行政法の一般原則|信義則・比例原則・平等原則
行政法の一般原則を徹底解説。法律による行政の原理(法律の優位・法律の留保・法規創造力)、信義誠実の原則と租税法律主義の衝突、比例原則(過剰禁止原則)、平等原則、権利濫用の禁止まで行政書士試験の頻出ポイントを整理します。
はじめに|行政法の一般原則とは
行政法には、民法や刑法のような統一的な「行政法典」は存在しません。行政法は、行政手続法、行政不服審査法、行政事件訴訟法、国家賠償法、地方自治法など、多数の個別法令の総称です。
このような行政法の体系において、個別法令を横断的に支配する基本的な原理・原則が「行政法の一般原則」です。これらの原則は、成文法に明記されているものもあれば、判例や学説を通じて確立されたものもあります。
行政書士試験では、行政法の一般原則は毎年のように出題される重要テーマです。本記事では、法律による行政の原理を中心に、信義則、比例原則、平等原則、権利濫用の禁止について、条文と判例に基づいて整理します。
法律による行政の原理
法律による行政の原理の意義
法律による行政の原理とは、行政活動は法律に基づき、法律に従って行われなければならないという原理です。法治主義の中核をなす原則であり、行政の恣意的な権限行使を防ぎ、国民の権利自由を保護することを目的とします。
この原理は、以下の3つの原則に分解されます。
法律の優位の原則
法律の優位の原則とは、行政活動は法律に違反してはならないという原則です。
- 行政機関のあらゆる活動は、法律の定めに反してはならない
- 法律に違反する行政活動は違法となる
- この原則は行政のすべての領域に適用される(異論はほとんどない)
法律の優位の原則は、最も基本的で争いの少ない原則です。行政機関が法律に違反する処分を行った場合、その処分は違法であり、取消訴訟等により取り消される可能性があります。
法律の留保の原則
法律の留保の原則とは、一定の行政活動を行うためには、法律の根拠(授権)が必要であるという原則です。
法律の留保の原則の範囲(どの範囲の行政活動に法律の根拠が必要か)については、以下の学説があります。
侵害留保説は、国民の権利自由を制限・侵害する行政活動については法律の根拠が必要であるが、国民に利益を与える行政活動(給付行政等)については必ずしも法律の根拠は不要とする見解です。通説・判例の立場とされています。
法律の法規創造力の原則
法律の法規創造力の原則(法規創造力の原則)とは、国民の権利義務に関する法規範(法規)を新たに定立できるのは、国会が制定する法律のみであるという原則です。
- 行政機関は、法律の根拠なしに国民の権利義務に関する新たなルールを定立することはできない
- 行政立法(政令・省令等)は、法律の委任がある場合にのみ、法規としての効力を持つ
- この原則は、国会中心立法の原則(憲法41条)に由来する
信義誠実の原則(信義則)
信義則の意義
信義誠実の原則(信義則)は、民法1条2項に規定される私法上の一般原則ですが、行政法の分野においても適用されるかが問題となります。
民法1条2項
権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。
――民法1条2項
行政法の分野では、行政庁の言動を信頼した国民を保護するために、信義則の適用が主張されることがあります。
信義則と租税法律主義の衝突
信義則の行政法への適用が最も問題となるのは、租税法律関係においてです。
租税法律主義(憲法84条)の下では、租税は法律の定めるところにより課税されなければなりません。税務署の職員が「この取引には課税されない」と回答(教示)した場合に、その後に課税処分がなされたとき、信義則を理由に課税処分の違法を主張できるかが問題となります。
重要判例: 文化学院事件(最判昭和62年10月30日)
事案の概要
納税者が税務署に相談し、非課税であるとの回答を得たため、その信頼に基づいて取引を行ったところ、後に課税処分がなされた事案です。
判旨
最高裁は、租税法律関係においても信義則の適用は排除されないとしつつ、以下の要件を示しました。
租税法規に適合する課税処分について、法の一般原理である信義則の法理の適用により、当該課税処分を違法なものとして取り消すことができる場合があるとしても、法律による行政の原理なかんずく租税法律主義の原則が貫かれるべき租税法律関係においては、右法理の適用については慎重でなければならず、租税法規の適用における納税者間の平等、公平という要請を犠牲にしてもなお当該課税処分に係る課税を免れしめて納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情が存する場合に、初めて右法理の適用の是非を考えるべきものである。
信義則適用の要件(判例の趣旨)
- 税務官庁が納税者に対し信頼の対象となる公的見解を表示したこと
- 納税者がその表示を信頼し、その信頼に基づいて行動したこと(信頼に基づく行為)
- のちに上記表示に反する課税処分がなされたこと
- その処分により納税者が経済的不利益を受けたこと
- 納税者が表示を信頼したことについて帰責事由がないこと
判例は、租税法律関係においても信義則の適用を完全には排除しないが、その適用は慎重であるべきとしています。
比例原則(過剰禁止原則)
比例原則の意義
比例原則とは、行政目的を達成するための手段は、その目的に照らして必要最小限度のものでなければならないという原則です。「過剰禁止原則」とも呼ばれます。
比例原則は、元来はドイツの警察法において発展した原則ですが、現在では行政活動全般に適用される一般原則として認められています。
比例原則の内容
比例原則は、以下の3つの要素に分解されます。
- 適合性の原則: 行政手段が目的の達成に適合するものであること
- 必要性の原則: 目的を達成するために最も侵害の少ない手段を選択すること
- 均衡性の原則(狭義の比例原則): 行政手段により達成される利益と、それにより侵害される利益との間に均衡がとれていること
比例原則と行政法
行政法の分野では、比例原則は以下の場面で特に問題となります。
- 行政裁量の統制: 裁量権の行使が比例原則に反する場合、裁量権の濫用として違法となる
- 行政上の強制執行: 代執行や直接強制は、必要最小限度の範囲で行わなければならない
- 警察権の行使: 警察比例の原則として、警察目的の達成に必要な最小限度の実力行使のみが許される
比例原則の具体例
例えば、軽微な条例違反に対して営業許可の取消しという重大な処分を行うことは、比例原則に反する可能性があります。違反の程度に応じて、まず改善指導を行い、改善されなければ営業停止、それでも改善されなければ許可取消しというように、段階的な対応が求められます。
平等原則
平等原則の意義
平等原則とは、行政は合理的な理由なく、国民を差別的に取り扱ってはならないという原則です。憲法14条の平等原則を行政活動に適用したものです。
憲法14条1項
すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
――憲法14条1項
平等原則の行政法上の機能
行政法において平等原則が機能する場面には、以下のものがあります。
- 行政裁量の統制: 同種の事案について、合理的理由なく異なる処分を行うことは平等原則に反する
- 行政立法の審査: 行政機関が定める命令等が合理的理由なく差別的な内容を含む場合、平等原則に反し違法となる
- 行政慣行の拘束: 行政庁が一定の行政慣行を形成している場合、合理的理由なくその慣行に反する処分を行うことは平等原則に反する
先例拘束力との関係
行政庁は、同種の事案について過去に一定の処分を行ってきた場合(行政先例)、合理的な理由なくその先例と異なる処分を行うことは許されません。これは平等原則の具体的な現れです。
ただし、過去の先例自体が違法であった場合には、その先例に拘束される必要はありません。「違法の平等」は認められないのが原則です。
権利濫用の禁止
権利濫用の禁止の意義
権利濫用の禁止は、民法1条3項に規定される原則ですが、行政法の分野においても適用されます。
民法1条3項
権利の濫用は、これを許さない。
――民法1条3項
行政法の分野では、行政庁が形式上は権限の範囲内の行為をしていても、その行使が権利の濫用に当たる場合には、違法と評価されます。
権利濫用に当たる場合の具体例
行政権限の行使が権利濫用に当たるかどうかは、以下の要素を総合的に考慮して判断されます。
- 行使の目的: 本来の行政目的とは無関係な動機・目的に基づく権限行使
- 行使の態様: 社会通念上著しく妥当性を欠く方法による権限行使
- 行使の結果: 相手方に不当に過大な不利益を与える権限行使
個人的な感情や報復目的で行政権限を行使することは、権利濫用として違法と評価されます。
各原則の相互関係
体系的な整理
行政法の一般原則は、それぞれ独立した原則ですが、相互に関連しています。
法律による行政の原理は、行政活動の「枠組み」を設定する原則です。行政活動は法律の範囲内で行われなければならず、この枠組みの中で行政裁量が認められます。
信義則・平等原則・比例原則・権利濫用の禁止は、法律の枠組みの中で行政裁量が行使される際の「限界」を画する原則です。これらの原則に違反する裁量権の行使は、裁量権の逸脱・濫用として違法となります(行政事件訴訟法30条参照)。
試験対策上の重要ポイント
頻出論点の整理
- 法律の留保の原則: 侵害留保説が通説・判例。給付行政には必ずしも法律の根拠不要
- 信義則と租税法律主義: 租税法律関係でも信義則の適用は排除されないが、適用は慎重であるべき(文化学院事件)
- 比例原則: 行政目的の達成手段は必要最小限度でなければならない
- 平等原則: 合理的理由なき差別的取扱いは違法。ただし「違法の平等」は認められない
- 権利濫用の禁止: 形式上権限の範囲内でも、濫用に当たれば違法
よく出る引っかけパターン
- 「法律の留保の原則は、行政活動のすべてについて法律の根拠を要求する」→ 誤り(全部留保説の立場。通説は侵害留保説)
- 「租税法律関係においては、信義則の適用は一切排除される」→ 誤り(判例は完全な排除はしていない。特別の事情がある場合に適用の余地あり)
- 「行政庁が過去に違法な先例を形成していた場合、平等原則により同様の処分をしなければならない」→ 誤り(違法の平等は認められない)
まとめ
行政法の一般原則は、行政法の体系全体を貫く基本的な原理です。以下の点をしっかり整理しておきましょう。
- 法律による行政の原理は「法律の優位」「法律の留保」「法規創造力」の3原則からなる
- 法律の留保は侵害留保説が通説(侵害行政には法律の根拠必要、給付行政には不要)
- 信義則は租税法律関係にも適用され得るが、適用は慎重であるべき
- 比例原則は行政手段が目的に照らして必要最小限度であることを要求する
- 平等原則は合理的理由のない差別を禁止するが、「違法の平等」は認めない
- 権利濫用に当たる行政権限の行使は違法
各原則の意義、内容、判例を正確に理解し、相互の関係を体系的に把握することが合格への近道です。
法律の留保の原則について、通説・判例の立場とされる侵害留保説によれば、国民に利益を与える給付行政についても法律の根拠が必要である。○か×か。
最高裁判例によれば、租税法律関係においては、租税法律主義の要請から、信義誠実の原則(信義則)の適用は一切排除される。○か×か。
行政庁が過去に違法な行政処分を繰り返してきた場合、平等原則により、その後の同種の事案においても同様の(違法な)処分をしなければならない。○か×か。