相続・遺言業務の実務フロー|行政書士の役割
行政書士による相続・遺言業務の実務フローを解説。相続手続の全体像、遺産分割協議書の作成方法、公正証書遺言・自筆証書遺言の作成支援、行政書士の業務範囲と注意点を体系的に整理します。
はじめに|相続・遺言業務は行政書士の主要分野
高齢化の進行に伴い、相続に関する手続の件数は増加の一途をたどっています。年間の死亡者数は約156万人(2023年)に上り、そのすべてに相続手続が発生します。相続・遺言業務は、行政書士にとって安定した需要のある重要な業務分野です。
行政書士は、遺産分割協議書の作成、相続人調査、財産目録の作成、遺言書の作成支援など、相続手続において幅広い役割を担うことができます。ただし、紛争性のある案件や登記申請、税務申告など、他士業の業務範囲に該当するものは取り扱えません。本記事では、相続手続の全体フローと行政書士の業務範囲を整理し、実務のポイントを解説します。
なお、相続・遺言は実務であると同時に、行政書士試験の「民法」(親族・相続)でも頻出のテーマです。法定相続分、遺留分、遺言の方式、相続放棄・限定承認などは択一・記述の両方で問われます。本記事では実務フローを軸にしながら、試験で問われる論点・条文の趣旨・誤りやすいポイントも併せて整理し、実務家としても受験生としても役立つ構成にしています。
相続の基本構造|試験と実務に共通する土台
実務フローに入る前に、相続の法的な骨組みを押さえておきます。ここを曖昧にしたまま協議書を作ると、相続人を1人取りこぼす、相続分を誤るといった致命的なミスにつながります。
相続開始の原因と効力
相続は被相続人の死亡によって開始します。
相続は、死亡によって開始する。
― 民法 第882条
相続が開始すると、相続人は被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継します。
相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。
― 民法 第896条
この「一切の権利義務」には、預貯金や不動産といったプラスの財産だけでなく、借金・保証債務といったマイナスの財産も含まれる点が重要です。一身専属権(年金受給権、扶養請求権、生活保護受給権など)は承継されません。実務で相続放棄を検討する場面は、まさにこの第896条本文の効果を遮断するための手続です。
法定相続人と相続順位
遺言がない場合の相続人は、民法の定める法定相続人です。配偶者は常に相続人となり、それ以外は次の順位で相続人が決まります。
先順位の相続人が1人でもいれば、後順位は相続人になりません。例えば子がいれば直系尊属・兄弟姉妹は相続人になりません。試験では「子が全員相続放棄した場合、孫は代襲しない(放棄は代襲原因ではない)」「兄弟姉妹の代襲は甥・姪の代まで(再代襲なし)」という細部が繰り返し問われます。
法定相続分
配偶者と他の順位の相続人がいる場合の法定相続分は次のとおりです。
兄弟姉妹のうち、父母の一方のみを同じくする半血の兄弟姉妹の相続分は、父母双方を同じくする全血の兄弟姉妹の2分の1となります(民法第900条第4号ただし書)。なお、かつて非嫡出子の相続分は嫡出子の2分の1とされていましたが、最高裁が違憲と判断したことを受け、現在は同等です。
嫡出でない子の相続分を嫡出子の相続分の2分の1とする…部分は、遅くとも平成13年7月当時において、憲法14条1項に違反していた。
― 最大決平成25年9月4日(非嫡出子相続分違憲決定)
この判例は試験でも重要で、現行民法第900条第4号は本文のみとなり、嫡出子・非嫡出子の相続分は同等であることを確認しておきましょう。
単純承認・限定承認・相続放棄
相続人は、相続を承認するか放棄するかを選べます。これを承認・放棄といい、原則として熟慮期間内に決めます。
相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。
― 民法 第915条第1項
- 単純承認: 無限に被相続人の権利義務を承継する(民法第920条)。法定単純承認(相続財産の処分、熟慮期間の徒過など)に注意(民法第921条)。
- 限定承認: 相続によって得た財産の限度でのみ債務を弁済する(民法第922条)。相続人全員が共同してのみ可能(民法第923条)。
- 相続放棄: 初めから相続人とならなかったものとみなされる(民法第939条)。
これらの承認・放棄は、いずれも家庭裁判所への申述または申立てを要し、行政書士は代理できません(後述)。
相続手続の全体フロー
相続開始から手続完了までの流れ
相続は、被相続人(亡くなった方)の死亡によって開始します(民法第882条)。相続開始後に必要となる主な手続とその期限は以下のとおりです。
ただし、不動産の相続登記については、2024年4月から3年以内の申請が義務化されました。正当な理由なく期限内に登記を行わない場合は、10万円以下の過料が科される可能性があります。
なお相続登記の義務化は施行前に発生した相続にも遡って適用され、その場合は施行日(2024年4月1日)か取得を知った日のいずれか遅い方から3年以内とされています。期限管理は実務の生命線であり、依頼を受けた時点で「いつまでに何をするか」のロードマップを依頼者と共有しておくと、後のトラブルを防げます。
相続手続の具体的なステップ
ステップ1: 遺言書の有無の確認
まず、被相続人が遺言書を残していないかを確認します。遺言書がある場合は、原則としてその内容に従って遺産を分配します。
- 公正証書遺言: 公証役場に原本が保管されているため、遺言書検索システムで検索可能
- 自筆証書遺言: 法務局の保管制度を利用している場合は法務局で確認。利用していない場合は自宅等を捜索
- 自筆証書遺言の検認: 法務局保管制度を利用していない自筆証書遺言は、家庭裁判所で検認手続が必要
遺言書の有無の確認は最優先です。遺産分割協議をまとめた後に遺言書が出てくると、協議のやり直しや紛争の引き金になります。検認前に封印のある遺言書を開封すると過料の対象となる点(民法第1004条第3項・第1005条)にも注意が必要です。検認は遺言の有効性を判断する手続ではなく、形状・状態を確認して偽造・変造を防ぐための証拠保全手続である、という性質が試験でよく問われます。
ステップ2: 相続人の確定
被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本を取得し、法定相続人を確定します。この作業は相続手続の基礎であり、行政書士の重要な業務の一つです。
ステップ3: 相続財産の調査
預貯金、不動産、有価証券、生命保険、負債など、被相続人の財産を調査し、財産目録を作成します。
ステップ4: 相続放棄・限定承認の検討
相続財産に多額の負債がある場合は、相続放棄や限定承認を検討します。相続放棄・限定承認は、相続の開始があったことを知った時から3か月以内に家庭裁判所に申述する必要があります。
ステップ5: 遺産分割協議
遺言書がない場合や、遺言書に記載のない財産がある場合は、相続人全員で遺産分割協議を行い、遺産の分割方法を決定します。
ステップ6: 遺産分割協議書の作成
協議の内容を遺産分割協議書にまとめ、相続人全員が署名・実印を押印します。
ステップ7: 名義変更手続
遺産分割協議書に基づき、不動産の相続登記、預貯金の解約・名義変更、有価証券の名義変更等を行います。
相続人調査の実務
戸籍の取得方法
相続人調査は、被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本を取得することから始まります。行政書士は、業務に必要な場合に職務上の請求として戸籍証明書を取得できます。
取得すべき戸籍
- 被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍(戸籍謄本・除籍謄本・改製原戸籍)
- 相続人全員の現在の戸籍謄本
戸籍は、婚姻、転籍、法律の改正による改製などにより複数存在することがあり、すべてを漏れなく取得する必要があります。2024年3月から開始された広域交付制度を利用すれば、最寄りの市区町村窓口で他の市区町村の戸籍も取得できるようになりました。
職務上請求の根拠と留意点
行政書士による戸籍・住民票の職務上請求は、戸籍法・住民基本台帳法に基づく権限です。職務上請求書(統一様式)は日本行政書士会連合会が交付する厳格な管理対象であり、業務上必要な範囲を超えて取得することは認められません。請求の際には依頼者・利用目的・提出先などを正確に記載する義務があります。不正取得は懲戒事由となり、刑事罰の対象にもなり得るため、「受任した業務に必要な限度でのみ請求する」という原則を徹底します。広域交付制度は依頼者本人が窓口に行く場合の制度であり、行政書士の職務上請求とは別ルートである点も実務上区別が必要です。
法定相続情報証明制度
法定相続情報証明制度は、法務局に戸籍書類と法定相続情報一覧図を提出し、認証文付きの一覧図の写しの交付を受けられる制度です。一覧図の写しは、相続登記や預金の解約手続など、各種の相続手続で戸籍謄本の束の代わりに使用できます。
行政書士は、法定相続情報一覧図の作成と法務局への申出手続を代理して行うことができます。
この制度のメリットは、複数の金融機関や法務局に同時並行で手続を進められる点にあります。従来は戸籍謄本一式を1か所の手続が終わるまで使い回す必要があり時間がかかっていましたが、一覧図の写しは無料で必要枚数を取得できるため、相続手続を大幅に効率化できます。なお、一覧図の写しは戸籍謄本の代替にはなりますが、相続税申告に添付する場合は別途要件があるため、税理士と連携する際に確認が必要です。
相続関係説明図の作成
相続人調査の結果は、相続関係説明図(家系図形式の図面)にまとめます。被相続人と相続人の関係を視覚的に整理することで、遺産分割協議の前提となる相続関係を関係者全員が理解しやすくなります。
相続関係説明図と法定相続情報一覧図は似て非なるものです。前者は私的な整理図で登記の際に戸籍原本還付のために添付するもの、後者は法務局の認証を受けた公的証明としての効力を持つものです。実務では両者を混同しないよう注意します。
遺産分割協議の法的論点
遺産分割協議とは
遺産分割協議とは、相続人全員で遺産の分割方法を話し合い、合意する手続です。相続人全員の合意が必要であり、一人でも合意しない者がいる場合は協議が成立しません。
遺産分割の遡及効について、民法は次のように定めます。
遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない。
― 民法 第909条
つまり分割によって各相続人が取得した財産は、相続開始時から当然にその相続人に帰属していたものとして扱われます。ただし分割前に登場した第三者の権利は害せないため、対抗関係の処理が試験で問われます。
遺産分割前の遺産共有と預貯金
相続開始後、遺産分割が完了するまでの間、相続財産は共同相続人の共有に属します(民法第898条)。かつて判例は、可分債権である預貯金債権は相続開始と同時に各相続人へ法定相続分に応じて当然分割されるとしていましたが、最高裁が判例を変更しました。
共同相続された普通預金債権、通常貯金債権及び定期貯金債権は、いずれも、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく、遺産分割の対象となる。
― 最大決平成28年12月19日(預貯金債権遺産分割対象決定)
この判例変更により、預貯金は遺産分割協議が成立するまで原則として単独では引き出せなくなりました。そこで2018年(平成30年)の相続法改正で、遺産分割前でも一定額を単独で払い戻せる「預貯金の払戻し制度」(民法第909条の2)が新設されています。生活費や葬儀費用に充てるための実務的な制度であり、近年の出題対象です。
遺産分割の方法
遺産分割には以下の4つの方法があります。
- 現物分割: 個々の財産をそのまま各相続人に分配する方法(「自宅は長男、預金は次男」など)
- 換価分割: 遺産を売却して金銭に換え、それを分配する方法
- 代償分割: 特定の相続人が遺産を取得し、他の相続人に対して代償金を支払う方法
- 共有分割: 遺産を相続人の共有とする方法(将来的な紛争の原因になりやすいため、できるだけ避ける)
代償分割は、自宅不動産を1人が取得して他の相続人に代償金を払うなど、現物を分けにくい場合に有用です。協議書に代償金の額・支払時期・支払方法を明記しないと、税務上「贈与」と扱われたり後日の紛争につながったりするため、記載が極めて重要です。
特別受益と寄与分
法定相続分どおりに分けることが必ずしも公平とは限りません。民法は具体的相続分を調整する制度を設けています。
- 特別受益(民法第903条): 被相続人から生前贈与や遺贈を受けた相続人がいる場合、その額を相続財産に持ち戻して計算する。
- 寄与分(民法第904条の2): 被相続人の財産の維持・増加に特別の寄与をした相続人に、その分を上乗せして認める。
2018年改正では、相続人以外の親族(被相続人の子の配偶者など)が無償で療養看護等をした場合に金銭請求できる「特別の寄与」制度(民法第1050条)も新設されました。また、特別受益・寄与分の主張には期間制限が設けられ、原則として相続開始から10年を経過した後は、原則として法定相続分(指定相続分)による分割となります(民法第904条の3)。これは長期間放置された遺産分割を整理するための改正で、近年の頻出論点です。
遺産分割協議書の作成
遺産分割協議書の記載事項
遺産分割協議書には、以下の事項を正確に記載する必要があります。
- 被相続人の情報: 氏名、最後の住所、本籍、生年月日、死亡年月日
- 相続人全員が協議に参加したこと
- 各財産の分配内容: 不動産は登記簿の表示に基づく正確な記載、預貯金は金融機関名・支店名・口座番号等
- 債務の承継方法(ある場合)
- 相続人全員の署名・実印による押印
- 印鑑証明書の添付
遺産分割協議書の作成上の注意点
- 不動産は登記事項証明書の記載と一言一句同じ表示で記載する
- 預貯金は金融機関名、支店名、口座種類、口座番号を正確に記載する
- 後日発見された財産の取扱いについても条項を設けておく(「本協議書に記載のない遺産が発見された場合は、相続人○○が取得する」等)
- 相続人の住所は、印鑑証明書の記載と一致させる
当事者に関する注意点(試験頻出)
遺産分割協議は相続人全員で行う必要があるため、当事者の確認が極めて重要です。次のケースは実務でも試験でもよく問われます。
これらを見落として全員が揃わないまま作成した協議書は無効です。とりわけ利益相反と特別代理人の論点は、行政書士が紛争性のない範囲で関与する場合でも必ず確認すべき重要ポイントです。
遺言制度の法的論点
遺言の基本ルール
遺言は、遺言者の最終意思を死後に実現する制度で、要式行為(法律の定める方式に従わなければ無効)である点が最大の特徴です。
遺言は、この法律に定める方式に従わなければ、することができない。
― 民法 第960条
遺言能力は満15歳に達した者に認められます(民法第961条)。行為能力(成年)とは基準が異なる点が試験で問われます。また、2人以上の者が同一の証書で行う共同遺言は禁止されています(民法第975条)。
遺言の方式
民法が定める遺言の方式は、普通方式と特別方式に大別されます。実務上重要なのは普通方式の3つです。
特別方式には、死亡の危急に迫った者の遺言(一般危急時遺言、民法第976条)などがあり、普通方式によることができない例外的場面で用いられます。普通方式によることができるようになった時から6か月生存すると効力を失う点が特徴です(民法第983条)。
証人になれない者
公正証書遺言・秘密証書遺言には証人2人以上が必要ですが、誰でもなれるわけではありません。
次に掲げる者は、遺言の証人又は立会人となることができない。
一 未成年者
二 推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族
三 公証人の配偶者、四親等内の親族、書記及び使用人
― 民法 第974条
行政書士は証人になれますが、自分が受遺者であったり推定相続人の親族であったりする場合はなれません。証人欠格者が立ち会った遺言は無効となるため、証人の選定は慎重に行います。
遺言の撤回
遺言はいつでも自由に撤回できます。
遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができる。
― 民法 第1022条
前の遺言と後の遺言が抵触する場合は、抵触する部分について後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなされます(民法第1023条)。撤回の自由は遺言者の最終意思を尊重する制度趣旨に基づくもので、撤回権を放棄することはできません(民法第1026条)。これらは記述・択一で頻出です。
自筆証書遺言の作成支援
自筆証書遺言は、遺言者が遺言の全文、日付及び氏名を自書し、これに押印して作成します(民法第968条第1項)。2019年の法改正により、財産目録については自書によらず、パソコンで作成した目録や通帳のコピー等を添付することが認められました(各頁に署名押印が必要)。
日付の自書は要件であり、「令和7年1月吉日」のように日が特定できない記載は遺言全体を無効とするのが判例です。一方、年月日が客観的に特定できれば足りるとされます。
日付の記載を欠く自筆証書遺言…「吉日」という記載は…日の記載を欠くものとして無効である。
― 最判昭和54年5月31日(吉日遺言事件)
行政書士が支援できる内容
- 遺言者の意向のヒアリングと内容の整理
- 法的に有効な遺言書の文案作成(遺言者が自書するための下書き)
- 財産目録の作成
- 遺言書保管制度(法務局保管)の利用支援
自筆証書遺言書保管制度
2020年7月から開始された制度で、自筆証書遺言を法務局(遺言書保管所)に保管してもらえます。法務局に保管された自筆証書遺言は、家庭裁判所の検認手続が不要となるメリットがあります。
保管制度のメリットは検認不要のほか、紛失・改ざん・隠匿の防止、形式不備のチェック(外形的な確認に限る)、相続発生後に他の相続人へ保管の通知がされる仕組みなどがあります。ただし、法務局は遺言の有効性そのものを保証するものではないため、内容の適法性・実現可能性は行政書士等の専門家が事前に確認する必要があります。
公正証書遺言の作成支援
公正証書遺言は、最も確実で安全な遺言の方式です。公証人が遺言内容を法的に正確な文言で作成し、原本が公証役場に保管されるため、紛失や改ざんのリスクがありません。
公正証書遺言の作成手順
- 遺言者から遺言内容のヒアリング
- 必要書類の収集(戸籍謄本、印鑑証明書、財産に関する資料等)
- 遺言書の原案作成
- 公証人との事前打ち合わせ
- 証人2人以上の手配
- 公証役場での遺言書作成(遺言者の口述、公証人の筆記、読み聞かせ・閲覧、署名押印)
公正証書遺言の作成方式は民法第969条に定められており、口がきけない者・耳が聞こえない者のための方式(通訳人の通訳・閲覧による方式、民法第969条の2)も用意されています。2025年からは公正証書のデジタル化が段階的に進められており、ウェブ会議を利用した作成も制度上認められるようになりつつあります(実務運用は要確認)。
行政書士が支援できる内容
- 遺言内容の整理と原案作成
- 必要書類の収集(戸籍謄本、固定資産評価証明書等)
- 公証人との事前打ち合わせの代行
- 証人としての立会い(行政書士は証人になれる)
- 遺言執行者への就任
遺言執行者としての役割
遺言者は、遺言の中で遺言執行者を指定することができます(民法第1006条)。行政書士が遺言執行者に指定されることも多く、遺言者の死亡後に遺言の内容を実現するための手続を行います。
遺言執行者の地位については、2018年改正で権限が明確化されました。
遺言執行者がその権限内において遺言執行者であることを示してした行為は、相続人に対して直接にその効力を生ずる。
― 民法 第1015条
遺言執行者の主な職務は以下のとおりです。
- 相続人への遺言の内容の通知(民法第1007条第2項)
- 相続財産目録の作成・交付(民法第1011条)
- 相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為(民法第1012条)
- 遺言の内容に基づく財産の分配
- 預貯金の解約・名義変更手続の実行
遺言執行者がある場合、相続人は相続財産の処分その他遺言の執行を妨げる行為をすることができず、これに違反した行為は無効です(民法第1013条)。執行者の任務懈怠は損害賠償責任につながるため、就任時には善管注意義務(民法第1012条第3項・第644条)を意識した管理が求められます。
遺留分制度
遺留分とは
遺留分は、一定の範囲の相続人に保障される最低限の取り分です。遺言や生前贈与によっても侵害できない部分があり、相続人の生活保障や被相続人の財産形成への貢献を考慮した制度です。
遺留分権利者は、配偶者・子(その代襲相続人)・直系尊属です。兄弟姉妹には遺留分がありません(民法第1042条参照)。この点は択一で頻出です。
遺留分の割合
遺留分の総体的割合は次のとおりです。
各人の個別的遺留分は、この総体的遺留分に各自の法定相続分を乗じて算出します。
遺留分侵害額請求権
2018年改正により、従来の「遺留分減殺請求権」は「遺留分侵害額請求権」へと変わりました。これは大きな改正点で試験でも問われます。
遺留分権利者…は、受遺者…又は受贈者…に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる。
― 民法 第1046条第1項
改正前は減殺請求により目的物が当然に共有になるなど物権的効果が生じましたが、改正後は金銭債権として処理されるようになりました。これにより事業承継などで自社株が共有になる不都合が解消されています。
遺留分侵害額請求権には期間制限があります。相続の開始及び遺留分を侵害する贈与・遺贈があったことを知った時から1年、相続開始の時から10年で時効消滅します(民法第1048条)。この「1年・10年」の数字は頻出の暗記ポイントです。
行政書士の業務範囲と注意点
行政書士が行える業務
相続・遺言分野において、行政書士が行える主な業務は以下のとおりです。
- 相続人調査: 戸籍謄本の職務上請求による取得と相続人の確定
- 相続関係説明図の作成
- 財産目録の作成: 相続財産の調査と一覧の作成
- 遺産分割協議書の作成: 権利義務に関する書類の作成として
- 遺言書の起案: 遺言者が自書するための文案作成
- 公正証書遺言の作成支援: 原案作成、必要書類の収集、公証人との打ち合わせ
- 法定相続情報一覧図の作成・申出手続
- 遺言執行者としての業務: 遺言で指定された場合
- 自動車の名義変更手続
これらの業務の法的根拠は行政書士法第1条の2(権利義務又は事実証明に関する書類の作成)と第1条の3(書類作成に附帯する相談・代理等)に求められます。遺産分割協議書は「権利義務に関する書類」に該当するため、行政書士の独占業務の範囲に含まれます。
行政書士が行えない業務
以下の業務は他士業の業務範囲であり、行政書士が行うことはできません。
紛争性のある案件への対応
相続人間で意見が対立している場合など、紛争性のある案件については、行政書士が介入することはできません。弁護士法第72条により、法律事件に関する法律事務は弁護士でなければ取り扱えないためです。
弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求…その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。
― 弁護士法 第72条
依頼を受けた段階で紛争性の有無を慎重に判断し、紛争性がある場合は速やかに弁護士を紹介することが重要です。初回相談の段階で、相続人間の関係性や意見の一致状況を確認するヒアリングを徹底しましょう。「すでに合意ができている内容を書面化する」段階での協議書作成は適法ですが、「相続人間の合意形成の交渉そのもの」に踏み込むと非弁行為のおそれが生じる、という線引きが実務上の最重要ポイントです。
よくある誤解
- 誤解1: 行政書士は相続登記まで一貫してできる → 登記申請は司法書士の独占業務です。連携が必要です。
- 誤解2: 預貯金の払戻し手続なら何でも代行できる → 紛争性がなく書類作成・提出代行の範囲なら可能ですが、相続人間の利害調整に踏み込むと非弁の問題が生じます。
- 誤解3: 遺言書があれば必ずそのとおりに分けられる → 遺留分侵害額請求がなされれば、金銭的な調整が必要になります。
- 誤解4: 自筆証書遺言は法務局に預ければ有効性が保証される → 法務局は外形的確認のみで、内容の有効性は保証しません。
相続・遺言業務の営業戦略
ターゲット顧客の設定
相続・遺言業務のターゲット顧客は大きく2つに分かれます。
- 相続発生後の遺族: 相続手続(相続人調査、遺産分割協議書作成等)のニーズ
- 生前の準備をしたい方: 遺言書作成、エンディングノート作成のニーズ
他士業との連携ネットワーク
相続手続は一人の士業で完結することが難しいため、司法書士、税理士、弁護士、社会保険労務士との連携ネットワークを構築しておくことが不可欠です。ワンストップで相続手続を進められる体制を整えることが、顧客満足度の向上につながります。
セミナー・相談会の開催
地域の公民館や金融機関と連携して、相続・遺言に関するセミナーや無料相談会を開催することは、見込み顧客の獲得に効果的な営業手法です。参加者に対して行政書士が相続手続でどのような支援ができるかを伝え、信頼関係を構築しましょう。
試験対策|相続・遺言の頻出論点まとめ
行政書士試験の民法では、相続・遺言から毎年のように出題されます。実務知識と重複する部分も多いため、以下の暗記ポイントを押さえておくと効率的です。
過去問では、「相続放棄は代襲原因にならない」「兄弟姉妹の代襲は一代限り(再代襲なし)」「公正証書遺言・法務局保管の自筆証書遺言は検認不要」「遺留分侵害額請求は金銭債権」といった角度が繰り返し問われています。条文の数字とともに、改正の前後で結論が変わった点(減殺請求→侵害額請求、預貯金の当然分割の否定)を重点的に確認しましょう。
まとめ
相続・遺言業務は、高齢化社会において安定した需要が見込める行政書士の重要な業務分野です。相続手続の全体フロー(相続人調査→財産調査→遺産分割協議→協議書作成→名義変更)を理解し、各段階で行政書士が果たせる役割を明確に把握しておくことが大切です。
遺言書の作成支援では、自筆証書遺言と公正証書遺言の違いを理解し、遺言者の状況に応じた最適な方式を提案する力が求められます。また、遺留分や特別受益といった民法の論点、利益相反における特別代理人の要否など、紛争を未然に防ぐための法的知識が実務の質を左右します。行政書士の業務範囲を正確に理解し、紛争性のある案件は弁護士に紹介するなど、他士業との適切な連携を常に意識しましょう。
相続・遺言は実務でも試験でも避けて通れない分野です。条文・判例・改正点を体系的に整理し、依頼者に正確な情報を提供できる行政書士を目指しましょう。関連する論点は次の記事も参考にしてください。
公正証書遺言は、家庭裁判所での検認手続を経る必要がある。
遺産分割協議は、相続人の過半数の合意があれば成立する。
自筆証書遺言の財産目録は、パソコンで作成したものを添付することが認められている。
被相続人の兄弟姉妹には遺留分が認められている。
2018年の相続法改正により、遺留分を侵害された者は侵害額に相当する金銭の支払を請求できることになった。