物権的請求権の3類型|返還・妨害排除・予防
物権的請求権の3類型(返還請求権・妨害排除請求権・妨害予防請求権)の意義・要件・効果を解説。占有訴権との比較や費用負担の問題など、行政書士試験で出題される論点を網羅的に整理します。
はじめに|物権的請求権は条文なき制度
物権的請求権は、物権法の中でも独特な位置づけにある制度です。民法には物権的請求権を正面から規定した条文がありません。しかし、物権の排他性(物権は他人の侵害を排除できるという性質)から当然に認められる権利として、判例・学説上確立しています。
行政書士試験では、物権的請求権の3類型の区別、占有訴権との比較、費用負担の問題などが出題されます。条文がないぶん、判例の理解が重要になります。
物権的請求権の意義と根拠
物権的請求権とは
物権的請求権とは、物権の円満な実現が妨げられ、または妨げられるおそれがある場合に、その妨害の除去または予防を求める権利をいいます。
物権は排他的支配権であるため、その支配が侵害された場合に侵害の除去を求めることができなければ、物権の実効性が確保できません。物権的請求権は、物権の排他性から当然に導かれる権利です。
法的根拠
民法には物権的請求権を直接定めた一般規定はありませんが、以下の規定がその存在を前提としています。
- 202条1項: 「本権の訴えと占有の訴えとは互いに妨げない」→ 本権(物権)に基づく訴えの存在を前提
- 占有訴権の規定(197条〜200条): 占有権にも請求権が認められるなら、本権にも当然認められる
物権的請求権の法的性質
物権的請求権の法的性質については、以下のように理解されています。
- 物権そのものの効力: 物権的請求権は独立した権利ではなく、物権の効力として認められる
- 相手方の故意・過失は不要: 不法行為(709条)と異なり、侵害者の故意・過失を要件としない
- 消滅時効にかからない: 物権が存在する限り、物権的請求権も消滅しない
物権的請求権の3類型
返還請求権
返還請求権とは、物権の目的物を占有する者に対して、その返還を請求する権利です。
要件:
- 請求者が物権(所有権など)を有すること
- 相手方が目的物を占有していること
具体例:
- AがBに貸していた自動車を、Bが返還しない場合にAが返還を求める
- AのBに対する不動産の明渡請求
所有権に基づく返還請求権は最も基本的な物権的請求権であり、実務上も頻繁に用いられます。
妨害排除請求権
妨害排除請求権とは、物権の円満な行使が占有の侵奪以外の方法で妨害されている場合に、その妨害の除去を請求する権利です。
要件:
- 請求者が物権を有すること
- 物権の行使が現に妨害されていること(占有の侵奪を除く)
具体例:
- 隣地の建物が自分の土地に越境している場合の撤去請求
- 自分の土地に不法に廃棄物が投棄された場合の撤去請求
- 自分の不動産に無断で抵当権設定登記がなされた場合の抹消登記請求
妨害予防請求権
妨害予防請求権とは、物権の円満な行使が将来妨害されるおそれがある場合に、その予防措置を請求する権利です。
要件:
- 請求者が物権を有すること
- 将来、物権の行使が妨害されるおそれがあること
具体例:
- 隣地の崖が崩落しそうで自分の土地に被害が及ぶおそれがある場合の予防措置請求
- 隣地の建築工事により自分の土地に損害が生じるおそれがある場合の予防請求
3類型の比較表
物権的請求権の相手方
誰に対して請求できるか
物権的請求権の相手方は、各類型によって異なります。
重要なのは、相手方は現在の侵害状態を作り出している者であり、過去に侵害を引き起こした者ではないという点です。
具体的な問題|不法占拠者から転借した者
AがBに土地を貸し、BがAに無断でCに転貸した場合、Aは現在の占有者であるCに対して所有権に基づく返還請求権を行使できます。Bに対しても、賃貸借契約の解除後であれば返還請求が可能です。
費用負担の問題
妨害排除の費用は誰が負担するか
物権的請求権を行使した場合、妨害排除にかかる費用を誰が負担するかは重要な問題です。この点について民法に明文規定はなく、解釈に委ねられています。
原則的な考え方: 妨害排除請求権は物権の効力として認められるものであるため、妨害を生じさせている者(相手方)が費用を負担するのが原則です。
判例の立場
最高裁は、以下のような判断を示しています。
不法投棄の事例: 自分の土地に不法に廃棄物を投棄された場合、土地所有者は投棄者に対して撤去費用を請求できます。
抵当権に基づく妨害排除の事例(最大判平成11年11月24日): 抵当権者は、抵当不動産の所有者に対して、抵当不動産の交換価値を維持するための妨害排除を請求できる場合があるとしました。
無過失の占有者に対する費用負担
問題が複雑になるのは、侵害者に過失がない場合です。たとえば、自然災害により隣地の樹木が倒れて自分の土地を塞いでいる場合、隣地所有者に過失がなくても妨害排除請求は可能ですが、費用負担については争いがあります。
占有訴権との比較
占有訴権(占有の訴え)の3類型
占有権に基づく請求権(占有訴権)も、物権的請求権と同様に3類型があります(197条〜200条)。
物権的請求権と占有訴権の違い
占有訴権の提訴期間
本権の訴えと占有の訴えの関係(202条)
占有の訴えは本権の訴えを妨げず、また、本権の訴えは占有の訴えを妨げない。
――民法202条1項
占有の訴えについては、本権に関する理由に基づいて裁判をすることができない。
――民法202条2項
つまり、物権的請求権と占有訴権は別個独立に行使でき、相互に妨げません。また、占有の訴えの審理では、本権の有無を判断材料にすることはできません。
所有権以外の物権に基づく物権的請求権
地上権・地役権に基づく物権的請求権
物権的請求権は所有権だけでなく、すべての物権に認められます。
- 地上権者: 地上権の目的たる土地の占有を妨害された場合、妨害排除を請求できる
- 地役権者: 通行地役権を妨害された場合、障害物の撤去を請求できる
抵当権に基づく物権的請求権
抵当権は非占有担保物権であるため、占有を前提とする返還請求権は原則として認められません。しかし、判例は抵当不動産の交換価値の維持が害されるおそれがある場合に、妨害排除請求権を認めています。
抵当権者は、抵当不動産の所有者に対し、その有する抵当権に基づく妨害排除請求権として、上記状態の排除を求めることができる。
――最判平成17年3月10日の趣旨
この判例は、抵当権に基づく物権的請求権の範囲を拡大した重要なものです。
登記請求権との関係
登記請求権の3つの根拠
不動産の登記請求権には、以下の3つの根拠があります。
- 物権的登記請求権: 物権変動の実体関係と登記が一致しない場合に、物権に基づいて登記を求める権利
- 債権的登記請求権: 売買契約などの債権関係に基づいて登記を求める権利
- 物権変動的登記請求権: 物権変動そのものに基づいて登記を求める権利
物権的請求権の一態様として、抹消登記請求権があります。自分の不動産に無断で登記がなされた場合、所有権に基づく妨害排除請求権として抹消登記を請求できます。
まとめ
物権的請求権は、条文に明記されていないながらも、物権法の根幹をなす重要な制度です。
- 3類型: 返還請求権・妨害排除請求権・妨害予防請求権
- 要件: 相手方の故意・過失は不要
- 占有訴権との関係: 本権の訴えと占有の訴えは別個独立
- 費用負担: 原則として侵害者が負担
- 消滅時効: 物権が存続する限り消滅しない
占有訴権の提訴期間(1年以内など)との対比で出題されることが多いため、両者の違いを正確に整理しておきましょう。
物権的請求権を行使するためには、相手方に故意または過失があることが必要である。
占有の訴えの審理において、裁判所は本権(所有権等)に関する理由に基づいて裁判をすることができる。
物権的請求権は、所有権だけでなく地上権や地役権にも認められる。
法律科目対策
条文ドリル × 肢別演習で効率的に学ぶ
条文の穴埋めドリルと肢別演習で、法律科目の知識を効率的に定着。 行政書士試験の法令科目対策に対応しています。