行政指導の限界と救済|中止等の求めを解説
行政指導の定義・一般原則から、行政手続法32条〜36条の2に規定される中止等の求め・処分等の求めまでを体系的に解説。試験頻出の救済手段を正確に整理します。
はじめに|行政指導は「処分」ではないが重要
行政指導は、法的拘束力を持たない事実上の行為であり、行政処分(行政行為)とは異なります。しかし、実務上は行政指導が事実上の強制力を持ち、相手方が従わざるを得ない状況に追い込まれることも少なくありません。
行政手続法は、行政指導に関する一般原則を定めるとともに、2014年(平成26年)改正により中止等の求め(第36条の2)と処分等の求め(第36条の3)という新たな救済手段を導入しました。
行政書士試験では、行政指導の定義、一般原則、方式、そして中止等の求め・処分等の求めの制度が繰り返し出題されます。本記事では、行政手続法第32条から第36条の3までを網羅的に解説します。
なお、本記事のテーマである「行政指導の限界と救済」は、出題の角度が大きく分けて2つあります。1つは行政指導をする側に課された限界(任意性の原則・不利益取扱いの禁止・権限濫用の禁止など、第32条〜第34条)であり、もう1つは行政指導を受けた相手方や第三者が使える救済手段(中止等の求め・処分等の求め、第36条の2・第36条の3)です。さらにこれらの行政手続法上の枠組みの背後には、品川マンション事件や武蔵野市給水拒否事件といった重要判例が控えています。この「条文の限界」「条文の救済」「判例の蓄積」という3層構造を意識して読み進めると、知識が整理されやすくなります。
行政指導の定義|行政手続法第2条第6号
行政指導とは、行政機関がその任務又は所掌事務の範囲内において一定の行政目的を実現するため特定の者に一定の作為又は不作為を求める指導、勧告、助言その他の行為であって処分に該当しないものをいいます(行政手続法第2条第6号)。
行政指導 行政機関がその任務又は所掌事務の範囲内において一定の行政目的を実現するため特定の者に一定の作為又は不作為を求める指導、勧告、助言その他の行為であって処分に該当しないものをいう。
― 行政手続法 第2条第6号
行政指導の特徴
- 法的拘束力がない: 相手方に法的義務を課すものではない
- 処分ではない: 行政事件訴訟法上の取消訴訟の対象とならないのが原則
- 相手方の任意の協力に基づく: 強制することはできない
- 事実上の影響力が大きい: 行政庁の意向に逆らうことが事実上困難な場合がある
定義の各要素を分解する
第2条第6号の定義は、択一式で「これは行政指導に当たるか」という形で要素ごとに問われます。次の表のように分解して押さえておくと、ひっかけに強くなります。
「処分に該当しないもの」という限定の意味
定義の末尾にある「処分に該当しないもの」という文言は重要です。ある行政の行為に法的拘束力(権利義務を直接形成・確定する効果)が認められれば、それは行政指導ではなく「処分」として扱われ、行政手続法の処分に関する規律(不利益処分の理由提示、聴聞・弁明の機会の付与など)や取消訴訟の対象になります。
逆に言えば、行政指導はあくまで相手方の任意の協力に期待する事実行為であり、それ自体が相手方の法的地位を直接変動させることはない、というのが建前です。もっとも、後述する病院開設中止勧告の判例のように、法的仕組み全体の中で見ると事実上処分と同等の効果を持つ場合があり、この「建前」と「実態」のずれが救済論の出発点になります。
行政手続法の適用範囲(地方公共団体の行政指導に注意)
行政指導に関する第4章(第32条〜第36条の3)の規定は、地方公共団体の機関がする行政指導には適用されません。これは行政手続法第3条第3項によるもので、地方分権・自治の尊重の観点から、地方公共団体については各自治体が定める行政手続条例に委ねられています。
地方公共団体の機関がする処分(その根拠となる規定が条例又は規則に置かれているものに限る。)及び行政指導、地方公共団体の機関に対する届出(前条第七号の通知の根拠となる規定が条例又は規則に置かれているものに限る。)並びに地方公共団体の機関が命令等を定める行為については、次章から第六章までの規定は、適用しない。
― 行政手続法 第3条第3項
ここでのポイントは、行政指導は根拠が法律にあるか条例・規則にあるかを問わず、地方公共団体の機関がするものであれば一律に行手法第4章の適用が除外されるという点です(処分・届出が「根拠が条例・規則に置かれているものに限る」とされているのと対比される)。試験では「地方公共団体の行政指導にも行政手続法が直接適用される」といった誤った肢が出ますので注意しましょう。
行政指導の一般原則(第32条)
任意性の原則
行政指導の最も重要な原則は、相手方の任意の協力によってのみ実現されるべきものであるということです。
行政指導にあっては、行政指導に携わる者は、いやしくも当該行政機関の任務又は所掌事務の範囲を逸脱してはならないこと及び行政指導の内容があくまでも相手方の任意の協力によってのみ実現されるものであることに留意しなければならない。
― 行政手続法 第32条第1項
この条文には2つの内容が含まれています。1つは所掌事務の範囲を逸脱してはならないこと(権限の範囲の限界)、もう1つは相手方の任意の協力によってのみ実現されること(任意性の原則)です。後者は行政指導の本質を示すもので、ここから「強制にわたってはならない」という限界が導かれます。
不利益取扱いの禁止
行政指導に従わなかったことを理由として不利益な取扱いをしてはなりません(第32条第2項)。
行政指導に携わる者は、その相手方が行政指導に従わなかったことを理由として、不利益な取扱いをしてはならない。
― 行政手続法 第32条第2項
この規定は、行政指導の任意性を実効的に担保するためのものです。任意の協力に基づくはずの行政指導が、従わない者への報復(許認可の遅延、補助金の不交付、各種の事実上の冷遇など)を背景に事実上の強制力を帯びることを防ぐ趣旨です。
なお禁止されるのは「従わなかったことを理由とする」不利益取扱いであって、行政指導とは別個の正当な理由に基づく処分まで禁止されるわけではない点に注意してください。
申請に関連する行政指導(第33条)
申請の取下げ・内容の変更を求める行政指導
申請の取下げ又は内容の変更を求める行政指導にあっては、行政指導に携わる者は、申請者が当該行政指導に従う意思がない旨を表明したにもかかわらず当該行政指導を継続すること等により当該申請者の権利の行使を妨げるようなことをしてはなりません(第33条)。
申請の取下げ又は内容の変更を求める行政指導にあっては、行政指導に携わる者は、申請者が当該行政指導に従う意思がない旨を表明したにもかかわらず当該行政指導を継続すること等により当該申請者の権利の行使を妨げるようなことをしてはならない。
― 行政手続法 第33条
品川マンション事件との関連
最高裁判例(最判平成5年2月18日・品川マンション事件)では、建築確認申請に対して行政指導が行われ、申請者が行政指導に従わない意思を明確に表示しているにもかかわらず、確認処分を留保し続けたことが違法とされました。第33条はこの判例の趣旨を立法化したものといえます。
事案
マンション建設をめぐり付近住民との紛争があったため、建築主事は建築確認申請に対する処分を留保し、建築主に対して住民との話し合い(行政指導)を続けるよう求めました。建築主は当初これに協力していましたが、やがて協力できない旨を明確にしたにもかかわらず、確認処分はなお留保され続けました。建築主は処分の遅延による損害について国家賠償を求めました。
判旨
最高裁は、建築主が任意に行政指導に協力している間は処分を留保しても直ちに違法とはいえないとしつつ、次のように述べました。
建築主が右の付近住民との話合いによる紛争解決の意思を有していないことを表明している場合には、行政指導に協力できない旨の意思を真摯かつ明確に表明し、当該確認申請に対し直ちに応答すべきことを求めているものと解されるから、…右行政指導が行われているとの理由だけで確認処分を留保することは、…違法となる
― 最判平成5年2月18日(品川マンション事件)
意義
行政指導に「任意に協力している間」は処分留保も適法でありうるが、相手方が協力できない旨を真摯かつ明確に表明した後は、特段の事情がない限り、行政指導の継続を理由とする処分の留保は違法となる、という判断枠組みを示しました。第33条の「従う意思がない旨を表明したにもかかわらず」という文言は、まさにこの判旨を条文化したものです。
択一式では「行政指導が行われている間は、相手方の意思にかかわらず常に処分を留保できる」といった肢が誤りとなる点、また「相手方の協力意思がある間でも処分留保は一律違法」という言い過ぎの肢も誤りとなる点に注意します。
許認可等の権限に関連する行政指導(第34条)
許認可等をする権限又は許認可等に基づく処分をする権限を有する行政機関が、当該権限を行使することができない場合又は行使する意思がない場合においてする行政指導にあっては、行政指導に携わる者は、当該権限を行使し得る旨を殊更に示すことにより相手方に当該行政指導に従うことを余儀なくさせるようなことをしてはなりません。
許認可等をする権限又は許認可等に基づく処分をする権限を有する行政機関が、当該権限を行使することができない場合又は行使する意思がない場合においてする行政指導にあっては、行政指導に携わる者は、当該権限を行使し得る旨を殊更に示すことにより相手方に当該行政指導に従うことを余儀なくさせるようなことをしてはならない。
― 行政手続法 第34条
つまり、「従わなければ許可を取り消すぞ」といった示唆をすることで、行政指導に事実上の強制力を持たせることは禁止されています。
第33条と第34条の違いを整理する
第33条と第34条はいずれも「許認可がらみの行政指導」の限界を定める条文で、混同しやすいため整理しておきます。
第33条は「申請者が従わない意思を表明したのに続ける」ことを問題にし、第34条は「権限をちらつかせて従わせる」ことを問題にする、と覚えると区別しやすくなります。
武蔵野市給水拒否事件との関連
行政指導の限界を考えるうえで併せて押さえたいのが、武蔵野市給水拒否事件(最決平成元年11月8日)です。市が宅地開発指導要綱に基づき教育施設負担金の寄付などの行政指導を行い、これに従わない事業者からの給水契約の申込みを拒否したことが、水道法上の給水義務(正当の理由がなければ拒んではならない)との関係で問題となりました。
水道事業者としては、たとえ指導要綱に従わない事業主からの給水契約の申込であっても、その締結を拒むことは許されない
― 最決平成元年11月8日(武蔵野市給水拒否事件・水道法上の判断部分)
この事件では、行政指導に従わせる手段として給水という生活に不可欠な役務の供給を拒んだ点が、行政指導の任意性の限界を超えるものとして問題視されました。第32条第2項の「不利益取扱いの禁止」の発想と通じる事案として理解しておくとよいでしょう。
行政指導の方式(第35条)
明示すべき事項
行政指導に携わる者は、その相手方に対して、以下の事項を示さなければなりません(第35条第1項)。
- 当該行政指導の趣旨
- 当該行政指導の内容
- 当該行政指導の責任者
許認可権限を行使し得る旨を示す場合の追加事項
第34条で見たとおり、許認可等の権限を背景に行政指導をすること自体が直ちに禁止されるわけではありません。そこで第35条第2項は、行政指導に携わる者がその場で権限を行使し得る旨を示すときは、相手方に対し、次の事項を示さなければならないと定めています。
- その権限を行使し得る根拠となる法令の条項
- その条項に規定する要件
- その権限の行使が当該要件に適合する理由
これは、権限をちらつかせること自体は許す代わりに、その根拠を明示させて透明性を確保し、濫用を抑止する趣旨です。
書面の交付
行政指導が口頭でされた場合において、その相手方から書面の交付を求められたときは、当該行政指導に携わる者は、行政上特別の支障がない限り、当該行政指導の趣旨・内容・責任者(および上記の権限関係事項を示した場合はその内容)を記載した書面を交付しなければなりません(第35条第3項)。
行政指導が口頭でされた場合において、その相手方から前二項に規定する事項を記載した書面の交付を求められたときは、当該行政指導に携わる者は、行政上特別の支障がない限り、これを交付しなければならない。
― 行政手続法 第35条第3項
注意: 行政指導は原則として口頭でも書面でも可能です。書面の交付は相手方の求めがあった場合に義務となります(行政上特別の支障がある場合を除く)。
書面交付義務の例外(第35条第4項)
もっとも、相手方から求められても書面を交付しなくてよい場合があります。第35条第4項は、次のいずれかに該当する場合には書面交付義務が及ばないとしています。
- 相手方に対しその場において完了する行為を求めるもの
- すでに文書(書面)又は電磁的記録によりその相手方に通知されている事項と同一の内容を求めるもの
その場で終わる軽微な指導や、すでに書面で伝えてある内容と同じ指導まで、いちいち書面を作り直す必要はない、という実務的配慮です。
複数の者を対象とする行政指導・行政指導指針(第36条)
同一の行政目的を実現するため一定の条件に該当する複数の者に対し行政指導をしようとするときは、行政機関はあらかじめ事案に応じ行政指導指針を定め、かつ、行政上特別の支障がない限り、これを公表しなければなりません。
同一の行政目的を実現するため一定の条件に該当する複数の者に対し行政指導をしようとするときは、行政機関は、あらかじめ、事案に応じ、行政指導指針を定め、かつ、行政上特別の支障がない限り、これを公表しなければならない。
― 行政手続法 第36条
行政指導指針は「命令等」に該当するため、原則として意見公募手続(パブリックコメント、第39条以下)の対象となります。複数人を対象とする行政指導の公平性・透明性を確保する仕組みである点を押さえておきましょう。
中止等の求め(第36条の2)|2014年改正の目玉
制度の趣旨
中止等の求めは、2014年(平成26年)改正で新設された制度です。法令に違反する行為の是正を求める行政指導が行われた場合に、その相手方が行政指導の中止や内容の変更を求めることができるようにしたものです。従来、行政指導は処分でないため取消訴訟になじまず、相手方が争う手段が乏しかったところ、行政手続法の中に簡易な是正申出ルートを設けた点に意義があります。
要件
中止等の求めができるのは、以下の要件を満たす場合です(第36条の2第1項)。
- 法令に違反する行為の是正を求める行政指導であること(その根拠となる規定が法律に置かれているものに限る)
- 当該行政指導の相手方が、当該行政指導が当該法律に規定する要件に適合しないと思料するとき
法令に違反する行為の是正を求める行政指導(その根拠となる規定が法律に置かれているものに限る。)の相手方は、当該行政指導が当該法律に規定する要件に適合しないと思料するときは、当該行政指導をした行政機関に対し、その旨を申し出て、当該行政指導の中止その他必要な措置をとることを求めることができる。
― 行政手続法 第36条の2第1項本文
ここで特に注意すべきは、対象が「法令に違反する行為の是正を求める行政指導」に限られ、かつその根拠が「法律に置かれているもの」に限られる点です。助言型・援助型の行政指導や、根拠が法律にない(要綱・条例ベースの)行政指導は対象外です。
なお、その相手方がすでに当該行政指導に基づく処分に係る不服申立てや訴訟を提起できる場合など、別途争う手段があるときは中止等の求めができない場合がある点にも留意が必要です(第36条の2第1項ただし書)。
手続き(申出の方式)
申出は書面で行わなければならず、次の事項を記載します(第36条の2第2項)。
- 申出をする者の氏名又は名称及び住所又は居所
- 当該行政指導の内容
- 当該行政指導が根拠とする法律の条項
- 第3号の条項に規定する要件
- 当該行政指導が当該要件に適合しないと思料する理由
- その他参考となる事項
行政機関の対応
行政機関は、申出があったときは、必要な調査を行い、当該行政指導が当該法律に規定する要件に適合しないと認めるときは、当該行政指導の中止その他必要な措置をとらなければなりません(第36条の2第3項)。
当該行政機関は、第一項の規定による申出があったときは、必要な調査を行い、当該行政指導が当該法律に規定する要件に適合しないと認めるときは、当該行政指導の中止その他必要な措置をとらなければならない。
― 行政手続法 第36条の2第3項
注意: 行政機関には調査義務がありますが、中止等の措置をとるかどうかは調査結果次第です。申出があれば自動的に行政指導が中止されるわけではありません。また、申出に対して行政機関が応答(諾否の通知)をしなければならない旨の規定は置かれておらず、申出に応答義務がない点も論点として問われます。
処分等の求め(第36条の3)|もう一つの新制度
制度の趣旨
処分等の求めも2014年改正で新設されました。法令に違反する事実がある場合に、何人も行政庁に対して是正のための処分又は行政指導を行うことを求めることができる制度です。違法状態を放置せず是正を促すための、いわば「申告・通報」型の制度です。
何人も、法令に違反する事実がある場合において、その是正のためにされるべき処分又は行政指導(その根拠となる規定が法律に置かれているものに限る。)がされていないと思料するときは、当該処分をする権限を有する行政庁又は当該行政指導をする権限を有する行政機関に対し、その旨を申し出て、当該処分又は行政指導をすることを求めることができる。
― 行政手続法 第36条の3第1項
要件
- 法令に違反する事実がある場合
- その是正のためにされるべき処分又は行政指導(根拠が法律に置かれているものに限る)がされていないと思料するとき
- 当該処分をする権限を有する行政庁、又は当該行政指導をする権限を有する行政機関に対して書面で申出をする
行政機関の対応
行政庁又は行政機関は、申出があったときは、必要な調査を行い、その結果に基づき必要があると認めるときは、当該処分又は行政指導をしなければなりません(第36条の3第3項)。中止等の求めと同様、調査義務はありますが、処分等をするかどうかは調査結果次第であり、また申出者への応答(諾否通知)義務は規定されていません。
中止等の求めとの比較
重要ポイント: 中止等の求めは行政指導の「相手方」しかできませんが、処分等の求めは「何人も」行うことができます。第三者も法令違反の是正を求めることが可能です。また、中止等の求めは「すでにされている行政指導をやめさせる(マイナス方向)」、処分等の求めは「まだされていない処分・行政指導をさせる(プラス方向)」と、ベクトルが逆である点も対比して覚えておきましょう。
行政指導と取消訴訟|判例の動向
原則:行政指導は処分ではない
行政指導は法的拘束力を持たない事実行為であるため、原則として取消訴訟の対象(処分性)は認められません。処分性が否定される以上、行政事件訴訟法上の抗告訴訟(取消訴訟・無効等確認訴訟など)で直接争うことは原則できず、争うとすれば国家賠償請求や、前述の行政手続法上の中止等の求めなどによることになります。
例外:処分性が認められた判例
しかし、最高裁は一定の場合に行政指導(勧告)に処分性を認めています。
医療法に基づく病院開設中止勧告(最判平成17年7月15日): 医療法に基づく病院開設中止の勧告について、勧告に従わない場合には保険医療機関の指定を受けられなくなるという仕組みがあることから、勧告が実質的に病院開設を断念させる効果を持つとして、処分性を認めました。
医療法三〇条の七の規定に基づく病院開設中止の勧告は、…これに従わない場合には、相当程度の確実さをもって、病院を開設しても保険医療機関の指定を受けることができなくなるという結果をもたらす…。…この勧告は、…行政事件訴訟法三条二項にいう「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」に当たる
― 最判平成17年7月15日(病院開設中止勧告事件)
この判例は、行政指導(勧告)の形式をとっていても、関連する別の法的仕組み(保険医療機関指定の拒否)と結びつくことで実質的に処分と同様の効果を持つ場合があることを示し、処分性の判断において「法的仕組み全体」「後続処分との結びつき」を考慮した点に意義があります。なお、保険医療機関の指定拒否処分そのものを待ってから争うのでは実効的な権利救済にならない(病院を開設しても無駄になる)という、救済の実効性も考慮されました。
関連論点:行政指導の中止を求める訴訟
法的拘束力のない純然たる行政指導については処分性が否定されるため、原則として行政指導の差止訴訟・取消訴訟は使えません。一方で、行政指導が継続して権利侵害が生じている場合に、当事者訴訟(公法上の法律関係に関する確認の訴え)や民事訴訟による救済が論じられることがあります。試験対策としては、まず「行政指導=原則処分性なし」「例外的に法的仕組み次第で処分性が認められる判例がある」という大枠を確実に押さえることが優先です。
よくある誤解・ひっかけポイント
行政指導の分野は、条文の細部を入れ替えたひっかけ肢が頻出します。代表的な誤解を整理します。
- 「中止等の求めは何人もできる」→誤り。 中止等の求め(第36条の2)は行政指導の相手方に限られます。何人もできるのは処分等の求め(第36条の3)です。
- 「申出があれば行政指導は必ず中止される」→誤り。 行政機関は調査義務を負うだけで、中止するかは調査結果次第です。
- 「申出に対して行政機関は諾否を通知しなければならない」→誤り。 中止等の求め・処分等の求めのいずれも、申出者への応答(諾否通知)義務の規定はありません。
- 「行政指導は必ず書面でしなければならない」→誤り。 行政指導の方式は口頭でも可能で、書面交付は相手方の求めがあった場合に原則義務となるにすぎません。
- 「地方公共団体の機関がする行政指導にも行政手続法が直接適用される」→誤り。 行手法第3条第3項により第4章は適用除外で、各自治体の行政手続条例によります。
- 「行政指導に従わなかったことを理由に不利益処分ができる」→誤り。 第32条第2項で不利益取扱いは禁止されています。
- 「中止等の求め・処分等の求めはどんな行政指導でも対象になる」→誤り。 根拠が法律に置かれているものに限られ、要綱等を根拠とするものは対象外です。
試験での出題ポイント
- 行政指導は任意の協力が前提: 従わなかったことを理由とする不利益取扱いは禁止(第32条)
- 方式は口頭でも可: ただし書面交付の求めがあれば原則応じる義務あり(第35条)
- 中止等の求めは「相手方」のみ: 処分等の求めは「何人も」可能
- 両制度とも書面による申出が必要: 口頭での申出は不可
- 両制度とも対象は根拠が「法律」にあるものに限る: 要綱・条例ベースは対象外
- 行政指導の処分性: 原則否定だが、法的仕組み全体から判断する判例あり(病院開設中止勧告)
- 申請に関連する行政指導: 従わない意思を表明した場合に継続は不可(第33条・品川マンション事件)
- 地方公共団体の行政指導: 行手法第4章は適用除外(第3条第3項)
行政手続法上、行政指導の中止等の求めは、行政指導の相手方だけでなく何人もすることができる。
行政指導に携わる者は、行政指導が口頭でされた場合において、相手方から書面の交付を求められたときは、行政上特別の支障がない限り、これを交付しなければならない。
行政指導に従わなかった場合、行政機関は当該行政指導に従わなかったことを理由として不利益処分を行うことができる。
中止等の求め及び処分等の求めの対象となる行政指導は、その根拠となる規定が法律に置かれているものに限られる。
地方公共団体の機関がする行政指導については、その根拠が法律に置かれている場合に限り、行政手続法の行政指導に関する規定が適用される。
まとめ
行政指導は法的拘束力のない事実行為ですが、行政手続法は任意性の原則(第32条)、申請関連の制限(第33条)、権限濫用の禁止(第34条)、方式の規定(第35条)、行政指導指針(第36条)によってその適正化を図っています。これらは「行政指導をする側に課された限界」です。
2014年改正で導入された中止等の求め(第36条の2)と処分等の求め(第36条の3)は、相手方・第三者の側に立った「救済(是正申出)手段」として重要です。特に、中止等の求めの申出権者は「相手方」に限られるのに対し、処分等の求めは「何人も」できる点、いずれも対象は根拠が法律にあるものに限られる点、申出に対する応答義務がない点が大きな対比ポイントです。
判例面では、品川マンション事件(処分留保の違法)、武蔵野市給水拒否事件(行政指導の任意性の限界)、病院開設中止勧告事件(勧告の処分性)が三本柱です。条文の要件と判例の判断枠組みを正確に対応づけて理解しておきましょう。
行政手続法の他分野や、行政指導を争う場面で問題となる行政事件訴訟法・国家賠償の知識と合わせて学ぶと、本テーマの理解が一段と深まります。