地方自治法の長と議会|再議・不信任の仕組み
地方自治法における長と議会の関係を徹底解説。二元代表制の仕組み、一般的再議(176条1項)と特別的再議(176条4項)の違い、不信任議決と解散(178条)の手続、専決処分(179条・180条)の要件を比較表で整理します。
はじめに|二元代表制とは
地方自治法は、地方公共団体の統治機構として「二元代表制」を採用しています。二元代表制とは、住民が長(首長)と議会の議員をそれぞれ直接選挙で選出し、両者が相互に牽制し合いながら地方行政を運営する仕組みです。
国の統治機構が議院内閣制(国会が内閣総理大臣を指名し、内閣は国会に対して連帯して責任を負う)であるのに対し、地方自治体は長と議会がそれぞれ住民の直接選挙によって選ばれるため、アメリカの大統領制に近い構造を持っています。
この二元代表制の下で、長と議会の間には一定の牽制・抑制の仕組みが設けられています。行政書士試験では、再議制度、不信任議決、専決処分などが頻出です。本記事では、これらの制度を条文に基づいて正確に整理します。
長と議会の基本的関係
長の権限
地方公共団体の長は、当該地方公共団体を統轄し、これを代表する機関です(147条)。長の主要な権限は以下のとおりです。
- 予算の調製・提出(149条2号・211条)
- 条例の公布(16条)
- 議案の提出(149条1号)
- 事務の管理及び執行(148条・149条各号)
- 規則の制定(15条)
- 再議の請求(176条・177条)
- 議会の解散(178条)
- 専決処分(179条・180条)
議会の権限
議会は、当該地方公共団体の議事機関です(89条)。議会の主要な権限は以下のとおりです。
- 条例の制定・改廃(96条1項1号)
- 予算の議決(96条1項2号)
- 決算の認定(96条1項3号)
- 法律上その権限に属する事項の議決(96条1項各号)
- 長の不信任議決(178条)
- 検査権(98条1項)
- 調査権(100条)
- 意見書の提出(99条)
再議制度
地方自治法は、長が議会の議決に異議がある場合の対抗手段として「再議制度」を設けています。再議には、一般的再議と特別的再議の2種類があります。
一般的再議(176条1項)
一般的再議は、長が議会の議決について異議があるときに、その議決の日から10日以内に理由を示して再議に付することができる制度です。
地方自治法176条1項
普通地方公共団体の議会の議決について異議があるときは、当該普通地方公共団体の長は、この法律に特別の定めがあるものを除くほか、その議決の日(条例の制定若しくは改廃又は予算に関する議決については、その送付を受けた日)から十日以内に理由を示してこれを再議に付することができる。
――地方自治法176条1項
一般的再議の特徴
- 対象: 議会のすべての議決(条例、予算、その他)
- 期間: 議決の日から10日以内(条例の制定・改廃又は予算に関する議決については送付を受けた日から10日以内)
- 性質: 長の任意(「できる」規定)
- 再議決の要件: 出席議員の3分の2以上の同意(176条3項)
再議に付された場合、議会がなお同じ議決をするためには、出席議員の3分の2以上の同意が必要です。つまり、単純多数決では足りず、特別多数決が要求されます。
特別的再議(176条4項)
特別的再議は、議会の議決又は選挙が権限を超え又は法令若しくは会議規則に違反すると認めるときに、長がその議決又は選挙の日から21日以内に理由を示して再議に付し、又は再選挙を行わせることができる制度です。
地方自治法176条4項
普通地方公共団体の議会の議決又は選挙がその権限を超え又は法令若しくは会議規則に違反すると認めるときは、当該普通地方公共団体の長は、理由を示してこれを再議に付し又は再選挙を行わせなければならない。
――地方自治法176条4項
特別的再議の特徴
- 対象: 権限逸脱又は法令・会議規則違反の議決・選挙
- 期間: 議決又は選挙の日から21日以内
- 性質: 長の義務(「なければならない」規定)
- 再議決の要件: 条文上、特別多数決の規定なし
一般的再議との最大の違いは、特別的再議は長の義務である点です。議会の議決が違法であると認める場合には、長は再議に付さなければなりません。
特別的再議後の処理(176条5項〜7項)
特別的再議に付された後、議会がなお同じ議決をした場合であって、長がなおその議決が権限逸脱又は法令違反であると認めるときは、長は都道府県にあっては総務大臣に、市町村にあっては都道府県知事に対し、審査の申立てをすることができます(176条5項)。
審査の結果、議決が違法であると認められた場合には、議決は取り消されます。
一般的再議と特別的再議の比較表
条例制定に係る再議(177条)
義務的経費の削除・減額(177条)
長は、議会の議決が以下に該当する場合、その議決を再議に付さなければなりません(177条1項)。
- 法令により負担する経費、法律の規定に基づき当該行政庁の職権により命ずる経費その他の普通地方公共団体の義務に属する経費を削除し又は減額する議決をしたとき
この再議は義務的なものであり、長は必ず再議に付さなければなりません。
再議に付しても、議会がなお同一の議決をしたときは、長は、その経費及びこれに伴う収入を予算に計上してその経費を支出することができます(177条2項)。つまり、長は議会の議決にかかわらず、義務的経費を支出する権限を持ちます。
不信任議決と解散(178条)
不信任議決の要件
議会は、長に対する不信任議決を行うことができます(178条1項)。
不信任議決の要件は以下のとおりです。
- 議員数の3分の2以上の者が出席
- 出席議員の4分の3以上の同意
地方自治法178条1項
普通地方公共団体の議会において、当該普通地方公共団体の長の不信任の議決をしたときは、直ちに議長からその旨を当該普通地方公共団体の長に通知しなければならない。この場合においては、普通地方公共団体の長は、その通知を受けた日から十日以内に議会を解散することができる。
――地方自治法178条1項
不信任議決後の長の選択肢
不信任議決がなされた場合、長には2つの選択肢があります。
選択肢1: 議会を解散する(178条1項)
通知を受けた日から10日以内に議会を解散することができます。
選択肢2: 失職する(178条2項)
10日以内に議会を解散しない場合、長は10日を経過した日に失職します。
解散後の再度の不信任議決(178条3項)
議会を解散した場合、解散後の選挙により新たに議会が構成されます。その新しい議会が再び長に対する不信任議決を行った場合の要件は以下のとおりです。
- 議員数の3分の2以上の者が出席
- 出席議員の過半数の同意
1回目の不信任議決が出席議員の4分の3以上の同意を要するのに対し、解散後の2回目の不信任議決は過半数の同意で足りる点に注意してください。
この場合、長は議会を再度解散することはできず、議長から通知があった日に失職します(178条3項)。
不信任議決の流れ(まとめ)
1回目の不信任議決(3分の2以上出席・4分の3以上同意)
→ 長の選択肢:
(a) 10日以内に議会を解散
→ 新議会で再度の不信任議決(3分の2以上出席・過半数同意)
→ 長は通知の日に失職(再解散不可)
(b) 10日以内に解散しない
→ 10日経過日に長が失職
専決処分
専決処分の種類
専決処分とは、本来は議会の議決を経るべき事項について、長が議会に代わって処分を行うことです。地方自治法には、2種類の専決処分が規定されています。
- 179条の専決処分: 議会が成立しない場合等の緊急時の専決処分
- 180条の専決処分: 議会の委任に基づく専決処分
179条の専決処分(緊急時の専決処分)
専決処分ができる場合(179条1項)
長は、以下の場合に専決処分を行うことができます。
- 議会が成立しないとき(議員の定数を欠くなど)
- 113条ただし書きの場合においてなお会議を開くことができないとき(出席議員が定数に満たないとき)
- 長において議会の議決すべき事件について特に緊急を要するため議会を招集する時間的余裕がないことが明らかであると認めるとき
- 議会において議決すべき事件を議決しないとき
議会への報告と承認(179条3項)
179条の専決処分を行った場合、長は次の会議においてこれを議会に報告し、その承認を求めなければなりません。
承認が得られなかった場合の効力
議会が承認しなかった場合でも、専決処分自体の法的効力は失われません。ただし、長には政治的責任が生じます。また、条例又は予算に関する専決処分について承認が得られなかった場合、長は速やかに必要と認める措置を講ずるとともに、議会に報告しなければなりません(179条4項)。
180条の専決処分(委任に基づく専決処分)
専決処分ができる場合(180条1項)
議会は、議会の権限に属する軽易な事項で、その議決により特に指定したものについて、長において専決処分にすることができます。
180条の専決処分の特徴
- 議会が事前に議決で指定した事項についてのみ可能
- 対象は「軽易な事項」に限定
- 議会の委任に基づくため、長の任意ではなく議会のコントロールの下にある
議会への報告(180条2項)
180条の専決処分を行った場合、長は議会にこれを報告しなければなりません。
ここで重要な違いは、179条の専決処分は「報告し、承認を求める」のに対し、180条の専決処分は単に「報告する」のみで、承認は不要です。これは、180条の場合は議会の事前の委任に基づくため、改めて承認を得る必要がないからです。
専決処分の比較表
長の議案提出権と議会の修正権
長の議案提出権
長は、議会に対して議案を提出する権限を有します(149条1号)。予算については、その調製・提出権は長に専属します(211条1項)。議会は自ら予算案を提出することはできません。
議会の修正権
議会は、長から提出された議案を修正する権限を有します。ただし、予算の修正については、長の予算提出権を侵害するような増額修正は認められないとされています(97条2項参照)。
地方自治法97条2項
議会は、予算について、増額してこれを議決することを妨げない。ただし、普通地方公共団体の長の予算の提出の権限を侵すことはできない。
――地方自治法97条2項
つまり、議会は予算の増額修正自体は可能ですが、長の予算提出権を侵害するほどの大幅な増額修正は許されません。
試験対策上の重要ポイント
頻出論点の整理
- 一般的再議は長の裁量、特別的再議は長の義務
- 一般的再議の再議決は出席議員の3分の2以上
- 不信任議決は議員数の3分の2以上出席・出席議員の4分の3以上同意
- 解散後の再度の不信任議決は過半数で足りる
- 179条の専決処分は報告+承認、180条は報告のみ
- 専決処分の不承認でも法的効力は失われない
- 予算の調製・提出権は長に専属
よく出る引っかけパターン
- 「一般的再議に付された場合の再議決は、出席議員の過半数で足りる」→ 誤り(3分の2以上の同意が必要)
- 「長の不信任議決には、出席議員の3分の2以上の同意が必要である」→ 誤り(4分の3以上の同意が必要。ただし解散後の2回目は過半数で足りる)
- 「179条の専決処分が議会で不承認とされた場合、専決処分の効力は遡及的に消滅する」→ 誤り(不承認でも法的効力は失われない)
- 「180条の専決処分についても、議会の承認が必要である」→ 誤り(180条は報告のみで承認不要)
まとめ
長と議会の関係は、地方自治法の中でも最も出題頻度の高いテーマの一つです。以下の点を正確に整理しておきましょう。
- 地方自治体は二元代表制を採用し、長と議会が相互に牽制し合う
- 一般的再議は長の裁量、特別的再議は長の義務
- 不信任議決には3分の2以上出席・4分の3以上同意が必要
- 不信任議決を受けた長は10日以内に解散するか、失職するかを選択
- 解散後の再度の不信任は過半数で足り、長は通知の日に失職
- 179条の専決処分は報告+承認、180条は報告のみ
- 専決処分は不承認でも法的効力を失わない
数値要件(定足数・議決要件・期間)を正確に記憶し、比較表で整理することが合格への近道です。
地方自治法176条1項の一般的再議に付された場合、議会が再び同一の議決をするには出席議員の過半数の同意があれば足りる。○か×か。
地方自治法179条に基づく専決処分について、議会が承認しなかった場合、当該専決処分の法的効力は遡及的に消滅する。○か×か。
議会が長に対する不信任議決を行うには、議員数の3分の2以上の者が出席し、その出席議員の4分の3以上の同意が必要であるが、長が議会を解散した後の新議会において再度の不信任議決を行う場合は、出席議員の過半数の同意で足りる。○か×か。