地役権と用益物権|地上権・永小作権との比較
用益物権の全体像を整理し、地上権・永小作権・地役権・入会権を比較解説。地上権と賃借権の違い、地役権の要役地・承役地の関係、通行地役権の時効取得など、行政書士試験で頻出の論点をわかりやすくまとめます。
はじめに|用益物権は物権法の得点源
用益物権とは、他人の土地を一定の目的で使用・収益する物権の総称です。民法は、地上権・永小作権・地役権・入会権の4つの用益物権を定めています。
行政書士試験では、用益物権に関する出題は択一式で見られ、特に地上権と賃借権の違い、地役権の基本的な性質がよく問われます。条文知識が中心のため、正確に覚えれば確実に得点できる分野です。本記事では、4つの用益物権を比較しながら整理します。
用益物権は、担保物権(抵当権・質権・留置権・先取特権)と並ぶ「制限物権」の一類型です。所有権が「使用・収益・処分」という三つの権能をすべて含む完全な物権であるのに対し、用益物権は所有権の権能のうち「使用・収益」のみを目的物上に切り出して取得する物権です。したがって、用益物権者は目的物そのものを処分(売却・廃棄)する権限は持ちません。この「所有権の一部権能を物権として切り出す」という発想を押さえておくと、各用益物権の性質や賃借権(債権)との違いが理解しやすくなります。
また、用益物権はいずれも条文の文言がそのまま出題の素材になります。判例の蓄積が比較的少なく、論点が条文に集約されているため、択一式で安定して得点できる「コスパの高い分野」です。本記事では、条文の趣旨・要件整理表・重要判例の事案と判旨・頻出の出題角度・受験生がつまずきやすい誤解を盛り込み、得点源として仕上げられるよう網羅的に解説します。
用益物権の全体像
用益物権の種類
用益物権の共通的性質
- 他人の土地を対象とする物権である
- 使用・収益を目的とする(処分はできない)
- 物権であるから、登記により第三者に対抗できる
- 排他性を有し、妨害排除請求権・返還請求権がある
物権法定主義との関係
用益物権は、いずれも民法という法律によって種類と内容が定められています。これは物権法定主義(民法第175条)の表れです。
物権は、この法律その他の法律に定めるもののほか、創設することができない。 ― 民法 第175条
物権法定主義は、当事者が契約によって自由に新種の物権を作り出すことを禁じる原則です。物権は排他性を持ち第三者にも効力が及ぶため、その種類と内容を法律であらかじめ画一的に定めておかなければ、取引の安全を害するからです。したがって、たとえば「他人の土地の眺望を確保する権利」を物権として持ちたい場合でも、当事者が「眺望物権」を新設することはできず、既存の用益物権である地役権(眺望地役権)の枠組みを用いるほかありません。この理解が、後述する地役権の「目的の自由」とつながります。
用益物権と債権(賃借権・使用借権)の根本的な違い
用益物権を理解するうえで最も重要なのは、物権と債権の違いです。
- 物権は、物に対する直接・排他的な支配権であり、誰に対しても主張できる(対世効・絶対権)。
- 債権は、特定の人に対して一定の行為を請求する権利であり、原則として契約の相手方にしか主張できない(相対権)。
賃借権・使用借権は、土地の使用・収益を内容とする点では用益物権と似ていますが、その本質は「貸主に対して使用させるよう請求する債権」です。このため、賃借権は本来、第三者(土地の新所有者など)に対して当然には主張できません。ただし、借地借家法による特則(後述)や民法第605条の対抗要件具備により、債権でありながら物権に近い保護を受けられる場面が多く、両者の差は実務上縮小しています。試験では、この「原則(物権/債権の差)」と「特則による接近」の両面が問われます。
地上権
定義
地上権とは、他人の土地において工作物又は竹木を所有するため、その土地を使用する権利です(民法第265条)。
地上権者は、他人の土地において工作物又は竹木を所有するため、その土地を使用する権利を有する。 ― 民法 第265条
ここでいう「工作物」とは、建物・橋・トンネル・電柱・記念碑など、地上・地下に人工的に設けられた施設をいい、「竹木」とは植林された樹木をいいます。耕作目的(田畑の作物栽培)は地上権の目的に含まれず、それは永小作権の領域です。両者の目的を取り違えさせる出題があるため、「地上権=工作物・竹木の所有」「永小作権=耕作・牧畜」と対で覚えます。
地上権の特徴
- 物権: 登記をすれば第三者に対抗できる
- 存続期間: 制限なし(永久の地上権も可能)
- 地代: 必ずしも必要ではない(無償でも成立する)
- 譲渡・転貸: 地主の承諾なく自由に譲渡・転貸できる
- 相続: 相続の対象となる
地上権の存続期間と地代の趣旨
民法は地上権の存続期間について上限・下限の定めを置いていません。当事者が永久の地上権を設定することも判例上認められています。期間の定めがない場合、当事者の請求により裁判所が20年以上50年以下の範囲で期間を定めることができます(民法第268条第2項)。
設定行為で地上権の存続期間を定めなかった場合において、別段の慣習がないときは、地上権者は、いつでもその権利を放棄することができる。ただし、地代を支払うべきときは、一年前に予告をし、又は期限の到来していない一年分の地代を支払わなければならない。 ― 民法 第268条第1項
地代が地上権の「要素」ではない点は、永小作権・賃借権との決定的な違いです。地上権は無償でも成立し、地代の定めは任意です。地代の定めがある場合には、永小作権の規定(地代に関する第266条が永小作権の規定を準用)に従って処理されます。なお、土地の工作物が地震・水害等で滅失しても、地上権はそれによって消滅しません(目的物である土地が存続する限り権利は残る)。これは、地上権が「土地を使用する権利」であって「工作物の権利」ではないことの帰結です。
地上権と賃借権の比較
行政書士試験では、地上権と土地の賃借権の違いが頻出です。
比較表の各項目を理解する
登記請求権の有無が両者を分ける核心です。地上権者は物権者であるため、土地所有者に対して地上権設定登記への協力を当然に請求できます。これに対し、賃借人は債権者にすぎず、判例(大判大正10年7月11日)は、特約のない限り賃貸人は賃借権の登記に協力する義務を負わないとしています。このため、賃借人が民法第605条の登記対抗力を得るのは実際には困難で、借地借家法による保護(建物の登記による対抗)が重要になります。
譲渡・転貸の自由も対照的です。地上権は物権であり、地上権者は自己の財産として地主の承諾なく自由に譲渡・転貸できます。一方、賃借権の譲渡・転貸には賃貸人の承諾が必要で、無断譲渡・転貸は解除原因となります(民法第612条)。ただし、無断転貸であっても、背信的行為と認めるに足りない特段の事情がある場合には解除できないとするのが確立した判例法理です(最判昭和28年9月25日など。背信行為論)。
賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、又は賃借物を転貸することができない。
賃借人が前項の規定に違反して第三者に賃借物の使用又は収益をさせたときは、賃貸人は、契約の解除をすることができる。 ― 民法 第612条
このように、地上権は賃借権より権利者保護が手厚い「強い権利」です。しかし実務上は、土地所有者(地主)にとって地上権の設定は自己の権利を大きく制限するため、貸主側が地上権を嫌い、賃借権の形をとることが多いのが現実です。試験では「強いのは地上権」「実務で多いのは賃借権」という対比を押さえます。
法定地上権(388条)
土地と建物が同一の所有者に属する場合に、土地又は建物に抵当権が設定され競売の結果別々の所有者に帰属したときは、建物について法定地上権が成立します(民法第388条)。
土地及びその上に存する建物が同一の所有者に属する場合において、その土地又は建物につき抵当権が設定され、その実行により所有者を異にするに至ったときは、その建物について、地上権が設定されたものとみなす。この場合において、地代は、当事者の請求により、裁判所が定める。 ― 民法 第388条
法定地上権の成立要件は以下の4つです。
- 抵当権設定時に土地上に建物が存在すること
- 抵当権設定時に土地と建物が同一所有者に属すること
- 土地又は建物に抵当権が設定されたこと
- 競売の結果、土地と建物が別々の所有者に帰属したこと
法定地上権の趣旨と注意点
法定地上権が認められる趣旨は、建物収去という社会経済的損失の回避にあります。土地と建物が同一所有者の場合、自分の土地に自分が建物を建てているので土地利用権(地上権・賃借権)は観念されません(自己借地は不要)。しかし抵当権の実行によって土地と建物の所有者が分かれると、建物所有者は土地を利用する権原を失い、本来は建物を収去しなければならなくなります。これを避けるため、法律が当然に地上権を発生させるのです。
要件で特に注意すべきは「抵当権設定時に建物が存在していたか」という第1要件です。更地に抵当権を設定した後で建物が建てられた場合、原則として法定地上権は成立しません(更地評価で融資した抵当権者の期待を保護するため)。また、第2要件の「同一所有者」も抵当権設定時を基準に判断します。これらは抵当権分野の最重要論点であり、用益物権の理解が前提となります。なお、法定地上権の地代は当事者の協議で定まらないときは裁判所が定めます。
永小作権
定義
永小作権とは、小作料を支払って他人の土地において耕作又は牧畜をする権利です(民法第270条)。
永小作人は、小作料を支払って他人の土地において耕作又は牧畜をする権利を有する。 ― 民法 第270条
永小作権の特徴
- 有償: 小作料の支払いが要素
- 存続期間: 20年以上50年以下(民法第278条第1項)。50年を超える存続期間を定めた場合は50年に短縮される
- 更新: 可能だが、更新後の期間は50年を超えることができない
- 譲渡・転貸: 原則として自由(ただし設定行為で禁止できる)
存続期間の条文を正確に押さえる
永小作権の存続期間は、二十年以上五十年以下とする。設定行為で五十年より長い期間を定めたときであっても、その期間は、五十年とする。
永小作権の設定は、更新することができる。ただし、その存続期間は、更新の時から五十年を超えることができない。
設定行為で永小作権の存続期間を定めなかったときは、その期間は、別段の慣習がある場合を除き、三十年とする。 ― 民法 第278条
ポイントは3つです。第一に、20年以上50年以下という上下限があること。これは存続期間に制限のない地上権との明確な差です。第二に、50年を超える定めをしても50年に短縮される(無効になって期間の定めがなくなるのではない)こと。第三に、期間を定めなかった場合は、別段の慣習がなければ30年となること。「50年超→50年」「定めなし→30年」という二つの数字を正確に区別して暗記します。
永小作権の消滅
- 引き続き2年以上小作料の支払いを怠ったときは、土地所有者は永小作権の消滅を請求できる(民法第276条)
- 永小作人が土地に永久の損害を与えたときも消滅請求が可能
永小作人が引き続き二年以上小作料の支払を怠ったときは、土地の所有者は、永小作権の消滅を請求することができる。 ― 民法 第276条
また、永小作人には土地に対する義務が課されています。永小作人は、土地に回復することのできない損害を生ずべき変更を加えることができない(民法第271条)。耕作・牧畜目的の権利であるため、土地の本来の性質を損なう利用は許されないという趣旨です。なお、小作料の不払いがあっても直ちに消滅するのではなく、土地所有者の「消滅請求」によって消滅する点に注意します(当然消滅ではない)。
永小作権に関する規定の準用
永小作権について民法に定めのない事項は、設定行為で別段の定めをした場合を除き、その性質に反しない限り土地の賃貸借に関する規定が準用されます(民法第273条)。また、永小作人は耕作・牧畜のために土地に加えた工作物等について、地上権の費用償還等の規定が準用される場面があります。試験での頻度は高くありませんが、「永小作権は賃貸借の規定を準用する」という方向性は押さえておくとよいでしょう。
地上権との比較
地役権
定義
地役権とは、設定行為で定めた目的に従い、他人の土地を自己の土地の便益に供する権利です(民法第280条)。
地役権者は、設定行為で定めた目的に従い、他人の土地を自己の土地の便益に供する権利を有する。ただし、第三章第一節(相隣関係)の規定(公の秩序に関するものに限る。)に違反しないものでなければならない。 ― 民法 第280条
「設定行為で定めた目的に従い」という文言が重要です。地役権の内容(便益の種類)は当事者が設定行為で自由に定めることができ、通行・引水・眺望確保・日照確保など多様です。物権法定主義のもとでも、地役権という「器」の内部では目的を柔軟に設定できる点が地役権の特徴です。ただし、相隣関係の公序に関する規定に反する内容は認められません。
要役地と承役地
- 要役地: 地役権によって便益を受ける土地
- 承役地: 地役権の目的となる他人の土地(便益を提供する側)
例えば、AがBの土地を通行するために地役権を設定した場合、Aの土地が要役地、Bの土地が承役地です。
要役地と承役地は、必ずしも隣接している必要はありません。たとえば引水地役権では、要役地と水源地(承役地)が離れていても、その間の便益関係が成立すれば地役権を設定できます。「要役地=便益を受ける(得をする)土地」「承役地=便益を提供する(負担する)土地」と、語感(役に立ってもらう/役を承る)で結びつけて覚えると混同しません。
地役権の種類
通行地役権と相隣関係の囲繞地通行権(隣地通行権、民法第210条以下)は混同しやすい論点です。囲繞地通行権は、袋地の所有者が公道に出るために法律上当然に認められる権利(法定の権利)であり、設定行為を要しません。これに対し通行地役権は、当事者の設定契約(または時効)によって生じる物権です。「法律上当然に生じる=囲繞地通行権」「契約等で設定する=通行地役権」という区別を押さえます。
地役権の特徴
付従性
地役権は、要役地の所有権に従たるものとして、これとともに移転します(民法第281条第1項本文)。要役地の所有権が移転すれば地役権も移転し、要役地の所有権から分離して地役権のみを処分することはできません。
地役権は、要役地(地役権者の土地であって、他の土地から便益を受けるものをいう。以下同じ。)の所有権に従たるものとして、その所有権とともに移転し、又は要役地について存する他の権利の目的となるものとする。ただし、設定行為に別段の定めがあるときは、この限りでない。
地役権は、要役地から分離して譲り渡し、又は他の権利の目的とすることができない。 ― 民法 第281条
付従性の効果として、要役地が売買されると地役権も買主に当然に移転し(設定行為に別段の定めがない限り)、要役地に抵当権が設定されれば地役権もその抵当権の効力の及ぶ範囲に含まれます。逆に、地役権だけを要役地から切り離して売ることはできません(第281条第2項)。地役権は「要役地のための」権利であり、要役地と運命を共にするという理解が核心です。
不可分性
地役権は、要役地又は承役地が分割されたり一部が譲渡されたりしても、全部について存続します(民法第282条)。
土地の共有者の一人は、その持分につき、その土地のために又はその土地について存する地役権を消滅させることができない。
土地の分割又はその一部の譲渡の場合には、地役権は、その各部のために又はその各部について存する。ただし、地役権がその性質により土地の一部のみに関するときは、この限りでない。 ― 民法 第282条
不可分性とは、地役権が土地の一部分や持分について個別に消滅・成立することを認めない性質です。要役地が共有の場合、共有者の一人が自己の持分についてだけ地役権を消滅させることはできません(第282条第1項)。また、要役地・承役地が分割されても、地役権は分割後の各部について存続します(第282条第2項本文)。多数当事者間で権利関係が複雑化するのを防ぎ、地役権の安定を図る趣旨です。後述する時効取得・時効中断(更新)の規定にも、この不可分性の発想が貫かれています。
承役地所有者の義務
設定行為又は特別の慣習により承役地所有者が自己の費用で地役権の行使のための工作物の設置等の義務を負担する場合、その義務は承役地の所有権の特定承継人にも及びます(民法第286条)。
通常、地役権は「承役地所有者が一定の負担を受忍する」という消極的な内容(通行を妨げない等)が中心ですが、設定行為や慣習によって承役地所有者が積極的に工作物の設置・修繕等を行う義務を負う場合があります。この義務は土地に付着して特定承継人にも承継されるのが原則ですが、承役地所有者は、地役権に必要な土地の部分の所有権を放棄して地役権者に移転すれば、この義務を免れることができます(民法第287条、委棄)。
地役権の時効取得
地役権は時効によっても取得できますが、要件に注意が必要です。
地役権は、継続的に行使され、かつ、外形上認識することができるものに限り、時効によって取得することができる。 ― 民法 第283条
- 継続的に行使: 断続的な行使では不可
- 外形上認識可能: 外部から地役権の行使が認識できること
通行地役権の時効取得をめぐる判例
通行地役権の場合、判例は、通路を開設した者のみが時効取得でき、承役地所有者が開設した通路を通行しているだけでは「継続的に行使」とは認められないとしています(最判昭和30年12月26日)。ただし、要役地所有者によって通路が開設された場合は、継続性の要件を満たします。
最判昭和30年12月26日の事案と判旨
- 事案: 要役地の所有者が、承役地を通行していたが、その通路は承役地所有者(または第三者)が設けたものであった。要役地所有者が通行地役権の時効取得を主張した。
- 判旨: 民法第283条にいう「継続」の要件を満たすためには、承役地たる他人所有の土地の上に通路の開設を要し、しかもその開設は要役地所有者によってなされることを要する。
- 意義: 単に他人が作った通路をたまたま通行しているだけでは「継続的行使」とはいえず、時効取得は認められない。時効取得を主張する者(要役地所有者)自身が通路を開設し、それを継続して通行していることが必要となる。
この判例は通行地役権の時効取得における最重要判例です。「要役地所有者による通路開設」がキーワードで、誰が通路を作ったかを問わずに通行さえしていれば時効取得できる、という選択肢は誤りとなります。
不可分性と時効取得
共有関係にある場合の時効取得にも不可分性が及びます。土地の共有者の一人が時効によって地役権を取得したときは、他の共有者もこれを取得します(民法第284条第1項)。地役権が土地全体のために存するという不可分性の現れです。
土地の共有者の一人が時効によって地役権を取得したときは、他の共有者も、これを取得する。 ― 民法 第284条第1項
地役権の消滅時効
地役権は、行使しないことによって消滅時効にかかります。
- 継続的でなく行使される地役権は、最後の行使の時から20年で消滅
- 継続的に行使される地役権は、行使を妨げる事実が生じた時から20年で消滅(民法第291条・292条)
第百六十六条第二項に規定する消滅時効の期間は、継続的でなく行使される地役権については最後の行使の時から起算し、継続的に行使される地役権についてはその行使を妨げる事実が生じた時から起算する。 ― 民法 第291条
共有者の一人による地役権の時効中断(更新)は、他の共有者のためにもその効力を生じます(民法第292条)。
要役地が数人の共有に属する場合において、その一人のために時効の完成猶予又は更新があるときは、その完成猶予又は更新は、他の共有者のためにも、その効力を生ずる。 ― 民法 第292条
時効取得(第284条)と消滅時効の中断(第292条)の双方で、共有者の一人の行為が他の共有者にも有利に働く点が一貫しています。これも地役権の不可分性の帰結であり、出題されやすいポイントです。
入会権
意義
入会権とは、一定の地域の住民が山林原野などを共同で利用する慣習上の権利です。
民法は入会権について詳細な規定を設けず、以下のように慣習に委ねています。
- 共有の性質を有する入会権: 各地方の慣習に従うほか、共有の規定を適用(民法第263条)
- 共有の性質を有しない入会権: 各地方の慣習に従うほか、地役権の規定を準用(民法第294条)
共有の性質を有する入会権については、各地方の慣習に従うほか、この節の規定を適用する。 ― 民法 第263条
共有の性質を有しない入会権については、各地方の慣習に従うほか、この章の規定を準用する。 ― 民法 第294条
入会権の特徴
- 慣習に基づく権利: 地域の慣習によって内容が定まる
- 構成員の変更: 地域住民の加入・脱退は慣習に従う
- 登記: 実務上、入会権の登記は困難
- 処分の制限: 入会権は構成員全員の同意がなければ処分できない
入会権をめぐる判例の発想
入会権は、民法上の規定が極めて薄く、慣習を第一次的な規律とする特殊な権利です。共有の性質を有する入会権は、入会団体(村落共同体)による「総有」と性質決定されるのが通説・判例で、各構成員は持分処分や分割請求ができないと解されています(通常の共有と異なる点)。試験では、「263条=共有の規定」「294条=地役権の規定を準用」という条文の対応関係と、「慣習が優先する」という点が問われます。なお、入会権は登記をしなくても第三者に対抗できるとするのが判例(入会権は登記の対象とならず、慣習による存在で対抗できる)です。
4つの用益物権の総合比較
対価の要否を横断整理する
用益物権のなかで、対価(地代・小作料)が「要素」となっているのは永小作権だけです。地上権・地役権は無償でも成立します。賃借権が有償(賃料が要素)であることと合わせ、「永小作権と賃借権は有償が要素」「地上権・地役権は無償でも可」という横断整理が頻出です。永小作権の有償性は、小作料2年分の不払いによる消滅請求(第276条)とも結びつくため、セットで理解します。
存続期間を横断整理する
存続期間の上限・下限が定められているのは永小作権(20年以上50年以下)だけです。地上権・地役権には期間制限がありません。永小作権の「50年超→50年に短縮」「定めなし→30年」という数字は、他の権利と混同しないよう、永小作権固有の論点として独立に覚えます。
試験での出題ポイント
- 地上権と賃借権の違い: 物権か債権か、譲渡・転貸の自由度、登記請求権の有無
- 地上権は無償でも成立: 永小作権は小作料が要素(有償のみ)
- 地役権の付従性: 要役地の所有権とともに移転し、分離処分不可
- 地役権の時効取得: 継続的行使+外形上認識可能が要件
- 永小作権の存続期間: 20年以上50年以下。50年超は50年に短縮
- 法定地上権の4要件: 抵当権の論点だが地上権の理解が前提
過去問で問われた角度
行政書士試験・各種法律系試験で繰り返し問われてきた典型的な角度を整理します。
- 地上権の地代に関する誤り選択肢: 「地上権は地代の支払いがなければ成立しない」とする肢は誤り。地代は要素ではない。
- 譲渡・転貸の承諾: 「地上権の譲渡には土地所有者の承諾が必要」とする肢は誤り。物権なので承諾不要。賃借権(612条)と取り違えさせる。
- 地役権の分離処分: 「地役権は要役地と分離して単独で譲渡できる」とする肢は誤り。付従性により分離処分不可(281条2項)。
- 通行地役権の時効取得: 「他人が開設した通路を通行していれば時効取得できる」とする肢は誤り。要役地所有者による通路開設が必要(最判昭和30年12月26日)。
- 永小作権の存続期間: 「永小作権の存続期間を60年と定めた場合、その定めは無効となり期間の定めがないものとして扱われる」とする肢は誤り。50年に短縮される。
- 共有と不可分性: 「要役地の共有者の一人は自己の持分についてのみ地役権を消滅させることができる」とする肢は誤り(282条1項)。
よくある誤解
- 誤解1: 「用益物権者は土地を処分できる」→ 用益物権は使用・収益を目的とする物権であり、目的物(土地そのもの)を処分する権限はない。譲渡できるのは「地上権」「永小作権」という権利自体であって、土地の所有権ではない。
- 誤解2: 「地役権は隣接する土地でなければ設定できない」→ 要役地と承役地は隣接している必要はない(引水地役権等)。
- 誤解3: 「永小作権は無償でも成立する」→ 小作料の支払いが要素であり、無償の永小作権は認められない。
- 誤解4: 「囲繞地通行権と通行地役権は同じもの」→ 囲繞地通行権は法律上当然に生じる相隣関係上の権利、通行地役権は設定や時効で生じる物権で別物。
- 誤解5: 「法定地上権は更地に抵当権を設定した後で建物を建てても成立する」→ 抵当権設定時に建物が存在していることが原則として必要。
関連論点
- 地上権と区分地上権(269条の2): 地下又は空間に、上下の範囲を定めて工作物所有のために設定する地上権(地下鉄・送電線など)。土地の利用を立体的に分割する制度として近年重要性が増している。
- 借地借家法との関係: 建物所有を目的とする地上権・土地賃借権はまとめて「借地権」として借地借家法の適用を受け、存続期間(原則30年以上)や対抗要件(建物登記)について民法の特則が設けられている。
- 相隣関係(囲繞地通行権・隣地使用権): 用益物権と並んで土地利用を調整する制度として、地役権との対比で出題される。
地上権は、地代の支払いがなければ成立しない。
地役権は、要役地の所有権が移転した場合、特段の合意がなくても要役地の所有権とともに移転する。
地役権の時効取得には、継続的に行使され、かつ、外形上認識することができることが必要である。
永小作権の存続期間を60年と定めた場合、その存続期間は50年に短縮される。
通行地役権の時効取得が認められるためには、承役地上の通路が要役地所有者によって開設されたことを要する。
まとめ
用益物権は、地上権・永小作権・地役権・入会権の4つがあり、いずれも他人の土地を使用・収益する物権です。試験では、地上権と賃借権の比較、地役権の付従性と時効取得の要件が特に重要です。
各用益物権の目的・対価の要否・存続期間・譲渡性の違いを比較表で正確に整理し、条文の文言に基づいて判断できるようにしておきましょう。対価が要素となるのは永小作権だけ、存続期間に制限があるのも永小作権だけ、付従性があるのは地役権だけ、という「だけ」の論点を押さえると横断整理が一気に進みます。法定地上権は担保物権の分野とも関連するため、あわせて復習することをお勧めします。
物権分野は条文知識が得点に直結します。関連論点として、所有権・占有権や相隣関係、抵当権(法定地上権)とあわせて学習すると、物権法全体の体系が立体的に理解できます。
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