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行政行為の取消しと撤回|違いを比較表で整理

行政行為の職権取消しと撤回の違いを比較表で徹底整理。成立時の瑕疵に基づく取消しと後発的事由に基づく撤回の区別、効果の違い(遡及効と将来効)、取消しの制限(信頼保護の原則)、撤回の制限(授益的処分)を解説します。

はじめに|取消しと撤回の区別が重要な理由

行政行為の「取消し」と「撤回」は、いずれも行政行為の効力を失わせる行為ですが、その法的な意味は大きく異なります。行政書士試験では、両者の区別が頻出であり、正確な理解が求められます。

日常用語では「取消し」も「撤回」もほぼ同じ意味で使われますが、行政法学上は以下のように厳密に区別されます。

  • 取消し(職権取消し): 行政行為の成立時に存在した瑕疵を理由に、その効力を失わせること
  • 撤回: 行政行為の成立時には瑕疵がなかったが、後発的な事由を理由に、その効力を失わせること

本記事では、取消しと撤回のそれぞれについて、その意義、効果、制限を詳しく解説し、比較表で整理します。

行政行為の職権取消し

職権取消しの意義

職権取消しとは、行政行為の成立当初から存在した瑕疵(違法又は不当)を理由として、行政庁がその行為の効力を失わせることです。

ここでの「取消し」は、裁判所が行う取消し(取消訴訟による取消し)とは区別されます。裁判所による取消しは「争訟取消し」と呼ばれ、行政庁自身が行う取消しは「職権取消し」と呼ばれます。

職権取消しの特徴

  • 原因: 行政行為の成立時に存在した瑕疵(違法又は不当)
  • 主体: 処分庁又は監督庁
  • 効果: 原則として遡及的に効力が消滅(遡及効)
  • 法的根拠: 法律の明文の根拠がなくても、行政庁の一般的権限として認められる

職権取消しの効果(遡及効)

職権取消しは、行政行為の成立時に遡って効力を消滅させます(遡及効)。つまり、取り消された行政行為は「初めからなかったもの」として扱われます。

遡及効の具体例

営業許可に瑕疵があった場合に職権取消しがなされると、その営業許可は最初から存在しなかったものとして扱われます。したがって、取消し前に行われた営業活動は、法律上は無許可営業であったことになります。

ただし、遡及効を厳格に貫くと関係者に予測不可能な不利益を与えることがあるため、実務上は信頼保護の観点から遡及効を制限する場合もあります。

職権取消しの権限を有する者

処分庁

行政行為を行った行政庁(処分庁)は、自ら行った行政行為を職権で取り消す権限を有します。法律上の明文の根拠がなくても、この権限は行政行為を行う権限に当然に含まれると解されています。

監督庁(上級行政庁)

処分庁の上級行政庁(監督庁)も、法律上の根拠なしに下級行政庁の行政行為を取り消す権限を有するかについては、学説上争いがあります。

多数説は、上級行政庁は監督権の一環として下級行政庁の行政行為を取り消す権限を有すると解しています。ただし、法律が処分庁に専属的な権限を与えている場合には、上級行政庁であっても取り消すことはできないとされています。

行政行為の撤回

撤回の意義

撤回とは、行政行為の成立当初は適法かつ有効であったものが、後発的な事由(事情の変更、義務違反等)により、その効力を将来に向かって失わせることです。

撤回の特徴

  • 原因: 行政行為の成立後に生じた後発的事由
  • 主体: 原則として処分庁(監督庁については争いあり)
  • 効果: 原則として将来に向かって効力が消滅(将来効)
  • 法的根拠: 法律の根拠が必要かについて学説に争いあり

後発的事由の具体例

撤回の原因となる後発的事由には、以下のようなものがあります。

  1. 法令上の要件の喪失: 許可の条件を満たさなくなった場合(例: 欠格事由に該当した)
  2. 義務違反: 許可に付された条件に違反した場合
  3. 公益上の必要: 社会状況の変化により、行政行為の存続が公益に反するようになった場合
  4. 相手方の申出: 行政行為の相手方自身が撤回を求めた場合

撤回の効果(将来効)

撤回は、原則として将来に向かって効力を消滅させます(将来効)。つまり、撤回がなされるまでの間、行政行為は有効に存在していたものとして扱われます。

将来効の具体例

営業許可が撤回された場合、撤回前に行われた営業活動は適法な営業活動として扱われます。撤回の時点から先についてのみ、営業許可がないことになります。

取消しと撤回の比較

比較表

比較項目職権取消し撤回原因成立時の瑕疵(違法・不当)後発的事由(事情変更・義務違反等)効果遡及効(行政行為時に遡及)将来効(撤回時以降に向かって)法的根拠法律の根拠なしに可能法律の根拠の要否に争いあり行為の性質成立時から瑕疵ある行為の是正適法に成立した行為の将来的消滅行使の主体処分庁・監督庁原則として処分庁

用語の注意点

実定法上は、「取消し」と「撤回」の用語が必ずしも行政法学上の用法と一致しません。例えば、運転免許の「取消し」(道路交通法103条)は、免許取得後の違反行為(後発的事由)を理由とするものであり、行政法学上は「撤回」に該当します。

試験では、法律上の用語と行政法学上の概念を区別して理解することが重要です。

取消しの制限

信頼保護の原則による制限

職権取消しは行政行為を遡及的に消滅させるものですが、行政行為の相手方がその効力を信頼し、それを前提に生活や事業を営んでいる場合、無制限に取消しを認めると信頼を裏切ることになります。

そこで、信頼保護の原則(信義則の一適用場面)により、職権取消しには一定の制限が課されます。

取消しの制限が問題となる場面

特に問題となるのは、授益的行政行為(相手方に利益を与える行政行為)の職権取消しです。

  • 営業許可の取消し
  • 年金受給権の認定の取消し
  • 補助金交付決定の取消し

これらの場合、相手方は行政行為を信頼して一定の行動をとっているため、その信頼を保護する必要があります。

判例の立場

最判昭和43年11月7日(農地買収計画取消事件)

行政行為の取消しは、行政行為の成立に瑕疵がある場合に、その効力を遡及的に消滅させるものであるが、授益的行政行為の取消しについては、これにより相手方が被る不利益と、取消しによって実現される公益とを比較衡量し、取消しの適否を判断しなければならない。

この判例は、授益的行政行為の職権取消しについて、相手方の不利益と公益の比較衡量を求めています。

取消しの制限の考慮要素

授益的行政行為の職権取消しの可否を判断する際には、以下の要素が考慮されます。

  1. 瑕疵の重大性: 瑕疵が重大であるほど取消しは認められやすい
  2. 相手方の帰責性: 瑕疵が相手方の詐欺・虚偽申請等に起因する場合は取消しが認められやすい
  3. 相手方の信頼の正当性: 瑕疵の存在を知らなかった場合は信頼保護の要請が強い
  4. 取消しにより実現される公益: 公益上の必要性が高いほど取消しが認められやすい
  5. 時間の経過: 処分から長期間が経過しているほど取消しは制限される方向に作用

撤回の制限

授益的行政行為の撤回の制限

撤回は、適法に成立した行政行為の効力を将来に向かって消滅させるものです。授益的行政行為の撤回は、相手方が適法に取得した利益を奪うことになるため、一定の制限が課されます。

撤回が認められる場合

  1. 法令上の根拠がある場合: 法律が撤回事由を明示している場合(例: 免許取消事由を法定)
  2. 相手方の義務違反がある場合: 許可条件への違反等
  3. 公益上の必要がある場合: ただし、相手方に対する補償の問題が生じる
  4. 相手方が撤回に同意している場合

補償の問題

授益的行政行為の撤回が公益上の必要から行われた場合、相手方の損失に対する補償が必要かという問題があります。

相手方に帰責事由がなく、もっぱら公益上の理由で撤回が行われた場合には、相手方に生じた損失に対して損失補償が必要と解される場合があります。これは、特定の個人に特別の犠牲を課すことになるためです。

一方、相手方の義務違反を理由とする撤回の場合には、補償は不要です。

不利益処分としての取消し・撤回と行政手続法

行政手続法との関係

職権取消しや撤回が、相手方にとって不利益な効果をもたらす場合には、行政手続法上の不利益処分に該当し、聴聞又は弁明の機会の付与が必要となります。

特に、許認可等を取り消す場合には、聴聞の手続が必要です(行政手続法13条1項1号イ)。

行政手続法13条1項1号イ
許認可等を取り消す不利益処分をしようとするとき。
――行政手続法13条1項1号イ

ここでいう「取り消す」には、行政法学上の「撤回」も含まれます。法律の用語として「取消し」と表記されていても、行政法学上は「撤回」に該当するもの(運転免許の取消し等)も、聴聞の対象となります。

無効な行政行為との関係

取消しと無効の違い

行政行為の瑕疵には、取消原因となる瑕疵と無効原因となる瑕疵があります。

比較項目取消しうべき行政行為無効な行政行為瑕疵の程度違法又は不当(軽微な瑕疵)重大かつ明白な瑕疵効力取消しまでは有効当初から無効争う方法取消訴訟(出訴期間の制限あり)無効等確認訴訟(出訴期間の制限なし)公定力ありなし

試験対策上の重要ポイント

頻出論点の整理

  1. 取消しの原因は成立時の瑕疵、撤回の原因は後発的事由
  2. 取消しの効果は遡及効、撤回の効果は将来効
  3. 実定法の用語と行政法学上の概念の不一致: 「免許取消し」は行政法学上は「撤回」
  4. 授益的行政行為の取消しは比較衡量が必要(信頼保護の原則)
  5. 授益的行政行為の撤回には補償が必要な場合がある
  6. 許認可等の取消し(撤回を含む)には聴聞が必要

よく出る引っかけパターン

  • 「職権取消しには法律上の根拠が必要である」→ 誤り(法律の根拠なしに可能とするのが通説・判例)
  • 「撤回は行政行為の成立時に遡って効力を失わせる」→ 誤り(撤回は将来効。遡及効は取消し)
  • 「道路交通法上の運転免許の取消しは、行政法学上も取消しに該当する」→ 誤り(後発的事由に基づくため、行政法学上は撤回に該当)

まとめ

行政行為の取消しと撤回は、行政法の基礎理論として最も重要なテーマの一つです。以下の点を正確に整理しておきましょう。

  • 取消しは成立時の瑕疵が原因、撤回は後発的事由が原因
  • 取消しは遡及効(行為時に遡る)、撤回は将来効(撤回時以降)
  • 職権取消しには法律の根拠は不要(通説)
  • 授益的行政行為の取消しは信頼保護の原則により制限される
  • 授益的行政行為の撤回は補償が必要な場合がある
  • 実定法の「取消し」が行政法学上の「撤回」に該当することがある

比較表を用いて両者の違いを正確に記憶し、判例の立場を理解しておくことが合格への近道です。

確認問題

行政行為の職権取消しは、行政行為の成立後に生じた後発的事由を理由として、その効力を将来に向かって消滅させるものである。○か×か。

○ 正しい × 誤り
解説
設問は「撤回」の説明です。職権取消しは、行政行為の「成立時に存在した瑕疵」を理由として、その効力を「遡及的に」消滅させるものです。後発的事由を理由に将来に向かって効力を消滅させるのは「撤回」です。
確認問題

道路交通法上の運転免許の「取消し」は、免許取得後の違反行為(後発的事由)を理由とするものであり、行政法学上は「撤回」に該当する。○か×か。

○ 正しい × 誤り
解説
道路交通法上の運転免許の「取消し」は、免許取得後の交通違反等の後発的事由を理由に行われるものであるため、行政法学上は「取消し」ではなく「撤回」に分類されます。実定法の用語と行政法学上の概念が一致しない典型例です。
確認問題

授益的行政行為の職権取消しは、信頼保護の原則により一切認められない。○か×か。

○ 正しい × 誤り
解説
授益的行政行為の職権取消しは、信頼保護の原則により一定の制限を受けますが、「一切認められない」わけではありません。判例(最判昭和43年11月7日)は、相手方が被る不利益と取消しにより実現される公益を比較衡量して取消しの適否を判断すべきとしており、公益上の必要性が高い場合には取消しが認められます。
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