委任・請負・寄託の比較|3つの契約類型を一覧表で整理
民法の委任・請負・寄託の3つの契約類型を比較表で解説。各契約の定義、当事者の権利義務、報酬請求権、解除・解約告知の違いを行政書士試験の出題ポイントに沿って整理します。
はじめに|役務提供型契約の区別が試験で問われる
民法は、他人に何らかの役務(サービス)を提供する契約として、委任・請負・寄託などの契約類型を定めています。行政書士試験では、これら3つの契約類型の違いが択一式で出題されます。
特に、委任と請負の違い(仕事の完成義務の有無)、委任と寄託の違い(目的の違い)は頻出論点です。本記事では、3つの契約類型を比較しながら整理します。
民法は契約を13種類の典型契約(有名契約)として規定していますが、そのうち「役務提供型契約」と呼ばれるのが、雇用(第623条)・請負(第632条)・委任(第643条)・寄託(第657条)の4つです。これらはいずれも「人の労務・役務を提供する」点で共通していますが、何を目的とするか、誰が指揮命令権を持つか、報酬の要否などで区別されます。行政書士試験では雇用が単独で問われることは少なく、委任・請負・寄託の3類型の横断比較がよく問われます。
本記事は、まず各契約を個別に正確に押さえ、次に横断比較表で整理し、最後に頻出論点・過去問で問われた角度・よくある誤解までを網羅します。2020年(令和2年)4月1日施行の改正民法(債権法改正)で大きく変わった部分が多い分野ですので、改正点を意識しながら読み進めてください。
4つの役務提供型契約の全体像
まず、横断比較の土台として4類型の関係を整理します。
雇用は「労働に従事すること」自体が目的で、使用者の指揮命令に服する点が特徴です。請負は「仕事を完成させること(結果)」が目的で、請負人は自らの裁量で遂行します。委任は「事務処理」、寄託は「物の保管」がそれぞれ目的です。この「目的の違い」が、以下のすべての差異の出発点になります。
請負契約
定義
請負とは、当事者の一方(請負人)がある仕事を完成することを約し、相手方(注文者)がその仕事の結果に対して報酬を支払うことを約する契約です(民法第632条)。
請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。
― 民法 第632条
条文の構造に注目してください。請負には「仕事の完成」と「報酬の支払」が必ずセットで規定されています。つまり、請負には必ず報酬が伴う(有償契約である)ことが条文上明記されているのです。これは「特約がなければ無償」とされる委任・寄託との決定的な違いです。
請負の特徴
- 諾成契約: 合意のみで成立
- 双務契約: 請負人は仕事完成義務、注文者は報酬支払義務
- 有償契約: 報酬の支払いが要素
- 仕事の完成が目的: 結果の実現が求められる
請負人は仕事を完成させる義務を負いますが、その仕事を自ら遂行する必要は必ずしもありません。請負は「結果」に着目する契約なので、特約や仕事の性質に反しない限り、請負人は下請負に出すことができます。一方、委任は当事者間の信頼関係を基礎とするため、復受任者の選任には原則として委任者の許諾やむを得ない事由が必要です(民法第644条の2)。この「再委託の自由度」も両者の性質の違いを表しています。
報酬の支払時期
報酬は、仕事の目的物の引渡しと同時に支払わなければなりません(民法第633条)。引渡しを要しない場合は、仕事の完成後に支払います。つまり、報酬は後払いが原則です。
ここで重要なのは、「報酬の支払」と「仕事の完成」の先後関係です。仕事の完成(請負人の義務履行)が先で、報酬の支払いは目的物の引渡しと同時履行の関係に立ちます。注文者は仕事が完成し目的物の引渡しを受けるまで報酬を支払う必要がなく、報酬支払義務と引渡義務は同時履行の抗弁権(民法第533条)の関係になります。
仕事完成前の中途終了と割合的報酬(第634条)
改正民法は、仕事が完成しなかった場合でも一定の場合に請負人が報酬を請求できることを明文化しました。
次に掲げる場合において、請負人が既にした仕事の結果のうち可分な部分の給付によって注文者が利益を受けるときは、その部分を仕事の完成とみなす。この場合において、請負人は、注文者が受ける利益の割合に応じて報酬を請求することができる。
一 注文者の責めに帰することができない事由によって仕事を完成することができなくなったとき。
二 請負が仕事の完成前に解除されたとき。
― 民法 第634条
ポイントは、(1) 既にした仕事の結果のうち可分な部分があり、(2) その給付によって注文者が利益を受けることです。この2要件を満たす場合、その部分を仕事の完成とみなし、請負人は利益の割合に応じた報酬を請求できます。注文者の帰責事由による履行不能の場合は、危険負担(第536条第2項)の処理になり、請負人は報酬全額を請求できる(ただし自己の債務を免れたことによる利益は償還)点と区別して理解しましょう。
請負人の担保責任(契約不適合責任)
請負人が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない仕事の目的物を引き渡した場合、注文者は以下の権利を行使できます(民法第559条・第562条以下の準用)。
- 修補請求(追完請求)
- 報酬減額請求
- 損害賠償請求
- 契約の解除
2020年の民法改正により、旧法の「瑕疵担保責任」は「契約不適合責任」に統一されました。改正前は請負に独自の担保責任規定(旧第634条〜第640条)が置かれていましたが、改正によりこれらは削除され、売買の契約不適合責任の規定(第562条〜第564条)が第559条を通じて準用される形に一本化されました。これにより、売買・請負を通じて契約不適合責任の枠組みが統一されたことが、改正の最大のポイントです。
4つの救済手段の整理
報酬減額請求は、原則として相当の期間を定めて履行の追完を催告し、その期間内に追完がないときに、不適合の程度に応じて行使できます。損害賠償請求は債務不履行の一般原則(第415条)により請負人の帰責事由が必要となります。
担保責任の期間制限(第637条)
請負の契約不適合責任には、期間制限が定められています。
前条本文に規定する場合において、注文者がその不適合を知った時から一年以内にその旨を請負人に通知しないときは、注文者は、その不適合を理由として、履行の追完の請求、報酬の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。
― 民法 第637条第1項
注文者は、不適合を知った時から1年以内にその旨を請負人に通知しなければ、担保責任を追及できなくなります。改正前は「引渡しから1年(建物等は5年・10年)」という客観的起算点でしたが、改正後は「不適合を知った時から1年以内の通知」という主観的起算点に変わりました。ただし、請負人が引渡し時にその不適合を知り、又は重過失により知らなかったときは、この期間制限は適用されません(第637条第2項)。
注文者の指図による不適合の免責(第636条)
仕事の目的物の不適合が、注文者の提供した材料の性質又は注文者の与えた指図によって生じた場合は、注文者は担保責任を追及できません(第636条本文)。ただし、請負人がその材料又は指図が不適当であることを知りながら告げなかったときは、この限りではありません(同条ただし書)。請負人には専門家としての告知義務があるという趣旨です。
注文者の解除権
注文者は、請負人が仕事を完成しない間は、いつでも損害を賠償して契約を解除することができます(民法第641条)。
請負人が仕事を完成しない間は、注文者は、いつでも損害を賠償して契約の解除をすることができる。
― 民法 第641条
この解除権の趣旨は、もはや仕事の完成を望まない注文者に契約を継続させても無意味であり、注文者の利益を保護する点にあります。ただし、請負人が仕事に着手していれば不利益を受けるため、注文者は損害(請負人がすでに支出した費用や得べかりし利益)を賠償する必要があります。請負人側に債務不履行がなくても注文者の都合だけで解除できる点が特徴で、委任の解除(双方からいつでも可能)とは「注文者側からのみ」という点で異なります。
なお、注文者が破産手続開始の決定を受けたときは、請負人又は破産管財人は契約を解除することができます(民法第642条)。
委任契約
定義
委任とは、当事者の一方(委任者)が法律行為をすることを相手方(受任者)に委託し、相手方がこれを承諾することによって効力を生ずる契約です(民法第643条)。
委任は、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる。
― 民法 第643条
法律行為でない事務の委託は準委任と呼ばれ、委任の規定が準用されます(民法第656条)。
委任の対象は本来「法律行為(売買契約の締結や代金の受領など)」ですが、現実には事実行為(医療行為、コンサルティング、システム保守など)を委託する場面も多く、これらは準委任として委任の規定が準用されます。試験では「医師の診療は準委任」「税理士・行政書士への事務委託は委任・準委任」といった当てはめが問われます。
委任の特徴
- 諾成契約: 合意のみで成立
- 原則無償契約: 特約がなければ報酬請求権なし(民法第648条第1項)
- 仕事の完成義務なし: 善管注意義務をもって事務を処理すれば足りる
委任は当事者間の信頼関係を基礎とする契約です。この点が、委任の各規定(いつでも解除できること、死亡で終了すること、復受任が制限されること)の根底にあります。「信頼関係を基礎とする」という性質を押さえておくと、個別の規定が体系的に理解できます。
善管注意義務(第644条)
委任の中心的な義務が善管注意義務です。
受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う。
― 民法 第644条
ここで最重要の出題ポイントが、委任は有償・無償を問わず常に善管注意義務を負うということです。無償寄託の場合に注意義務が「自己の財産に対するのと同一の注意」へ軽減されるのとは異なり、委任は無償であっても善管注意義務が軽減されません。これは、委任が委任者の信頼に応えるべき契約であり、「タダで引き受けたのだから注意義務も軽くてよい」とはならないためです。この「無償委任でも善管注意義務」というルールは、無償寄託・無償受寄者の軽減義務との対比で繰り返し出題されます。
「善管注意義務」とは、その人の職業・地位・専門性に応じて社会通念上要求される客観的な注意義務であり、本人の実際の能力を基準とする主観的な「自己の財産に対するのと同一の注意」より重い義務です。たとえば医師には医師として、弁護士には弁護士として通常期待される水準の注意が求められます。
受任者の義務
- 善管注意義務: 善良な管理者の注意をもって委任事務を処理する義務(民法第644条)
- 報告義務: 委任者の請求があるとき及び委任終了後に経過・結果を報告する義務(民法第645条)
- 受取物等の引渡義務: 事務処理にあたって受け取った金銭等を委任者に引き渡す義務(民法第646条)
受任者の自己執行義務と復受任(第644条の2)
改正民法で新設された第644条の2は、受任者が原則として自ら事務を処理すべきこと(自己執行義務)を前提に、復受任者の選任を制限しています。受任者は、委任者の許諾を得たとき、又はやむを得ない事由があるときでなければ、復受任者を選任することができません。請負人が下請負を比較的自由にできるのと対照的で、これも委任が信頼関係を基礎とすることの表れです。
受け取った金銭を消費した場合の責任(第647条)
受任者は、委任者に引き渡すべき金額又はその利益のために用いるべき金額を自己のために消費したときは、その消費した日以後の利息を支払わなければならず、なお損害があるときはその賠償の責任を負います(第647条)。受任者の地位の厳格さを示す規定です。
委任者の義務
- 費用前払義務: 事務処理に必要な費用を前払いする義務(民法第649条)
- 費用償還義務: 受任者が支出した必要費を償還する義務(民法第650条第1項)
- 損害賠償義務: 受任者が事務処理のために過失なく損害を受けた場合の賠償義務(民法第650条第3項)
受任者の費用償還請求と無過失責任
第650条第3項の損害賠償義務は重要です。受任者が委任事務を処理するため自己に過失なく損害を受けたとき、委任者はその賠償をしなければなりません。これは委任者の無過失責任であり、委任者に過失がなくても賠償義務を負う点が出題されます。委任が委任者のためにする事務処理であることから、そのリスクを委任者が負担すべきとの趣旨です。あわせて、受任者が委任事務を処理するのに必要な債務を負担したときは、委任者に自己に代わって弁済することを請求でき、その債務が弁済期にないときは相当の担保を供させることができます(第650条第2項)。
委任の報酬(第648条・第648条の2)
委任は原則無償ですが、特約があれば報酬を請求できます。改正民法は報酬の支払時期について整理しました。
報酬の支払方式には2種類あります。
- 履行割合型:事務処理の労務に対して報酬を支払う型。原則として委任事務を履行した後でなければ報酬を請求できず(後払い)、期間によって報酬を定めたときは期間経過後に請求できます(第648条第2項)。
- 成果完成型:委任事務の履行により得られる成果に対して報酬を支払う型。この場合、成果が引渡しを要するときは報酬は引渡しと同時払いとなり(第648条の2第1項)、請負の第634条が準用されます(同条第2項)。
委任が中途で終了した場合でも、(1) 委任者の責めに帰することができない事由によって履行できなくなったとき、(2) 委任が履行の中途で終了したとき、受任者は既にした履行の割合に応じて報酬を請求できます(第648条第3項)。これも改正で整理された割合的報酬のルールです。
委任の終了
委任は、以下の事由により終了します。
- 各当事者がいつでも解除できる(民法第651条第1項)
- 委任者又は受任者の死亡
- 受任者の破産手続開始決定
- 委任者又は受任者の後見開始の審判
委任は、次に掲げる事由によって終了する。
一 委任者又は受任者の死亡
二 委任者又は受任者が破産手続開始の決定を受けたこと。
三 受任者が後見開始の審判を受けたこと。
― 民法 第653条
ここは出題の宝庫です。終了事由を正確に押さえましょう。
ひっかけポイントは後見開始の審判です。後見開始の審判によって委任が終了するのは「受任者」に生じた場合だけで、「委任者」に後見開始の審判があっても委任は終了しません。委任者が成年被後見人になっても、成年後見人が委任者に代わって事務を委ねることに支障がないためです。「委任者・受任者のどちらに生じたか」を必ず区別して覚えてください。
委任の解除(任意解除権・第651条)
委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができる。
― 民法 第651条第1項
重要ポイント: 委任の解除は、相手方に不利な時期に行った場合、やむを得ない事由がなければ相手方の損害を賠償しなければなりません(民法第651条第2項)。
第651条第2項は、改正で整理され、損害賠償が必要となる場合として次の2つを規定しています。
- 相手方に不利な時期に委任を解除したとき
- 委任者が受任者の利益(専ら報酬を得ることによるものを除く)をも目的とする委任を解除したとき
ただし、いずれの場合もやむを得ない事由があったときは損害賠償義務を負いません。重要なのは、「不利な時期だから解除できない」のではなく、「解除自体はいつでもできるが、損害賠償が必要になる場合がある」という点です。任意解除権そのものは制限されません。
委任の解除の遡及効(第652条・第620条準用)
委任の解除は将来に向かってのみ効力を生じます(第652条による第620条の準用)。すでに処理された事務の効力は覆らず、解除の効果は遡及しません。継続的契約に共通する考え方です。
委任終了時の特則(第654条・第655条)
委任が終了した場合でも、急迫の事情があるときは、受任者等は委任者等が委任事務を処理できるようになるまで必要な処分をしなければなりません(応急処分義務、第654条)。また、委任の終了事由は、これを相手方に通知したとき、又は相手方がこれを知っていたときでなければ、相手方に対抗できません(第655条)。委任者が死亡したことを受任者が知らずに事務を続けた場合などに、相手方を保護する規定です。
委任者の死亡後も委任を存続させる合意
判例は、委任者の死亡によっても委任契約が終了しない旨の合意(自己の死後の事務処理を委託する委任契約)の有効性を認めています。第653条第1号は任意規定であり、当事者の特約で死亡後の委任の存続を定めることができると解されています(最判平成4年9月22日参照)。
寄託契約
定義
寄託とは、当事者の一方(寄託者)がある物を保管することを相手方(受寄者)に委託し、相手方がこれを承諾することによって効力を生ずる契約です(民法第657条)。
寄託は、当事者の一方がある物を保管することを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる。
― 民法 第657条
2020年の民法改正により、寄託は要物契約から諾成契約に変更されました。
寄託の特徴
- 諾成契約: 合意のみで成立(改正前は要物契約)
- 原則無償契約: 特約がなければ報酬請求権なし
- 物の保管が目的: 預かった物を安全に保管し返還する
諾成契約化に伴う寄託者の解除権(第657条の2)
改正で寄託が諾成契約になった結果、目的物の引渡し前にも契約が成立することになりました。そこで、引渡し前の当事者の利益を調整するため第657条の2が新設されています。
- 寄託者は、受寄者が寄託物を受け取るまで、契約の解除をすることができます(受寄者は損害があれば賠償請求可)。
- 無償の受寄者は、寄託物を受け取るまで契約の解除をすることができます(書面による無償寄託は除く)。
- 有償の受寄者等は、寄託物を受け取るべき時期を経過してもなお引渡しがない場合に、相当期間を定めて催告し、それでも引渡しがないときに解除できます。
引渡し前の解除のルールが、有償か無償か、書面によるかで分かれる点が新しい論点です。
受寄者の注意義務
無償寄託の場合、受寄者の注意義務が軽減される点が重要です。善管注意義務よりも軽い「自己の財産に対するのと同一の注意」で足ります(民法第659条)。
無報酬の受寄者は、自己の財産に対するのと同一の注意をもって、寄託物を保管する義務を負う。
― 民法 第659条
ここが委任との決定的な対比ポイントです。委任は有償・無償を問わず善管注意義務を負うのに対し、寄託は無償なら注意義務が軽減されます。「無償受寄者=自己の財産と同一の注意(軽減)」「無償受任者=善管注意義務(軽減されない)」という対比は、行政書士試験で繰り返し問われる超頻出ポイントです。必ずセットで覚えてください。
受寄者のその他の義務
- 自己保管義務(再寄託の制限): 受寄者は、寄託者の承諾を得たとき、又はやむを得ない事由があるときでなければ、寄託物を第三者に保管させることができません(第658条第2項)。委任の復受任制限と同様の構造です。
- 使用の禁止: 受寄者は、寄託者の承諾を得なければ寄託物を使用することができません(第658条第1項)。
- 通知義務等: 寄託物について第三者が権利を主張して訴えを提起したり差押え等をしたときは、受寄者は遅滞なく寄託者に通知しなければなりません(第660条)。
寄託の終了と返還
- 寄託者はいつでも返還を請求できます(民法第662条)
- 受寄者は、期間の定めがない場合はいつでも返還できます
- 期間の定めがある場合でも、やむを得ない事由があれば期間前に返還できます
返還時期のルールは、寄託者と受寄者で扱いが異なります。
ポイントは、寄託者は期間の定めがあっても、いつでも返還を請求できることです(第662条第1項)。寄託は寄託者の利益のための契約なので、寄託者はいつでも自分の物を取り戻せます。ただし、返還時期の定めがある場合に寄託者が期限前に返還を求めたことで受寄者が損害を受けたときは、寄託者は損害賠償責任を負います(第662条第2項、改正で新設)。一方、受寄者の側は、期間の定めがあるときはやむを得ない事由がなければ期間満了前に返還できません。
特殊な寄託
- 混合寄託(混蔵寄託): 複数の寄託者から同種・同等の物を預かり混合して保管し、同量を返還する寄託(第665条の2、改正で新設)。穀物倉庫などが典型です。
- 消費寄託: 受寄者が寄託物を消費でき、同種・同等・同量の物を返還すればよい寄託(第666条)。銀行預金が典型例で、消費貸借の規定が準用される部分があります。
3つの契約類型の比較表
横断整理のための補足表
上の表に加え、改正点と注意義務・再委託の観点で整理すると次のようになります。
委任と請負の区別が問題となるケース
実務では、委任と請負のどちらに該当するか判断が難しいケースがあります。
- 弁護士への訴訟委任: 委任(勝訴という結果の保証はない)
- 建物の建築: 請負(建物の完成が目的)
- 医師の診療: 準委任(治癒という結果の保証はない)
- 行政書士への書類作成依頼: 請負的要素と委任的要素の両方がある
区別の基準は、仕事の完成(結果の実現)が契約の本質かどうかです。結果を問わず事務処理そのものが目的であれば委任、特定の結果の実現が目的であれば請負です。
この区別が実益を持つのは、(1) 仕事完成義務の有無、(2) 報酬請求の可否(成果の有無に左右されるか)、(3) 担保責任(契約不適合責任)の適用の有無、(4) 解除のルールの違い、といった効果が異なるためです。たとえば「治療してもらったが治らなかった」場合、診療が準委任であれば、医師が善管注意義務を尽くしている限り、結果(治癒)が得られなくても債務不履行にはなりません。一方、建物の建築が請負であれば、建物が完成しなければ請負人は原則として報酬を請求できず、完成した建物に契約不適合があれば担保責任を負います。
重要判例
請負における所有権の帰属
建物建築請負において、完成した建物の所有権が当初から注文者に帰属するか、いったん請負人に帰属して引渡しによって移転するかが古くから問題となってきました。判例は、原則として材料を提供した者に着目しつつ、特約や代金支払いの事情を考慮して判断しています。注文者が材料の全部又は主要部分を提供した場合は、原則として完成と同時に注文者に所有権が帰属するとされます(大判昭和7年5月9日等)。一方、請負人が材料を提供した場合は、原則として請負人に所有権が帰属し、引渡しによって注文者に移転すると解されてきました。もっとも、代金の大部分が前払いされているような事情があれば、注文者帰属を認める方向に働くとされます。
報酬債権と同時履行・留置権
請負人の報酬債権を被担保債権として、完成した建物について留置権・同時履行の抗弁を主張できるかも議論されます。報酬支払義務と目的物引渡義務が同時履行の関係に立つことは第633条から導かれ、請負人は報酬の支払を受けるまで引渡しを拒むことができます。
これらは難度が高い論点ですが、択一で正誤の素材として扱われることがあるため、「材料提供者基準」「引渡しによる移転」「同時履行」というキーワードを押さえておきましょう。
頻出論点・出題ポイント
- 請負は仕事の完成義務あり、委任はなし: 最も基本的な区別
- 委任は原則無償、請負は有償: 委任は特約がなければ報酬なし
- 委任は各当事者がいつでも解除可: ただし不利な時期の解除には損害賠償が必要(解除自体は制限されない)
- 寄託は諾成契約: 2020年改正により要物契約から変更
- 無償寄託の注意義務は軽減: 自己の財産に対するのと同一の注意
- 無償委任でも善管注意義務: 委任は無償でも軽減されない(無償寄託との対比が頻出)
- 委任は死亡で終了、請負・寄託は原則終了しない: 終了事由の違い
- 後見開始の審判は受任者に生じた場合のみ委任を終了: 委任者に生じても終了しない
- 請負の担保責任は不適合を知った時から1年以内の通知: 改正で主観的起算点に
- 委任者の無過失損害賠償義務(第650条第3項): 委任者に過失がなくても賠償
過去問で問われた角度
- 注意義務の比較を問う形式(「無償受寄者は善管注意義務を負う」という誤りの肢など)
- 終了事由の比較(「委任者の死亡により委任は終了するが、請負は注文者の死亡で当然には終了しない」)
- 報酬の支払時期・後払い原則
- 解除の効果が遡及するか(委任・賃貸借など継続的契約は将来効)
- 改正点(寄託の諾成契約化、瑕疵担保責任から契約不適合責任への統一)
よくある誤解
- 「委任は無償だから注意義務も軽い」は誤り。委任は無償でも善管注意義務を負います。注意義務が軽減されるのは無償寄託です。
- 「不利な時期だと委任を解除できない」は誤り。解除はいつでもでき、損害賠償が必要になるだけです。
- 「委任者が後見開始の審判を受けたら委任は終了する」は誤り。委任を終了させるのは受任者の後見開始の審判です。委任者の場合は終了しません。
- 「請負は仕事が完成しないと一切報酬を請求できない」は不正確。可分な部分の給付で注文者が利益を受けるなら、割合的報酬を請求できます(第634条)。
- 「寄託は物を引き渡さないと成立しない」は改正後は誤り。2020年改正により諾成契約となり、合意のみで成立します。
- 「請負の担保責任は引渡しから1年」は改正後は不正確。改正後は「不適合を知った時から1年以内の通知」です。
委任契約において、受任者は特約がなくても報酬を請求することができる。
2020年の民法改正により、寄託契約は要物契約から諾成契約に変更された。
無償寄託の場合、受寄者は善良な管理者の注意をもって保管しなければならない。
無償の委任契約においても、受任者は善良な管理者の注意をもって委任事務を処理する義務を負う。
委任者が後見開始の審判を受けたときは、委任契約は終了する。
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まとめ
委任・請負・寄託は、それぞれ目的と性質が異なる契約類型です。請負は仕事の完成が目的で有償契約、委任は事務処理の委託で原則無償、寄託は物の保管で原則無償です。
試験では、仕事完成義務の有無、報酬の要否、解除の要件、終了事由の違いが問われます。とりわけ、(1) 無償委任は善管注意義務・無償寄託は軽減された注意義務という対比、(2) 委任の終了事由(死亡・破産は双方、後見開始は受任者のみ)、(3) 請負の契約不適合責任と期間制限、(4) 2020年改正点(寄託の諾成化・瑕疵担保責任の契約不適合責任への統一・割合的報酬の明文化)は、繰り返し問われる重要ポイントです。
比較表で各契約の特徴を正確に整理し、横断的な対比のかたちで記憶すれば、本試験で混同せずに正解できます。改正点を意識しながら、条文の趣旨とセットで押さえていきましょう。
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