(公開 2026/01/28) / 商法・会社法

会社の計算と配当|剰余金分配の要件を整理

会社法の計算規定と剰余金の配当を行政書士試験向けに解説。資本金・準備金の意義、剰余金配当の手続と財源規制、分配可能額の計算方法、違法配当の責任を具体例つきで整理します。

はじめに|計算規定は会社法の必修分野

会社の計算と配当は、株主への利益還元と債権者保護の調和を図る重要な分野です。行政書士試験では、資本金・準備金の意義、剰余金の配当手続、分配可能額の規制が択一式で出題されています。

この分野を理解するうえで欠かせない視点が、「会社財産をめぐる二つの利害」の対立構造です。株主は出資した会社から配当という形で利益の還元を受けたいと考えますが、無制限に配当を許すと会社財産が社外に流出し、会社債権者の引当てとなる財産が失われてしまいます。株式会社では株主が有限責任しか負わない(会社法104条)ため、債権者にとって会社財産だけが頼みの綱です。そこで会社法は、「剰余金の配当」という出口に財源規制(分配可能額規制)という関所を設け、会社財産の社外流出に上限を課しています。計算規定を学ぶときは、常に「これは株主のための仕組みか、債権者のための仕組みか」を意識すると理解が一気に進みます。

本記事では、資本金・準備金の基本概念から、剰余金配当の手続と財源規制、違法配当の責任まで、試験頻出のポイントを体系的に整理します。あわせて、計算分野で受験生がつまずきやすい「資本金は現金ではない」「準備金の積立ては配当のたびに必要」「違法配当の株主返還責任は善意でも免れない」といった論点を、条文の趣旨と過去問の出題角度から深掘りします。

計算分野の全体像|純資産の部の内訳

剰余金や分配可能額を正確に理解するには、まず貸借対照表の「純資産の部」の構造を押さえる必要があります。純資産の部は、おおまかに次のように分解されます。

区分細目性格資本金―拘束性が最も強い。減少には原則特別決議+債権者保護手続資本剰余金資本準備金拘束性あり。減少に債権者保護手続が必要資本剰余金その他資本剰余金分配可能額の元になる利益剰余金利益準備金拘束性あり。減少に債権者保護手続が必要利益剰余金その他利益剰余金(繰越利益剰余金等)分配可能額の元になる

ここで決定的に重要なのは、「資本金」「準備金(資本準備金+利益準備金)」は社内に拘束されて配当の原資にならないのに対し、「その他資本剰余金」「その他利益剰余金」が剰余金として配当の原資になるという対比です。資本金と準備金は、いわば「債権者のために会社内に留め置く財産の最低ライン」を画する数値であり、これを大きくすればするほど債権者は手厚く保護され、株主が配当に回せる金額は減ります。逆に資本金や準備金を減少させれば剰余金が増えますが、その分だけ債権者保護手続が要求される、という綱引きの関係になっています。

この全体像を頭に入れたうえで、各構成要素を順に見ていきます。

資本金

資本金の意義

資本金とは、会社の財産を確保するための基準となる一定の金額をいいます。会社法上、資本金は計算上の数額であり、実際に会社に存在する財産とは異なります。

株式会社の資本金の額は、この法律に別段の定めがある場合を除き、設立又は株式の発行に際して株主となる者が当該株式会社に対して払込み又は給付をした財産の額とする。
― 会社法 第445条第1項

ここで強調しておきたいのは、資本金は「金庫の中に入っている現金」ではないという点です。受験生が最も誤解しやすいのがここで、「資本金1,000万円の会社には常に1,000万円の現金がある」と思い込むと、計算問題でも論点問題でも誤ります。資本金は設立・増資の時点で計上される抽象的な数額にすぎず、その後に会社が事業で資金を使えば現金は減りますし、損失を出せば純資産は資本金を下回ることもあります(債務超過の状態でも資本金の数値自体は登記されたまま残ります)。資本金が果たす役割は、「これだけの財産は配当として社外に流出させてはならない」という債権者保護のための基準線を示すことにあります。

資本金の額

設立時または株式発行時に株主が払い込んだ財産の額が資本金の額となります。ただし、払込み又は給付に係る額の2分の1を超えない額は、資本金として計上しないことができます(会社法445条2項)。

つまり、払込金額の最低2分の1は資本金に計上しなければなりません。資本金に計上しなかった額は、資本準備金として計上します(会社法445条3項)。

ここはほぼ毎年のように形を変えて問われる頻出論点です。整理しておくべきポイントは次の3点です。

  • 払込額の全額を資本金に計上することは可能(2分の1はあくまで「計上しないことができる上限」)。
  • 資本金に計上しない額の上限は払込額の2分の1。つまり最低でも2分の1は資本金になる。
  • 資本金に計上しなかった残りは「自由に処分できる剰余金」になるのではなく、必ず資本準備金に計上される(445条3項)。

過去問では「払込額の全額を資本準備金とすることができる」「払込額の3分の2を資本準備金とすることができる」といった形で出題され、いずれも誤り(2分の1を超えて資本金不計上はできない)となります。

最低資本金制度の廃止

旧商法では、株式会社の最低資本金は1,000万円とされていましたが、会社法ではこの制限が廃止されました。現在は1円から株式会社を設立できます。

最低資本金制度が廃止された背景には、「資本金の額そのものは債権者保護として十分に機能しない」という立法上の反省があります。前述のとおり資本金は現金の保有を保証するものではなく、1,000万円を計上していても事業で費消すれば財産は残りません。そこで会社法は、起業の促進という政策目的のために形式的な最低資本金規制を撤廃する一方、配当の局面における分配可能額規制や、後述する純資産300万円規制といった「出口での財産流出規制」によって債権者保護を図る方式に転換しました。この立法政策の転換を理解しておくと、計算分野の各規制が一本の筋で結ばれて見えてきます。

資本金の額の増加・減少

操作手続資本金の増加準備金の資本金への組入れ等。株主総会の普通決議(会社法450条)資本金の減少株主総会の特別決議(会社法447条、309条2項9号)+債権者保護手続

資本金の減少は債権者の利害に直結するため、特別決議に加えて債権者保護手続(異議申述の機会の付与)が必要です。

ただし、欠損填補(資本金の額の減少が、株式の発行と同時に行われ、減少後の資本金が減少前を下回らない場合)を目的とする資本金の減少は、株主総会の普通決議で足ります(会社法447条3項、309条2項9号括弧書)。

資本金の減少が要件として重い理由は、減少によって剰余金が増え、その分だけ配当の原資が拡大して債権者の引当財産が社外流出しうるからです。一方、欠損填補や、定時株主総会で減少額が欠損の額を超えない場合のように、債権者を害するおそれが類型的に小さい場面では、決議要件が緩和されています。なお、資本金や準備金を減少しても、その減少分を必ず株主に分配しなければならないわけではなく、減少額をその他資本剰余金等に振り替えて会社内に留めることもできます。「資本金の減少=即配当」と短絡しないよう注意してください。

準備金

準備金の種類

種類内容積立ての根拠資本準備金資本金に計上しなかった払込みの額会社法445条3項利益準備金剰余金の配当をする場合に積み立てる額会社法445条4項

準備金は、資本金に次いで拘束性の強い財産です。資本準備金は「資本取引(出資)に由来する剰余」を源泉とし、利益準備金は「損益取引(事業の利益)に由来する剰余」を源泉とする、という出自の違いがあります。両者をまとめて「準備金」と呼び、配当に際しての積立義務や、減少時の債権者保護手続の対象となります。

利益準備金の積立て

剰余金の配当をする場合、配当額の10分の1を、資本準備金と利益準備金の合計額が資本金の4分の1に達するまで、利益準備金(又は資本準備金)として計上しなければなりません(会社法445条4項)。

剰余金の配当をする場合には、株式会社は、法務省令で定めるところにより、当該剰余金の配当により減少する剰余金の額に十分の一を乗じて得た額を資本準備金又は利益準備金として計上しなければならない。
― 会社法 第445条第4項

この積立義務は「配当のたびに発生する」点が重要です。準備金の合計が資本金の4分の1に達するまでは、配当を行うたびに配当額の10分の1(より正確には、減少する剰余金の額の10分の1)を積み立てなければなりません。これは、配当による財産流出に歯止めをかけ、準備金という債権者保護のクッションを徐々に厚くしていく趣旨です。

計算例: 資本金1,000万円の会社が100万円の配当を行う場合

  • 準備金の積立限度額: 1,000万円 x 1/4 = 250万円
  • 既に準備金が200万円あるとすると、残り50万円まで積立てが必要
  • 配当額の1/10 = 10万円
  • 10万円と50万円を比較し、少ない方の10万円を積立て

逆に、準備金の合計が既に資本金の4分の1に達している会社であれば、配当をしても追加の積立ては不要です(積立限度に達しているため)。試験では「剰余金の配当をする場合は常に配当額の10分の1を積み立てなければならない」という形の選択肢が誤りとして出されることがあります。「資本金の4分の1に達するまで」という上限を必ずセットで覚えてください。

準備金の額の減少

準備金の額の減少は、株主総会の普通決議で行います(会社法448条)。ただし、債権者保護手続が必要です。

ここで決議要件の対比を整理しておきます。

区分決議要件債権者保護手続資本金の減少原則特別決議(例外で普通決議)原則必要準備金の減少普通決議原則必要(一定の例外あり)

資本金の減少は特別決議、準備金の減少は普通決議という違いは出題の定番です。資本金のほうが拘束性が強く、株主・債権者双方への影響が大きいため、より重い決議が要求されると理解すると暗記に頼らずに済みます。なお、準備金の減少であっても、減少額の全部を資本金に組み入れる場合など、債権者を害するおそれが類型的にない場合には債権者保護手続が不要とされる例外があります。

剰余金の配当

剰余金の意義

剰余金とは、会社の純資産額から資本金・準備金の額を控除した額をいいます。概念的には以下の式で算出されます。

剰余金 = その他資本剰余金 + その他利益剰余金

より厳密には、剰余金の額は会社法446条が定める算定式(最終事業年度末日の剰余金に、事業年度中の自己株式の処分・資本金や準備金の減少・剰余金の配当等による増減を反映させたもの)によって計算されます。試験対策としては、「剰余金=純資産のうち資本金・準備金として拘束されていない部分(その他資本剰余金+その他利益剰余金)」という大枠を押さえれば十分です。

配当の手続

剰余金の配当は、原則として株主総会の普通決議で行います(会社法454条1項)。

定時株主総会だけでなく、臨時株主総会でも配当決議は可能です。後述のとおり配当回数に制限がないため、必要に応じて随時、株主総会の決議によって配当を行うことができます。

ただし、以下の要件をすべて満たす会社は、取締役会の決議で配当を行うことができます(会社法459条・460条)。

  1. 会計監査人設置会社であること
  2. 取締役の任期が1年であること(監査等委員会設置会社・指名委員会等設置会社を除く)
  3. 監査役会設置会社(又は監査等委員会設置会社・指名委員会等設置会社)であること
  4. 定款の定めがあること

この「取締役会で配当を決定できる会社」の要件はやや細かいですが、趣旨は「コーポレート・ガバナンスがしっかりしている会社(会計監査人があり、機関設計が整い、取締役の任期が短く株主の信任を頻繁に受ける会社)には、機動的な配当決定を委ねてよい」という点にあります。定款の定めが必須である点(株主の意思によって取締役会へ権限を委譲する構造)を落とさないようにしてください。

配当の基準日

剰余金の配当を受ける権利は、基準日において株主名簿に記載・記録されている株主に対して与えられます。基準日から配当の効力発生日までの期間は3か月以内でなければなりません。

基準日制度は、頻繁に株主が入れ替わる株式会社において「いつの時点の株主に権利を与えるか」を確定させるための仕組みです(会社法124条)。基準日株主が行使できる権利の内容(この場合は配当を受ける権利)は、基準日から3か月以内に行使されるものに限られます。

配当の回数

会社法上、剰余金の配当は何回でも行うことができます(回数制限なし)。旧商法では年2回に制限されていましたが、会社法では回数制限が撤廃されました。

ただし、回数制限がないことと、いつでも自由に配当できることは別問題です。配当のたびに分配可能額の規制がかかり、純資産300万円規制も満たす必要があるため、財源がなければ何回でも配当できるわけではありません。「回数は無制限だが、財源規制は毎回かかる」という二段構えを意識してください。

中間配当

取締役会設置会社は、一事業年度の途中において1回に限り、取締役会の決議によって剰余金の配当(金銭に限る)をすることができる旨を定款で定めることができます(会社法454条5項)。これを中間配当といいます。前述の「取締役会で配当を決定できる会社(459条)」とは別の制度で、こちらは1事業年度に1回限り・金銭配当限定という違いがあります。両者を混同しないよう注意が必要です。

現物配当

剰余金の配当は金銭に限られず、金銭以外の財産(現物配当)で行うこともできます(会社法454条4項)。

現物配当を行う場合、原則として株主総会の特別決議が必要です。ただし、株主に対して金銭分配請求権(金銭での配当を請求する権利)を与える場合は、普通決議で足ります。

現物配当に特別決議が要求される理由は、現物(株式や不動産等)は金銭に比べて評価が難しく、株主間で不公平が生じやすいうえ、株主が望まない財産を押し付けられるおそれがあるからです。そこで、株主に「金銭でほしい」と請求する権利(金銭分配請求権)を与える場合には、株主の利益が害されにくいため普通決議でよい、という整理になっています。

配当の態様必要な決議金銭配当普通決議現物配当(金銭分配請求権を与える)普通決議現物配当(金銭分配請求権を与えない)特別決議

分配可能額(財源規制)

財源規制の趣旨

会社法は、債権者保護の観点から、剰余金の配当・自己株式の取得等について分配可能額の規制を設けています。分配可能額を超える配当は違法配当となります。

財源規制は、計算分野の中核であり、この分野で最も「なぜ」が問われる論点です。株式会社では株主が有限責任しか負わないため、会社財産が唯一の債権者の引当てとなります。配当は会社財産を株主に無償で交付する行為ですから、これを無制限に許せば、配当によって会社を空にして債権者を害することができてしまいます。そこで会社法は、配当できる金額の上限を「分配可能額」として画し、これを超える配当を違法配当として厳格な責任を課しているのです。

財源規制が及ぶ行為は配当だけではありません。自己株式の有償取得(会社が株主から自社株を買い取る行為)も、対価が株主に流出する点で配当と経済的に同質のため、財源規制の対象になります(会社法461条)。

分配可能額の計算

分配可能額は、概略以下のように計算されます。

分配可能額 = 剰余金の額 - 自己株式の帳簿価額 - その他法務省令で定める額

具体的には、以下の調整が行われます。

加算項目減算項目その他資本剰余金自己株式の帳簿価額その他利益剰余金のれん等調整額―その他法務省令で定める額

行政書士試験では、分配可能額を円単位まで精密に算出させる問題はほとんど出ません(公認会計士・司法試験レベルの論点です)。重要なのは、「剰余金がそのまま配当できるのではなく、自己株式の帳簿価額などを差し引いた残額が分配可能額になる」という構造を理解しておくことです。なぜ自己株式の帳簿価額を控除するかというと、自己株式を取得した時点で既に会社財産が流出しているため、その分を二重に株主へ還元しないようにする趣旨です。

純資産額による制限

分配可能額がある場合でも、剰余金の配当により純資産額が300万円を下回ることとなる場合は、配当をすることができません(会社法458条)。

株式会社は、純資産額が三百万円を下回る場合には、剰余金の配当をすることができない。
― 会社法 第458条

この300万円規制は、最低限の会社財産を維持するためのものです。最低資本金制度が廃止された結果、資本金1円の会社も設立できるようになりましたが、それでは債権者保護が不十分になりかねません。そこで、配当の場面において「純資産が300万円を下回るときは配当できない」という形で、事実上の最低財産ラインを担保しているのです。最低資本金制度廃止の埋め合わせとしての規制、という位置づけを押さえると記憶に残ります。

なお、この規制は分配可能額の計算とは別個に働く独立の制限です。分配可能額が形式的に存在していても、配当の結果として純資産が300万円を割り込む場合には配当できません。「分配可能額があれば必ず配当できる」という選択肢は誤りになります。

違法配当の責任

株主の責任

分配可能額を超えて配当を受けた株主は、会社に対して配当として交付を受けた金銭等の帳簿価額に相当する金銭を支払う義務を負います(会社法462条1項)。

この義務は、善意の株主であっても免れません。ただし、会社の債権者のみがこの責任を追及できるという限定はなく、会社自身が請求できます。

株主返還責任が善意でも生じる点は、計算分野で最頻出の論点の一つです。会社内部の手続や財源の有無は株主には分かりにくいにもかかわらず、なぜ善意の株主まで返還義務を負うのでしょうか。これは、違法配当は本来流出してはならない会社財産が流出した状態であり、債権者保護の要請から、その回収を最優先すべきだからです。株主の主観(善意・悪意)よりも、客観的に会社財産を回復することが重視されているのです。

債権者による直接請求

会社債権者は、違法配当を受けた株主に対し、その交付を受けた金銭等の帳簿価額に相当する金銭を、自己(債権者)の債権額を限度として、直接自分に支払うよう請求できます(会社法463条2項)。これは、会社が株主に対する返還請求権を行使しない場合でも債権者が自ら回収できる仕組みで、債権者保護を徹底するための制度です。試験ではこの「債権者の直接請求権」も問われることがあります。

業務執行者の責任

違法配当に関する議案を提案した取締役(業務執行者)は、会社に対して配当額に相当する金銭を連帯して支払う義務を負います(会社法462条1項)。

責任の種類免除の可否業務執行者(取締役等)職務を行うにつき注意を怠らなかったことを証明すれば免除(過失責任)。ただし、総株主の同意がなければ免除不可(会社法462条3項)配当を受けた株主善意でも免れない(会社法463条1項本文)。ただし、業務執行者が弁済した場合は求償可

業務執行者の責任と株主の責任は、性質が大きく異なる点に注意してください。

  • 株主の責任: 善意・悪意を問わない(無過失責任的)。主観によって免れない。
  • 業務執行者の責任: 過失責任。注意を怠らなかったことを自ら証明(立証責任は業務執行者側)できれば免れる。

この対比は択一で狙われやすいので、「株主=主観不問」「業務執行者=過失責任・立証責任は本人」と整理してください。また、業務執行者の責任は、たとえ過失がある場合でも、総株主の同意があれば免除できますが、その免除の範囲は分配可能額を限度とされます(462条3項)。すなわち、分配可能額を超えて流出した部分(債権者の引当てとなる部分)については、総株主の同意があっても免除できません。

期末の欠損填補責任

違法配当には至らなくても、適法に行った配当によって期末に欠損が生じた場合、業務執行者は、その欠損額(配当により株主に交付した額が上限)を会社に対して連帯して填補する責任を負います(会社法465条)。ただし、こちらも過失責任であり、職務について注意を怠らなかったことを証明すれば免れます。「配当時点では分配可能額の範囲内だったが、決算を締めたら欠損が出てしまった」という場面を捕捉する規定です。前述の462条(分配可能額を超える違法配当そのものの責任)とは別の責任であることに注意してください。

自己株式の取得と財源規制

自己株式の有償取得についても、分配可能額による財源規制が及びます(会社法461条)。

取得対価の総額が分配可能額を超えてはなりません。この点は、剰余金の配当と同様の規制です。

財源規制の対象となる行為は、剰余金の配当と自己株式の有償取得のほか、株主への金銭等の交付を伴う各種の行為に及びます。共通する発想は、「株主に対して会社財産が無償または出資の払戻し的に流出する行為は、すべて分配可能額の枠内でしか行えない」という点です。配当と自己株式取得をセットで「財源規制がかかる行為」として覚えておくと、横断的な出題に対応できます。

資本金・準備金の額の減少と債権者保護手続

債権者保護手続の内容

資本金又は準備金の額を減少する場合、以下の債権者保護手続をとらなければなりません(会社法449条)。

  1. 資本金等の額の減少の内容を官報に公告する
  2. 知れている債権者に各別に催告する
  3. 債権者が一定期間内(1か月以上)に異議を述べることができる

債権者が異議を述べた場合、会社は弁済、担保の提供、信託のいずれかの措置をとらなければなりません。ただし、当該減少が債権者を害するおそれがないときは、この限りではありません。

なお、官報公告に加えて、定款の定めに従い日刊新聞紙への掲載または電子公告による公告を行ったときは、知れている債権者への各別の催告を省略できます(449条3項)。「官報公告と各別催告のダブルでの通知が原則だが、二重の公告をすれば個別催告を省ける」という点が細かい出題ポイントになります。

債権者保護手続が必要な場面・不要な場面の対比

行為債権者保護手続資本金の額の減少原則必要準備金の額の減少原則必要(一定の例外で不要)剰余金の配当(分配可能額の範囲内)不要(財源規制で対応)自己株式の有償取得(分配可能額の範囲内)不要(財源規制で対応)

ここは混同しやすいので強調しておきます。資本金・準備金の減少には債権者保護手続が必要ですが、剰余金の配当そのものには債権者保護手続は不要です。配当については、事前の手続的保護(異議申述)ではなく、分配可能額という金額上限による実体的保護で対応している、という設計の違いを理解してください。

頻出論点・よくある誤解の整理

計算分野で受験生がつまずきやすいポイントを、誤解の形でまとめます。

よくある誤解正しい理解資本金は会社に現金として存在する資本金は計算上の数額。現金の保有を保証しない払込額の3分の2を資本準備金にできる資本金不計上の上限は2分の1。最低2分の1は資本金配当のたびに必ず10分の1を積み立てる準備金が資本金の4分の1に達するまで。達していれば積立不要資本金の減少は普通決議でよい原則は特別決議。欠損填補等の例外で普通決議準備金の減少は特別決議が必要準備金の減少は普通決議剰余金の配当には債権者保護手続が必要配当は財源規制で対応。手続は不要分配可能額があれば必ず配当できる純資産300万円規制に抵触すれば配当不可善意の株主は違法配当を返還しなくてよい善意でも返還義務を負う(462条)業務執行者の責任は無過失責任過失責任。注意を怠らなかった証明で免責現物配当は常に特別決議金銭分配請求権を与えれば普通決議で足りる

試験での出題ポイント

  1. 資本金の最低額: 会社法では最低資本金の制限なし(1円でも可)
  2. 払込金額の2分の1は資本金に計上: 残りは資本準備金
  3. 利益準備金の積立て: 配当額の1/10を資本金の1/4に達するまで(達していれば積立不要)
  4. 資本金の減少は特別決議/準備金の減少は普通決議: 決議要件の対比
  5. 分配可能額の規制: 分配可能額を超える配当は違法
  6. 純資産300万円未満は配当不可: 最低限の財産維持(最低資本金制度廃止の埋め合わせ)
  7. 違法配当の責任: 善意の株主も免れない/業務執行者は過失責任
  8. 債権者の直接請求権: 債権者は自己の債権額を限度に株主へ直接請求できる
  9. 現物配当: 金銭分配請求権を与えれば普通決議、与えなければ特別決議
  10. 配当回数は無制限: ただし財源規制は毎回かかる
確認問題

株式会社の設立に際して、株主が払い込んだ額の全額を資本金に計上しなければならない。

○ 正しい × 誤り
解説
会社法445条2項により、払込み又は給付に係る額の2分の1を超えない額は資本金として計上しないことができます。つまり、最低2分の1を資本金に計上すればよく、残りは資本準備金として計上します。全額を資本金に計上することも可能ですが、義務ではありません。
確認問題

純資産額が300万円を下回る場合、株式会社は剰余金の配当をすることができない。

○ 正しい × 誤り
解説
会社法458条は、純資産額が300万円を下回る場合には剰余金の配当をすることができないと規定しています。これは最低限の会社財産を維持し、債権者を保護するための規制です。分配可能額がある場合でも、配当後に純資産額が300万円を下回ることとなる場合は配当できません。
確認問題

分配可能額を超えて違法に配当を受けた株主は、善意であれば配当金を会社に返還する義務を負わない。

○ 正しい × 誤り
解説
会社法462条1項により、分配可能額を超えて配当を受けた株主は、会社に対して配当として交付を受けた金銭等の帳簿価額に相当する金銭を支払う義務を負います。この義務は善意・悪意を問わず課されるため、善意の株主であっても返還義務を免れることはできません。
確認問題

資本金の額の減少は株主総会の普通決議で足りるが、準備金の額の減少には株主総会の特別決議が必要である。

○ 正しい × 誤り
解説
決議要件が逆です。資本金の額の減少は原則として株主総会の特別決議が必要であり(会社法447条、309条2項9号)、準備金の額の減少は株主総会の普通決議で足ります(会社法448条)。資本金のほうが拘束性が強く影響が大きいため、より重い特別決議が要求されます。なお、いずれも原則として債権者保護手続が必要です。
確認問題

剰余金の配当をする場合、業務執行者である取締役は、職務を行うにつき注意を怠らなかったことを証明しても、違法配当による会社への支払義務を免れることはできない。

○ 正しい × 誤り
解説
会社法462条2項により、業務執行者は職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明すれば、違法配当に係る支払義務を免れます。業務執行者の責任は過失責任であり、立証責任は業務執行者の側にあります。これに対し、配当を受けた株主の返還義務(462条1項)は善意・悪意を問わない点と対比して理解しておきましょう。

まとめ

会社の計算と配当は、債権者保護と株主への利益還元のバランスを図る分野です。資本金は計算上の数額であり最低資本金の制限はなく、払込額の最低2分の1を資本金に計上します。資本金・準備金は社内に拘束される財産であり、その減少には債権者保護手続が必要となる一方、剰余金(その他資本剰余金・その他利益剰余金)が配当の原資となります。

剰余金の配当は分配可能額の範囲内で行わなければならず、純資産300万円未満の場合は配当が禁止されます。違法配当の場合、善意の株主であっても返還義務を負う点、業務執行者は過失責任で立証責任を負う点は試験で頻出のポイントです。決議要件(資本金の減少は特別決議、準備金の減少は普通決議、現物配当の場合分け)と、財源規制が及ぶ行為(配当・自己株式取得)を横断的に整理しておきましょう。

会社法の機関設計や決議要件と密接に関わる分野です。あわせて学習を進めると理解が深まります。

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