(公開 2026/02/10) / 行政法

行政法の一般原則|信義則・比例原則・平等原則

行政法の一般原則を徹底解説。法律による行政の原理(法律の優位・法律の留保・法規創造力)、信義誠実の原則と租税法律主義の衝突、比例原則(過剰禁止原則)、平等原則、権利濫用の禁止まで行政書士試験の頻出ポイントを整理します。

はじめに|行政法の一般原則とは

行政法には、民法や刑法のような統一的な「行政法典」は存在しません。行政法は、行政手続法、行政不服審査法、行政事件訴訟法、国家賠償法、地方自治法など、多数の個別法令の総称です。

このような行政法の体系において、個別法令を横断的に支配する基本的な原理・原則が「行政法の一般原則」です。これらの原則は、成文法に明記されているものもあれば、判例や学説を通じて確立されたものもあります。

行政書士試験では、行政法の一般原則は毎年のように出題される重要テーマです。本記事では、法律による行政の原理を中心に、信義則、比例原則、平等原則、権利濫用の禁止について、条文と判例に基づいて整理します。

行政法の一般原則を学ぶうえで意識しておきたいのは、これらが大きく二層に分かれるという点です。第一層は、行政活動の「外枠」を定める法律による行政の原理です。これは行政が法律という器の中でしか動けないことを示します。第二層は、その器の中で行政に与えられた裁量が暴走しないように内側から縛る信義則・比例原則・平等原則・権利濫用の禁止などの諸原則です。多くの個別問題は「外枠を超えていないか(法律の根拠・違反の有無)」と「内側の限界を超えていないか(裁量の逸脱・濫用)」のいずれかに整理できます。この見取り図を頭に入れておくと、複雑に見える判例問題も位置づけやすくなります。

出題の全体像と学習の優先順位

過去の出題傾向を踏まえると、行政法の一般原則の中でも特に頻度が高いのは、法律の留保(侵害留保説)信義則(とりわけ租税法律関係での適用)です。比例原則・平等原則は単独で大問になることは多くありませんが、行政裁量の統制や条例・処分の適法性を問う問題の中で「判断のものさし」として登場します。学習の優先順位としては、まず法律による行政の原理の三原則を正確に区別し、次に信義則の判例要件を暗記レベルで固め、最後に比例・平等・権利濫用を裁量統制の文脈で理解する、という順序が効率的です。

原則根拠試験での問われ方頻度の目安法律の優位法治主義法律違反の処分は違法、という基礎確認低(前提知識)法律の留保法治主義学説の区別・侵害留保説の射程高法規創造力憲法41条行政立法の限界とセットで中信義則民法1条2項の援用租税法律関係・判例要件高比例原則不文の一般原則裁量統制・強制執行の限界中平等原則憲法14条1項裁量統制・違法の平等の否定中権利濫用の禁止民法1条3項の援用形式適法でも違法となる場面中

法律による行政の原理

法律による行政の原理の意義

法律による行政の原理とは、行政活動は法律に基づき、法律に従って行われなければならないという原理です。法治主義の中核をなす原則であり、行政の恣意的な権限行使を防ぎ、国民の権利自由を保護することを目的とします。

この原理は、以下の3つの原則に分解されます。

原則内容キーワード法律の優位行政活動は法律に違反してはならない違反禁止・消極的法律の留保一定の行政活動には法律の根拠が必要根拠(授権)・積極的法規創造力法規を新たに創れるのは法律のみ国会中心立法

「優位」は既にある法律に反してはならないという消極的・受動的な要請、「留保」は活動するのにそもそも法律の根拠(授権)がいるという積極的・能動的な要請である、という対比が試験では問われやすいポイントです。

法律の優位の原則

法律の優位の原則とは、行政活動は法律に違反してはならないという原則です。

  • 行政機関のあらゆる活動は、法律の定めに反してはならない
  • 法律に違反する行政活動は違法となる
  • この原則は行政のすべての領域に適用される(異論はほとんどない)

法律の優位の原則は、最も基本的で争いの少ない原則です。行政機関が法律に違反する処分を行った場合、その処分は違法であり、取消訴訟等により取り消される可能性があります。

ここで重要なのは、法律の優位は行政活動の全領域に及ぶという点です。侵害行政であれ給付行政であれ、内部的な行政規則であれ、いったん法律が存在する以上、それに反することは許されません。後述する法律の留保が「どこまで法律の根拠を要するか」という範囲の争いを抱えるのと対照的に、優位の原則には範囲の限定がない点を押さえておきましょう。

法律の留保の原則

法律の留保の原則とは、一定の行政活動を行うためには、法律の根拠(授権)が必要であるという原則です。

法律の留保の原則の範囲(どの範囲の行政活動に法律の根拠が必要か)については、以下の学説があります。

学説法律の根拠が必要な範囲侵害留保説(通説・判例)国民の権利自由を侵害する行為全部留保説行政活動のすべて権力留保説権力的行為のすべて社会留保説侵害的行為+給付行政の基本事項本質事項留保説国民にとって本質的・重要な事項

侵害留保説は、国民の権利自由を制限・侵害する行政活動については法律の根拠が必要であるが、国民に利益を与える行政活動(給付行政等)については必ずしも法律の根拠は不要とする見解です。通説・判例の立場とされています。

各説の問題意識を理解する

学説の対立は、丸暗記よりも「何を重視しているか」を理解した方が定着します。

  • 侵害留保説は、自由主義(国民の自由・財産への介入には議会の同意が必要)を重視します。古典的な法治主義の発想に最も忠実で、行政実務とも整合します。一方で、給付行政(補助金・社会保障など)に法律の根拠が不要となりうる点が批判されます。
  • 全部留保説は、民主主義(あらゆる行政は民意=法律に基づくべき)を徹底します。理念としては明快ですが、機動的な行政運営が難しくなるとの批判があります。
  • 権力留保説は、権力的か否か(一方的に国民の地位を変動させるか)を基準とします。侵害的でなくても権力的な授益処分には根拠を求める点で侵害留保説より広いです。
  • 社会留保説は、現代の福祉国家を背景に、生活に不可欠な給付の基本部分には根拠を求めます。
  • 本質性理論(重要事項留保説)は、ドイツの議論を背景に、国民にとって本質的・重要な事項は議会自ら法律で定めるべきとする見解です。

侵害留保説をめぐる出題ポイント

試験では「行政指導には法律の根拠が必要か」「補助金の交付には法律の根拠が必要か」といった当てはめが問われます。侵害留保説に立てば、相手方の任意の協力を前提とする行政指導や、国民に利益を与える補助金交付には、原則として個別の作用法上の根拠は不要と整理されます(ただし予算上の措置や組織法上の根拠は別問題です)。一方、租税の賦課、営業許可の取消し、土地の収用といった侵害的・不利益的な行為には法律の根拠が必須です。

法律の法規創造力の原則

法律の法規創造力の原則(法規創造力の原則)とは、国民の権利義務に関する法規範(法規)を新たに定立できるのは、国会が制定する法律のみであるという原則です。

  • 行政機関は、法律の根拠なしに国民の権利義務に関する新たなルールを定立することはできない
  • 行政立法(政令・省令等)は、法律の委任がある場合にのみ、法規としての効力を持つ
  • この原則は、国会中心立法の原則(憲法41条)に由来する
国会は、国権の最高機関であつて、国の唯一の立法機関である。
―― 日本国憲法 第41条

ここでいう「法規」とは、国民の権利を制限し義務を課す一般的・抽象的な法規範を指す概念です。法規創造力の原則の帰結として、行政が定める命令のうち、国民の権利義務に関わる法規命令は必ず法律の委任を必要とし、委任の範囲を超えた命令は無効となります。これに対し、行政内部の事務処理基準にすぎない行政規則(訓令・通達等)は、国民の権利義務を直接規律しないため、法律の委任がなくても定めることができます。法規命令と行政規則の区別は、この原則と密接に関わる頻出論点です。

信義誠実の原則(信義則)

信義則の意義

信義誠実の原則(信義則)は、民法1条2項に規定される私法上の一般原則ですが、行政法の分野においても適用されるかが問題となります。

権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。
―― 民法 第1条第2項

行政法の分野では、行政庁の言動を信頼した国民を保護するために、信義則の適用が主張されることがあります。信義則の行政法への適用は、ドイツ法でいう「信頼保護の原則(Vertrauensschutz)」に対応するものとして語られることも多く、検索上も「行政法 信頼保護」のキーワードで問われる論点と実質的に重なります。行政庁の言動を信頼して行動した私人を、後からその信頼を裏切る形で不利益に扱うことが正義に反する場合に、私人を保護しようとする考え方です。

信義則が問題となる典型場面

信義則の適用が争われるのは、おおむね次のような構造の場面です。

  1. 行政庁が私人に対して一定の見解・約束・許認可などを示す
  2. 私人がそれを信頼して投資・取引・建築などの行動をとる
  3. 行政庁が後から方針を変更し、当初の言動に反する処分・課税等を行う
  4. 私人が不利益を被り、当初の信頼の保護を求める

ここで、法律による行政の原理(適法な処分をすべき要請)と、信頼を裏切られた私人の保護とが正面から衝突します。この緊張関係をどう調整するかが、信義則の最大の論点です。

信義則と租税法律主義の衝突

信義則の行政法への適用が最も問題となるのは、租税法律関係においてです。

租税法律主義(憲法84条)の下では、租税は法律の定めるところにより課税されなければなりません。税務署の職員が「この取引には課税されない」と回答(教示)した場合に、その後に課税処分がなされたとき、信義則を理由に課税処分の違法を主張できるかが問題となります。

あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする。
―― 日本国憲法 第84条

ここでの対立構造を整理すると、一方には「法律どおりに公平に課税すべき」という租税法律主義・課税の平等の要請があり、他方には「行政の言動を信頼した納税者を保護すべき」という信義則の要請があります。仮に信義則を広く認めて課税を免れさせると、法律どおりに納税している他の納税者との間で不公平が生じます。そのため、判例は信義則の適用を強く限定する立場をとっています。

重要判例: 文化学院事件(最判昭和62年10月30日)

事案の概要

納税者が税務署に相談し、非課税であるとの回答を得たため、その信頼に基づいて取引を行ったところ、後に課税処分がなされた事案です。

判旨

最高裁は、租税法律関係においても信義則の適用は排除されないとしつつ、以下の要件を示しました。

租税法規に適合する課税処分について、法の一般原理である信義則の法理の適用により、当該課税処分を違法なものとして取り消すことができる場合があるとしても、法律による行政の原理なかんずく租税法律主義の原則が貫かれるべき租税法律関係においては、右法理の適用については慎重でなければならず、租税法規の適用における納税者間の平等、公平という要請を犠牲にしてもなお当該課税処分に係る課税を免れしめて納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情が存する場合に、初めて右法理の適用の是非を考えるべきものである。
―― 最判昭和62年10月30日(文化学院事件)

信義則適用の要件(判例の趣旨)

判例は「特別の事情」の有無を、おおむね次の要素から判断すべきとしています。

要件内容当てはめのポイント公的見解の表示税務官庁が信頼の対象となる公的見解を表示したこと担当者個人の私見・口頭の一般的説明では足りないとされる信頼に基づく行為納税者が表示を信頼し、それに基づいて行動したこと表示と行動との間に因果関係が必要表示に反する処分のちに表示に反する課税処分がされたこと方針変更による不利益処分経済的不利益処分により納税者が経済的不利益を受けたこと単なる期待の喪失では足りない帰責事由がないこと信頼したことについて納税者に帰責事由がないこと納税者の誤った申告等を誘発していないか

判例は、租税法律関係においても信義則の適用を完全には排除しないが、その適用は慎重であるべきとしています。文化学院事件自体は、税務署長の見解表示が「公的見解の表示」とは認められないなどとして、結論としては信義則の適用を否定しました。つまり、租税の分野で信義則によって課税処分が取り消されるのは極めて例外的であり、要件のハードルが高いという理解が試験では重要です。

信義則をめぐるその他の判例の視点

信義則は租税以外の場面でも援用されますが、行政の継続性に対する信頼が問題となった事例として、地方公共団体が工場誘致のために特定の企業に協力を約束しながら、その後の政策変更でこれを覆した事案で、施策の変更それ自体は許されるとしつつ、信頼を裏切られた企業に対し損害賠償責任を認める余地を示した最高裁判例(最判昭和56年1月27日、宜野座村工場誘致事件)が知られています。ここでのポイントは、信頼保護が必ずしも「処分の取消し」ではなく「損害賠償(国家賠償)」という形で図られることもある、という点です。信義則違反の効果は一律ではないことを意識しておきましょう。

比例原則(過剰禁止原則)

比例原則の意義

比例原則とは、行政目的を達成するための手段は、その目的に照らして必要最小限度のものでなければならないという原則です。「過剰禁止原則」とも呼ばれます。

比例原則は、元来はドイツの警察法において発展した原則ですが、現在では行政活動全般に適用される一般原則として認められています。「雀を撃つのに大砲を用いてはならない」という比喩で説明されることもあり、目的に対して過大な手段を禁じる発想を表しています。日本では明文の一般規定はありませんが、不文の法の一般原則として確立しています。

比例原則の内容

比例原則は、以下の3つの要素に分解されます。

段階内容審査の問い適合性の原則手段が目的の達成に役立つことその手段で目的が達成できるか必要性の原則より侵害の少ない他の手段がないこともっと穏やかな手段はないか均衡性の原則(狭義の比例原則)達成される利益と侵害される利益が均衡すること得られる利益に見合う制約か

この3段階は、上から順に審査していく構造になっています。まず手段が目的に適合するか、次に同じ効果を持つより緩やかな手段がないか、最後に得られる公益と失われる私益とのバランスがとれているか、を検討します。試験では「必要最小限度」というキーワードと、3段階の中身(特に必要性=より制限的でない手段の不存在)が問われます。

比例原則と行政法

行政法の分野では、比例原則は以下の場面で特に問題となります。

  • 行政裁量の統制: 裁量権の行使が比例原則に反する場合、裁量権の濫用として違法となる
  • 行政上の強制執行: 代執行や直接強制は、必要最小限度の範囲で行わなければならない
  • 警察権の行使: 警察比例の原則として、警察目的の達成に必要な最小限度の実力行使のみが許される
  • 即時強制・行政調査: 身体・財産への直接的な実力行使ほど、必要性・均衡性が厳格に問われる

比例原則は、行政裁量に対する司法統制の物差しとして機能します。行政庁に裁量が認められる場面でも、目的と手段が著しく不均衡であれば、裁量権の逸脱・濫用として違法となります。

比例原則の具体例

例えば、軽微な条例違反に対して営業許可の取消しという重大な処分を行うことは、比例原則に反する可能性があります。違反の程度に応じて、まず改善指導を行い、改善されなければ営業停止、それでも改善されなければ許可取消しというように、段階的な対応が求められます。

実定法の中にも比例原則の発想が現れている例があります。たとえば行政代執行法は、代執行の要件として「他の手段によつてその履行を確保することが困難であり、且つその不履行を放置することが著しく公益に反すると認められるとき」を求めており(行政代執行法2条)、より侵害の少ない手段では足りない場合に限って代執行を認めています。これは必要性の原則の現れと評価できます。

平等原則

平等原則の意義

平等原則とは、行政は合理的な理由なく、国民を差別的に取り扱ってはならないという原則です。憲法14条の平等原則を行政活動に適用したものです。

すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
―― 日本国憲法 第14条第1項

平等原則は「等しいものは等しく、等しくないものは異なって」扱うことを要請します。したがって、ここで禁止されるのはあくまで合理的な理由のない差別(不合理な区別)であり、合理的な理由に基づく区別までは禁止されません。

平等原則の行政法上の機能

行政法において平等原則が機能する場面には、以下のものがあります。

  1. 行政裁量の統制: 同種の事案について、合理的理由なく異なる処分を行うことは平等原則に反する
  2. 行政立法の審査: 行政機関が定める命令等が合理的理由なく差別的な内容を含む場合、平等原則に反し違法となる
  3. 行政慣行の拘束: 行政庁が一定の行政慣行を形成している場合、合理的理由なくその慣行に反する処分を行うことは平等原則に反する

先例拘束力との関係

行政庁は、同種の事案について過去に一定の処分を行ってきた場合(行政先例)、合理的な理由なくその先例と異なる処分を行うことは許されません。これは平等原則の具体的な現れです。

ただし、過去の先例自体が違法であった場合には、その先例に拘束される必要はありません。「違法の平等」は認められないのが原則です。

「違法の平等は認められない」の意味

これは試験で繰り返し問われる重要命題です。たとえば、ある地域で違法建築が黙認されてきた場合に、自分の建物だけ是正命令を受けた者が「他の違法建築は放置されているのだから、平等原則違反だ」と主張しても、原則として認められません。違法状態を等しく放置せよという主張は、違法を温存することになり、法律による行政の原理に反するからです。平等原則は、あくまで適法な取扱いの中での平等を要請するものであって、違法な取扱いを横並びで要求する根拠にはならない、と理解しましょう。

権利濫用の禁止

権利濫用の禁止の意義

権利濫用の禁止は、民法1条3項に規定される原則ですが、行政法の分野においても適用されます。

権利の濫用は、これを許さない。
―― 民法 第1条第3項

行政法の分野では、行政庁が形式上は権限の範囲内の行為をしていても、その行使が権利の濫用に当たる場合には、違法と評価されます。

権利濫用に当たる場合の具体例

行政権限の行使が権利濫用に当たるかどうかは、以下の要素を総合的に考慮して判断されます。

  1. 行使の目的: 本来の行政目的とは無関係な動機・目的に基づく権限行使
  2. 行使の態様: 社会通念上著しく妥当性を欠く方法による権限行使
  3. 行使の結果: 相手方に不当に過大な不利益を与える権限行使

個人的な感情や報復目的で行政権限を行使することは、権利濫用として違法と評価されます。本来の制度目的とは別の目的のために権限を用いることは「他事考慮」「目的違反」とも呼ばれ、裁量権の濫用の典型例として扱われます。たとえば、ある許認可制度を、その制度本来の目的とは無関係な政策の実現手段として用いて不許可とするような場合が問題となります。権利濫用の禁止は、こうした形式的には適法に見える権限行使を実質的に統制する役割を担っています。

各原則の相互関係

体系的な整理

行政法の一般原則は、それぞれ独立した原則ですが、相互に関連しています。

法律による行政の原理は、行政活動の「枠組み」を設定する原則です。行政活動は法律の範囲内で行われなければならず、この枠組みの中で行政裁量が認められます。

信義則・平等原則・比例原則・権利濫用の禁止は、法律の枠組みの中で行政裁量が行使される際の「限界」を画する原則です。これらの原則に違反する裁量権の行使は、裁量権の逸脱・濫用として違法となります(行政事件訴訟法30条参照)。

行政庁の裁量処分については、裁量権の範囲をこえ又はその濫用があつた場合に限り、裁判所は、その処分を取り消すことができる。
―― 行政事件訴訟法 第30条

この条文は、信義則・比例原則・平等原則・権利濫用の禁止といった一般原則が、裁判所による裁量統制の場面でどのように作用するかを示す受け皿となる規定です。つまり、これらの一般原則違反は、最終的には「裁量権の逸脱・濫用」という枠組みを通じて処分の違法性として評価されることが多い、という見通しを持っておくと、各原則が孤立した知識ではなく一つの体系の中に位置づけられます。

試験対策上の重要ポイント

頻出論点の整理

  1. 法律の留保の原則: 侵害留保説が通説・判例。給付行政には必ずしも法律の根拠不要
  2. 信義則と租税法律主義: 租税法律関係でも信義則の適用は排除されないが、適用は慎重であるべき(文化学院事件)
  3. 比例原則: 行政目的の達成手段は必要最小限度でなければならない
  4. 平等原則: 合理的理由なき差別的取扱いは違法。ただし「違法の平等」は認められない
  5. 権利濫用の禁止: 形式上権限の範囲内でも、濫用に当たれば違法

過去問で問われる角度

行政法の一般原則は、択一式で次のような角度から問われます。

  • 学説の正確な区別: 「全部留保説/権力留保説/侵害留保説」のどれがどの範囲を要求するかを入れ替えた肢。とくに侵害留保説と全部留保説の取り違えが頻出です。
  • 判例の射程の限定: 「租税法律関係では信義則の適用が一切排除される」のような言い切り型の誤り肢。判例は排除していない(が極めて慎重)という微妙なニュアンスを問います。
  • 効果の取り違え: 信義則違反の効果を「常に処分の取消し」と断定する肢。損害賠償で処理される場合もあることを押さえます。
  • 原則の趣旨と当てはめ: 比例原則の3段階や、平等原則における「違法の平等」否定など、原則の中身を具体例に当てはめさせる肢。

よく出る引っかけパターン

  • 「法律の留保の原則は、行政活動のすべてについて法律の根拠を要求する」→ 誤り(全部留保説の立場。通説は侵害留保説)
  • 「租税法律関係においては、信義則の適用は一切排除される」→ 誤り(判例は完全な排除はしていない。特別の事情がある場合に適用の余地あり)
  • 「行政庁が過去に違法な先例を形成していた場合、平等原則により同様の処分をしなければならない」→ 誤り(違法の平等は認められない)
  • 「法律の優位の原則は侵害行政にのみ適用される」→ 誤り(優位の原則は行政の全領域に及ぶ。範囲が問題になるのは留保の原則)
  • 「行政指導には常に個別の法律の根拠が必要である」→ 誤り(侵害留保説の下では、任意の協力を前提とする行政指導に作用法上の根拠は不要と整理される)

よくある誤解

  • 「法律の優位」と「法律の留保」を混同する:優位は既存の法律に反してはならない(消極的)、留保は活動に法律の根拠がいる(積極的)という違いを必ず区別します。
  • 信義則は租税で広く使えると考える:実際には判例上、租税分野で信義則により課税処分が取り消されるのは極めて例外的です。要件は重く、文化学院事件自体も結論は適用否定でした。
  • 比例原則を均衡性だけだと思う:適合性・必要性・均衡性の3段階構造を意識します。とくに必要性(より制限的でない手段の不存在)が抜けやすいポイントです。
  • 平等原則ですべての区別が禁止されると考える:禁止されるのは合理的理由のない差別であり、合理的区別は許されます。

まとめ

行政法の一般原則は、行政法の体系全体を貫く基本的な原理です。以下の点をしっかり整理しておきましょう。

  • 法律による行政の原理は「法律の優位」「法律の留保」「法規創造力」の3原則からなる
  • 法律の優位は全領域に及び、範囲が問題になるのは法律の留保
  • 法律の留保は侵害留保説が通説(侵害行政には法律の根拠必要、給付行政には不要)
  • 信義則は租税法律関係にも適用され得るが、適用は慎重であるべき(文化学院事件)。効果は取消しに限らず損害賠償もありうる
  • 比例原則は行政手段が目的に照らして必要最小限度であることを要求する(適合性・必要性・均衡性の3段階)
  • 平等原則は合理的理由のない差別を禁止するが、「違法の平等」は認めない
  • 権利濫用に当たる行政権限の行使は違法
  • 信義則・比例・平等・権利濫用は、最終的には行訴法30条の裁量権の逸脱・濫用を通じて違法性として評価されることが多い

各原則の意義、内容、判例を正確に理解し、相互の関係を体系的に把握することが合格への近道です。一般原則は行政裁量や行政立法、行政上の強制手段など、行政法の各分野と密接に結びついています。個別の制度を学ぶ際にも、本記事で整理した「外枠(法律による行政)と内側の限界(信義則・比例・平等・権利濫用)」という見取り図に立ち返ると、知識が一つの体系としてつながっていきます。

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確認問題

法律の留保の原則について、通説・判例の立場とされる侵害留保説によれば、国民に利益を与える給付行政についても法律の根拠が必要である。○か×か。

○ 正しい × 誤り
解説
侵害留保説は、国民の権利自由を制限・侵害する行政活動(侵害行政)については法律の根拠が必要であるが、国民に利益を与える行政活動(給付行政)については必ずしも法律の根拠は不要とする見解です。行政活動のすべてに法律の根拠を要求するのは全部留保説の立場です。
確認問題

最高裁判例によれば、租税法律関係においては、租税法律主義の要請から、信義誠実の原則(信義則)の適用は一切排除される。○か×か。

○ 正しい × 誤り
解説
最判昭和62年10月30日(文化学院事件)は、租税法律関係においても信義則の適用を完全には排除していません。ただし、租税法律主義が貫かれるべき租税法律関係においては信義則の適用には慎重であるべきとし、「特別の事情」がある場合に初めて適用の是非を考えるべきとしています。
確認問題

行政庁が過去に違法な行政処分を繰り返してきた場合、平等原則により、その後の同種の事案においても同様の(違法な)処分をしなければならない。○か×か。

○ 正しい × 誤り
解説
平等原則は合理的理由のない差別的取扱いを禁止する原則ですが、「違法の平等」は認められません。過去の先例が違法であった場合、行政庁はその違法な先例に拘束される必要はなく、適法な処分を行うべきです。
確認問題

法律の優位の原則は、国民の権利自由を侵害する行政活動にのみ適用され、給付行政には適用されない。○か×か。

○ 正しい × 誤り
解説
法律の優位の原則(行政活動は法律に違反してはならない)は、侵害行政・給付行政を問わず行政の全領域に適用され、異論はほとんどありません。侵害行政か給付行政かで適用範囲が争われるのは「法律の留保」の原則であり、両者を混同しないことが重要です。
確認問題

比例原則は、行政目的の達成手段がその目的に照らして必要最小限度であることを要求し、その内容は適合性・必要性・均衡性(狭義の比例原則)の3段階に分けて検討される。○か×か。

○ 正しい × 誤り
解説
比例原則(過剰禁止原則)は、手段が目的達成に役立つか(適合性)、より侵害の少ない手段がないか(必要性)、得られる利益と失われる利益が均衡しているか(均衡性)の3段階で審査されます。行政裁量の統制や行政上の強制執行の場面で機能する不文の一般原則です。
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