行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為については、民事保全法(平成元年法律第九十一号)に規定する仮処分をすることができない。
この条文の過去問 2肢
結論:この肢は「誤り」。
前半の定義、すなわち「義務者の身体または財産に直接に実力を行使して、義務の履行があった状態を実現する」という部分は、直接強制の説明として正確です。誤っているのは後半、「その手続が行政代執行法に規定されている」という点です。行政代執行法には直接強制の手続規定は一切置かれていません。同法が定めているのは代執行だけであり、2条が代執行の要件を、3条が戒告・代執行令書による通知の手続を、5条・6条が費用の納付命令と国税滞納処分の例による強制徴収を規定しています。直接強制の一般的根拠法は現行法上存在しません。
沿革を押さえると理解しやすくなります。戦前の行政執行法(明治33年法律第84号)は、代執行・執行罰・直接強制を一般的な手段として横断的に認めていました。しかし人権侵害の温床になったという反省から、この法律は昭和23年に廃止され、代わって制定された行政代執行法は代執行のみを一般的制度として残しました。同法1条は「行政上の義務の履行確保に関しては、別に法律で定めるものを除いては、この法律の定めるところによる」と定めており、直接強制や執行罰を用いるには「別に法律で定める」こと、つまり個別の法律による特別の授権が必要になります。
その結果、直接強制は現在ごく限られた場面でしか認められていません。代表例は、成田国際空港の安全確保に関する緊急措置法3条に基づく工作物の使用禁止命令に伴う封鎖等の措置、学校施設の確保に関する政令21条に基づく学校施設の明渡しなどです。執行罰に至っては、砂防法36条が唯一の生き残りとされているのも有名な知識です。
ひっかけポイントは二つあります。第一に、「代執行を補完するものとして」という言い回しはもっともらしく読めますが、法制度としてはむしろ逆で、直接強制は例外中の例外として個別法に散在しているにすぎません。第二に、条例で直接強制や執行罰を創設することはできません。行政代執行法1条の「別に法律で定める」は法律の専管を意味するからです。この点は、代執行の対象義務については条例に基づく義務も含まれる(同法2条括弧書き)ことと対比して覚えておくと、選択肢3のような出題にも即応できます。
結論:この肢は「誤り」。
行政代執行法2条は、「法律(法律の委任に基く命令、規則及び条例を含む。以下同じ。)により直接に命ぜられ、又は法律に基き行政庁により命ぜられた行為(他人が代つてなすことのできる行為に限る。)について義務者がこれを履行しない場合……」と規定しています。この括弧書きに注目してください。条文は「条例を含む」と明記しているのであって、この肢のいう「条例は含まれない旨があわせて規定されている」というのは、条文の内容を正反対に述べたものです。したがって記述は誤りです。
条例が「法律」に含まれる以上、条例によって直接命じられた代替的作為義務、あるいは条例に基づいて行政庁が命じた代替的作為義務についても、行政代執行法がそのまま適用されます。地方公共団体が代執行を行うために、改めて代執行の手続を定める条例を制定する必要はありません。屋外広告物条例に基づく違反広告物の除却命令、空家等対策の推進に関する特別措置法や各種条例に関連する措置など、実務上も条例上の義務について代執行が行われています。
理由づけとしては、行政代執行法1条・2条が代執行を「一般的制度」として構築したことが挙げられます。義務を課す根拠規範が法律であるか条例であるかによって履行確保の可否が変わるのは不合理ですし、地方公共団体に条例による自主的な行政運営を認める以上、その実効性確保も同じ枠組みで用意するのが筋だからです。
ひっかけポイントは、条例で「できること」と「できないこと」の区別です。(1)条例上の義務を代執行することはできます。行政代執行法2条括弧書きが根拠です。(2)これに対して、条例で直接強制や執行罰といった代執行以外の強制手段を独自に創設することはできません。同法1条が「別に法律で定めるものを除いては」としており、法律の専管とされているからです。(3)また、代執行の対象は「他人が代わってすることのできる行為」、すなわち代替的作為義務に限られます。建物の除却や物件の撤去は代替的作為義務ですが、営業停止義務のような不作為義務、健康診断の受診のような非代替的作為義務、土地建物の明渡し義務は代執行になじまないと解されています(明渡しは占有者の排除という人の身体に対する実力行使を伴うため)。この肢は前半の「代替的作為義務に限られる」という部分は正しく、後半の条例の扱いで誤っている、という構造を見抜けるかが勝負でした。