採用した、という選択肢は誤りです。最高裁はどちらも極端として斥け、折衷的立場を採った点が結論です。また、教師の教授の自由を「一定の範囲で」認めたが「完全な自由」までは認めなかった点も頻出の引っかけです。
義務教育の無償の範囲
26条2項は「義務教育は、これを無償とする」と規定しています。この「無償」の範囲について、最高裁は以下のとおり判示しています。
- 最大判昭和39年2月26日: 「憲法の義務教育はこれを無償とするとの規定は、授業料不徴収の意味と解するのが相当である」
- つまり、授業料の無償を意味し、教科書代や学用品代等まで無償とすることを憲法は要求していない
なお、義務教育の教科書については、現在は「義務教育諸学校の教科用図書の無償措置に関する法律」という法律によって無償配布が実現されています。これは憲法上の要請ではなく、立法政策として無償化したものである点に注意してください。「教科書の無償は憲法26条2項が直接要求している」という選択肢は誤りです。
勤労の権利(27条)
条文の確認
「すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負ふ。」(27条1項)
「賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める。」(27条2項)
「児童は、これを酷使してはならない。」(27条3項)
勤労の権利は、国に対して就労の機会を確保するための施策を講ずることを求める社会権としての側面と、勤労が国民の義務でもあるという側面を有しています。
勤労の権利の法的性格については、25条の生存権と同様に、プログラム規定としての性格を有すると解されており、国に対して具体的な雇用を請求する権利を直接保障するものではないとされています。失業者が国に対して「仕事を与えよ」と直接請求することはできず、雇用保険制度や職業紹介などの施策を通じて間接的に保障されるにとどまります。
27条2項を受けて、労働基準法・最低賃金法などが勤労条件の基準を定めています。27条3項の児童酷使の禁止は、労働基準法における年少者保護規定(最低就業年齢の制限など)として具体化されています。なお、27条2項は私人間(労使間)にも事実上の影響を及ぼす点で、社会権が私的領域の規律につながる例として理解できます。
労働基本権(28条)
条文の確認
「勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する。」(28条)
28条が保障する労働基本権(労働三権)は以下の3つです。
労働基本権の法的性質
労働基本権は、社会権でありながら多面的な性格を持つ点が特徴です。
- 自由権的側面: 正当な争議行為等について、刑事責任を問われない(刑事免責)。労働組合法は、正当な争議行為に刑法上の違法性阻却を認めています。
- 社会権的側面: 国に対し、労働者の権利保障のための立法その他の措置を求める。
- 私人間効力(民事免責): 正当な争議行為について、使用者は労働者に対して損害賠償を請求できない(民事免責)。28条は私人間(労使間)にも直接適用されるとされ、私人間効力が認められる代表例とされます。
このように労働基本権は、社会権に分類されながらも、自由権的側面と私人間への直接適用が認められる点で、他の社会権とは異なる強い保障が与えられています。
公務員の労働基本権の制限
公務員については、その地位の特殊性と職務の公共性から、労働基本権が制限されています。この制限の合憲性をめぐって、判例は変遷を経ています。
判例の変遷
都教組事件の「二重のしぼり」とは、(ア)争議行為自体が違法性の強いものであり、かつ(イ)あおり行為等も違法性の強いものである場合に限って処罰の対象とする、という限定解釈の手法です。全農林警職法事件はこの限定解釈を不要とした点で、判例変更にあたります。
全農林警職法事件(最大判昭和48年4月25日)
事案: 全農林労働組合が警察官職務執行法の改正に反対する争議行為をあおったとして、国家公務員法の争議行為禁止規定違反で起訴された事件です。
判旨: 最高裁は、公務員の争議行為の一律全面禁止を合憲と判断しました。
その理由として以下を挙げています。
- 公務員の地位の特殊性: 公務員は国民全体の奉仕者であり(憲法15条2項)、その労働関係は私企業の労働者とは異なる
- 勤務条件法定主義: 公務員の勤務条件は国会の定める法律・予算によって決定されるため、政府に対する争議行為は的外れであり、議会制民主主義に反するおそれがある
- 市場の抑制力の欠如: 公務員の場合、争議行為によって使用者(国・地方公共団体)の業務が停止しても、私企業のような市場の抑制力(過大な要求は経営を圧迫し雇用を失わせる、という歯止め)が働かない
- 代償措置の存在: 争議行為が禁止される代わりに、人事院勧告制度等の代償措置が設けられている
試験対策ポイント: 全逓東京中郵事件(昭和41年)の限定的制限説から全農林警職法事件(昭和48年)の一律全面禁止合憲説への判例変更は、行政書士試験で繰り返し出題されるテーマです。両者の立場の違いを正確に把握しておきましょう。特に全農林警職法事件の合憲理由(地位の特殊性・勤務条件法定主義・市場抑制力の欠如・代償措置)はキーワードで押さえておくと有効です。
公務員の労働基本権制限の整理
警察職員・消防職員・自衛隊員・海上保安庁職員・刑事施設職員などは、職務の性質上、労働三権がすべて否定されています。「警察官にも団結権だけは認められる」といった選択肢は誤りです。
全農林警職法事件(最大判昭和48年4月25日)において、最高裁は公務員の争議行為の一律禁止は違憲であるとして、争議行為の違法性の強いものに限定して刑事罰の対象とすべきであると判示した。
警察職員及び消防職員は、団結権・団体交渉権・争議権のいずれも認められていない。
過去問で問われる角度・頻出論点の総整理
社会権分野では、条文知識よりも学説と判例の正確な理解が問われます。過去の出題傾向を踏まえると、次の角度が繰り返し登場します。
よくある誤解の最終チェック
- 判例(朝日・堀木)は具体的権利説を採っていない。むしろプログラム規定説に近い広い裁量論である。
- 教科書の無償は憲法の要請ではなく法律による(授業料のみが憲法上の無償)。
- 労働基本権の民事免責・刑事免責は労働組合法に具体化されているが、28条自体が私人間に直接適用される点も重要。
- 公務員の労働基本権は種類によって制限の程度が異なる(現業・非現業・警察消防等で区別)。
まとめ|社会権の試験対策
最重要論点
- 生存権の法的性格: プログラム規定説・抽象的権利説・具体的権利説の3つの内容と違いを正確に理解する
- 朝日訴訟: 傍論でのプログラム規定的立場、厚生大臣の裁量、生活保護受給権の一身専属性(相続不可)
- 堀木訴訟: 立法府の広い裁量、著しく合理性を欠き明らかに裁量の逸脱・濫用の場合のみ司法審査、判決理由での判示
- 老齢加算廃止訴訟: 厚生労働大臣の裁量と判断過程統制(過誤・欠落の有無)
- 旭川学テ事件: 教育権は国と教師のいずれかが独占するものではない(折衷説)、子どもの学習権
- 義務教育の無償: 授業料無償説(教科書無償は法律による)
- 労働基本権の判例変更: 全逓東京中郵事件(限定的制限説)から全農林警職法事件(一律全面禁止合憲説)への判例変更、刑事免責・民事免責
学習の優先順位
社会権の中では、生存権(25条)の学説・判例が圧倒的に出題頻度が高い分野です。3つの学説の正確な理解と、朝日訴訟・堀木訴訟の判旨を押さえることが最優先です。次いで、労働基本権の判例変更(全逓東京中郵事件→全農林警職法事件)、教育を受ける権利(旭川学テ事件)の順に学習を進めましょう。
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