(公開 2026/01/29) / 憲法

司法権の範囲と限界|統治行為・部分社会の法理

司法権の意義・範囲と限界を行政書士試験向けに解説。法律上の争訟の要件、統治行為論(苫米地事件)、部分社会の法理(富山大学事件)、宗教上の争い(板まんだら事件)の判例を整理します。

はじめに|司法権の限界は統治機構の頻出テーマ

司法権は、憲法76条により裁判所に帰属しますが、すべての紛争が司法権の対象となるわけではありません。司法権には一定の範囲と限界があり、統治行為論や部分社会の法理など、司法権が及ばない領域が存在します。

行政書士試験では、司法権の範囲と限界に関する判例が繰り返し出題されています。本記事では、司法権の意義から具体的な限界に至るまで、主要判例を中心に整理します。

この分野は「条文知識」よりも「判例の事案と結論を正確に覚えているか」が勝負になります。とくに、(1) ある紛争が「法律上の争訟」に当たるかどうか、(2) 法律上の争訟に当たるとしても、司法権が及ぶか否か、という二段階の思考枠組みを身につけることが攻略の鍵です。本記事では、この二段階を意識しながら、要件整理表・事案→判旨→意義の3点セット・頻出の引っかけポイントまで掘り下げて解説します。

司法権の帰属

すべて司法権は、最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する。
― 憲法 第76条第1項

司法権は裁判所に属し、特別裁判所の設置は禁止されています(76条2項前段)。行政機関は終審として裁判を行うことはできません(76条2項後段)。

「すべて司法権は…裁判所に属する」という文言は、司法権の裁判所への独占を意味します。明治憲法下では行政事件を扱う行政裁判所が通常裁判所とは別系統で存在しましたが、日本国憲法はこうした司法権の分散を否定し、一切の法律上の争訟を司法裁判所が扱う構造(司法国家型)を採用しました。この趣旨を理解しておくと、後述の「特別裁判所の禁止」「行政機関の終審裁判の禁止」が一連の制度として整理できます。

特別裁判所の禁止

特別裁判所は、これを設置することができない。行政機関は、終審として裁判を行ふことができない。
― 憲法 第76条第2項

ここでいう「特別裁判所」とは、通常の裁判所の系列に属さず、特定の身分の人や特定の種類の事件を裁判するために設置される裁判所をいいます。明治憲法下の行政裁判所・軍法会議・皇室裁判所などがその典型例です。これらは最高裁判所を頂点とする通常裁判所の系統から独立しており、司法権の統一を害するため禁止されます。

家庭裁判所知的財産高等裁判所は、通常の裁判所の系列に属し、最終的に最高裁判所への上訴が認められているため、特別裁判所には当たりません。判断のポイントは「設置目的が特殊か」ではなく、「最高裁判所を頂点とする系列に組み込まれ、上訴が可能か」という点にあります。

弾劾裁判所の位置づけ

裁判官を罷免するための弾劾裁判所(憲法64条)は、国会に設置される機関です。これは「特別裁判所の禁止」の例外にあたると説明されることが多く、憲法が明文で認めた例外として扱われます。弾劾裁判所による罷免の裁判には、通常裁判所への上訴はできません。

行政機関による終審裁判の禁止

行政機関が「終審として」裁判を行うことは禁止されますが、これは裏を返せば、前審(第一審・中間段階)としてであれば行政機関が裁判類似の判断を行うことは許されるという意味です。たとえば、特許庁の審決、公正取引委員会・国税不服審判所などの行政審判は、その後に裁判所への出訴が認められている限り、憲法76条2項に反しません。行政書士試験の行政法分野とも関連する論点なので、「終審でなければ許される」という結論を押さえておきましょう。

司法権の意義

司法権の定義

司法権とは、具体的な争訟について、法を適用し、宣言することによってこれを裁定する国家作用をいいます。

定義の中核は「具体的な争訟」です。立法権が一般的・抽象的な法規範を定立し、行政権が法を執行するのに対し、司法権は当事者間の具体的な紛争を前提として、受動的に(訴えがあって初めて)発動する点に特徴があります。この「具体的事件性」の要請が、後述する警察予備隊違憲訴訟の結論(抽象的違憲審査の否定)に直結します。

法律上の争訟

裁判所が審判権を行使するためには、事件が「法律上の争訟」に該当する必要があります(裁判所法3条1項)。

裁判所は、日本国憲法に特別の定のある場合を除いて一切の法律上の争訟を裁判し、その他法律において特に定める権限を有する。
― 裁判所法 第3条第1項

法律上の争訟の要件は、判例によれば次の2つです。

  1. 当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争であること(事件性の要件)
  2. 法令の適用により終局的に解決できるものであること(終局的解決可能性の要件)

この2つの要件をいずれも満たさなければ、法律上の争訟に該当しません。

2要件の意味と判別のコツ

要件内容満たさない典型例①具体的な権利義務・法律関係の紛争当事者間に現実の権利義務をめぐる争いがあること抽象的・一般的に法令の効力を争う(警察予備隊違憲訴訟)②法令の適用による終局的解決可能性法律を当てはめれば結論が出せること宗教上の教義の真偽、学問・芸術上の価値判断(板まんだら事件)

行政書士試験では、ある訴えが「①は満たすが②を満たさない」というパターン(板まんだら事件型)が頻出です。形式的には金銭返還請求などの具体的な権利紛争に見えても、その前提として宗教・学問上の価値判断が不可避であれば、②を欠くため法律上の争訟に当たらない、という流れを正確に押さえましょう。

法律上の争訟に該当しないもの

法律上の争訟に該当しない代表的な類型を整理すると次のとおりです。

類型欠ける要件代表判例抽象的・一般的な法律問題①事件性警察予備隊違憲訴訟宗教上の教義・信仰の対象の価値②終局的解決可能性板まんだら事件・蓮華寺事件学問上・技術上の論争②終局的解決可能性(技術士国家試験の合否判定など)単なる事実の存否確認①具体的権利義務性―

抽象的・一般的な法律問題

具体的な事件を離れて、抽象的に法律の解釈や効力を争うことは、法律上の争訟に該当しません。

警察予備隊違憲訴訟(最大判昭27.10.8): 警察予備隊の設置・維持が違憲であるとの訴えに対し、最高裁は「わが裁判所が現行の制度上与えられているのは司法権を行う権限であり、そして司法権が発動するためには具体的な争訟事件が提起されることを必要とする」として、抽象的違憲審査の請求を却下しました。

わが裁判所が現行の制度上与えられているのは司法権を行う権限であり、そして司法権が発動するためには具体的な争訟事件が提起されることを必要とする。我が裁判所は具体的な争訟事件が提起されないのに将来を予想して憲法及びその他の法律命令等の解釈に対し存在する疑義論争に関し抽象的な判断を下すごとき権限を行い得るものではない。
― 最大判昭和27年10月8日(警察予備隊違憲訴訟)

意義: この判決は、日本の違憲審査制が、具体的事件の解決に付随して違憲審査を行う付随的審査制であることを明らかにしたリーディングケースです。事件を離れて法令そのものの合憲性を抽象的に審査する抽象的審査制は、憲法上認められていないと解されます。試験では「最高裁は憲法裁判所としての性格を併有する」といった誤りの選択肢に注意してください。

宗教上の教義に関する争い

信仰の対象の価値や宗教上の教義に関する判断は、法令の適用によって終局的に解決できないため、法律上の争訟に該当しません。

板まんだら事件(最判昭56.4.7): 日蓮正宗の信者が、本尊として安置された板まんだらが偽物であると主張して寄附金の返還を求めた事案。最高裁は、本件訴えの前提問題として板まんだらが本物かどうかという宗教上の教義に関する判断が必要となるが、これは法令の適用によって解決できる問題ではないとして、法律上の争訟に該当しないと判断しました。

本件訴訟は、具体的な権利義務ないし法律関係に関する紛争の形式をとってはいるが、その前提問題として宗教上の教義に関する判断が必要であり、これは法令の適用による終局的な解決の不可能なものであって、法律上の争訟にあたらない。
― 最判昭和56年4月7日(板まんだら事件)

意義: 形式的には「寄附金返還請求」という財産上の権利紛争(=①事件性は満たす)であっても、勝敗の決め手となる前提問題が宗教上の教義の真偽である場合、②の終局的解決可能性を欠くため法律上の争訟に当たらない、と判断した点が重要です。「形式と実質」を区別する典型判例として頻出します。

蓮華寺事件・日蓮正宗管長事件との関係

宗教団体の内部紛争には、(A) 宗教上の教義の判断が訴訟の帰すうを左右するため「法律上の争訟性」自体が否定される類型(板まんだら事件)と、(B) 法律上の争訟には当たるが宗教団体の自律的判断を尊重して司法審査が及ばないとされる類型があります。住職や管長の地位確認をめぐる紛争で、その地位が宗教上の教義・信仰に関わる判断を前提とする場合には、法律上の争訟性が否定されることがあります。試験対策上は「宗教絡みの紛争=即・司法審査対象外」と単純化せず、教義の真偽判断が前提として不可欠かどうかで切り分ける視点を持っておくと安全です。

単なる事実の確認

具体的な権利義務に関わらない単なる事実の確認を求める訴えも、法律上の争訟に該当しません。たとえば、歴史的事実の存否や、現在の権利義務に結びつかない過去の事実の確認だけを求める訴えは、①の要件(具体的な権利義務・法律関係の紛争)を欠きます。

国家試験の合否判定

国家試験における合格・不合格の判定や、答案の評価のような専門技術的な学術上の判断は、その性質上、試験実施機関の最終的判断に委ねられ、裁判所が当否を審査するのに適さないと解されています。これは前述の「学問上・技術上の論争」が②の終局的解決可能性を欠くという発想と共通します。

司法権の限界

法律上の争訟に該当する場合であっても、以下の場面では司法権が及ばないとされることがあります。ここからが第二段階、「法律上の争訟性はあるが、なお司法審査が及ばない」局面です。司法権の限界は、一般に次のように分類されます。

限界の類型根拠・趣旨代表判例憲法上の限界(明文)議員資格争訟(55条)・弾劾裁判(64条)―国際法上の限界治外法権・条約による裁判権の制限―統治行為高度の政治性・権力分立苫米地事件・砂川事件自律権に属する行為議院・各機関の内部自律の尊重警察法改正無効事件部分社会の内部紛争団体の自治・自律的法規範の尊重富山大学事件・共産党袴田事件自由裁量行為裁量の範囲内では司法審査が及ばない―

統治行為論

統治行為論とは、直接国家統治の基本に関する高度に政治性のある国家行為については、法律上の争訟として裁判所の審査権が及ぶとしても、事柄の性質上、司法審査の対象から除外されるとする理論です。

統治行為論の理論的根拠には、(1) 司法権には本来的に内在する限界があるとする内在的制約説と、(2) 高度に政治的な事項は政治部門と国民の判断に委ねるべきだとする自制説があります。苫米地事件の判旨は、主として権力分立と国民への政治的責任を強調しており、内在的制約説的な立場に親和的と理解されています。

苫米地事件(最大判昭35.6.8): 衆議院の解散の効力が争われた事案。

事案

昭和27年のいわゆる「抜き打ち解散」により衆議院議員の地位を失った苫米地義三が、当該解散は憲法7条のみを根拠とするもので憲法69条の場合に限られるべきであり手続にも瑕疵があるとして、議員の地位確認と歳費の支払を求めて出訴した事案です。

判旨

最高裁は、以下のように判示しました。

直接国家統治の基本に関する高度に政治性のある国家行為のごときはたとえそれが法律上の争訟となりうるものであっても、裁判所の審査権の外にあり、その判断は主権者たる国民に対して政治的責任を負うところの政府、国会等の政治部門の判断に委ねられるべきものであつて、最終的には国民の政治判断に委ねられているものと解すべきである。
― 最大判昭和35年6月8日(苫米地事件)

意義

この判決により、衆議院の解散は統治行為として司法審査の対象外とされました。重要なのは「法律上の争訟となりうるものであっても」という文言で、これは統治行為論が「法律上の争訟に当たるか否か」とは別の次元の問題(=司法権の限界の問題)であることを示しています。試験では「衆議院の解散は法律上の争訟に当たらないから審査されない」という記述は誤りである点に注意してください。あくまで法律上の争訟性はあるが、高度の政治性ゆえに審査が及ばない、というのが正しい整理です。

砂川事件(最大判昭34.12.16): 日米安全保障条約に基づく駐留米軍の合憲性が争われた事案。

最高裁は、安全保障条約のように高度の政治性を有する条約については、一見極めて明白に違憲無効と認められない限り、裁判所の司法審査権の範囲外であるとしました。

安全保障条約は、主権国としてのわが国の存立の基礎に極めて重大な関係をもつ高度の政治性を有するものというべきであつて、その内容が違憲なりや否やの法的判断は、その条約を締結した内閣およびこれを承認した国会の高度の政治的ないし自由裁量的判断と表裏をなす点がすくなくない。それ故、右違憲なりや否やの法的判断は、純司法的機能をその使命とする司法裁判所の審査には、原則としてなじまない性質のものであり、従つて、一見極めて明白に違憲無効であると認められない限りは、裁判所の司法審査権の範囲外のものであつて、それは第一次的には、右条約の締結権を有する内閣およびこれに対して承認権を有する国会の判断に従うべく、終局的には、主権を有する国民の政治的批判に委ねらるべきものである。
― 最大判昭和34年12月16日(砂川事件)

苫米地事件と砂川事件の違い(頻出比較)

両者はいずれも「高度の政治性」を理由とする点で共通しますが、判旨の組み立てに重要な違いがあります。

項目苫米地事件砂川事件対象衆議院の解散日米安全保障条約(駐留米軍)審査の枠組み高度の政治性ゆえ審査権の「外」(純粋な統治行為論)「一見極めて明白に違憲無効」でない限り審査外(限定を付した統治行為論)違憲審査の余地原則として一切判断しない一見明白に違憲無効なら審査の余地あり

砂川事件は「一見極めて明白に違憲無効と認められない限り」という留保を付している点で、純粋な統治行為論とは区別され、変則的な統治行為論または自由裁量論との性格づけがなされることもあります。この「留保の有無」が両判例を区別する最大のポイントとして問われます。

自律権に属する行為

議院の自律権

各議院の内部事項に関する行為は、議院の自律権に属し、司法審査の対象とならない場合があります。

議員の資格争訟の裁判(憲法55条)や議員の懲罰(58条2項)は、各議院の自律的判断に委ねられます。資格争訟の裁判は憲法が明文で各議院の権限としており(55条)、議員の議席を失わせるには出席議員の3分の2以上の多数による議決が必要とされます。これらは憲法上の明文による司法権の限界の例ともいえます。

ただし、議員の除名処分のような重大な不利益処分について、裁判所の審査が及ぶかどうかについては議論があります。

議事手続の自律(警察法改正無効事件)

警察法改正無効事件(最大判昭37.3.7): 国会で成立した警察法の改正について、衆議院の議決手続に瑕疵があり無効であると争われた事案。最高裁は、両院で議決を経て適法な手続によって公布されている以上、裁判所は両院の自主性を尊重すべきであり、議事手続に関する事実を審理してその有効無効を判断すべきでないとしました。

同法は両院において議決を経たものとされ適法な手続によつて公布されている以上、裁判所は両院の自主性を尊重すべく同法制定の議事手続に関する所論のような事実を審理してその有効無効を判断すべきでない。
― 最大判昭和37年3月7日(警察法改正無効事件)

意義: 国会の議事手続については、議院の自律権を尊重し、裁判所が立ち入って審査しないという立場を示した判例です。統治行為論ではなく「自律権」を根拠とする限界である点に注意しましょう。

自律的な団体の内部紛争(部分社会の法理)

部分社会の法理とは、自律的な規律を有する団体の内部問題については、その団体の自治的措置に委ね、司法審査の対象としないという法理です。一般市民社会とは別個の「特殊な部分社会」を観念し、その内部的な規律に関する事項には一般市民法秩序が及ばないと考えるものです。

富山大学事件(最判昭52.3.15): 大学が学生に対して行った単位不認定処分の取消しが争われた事案。

事案

富山大学の学生らが、ある教授の授業について受講・受験したにもかかわらず、大学が当該教授の授業担当を解いたこと等を理由に単位を認定しなかったため、単位不認定の違法を主張して争った事案です。

判旨

最高裁は、大学は自律的な法規範を有する特殊な部分社会であるとした上で、単位の認定は大学内部の問題として司法審査の対象にならないとしました。

大学は、国公立であると私立であるとを問わず、学生の教育と学術の研究を目的とする公共的な施設であり、法律に格別の規定がない場合でも、その設置目的を達成するために必要な事項については、法令に格別の規定がない場合でも、学則等によりこれを規定し、実施することのできる自律的、包括的な権能を有し、一般市民社会とは異なる特殊な部分社会を形成している。
― 最判昭和52年3月15日(富山大学事件)
意義と区別の基準

ただし、退学処分(専攻科修了の認定を含む地位に関わる措置)のように学生の身分を剥奪し、あるいは大学教育を受ける権利・地位そのものを失わせる重大な措置については、一般市民法秩序と直接の関係を有するため、司法審査の対象となるとしました。区別の基準は「一般市民法秩序と直接の関係を有するか否か」です。

大学の措置司法審査理由単位認定・不認定及ばない純然たる大学内部の問題退学処分・専攻科修了不認定等及ぶ学生の身分・地位に関わり一般市民法秩序と直接関係

共産党袴田事件(最判昭63.12.20): 政党が党員(袴田氏)に対して行った除名処分とこれに伴う家屋明渡請求が争われた事案。最高裁は、政党は高度の自主性・自律性を有する団体であり、政党の結社としての自律権を尊重すべきであるとして、政党が党員に対してした処分が一般市民法秩序と直接の関係を有しない内部的な問題にとどまる限り司法審査は及ばず、一般市民法秩序と関係する場合であっても、その審査は処分が適正な手続に則ってされたか否かという点に限られるとしました。

政党の結社としての自主性にかんがみると、政党の内部的自律権に属する行為は、法律に特別の定めのない限り尊重すべきであるから、政党が組織内の自律的運営として党員に対してした除名その他の処分の当否については、当該処分が一般市民法秩序と直接の関係を有しない内部的な問題にとどまる限り、裁判所の審判権は及ばず、他方、右処分が一般市民としての権利利益を侵害する場合であつても、その審理は、当該政党の自律的に定めた規範が公序良俗に反するなどの特段の事情のない限り右規範に照らし、右規範を有しないときは条理に基づき、適正な手続に則つてされたか否かによつて決すべきである。
― 最判昭和63年12月20日(共産党袴田事件)

意義: 政党に対しては部分社会の法理を適用しつつ、それを政党固有の「結社の自由・自律権」(憲法21条)から基礎づけた点が特徴です。一般市民法秩序に関わる場合でも、審査範囲は「適正手続を踏んだか」に限定され、処分の実体的当否(除名の理由が正当かどうか)には立ち入らない、という限定が重要です。

部分社会の法理が適用される団体と適用されない団体

団体部分社会の法理の適用代表判例大学適用あり(ただし退学処分等は除く)富山大学事件政党適用あり(自律権・結社の自由が根拠)共産党袴田事件地方議会適用あり(ただし出席停止・除名は司法審査の対象)出席停止事件(最大判令2.11.25で判例変更)宗教団体適用あり(宗教上の教義の判断は不可)板まんだら事件一般の民間団体原則として適用なし―

なお、近時の学説・判例の動向としては、「部分社会の法理」を団体一般に妥当する包括的な法理として用いることには慎重で、団体の性質(大学の学問の自由、政党の結社の自由など)ごとに自律性の根拠と司法審査の範囲を個別に検討する傾向があります。最大判令2.11.25もこの流れの中に位置づけられます。

地方議会の議員に対する出席停止処分

地方議会議員出席停止事件(最大判令2.11.25): 最高裁は、従来の判例(昭和35年判決)を変更し、地方議会議員に対する出席停止の懲罰についても司法審査の対象になるとしました。

出席停止の懲罰は、上記の責務を負う公選の議員に対し、議会がその権能において科する処分であり、これによって議員はその期間、会議及び委員会への出席が停止され、議事に参与して議決に加わるなどの議員としての中核的な活動をすることができず、住民の負託を受けた議員としてその責務を十分に果たすことができなくなる。このような出席停止の懲罰の性質や議員活動に対する制約の程度に照らすと、これが議員の権利行使の一時的制限にすぎないものとして、その適否が専ら議会の自主的、自律的な解決に委ねられるべきであるということはできない。…普通地方公共団体の議会の議員に対する出席停止の懲罰の適否は、司法審査の対象となるというべきである。
― 最大判令和2年11月25日(地方議会議員出席停止事件)

意義: かつての最大判昭35.10.19は、地方議会議員に対する除名は司法審査の対象となるが、出席停止のような内部規律の問題は司法審査が及ばないとしていました。令和2年判決はこれを変更し、出席停止も司法審査の対象であると明示しました。これにより、地方議会議員に対する懲罰は、除名はもちろん出席停止についても司法審査が及ぶことになり、部分社会の法理の適用範囲が縮小されたといえます。最新の重要判例として行政書士試験でも要注意です。

地方議会議員への懲罰旧判例(昭35.10.19)現在(令2.11.25)除名司法審査の対象司法審査の対象出席停止司法審査の対象外司法審査の対象(判例変更)

客観訴訟と法律上の争訟

法律上の争訟に該当しなくても、法律が特に裁判所の権限として定めた場合は、裁判所が審理することができます(裁判所法3条1項後段の「その他法律において特に定める権限」)。

  • 民衆訴訟: 国民が自己の法律上の利益にかかわらない資格で提起する訴訟(選挙の効力に関する訴訟、住民訴訟など)
  • 機関訴訟: 国又は公共団体の機関相互間における権限の存否又は行使に関する紛争についての訴訟(地方公共団体の長と議会の争いなど)

これらは「客観訴訟」と呼ばれ、自己の権利利益の救済ではなく客観的な法秩序の維持を目的とするため、本来の「法律上の争訟」(主観訴訟)には当たりません。したがって、法律に特別の定めがある場合に限り提起が認められます(行政事件訴訟法42条参照)。

民衆訴訟及び機関訴訟は、法律に定める場合において、法律に定める者に限り、提起することができる。
― 行政事件訴訟法 第42条

試験では「客観訴訟は法律上の争訟に当たる」という記述が誤りとして問われます。客観訴訟は法律上の争訟に当たらないが、法律の特別の定めにより例外的に裁判所の権限とされている、と整理しましょう。

頻出論点・出題ポイントと過去問の角度

出題ポイントの整理

  1. 法律上の争訟の2要件: 具体的権利義務の紛争(事件性)+法令適用による終局的解決可能性
  2. 統治行為論: 苫米地事件(衆議院の解散)、砂川事件(安保条約/一見明白に違憲無効でない限り審査外)
  3. 部分社会の法理: 富山大学事件では単位不認定は司法審査対象外、退学処分は対象
  4. 板まんだら事件: 宗教上の教義の判断は法律上の争訟に該当しない(②を欠く)
  5. 出席停止事件: 令和2年の判例変更で出席停止の懲罰も司法審査の対象に
  6. 警察予備隊違憲訴訟: 抽象的違憲審査は認められない(付随的審査制)
  7. 警察法改正無効事件: 議事手続は議院の自律権により審査対象外

過去問で問われた角度

  • 二段階の区別: 「衆議院の解散は法律上の争訟に当たらない」は誤り。法律上の争訟性はあるが統治行為として審査が及ばない、が正しい。
  • 板まんだら型の引っかけ: 「金銭請求の形式をとっていれば常に法律上の争訟に当たる」は誤り。前提問題が教義の真偽なら当たらない。
  • 富山大学事件の場合分け: 「大学の処分は一切司法審査の対象とならない」は誤り。退学処分等は対象。
  • 砂川事件の留保: 「条約は高度の政治性を有するから一切審査されない」は不正確。「一見極めて明白に違憲無効」なら審査の余地がある。
  • 判例変更の知識: 出席停止は「かつては対象外だったが令和2年に対象へ変更された」点をそのまま問う出題。

よくある誤解

  • 誤解1: 統治行為は法律上の争訟に当たらない → 誤り。法律上の争訟には当たるが、高度の政治性ゆえに司法権の限界として審査が及ばない。
  • 誤解2: 部分社会の法理は団体一般に一律に適用される → 不正確。大学・政党・地方議会などで根拠と射程が異なり、近時は個別判断の傾向。
  • 誤解3: 行政機関は裁判を一切できない → 誤り。終審としての裁判が禁止されるだけで、前審としての行政審判は許される。
  • 誤解4: 最高裁は憲法裁判所である → 誤り。日本は付随的審査制であり、抽象的に法令の合憲性を審査する憲法裁判所は置かれていない。

関連論点

司法権の独立(裁判官の身分保障・職権の独立)、違憲審査制の性格(付随的審査制)、内閣の衆議院解散権の根拠(憲法7条説と69条説)などは、本テーマと密接に関連します。とくに苫米地事件は、解散権の所在という統治機構の論点と接続して問われることがあります。

まとめ

司法権の範囲は「法律上の争訟」(①具体的な権利義務の紛争+②法令適用による終局的解決可能性)によって画され、その限界として統治行為論・自律権に属する行為・部分社会の法理・自由裁量行為などがあります。判断は常に二段階で、まず「法律上の争訟に当たるか」、次に「当たるとしても司法権が及ぶか」を検討するのが思考の型です。

統治行為論は苫米地事件(衆議院の解散)と砂川事件(安保条約。ただし「一見極めて明白に違憲無効」でない限りという留保付き)、部分社会の法理は富山大学事件(単位不認定は対象外・退学処分は対象)と共産党袴田事件が代表判例です。宗教上の教義に関わる板まんだら事件は②を欠く類型として、警察予備隊違憲訴訟は付随的審査制を示す判例として押さえましょう。

令和2年の出席停止事件で判例変更が行われ、地方議会の出席停止処分も司法審査の対象とされたことは最新の重要判例です。各判例の事案と結論を正確に覚え、司法権が及ぶ範囲と及ばない範囲を区別できるようにしておきましょう。

関連テーマもあわせて学習すると、統治機構分野の理解が立体的になります。

確認問題

苫米地事件において、最高裁は衆議院の解散は統治行為に該当するとして、その効力に関する判断を行わなかった。

○ 正しい × 誤り
解説
苫米地事件(最大判昭35.6.8)において、最高裁は衆議院の解散を「直接国家統治の基本に関する高度に政治性のある国家行為」として統治行為に該当するとし、司法審査の対象外であるとしました。これにより、解散の効力についての実体的な判断は行われませんでした。なお、判旨は「法律上の争訟となりうるものであっても」審査権の外にあると述べており、法律上の争訟性自体は否定していない点に注意が必要です。
確認問題

富山大学事件において、最高裁は大学が学生に対して行った退学処分は部分社会の内部問題であるから司法審査の対象にならないとした。

○ 正しい × 誤り
解説
富山大学事件(最判昭52.3.15)において、最高裁は大学内部の単位認定については司法審査の対象にならないとしましたが、退学処分のように学生の身分を剥奪する重大な措置については、一般市民法秩序と直接の関係を有するものとして司法審査の対象になるとしました。区別の基準は「一般市民法秩序と直接の関係を有するか否か」です。
確認問題

板まんだら事件では、寺院に安置された板まんだらが本物かどうかという判断は宗教上の教義に関するものであり、法律上の争訟に該当しないとされた。

○ 正しい × 誤り
解説
板まんだら事件(最判昭56.4.7)において、最高裁は板まんだらの真偽の判断は宗教上の教義に関する問題であり、法令の適用によって終局的に解決することができないため、法律上の争訟に該当しないとしました。具体的な権利義務の紛争(寄附金返還請求)の形式をとっていても、前提問題として宗教上の教義の判断が不可避な場合は法律上の争訟に当たりません。
確認問題

地方議会の議員に対する出席停止の懲罰は、議員の権利行使の一時的制限にすぎず、議会の自律的判断に委ねられるべきであるから、司法審査の対象とならないというのが最高裁の現在の立場である。

○ 正しい × 誤り
解説
最大判令和2年11月25日は、従来の判例(最大判昭35.10.19)を変更し、出席停止の懲罰についても司法審査の対象になるとしました。出席停止は議員としての中核的な活動を制約し、住民の負託に応える責務を十分に果たせなくする処分であって、単なる一時的制限にとどまらないと判断されています。したがって本記述は誤りです。
確認問題

警察予備隊違憲訴訟において、最高裁は具体的な争訟事件を離れて法令等の合憲性を抽象的に判断する権限を有しないとした。

○ 正しい × 誤り
解説
警察予備隊違憲訴訟(最大判昭27.10.8)において、最高裁は、司法権の発動には具体的な争訟事件の提起が必要であり、具体的事件を離れて将来を予想して抽象的に憲法等の解釈・効力を判断する権限はないとしました。これは日本の違憲審査制が付随的審査制であることを示すリーディングケースです。
#判例 #憲法 #統治

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