(公開 2026/02/14) / 民法

法人制度の基礎|権利能力なき社団の要件

法人の設立方式(準則主義・許可主義・認可主義)、法人の権利能力の範囲と八幡製鉄政治献金事件、権利能力なき社団の4要件(最判昭和39年)を行政書士試験向けに徹底解説。出題パターンも紹介します。

はじめに|法人制度は民法総則の盲点

民法総則の「人」に関する規定の中で、自然人(制限行為能力者制度など)に比べて対策が手薄になりがちなのが法人制度です。しかし、行政書士試験では法人の権利能力の範囲や権利能力なき社団に関する問題が繰り返し出題されており、確実に押さえておくべき分野です。

法人分野は、(1) 民法総則の条文(33条〜37条)、(2) 一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(以下「一般法人法」)の機関構造、(3) 権利能力なき社団に関する判例法理という3層構造で出題されます。条文知識だけでも判例知識だけでも取りこぼしが出るため、両者を結びつけて理解することが攻略の鍵です。

本記事では、法人の設立方式(準則主義・許可主義・認可主義・特許主義)、法人の権利能力の範囲に関する判例、そして権利能力なき社団の4要件を中心に解説します。まずは全体像をつかみたい方のために、この記事で扱う論点と出題頻度の目安を一覧にしておきます。

論点主な根拠出題頻度の目安問われ方法人法定主義民法33条中設立方式と絡めて設立方式(準則主義等)民法33条2項・一般法人法中具体例とのマッチング目的の範囲(権利能力)民法34条・判例高判例の結論の正誤法人の不法行為責任一般法人法78条中外形理論・代表者個人責任権利能力なき社団の4要件最判昭39.10.15最高要件の正誤・一字一句総有・財産の帰属判例高共有との違い強制加入団体の政治献金各判例高一般知識・記述でも

法人の意義と種類

法人とは何か

法人とは、自然人以外で法律上の権利義務の主体となることができるものをいいます。民法33条1項は次のように規定しています。

法人は、この法律その他の法律の規定によらなければ、成立しない。
――民法33条1項

この規定は法人法定主義と呼ばれ、法人は法律の根拠がなければ設立できないことを意味します。当事者が「我々は法人だ」と合意しても、根拠法令がなければ法人格は生じません。これは取引の安全と、法人という権利義務の主体を明確にする要請に基づくものです。

なお、33条2項は法人の目的による分類の根拠規定であり、あわせて確認しておくと理解が深まります。

学術、技芸、慈善、祭祀、宗教その他の公益を目的とする法人、営利事業を営むことを目的とする法人その他の法人の設立、組織、運営及び管理については、この法律その他の法律の定めるところによる。
――民法33条2項

平成18年改正前の旧民法は、公益法人と営利法人という分類を条文上採用していましたが、現行法は具体的な設立・運営ルールを特別法(一般法人法、会社法など)に委ねる形になっています。

法人の分類

分類基準種類内容構成要素社団法人人の集まりを基盤とする法人構成要素財団法人財産の集まりを基盤とする法人営利性営利法人営利を目的とする法人(株式会社等)営利性非営利法人営利を目的としない法人(一般社団法人等)公益性公益法人公益を目的とする法人(公益社団法人等)公益性中間法人公益でも営利でもない法人

社団法人と財団法人の違い

社団法人は人(社員)の集合体を基礎とするのに対し、財団法人は財産の集合体を基礎とします。両者の違いは、最高意思決定の仕組みに端的に表れます。

  • 社団法人: 社員総会が最高意思決定機関。社員の意思が法人の意思の源泉となる。
  • 財団法人: 社員が存在しない。設立者が定めた定款(とくに「目的」)が法人運営を拘束し、評議員会・理事会が運営にあたる。

財団法人には社員がいないため、社員総会も存在しないという点は、機関構成の問題で問われやすいポイントです。

営利法人と非営利法人の違い

ここでいう「営利」とは、法人が事業活動で得た利益を構成員に分配することを意味します。したがって、非営利法人であっても収益事業を行うこと自体は可能です。「非営利=利益を上げてはいけない」ではなく、「非営利=利益を構成員に分配しない」という点に注意してください。

観点営利法人非営利法人代表例株式会社、合同会社一般社団法人、一般財団法人、NPO法人利益の構成員への分配可(剰余金配当など)不可収益事業の実施可可(分配しなければよい)根拠法会社法一般法人法、特定非営利活動促進法など

一般社団法人では、社員への剰余金分配を定款で定めても、その定めは効力を有しないとされており(一般法人法11条2項)、非営利性が制度上担保されています。「一般社団法人は利益を社員に分配できる」とする選択肢は誤りです。

法人の設立方式

4つの設立方式

法人の設立には、歴史的に以下の4つの方式があります。

方式内容具体例特許主義特別の法律(特別法)により設立日本銀行、日本放送協会(NHK)許可主義主務官庁の許可を得て設立旧民法上の公益法人(現在は廃止)認可主義法定の要件を満たし、主務官庁の認可を得て設立農業協同組合、健康保険組合準則主義法定の要件を満たせば当然に設立株式会社、一般社団法人、一般財団法人

許可主義と認可主義の違い(混同注意)

試験で最も混同されやすいのが、許可主義と認可主義の違いです。両者はいずれも行政庁の関与を要しますが、行政庁の裁量の有無が決定的に異なります。

方式行政庁の裁量説明許可主義あり(自由裁量)要件を満たしても、行政庁が裁量で設立を認めないことができる認可主義なし(覊束裁量)法定要件を満たせば、行政庁は認可を拒めない

許可主義は行政庁の広い裁量を前提とするため、旧公益法人制度では「主務官庁の許可なくして公益法人は設立できない」とされ、設立のハードルが高いことが批判されていました。これが2008年の公益法人制度改革の背景です。

現行法の主流は準則主義

2008年(平成20年)の公益法人制度改革により、旧民法の許可主義に基づく公益法人制度は廃止されました。現在は、一般社団法人・一般財団法人は準則主義(一般法人法に基づく登記)で設立し、その中から公益認定を受けたものが公益社団法人・公益財団法人となる二段階制が採用されています。

試験では、旧制度と新制度の違いが問われることがあります。以下の点を押さえておきましょう。

  • 旧制度: 主務官庁の許可が必要(許可主義)
  • 新制度: 法定要件を満たせば登記により設立(準則主義)+公益認定は別手続

一般社団法人の設立手続の流れ

一般社団法人の設立は準則主義であるため、以下の手順を踏めば、行政庁の許可なく設立できます。

  1. 社員2名以上で定款を作成する(一般法人法10条1項。社員は2人以上必要)。
  2. 公証人による定款の認証を受ける(同13条)。
  3. 設立時理事等を選任する。
  4. 主たる事務所の所在地で設立の登記をする。
  5. 登記により法人が成立する(同22条)。

ここで重要なのは、一般社団法人は基金制度を採用できるが基金は必須ではなく、財産の拠出がなくても社員2名以上で設立できる点です。これに対し一般財団法人は財産の集合体であるため、設立者が300万円以上の財産の拠出を要する(一般法人法153条2項、157条等)という違いがあります。社団=人、財団=財産という性質の違いが、設立要件にも反映されています。

項目一般社団法人一般財団法人基礎社員(人)財産設立に必要な人数社員2名以上設立者1名以上で可財産の拠出不要300万円以上必要設立方式準則主義準則主義成立時期設立登記時設立登記時

法人の権利能力の範囲

「目的の範囲内」(34条)

法人は、法令の規定に従い、定款その他の基本約款で定められた目的の範囲内において、権利を有し、義務を負う。
――民法34条

法人の権利能力は、定款等で定められた目的の範囲内に限られます。この「目的の範囲内」をどう解釈するかが重要な論点です。

この条文は2つの意味を持ちます。第一に、目的の範囲を逸脱した行為は法人に効果が帰属しない(無効となりうる)という意味。第二に、目的達成に必要な行為は明示されていなくても目的の範囲に含まれるという意味です。判例・通説は、取引の安全を重視して「目的の範囲」を緩やかに解釈する傾向にあります。

八幡製鉄政治献金事件(最大判昭和45年6月24日)

法人の権利能力の範囲に関する最も重要な判例が、八幡製鉄政治献金事件です。

事案: 八幡製鉄(現・日本製鉄)が自由民主党に政治献金を行ったことに対して、株主が会社の目的の範囲外の行為であるとして取締役の責任を追及した事件。

判旨: 最高裁は、会社は自然人と同様、一定の範囲で社会的作用を負う存在であるとしたうえで、次のように述べました。

会社は、一定の範囲においてその構成員たる株主の私益を超えた社会的作用を負担せざるを得ないのであつて、ある行為が一見定款所定の目的とかかわりがないものであるとしても、会社に、社会通念上、期待ないし要請されるものであるかぎり、その期待ないし要請にこたえることは会社の当然になしうるところである。
――最大判昭和45年6月24日(八幡製鉄政治献金事件)

意義: 政治資金の寄付も、客観的・抽象的に観察して会社の社会的役割として期待されるものである限り、目的の範囲内に含まれると判断しました。この判例から、営利法人(会社)の「目的の範囲」は広く解釈されることがわかります。

なお、本判決は会社の政治献金が「目的の範囲内」であることを認めた一方で、政治献金が無制限に許されると述べたわけではない点に注意が必要です。あくまで会社の規模等に照らして合理的な範囲という限定が判旨には含まれています。

法人の種類による「目的の範囲」の解釈の違い

法人の種類解釈の傾向根拠営利法人(会社)広く解釈八幡製鉄事件(最大判昭45.6.24)公益法人やや厳格に解釈目的による制限が比較的強い労働組合・強制加入団体厳格に解釈国労広島地本事件(最判昭50.11.28)等

労働組合については、国労広島地本事件で最高裁が組合員の政治的自由を尊重する立場から、目的の範囲を厳格に解釈しました。特定の立候補者支援のための臨時組合費(政治意識昂揚資金)の徴収などは、組合員の協力義務を否定し、目的の範囲外とされています。

「目的の範囲外」の行為の効果

目的の範囲を逸脱した行為は、原則として法人に効果が帰属しません。ただし、相手方の取引の安全との調整が問題となります。判例は、営利法人の取引行為については目的の範囲を非常に広く解することで、ほとんどのケースで取引が有効となるよう配慮しています。逆に、政治献金の強制徴収のように構成員の思想・信条の自由を侵害する性質を持つ行為については、強制加入団体において厳格に範囲を画する、という二段構えの理解が重要です。

法人の不法行為責任

一般法人法78条

法人は、その代表機関が職務を行うについて第三者に損害を加えた場合、損害賠償責任を負います。

一般法人法78条は次のように規定しています。

一般社団法人は、代表理事その他の代表者がその職務を行うについて第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。
――一般社団法人及び一般財団法人に関する法律78条

旧民法44条1項(法人の不法行為能力の規定)は平成18年改正で削除され、その内容は一般法人法78条に引き継がれました。「現在も民法44条が法人の不法行為責任の根拠条文である」とする選択肢は誤りである点に注意してください。

「職務を行うについて」と外形理論

この「職務を行うについて」の解釈は、使用者責任(民法715条)における「事業の執行について」と同様に外形理論(外形標準説)が適用されます。すなわち、行為の外形から客観的に観察して職務の範囲内に属するとみられる行為であれば足り、実際には代表者個人の利益のためにされた行為(職務逸脱行為)であっても、相手方が悪意・重過失でない限り法人の責任が成立します。

代表者個人の責任との関係

法人が損害賠償責任を負う場合、代表者個人も民法709条に基づく不法行為責任を負います。法人の責任と代表者個人の責任は不真正連帯債務の関係に立ちます。被害者はいずれに対しても全額の賠償を請求でき、一方が弁済すれば他方の債務も消滅します。

比較項目法人の不法行為責任使用者責任(715条)加害者代表機関(理事等)被用者帰責の基礎「職務を行うについて」「事業の執行について」外形理論適用適用加害者個人の709条責任あり(不真正連帯)あり(不真正連帯)選任・監督の免責なしあり(715条1項ただし書)

使用者責任には選任・監督について相当の注意をしたとき等の免責規定がある一方、法人の不法行為責任にはそうした免責規定がない、という違いが問われることがあります。

権利能力なき社団

権利能力なき社団とは

権利能力なき社団とは、社団としての実質を備えているが法人格を有しない団体のことです。町内会、同窓会、マンション管理組合(法人化していないもの)、学術団体、政党の支部などが典型例です。法人格はないものの、実体としては法人に準じた団体であるため、判例は一定の範囲で法人に類似した取扱いを認めています。

最判昭和39年10月15日の4要件

権利能力なき社団と認められるための要件として、最高裁は以下の4つを示しています。

権利能力なき社団といいうるためには、団体としての組織をそなえ、そこには多数決の原則が行なわれ、構成員の変更にもかかわらず団体そのものが存続し、しかしてその組織によって代表の方法、総会の運営、財産の管理その他団体としての主要な点が確定しているものでなければならない。
――最判昭和39年10月15日

整理すると次の4要件になります。

  1. 団体としての組織を備えていること
  2. 多数決の原則が行われていること
  3. 構成員の変更にもかかわらず団体そのものが存続すること
  4. 代表の方法、総会の運営、財産の管理その他団体としての主要な点が確定していること

この4要件は行政書士試験で頻出であり、正確に暗記しておく必要があります。出題では、4要件のうち1つを欠いた選択肢(例:「構成員が変更すると団体は消滅する」)を正しいかのように見せて誤りを誘うパターンが定番です。構成員が入れ替わっても団体が存続するという点(要件3)は特に狙われやすいので、逆の記述に注意してください。

権利能力なき社団の法律関係

権利能力なき社団は法人格がないため、権利義務の帰属について特殊な取扱いがなされます。

項目取扱い財産の帰属構成員全員に総有的に帰属不動産登記社団名義での登記は不可。代表者個人名義で登記訴訟当事者能力あり(民事訴訟法29条)構成員の責任社団の債務について構成員は個人的責任を負わない取引の名義代表者が社団の代表として取引を行う預金口座代表者個人名義または団体名義で開設

構成員の責任の範囲

権利能力なき社団の債務について、構成員は個人的・直接的な責任を負わず、社団の総有財産だけが責任財産となるのが原則です。最高裁も、権利能力なき社団の代表者が社団名で取引をした場合の責任について、その債務は構成員全員に総有的に帰属し、社団の総有財産だけがその責任財産となって、構成員は取引の相手方に対して直接には個人的債務ないし責任を負わないとしています(最判昭和48年10月9日)。

これは、社団財産という有限責任的な性質を認めるものであり、組合(民法上の任意組合)において組合員が無限責任を負うのと対照的です。「権利能力なき社団の債務については構成員が無限責任を負う」とする選択肢は誤りです。

不動産登記が社団名義でできない理由

不動産登記は「権利能力を有する者」の名義でなければできません。権利能力なき社団は法人格がなく権利能力がないため、社団名義での登記はできず、代表者の個人名義で登記することになります(最判昭和47年6月2日)。

ただし、代表者が交代した場合は、新代表者への名義変更が必要になります。この登記は委任の終了を原因とする所有権移転登記として行われます。なお、判例は、社団構成員全員の総有財産であることを示すために代表者個人名義での登記を認めているのであって、登記簿上は個人名義でも実体は総有である、という二重構造を理解しておくとよいでしょう。

総有の意味

権利能力なき社団の財産は構成員に「総有的に帰属」します。総有とは、各構成員が持分を有せず、個々の構成員には持分の処分や分割請求が認められない共同所有形態です(最判昭和32年11月14日)。

共同所有形態持分持分の処分分割請求典型例共有(249条〜)あり可能可能一般的な共有合有あり(潜在的)不可原則不可民法上の組合財産総有なし不可不可権利能力なき社団の財産

総有では各構成員に持分がないため、構成員が脱退しても持分の払戻しを請求できず、社団が解散しない限り財産の分割もできません。この「持分なし・処分不可・分割請求不可」という3点セットが総有の核心であり、共有との対比で頻出します。

権利能力なき社団と組合の比較

権利能力なき社団と民法上の組合(任意組合)は、いずれも法人格を持たない団体ですが、団体性の強さに違いがあります。

比較項目権利能力なき社団民法上の組合団体性強い(団体が前面に出る)弱い(組合員の結合が前面に出る)財産の帰属総有合有構成員の債務責任個人的責任を負わない各組合員が無限責任構成員の変更団体は存続組合員の変更が組合に影響しやすい業務執行多数決組合契約・業務執行者による

団体としての独立性が強いほど社団に近づき、構成員間の契約的結合が強いほど組合に近づく、という連続的な理解が有効です。

法人の機関

社団法人の機関構成

一般社団法人を例に、法人の機関構成を確認します。

機関役割設置義務社員総会最高意思決定機関必置理事業務執行・代表必置(1人以上)理事会業務執行の決定・理事の監督任意(大規模法人等は必置)監事理事の職務執行の監査任意(理事会設置法人は必置)会計監査人計算書類の監査大規模法人は必置

社員総会は一般社団法人に必置の最高意思決定機関であり、理事も最低1名は必置です。理事会を設置した一般社団法人(理事会設置一般社団法人)では、監事の設置が必須となる点に注意してください。

理事の代表権の制限

理事の代表権に加えた制限は、善意の第三者に対抗することができません(一般法人法77条5項参照)。これは、取引の安全を保護するための規定です。たとえば「1000万円を超える契約には社員総会の決議を要する」という内部的制限を設けても、その制限を知らない第三者との契約は有効に成立します。

利益相反取引と表見代理

理事が法人と取引をする場合(利益相反取引)には、社員総会または理事会の承認が必要とされます。また、理事が代表権の範囲を超えて行為をした場合、相手方が善意無過失であれば表見法理(民法110条の類推等)により法人が責任を負うことがあります。機関構成の細部は会社法と共通する考え方が多いため、株式会社の取締役との対比で押さえると効率的です。

判例の横断整理

試験で問われやすい法人関連判例

判例論点結論八幡製鉄事件(最大判昭45.6.24)会社の政治献金目的の範囲内国労広島地本事件(最判昭50.11.28)労働組合の政治献金強制目的の範囲外南九州税理士会事件(最判平8.3.19)税理士会の政治献金強制目的の範囲外群馬司法書士会事件(最判平14.4.25)司法書士会の災害復興支援金目的の範囲内

これらの判例は、強制加入団体か任意加入団体かという観点で整理すると理解しやすくなります。

  • 任意加入団体(会社など): 構成員は脱退の自由があるため、目的の範囲を広く解する
  • 強制加入団体(税理士会、司法書士会など): 構成員に脱退の自由がないため、目的の範囲を厳格に解する。ただし、災害復興支援のように構成員の思想・信条に直接関わらない支出は目的の範囲内

南九州税理士会事件と群馬司法書士会事件の比較

この2つの判例は、いずれも強制加入団体の事案でありながら結論が分かれるため、対比で問われやすい組み合わせです。

観点南九州税理士会事件群馬司法書士会事件支出の内容政治団体への寄付金他会への災害復興支援拠出金思想・信条との関係直接関わる(政治的色彩が濃い)直接関わらない結論目的の範囲外(特別会費徴収決議は無効)目的の範囲内(決議は有効)

南九州税理士会事件で最高裁は、税理士会のような強制加入団体が政党など政治資金規正法上の政治団体に金員を寄付することは、たとえ税理士法改正運動のためであっても、会員の思想・信条の自由との関係で目的の範囲外であると判断しました。これに対し群馬司法書士会事件では、震災で被災した他県の司法書士会への復興支援拠出は、会員の政治的・宗教的立場や思想・信条の自由を害するものではないとして、目的の範囲内と認めました。

「強制加入団体だから常に厳格、常に目的の範囲外」と機械的に覚えると群馬司法書士会事件で誤るため、支出が会員の思想・信条の自由に直接関わるか否かという実質的な判断基準まで理解しておくことが重要です。

頻出論点・出題ポイント

よくある誤解(ひっかけ対策)

試験で狙われる典型的な誤りパターンを整理します。いずれも「もっともらしい誤り」として選択肢に登場します。

よくある誤解(誤りの選択肢)正しい理解一般社団法人は社員に剰余金を分配できる分配の定めは効力を有しない(一般法人法11条2項)法人の不法行為責任の根拠は現在も民法44条である民法44条は削除され、一般法人法78条に承継権利能力なき社団の財産は構成員の共有に属する総有である(持分なし・分割請求不可)権利能力なき社団は社団名義で不動産登記ができるできない。代表者個人名義で登記権利能力なき社団の債務は構成員が無限責任を負う構成員は個人的責任を負わない構成員が変われば権利能力なき社団は消滅する構成員が変わっても団体は存続(要件3)強制加入団体の支出は常に目的の範囲外思想・信条に関わらない支出は範囲内(群馬司法書士会事件)許可主義と認可主義は同じ意味許可=裁量あり、認可=裁量なし一般財団法人は社員総会で意思決定する財団に社員はおらず、社員総会は存在しない

過去問で問われた角度

法人分野の出題は、おおむね次の4つの角度に集約されます。

  1. 設立方式と具体例のマッチング: 「日本銀行は準則主義で設立される」のような具体例とのひもづけの正誤。
  2. 判例の結論の正誤: 八幡製鉄・国労広島地本・南九州税理士会・群馬司法書士会の結論を入れ替える選択肢。
  3. 権利能力なき社団の法律関係: 財産の帰属(総有)、登記、当事者能力、構成員の責任を組み合わせた正誤。
  4. 機関構成: 一般社団法人の必置機関、理事会設置法人での監事の要否など。

このうち、判例の結論と権利能力なき社団の法律関係は配点効率が高く、繰り返し問われるため、優先的に固めるべき領域です。

暗記の優先順位

法人分野で時間を割くべき優先順位は次のとおりです。

  1. 権利能力なき社団の4要件(一字一句)と総有の意味
  2. 4大判例の結論(八幡製鉄=範囲内/国労・税理士会=範囲外/司法書士会=範囲内)
  3. 設立方式の定義と具体例
  4. 一般社団・一般財団の機関と設立要件の違い

関連論点

法人格否認の法理

会社法の領域ですが、法人格が形骸化している場合や、法人格が法律の適用を回避するために濫用されている場合には、特定の事案に限り法人格の独立性を否定する法人格否認の法理が判例上認められています(最判昭和44年2月27日)。権利能力なき社団とは逆に「法人格があってもそれを貫かない」場面であり、対比で理解すると法人格の意義が立体的に見えてきます。

信託・NPO法人との関係

非営利活動の受け皿としては、一般社団法人のほかに特定非営利活動法人(NPO法人)があります。NPO法人は認証主義(所轄庁の認証)により設立される点で、準則主義の一般社団法人とは設立方式が異なります。設立方式の具体例として問われる余地があるため、「NPO法人=認証」という対応も押さえておくとよいでしょう。

まとめ|法人制度の得点ポイント

法人制度は、以下の3つのテーマを確実に押さえれば得点源にできます。

  1. 設立方式: 準則主義・許可主義・認可主義・特許主義の違い(とくに許可=裁量あり/認可=裁量なし)。現行法は準則主義が主流。
  2. 権利能力の範囲: 「目的の範囲内」の解釈は法人の種類によって異なる。八幡製鉄事件は範囲内、強制加入団体は原則厳格だが思想・信条に関わらない支出は範囲内。
  3. 権利能力なき社団: 4要件の暗記、財産は総有的帰属、不動産登記は代表者個人名義、構成員は個人的責任を負わない。

特に権利能力なき社団の4要件は、一字一句正確に覚えておくことが試験対策として重要です。あわせて、総有・共有・合有の違い、強制加入団体の判例の結論を整理しておけば、本分野はほぼ取りこぼしなく得点できます。

関連分野もあわせて学習することで、民法総則および一般知識の理解が深まります。

確認問題

権利能力なき社団の財産は、構成員全員の共有(民法249条以下)に属する。

○ 正しい × 誤り
解説
権利能力なき社団の財産は、構成員全員に「総有的に帰属」するとされています(最判昭和32年11月14日)。共有(249条以下)ではありません。総有では各構成員に持分がなく、持分の処分や分割請求は認められません。
確認問題

八幡製鉄政治献金事件で最高裁は、会社の政治献金は定款の目的の範囲外であると判断した。

○ 正しい × 誤り
解説
最高裁(最大判昭和45年6月24日)は、会社の政治資金の寄付は、客観的・抽象的に観察して会社の社会的役割として期待されるものである限り、目的の範囲内に含まれると判断しました。目的の範囲外としたのではなく、目的の範囲内と認めています。
確認問題

権利能力なき社団は、その名義で不動産の登記をすることができない。

○ 正しい × 誤り
解説
権利能力なき社団は法人格を有しないため、社団名義での不動産登記はできません(最判昭和47年6月2日)。不動産は代表者の個人名義で登記することになります。代表者が交代した場合は、委任の終了を原因として新代表者への所有権移転登記を行います。
確認問題

権利能力なき社団の債務については、社団の総有財産だけでなく、各構成員も取引の相手方に対して直接個人的な責任を負う。

○ 正しい × 誤り
解説
最判昭和48年10月9日は、権利能力なき社団の代表者が社団名で取引をした場合の債務は構成員全員に総有的に帰属し、社団の総有財産だけが責任財産となって、構成員は相手方に対して直接には個人的債務ないし責任を負わないとしています。構成員が無限責任を負う組合とは異なります。
確認問題

強制加入団体である司法書士会が、大震災で被災した他県の司法書士会に復興支援のための拠出金を寄付することは、会の目的の範囲外であり許されない。

○ 正しい × 誤り
解説
群馬司法書士会事件(最判平成14年4月25日)は、他県の司法書士会への復興支援拠出は会員の政治的・宗教的立場や思想・信条の自由を害するものではないとして、目的の範囲内であると判断しました。政治団体への寄付を目的の範囲外とした南九州税理士会事件(最判平成8年3月19日)と対比して理解しましょう。
#択一式 #民法 #総則

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