法定相続分の計算問題攻略|図解で解法マスター
法定相続人の範囲と順位、法定相続分の計算方法(配偶者+子・配偶者+直系尊属・配偶者+兄弟姉妹)、代襲相続、特別受益と寄与分を計算問題の解法パターンとともに解説。行政書士試験の相続分野を完全攻略します。
はじめに|法定相続分の計算は必ず出る
行政書士試験の民法では、法定相続分の計算問題が繰り返し出題されています。択一式で5肢から正解を選ぶ形式が多く、正確に計算できれば確実に得点できる分野です。
しかし、代襲相続が絡む事例や、相続放棄した者がいる事例では、相続分の計算が複雑になり、ミスが起きやすくなります。本記事では、法定相続人の確定から相続分の計算まで、段階的な解法パターンを示し、どのような事例が出ても対応できる力を養います。
相続分野は、択一式で正面から計算問題が出るだけでなく、記述式の前提知識としても問われます。さらに、相続放棄・代襲相続・特別受益・寄与分といった論点は、相続の効力(債務の承継、遺留分)と密接に関連しており、相続全体を理解する土台になります。「配偶者は常に相続人」「相続放棄は代襲原因ではない」といった核となるルールを、条文の文言と趣旨に立ち返って固めることが、得点の安定につながります。
本記事は、(1)法定相続人の確定ルール、(2)法定相続分の3パターン、(3)代襲相続、(4)相続放棄・欠格・廃除の処理、(5)特別受益・寄与分による具体的相続分の修正、という順で、過去問で問われる角度を意識しながら整理します。計算は「相続人の確定 → 組合せ確認 → 法定相続分 → 修正」の4ステップに収束するので、最後にそのパターンをまとめます。
法定相続人の範囲と順位
相続人になれる者
民法が定める法定相続人は、以下の者です。
配偶者は常に相続人になるという点が最も重要です。配偶者は、他の相続人と並んで常に相続権を有します。
被相続人の配偶者は、常に相続人となる。この場合において、第八百八十七条又は前条の規定により相続人となるべき者があるときは、その者と同順位とする。
――民法890条
ここでいう「配偶者」とは、法律上の婚姻関係にある者を指します。婚姻届を提出している配偶者だけが相続人となり、内縁の配偶者(事実婚のパートナー)には相続権がありません。内縁配偶者の保護は、特別縁故者への財産分与(958条の2)や、借家権の承継などの別の制度で図られることがありますが、法定相続の場面では相続人にならない点を押さえておきましょう。
また、配偶者には順位という概念がありません。第1順位の子がいれば子と、子がいなければ直系尊属と、いずれもいなければ兄弟姉妹と、常にいずれかの血族相続人と共同で相続します。血族相続人が誰もいないときは、配偶者が単独で全部を相続します。
相続の順位
先順位の相続人がいる場合、後順位の相続人は相続人になりません。
- 第1順位(子)がいる場合: 直系尊属・兄弟姉妹は相続人にならない
- 第1順位がおらず、第2順位(直系尊属)がいる場合: 兄弟姉妹は相続人にならない
- 第1順位・第2順位がいない場合: 第3順位(兄弟姉妹)が相続人になる
血族相続人は「子 → 直系尊属 → 兄弟姉妹」の順で、先順位がいる限り後順位は登場しないのが鉄則です。直系尊属の中でも、親等の近い者が優先します(889条1項1号ただし書)。つまり、被相続人に父母と祖父母がいる場合、父母が相続人となり、祖父母は相続人になりません。父母がともに死亡しているときに初めて祖父母が相続人となります。
相続人になれない者(欠格・廃除)
形式的には相続人の地位にある者でも、一定の事由があると相続権を失います。代表的なのが相続欠格(891条)と廃除(892条・893条)です。
欠格は法律上当然に効果が生じるのに対し、廃除は被相続人の意思に基づき家庭裁判所の審判(または調停)を要する点が異なります。なお、廃除の対象となるのは遺留分を有する推定相続人に限られます(兄弟姉妹は遺留分を持たないため、廃除によらずとも遺言で相続させなければよく、廃除の対象外です)。欠格・廃除のいずれも、後述の代襲原因になります。
胎児の相続権(886条)
胎児は、相続については、既に生まれたものとみなす。
――民法886条1項
胎児は、相続については生まれたものとみなされます。ただし、死体で生まれた場合は適用されません(886条2項)。
前項の規定は、胎児が死体で生まれたときは、適用しない。
――民法886条2項
胎児の相続権をめぐっては、胎児である間に相続人としての権利能力を有するか(停止条件説か解除条件説か)という論点があります。判例(大判昭和7年10月6日・阪神電鉄事件は不法行為の損害賠償請求権に関するものですが)は、胎児中は権利能力を有さず、生きて生まれることを条件として相続開始時にさかのぼって権利能力を取得する(停止条件説=人格遡及説)に親和的とされます。試験対策としては、まず「胎児は相続については生まれたものとみなされ、死産の場合は適用がない」という条文の結論を確実に押さえることが先決です。
法定相続分の基本パターン
パターン1:配偶者と子
子及び配偶者が相続人であるときは、子の相続分及び配偶者の相続分は、各二分の一とする。
――民法900条1号
子が複数いる場合、子の相続分(1/2)を均等に分けます。
計算例: 被相続人Aに配偶者B、子C・Dがいる場合
- B: 1/2
- C: 1/2 × 1/2 = 1/4
- D: 1/2 × 1/2 = 1/4
パターン2:配偶者と直系尊属
配偶者及び直系尊属が相続人であるときは、配偶者の相続分は、三分の二とし、直系尊属の相続分は、三分の一とする。
――民法900条2号
計算例: 被相続人Aに配偶者B、父C・母Dがいる場合
- B: 2/3
- C: 1/3 × 1/2 = 1/6
- D: 1/3 × 1/2 = 1/6
パターン3:配偶者と兄弟姉妹
配偶者及び兄弟姉妹が相続人であるときは、配偶者の相続分は、四分の三とし、兄弟姉妹の相続分は、四分の一とする。
――民法900条3号
計算例: 被相続人Aに配偶者B、兄C・弟Dがいる場合
- B: 3/4
- C: 1/4 × 1/2 = 1/8
- D: 1/4 × 1/2 = 1/8
パターン4:配偶者がいない場合
配偶者がいない場合、同順位の相続人のみで均等に分けます。
計算例: 被相続人Aに子B・C・Dがいる場合(配偶者なし)
- B: 1/3
- C: 1/3
- D: 1/3
3パターンの相続分一覧
配偶者の相続分が「1/2 → 2/3 → 3/4」と順位が下がるほど大きくなることを覚えておきましょう。
相続分の規定の趣旨
なぜ後順位の血族相続人と共同するほど配偶者の相続分が大きくなるのでしょうか。これは、配偶者は被相続人と財産形成に共同して寄与していること、また残された配偶者の生活保障の必要性が高いことを考慮したためと説明されます。子は次世代として被相続人の財産を承継する第一の主体であるため配偶者と折半(各1/2)とされ、直系尊属はすでに自身の生活基盤を持つことが多いため配偶者2/3・尊属1/3、兄弟姉妹は被相続人との生活上の結びつきが相対的に薄いため配偶者3/4・兄弟姉妹1/4と、配偶者保護の度合いが段階的に高まっています。
なお、これらの相続分はあくまで法定相続分であり、遺言による相続分の指定(902条)や遺産分割協議(906条以下)があれば、それが優先します。法定相続分は、遺言がなく、かつ協議が調わない場合の標準的な分け方であると理解しておきましょう。
同順位の相続人間の分配ルール
子の間の均等分配(900条4号本文)
子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。
――民法900条4号本文
同順位の相続人が複数いる場合は、均等に分配するのが原則です。
嫡出子と非嫡出子の相続分
2013年の民法改正により、嫡出子と非嫡出子の相続分は同等になりました。改正前は非嫡出子の相続分は嫡出子の2分の1とされていましたが、最高裁の違憲決定(最大決平成25年9月4日)を受けて改正されました。
この違憲決定は、相続分野で最も重要な憲法・民法横断の判例の一つです。事案は、非嫡出子の相続分を嫡出子の2分の1とする旧900条4号ただし書前段の合憲性が争われたものです。最高裁は、家族形態の多様化や国民意識の変化などを総合考慮し、遅くとも平成13年7月(本件相続開始時)の時点では、当該区別は合理的根拠を失っており、法の下の平等を定める憲法14条1項に違反すると判断しました。
遅くとも〔本件相続開始時である〕平成13年7月当時においては、立法府の裁量権を考慮しても、嫡出子と嫡出でない子の法定相続分を区別する合理的な根拠は失われていたというべきである。〔したがって本件規定は〕憲法14条1項に違反していたものというべきである。
――最大決平成25年9月4日(非嫡出子相続分違憲決定)
意義として、(1)この決定が他の相続にも遡及的に影響しないよう、すでに確定的なものとなった法律関係には影響しないと限定したこと、(2)これを受けて旧900条4号ただし書前段が削除され、嫡出子・非嫡出子の相続分が完全に平等となったことを押さえてください。試験では「現在も非嫡出子の相続分は嫡出子の半分である」という誤った肢が出題されることがあるので注意が必要です。
半血兄弟姉妹の相続分(900条4号ただし書)
ただし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の二分の一とする。
――民法900条4号ただし書
半血兄弟姉妹(父母の一方のみが同じ兄弟姉妹)の相続分は、全血兄弟姉妹の2分の1です。
計算例: 被相続人Aに配偶者なし、全血兄B・半血弟Cがいる場合
- 兄弟姉妹の相続分は全体で1(配偶者がいないため)
- Bの相続分:Cの2倍
- B: 2/3、C: 1/3
計算方法: Bの取り分を2、Cの取り分を1として、合計3で割る。
ここで重要なのは、この2分の1ルールは兄弟姉妹相続の場面に限られるという点です。非嫡出子の相続分が嫡出子と平等になった現在も、半血兄弟姉妹の規定は維持されています。両者を混同して「半血兄弟姉妹も全血と同等になった」と誤解しないようにしましょう。半血の規定が残っているのは、兄弟姉妹間では被相続人との血縁の濃淡(父母の双方を共通にするか一方のみか)を相続分に反映させることに一定の合理性があると考えられているためです。
養子・代襲・特別の関係にある者の取扱い
同順位者の数え方で出題されやすい論点を整理します。
養子は人数に制限なく「子」として相続人になります(相続税法上は法定相続人の数に算入できる養子数に制限がありますが、これは税法上の取扱いであって、民法上の相続人としての地位とは別の話です)。普通養子は養親の相続人になると同時に実親の相続人にもなりますが、特別養子は実方との親族関係が終了するため実親の相続人にはなりません。この区別も頻出ポイントです。
代襲相続
代襲相続とは(887条2項)
被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したとき、又は第八百九十一条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その相続権を失ったときは、その者の子がこれを代襲して相続人となる。ただし、被相続人の直系卑属でない者は、この限りでない。
――民法887条2項
代襲相続とは、相続人となるべき者が相続開始前に死亡した場合等に、その者の子が代わりに相続人となる制度です。
代襲相続の趣旨は、本来相続するはずだった者の家系(直系卑属)に承継させることで、世代間の公平を図る点にあります。たとえば、被相続人に子A・Bがいて、Aが先に死亡してその子(被相続人の孫)がいる場合、孫がAの地位を引き継がなければ、Aの家系だけが遺産から排除されてしまい不公平です。これを防ぐのが代襲相続です。
なお887条2項ただし書は、「被相続人の直系卑属でない者は代襲相続できない」と定めています。たとえば養子縁組前に生まれていた養子の子は、被相続人(養親)の直系卑属ではないため、代襲相続人になれないとされます。一方、養子縁組後に生まれた養子の子は、被相続人の直系卑属にあたるため代襲相続が可能です。
代襲原因
注意: 相続放棄は代襲原因にならない。相続放棄をした者は初めから相続人でなかったものとみなされるため(939条)、代襲相続は生じません。
代襲原因は「死亡・欠格・廃除」の3つだけと暗記してください。条文(887条2項)の文言が「相続の開始以前に死亡」「891条に該当(欠格)」「廃除によって」と明示しています。ここで「相続開始以前」とあるのは、相続開始前の死亡だけでなく、被相続人と同時に死亡した場合(同時死亡の推定・32条の2)も含む趣旨です。同時死亡の場合は互いに相続せず、それぞれの代襲相続が生じる点に注意しましょう。
最も狙われるのは「相続放棄は代襲原因ではない」という点です。放棄をした者の子は代襲相続できません。これは欠格・廃除との決定的な違いです。
代襲相続と相続分
代襲相続人の相続分は、被代襲者が受けるべきであった相続分と同じです(901条1項)。代襲相続人が複数いる場合は、被代襲者の相続分を均等に分けます。
第八百八十七条第二項又は第三項の規定により相続人となる直系卑属の相続分は、その直系卑属が代襲した者〔被代襲者〕が受けるべきであったものと同じとする。〔代襲相続人が数人あるときは、その各自の直系卑属の相続分は均等とする趣旨を含む〕
――民法901条1項
計算例: 被相続人Aに配偶者B、子Cがいたが、Cが先に死亡し、Cに子E・Fがいる場合
- B: 1/2
- E: 1/2 × 1/2 = 1/4(Cの相続分1/2をE・Fで均等分配)
- F: 1/2 × 1/2 = 1/4
ポイントは、代襲相続人は被代襲者の取り分をそっくりそのまま分け合うという点です。被代襲者の取り分以上にも以下にもなりません。上の例では、Cが本来取得するはずだった1/2を、その子E・Fで均等に分けるため、各1/4となります。代襲相続人の数が増えても、被代襲者一人分のパイ(1/2)を分けるだけなので、相続人全体のバランスは崩れません。
再代襲相続(887条3項)
子の代襲相続人(孫)がさらに死亡している場合、その子(ひ孫)が再代襲します。子の場合は再代襲が認められ、どこまでも代襲が続きます。
前項の規定は、代襲者が、相続の開始以前に死亡し、又は第八百九十一条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その代襲相続権を失った場合について準用する。
――民法887条3項
一方、兄弟姉妹の代襲相続は一代限りです(889条2項)。兄弟姉妹の子(甥・姪)は代襲相続できますが、甥・姪の子には再代襲は認められません。
第八百八十七条第二項の規定は、前項第二号の場合〔兄弟姉妹が相続人となる場合〕について準用する。
――民法889条2項
ここがまさに頻出ポイントです。889条2項は、兄弟姉妹の代襲について887条2項のみを準用し、再代襲を定める887条3項を準用していません。そのため、兄弟姉妹の代襲は甥・姪までの一代限りとなります。子の場合は887条3項により再代襲が認められるので、孫・ひ孫と無制限に下りていく点と対比して覚えましょう。
直系尊属には代襲がない
代襲相続が問題になるのは子(第1順位)と兄弟姉妹(第3順位)だけです。第2順位の直系尊属には代襲という概念がありません。直系尊属の場合は、親等の近い者から順に相続人となる(父母が死亡していれば祖父母が相続人となる)という仕組みであり、これは代襲ではなく直系尊属内の順位の問題です。「父が被相続人より先に死亡していたので、父を代襲して父方の祖父が相続する」という表現は誤りで、正しくは「父母がいないので祖父母が直系尊属として相続人になる」と理解します。
相続放棄がある場合の計算
相続放棄の効果
相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。
――民法939条
相続放棄をした者は、最初から相続人でなかったものとして扱われます。
相続放棄は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内(熟慮期間・915条1項)に、家庭裁判所への申述によって行います。単純承認・限定承認との選択肢の中の一つです。一度受理された放棄は、原則として撤回できません(919条1項)。放棄の効果は強力で、プラスの財産もマイナスの財産(債務)も一切承継しなくなります。
計算への影響
相続放棄をした者を除外して、残りの相続人で法定相続分を計算し直します。
計算例: 被相続人Aに配偶者B、子C・Dがいるが、Cが相続放棄した場合
- Cは最初から相続人でなかったとみなされる
- B: 1/2
- D: 1/2
CがDの分を取得するのではなく、Dが子としての取り分(1/2)を全部取得する点に注意してください。
全員が相続放棄した場合: 子全員が相続放棄すると、第1順位の相続人がいなくなるため、次順位の直系尊属が相続人となります。
この「順位の繰り上がり」は放棄に特有の現象です。先述のとおり放棄は代襲原因にならないため、子が全員放棄した場合、その子(孫)が代襲するのではなく、第2順位の直系尊属、いなければ第3順位の兄弟姉妹へと順位が移る点が極めて重要です。
放棄をめぐる典型的なひっかけを整理します。
欠格・廃除との違い(最重要の対比)
放棄・欠格・廃除はいずれも「相続人にならない/相続権を失う」結果をもたらしますが、代襲が生じるかどうかで決定的に異なります。
放棄では放棄者の子は代襲できないのに対し、欠格・廃除では子が代襲できます。この違いは、「放棄は相続人本人の意思による相続からの離脱であり、その家系全体を相続から排除する趣旨であるのに対し、欠格・廃除は本人個人の非行に対する制裁であって、罪のないその子まで連座させる必要はない」という考え方で説明されます。趣旨から押さえると忘れにくくなります。
特別受益(903条)
特別受益とは
特別受益とは、共同相続人の中に被相続人から遺贈や生前贈与(婚姻・養子縁組・生計の資本としての贈与)を受けた者がいる場合の調整制度です。
共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、法定相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。
――民法903条1項
特別受益の制度趣旨は、生前贈与や遺贈を受けた相続人と、受けていない相続人との間の公平を図る点にあります。特定の相続人だけが生前に多額の援助を受けていた場合、それを無視して残った遺産だけを法定相続分で分けると、援助を受けた相続人が「もらい得」になってしまいます。そこで、贈与額をいったん相続財産に持ち戻して計算し、受益者の取り分から差し引くことでバランスを取ります。
計算方法
ステップ1: みなし相続財産を計算する
みなし相続財産 = 相続開始時の遺産 + 特別受益の額
ステップ2: 各相続人の一応の相続分を計算する
一応の相続分 = みなし相続財産 × 法定相続分
ステップ3: 特別受益者の具体的相続分を計算する
具体的相続分 = 一応の相続分 − 特別受益の額
計算例: 被相続人Aの遺産が6000万円、相続人は配偶者Bと子C・D。Cが生前に1000万円の贈与を受けていた場合
- みなし相続財産: 6000万円 + 1000万円 = 7000万円
- B: 7000万円 × 1/2 = 3500万円
- C: 7000万円 × 1/4 − 1000万円 = 750万円
- D: 7000万円 × 1/4 = 1750万円
- 合計: 3500 + 750 + 1750 = 6000万円(遺産総額と一致)
計算後に各相続人の取り分の合計が遺産総額と一致するかを必ず検算しましょう。特別受益のケースでは、持ち戻した贈与額が受益者の取り分から差し引かれて消えるため、最終的な合計は「相続開始時の遺産」に戻ります。一致しなければ計算ミスです。
特別受益が法定相続分を超える場合(超過特別受益)
もし特別受益の額が一応の相続分を超えてしまった場合、受益者はすでに法定相続分以上を受け取っているため、新たに遺産から取得することはできません(具体的相続分はゼロ)。
遺贈又は贈与の価額が、相続分の価額に等しく、又はこれを超えるときは、受遺者又は受贈者は、その相続分を受けることができない。
――民法903条2項
ここで重要なのは、超過特別受益者は超過分を他の相続人に返還する必要はないという点です。マイナスを他の相続人が負担するわけではなく、超過受益者の取り分をゼロにしたうえで、残りの遺産を他の相続人で分けます(具体的な配分方法には学説がありますが、試験では「超過分の返還義務はない」という結論を押さえれば十分です)。
持戻し免除の意思表示(903条3項)
被相続人が特別受益の持戻しを免除する意思表示をした場合、特別受益の持戻しは行いません。
被相続人が前二項の規定と異なった意思を表示したときは、その意思に従う。
――民法903条3項
持戻し免除がされると、贈与額を相続財産に加算せず、残った遺産だけを法定相続分で分けます。被相続人が「この贈与は相続分とは別に与えるものだ」という意思を示していた場合に、その意思を尊重する規定です。
配偶者への居住用不動産の贈与(903条4項)
改正民法で新設された規定です。
婚姻期間が二十年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、その居住の用に供する建物又はその敷地について遺贈又は贈与をしたときは、当該被相続人は、その遺贈又は贈与について第一項の規定を適用しない旨の意思を表示したものと推定する。
――民法903条4項
婚姻期間20年以上の配偶者への居住用不動産の贈与は、持戻し免除の意思表示があったものと推定されます。
これは、長年連れ添った配偶者の生活保障を厚くするために設けられた規定です。要件は「婚姻期間20年以上」かつ「居住用の建物またはその敷地」の遺贈・贈与であること。これらを満たせば、被相続人が特に何も言っていなくても持戻し免除の意思表示があったものと推定されます(あくまで推定なので、反証は可能です)。配偶者居住権(1028条以下)とあわせて、改正による配偶者保護の文脈で出題されやすいテーマです。
寄与分(904条の2)
寄与分とは
寄与分とは、共同相続人の中に被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者がいる場合に、その貢献を相続分に反映させる制度です。
共同相続人中に、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなし〔以下略〕。
――民法904条の2第1項
寄与分は特別受益とちょうど鏡の関係にあります。特別受益が「もらった者の取り分を減らす」調整であるのに対し、寄与分は「貢献した者の取り分を増やす」調整です。「特別の寄与」といえる程度の貢献が必要で、通常の家事・扶養の範囲を超える特別の貢献でなければなりません。寄与分の額は、まず共同相続人の協議で定め、協議が調わないときは家庭裁判所が定めます(904条の2第2項)。
計算方法
ステップ1: みなし相続財産を計算する
みなし相続財産 = 相続開始時の遺産 − 寄与分の額
ステップ2: 各相続人の一応の相続分を計算する
一応の相続分 = みなし相続財産 × 法定相続分
ステップ3: 寄与者の具体的相続分を計算する
具体的相続分 = 一応の相続分 + 寄与分の額
計算例: 被相続人Aの遺産が8000万円、相続人は子B・C。Bに2000万円の寄与分がある場合
- みなし相続財産: 8000万円 − 2000万円 = 6000万円
- B: 6000万円 × 1/2 + 2000万円 = 5000万円
- C: 6000万円 × 1/2 = 3000万円
- 合計: 5000 + 3000 = 8000万円(遺産総額と一致)
特別受益が「加えて引く(みなし財産に加算し、受益者から控除)」のに対し、寄与分は「引いて加える(みなし財産から控除し、寄与者に加算)」という、符号が逆の処理になります。両者を並べて覚えると混同しません。
特別寄与料(1050条)――相続人以外の貢献
従来の寄与分は「共同相続人」の貢献に限られていました。そのため、たとえば被相続人の長男の妻が献身的に介護をしても、妻は相続人でないため寄与分を主張できないという不公平が指摘されていました。これを是正するため、改正により特別寄与料の制度が新設されました。
被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした被相続人の親族(相続人、相続の放棄をした者及び第八百九十一条の規定に該当し又は廃除によってその相続権を失った者を除く。以下この条において「特別寄与者」という。)は、相続の開始後、相続人に対し、特別寄与者の寄与に応じた額の金銭(以下この条において「特別寄与料」という。)の支払を請求することができる。
――民法1050条1項
特別寄与料の請求権者は「相続人以外の親族」であり、相続人・相続放棄者・欠格者・被廃除者は除かれます。請求は相続人に対する金銭請求の形で行い、寄与分のように遺産分割の中で処理されるわけではありません。「相続人ではない親族(典型的には子の配偶者)の貢献を金銭で報いる制度」という位置づけを押さえておきましょう。
計算問題の解法パターン
4ステップの解法
相続分の計算問題は、以下の4ステップで解きます。
- 相続人の確定: 誰が相続人になるか(相続放棄・代襲相続に注意)
- 相続分の組合せの確認: 配偶者+子か、配偶者+直系尊属か、配偶者+兄弟姉妹か
- 法定相続分の計算: 基本パターンに当てはめて計算
- 修正: 特別受益・寄与分がある場合は調整
このうち最も差がつくのがステップ1(相続人の確定)です。代襲・放棄・欠格・廃除が絡む事例では、ここで誰を相続人として残し、誰を除外し、誰を代襲させるかを正確に判断できるかどうかで正答が決まります。図(家系図)を書き、死亡者には×、放棄者には「放棄」、代襲が生じる者には矢印を引いて整理すると、ミスが激減します。
複合事例の解き方(総合練習)
実際の試験では複数の論点が組み合わさります。次の事例で流れを確認しましょう。
事例: 被相続人A。配偶者Bがいる。子はC・Dの2人。Cはすでに死亡しており、Cには子E(Aの孫)がいる。Dは相続を放棄した。
- ステップ1(確定): Bは配偶者として相続人。Cは死亡だが代襲によりEが相続人。Dは放棄により初めから相続人でなかったとみなされ、Dの子がいてもDを代襲しない。よって相続人はBとE。
- ステップ2(組合せ): 配偶者+子(Eは子Cの代襲=子の系列)。
- ステップ3(計算): 子の側の相続分は本来1/2。これをCの代襲者Eが承継する。ただしDが放棄したため、子の取り分1/2はすべてEに帰属する。
- B: 1/2
- E: 1/2(DがいなければCの代襲分はそのまま子の取り分全部)
ここでのポイントは、Dの放棄により「子はCの系列のみ」となり、その代襲者Eが子の取り分1/2をまるごと取得する点です。Dが放棄せずに生存していれば、子の取り分1/2はDとE(Cの代襲)で分け合い、D:1/4・E:1/4となるはずでした。放棄が計算結果を大きく変えることがわかります。
よくあるひっかけポイント
よくある誤解の整理
- 「相続放棄」と「相続分の放棄/譲渡」は別物: 939条の相続放棄は家庭裁判所への申述を要し、初めから相続人でなかったとみなされます。一方、遺産分割協議の中で「自分は何も要らない」と取り分を譲るのは事実上の放棄であり、相続人の地位は失いません(債権者に対しては相続人として扱われうる)。混同しないようにしましょう。
- 代襲相続は「死亡」だけではない: 欠格・廃除でも生じます。「先に死んでいないと代襲しない」と思い込むと誤ります。
- 持ち戻しは贈与額を遺産に物理的に戻すわけではない: あくまで計算上加算するだけで、贈与財産自体を返還させるものではありません。
相続分に関連する周辺論点
計算問題の背景として理解しておくと得点が安定する関連論点を整理します。
指定相続分(902条)
被相続人は遺言で共同相続人の相続分を指定し、またはその指定を第三者に委託することができます(902条)。指定相続分は法定相続分に優先します。ただし、遺留分を侵害する指定がされても指定自体が無効になるわけではなく、遺留分権利者は別途遺留分侵害額請求(1046条)によって金銭の支払を求めることになります。
相続分の譲渡・取戻し(905条)
共同相続人の一人が、遺産分割前にその相続分を第三者に譲渡したときは、他の共同相続人はその価額および費用を償還して、その相続分を取り戻すことができます(905条1項)。取戻権の行使期間は1か月以内とされています(905条2項)。遺産に第三者が割り込むことを防ぐための制度です。
配偶者居住権(1028条以下)
改正で新設された配偶者居住権は、配偶者が相続開始時に被相続人所有の建物に居住していた場合に、その建物に終身または一定期間無償で住み続けられる権利です。所有権を取得するより低い財産評価で居住を確保でき、配偶者がほかの遺産(預貯金など)も取得しやすくなります。法定相続分の計算そのものとは別の制度ですが、配偶者保護という改正の趣旨で903条4項とあわせて出題されることがあります。
これらの周辺論点は、相続分野の体系の中で「法定相続分」がどこに位置づけられるかを理解する助けになります。詳しくは関連記事もあわせて確認してください。
まとめ
法定相続分の計算問題は、以下のポイントを押さえれば確実に得点できます。
- 配偶者は常に相続人: 血族相続人と併せて相続する。内縁配偶者には相続権なし
- 3パターンの相続分: 1/2・1/2、2/3・1/3、3/4・1/4。配偶者は順位が下がるほど大きくなる
- 同順位は均等: ただし半血兄弟姉妹は全血の1/2(兄弟姉妹の場面のみ)。非嫡出子は現在は嫡出子と同等
- 代襲相続: 子は無制限に再代襲、兄弟姉妹は一代限り。直系尊属に代襲はない
- 代襲原因: 死亡・欠格・廃除の3つ。相続放棄は代襲原因にならない
- 相続放棄: 初めから相続人でなかったとみなす。順位の繰り上がりが起きる
- 特別受益: みなし相続財産=遺産+贈与額。受益者は控除(加えて引く)
- 寄与分: みなし相続財産=遺産−寄与分。寄与者は加算(引いて加える)
計算問題は練習量がものを言います。家系図を描いて相続人を確定する習慣をつけ、さまざまな事例パターンで繰り返し練習してください。
相続の他の論点もあわせて学習すると理解が深まります。あわせて、相続の承認・放棄|単純承認・限定承認・相続放棄の要件と効果(民法・相続の基本手続を解説)や、遺留分侵害額請求|遺留分の割合と計算方法(改正民法の遺留分制度を整理)、別カテゴリの基礎理論として法律行為と意思表示|民法の出発点を整理(行政書士試験の総則分野を解説)も確認しておきましょう。
相続放棄をした者の子は、代襲相続により相続人となることができる。
兄弟姉妹が相続人となる場合、兄弟姉妹の子(甥・姪)は代襲相続できるが、甥・姪の子は再代襲できない。
配偶者と兄弟姉妹が相続人である場合、配偶者の法定相続分は4分の3である。
非嫡出子の法定相続分は、嫡出子の法定相続分の2分の1である。
被相続人の遺産が6000万円、相続人は配偶者Bと子C・Dの2人で、Cが生前に1000万円の特別受益を受けていた場合、Cの具体的相続分は750万円である。
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