(公開 2026/01/24) / 民法

不当利得の要件と類型|侵害利得と給付利得

不当利得の一般要件(民法703条)と悪意の受益者(704条)を解説。侵害利得と給付利得の分類、非債弁済・不法原因給付(708条)など特殊な不当利得も含め、行政書士試験の出題ポイントを体系的に整理します。

はじめに|不当利得は債権発生原因の一つ

不当利得とは、法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者に対し、その利得の返還を求める制度です。契約や事務管理と並ぶ債権の発生原因であり、行政書士試験でも択一式で繰り返し出題されています。

不当利得は条文数こそ少ないものの、判例・学説の蓄積が厚く、特に「侵害利得」と「給付利得」の類型論を理解しているかどうかで得点が大きく変わります。本記事では、一般要件から特殊な不当利得まで体系的に解説します。

不当利得制度が民法に置かれている根本的な趣旨は、形式的・一般的には正当視される財産的価値の移動が、実質的・相対的には正当視されない場合に、公平の理念に従ってその矛盾を調整することにあります。この「公平の理念に基づく調整制度」という性格は、最判昭和49年9月26日(後述の騙取金による弁済の事案)が明示しており、不当利得を理解する出発点となります。一方で、後述するように「公平」という抽象的な物差しだけでは個別の事案を切り分けられないため、近年は利得が生じた原因ごとに要件を考える類型論が発展してきました。

なお、債権発生原因のうち契約と単独行為が「当事者の意思」に基づくのに対し、不当利得・事務管理・不法行為は当事者の意思に基づかずに法律が直接効果を発生させる法定債権である点も、体系上の位置づけとして押さえておきましょう。

不当利得の一般要件(703条)

条文の確認

法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。 ― 民法 第703条

4つの要件

不当利得の成立には、以下の4つの要件を満たす必要があります。

  1. 他人の財産又は労務によって利益を受けたこと(受益)
  2. そのために他人に損失を及ぼしたこと(損失)
  3. 受益と損失との間に因果関係があること
  4. 法律上の原因がないこと

「法律上の原因がない」とは、利得を保持することを正当化する法律上の根拠がないことを意味します。例えば、有効な売買契約に基づく代金の受領は法律上の原因があるため不当利得にはなりませんが、契約が無効であった場合には法律上の原因がなくなります。

各要件の中身を掘り下げる

要件を漫然と暗記するのではなく、何が争点になるかを意識すると正答率が上がります。

要件内容試験での着眼点受益財産の積極的増加(物・金銭の取得)だけでなく、本来支出すべき費用を免れた「消極的利得」も含む他人の物を無断使用して賃料の支出を免れた場合も受益にあたる損失受益者の利得に対応する財産の減少。現実の出捐だけでなく、得られるべき収益を得られなかった場合も含む損失の有無・額が因果関係と並んで争点になりやすい因果関係受益と損失との間の結びつき。判例は社会通念上の連結があれば足りるとし、必ずしも直接的・物理的な因果関係を要しない三者間(騙取金・転用物訴権)で因果関係が論点化する法律上の原因がないこと利得保持を正当化する根拠の不存在給付利得と侵害利得で立証責任の所在が変わる(後述)

因果関係について、かつての判例は当事者間で直接の財産移動があることを要するとしていましたが、騙取金による弁済の事案(最判昭和49年9月26日)以降、社会通念上、損失者の財産で受益者が利益を受けたと認められる連結があればよいとされ、間接的・三者間の因果関係も肯定されるようになりました。この緩和が、後述の騙取金・転用物訴権の議論につながります。

返還の範囲

703条の不当利得返還義務の範囲は「利益の存する限度」、すなわち現存利益に限られます。受益者が善意である場合、受けた利益がすでに消滅していれば、その分について返還義務を負いません。

  • 現存利益の具体例: 受け取った金銭を生活費に充てた場合、その分は現存利益として返還義務がある(最判昭和50年6月27日)
  • 浪費した場合: ギャンブルなどで浪費した場合は、現存利益がないとして返還義務が縮減される

現存利益と「出費の節約」の理解

「生活費に充てたら現存利益あり、ギャンブルで浪費したら現存利益なし」という結論は丸暗記されがちですが、その理屈を押さえると応用が利きます。生活費は本来自分の財産から支出すべきものであり、不当利得した金銭でこれを賄えば、その分だけ自分の財産の減少を免れている(出費の節約)ため、利益は形を変えて現存していると評価されます。これに対し、浪費・ギャンブルなど本来であれば支出しなかったであろう用途に費消した場合は、財産の減少を免れたとはいえず、現存利益が失われたと扱われます。

現存利益の不存在(利益消滅の抗弁)は、返還義務の縮減を主張する受益者側に立証責任があると解されています。したがって受益者が現存利益の消滅を立証できなければ、受けた利益はなお現存しているものと扱われます。

なお、未成年者など制限行為能力者が行為を取り消した場合の返還義務も、その善意・悪意を問わず「現に利益を受けている限度」に縮減されます(民法121条の2第3項後段)。これは703条とは別の規定ですが、現存利益の発想を共有しており、横断的に整理しておくと得点源になります。

悪意の受益者の返還義務(704条)

条文の確認

悪意の受益者は、その受けた利益に利息を付して返還しなければならない。この場合において、なお損害があるときは、その賠償の責任を負う。 ― 民法 第704条

善意の受益者との比較

項目善意の受益者(703条)悪意の受益者(704条)返還範囲現存利益受けた利益の全部利息不要利息を付して返還損害賠償なしなお損害があれば賠償

悪意の受益者とは、法律上の原因がないことを知っている受益者です。悪意の受益者は、受けた利益に利息を付して返還するだけでなく、損害があればその賠償義務も負います。善意の受益者よりも重い責任が課されるのは、法律上の原因がないことを知りながら利得を保持した点に非難可能性があるためです。

704条後段の「損害賠償責任」の性質(重要判例)

704条後段の「その賠償の責任を負う」が、不法行為とは別個に不当利得から独立した損害賠償義務を発生させる規定なのかが争われました。判例はこれを否定しています。

民法704条後段の規定は、悪意の受益者が不法行為の要件を充足する限りにおいて不法行為責任を負うことを注意的に規定したものにすぎず、悪意の受益者に対して不法行為責任とは異なる特別の責任を負わせたものではない。
― 最判平成21年11月9日

この判例により、704条後段の損害賠償責任は不法行為責任の成立要件(故意・過失、違法性、損害、因果関係)を満たして初めて認められるものであり、不当利得の成立だけで当然に発生するものではないことが明確になりました。過払金返還訴訟(消費者金融に対する利息制限法超過利息の返還請求)の文脈で示された判断であり、択一・記述いずれでも問われ得る重要論点です。

善意から悪意に転じた場合

善意で利益を受けた者が、後に法律上の原因がないことを知った場合(善意→悪意への転化)には、悪意になった時点以降は704条の重い責任を負うと解されています。受領時の主観だけで一律に決まるわけではない点に注意してください。

転得者がいる場合

受益者から第三者に利益が移転した場合、原則として受益者に対して返還請求をしますが、受益者が無資力の場合には転得者に対して直接請求できるかが問題となります。判例は、転得者が悪意であれば直接請求できるとしています。

侵害利得と給付利得の類型論

類型論の意義

不当利得は、伝統的に703条を統一的に解釈する統一説(衡平説)が通説でしたが、現在の学説では、不当利得を「給付利得」と「侵害利得」に分けて考える類型論が有力です。

統一説は「公平の理念」という一元的な基準で703条を説明しますが、これだけでは、なぜ給付利得では給付者が法律上の原因不存在を立証し、侵害利得では受益者が原因の存在を立証するのか、といった具体的な処理の違いを説明しきれません。そこで、利得が生じた原因の構造に応じて要件・効果を考えるのが類型論です。類型論では一般に、(1)給付利得、(2)侵害利得に加え、(3)費用利得(他人のために費用を支出した場合)、(4)求償利得(他人の債務を弁済した場合)などに細分されますが、行政書士試験では給付利得と侵害利得の二大類型を押さえれば十分です。

給付利得

給付利得とは、自らの給付行為によって相手方に利得が生じた場合の不当利得です。

  • 典型例: 無効な契約に基づいて代金を支払った場合
  • 法律上の原因がないこと: 給付の原因となった法律関係(契約など)が存在しないこと
  • 返還請求の相手方: 給付の直接の相手方に限定される

給付利得では、給付者自身が任意に給付しているため、「法律上の原因がないこと」の主張・立証責任は返還を求める側(給付者)が負います。

給付利得の返還の中心は、契約の無効・取消し・解除によって既に履行された給付の巻き戻し(原状回復)です。契約が当初から無効・取り消された場合は不当利得(給付利得)の問題として処理され、有効に成立した契約が解除された場合の原状回復義務は民法545条で規律されます。なお、双務契約が無効・取り消された場合、当事者双方が原状回復義務を負い、これらは同時履行の関係(民法533条類推)に立つと解されています。原物の返還が原則ですが、原物返還が不能なときは価額返還によることになります。

侵害利得

侵害利得とは、他人の権利を侵害して利得が生じた場合の不当利得です。

  • 典型例: 他人の土地を無断で使用した場合、他人の特許権を無断で実施した場合
  • 法律上の原因がないこと: 侵害を正当化する権限がないこと
  • 返還請求の相手方: 侵害行為を行った者

侵害利得では、権利者は何ら給付行為をしておらず、受益者の侵害行為によって損失が生じています。このため、「法律上の原因があること」(侵害を正当化する権限の存在)の主張・立証責任は受益者側が負うとする見解が有力です。

侵害利得は、不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)や物権的請求権と重なり合うことが多く、権利者はこれらを選択的に行使できます。両者の違いとして、不法行為では受益者の故意・過失が要件となるのに対し、侵害利得では受益者の主観的態様は要件ではなく(主観は703条か704条かの区別=返還範囲の問題として現れる)、また消滅時効の起算点や期間にも差が生じうる点が挙げられます。

両類型の比較

項目給付利得侵害利得利得の原因給付者自身の給付行為受益者の侵害行為典型例無効な契約に基づく給付他人の物の無断使用立証責任返還請求者が負う受益者が負う(有力説)返還の相手方給付の直接の相手方侵害行為者

このように、同じ703条の文言を適用するにもかかわらず、立証責任の所在と返還の相手方が逆方向になるのが類型論の最大のポイントです。「自分で渡した(給付)」のか「勝手に取られた(侵害)」のかという原因構造の違いが、処理の違いを生むと理解しておきましょう。

特殊な不当利得(1)非債弁済

非債弁済とは

非債弁済とは、債務が存在しないにもかかわらず弁済として給付を行った場合をいいます。民法は705条から707条に特則を設けています。

非債弁済は、本来であれば「法律上の原因なく弁済を受けた」として703条で返還請求できる場面ですが、政策的な理由から返還請求を制限・調整する特則が置かれています。各条文がどのような利益状況を念頭に置いているのかを意識すると整理しやすくなります。

狭義の非債弁済(705条)

債務の弁済として給付をした者は、その時において債務の存在しないことを知っていたときは、その給付したものの返還を請求することができない。 ― 民法 第705条

債務が存在しないことを知りながら弁済した者は、返還請求ができません。これは、知りながらあえて給付した者を保護する必要がないという趣旨です。

試験のポイント: 「知っていた」ことが要件であり、過失によって知らなかった場合は返還請求が可能です。

なお、債務が存在しないことを知っていても、強制執行を避けるためやむを得ず弁済した場合など、任意性を欠く弁済については705条が適用されず返還請求が認められると解されています(大判大正6年12月11日参照)。「知って弁済すれば常に返還不可」と機械的に処理しないよう注意してください。

期限前の弁済(706条)

期限未到来の債務を弁済した場合、債務自体は存在するため非債弁済にはなりませんが、弁済者は期限までの利息相当額の返還を請求できます(民法第706条本文)。ただし、弁済者が錯誤によって弁済した場合に限ります。

債務者は、弁済期にない債務の弁済として給付をしたときは、その給付したものの返還を請求することができない。ただし、債務者が錯誤によってその給付をしたときは、債権者は、これによって得た利益を返還しなければならない。
― 民法 第706条

ここで注意すべきは、期限前に弁済したこと自体(給付した元本)は返還請求できない(債務は存在するから)点と、ただし書で問題になるのは期限までの中間利息相当の利益にとどまる点です。本文と但書の対象がずれているため、設問では「錯誤がなければ中間利息も返ってこない」「錯誤があれば中間利息分だけ返る」という構造で問われます。

他人の債務の弁済(707条)

他人の債務を自己の債務と誤信して弁済した場合、債権者が善意で担保を放棄したり時効によって権利を失ったときは、弁済者は返還請求ができません(民法第707条第1項)。この場合、弁済者は債務者に対して求償権を取得します(同条第2項)。

債務者でない者が錯誤によって債務の弁済をした場合において、債権者が善意で証書を滅失させ若しくは損傷し、担保を放棄し、又は時効によってその債権を失ったときは、その弁済をした者は、返還の請求をすることができない。
― 民法 第707条第1項

707条は、弁済を有効と信頼した債権者の信頼を保護する規定です。債権者の側に「善意で証書の滅失・担保放棄・時効による債権喪失」という信頼に基づく行動があった場合に限って、弁済者の返還請求が封じられます。封じられた分は債務者(本来の債務者)への求償権で填補される、という二段構えになっている点が理解のポイントです。

非債弁済3類型の整理

条文場面効果キーワード705条債務がないと知って弁済返還請求不可「知って」=悪意。過失なら請求可706条期限前の弁済元本は返還不可、錯誤あれば中間利息相当を請求可債務自体は存在する707条他人の債務を誤信弁済+債権者の信頼行動返還請求不可、債務者へ求償可債権者保護+求償

特殊な不当利得(2)不法原因給付(708条)

条文の確認

不法な原因のために給付をした者は、その給付したものの返還を請求することができない。ただし、不法な原因が受益者についてのみ存したときは、この限りでない。 ― 民法 第708条

趣旨|クリーンハンズの原則

708条の趣旨は、自ら法秩序に反する行為をした者は、その行為の結果について法の保護(裁判所の助力)を求めることはできないというクリーンハンズの原則(自ら手を汚した者は救済されない)にあります。90条(公序良俗違反)が「不法な行為を法律上有効としない(無効とする)」というルールであるのに対し、708条は「無効であっても、既に給付したものの取り戻しという形での救済も与えない」というルールであり、両者は表裏一体の関係に立ちます。90条で無効とした以上、703条によれば本来返還請求できるはずですが、708条がこれを封じる、という条文間の関係を押さえてください。

要件

  1. 不法な原因: 公序良俗に違反する原因(90条違反の原因)
  2. 給付: 終局的な財産の移転があること
  3. 不法な原因が給付者にも存すること: 受益者のみに不法原因がある場合は返還請求可能

「不法」とは単に強行法規違反というだけでは足りず、反倫理性・反社会性の強い、公序良俗に反する場合を指すと解されています。また「給付」は終局的なものでなければならず、たとえば抵当権の設定のような担保提供は終局的な利益移転とはいえず708条の「給付」にあたらないとされます(最判昭和40年12月17日参照)。

不法原因給付の重要判例

  • 最判昭和45年10月21日: 不倫関係の維持を目的とした不動産の贈与について、不法原因給付が成立し、贈与者は返還請求できない。ただし、不法の原因が受益者についてのみ存する場合は返還請求が可能。
  • 最判昭和46年10月28日: 未登記建物の不法原因給付について、引渡しがなされていれば「給付」があったとして708条が適用される。

「給付」があったといえるかは、目的物が既登記か未登記かで結論が分かれる点が頻出です。判例の整理は次のとおりです。

目的物「給付」があったといえる時点理由未登記建物引渡しがあれば「給付」あり(最判昭和46年10月28日)未登記建物では引渡しが終局的な利益移転と評価できる既登記建物引渡しだけでは足りず、所有権移転登記まで要する(最判昭和46年10月28日)登記済建物では登記の移転がなければ終局的とはいえない

不法原因給付と所有権

不法原因給付によって動産や不動産の占有が移転した場合、給付者は返還請求ができないだけでなく、その所有権は受益者に帰属するとするのが判例の立場です。これは、返還請求ができないにもかかわらず所有権が給付者に残るとすると、所有権に基づく返還請求という形で実質的に708条を潜脱できてしまうためです。

給付者が不法原因給付物の返還を請求できなくなったときは、その反射的効果として、目的物の所有権は贈与を受けた者に帰属する。
― 最大判昭和45年10月21日

この「反射的効果として所有権が受益者に帰属する」という論理は、不当利得返還請求だけでなく所有権に基づく返還請求(物権的請求権)も封じられることを意味します。給付者が「不当利得は無理でも所有権は自分にあるから物を返せ」と主張する迂回を許さない、という点が重要です。

任意の登記抹消・返還特約の可否

708条で返還請求が封じられるのは「返還請求権という形での裁判上の救済」です。受益者が任意に返還したり、当事者間で給付物を返還する特約を結ぶことは708条に反せず有効とするのが判例(最判昭和28年1月22日等)であり、不法性が当事者間でなお争いの種になる点に注意が必要です。

騙取金による弁済と不当利得

三者間の不当利得

AがBから金銭を騙し取り、その金銭でCに対するAの債務を弁済した場合、BはCに対して不当利得返還請求ができるかという問題があります。

判例(最判昭和49年9月26日)は、金銭の所有権は占有とともに移転するという「金銭の占有=所有」の法理を前提に、CがAから弁済を受けた段階でCは金銭の所有権を取得し、法律上の原因(債権の弁済)があるため、原則としてBのCに対する不当利得返還請求は認められないとしています。

ただし、CがAの騙取行為に関与していた場合など、信義則上Cが利得を保持することが許されない特段の事情がある場合には、不当利得が成立する余地があります。

判旨の正確な枠組み

この判例は、因果関係と「法律上の原因」の両面で重要な定式を示しました。

不当利得制度は、ある人の財産的利得が法律上の原因ないし正当な理由を欠く場合に、衡平の理念に従ってその利得の返還をなさしめるものであるから、社会通念上受益者の利得を損失者の財産に由来するものと認めるに足りる連結がある場合には、不当利得の成立に必要な因果関係があるものと解すべき……。
― 最判昭和49年9月26日

ポイントは2点です。第一に、因果関係については、損失者(B)の金銭と受益者(C)の利得との間に「社会通念上の連結」があれば足り、間にA(騙取者)が介在していても因果関係は認められます。第二に、法律上の原因の有無を、受益者Cの主観で判断します。すなわち、Cが金銭受領にあたり悪意又は重過失があったときに限り、Bに対する関係でCの金銭取得は法律上の原因を欠き、不当利得が成立します。Cが善意・無重過失であれば、Cの利得保持は法律上の原因があるものとして保護されます。「Cの悪意または重過失」が成否を分ける基準である点が試験で問われます。

転用物訴権

意義

転用物訴権とは、AがBとの契約に基づいてBの物に対して修繕などの労務を提供したが、Bが無資力で報酬を得られない場合に、AがBの物の所有者Cに対して不当利得返還請求ができるかという問題です。

判例の立場

判例(最判平成7年9月19日)は、BとCの間に対価関係がある場合(例えばBがCに対価を支払って使用している場合)には、Cの利得には法律上の原因があるとして、転用物訴権を否定しました。BとCの間に対価関係がなく、Cが対価を負担することなく利益を得ている場合にのみ、不当利得が成立する余地があるとしています。

判例の変遷を押さえる

転用物訴権をめぐっては、ブルドーザー修理代金の事案(最判昭和45年7月16日)で、修理業者から所有者(賃貸人)への不当利得返還請求を比較的緩やかに肯定したことがありました。しかしその後、ビル賃借人が施した修繕(価値増加)の費用を賃貸人に請求した事案(最判平成7年9月19日)で、判例は枠組みを精緻化しました。

賃借人と賃貸人との間の賃貸借契約を全体としてみて、賃貸人が対価関係なしに利益を受けたときに限り、その出捐をした者は賃貸人に対して不当利得としてその利益の返還を請求することができる。
― 最判平成7年9月19日

すなわち、所有者(賃貸人)が何らかの形で対価(たとえば権利金の免除や低額の賃料設定など)を負担している場合には、二重の利得とはならないため法律上の原因があり、不当利得は成立しないとしました。所有者が真に無償で価値増加を得ている場合に限って、例外的に転用物訴権が認められる、という限定的な立場です。「対価関係の有無」が判断の決め手であることを覚えてください。

よくある誤解・ひっかけポイント

行政書士試験では、条文の文言や判例の射程を微妙にずらしたひっかけが出題されます。代表的な誤りを整理します。

  • 「善意の受益者は受けた利益の全部を返還する」は誤り。善意の受益者は現存利益にとどまります(703条)。全部返還+利息は悪意の受益者(704条)。
  • 「705条は過失で債務不存在を知らなかった場合も返還請求できない」は誤り。705条は「知っていた」=悪意が要件で、過失で知らなかった場合は返還請求可能。
  • 「704条後段の損害賠償は不当利得が成立すれば当然に発生する」は誤り。不法行為の要件を満たして初めて認められる(最判平成21年11月9日)。
  • 「不法原因給付では所有権は給付者に残る」は誤り。返還請求が封じられる反射的効果として所有権は受益者に帰属する(最大判昭和45年10月21日)。
  • 「騙取金弁済では常にCに返還請求できる/常にできない」は誤り。Cの悪意または重過失があるときに限り不当利得が成立する(最判昭和49年9月26日)。
  • 「転用物訴権は常に認められる/常に否定される」は誤り。所有者が対価を負担していないときに限り成立余地がある(最判平成7年9月19日)。

試験での出題ポイント

  1. 703条の4要件: 受益・損失・因果関係・法律上の原因がないことの4つを正確に覚える
  2. 善意の受益者は現存利益の返還: 悪意の受益者は利息付きで全額返還
  3. 非債弁済(705条): 債務がないことを「知って」弁済した場合は返還請求不可
  4. 不法原因給付(708条): 不法原因が受益者のみに存する場合は返還請求可能
  5. 不法原因給付と所有権: 判例は受益者への所有権移転を認める
  6. 侵害利得と給付利得の違い: 立証責任と返還の相手方が異なる
  7. 704条後段の損害賠償: 不法行為の成立要件を満たして初めて認められる(最判平成21年11月9日)
  8. 騙取金による弁済: 因果関係は社会通念上の連結で足り、Cの悪意・重過失で不当利得が成立
  9. 転用物訴権: 所有者の対価負担の有無が分かれ目(最判平成7年9月19日)
確認問題

不当利得において、善意の受益者は受けた利益の全額を返還する義務を負う。

○ 正しい × 誤り
解説
善意の受益者は「利益の存する限度」すなわち現存利益の返還義務を負うにとどまります(民法第703条)。受けた利益の全額の返還義務を負うのは悪意の受益者であり、さらに利息を付して返還しなければなりません(民法第704条)。
確認問題

債務が存在しないことを過失により知らずに弁済した場合、弁済者は不当利得として返還を請求することができる。

○ 正しい × 誤り
解説
民法第705条は「債務の存在しないことを知っていたとき」に返還請求を否定する規定であり、過失によって知らなかった場合は含まれません。したがって、過失により債務不存在を知らずに弁済した者は、不当利得として返還を請求することが可能です。
確認問題

不法原因給付において、不法な原因が受益者についてのみ存する場合、給付者は返還を請求することができる。

○ 正しい × 誤り
解説
民法第708条ただし書は「不法な原因が受益者についてのみ存したときは、この限りでない」と規定しており、不法原因が受益者のみに存する場合は、給付者からの返還請求が認められます。例えば、贈賄について相手方のみが不法な場合などが該当します。
確認問題

不法原因給付として給付された不動産について、給付者は不当利得返還請求はできないが、所有権に基づく返還請求であれば認められる。

○ 正しい × 誤り
解説
判例(最大判昭和45年10月21日)は、給付者が708条により返還請求できなくなる反射的効果として、目的物の所有権は受益者に帰属するとしています。したがって、所有権に基づく返還請求も認められません。所有権に基づく請求を認めると708条を潜脱できてしまうためです。
確認問題

民法704条後段にいう悪意の受益者の損害賠償責任は、不当利得が成立すれば、不法行為の要件を満たさなくても当然に発生する。

○ 正しい × 誤り
解説
判例(最判平成21年11月9日)は、704条後段は悪意の受益者が不法行為の要件を充足する限りで不法行為責任を負うことを注意的に規定したものにすぎず、不当利得に固有の特別な損害賠償責任を定めたものではないとしています。したがって不法行為の成立要件を満たさなければ損害賠償責任は発生しません。

まとめ

不当利得は、法律上の原因なく生じた利得を公平の観点から是正する制度です。703条の一般要件を正確に理解した上で、悪意の受益者(704条)、非債弁済(705条〜707条)、不法原因給付(708条)の特則を押さえましょう。

また、侵害利得と給付利得の類型論は、近年の学説で重視されており、立証責任の分配や返還の相手方の決定に影響します。騙取金による弁済(最判昭和49年9月26日)や転用物訴権(最判平成7年9月19日)といった三者間の論点は、因果関係や「法律上の原因」の理解を試す格好の題材であり、判例の枠組みを正確に押さえることが得点に直結します。行政書士試験では、条文の正確な知識と判例の理解が問われますので、本記事の比較表と出題ポイントを活用して効率的に学習を進めてください。

関連分野もあわせて学習すると、債権法全体の理解が深まります。

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