地方自治法の長と議会|再議・不信任の仕組み
地方自治法における長と議会の関係を徹底解説。二元代表制の仕組み、一般的再議(176条1項)と特別的再議(176条4項)の違い、不信任議決と解散(178条)の手続、専決処分(179条・180条)の要件を比較表で整理します。
はじめに|二元代表制とは
地方自治法は、地方公共団体の統治機構として「二元代表制」を採用しています。二元代表制とは、住民が長(首長)と議会の議員をそれぞれ直接選挙で選出し、両者が相互に牽制し合いながら地方行政を運営する仕組みです。
国の統治機構が議院内閣制(国会が内閣総理大臣を指名し、内閣は国会に対して連帯して責任を負う)であるのに対し、地方自治体は長と議会がそれぞれ住民の直接選挙によって選ばれるため、アメリカの大統領制に近い構造を持っています。
この二元代表制の下で、長と議会の間には一定の牽制・抑制の仕組みが設けられています。行政書士試験では、再議制度、不信任議決、専決処分などが頻出です。本記事では、これらの制度を条文に基づいて正確に整理します。
憲法上の根拠と二元代表制の趣旨
地方公共団体の機関構成は、憲法93条が定める原則に由来します。
地方公共団体には、法律の定めるところにより、その議事機関として議会を設置する。
地方公共団体の長、その議会の議員及び法律の定めるその他の吏員は、その地方公共団体の住民が、直接これを選挙する。
――日本国憲法93条
このように、憲法は議会(議事機関)の設置を義務づけ、かつ長と議員の双方を「住民が直接選挙する」と定めています。この点が、有権者が議員のみを選び議員が首長(内閣総理大臣)を選ぶ国の議院内閣制との決定的な違いです。長と議会がいずれも住民から民主的正統性を得ているため、両者が対等の立場で抑制・均衡(チェック・アンド・バランス)を働かせることが二元代表制の趣旨です。
もっとも、純粋な大統領制とは異なり、地方自治法は議会による不信任議決(178条)と長による議会解散権を認めており、議院内閣制的な要素も部分的に取り込んでいます。この「大統領制を基本としつつ議院内閣制的要素を加味した混合型」である点を押さえておくと、再議・不信任・専決処分の各制度がなぜ存在するのかが理解しやすくなります。
機関対立主義と相互牽制の全体像
長と議会がそれぞれ独立した権限を持って対立し得る構造を「機関対立主義」と呼びます。両者が対立した場合に決着をつける手段が、再議・不信任・専決処分です。全体像を先に俯瞰しておきましょう。
以下、それぞれの制度を条文・要件・趣旨・出題ポイントの順で深掘りしていきます。
長と議会の基本的関係
長の権限
地方公共団体の長は、当該地方公共団体を統轄し、これを代表する機関です(147条)。長の主要な権限は以下のとおりです。
- 予算の調製・提出(149条2号・211条)
- 条例の公布(16条)
- 議案の提出(149条1号)
- 事務の管理及び執行(148条・149条各号)
- 規則の制定(15条)
- 再議の請求(176条・177条)
- 議会の解散(178条)
- 専決処分(179条・180条)
長は「統轄代表権」(147条)と「事務の管理執行権」(148条)を併せ持つ、独任制の執行機関です。委員会・委員(教育委員会・選挙管理委員会・人事委員会・監査委員など)も執行機関ですが、これらは合議制または独立性を持つ点で長と区別されます。試験では、長の権限とされる事項(予算の調製・提出、議案提出、規則制定など)と、議会の権限とされる事項(条例制定、予算の議決など)を入れ替える引っかけが頻出です。
規則制定権(15条)と条例制定権(議会)の区別
長は、法令に違反しない限りにおいて、その権限に属する事務について「規則」を制定できます(15条1項)。これに対して「条例」を制定するのは議会です(96条1項1号)。規則違反に対しては5万円以下の過料を科す旨の規定を設けることができますが(15条2項)、罰則(懲役・罰金など)を科せるのは条例に限られます(14条3項)。「長が制定する規則で2年以下の懲役を定めた」といった選択肢は誤りです。
議会の権限
議会は、当該地方公共団体の議事機関です(89条)。議会の主要な権限は以下のとおりです。
- 条例の制定・改廃(96条1項1号)
- 予算の議決(96条1項2号)
- 決算の認定(96条1項3号)
- 法律上その権限に属する事項の議決(96条1項各号)
- 長の不信任議決(178条)
- 検査権(98条1項)
- 調査権(100条)
- 意見書の提出(99条)
議決事件(96条)の位置づけ
96条1項は議会の議決すべき事件を限定列挙しています(条例・予算・決算・契約の締結・財産の取得処分など)。さらに96条2項により、条例で議決事件を追加できます(いわゆる任意的議決事件)。「議会の議決事件は96条1項に列挙されたものに限られ、条例で追加することはできない」とする選択肢は誤りです。
100条調査権(百条調査権)
議会の調査権は通称「百条調査権」と呼ばれ、選挙人その他の関係人の出頭・証言・記録の提出を請求できる強力な権限です(100条1項)。正当な理由なく証言を拒否し、または虚偽の陳述をした者には刑罰(禁錮・罰金)が科され得ます。検査権(98条)が書面・実地の検査にとどまるのに対し、調査権はより強制力が強い点を区別しておきましょう。
再議制度
地方自治法は、長が議会の議決に異議がある場合の対抗手段として「再議制度」を設けています。再議には、一般的再議と特別的再議の2種類があります。
再議制度の趣旨は、長と議会の意見が対立した場合に、ただちに住民の選挙(解散等)にゆだねるのではなく、まず議会自身に再考の機会を与え、慎重な審議を促すことにあります。一般的再議は長の政策的な異議に基づく拒否権(アメリカ大統領制のveto権に類似)であり、特別的再議は議決の適法性を確保するための制度である点で、性格が大きく異なります。
一般的再議(176条1項)
一般的再議は、長が議会の議決について異議があるときに、その議決の日から10日以内に理由を示して再議に付することができる制度です。
普通地方公共団体の議会の議決について異議があるときは、当該普通地方公共団体の長は、この法律に特別の定めがあるものを除くほか、その議決の日(条例の制定若しくは改廃又は予算に関する議決については、その送付を受けた日)から十日以内に理由を示してこれを再議に付することができる。
――地方自治法176条1項
一般的再議の特徴
- 対象: 議会のすべての議決(条例、予算、その他)
- 期間: 議決の日から10日以内(条例の制定・改廃又は予算に関する議決については送付を受けた日から10日以内)
- 性質: 長の任意(「できる」規定)
- 再議決の要件: 出席議員の3分の2以上の同意(176条3項)
再議に付された場合、議会がなお同じ議決をするためには、出席議員の3分の2以上の同意が必要です。つまり、単純多数決では足りず、特別多数決が要求されます。
前項の規定による議会の議決が再議に付された議決と同じ議決であるときは、その議決は、確定する。
前項の規定による議決のうち条例の制定若しくは改廃又は予算に関するものについては、出席議員の三分の二以上の者の同意がなければならない。
――地方自治法176条2項・3項
「3分の2以上」が要求される議決の範囲に注意
ここは正確に押さえてください。176条3項が出席議員の3分の2以上の特別多数を要求しているのは、条例の制定・改廃または予算に関する議決についてです。それ以外の一般的な議決については、再議に付されても、同一の議決が確定するための特別多数の要件は明文上ありません(再び議決すれば確定する)。「一般的再議に付された議決はすべて3分の2以上の同意がなければ確定しない」と一律に述べる選択肢は不正確です。条例・予算に関する議決に限って3分の2以上という点を区別しておきましょう。
特別的再議(176条4項)
特別的再議は、議会の議決又は選挙が権限を超え又は法令若しくは会議規則に違反すると認めるときに、長がその議決又は選挙の日から21日以内に理由を示して再議に付し、又は再選挙を行わせることができる制度です。
普通地方公共団体の議会の議決又は選挙がその権限を超え又は法令若しくは会議規則に違反すると認めるときは、当該普通地方公共団体の長は、理由を示してこれを再議に付し又は再選挙を行わせなければならない。
――地方自治法176条4項
特別的再議の特徴
- 対象: 権限逸脱又は法令・会議規則違反の議決・選挙
- 期間: 議決又は選挙の日から21日以内(実務上はこの期間内に措置をとる)
- 性質: 長の義務(「なければならない」規定)
- 再議決の要件: 条文上、特別多数決の規定なし
一般的再議との最大の違いは、特別的再議は長の義務である点です。議会の議決が違法(権限逸脱・法令違反・会議規則違反)であると認める場合には、長は再議に付さなければなりません。これは適法性の確保という公益的要請に基づくため、長の裁量にゆだねられないのです。
特別的再議後の処理(176条5項〜8項)
特別的再議に付された後、議会がなお同じ議決(権限逸脱・法令違反の議決)をした場合の処理が176条5項以下に定められています。
前項の規定による議会の議決又は選挙がなおその権限を超え又は法令若しくは会議規則に違反すると認めるときは、都道府県知事にあつては総務大臣、市町村長にあつては都道府県知事に対し、当該議決又は選挙があつた日から二十一日以内に、審査を申し立てることができる。
――地方自治法176条5項(趣旨を要約。条文構造に即して整理)
整理すると次のとおりです。
- 特別的再議に付しても議会がなお同一の違法な議決をした場合、長は、都道府県にあっては総務大臣、市町村にあっては都道府県知事に審査を申し立てることができます(176条5項)。
- 審査の裁定に不服がある場合、議会または長は、裁判所に出訴することができます(176条7項)。
審査の結果、議決が違法であると認められた場合には、その議決・選挙は取り消されます。違法な議決の効力を最終的に司法判断にゆだねうる仕組みになっている点が、適法性確保を目的とする特別的再議の特徴です。
一般的再議と特別的再議の比較表
義務的経費等に係る再議(177条)
176条とは別に、177条はより具体的な場面における再議を定めています。出題上は176条と混同しやすいため、別建てで整理します。
177条が定める二つの場面
177条1項は、次の二つの議決について長に再議を義務づけています。
普通地方公共団体の議会において次に掲げる経費を削除し又は減額する議決をしたときは、その経費及びこれに伴う収入について、当該普通地方公共団体の長は、理由を示してこれを再議に付さなければならない。
一 法令により負担する経費、法律の規定に基づき当該行政庁の職権により命ずる経費その他の普通地方公共団体の義務に属する経費
二 非常の災害による応急若しくは復旧の施設のために必要な経費又は感染症予防のために必要な経費
――地方自治法177条1項
このように、(1)義務費(法令により負担する経費など)の削除・減額と、(2)非常災害の応急・復旧費や感染症予防費の削除・減額が再議の対象です。
再議後の効果(177条2項・3項)
再議に付しても議会がなお削除・減額の議決をした場合の効果は、経費の種類によって異なります。ここが177条最大の出題ポイントです。
- 義務費(1号)の場合:長は、その経費およびこれに伴う収入を予算に計上して、その経費を支出することができます(177条2項)。つまり、議会の議決を覆して長が直接支出できる、強力な権限です。
- 非常災害・感染症予防費(2号)の場合:長は、その議決を不信任議決とみなすことができます(177条3項)。すなわち、178条の不信任議決への発展を予定しており、長は議会を解散できる場合があります。
「177条の再議後はいずれの経費でも長が直接支出できる」とする選択肢は誤りです。直接支出できるのは義務費のみで、非常災害・感染症予防費は不信任議決とみなしうるにとどまる点を、確実に区別してください。
不信任議決と解散(178条)
不信任議決の要件
議会は、長に対する不信任議決を行うことができます(178条1項)。これは議院内閣制的な要素を取り入れた制度であり、長と議会の対立が決定的になった場合の最終的な調整手段です。
不信任議決の要件は以下のとおりです。
- 議員数の3分の2以上の者が出席
- 出席議員の4分の3以上の同意
普通地方公共団体の議会において、当該普通地方公共団体の長の不信任の議決をしたときは、直ちに議長からその旨を当該普通地方公共団体の長に通知しなければならない。この場合においては、普通地方公共団体の長は、その通知を受けた日から十日以内に議会を解散することができる。
――地方自治法178条1項
前項の場合において、議会において当該普通地方公共団体の長の不信任の議決をするには、議員数の三分の二以上の者が出席し、その四分の三(同項後段の規定による不信任の議決においては、その過半数)以上の者の同意がなければならない。
――地方自治法178条3項
不信任議決後の長の選択肢
不信任議決がなされた場合、長には2つの選択肢があります。
選択肢1: 議会を解散する(178条1項)
通知を受けた日から10日以内に議会を解散することができます。これにより住民の選挙を通じて改めて民意を問うことになります。
選択肢2: 失職する(178条2項)
10日以内に議会を解散しない場合、長は10日を経過した日に失職します。
議会において当該普通地方公共団体の長の不信任の議決をした場合において、前項の規定により議会を解散しないとき、又はその解散後初めて招集された議会において再び不信任の議決があり、議長から当該普通地方公共団体の長に対しその旨の通知があつたときは、当該普通地方公共団体の長は、同項の期間が経過した日又は議長から通知があつた日においてその職を失う。
――地方自治法178条2項
解散後の再度の不信任議決(178条2項・3項)
議会を解散した場合、解散後の選挙により新たに議会が構成されます。その新しい議会が再び長に対する不信任議決を行った場合の要件は以下のとおりです。
- 議員数の3分の2以上の者が出席
- 出席議員の過半数の同意
1回目の不信任議決が出席議員の4分の3以上の同意を要するのに対し、解散後の2回目の不信任議決は過半数の同意で足りる点に注意してください(178条3項括弧書き)。出席要件(議員数の3分の2以上)は1回目・2回目とも共通である点も狙われます。
この場合、長は議会を再度解散することはできず、議長から通知があった日に失職します(178条2項)。
不信任議決とみなされる場合(拡張に注意)
178条の不信任議決そのもの以外にも、地方自治法は一定の議決を「不信任の議決とみなす」場合を定めています。前述の177条3項(非常災害・感染症予防費の削減を再議してもなお削減した場合)がその例です。直接の不信任決議でなくても解散・失職の手続に発展しうる点を、関連論点として押さえておきましょう。
不信任議決の流れ(まとめ)
1回目の不信任議決(3分の2以上出席・4分の3以上同意)
→ 長の選択肢:
(a) 10日以内に議会を解散
→ 新議会で再度の不信任議決(3分の2以上出席・過半数同意)
→ 長は通知の日に失職(再解散不可)
(b) 10日以内に解散しない
→ 10日経過日に長が失職
数値要件の暗記表(最重要)
不信任・解散まわりの数値は択一の正誤判定で直接問われます。次の表を丸ごと覚えてください。
専決処分
専決処分の種類
専決処分とは、本来は議会の議決を経るべき事項について、長が議会に代わって処分を行うことです。地方自治法には、2種類の専決処分が規定されています。
- 179条の専決処分: 議会が成立しない場合等の緊急時の専決処分(法定代理的専決処分)
- 180条の専決処分: 議会の委任に基づく専決処分(任意代理的専決処分)
179条は議会の議決を経るべき場合に「議会が機能しない・時間的余裕がない」という客観的事情に基づいて長が代わって処分するもの、180条は議会が自らの意思で「この事項は長に任せる」と委任するものであり、根拠の性質が全く異なります。前者を「法定代理的専決処分」、後者を「任意代理的専決処分」と呼ぶことがあります。
179条の専決処分(緊急時の専決処分)
専決処分ができる場合(179条1項)
長は、以下の場合に専決処分を行うことができます。
- 議会が成立しないとき(議員の定数を欠くなど)
- 113条ただし書きの場合においてなお会議を開くことができないとき(出席議員が定数に満たないとき)
- 長において議会の議決すべき事件について特に緊急を要するため議会を招集する時間的余裕がないことが明らかであると認めるとき
- 議会において議決すべき事件を議決しないとき
普通地方公共団体の議会が成立しないとき、第百十三条ただし書の場合においてなお会議を開くことができないとき、普通地方公共団体の長において議会の議決すべき事件について特に緊急を要するため議会を招集する時間的余裕がないことが明らかであると認めるとき、又は議会において議決すべき事件を議決しないときは、当該普通地方公共団体の長は、その議決すべき事件を処分することができる。
――地方自治法179条1項
専決処分の対象から除外される事項(179条1項ただし書)
ここは平成24年改正で追加された重要ポイントです。議会の不信任議決および副知事・副市町村長の選任同意は、179条の専決処分の対象から除外されています(179条1項ただし書)。かつて長が議会を招集せずに副市長人事を専決処分で行った事例(鹿児島県阿久根市の事案)をきっかけに、専決処分の濫用を防ぐために設けられた除外規定です。「副知事・副市町村長の選任の同意は緊急時には専決処分できる」とする選択肢は、改正後は誤りです。
議会への報告と承認(179条3項)
179条の専決処分を行った場合、長は次の会議においてこれを議会に報告し、その承認を求めなければなりません。
前二項の規定による処置については、普通地方公共団体の長は、次の会議においてこれを議会に報告し、その承認を求めなければならない。
――地方自治法179条3項
承認が得られなかった場合の効力(最頻出論点)
議会が承認しなかった場合でも、専決処分自体の法的効力は失われません。これは専決処分による法律関係の安定(処分の相手方や第三者の保護)を図るためです。承認が得られないことによって長に生じるのは政治的責任にとどまり、処分が遡及的に無効になるわけではありません。
ただし、平成24年改正により、条例の制定改廃または予算に関する専決処分について承認が得られなかった場合には、長は速やかに必要と認める措置を講ずるとともに、その旨を議会に報告しなければならないとされました(179条4項)。
前項の場合において、条例の制定若しくは改廃又は予算に関する処置について承認を求める議案が否決されたときは、普通地方公共団体の長は、速やかに、当該処置に関して必要と認める措置を講ずるとともに、その旨を議会に報告しなければならない。
――地方自治法179条4項
「不承認なら専決処分は無効になる」という選択肢は誤り、「不承認の場合に長が措置を講じ報告する義務があるのは条例・予算に関する専決処分に限られる」という点が正しい理解です。
180条の専決処分(委任に基づく専決処分)
専決処分ができる場合(180条1項)
議会は、議会の権限に属する軽易な事項で、その議決により特に指定したものについて、長において専決処分にすることができます。
普通地方公共団体の議会の権限に属する軽易な事項で、その議決により特に指定したものは、普通地方公共団体の長において、これを専決処分にすることができる。
――地方自治法180条1項
180条の専決処分の特徴
- 議会が事前に議決で指定した事項についてのみ可能
- 対象は「軽易な事項」に限定
- 議会の委任に基づくため、長の任意ではなく議会のコントロールの下にある
議会への報告(180条2項)
180条の専決処分を行った場合、長は議会にこれを報告しなければなりません。
前項の規定により専決処分をしたときは、普通地方公共団体の長は、これを議会に報告しなければならない。
――地方自治法180条2項
ここで重要な違いは、179条の専決処分は「報告し、承認を求める」のに対し、180条の専決処分は単に「報告する」のみで、承認は不要です。これは、180条の場合は議会の事前の委任に基づくため、改めて承認を得る必要がないからです。
専決処分の比較表
長の議案提出権と議会の修正権
長の議案提出権
長は、議会に対して議案を提出する権限を有します(149条1号)。予算については、その調製・提出権は長に専属します(211条1項)。議会は自ら予算案を提出することはできません。一方、条例案は長と議員の双方が提出できます(議員の場合は議員定数の12分の1以上の者の賛成が必要。112条2項)。「予算案は議員も提出できる」とする選択肢は誤りです。
議会の修正権
議会は、長から提出された議案を修正する権限を有します。ただし、予算の修正については、長の予算提出権を侵害するような増額修正は認められないとされています(97条2項参照)。
議会は、予算について、増額してこれを議決することを妨げない。ただし、普通地方公共団体の長の予算の提出の権限を侵すことはできない。
――地方自治法97条2項
つまり、議会は予算の増額修正自体は可能ですが、長の予算提出権を侵害するほどの大幅な増額修正は許されません。減額修正については特段の制限規定がなく、増額修正のみが「長の提出権を侵さない」範囲に限られる点が出題ポイントです。
関連判例と論点
長と議会の関係そのものを直接判断した有名判例は多くありませんが、地方議会の自律権・議員の権利に関する近時の重要判例は一般知識・行政法の双方で問われ得ます。代表的なものを事案→判旨→意義の順で整理します。
地方議会議員に対する出席停止と司法審査(最大判令和2年11月25日)
普通地方公共団体の議会の議員に対する出席停止の懲罰は、議員の権利行使の一時的制限にすぎないものとして、その適否が専ら議会の自律的な判断に委ねられるべきであるということはできない。…出席停止の懲罰の取消しを求める訴えは、法律上の争訟に当たり、裁判所はその適否を判断することができる。
――最大判令和2年11月25日(岩沼市議会出席停止事件)
- 事案:市議会から23日間の出席停止の懲罰を受けた議員が、その取消しを求めて出訴した。
- 判旨:出席停止の懲罰も司法審査の対象となる(法律上の争訟に当たる)と判断し、これと異なる従来の判例(昭和35年最高裁判決)を変更した。
- 意義:かつて「除名は司法審査の対象だが、出席停止は議会の自律権に属し対象外」とされていたところを、出席停止についても司法審査が及ぶと改めた重要判例。地方議会の自律権と司法権の関係を問う設問で問われ得ます。
部分社会の法理との関係
従来、地方議会の内部規律は「部分社会の法理」により司法審査が限定されると説明されてきました。令和2年判決は、出席停止の懲罰についてこの考え方を後退させ、議員の権利・住民の負託に対する制約という観点から司法審査を肯定しています。除名処分が司法審査の対象となること(古くからの判例)とあわせて、「議会の懲罰のうち何が司法審査の対象となるか」という切り口で整理しておきましょう。
試験対策上の重要ポイント
頻出論点の整理
- 一般的再議は長の裁量、特別的再議は長の義務
- 一般的再議の再議決は条例・予算について出席議員の3分の2以上
- 177条の義務費削減の再議後は長が直接支出可、非常災害費等は不信任とみなしうる
- 不信任議決は議員数の3分の2以上出席・出席議員の4分の3以上同意
- 解散後の再度の不信任議決は過半数で足りる(出席要件は3分の2以上で共通)
- 179条の専決処分は報告+承認、180条は報告のみ
- 専決処分の不承認でも法的効力は失われない(条例・予算は措置・報告義務)
- 不信任議決・副知事等の選任同意は179条専決処分の対象外
- 予算の調製・提出権は長に専属(条例案は議員も提出可)
過去問で問われた角度
- 数値要件の入れ替え(不信任を「3分の2以上同意」とするなど)
- 一般的再議と特別的再議の「裁量/義務」の入れ替え
- 専決処分の承認の要否(179条と180条の取り違え)
- 不承認時の効力(「無効になる」とする誤り)
- 平成24年改正点(専決処分の対象除外、条例・予算の不承認時の措置義務)
よく出る引っかけパターン
- 「一般的再議に付された場合の再議決は、出席議員の過半数で足りる」→ 誤り(条例・予算については3分の2以上の同意が必要)
- 「長の不信任議決には、出席議員の3分の2以上の同意が必要である」→ 誤り(4分の3以上の同意。出席要件が議員数の3分の2以上。解散後の2回目は同意が過半数)
- 「179条の専決処分が議会で不承認とされた場合、専決処分の効力は遡及的に消滅する」→ 誤り(不承認でも法的効力は失われない)
- 「180条の専決処分についても、議会の承認が必要である」→ 誤り(180条は報告のみで承認不要)
- 「副知事の選任同意は緊急時には専決処分できる」→ 誤り(179条1項ただし書で対象外)
- 「177条の再議後はいずれの経費でも長が直接支出できる」→ 誤り(直接支出できるのは義務費。非常災害費等は不信任とみなしうるにとどまる)
よくある誤解
- 誤解1:再議は常に長の義務である → 一般的再議は裁量(「できる」)。義務なのは特別的再議(176条4項)と177条の再議。
- 誤解2:専決処分の不承認は処分の効力を左右する → 効力は左右されない。生じるのは政治的責任と、条例・予算については措置・報告義務。
- 誤解3:議会の懲罰は一切司法審査の対象にならない → 除名はもちろん、出席停止も司法審査の対象(最大判令和2年11月25日)。
関連論点(あわせて確認したい制度)
- 議会の招集権(原則は長。臨時会は議員定数の4分の1以上の者の請求により長が招集。一定の場合は議長が招集できる)
- 議決事件の追加(96条2項)
- 議会の自律権・懲罰(135条)と司法審査の限界
- 直接請求制度(条例の制定改廃請求、解職請求など)との関係
まとめ
長と議会の関係は、地方自治法の中でも最も出題頻度の高いテーマの一つです。以下の点を正確に整理しておきましょう。
- 地方自治体は二元代表制(大統領制を基本に議院内閣制的要素を加味)を採用し、長と議会が相互に牽制し合う
- 一般的再議は長の裁量、特別的再議(176条4項)と177条の再議は長の義務
- 一般的再議の再議決は条例・予算について出席議員の3分の2以上
- 177条の義務費削減の再議後は長が直接支出可、非常災害・感染症予防費は不信任とみなしうる
- 不信任議決には議員数の3分の2以上出席・出席議員の4分の3以上同意が必要
- 不信任議決を受けた長は10日以内に解散するか、失職するかを選択
- 解散後の再度の不信任は過半数で足り(出席要件は3分の2以上で共通)、長は通知の日に失職
- 179条の専決処分は報告+承認、180条は報告のみ
- 専決処分は不承認でも法的効力を失わない(条例・予算は措置・報告義務)
- 不信任議決・副知事等の選任同意は179条専決処分の対象外
数値要件(定足数・議決要件・期間)を正確に記憶し、比較表で整理することが合格への近道です。あわせて、行政法の他の頻出テーマや一般知識分野も横断的に確認しておきましょう。
地方自治法176条1項の一般的再議に付された場合、条例の制定改廃に関する議決を議会が再び同一の内容で確定させるには、出席議員の過半数の同意があれば足りる。○か×か。
地方自治法179条に基づく専決処分について、議会が承認しなかった場合、当該専決処分の法的効力は遡及的に消滅する。○か×か。
議会が長に対する不信任議決を行うには、議員数の3分の2以上の者が出席し、その出席議員の4分の3以上の同意が必要であるが、長が議会を解散した後の新議会において再度の不信任議決を行う場合は、出席議員の過半数の同意で足りる。○か×か。
地方自治法179条に基づく専決処分の対象には、議会による長の不信任議決や副知事・副市町村長の選任の同意も含まれる。○か×か。