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国会・内閣・裁判所の権限と相互関係を整理

憲法の統治機構(国会・内閣・裁判所)の権限と相互関係を解説。国会の権能、内閣の権限、司法権の範囲、権力分立の仕組みを行政書士試験対策として整理します。

はじめに|統治機構は条文知識で得点する

行政書士試験における統治機構の問題は、人権分野のように判例の論理を問う問題よりも、条文知識の正確さを問う問題が中心です。国会・内閣・裁判所それぞれの権限や手続について、憲法の条文に基づいた正確な知識を身につけることが合格への近道です。

統治分野は、覚えるべき事項が多く一見すると大変に思えますが、体系的に整理して学習すれば短期間で得点源にできます。本記事では、国会・内閣・裁判所の三権について、その権限と相互関係を条文に即して網羅的に整理します。

国会(第41条~第64条)

国会の地位

国権の最高機関(41条前段)

「国会は、国権の最高機関であつて、国の唯一の立法機関である。」(41条)

41条前段の「国権の最高機関」の意味については、以下の学説があります。

学説内容政治的美称説(通説)国会が主権者たる国民の代表機関であることから、政治的に最も重要な機関であるという美称にすぎない。三権分立の観点から、国会が他の機関に対して法的に優位する地位にあるわけではない統括機関説国会は他の国家機関を統括する法的な地位にある

通説は政治的美称説です。三権分立の原理のもとでは、立法・行政・司法の三権は対等であり、国会が他の二権に対して法的に優越するわけではないと解されています。

唯一の立法機関(41条後段)

「唯一の立法機関」とは、以下の二つの原則を含みます。

原則内容例外国会中心立法の原則国の立法は国会が行う両議院の規則制定権(58条2項)、最高裁判所の規則制定権(77条1項)、地方公共団体の条例制定権(94条)国会単独立法の原則国会による立法は国会だけで完結し、他の機関の関与を要しない地方特別法の住民投票(95条)

二院制と衆議院の優越

日本国憲法は二院制(衆議院・参議院)を採用しています。衆議院には、以下の場面で衆議院の優越が認められています。

事項衆議院の優越の内容根拠条文法律案の議決参議院が異なった議決をした場合、衆議院が出席議員の3分の2以上の多数で再可決すれば法律となる59条2項予算の議決参議院が異なった議決をし、両院協議会でも一致しない場合、衆議院の議決が国会の議決となる。参議院が30日以内に議決しない場合も同様60条2項条約の承認予算の場合と同様の衆議院の優越。参議院が30日以内に議決しない場合も同様61条内閣総理大臣の指名両院で異なった指名をし、両院協議会でも一致しない場合、衆議院の議決が国会の議決となる。参議院が10日以内に議決しない場合も同様67条2項予算の先議権予算は先に衆議院に提出しなければならない60条1項内閣不信任決議権衆議院のみが有する。参議院にはこの権限がない69条
注意: 法律案の再可決には「出席議員の3分の2以上」の多数が必要ですが、予算・条約・首相指名では「衆議院の議決が国会の議決となる」として自動的に衆議院の議決が優先します。この違いを正確に把握しましょう。
確認問題

条約の承認について、参議院が衆議院の可決した議案を受け取った後、国会休会中の期間を除いて60日以内に議決しない場合、衆議院の議決が国会の議決となる。

○ 正しい × 誤り
解説
条約の承認について、参議院が議決しない場合に衆議院の議決が国会の議決となるのは「30日以内」です。60日以内ではありません。なお、法律案については、参議院が60日以内に議決しない場合に衆議院が参議院がこれを否決したものとみなすことができます(59条4項)。予算と条約は30日、法律案は60日、首相指名は10日という期間の違いを正確に覚えましょう。

会期制度

国会には以下の4種類の会期があります。

種類召集権者時期・条件会期常会(通常国会)天皇(内閣の助言と承認)毎年1回(1月)150日(延長1回)臨時会(臨時国会)天皇(内閣の助言と承認)内閣が決定、またはいずれかの議院の総議員の4分の1以上の要求があった場合両議院一致の議決(不一致は衆議院の議決)特別会(特別国会)天皇(内閣の助言と承認)衆議院の解散による総選挙後30日以内両議院一致の議決参議院の緊急集会内閣衆議院が解散されている場合に国に緊急の必要があるとき―
参議院の緊急集会の注意点: 緊急集会でとられた措置は臨時のものであり、次の国会開会後10日以内に衆議院の同意がなければ将来に向かって効力を失います(54条3項)。

議院の権能

各議院は、以下の権能を独立して行使します。

  • 議院自律権: 議院の内部組織や運営について自主的に決定する権能
  • 議長その他の役員の選任(58条1項)
  • 議院規則の制定(58条2項)
  • 議員の資格争訟の裁判(55条)
  • 議員の懲罰(58条2項):除名には出席議員の3分の2以上の多数が必要
  • 国政調査権(62条): 「両議院は、各々国政に関する調査を行ひ、これに関して、証人の出頭及び証言並びに記録の提出を要求することができる」

国会議員の特権

特権内容根拠条文不逮捕特権国会の会期中は逮捕されない(所属議院の許諾がある場合と院外での現行犯逮捕の場合を除く)50条免責特権議院で行った演説、討論又は表決について院外で責任を問われない51条歳費受領権法律の定めるところにより相当額の歳費を受ける49条
免責特権の範囲: 免責特権で保護されるのは「院外で」の責任であり、院内での懲罰(58条2項)は免責特権の対象外です。

内閣(第65条~第75条)

行政権の帰属

「行政権は、内閣に属する。」(65条)

行政権の定義については、「法のもとに法の規制を受けながら、現実に国家目的の積極的実現をめざして行われる全体として統一性をもった継続的な形成的国家活動」(控除説)が通説です。端的には、国家作用のうち立法と司法を除いたすべての作用が行政権に含まれます。

議院内閣制

日本国憲法は議院内閣制を採用しています。これは、内閣が国会(特に衆議院)の信任に基づいて存立する制度です。

議院内閣制の根拠となる条文は以下のとおりです。

条文内容66条3項内閣は、行政権の行使について、国会に対し連帯して責任を負ふ67条1項内閣総理大臣は、国会議員の中から国会の議決で指名される68条1項国務大臣の過半数は国会議員の中から選ばれなければならない69条衆議院で不信任の決議案が可決された場合、10日以内に衆議院が解散されない限り、内閣は総辞職しなければならない

内閣総理大臣の権限

内閣総理大臣は「内閣の首長」(66条1項)として、以下の重要な権限を有しています。

権限内容根拠条文国務大臣の任命権国務大臣を任命する。過半数は国会議員から選ぶ68条1項国務大臣の罷免権任意に国務大臣を罷免することができる68条2項内閣の代表権内閣を代表して議案を国会に提出し、一般国務及び外交関係について国会に報告し、並びに行政各部を指揮監督する72条閣議の主宰閣議を主宰する内閣法4条
罷免権の重要性: 内閣総理大臣は国務大臣を任意に罷免することができます(68条2項)。国会の同意や閣議の決定は不要です。この強力な罷免権が、内閣総理大臣の首長としての地位を支えています。

閣議

内閣の意思決定は閣議によって行われます。

  • 閣議は内閣総理大臣が主宰する(内閣法4条1項)
  • 内閣の職権は閣議によって行使される(内閣法4条1項)
  • 閣議の議事は全員一致が慣例とされている(法律上の規定はない)

内閣の総辞職

内閣が総辞職しなければならない場合は、以下の3つです。

場面根拠条文衆議院で不信任の決議案が可決され、又は信任の決議案が否決された場合に、10日以内に衆議院が解散されなかったとき69条内閣総理大臣が欠けたとき(死亡・辞任等)70条衆議院議員総選挙の後に初めて国会の召集があったとき70条
注意: 参議院議員通常選挙後には総辞職の義務はありません。衆議院議員総選挙後のみです。

衆議院の解散

衆議院の解散権の所在と根拠については、以下のような議論があります。

解散の根拠内容69条説衆議院で不信任の決議案が可決された場合にのみ解散できる7条説(通説・実務)天皇の国事行為として「衆議院を解散すること」(7条3号)が定められており、内閣の助言と承認に基づいて解散できる。69条の場合に限定されない

通説・実務は7条説を採っており、内閣は69条の場合以外にも、7条に基づいて衆議院を解散できると解されています。実際に、69条によらない解散(いわゆる「7条解散」)は数多く行われています。

内閣の権限一覧

内閣は、一般行政事務のほか、以下の事務を行います(73条)。

  1. 法律を誠実に執行し、国務を総理すること
  2. 外交関係を処理すること
  3. 条約を締結すること(事前に、時宜によっては事後に、国会の承認を経ることを必要とする)
  4. 法律の定める基準に従い、官吏に関する事務を掌理すること
  5. 予算を作成して国会に提出すること
  6. この憲法及び法律の規定を実施するために、政令を制定すること
  7. 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権を決定すること
政令と罰則: 政令には、特にその法律の委任がある場合を除いては、罰則を設けることができません(73条6号ただし書)。
確認問題

内閣総理大臣が国務大臣を罷免するには、閣議にかけてその決定を得なければならない。

○ 正しい × 誤り
解説
内閣総理大臣は国務大臣を「任意に」罷免することができます(憲法68条2項)。罷免にあたって閣議の決定は不要であり、内閣総理大臣の専権です。この強力な罷免権は内閣総理大臣の首長としての地位を支える重要な権限です。なお、国務大臣の任命についても、内閣総理大臣が独自に行うものであり、国会の同意は不要です。

裁判所(第76条~第82条)

司法権の帰属

「すべて司法権は、最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する。」(76条1項)

特別裁判所の禁止(76条2項)

「特別裁判所は、これを設置することができない。行政機関は、終審として裁判を行ふことができない。」(76条2項)

特別裁判所とは、通常の裁判所の系列に属さない、特定の身分の人や特定の事件についてのみ裁判権を行使する裁判所をいいます。

  • 家庭裁判所は通常の裁判所の系列に属するため特別裁判所ではない
  • 行政機関が前審として裁判を行うことは許される(例:特許審判、海難審判)。ただし、終審として裁判を行うことはできない

裁判官の独立(76条3項)

「すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される。」(76条3項)

裁判官の独立は、公正な裁判を実現するための根本原則です。裁判官は、立法府や行政府からの干渉を受けることなく、憲法と法律にのみ従って裁判を行います。

ここにいう「良心」とは、裁判官個人の主観的良心ではなく、裁判官としての客観的な良心(職業的良心)を意味すると解されています(通説)。

裁判官の身分保障

裁判官は、以下の場合を除いて罷免されません。

罷免事由内容心身の故障による執務不能裁判により決定(78条)公の弾劾国会が設置する弾劾裁判所による(64条)最高裁判所裁判官の国民審査衆議院議員総選挙の際に行われる(79条2項)

司法権の範囲と限界

「法律上の争訟」

裁判所が審理・判断できるのは、法律上の争訟(裁判所法3条1項)に限られます。法律上の争訟とは、以下の二つの要件を満たすものです。

  1. 当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争であること
  2. それが法令の適用により終局的に解決できるものであること

信仰の対象の価値や教義に関する判断(宗教上の教義に関する争い)のように、法令の適用では解決できない問題は法律上の争訟にあたりません。

司法権の限界

司法権にはいくつかの限界があります。

限界の類型内容代表判例統治行為論高度の政治性を有する国家行為は司法審査の対象外砂川事件(最大判昭34.12.16)、苫米地事件(最大判昭35.6.8)部分社会の法理自律的な団体の内部紛争は、一般市民法秩序と直接の関係がない限り司法審査の対象外富山大学事件(最判昭52.3.15)議員の資格争訟各議院が裁判する(55条)―裁判官の弾劾弾劾裁判所が裁判する(64条)―

統治行為論の判例

砂川事件(最大判昭和34年12月16日)

  • 日米安全保障条約のような高度の政治性を有する条約は、一見極めて明白に違憲無効と認められない限り、裁判所の司法審査の範囲外にある
  • 統治行為論を直接採用したわけではないが、実質的に司法審査を回避した

苫米地事件(最大判昭和35年6月8日)

  • 衆議院の解散の効力が争われた事件
  • 解散は「極めて政治性の高い国家統治の基本に関する行為」であり、司法審査の対象外であると判示

部分社会の法理

富山大学事件(最判昭和52年3月15日)

  • 大学の単位認定行為は、大学内部の問題であり、一般市民法秩序と直接の関係を有しないため、司法審査の対象外
  • ただし、退学処分のように一般市民としての権利に直接関わる場合は、司法審査の対象となる

違憲審査制(81条)

「最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である。」(81条)

日本の違憲審査制について、以下の点を押さえましょう。

項目内容審査方式付随的違憲審査制(具体的な訴訟事件の解決に必要な限りで違憲審査を行う)審査権の主体最高裁判所だけでなく、下級裁判所も違憲審査権を有する「終審裁判所」の意味最高裁判所が違憲審査に関する最終的な判断権を有するという意味であり、下級裁判所の審査権を否定するものではない抽象的違憲審査認められない(警察予備隊違憲訴訟・最大判昭和27年10月8日)

裁判の公開(82条)

「裁判の対審及び判決は、公開法廷でこれを行ふ。」(82条1項)

公開停止の例外:

  • 裁判所が裁判官の全員一致で、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがあると決した場合は、対審を非公開とできる(82条2項本文)
  • ただし、政治犯罪、出版に関する犯罪、憲法第三章で保障する国民の権利が問題になっている事件の対審は、常に公開しなければならない(82条2項ただし書)
  • 判決は常に公開しなければならない(82条1項)
注意: 非公開にできるのは「対審」のみであり、「判決」は常に公開です。また、政治犯罪等の対審は非公開にすることができません。

三権の相互関係|権力分立の仕組み

国会と内閣の関係(議院内閣制)

国会→内閣内閣→国会内閣総理大臣の指名(67条)法律案の提出内閣不信任決議・信任決議(69条)予算の作成・提出(73条5号)国政調査権の行使(62条)臨時会の召集決定(53条)弾劾裁判所の設置(64条)衆議院の解散(7条3号・69条)

国会と裁判所の関係

国会→裁判所裁判所→国会弾劾裁判所の設置(64条)違憲立法審査権(81条)裁判官の報酬に関する法律の制定―

内閣と裁判所の関係

内閣→裁判所裁判所→内閣最高裁判所長官の指名(6条2項)違憲審査権(命令・規則・処分に対して)(81条)その他の裁判官の任命(79条1項・80条1項)―
確認問題

日本国憲法において、違憲審査権を行使できるのは最高裁判所のみであり、下級裁判所には違憲審査権は認められていない。

○ 正しい × 誤り
解説
憲法81条は最高裁判所を違憲審査の「終審裁判所」と定めていますが、これは違憲審査に関する最終的な判断権が最高裁判所にあることを意味するにすぎず、下級裁判所の違憲審査権を否定するものではありません。通説・判例によれば、下級裁判所も具体的な訴訟事件の解決に必要な限りで違憲審査権を行使することができます。

頻出テーマの横断整理

衆議院の優越が認められる場面一覧

事項要件・期間条文法律案の議決出席議員の3分の2以上で再可決 / 参議院が60日以内に議決しない場合は否決とみなせる59条予算の議決自然成立 / 参議院が30日以内に議決しない場合60条条約の承認自然成立 / 参議院が30日以内に議決しない場合61条内閣総理大臣の指名衆議院の議決優先 / 参議院が10日以内に議決しない場合67条予算の先議権衆議院が先に審議60条1項内閣不信任決議権衆議院のみ69条

内閣の総辞職が必要な場面一覧

場面条文補足不信任決議案可決後、10日以内に衆議院を解散しないとき69条信任決議案の否決も同様内閣総理大臣が欠けたとき70条死亡・辞任・国会議員資格の喪失等衆議院議員総選挙後の初の国会召集時70条参議院選挙後は不要

議院と国会の権能の区別

主体権能注意点国会(両議院の議決が必要)法律の制定、予算の議決、条約の承認、内閣総理大臣の指名、憲法改正の発議両議院の意思が一致して初めて「国会の議決」となる各議院(単独で行使)議院規則の制定、議員の資格争訟の裁判、議員の懲罰、国政調査権の行使議院自律権に基づく権能

まとめ|統治分野の学習法

学習の優先順位

  1. 最優先: 衆議院の優越(事項・要件・期間の正確な暗記)
  2. 最優先: 内閣総理大臣の権限(任免権・罷免権・指揮監督権)
  3. 高優先: 内閣の総辞職の場面
  4. 高優先: 司法権の限界(統治行為論・部分社会の法理)
  5. 高優先: 違憲審査制(付随的審査制・下級裁判所の審査権)
  6. 中優先: 会期制度・議院の権能
  7. 中優先: 裁判の公開(公開停止の例外要件)

学習のコツ

  • 条文の数字を正確に覚える: 衆議院の優越における日数(60日・30日・10日)、再可決の要件(3分の2以上)等は、条文の数字を正確に暗記することが不可欠
  • 表を作って横断整理する: 国会・内閣・裁判所の権限を横断的に整理し、それぞれの関係を図や表で視覚化する
  • 引っかけパターンを把握する: 「参議院選挙後にも総辞職が必要か」「条約の承認の期間は60日か30日か」等、典型的な引っかけパターンを意識して学習する

統治分野は条文知識が勝負を分けます。条文を繰り返し読み込み、数字や要件を正確に暗記することで、確実に得点できる分野です。

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