行政行為の効力|公定力・不可争力を完全解説
行政行為の効力(公定力・不可争力・不可変更力・自力執行力・拘束力)を判例とともに完全解説。公定力の根拠と限界、不可争力と出訴期間の関係、各効力の相互関係を整理し、行政書士試験での得点力を高めます。
はじめに|行政行為にはなぜ特別な効力があるのか
行政行為には、私人間の法律行為にはない特別な効力が認められています。これは、行政が公益の実現を目的として活動することから、行政行為に一定の安定性と実効性を付与する必要があるためです。
行政行為の効力は、行政書士試験で極めて頻繁に出題されるテーマです。特に公定力と不可争力は択一式の定番問題であり、正確な理解が求められます。
本記事では、行政行為の効力として公定力、不可争力、不可変更力、自力執行力、拘束力を順に解説し、それぞれの根拠、内容、限界、そして相互の関係を明らかにします。
公定力とは
公定力の定義
公定力とは、行政行為に瑕疵(違法事由)があっても、権限ある機関(取消権者)によって取り消されるまでは、何人もその効力を否定することができないという効力です。
つまり、たとえ違法な行政行為であっても、正式に取り消されるまでは有効なものとして扱われます。国民はもちろん、裁判所も、行政行為が取消訴訟等の正規の手続で取り消されていない限り、その効力を前提として判断しなければなりません。
公定力の根拠
公定力の根拠については学説上の争いがありますが、主に以下の二つの考え方があります。
実体法的根拠説
行政行為には法律上の推定効があり、適法性の推定が働くとする見解です。しかし、この見解に対しては、なぜ行政行為にだけ適法性の推定が働くのかの根拠が不明確であるという批判があります。
取消訴訟の排他的管轄説(通説)
公定力は、行政事件訴訟法が取消訴訟の排他的管轄を認めていること(行政行為の効力を否定するには取消訴訟によらなければならないこと)の反射的効果にすぎないとする見解です。
処分の取消しの訴えと審査請求との関係については、この法律に定めるところによる。 ― 行政事件訴訟法 第8条
通説は取消訴訟の排他的管轄説に立ちます。この見解によれば、公定力は実体法上の効力ではなく、訴訟制度上の効果にすぎないことになります。
公定力の内容と範囲
公定力から導かれる重要な帰結は以下のとおりです。
- 国民は行政行為の効力を勝手に否定できない: 行政処分に不服がある場合、取消訴訟や審査請求という正規の手続を経なければならない
- 他の国家機関も原則として拘束される: 民事訴訟や刑事訴訟の裁判所も、行政行為の効力を前提として判断する
- 行政庁自身も拘束される: ただし、行政庁は職権取消しにより自ら行政行為の効力を否定できる
公定力に関する重要判例
もんじゅ訴訟最高裁判決を踏まえた行政処分の効力
行政処分に公定力があることは判例上も確立しています。行政処分が違法であっても取消訴訟で取り消されない限り有効であるということは、判例が一貫して認めてきた原則です。
行政処分と民事訴訟の関係
課税処分の公定力に関して、最高裁は以下の判断を示しています。
最判昭和30年12月26日は、課税処分の公定力について「行政処分は、たとえ違法であっても、その違法が重大かつ明白で当該処分を当然無効ならしめるものと認むべき場合を除いては、適法に取り消されない限り完全にその効力を有する」と判示しました。
この判示から、公定力には重要な例外があることが分かります。すなわち、無効な行政行為には公定力が及ばないという点です。
公定力の限界|無効な行政行為
公定力の最も重要な限界は、無効な行政行為には公定力が及ばないということです。
行政行為の瑕疵が「重大かつ明白」である場合、その行政行為は無効とされます。無効な行政行為は初めから効力を有さず、取消訴訟を経ることなくその無効を主張できます。
処分又は裁決の存否又はその効力の有無を確認する訴え ― 行政事件訴訟法 第3条第4項(無効等確認の訴え)
無効な行政行為と取消しうべき行政行為の区別は、次の記事(行政行為の瑕疵)で詳しく解説します。
公定力と刑事訴訟の関係
公定力が刑事訴訟にも及ぶかについては議論があります。
違反処分の例: 営業許可の取消処分を受けた者が、処分に従わず営業を続けた場合、無許可営業として刑事罰を科すことができるか。
通説・判例は、行政処分に公定力がある以上、刑事裁判所も処分の効力を前提として判断すべきとしています。ただし、処分が無効である場合は、刑事裁判所もその無効を認定できます。
不可争力とは
不可争力の定義
不可争力とは、行政行為がなされた後、一定期間(出訴期間・不服申立期間)が経過すると、もはやその行政行為の効力を争うことができなくなる効力です。
不可争力は「形式的確定力」とも呼ばれます。民事訴訟における確定判決の既判力に類似しますが、不可争力は出訴期間の経過によって生じる点が特徴です。
出訴期間
取消訴訟の出訴期間は、行政事件訴訟法第14条に規定されています。
取消訴訟は、処分又は裁決があったことを知った日から六箇月を経過したときは、提起することができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない。 ― 行政事件訴訟法 第14条第1項
取消訴訟は、処分又は裁決の日から一年を経過したときは、提起することができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない。 ― 行政事件訴訟法 第14条第2項
主観的出訴期間は「処分があったことを知った日から6か月」、客観的出訴期間は「処分の日から1年」です。いずれの期間も、正当な理由がある場合には例外が認められます。
審査請求の期間
行政不服審査法においても、審査請求には期間の制限があります。
審査請求は、処分があったことを知った日の翌日から起算して三月を経過したときは、することができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない。 ― 行政不服審査法 第18条第1項
審査請求は、処分があった日の翌日から起算して一年を経過したときは、することができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない。 ― 行政不服審査法 第18条第2項
不可争力の効果と限界
不可争力が生じると、もはや取消訴訟や審査請求によってその行政行為の効力を争うことはできなくなります。しかし、以下の点に注意が必要です。
- 不可争力は相手方(国民)側にのみ生じる: 行政庁側は出訴期間経過後も職権取消し・撤回を行うことが可能
- 無効な行政行為には不可争力は生じない: 無効な行政行為は初めから効力を有さないため、出訴期間の制限なく無効の主張が可能
- 国家賠償請求は妨げられない: 不可争力が生じても、別途国家賠償を請求することは可能
不可変更力とは
不可変更力の定義
不可変更力とは、行政行為を行った行政庁自身が、その行政行為の内容を変更(取消し・撤回)することができなくなる効力です。「実質的確定力」とも呼ばれます。
不可変更力が認められる行為
不可変更力は、すべての行政行為に認められるわけではありません。不可変更力が認められるのは、主に以下の行為です。
- 争訟裁断的行為: 審査請求に対する裁決・決定など、紛争を裁断する性質を有する行為
- 不服申立てに対する裁決・決定
通常の行政行為(許認可など)には不可変更力は認められず、行政庁は法律の根拠に基づいて職権取消しや撤回を行うことができます。
不可変更力の根拠
不可変更力の根拠は、紛争の一回的解決と法的安定性の確保にあります。審査請求に対する裁決が何度でも変更されうるとすると、紛争がいつまでも解決せず、法的安定性が著しく害されるからです。
裁決は、関係行政庁を拘束する。 ― 行政不服審査法 第52条第1項
自力執行力とは
自力執行力の定義
自力執行力とは、行政行為によって課された義務を相手方が履行しない場合に、行政庁が裁判所の手を借りずに自ら強制的にその義務を実現できる効力です。
自力執行力の内容
私人間の法律関係では、義務の強制的実現には裁判所の判決と強制執行手続が必要です(自力救済の禁止)。しかし、行政行為の場合には、法律に基づいて行政庁自らが強制手段をとることが認められる場合があります。
具体的な強制手段としては以下のものがあります。
- 行政代執行: 代替的作為義務の不履行に対して、行政庁が自ら義務者のなすべき行為をし、又は第三者にこれをさせ、その費用を義務者から徴収する制度
法律(法律の委任に基く命令、規則及び条例を含む。以下同じ。)により直接に命ぜられ、又は法律に基き行政庁により命ぜられた行為(他人が代つてなすことのできる行為に限る。)について義務者がこれを履行しない場合、他の手段によつてその履行を確保することが困難であり、且つその不履行を放置することが著しく公益に反すると認められるときは、当該行政庁は、自ら義務者のなすべき行為をなし、又は第三者をしてこれをなさしめ、その費用を義務者から徴収することができる。 ― 行政代執行法 第2条
- 行政上の強制徴収: 金銭債務の不履行に対して、国税滞納処分の例により強制的に徴収する制度
- 直接強制: 義務者の身体・財産に直接実力を加えて義務の履行を実現する制度(法律の個別の根拠が必要)
自力執行力の限界
自力執行力は、すべての行政行為に当然に認められるわけではありません。法律に個別の根拠がある場合にのみ認められます。
行政代執行法は代替的作為義務の強制執行に関する一般法ですが、非代替的作為義務や不作為義務の強制執行については一般法がなく、個別法の根拠が必要です。
拘束力とは
拘束力の定義と種類
拘束力は、行政行為が関係者を拘束する効力です。広義には以下の二つに区分されます。
実質的拘束力(内容的拘束力)
行政行為がその内容に応じて関係者(名宛人・行政庁)を拘束する効力です。例えば、営業許可を受けた者は適法に営業を行うことができ、行政庁はその営業を違法として取り締まることはできません。
これは行政行為の効力として当然に認められるものです。
拘束力(行政不服審査法・行政事件訴訟法における拘束力)
行政事件訴訟法第33条は、取消判決の拘束力を規定しています。
処分又は裁決を取り消す判決は、その事件について、処分又は裁決をした行政庁その他の関係行政庁を拘束する。 ― 行政事件訴訟法 第33条第1項
この拘束力により、行政庁は取消判決の趣旨に従い、改めて処分を行わなければなりません。同一の理由で同一の処分を繰り返すことは、拘束力に反して許されません。
行政不服審査法第52条も同様の規定を置いています。
裁決は、関係行政庁を拘束する。 ― 行政不服審査法 第52条第1項
各効力の相互関係
ここまで解説した行政行為の効力を整理し、相互の関係を明らかにします。
効力の一覧
効力の序列と関係
- 公定力と不可争力は表裏の関係にあります。公定力は「取り消されるまでは有効」、不可争力は「一定期間経過後は取消しを争えない」という関係です
- 不可変更力は行政庁自身に向けられた効力であり、不可争力(国民に向けられた効力)とは方向が異なります
- 自力執行力は法律に根拠がある場合にのみ認められる特別な効力であり、すべての行政行為に認められるわけではありません
試験での出題ポイント
行政行為の効力に関する行政書士試験の出題ポイントを整理します。
- 公定力の定義と根拠: 公定力とは何か、通説は取消訴訟の排他的管轄説であること、無効な行政行為には公定力が及ばないことを正確に理解する
- 公定力の限界: 重大かつ明白な瑕疵がある行政行為は無効であり、公定力の例外となる。無効確認訴訟との関係も重要
- 不可争力と出訴期間: 主観的出訴期間(6か月)と客観的出訴期間(1年)の具体的な期間を正確に暗記する。審査請求の期間(3か月・1年)との比較も頻出
- 不可変更力の適用範囲: 不可変更力はすべての行政行為に認められるわけではなく、争訟裁断的行為にのみ認められる。この点は頻出の引っかけポイント
- 自力執行力の条件: 自力執行力は法律の個別の根拠がある場合にのみ認められる。すべての行政行為に当然に認められるわけではない
- 各効力の比較: 各効力の適用範囲(すべての行政行為か、一部か)、方向(国民に対してか、行政庁に対してか)を整理しておく
行政行為の公定力とは、行政行為が違法であっても、権限ある機関によって取り消されるまでは何人もその効力を否定できない効力である。
不可変更力はすべての行政行為に認められ、行政庁は一度行った行政行為を自ら取り消すことができない。
行政行為の不可争力が生じた後であっても、当該行政行為が違法であった場合、国家賠償請求をすることは妨げられない。
まとめ
行政行為の効力は、行政書士試験で最も重要なテーマの一つです。
公定力は、行政行為が取り消されるまで何人もその効力を否定できないという効力であり、通説はその根拠を取消訴訟の排他的管轄に求めます。ただし、無効な行政行為には公定力が及びません。
不可争力は、出訴期間(主観的6か月、客観的1年)の経過により取消しを争えなくなる効力です。不可変更力は争訟裁断的行為にのみ認められる行政庁自身に対する効力であり、自力執行力は法律の個別の根拠がある場合にのみ認められる特別な効力です。
各効力の定義、根拠、適用範囲、そして限界を正確に区別して理解することが、行政書士試験での得点につながります。特に、公定力の限界としての「無効な行政行為」の概念は、次の記事で解説する行政行為の瑕疵の理解と密接に関連します。
次の記事では、行政行為の瑕疵について、無効と取消しの区別を中心に解説します。