住民訴訟と住民監査請求|4つの請求類型を整理
住民監査請求の要件と住民訴訟の4類型(1号〜4号請求)を体系的に解説。監査請求前置主義、出訴期間、4号請求の改正内容など試験頻出ポイントを整理します。
はじめに|住民監査請求と住民訴訟は地方財務の番人
地方公共団体の財務行政が違法又は不当に行われた場合、住民はどのようにしてその是正を求めることができるのでしょうか。地方自治法は、住民の財務統制の手段として住民監査請求(第242条)と住民訴訟(第242条の2)を用意しています。
住民監査請求は監査委員に対して監査を求める制度であり、住民訴訟は裁判所に対して是正を求める訴訟です。両者は連続した制度であり、住民訴訟を提起するためには、まず住民監査請求を経なければなりません(監査請求前置主義)。
この制度の根底にあるのは、地方公共団体の財務が公金(住民の税金)によって賄われている以上、その違法・不当な処理は住民全体の利益を損なうという考え方です。そこで地方自治法は、財務会計上の違法行為を是正する手段を、利害関係の有無を問わず「住民」一般に開放しました。これは個人の権利救済を目的とする通常の訴訟(主観訴訟)とは性質を異にし、地方財務行政の適正を住民が直接監視する住民参政・財務統制の制度として位置づけられます。
行政書士試験では、住民監査請求の要件、住民訴訟の4つの類型(1号〜4号請求)、監査請求前置主義が頻繁に出題されます。とりわけ「住民監査請求は違法又は不当/住民訴訟は違法のみ」「期間制限1年と出訴期間30日」「4号請求の被告は長」という対比は、繰り返し問われる定番論点です。本記事では、両制度を条文・判例に即して体系的に解説し、過去問で問われた角度やよくある誤解まで踏み込みます。
制度の全体像と流れ
住民監査請求と住民訴訟は、次のような一連のプロセスとして理解すると整理しやすくなります。
- 住民が、違法又は不当な財務会計上の行為・怠る事実を発見する
- 監査委員に対して住民監査請求を行う(第242条)
- 監査委員が60日以内に監査を行い、結果の通知・勧告をする
- 監査結果・勧告・その後の措置に不服がある住民が、裁判所に住民訴訟を提起する(第242条の2)
- 住民訴訟は4類型(1号〜4号)のいずれかで争う
ここで押さえたいのは、両制度が「住民が1人でも提起できる」「財務会計上の行為・怠る事実を対象とする」という共通点を持ちつつ、対象(違法/不当)・期間・相手方が異なる点です。違いは後述の比較表でまとめます。
なお、住民監査請求と混同しやすい制度に、地方自治法第75条の事務監査請求があります。事務監査請求は、選挙権を有する者の総数の50分の1以上の連署をもって監査委員に当該団体の事務の執行に関する監査を求める制度(直接請求の一種)であり、財務に限らず事務全般を対象とし、住民訴訟にもつながりません。「1人でできる住民監査請求」と「50分の1の連署が必要な事務監査請求」を取り違えないよう注意します。
住民監査請求の概要
住民監査請求とは
住民監査請求とは、地方公共団体の住民が、当該地方公共団体の長、委員会もしくは委員又は当該地方公共団体の職員について、違法又は不当な財務会計上の行為又は怠る事実があると認めるときに、監査委員に対して監査を求め、必要な措置を講ずべきことを請求する制度です(地方自治法第242条第1項)。
普通地方公共団体の住民は、当該普通地方公共団体の長若しくは委員会若しくは委員又は当該普通地方公共団体の職員について、違法若しくは不当な公金の支出、財産の取得、管理若しくは処分、契約の締結若しくは履行若しくは債務その他の義務の負担がある(当該行為がなされることが相当の確実さをもつて予測される場合を含む。)と認めるとき、又は違法若しくは不当に公金の賦課若しくは徴収若しくは財産の管理を怠る事実(以下「怠る事実」という。)があると認めるときは、これらを証する書面を添え、監査委員に対し、監査を求め、当該行為を防止し、若しくは是正し、若しくは当該怠る事実を改め、又は当該行為若しくは怠る事実によつて当該普通地方公共団体のこうむつた損害を補填するために必要な措置を講ずべきことを請求することができる。
― 地方自治法 第242条第1項
条文の「(当該行為がなされることが相当の確実さをもつて予測される場合を含む。)」という部分は重要です。これは、まだ行われていない将来の行為であっても、それが相当の確実さで予測できるなら、事前に監査請求できることを意味します。住民訴訟の1号請求(差止請求)の前提となる規定です。
請求権者
住民監査請求ができるのは、当該地方公共団体の住民です。1人でも請求できます(住民訴訟と同じ)。
注意: ここでいう「住民」とは、当該地方公共団体の区域内に住所を有する者であり、選挙権の有無は問いません。法人も住民に含まれます。外国人であっても区域内に住所があれば住民に該当します。
この「住民」要件は事務監査請求や直接請求(選挙権を有する者であることが必要)と異なる、頻出の比較ポイントです。住民監査請求は、選挙権の有無・国籍・自然人か法人かを問わず、当該団体の区域内に住所がありさえすれば、1人で請求できます。
対象となる行為
住民監査請求の対象となるのは、以下の財務会計上の行為又は怠る事実です(第242条第1項)。
財務会計上の行為(積極的行為):
- 公金の支出
- 財産の取得、管理若しくは処分
- 契約の締結若しくは履行
- 債務その他の義務の負担
怠る事実(不作為):
- 公金の賦課若しくは徴収を怠る事実
- 財産の管理を怠る事実
ここで重要なのは、対象が財務会計上の行為に限定されている点です。職員の任命や懲戒、議会の議決、都市計画の決定といった、それ自体は財務とは直接関わらない行政上の判断(非財務会計行為)は、住民監査請求・住民訴訟の対象とはなりません。これらが違法であっても、それを理由に直接是正を求めることはできず、あくまで「財務会計上の行為の違法」という形に結びつく場合にのみ争えます(後述の先行行為論)。
違法又は不当
住民監査請求の対象は、「違法又は不当」な行為です。住民訴訟では「違法」な行為のみが対象となるのに対し、住民監査請求では「不当」な行為も対象となる点が重要な違いです。
「違法」とは法令に違反することであり、「不当」とは違法ではないが裁量権の行使として妥当性を欠くことを指します。監査委員は行政機関であるため当不当の判断ができますが、裁判所は法律問題(違法性)を判断する機関であり、行政の妥当性(当不当)には立ち入れません。この権限の性質の違いが、対象範囲の違いの理由です。
住民監査請求の要件
期間制限(第242条第2項)
住民監査請求は、当該行為のあった日又は終わった日から1年を経過したときは、することができません。ただし、正当な理由があるときは、この限りではありません。
前項の規定による請求は、当該行為のあつた日又は終わつた日から一年を経過したときは、これをすることができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない。
― 地方自治法 第242条第2項
注意: この1年の期間制限は、積極的な財務会計上の行為についてのみ適用されます。怠る事実については、期間制限はありません。怠る事実は継続している限り、いつでも監査請求できます。
「正当な理由」については、判例上、相当の注意力をもってしても当該行為を知ることができなかった場合や、当該行為を知ることができたと解される時から相当な期間内に監査請求をしたかどうかという観点から判断されるとされています(最判平成14年9月12日など)。財務会計行為が秘密裏に行われていたような場合に、住民が知り得た時を起算点として期間を緩和するための規定です。
証拠書類の添付
住民監査請求は、事実を証する書面を添えて行わなければなりません(第242条第1項)。違法・不当を裏付ける証拠を添付させることで、濫用的な請求を抑制する趣旨です。ただし、判例上、添付すべき書面は請求人が当該行為等を特定して摘示できる程度のもので足りるとされ、過度に厳格な立証を要求するものではないと解されています。
監査委員の対応と通知・勧告
監査委員は、住民監査請求があった場合、まず請求が要件を満たすかを審査します。要件を欠く不適法な請求は却下されます。適法な請求については監査を行い、請求に理由がないと認めるときは理由を付してその旨を請求人に通知し、請求に理由があると認めるときは、当該地方公共団体の議会、長その他の執行機関又は職員に対し必要な措置を講ずべきことを勧告し、その旨を請求人に通知するとともに、これらを公表しなければなりません。
監査委員は、監査請求があった日から60日以内に監査を行わなければなりません(第242条第6項)。この60日という期間は、住民訴訟の出訴期間の起算点(後述の3号事由)とも連動する重要な数字です。
暫定的な停止勧告
監査委員は、当該行為が違法であると思料するに足りる相当な理由があり、当該行為により生ずる回復の困難な損害を避けるため緊急の必要があり、かつ、当該行為を停止することによって人の生命又は身体に対する重大な危害の発生の防止その他公共の福祉を著しく阻害するおそれがないと認めるときは、監査の手続が終了するまでの間、当該行為を停止すべきことを勧告できます(第242条第4項)。住民訴訟の差止め(1号請求)に至る前の、監査段階での緊急的な歯止めです。
住民訴訟の概要
住民訴訟とは
住民訴訟とは、住民監査請求をした住民が、監査の結果又は勧告に不服がある場合等に、裁判所に対して地方公共団体の財務会計上の行為の是正を求める訴訟です(第242条の2)。
行政事件訴訟法上の位置づけは民衆訴訟(行訴法第5条)に該当します。自己の法律上の利益にかかわらない訴訟であり、客観訴訟の一種です。
この法律において「民衆訴訟」とは、国又は公共団体の機関の法規に適合しない行為の是正を求める訴訟で、選挙人たる資格その他自己の法律上の利益にかかわらない資格で提起するものをいう。
― 行政事件訴訟法 第5条
民衆訴訟は、法律に定める場合において、法律に定める者に限り提起できます(行訴法第42条)。住民訴訟は、地方自治法第242条の2がこれを認めた典型例です。自己の権利利益の救済ではなく、客観的な法秩序(地方財務の適法性)の維持を目的とする点が、抗告訴訟など主観訴訟との根本的な違いです。
監査請求前置主義
住民訴訟を提起するためには、あらかじめ住民監査請求を経なければなりません(第242条の2第1項)。これを監査請求前置主義といいます。
監査請求を経ていない住民訴訟は不適法として却下されます。これは、まず行政内部の自己統制(監査)の機会を与え、それでもなお是正されない場合に司法判断を求めるという段階的構造をとるためです。前置されるべきは「適法な」住民監査請求であり、要件を欠く不適法な監査請求しか経ていない場合には、前置を満たしたことになりません。
出訴期間
住民訴訟の出訴期間は、以下のとおりです(第242条の2第2項各号)。
この30日の出訴期間は不変期間とされており(第242条の2第3項)、徒過すると原則として住民訴訟を提起できなくなります。住民監査請求の「1年」と住民訴訟の「30日」は、どちらの数字がどちらの制度かを混同しやすいため、確実に区別しておく必要があります。
住民訴訟の4類型
概要
住民訴訟は4つの類型があります(第242条の2第1項各号)。請求の内容と被告が類型ごとに異なるため、表で整理しておくことが得点に直結します。
1号請求:差止請求
当該行為の全部又は一部の差止めを求める請求です。
当該執行機関又は職員に対する当該行為の全部又は一部の差止めの請求
― 地方自治法 第242条の2第1項第1号
特徴:
- まだ行われていない違法な財務会計上の行為を事前に差し止める
- 被告: 執行機関又は職員
- 将来の行為が対象
なお、1号請求(差止め)については、当該行為を差し止めることによって人の生命又は身体に対する重大な危害の発生の防止その他公共の福祉を著しく阻害するおそれがあるときは、することができないという制限が定められています(第242条の2第6項)。差止めによって生じる公益への重大な支障を防ぐための調整規定です。
2号請求:取消し・無効確認請求
行政処分たる当該行為の取消し又は無効確認を求める請求です。
行政処分たる当該行為の取消し又は無効確認の請求
― 地方自治法 第242条の2第1項第2号
特徴:
- 対象は「行政処分たる」財務会計上の行為に限定
- 公金の支出命令、契約の締結(行政処分に当たる場合)等
- 行政処分に当たらない行為(私法上の契約等)は対象外
財務会計上の行為の多くは私法上の行為(売買契約、委託契約等)であり、行政処分に当たらないため2号請求の対象になりません。2号請求が使える場面は限定的で、補助金の交付決定など処分性が認められる行為に限られる点を押さえます。
3号請求:怠る事実の違法確認請求
当該怠る事実の違法確認を求める請求です。
当該執行機関又は職員に対する当該怠る事実の違法確認の請求
― 地方自治法 第242条の2第1項第3号
特徴:
- 公金の賦課・徴収を怠る事実、財産の管理を怠る事実が対象
- 被告: 執行機関又は職員
- 不作為の違法性の確認を求める
例えば、団体が有する債権の行使を怠っている、不法占有されている公有地について明渡しや使用料相当額の請求を怠っているといった場合に、その怠る事実の違法を確認させる請求です。
4号請求:損害賠償・不当利得返還請求
当該職員又は当該行為若しくは怠る事実に係る相手方に対する損害賠償又は不当利得返還の請求を、当該地方公共団体の執行機関又は職員(実務上は長)に対して求める請求です。
当該職員又は当該行為若しくは怠る事実に係る相手方に損害賠償又は不当利得返還の請求をすることを当該普通地方公共団体の執行機関又は職員に対して求める請求。ただし、当該職員又は当該行為若しくは怠る事実に係る相手方が第二百四十三条の二の二第三項の規定による賠償の命令の対象となる者である場合にあつては、当該賠償の命令をすることを求める請求
― 地方自治法 第242条の2第1項第4号
特徴:
- 地方公共団体に代わって損害賠償等を請求することを求める(代位請求ではなく義務付け)
- 被告: 地方公共団体の長(執行機関)
- 最も利用頻度が高い類型
4号請求は2段階の構造を持ちます。まず住民が、長に対して「当該職員Aに損害賠償請求をせよ」と求める訴訟を起こします(第1段階・住民訴訟)。勝訴判決が確定すると、長は判決に従い、対象となった職員等に対して実際に損害賠償等を請求しなければなりません(第242条の3)。これに応じない場合、団体は当該職員に対して別途損害賠償請求訴訟を提起します(第2段階)。住民訴訟そのものは住民と長の間の訴訟であり、実際に金銭を支払う職員等は住民訴訟の被告ではない点が、改正後の構造の核心です。
4号請求の2002年改正
2002年(平成14年)改正前は、4号請求は住民が地方公共団体に代位して直接当該職員等に損害賠償請求をする形(代位請求)でした。
改正後は、住民が地方公共団体の執行機関(長)に対し、当該職員等に損害賠償請求等をすることを求める形(義務付け請求)に変更されました。
改正の背景には、旧4号請求では職員個人が住民から直接訴えられ、個人で訴訟対応の負担を負うことになり、職員の萎縮や応訴負担が問題視されたことがあります。改正後は、まず団体(長)を相手とする訴訟で違法性と賠償義務を確定させ、その後に団体が職員へ請求する二段階構造とすることで、職員個人の応訴負担を緩和しました。
住民訴訟の訴訟要件
原告適格
住民訴訟の原告は、住民監査請求をした住民です。住民監査請求をしていない住民は原告適格を有しません。前置主義の帰結として、監査請求をした者だけが訴訟を提起できます。
なお、住民監査請求は複数人が共同で行うこともできますが、住民訴訟は監査請求をした住民が単独でも提起できます。また、住民訴訟の係属中に原告である住民が死亡した場合、住民としての資格に基づく訴訟であるため訴訟は承継されず終了すると解されています(最判昭和55年2月22日)。
被告
各類型により被告が異なります。
- 1号請求: 執行機関又は職員
- 2号請求: 行政処分をした執行機関(行政庁)
- 3号請求: 執行機関又は職員
- 4号請求: 地方公共団体の長(執行機関)
同一請求の禁止・二重起訴
同一の財務会計上の行為又は怠る事実について、すでに住民訴訟が係属しているとき、又は確定判決があるときは、当該団体の他の住民は、別訴をもって同一の請求をすることができません(第242条の2第4項)。同一事項について複数の住民訴訟が乱立することを防ぐ趣旨です。
住民訴訟の対象は「違法」のみ
住民訴訟で争えるのは、財務会計上の行為の「違法」性のみです。住民監査請求では「違法又は不当」が対象でしたが、住民訴訟では「不当」のみを理由とする請求は認められません。裁判所は法律上の争訟(違法性の有無)を判断する機関であり、行政の当・不当という政策的妥当性の判断には立ち入らないためです。
弁護士報酬の負担
住民訴訟で原告(住民)が勝訴(一部勝訴を含む)した場合、原告は、弁護士に支払うべき報酬額の範囲内で相当と認められる額の支払を当該地方公共団体に対して請求できます(第242条の2第12項)。私財を投じて公益のために訴訟を遂行した住民の負担を補填する規定であり、住民訴訟特有のルールとして出題されることがあります。
重要判例
一日校長事件・先行行為と財務会計行為の違法性(最判平成4年12月15日)
事案: 地方公共団体の教育長が、退職予定の校長を退職日に改めて校長に任命し直す(いわゆる「一日校長」)ことで退職手当を増額させたとされる事案。住民が、増額分の退職手当の支出は違法であるとして住民訴訟を提起しました。
判旨・意義: 本判決は、財務会計行為(支出)に先行する原因行為(人事上の処分等)が違法であっても、それだけで直ちに後行の財務会計行為が違法になるわけではないという枠組みを示しました。先行する原因行為が著しく合理性を欠き、そのためこれに予算執行の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵が存在する場合に、これに基づく財務会計行為も違法となるとしたものです。
財務会計上の行為を行う権限を有する者は、その前提となる原因行為が著しく合理性を欠きそのためこれに予算執行の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵が存する場合でない限り、その原因行為を尊重しその内容を実現すべく財務会計上の措置を採るべき義務があるというべきである。
― 最判平成4年12月15日(一日校長事件)
この「先行行為論」は住民訴訟の最重要論点の一つです。非財務会計行為そのものは住民訴訟で争えませんが、それが著しく合理性を欠くときに限り、後続の財務会計行為の違法を介して間接的に争える、という構造を理解しておきます。
損害賠償請求権の放棄と住民訴訟(最判平成24年4月20日ほか)
事案: 住民訴訟(4号請求)で問題とされた地方公共団体の損害賠償請求権について、議会が放棄する議決をすることが、住民訴訟を無意味化するものとして許されるかが争われました。
判旨・意義: 最高裁は、議会が有する債権放棄の議決権限の行使自体は直ちに違法・無効となるものではないとしつつ、当該請求権の発生原因である財務会計行為の性質・内容、損害の程度、放棄の影響、議決に至る経緯、住民訴訟の係属状況など諸般の事情を総合考慮して、放棄が地方自治法の趣旨に照らして裁量権の逸脱・濫用に当たると認められる場合には、その議決は違法・無効となると判断しました。議会による事後的な権利放棄に一定の歯止めをかけた重要判例です。
民衆訴訟としての性格(最判昭和53年3月30日ほか)
住民訴訟が客観訴訟であることに関連して、住民個人の主観的な権利侵害の有無を問題とせず、財務会計行為の客観的な適法性を審査するものであることが、各種判例を通じて確認されています。住民監査請求を経た住民であれば、自己の利害と無関係に提訴できるという民衆訴訟の本質は、行訴法第5条・第42条との関係でも問われます。
住民監査請求と住民訴訟の比較
頻出論点・よくある誤解
誤解1: 「住民訴訟も不当な行為を争える」
住民訴訟で争えるのは違法のみです。「不当」を含むのは住民監査請求の段階です。監査では行政の妥当性まで審査できますが、裁判所は違法性のみを判断します。
誤解2: 「怠る事実にも1年の期間制限がある」
1年の期間制限は積極的な財務会計行為についてのみ適用され、怠る事実には期間制限がありません。怠る事実は継続している限り、いつでも監査請求できます。
誤解3: 「住民監査請求をしていなくても住民訴訟ができる」
監査請求前置主義により、適法な住民監査請求を経ていなければ住民訴訟は提起できず、不適法却下となります。
誤解4: 「4号請求の被告は不正をした職員本人である」
2002年改正後の4号請求の被告は団体の長(執行機関)です。住民は長に対し「職員等に賠償請求せよ」と求めます。職員本人を直接訴える旧来の代位請求は廃止されています。
誤解5: 「非財務会計行為(人事・政策判断)を住民訴訟で直接争える」
住民訴訟の対象は財務会計上の行為に限られます。先行する非財務会計行為が著しく合理性を欠く場合に、後行の財務会計行為の違法を介して間接的に争えるにとどまります(一日校長事件の枠組み)。
過去問で問われた角度
- 住民監査請求と住民訴訟の対象の違い(違法又は不当/違法のみ)
- 期間制限「1年」と出訴期間「30日」の数字の入れ替え
- 監査請求前置主義の有無、前置の対象が「適法な」監査請求であること
- 4号請求の被告(改正後は長)と二段階構造
- 民衆訴訟・客観訴訟としての位置づけ(行訴法第5条・第42条)
- 請求権者が「住民」であり選挙権・国籍を問わないこと(事務監査請求・直接請求との対比)
住民訴訟は、住民監査請求を経ることなく直接提起することができる。
住民監査請求では「違法又は不当」な行為が対象となるが、住民訴訟では「違法」な行為のみが対象となる。
住民監査請求の期間制限(1年)は、公金の賦課・徴収を怠る事実についても適用される。
平成14年改正後の4号請求では、住民は違法行為を行った職員本人を被告として、直接損害賠償を請求する。
住民監査請求は、当該地方公共団体の区域内に住所を有する者であれば、選挙権の有無を問わず1人でも行うことができる。
関連論点・あわせて学ぶ
住民訴訟は民衆訴訟(客観訴訟)であり、行政事件訴訟法の訴訟類型論と密接に関連します。抗告訴訟・当事者訴訟との区別、義務付け訴訟・差止訴訟の理解とあわせて学習すると、4号請求の構造や1号請求(差止め)の位置づけがより明確になります。
まとめ
住民監査請求と住民訴訟は、地方公共団体の財務行政に対する住民の統制手段として、連続した制度を構成しています。住民訴訟を提起するには適法な住民監査請求を前置しなければなりません(監査請求前置主義)。
押さえるべき対比は、①対象(住民監査請求は「違法又は不当」/住民訴訟は「違法」のみ)、②期間(監査請求は行為から1年・怠る事実は制限なし/住民訴訟の出訴期間は通知等から30日)、③請求先(監査委員/裁判所)、④住民訴訟が民衆訴訟・客観訴訟であることです。
住民訴訟は4つの類型(1号=差止め、2号=取消し・無効確認、3号=怠る事実の違法確認、4号=損害賠償等の義務付け)から成り、最も利用頻度が高いのは4号請求です。4号請求の被告は2002年改正により長(執行機関)に変更され、住民が長に賠償請求を義務付け、その後団体が職員へ請求する二段階構造をとります。
判例では、先行する非財務会計行為が著しく合理性を欠く場合に限り後行の財務会計行為が違法となるとした一日校長事件(最判平成4年12月15日)、損害賠償請求権の議会による放棄の限界を示した最判平成24年4月20日が重要です。要件・数字・被告・判例を正確に整理しておくことが、確実な得点につながります。