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自治事務と法定受託事務|関与の違いを比較表で

自治事務と法定受託事務の違いを比較表で徹底解説。地方分権改革による機関委任事務の廃止、自治事務と法定受託事務の区別基準、国の関与の類型(助言・勧告・是正要求・指示・代執行)、関与の基本原則、係争処理制度を整理します。

はじめに|地方分権改革と事務区分の再編

地方自治法における事務区分は、1999年(平成11年)の地方分権一括法(地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律)により大きく変わりました。

旧制度では、地方公共団体の事務は公共事務・団体委任事務・行政事務機関委任事務に分類されていました。特に機関委任事務は、国の事務を地方公共団体の長が国の機関として処理するという仕組みであり、地方自治の観点から大きな問題がありました。

地方分権改革により、機関委任事務は全面的に廃止され、地方公共団体の事務は自治事務法定受託事務の2つに再編されました。

行政書士試験では、この事務区分の違いと、それに応じた国の関与の類型が頻出です。本記事では、条文に基づいて正確に整理します。

機関委任事務の廃止

旧制度の問題点

機関委任事務とは、法律又はこれに基づく政令により地方公共団体の長等に委任された国の事務であり、長は「国の機関」として当該事務を処理していました。

機関委任事務には以下の問題点がありました。

  1. 地方公共団体の長が国の下部機関として位置づけられる: 長は住民の選挙で選ばれた代表であるにもかかわらず、国の指揮命令下に置かれていた
  2. 議会の関与が排除される: 機関委任事務は国の事務であるため、地方議会の審議・議決の対象外とされていた
  3. 条例制定権が及ばない: 機関委任事務については条例を制定することができなかった
  4. 監査委員の監査が及ばない: 国の事務であるため、監査委員による監査の対象外とされていた

地方分権改革の経緯

1993年の衆参両院における「地方分権の推進に関する決議」を端緒として、1995年の地方分権推進法の制定、地方分権推進委員会の設置を経て、1999年に地方分権一括法が成立しました。

この改革により、機関委任事務は全面的に廃止され、従来の機関委任事務は自治事務又は法定受託事務に振り分けられました。

自治事務と法定受託事務の区別

自治事務の定義

地方自治法2条8項
この法律において「自治事務」とは、地方公共団体が処理する事務のうち、法定受託事務以外のものをいう。
――地方自治法2条8項

自治事務は、法定受託事務以外のすべての事務と定義されています。つまり、消去法的な定義であり、法定受託事務に該当しないものはすべて自治事務です。

法定受託事務の定義

地方自治法2条9項
この法律において「法定受託事務」とは、次に掲げる事務をいう。
一 法律又はこれに基づく政令により都道府県、市町村又は特別区が処理することとされる事務のうち、国が本来果たすべき役割に係るものであつて、国においてその適正な処理を特に確保する必要があるものとして法律又はこれに基づく政令に特に定めるもの(以下「第一号法定受託事務」という。)
二 法律又はこれに基づく政令により市町村又は特別区が処理することとされる事務のうち、都道府県が本来果たすべき役割に係るものであつて、都道府県においてその適正な処理を特に確保する必要があるものとして法律又はこれに基づく政令に特に定めるもの(以下「第二号法定受託事務」という。)
――地方自治法2条9項

法定受託事務は、以下の2種類に分かれます。

第1号法定受託事務: 国が本来果たすべき役割に係る事務で、法律又は政令で特に定めるもの

第2号法定受託事務: 都道府県が本来果たすべき役割に係る事務で、法律又は政令で特に定めるもの

具体例

自治事務の具体例

  • 都市計画の決定
  • 飲食店の営業許可
  • 病院の開設許可
  • 介護保険に関する事務
  • 国民健康保険に関する事務

法定受託事務の具体例

  • 国政選挙に関する事務(第1号法定受託事務)
  • 旅券(パスポート)の交付に関する事務(第1号法定受託事務)
  • 戸籍に関する事務(第1号法定受託事務)
  • 生活保護の決定及び実施に関する事務(第1号法定受託事務)
  • 国道の管理に関する事務(第1号法定受託事務)

両者の共通点

自治事務も法定受託事務も、いずれも地方公共団体の事務である点は共通しています。法定受託事務は「国の事務を地方公共団体が処理する」ものではなく、あくまで地方公共団体自身の事務です。この点が、旧制度の機関委任事務と根本的に異なります。

したがって、法定受託事務についても以下が認められます。

  • 議会の審議・議決の対象となる
  • 条例を制定できる
  • 監査委員の監査の対象となる

国の関与の類型

関与とは

「関与」とは、国又は都道府県の機関が、地方公共団体の事務の処理に関し、一定の行為を行うことをいいます。地方自治法245条は、関与の定義を規定しています。

関与の基本原則

地方自治法は、関与について以下の基本原則を定めています。

法定主義の原則(245条の2)

国の関与は、法律又はこれに基づく政令の根拠がなければ行うことができません。関与の法定主義と呼ばれます。

地方自治法245条の2
普通地方公共団体は、その事務の処理に関し、法律又はこれに基づく政令によらなければ、普通地方公共団体に対する国又は都道府県の関与を受け、又は要することとされることはない。
――地方自治法245条の2

一般法主義の原則(245条の3第1項)

国の関与は、その目的を達成するために必要最小限度のものでなければなりません。

地方自治法245条の3第1項
国は、普通地方公共団体が、その事務の処理に関し、普通地方公共団体に対する国又は都道府県の関与を受け、又は要することとする場合には、その目的を達成するために必要な最小限度のものとするとともに、普通地方公共団体の自主性及び自立性に配慮しなければならない。
――地方自治法245条の3第1項

自治事務に対する関与

自治事務に対して認められる国の関与は、以下のとおりです。

  1. 助言又は勧告(245条の4): 技術的な助言や勧告を行う。法的拘束力なし
  2. 資料の提出の要求(245条の4第2項): 事務処理に関する資料の提出を求める
  3. 是正の要求(245条の5): 法令違反や著しく不適正な事務処理がある場合に、是正のために必要な措置を講ずべきことを求める
  4. 協議(245条の6等): 一定の事項について国と地方公共団体が協議する

自治事務に対しては、原則として「指示」や「代執行」は認められません。

法定受託事務に対する関与

法定受託事務に対しては、自治事務に対する関与に加えて、以下の関与も認められます。

  1. 助言又は勧告
  2. 資料の提出の要求
  3. 協議
  4. 同意
  5. 許可・認可・承認
  6. 指示(245条の7): 法令違反等がある場合に、是正のための具体的な措置を指示する
  7. 代執行(245条の8): 法定受託事務について、一定の要件の下で国が代わって執行する

自治事務と法定受託事務における関与の比較表

関与の類型自治事務法定受託事務助言・勧告○○資料提出の要求○○是正の要求○─協議○○同意─○許可・認可・承認─○指示─(原則不可)○代執行─(不可)○是正の指示─○

最重要ポイント: 自治事務に対しては「是正の要求」、法定受託事務に対しては「是正の指示」と「代執行」が認められるという違いを押さえましょう。

是正の要求と是正の指示の違い

比較項目是正の要求(自治事務)是正の指示(法定受託事務)対象自治事務法定受託事務効果地方公共団体は是正のための必要な措置を講じなければならない地方公共団体は指示に従わなければならない拘束力の程度是正措置を講ずる義務(措置の内容は裁量あり)指示に従う義務(より拘束力が強い)

係争処理制度

国地方係争処理委員会(250条の7〜)

国の関与に不服がある地方公共団体は、国地方係争処理委員会に審査の申出を行うことができます(250条の13)。

国地方係争処理委員会の概要

  • 設置場所: 総務省に設置
  • 委員: 5人(両議院の同意を得て総務大臣が任命)
  • 審査の対象: 国の関与のうち、是正の要求、許可、指示その他の関与
  • 審査の期間: 審査の申出があった日から90日以内
  • 審査の結果: 国の関与が違法又は不当であると認めるときは、国の行政庁に対し必要な措置を講ずべきことを勧告する

審査の申出と訴訟の関係

国地方係争処理委員会の審査の結果に不服がある場合、地方公共団体は高等裁判所に訴訟を提起することができます(251条の5)。

訴訟の流れは以下のとおりです。

  1. 国の関与に対する不服 → 国地方係争処理委員会に審査の申出
  2. 委員会の審査結果に不服 → 高等裁判所に訴訟提起
  3. 高等裁判所の判決に不服 → 最高裁判所に上告

自治紛争処理委員(251条)

都道府県の関与に不服がある市町村は、自治紛争処理委員に審査の申出を行うことができます(251条の3第1項)。

自治紛争処理委員は、総務大臣が任命し、個別の事件ごとに3人を任命します。審査の結果に不服がある場合は、高等裁判所に訴訟を提起できます。

条例制定権の範囲との関係

自治事務と条例

自治事務については、法令に違反しない限り、条例を制定することができます(14条1項)。自治事務の範囲は広く、地方公共団体の独自性を発揮しやすい分野です。

法定受託事務と条例

法定受託事務についても、条例を制定することができます。機関委任事務の時代とは異なり、法定受託事務はあくまで地方公共団体の事務であるため、条例制定権が及びます。

ただし、法定受託事務は国が本来果たすべき役割に係る事務であるため、国の法令による規律が詳細である場合が多く、条例で独自のルールを定める余地は自治事務と比較して狭くなる傾向があります。

監査との関係

監査委員の監査

自治事務・法定受託事務のいずれについても、監査委員の監査の対象となります(199条1項)。

ただし、法定受託事務に対する監査は、その事務の処理が法令の定めるところに従い、かつ適正に行われているかどうかに限定される場合があります。

議会の検閲・検査権

議会の検閲・検査権(98条1項)も、自治事務・法定受託事務の両方に及びます。ただし、法定受託事務については、一定の制限がある場合があります。

試験対策上の重要ポイント

頻出論点の整理

  1. 機関委任事務は全面廃止され、自治事務と法定受託事務に再編
  2. 法定受託事務も地方公共団体の事務であり、条例制定・議会審議・監査の対象
  3. 自治事務には「是正の要求」、法定受託事務には「指示」「代執行」が認められる
  4. 関与の法定主義: 法律又は政令の根拠なしに関与はできない
  5. 係争処理制度: 国地方係争処理委員会への審査申出→高等裁判所への訴訟
  6. 自治事務の定義は消去法(法定受託事務以外のもの)

よく出る引っかけパターン

  • 「法定受託事務は国の事務であるため、条例を制定することはできない」→ 誤り(法定受託事務も地方公共団体の事務であり、条例制定可能)
  • 「自治事務について、国は地方公共団体に対して是正の指示を行うことができる」→ 誤り(自治事務に対しては「是正の要求」であり、「是正の指示」は法定受託事務に対するもの)
  • 「国の関与に不服がある地方公共団体は、直接裁判所に訴訟を提起できる」→ 誤り(まず国地方係争処理委員会に審査の申出を行い、その結果に不服がある場合に訴訟提起)
  • 「機関委任事務は現在も存続している」→ 誤り(1999年の地方分権一括法により全面廃止)

まとめ

自治事務と法定受託事務の区別は、地方自治法における最重要テーマの一つです。以下の点をしっかり整理しておきましょう。

  • 機関委任事務は1999年の地方分権一括法により全面廃止された
  • 地方公共団体の事務は自治事務と法定受託事務の2種類に再編された
  • 法定受託事務も地方公共団体の事務であり、条例制定・議会審議・監査の対象となる
  • 自治事務には「是正の要求」、法定受託事務には「指示」「代執行」が認められる
  • 国の関与には法定主義の原則と必要最小限度の原則がある
  • 国の関与に不服がある場合は、国地方係争処理委員会を経て高等裁判所に訴訟提起

比較表を活用して両者の違いを正確に記憶し、関与の類型ごとに対象となる事務区分を整理しておくことが合格への近道です。

確認問題

法定受託事務は国の事務であるため、地方公共団体の議会の審議・議決の対象とはならず、条例を制定することもできない。○か×か。

○ 正しい × 誤り
解説
法定受託事務はあくまで「地方公共団体の事務」です。旧制度の機関委任事務(国の事務)とは異なり、法定受託事務については議会の審議・議決の対象となり、条例を制定することもできます。これは1999年の地方分権改革の重要な成果の一つです。
確認問題

自治事務について、国は地方公共団体に対して「是正の指示」を行うことができる。○か×か。

○ 正しい × 誤り
解説
自治事務に対して認められる関与は「是正の要求」(245条の5)であり、「是正の指示」ではありません。「是正の指示」や「代執行」は法定受託事務に対して認められる関与です。自治事務に対しては、原則として指示や代執行は認められません。
確認問題

国の関与に不服がある地方公共団体は、国地方係争処理委員会に審査の申出を行い、その結果に不服がある場合に高等裁判所に訴訟を提起することができる。○か×か。

○ 正しい × 誤り
解説
国の関与に不服がある地方公共団体は、まず総務省に設置された国地方係争処理委員会に審査の申出を行います(250条の13)。委員会の審査結果に不服がある場合には、高等裁判所に訴訟を提起することができます(251条の5)。直接裁判所に訴訟を提起するのではなく、係争処理委員会を経る必要があります。
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