環境法の基礎|環境基本法とアセスメント制度
行政書士試験の一般知識で問われる環境法の基礎を解説。環境基本法の理念と環境権の議論、環境基本計画、環境アセスメント法の仕組み、公害対策の歴史、循環型社会形成推進基本法まで体系的に整理します。
はじめに|環境法が行政書士試験で出題される理由
行政書士試験の一般知識等科目では、環境問題に関する法制度が出題されることがあります。環境法は、私たちの日常生活に密接に関わるテーマであるだけでなく、行政書士の実務においても産業廃棄物処理業の許可申請や環境関連の届出など、環境法の知識が求められる場面があります。
本記事では、環境基本法を中心に、環境アセスメント法、公害対策関連法、循環型社会形成推進基本法など、行政書士試験で問われる可能性のある環境法の基礎知識を体系的に解説します。
環境権の議論
環境権とは
環境権とは、「良好な環境を享受する権利」をいいます。環境権は、高度経済成長期の深刻な公害問題を背景に、1970年代に主張されるようになった比較的新しい権利概念です。
環境権の憲法上の根拠としては、以下の条文が挙げられています。
- 憲法13条(幸福追求権): 良好な環境の中で生活することは、幸福追求権の一内容である
- 憲法25条(生存権): 「健康で文化的な最低限度の生活」には、良好な環境が含まれる
環境権の法的性格
環境権が裁判上の具体的な権利として認められるかについては、学説・判例ともに消極的な立場が有力です。
判例は、環境権を裁判上の具体的な権利として正面から認めてはいません。公害訴訟においては、環境権ではなく、人格権(生命・身体・健康に対する権利)や物権(所有権に基づく妨害排除請求)を根拠として救済が図られてきました。
環境権が具体的な権利として認められにくい理由としては、以下の点が指摘されています。
- 権利の内容が不明確: 「良好な環境」の範囲や程度が明確でない
- 権利の主体が不明確: 環境権を行使できる者の範囲が確定しにくい
- 権利の内容が広すぎる: あらゆる開発行為の差止めを認めることにつながりかねない
試験対策のポイント
行政書士試験では、「環境権が判例上認められているか」が問われることがあります。判例は環境権を具体的な権利として正面から認めていないという点を押さえておきましょう。
環境基本法の概要
環境基本法の制定経緯
環境基本法は、1993年(平成5年)に制定された日本の環境政策の基本となる法律です。それまでの環境行政は、1967年に制定された公害対策基本法と1972年に制定された自然環境保全法を中心に行われていましたが、地球温暖化やオゾン層破壊といった地球環境問題への対応が求められるようになり、より包括的な法律として環境基本法が制定されました。
環境基本法の制定に伴い、公害対策基本法は廃止されました。
環境基本法の基本理念
環境基本法は、以下の3つの基本理念を掲げています。
- 環境の恵沢の享受と継承(3条): 現在及び将来の世代の人間が健全で恵み豊かな環境の恵沢を享受するとともに、環境が将来にわたって維持されるようにすること
- 環境への負荷の少ない持続的発展が可能な社会の構築(4条): 環境の保全は、社会経済活動その他の活動による環境への負荷をできる限り低減することその他の環境の保全に関する行動がすべての者の公平な役割分担の下に自主的かつ積極的に行われるようになることによって、健全で恵み豊かな環境を維持しつつ、環境への負荷の少ない健全な経済の発展を図りながら持続的に発展することができる社会が構築されることを旨として行われなければならない
- 国際的協調による地球環境保全の積極的推進(5条): 地球環境保全は、日本の能力を活かして国際的協調の下に積極的に推進されなければならない
環境基本法の主な施策
環境基本法は、環境保全のための施策として、以下のものを定めています。
- 環境基本計画の策定(15条)
- 環境基準の設定(16条)
- 公害防止計画の策定(17条)
- 環境影響評価(アセスメント)の推進(20条)
- 経済的措置(22条)
- 環境教育・環境学習の振興(25条)
環境基準
環境基本法16条に基づき、政府は「環境基準」を定めることとされています。環境基準とは、人の健康を保護し、生活環境を保全するうえで維持されることが望ましい基準です。
重要な点として、環境基準は行政上の目標であり、規制基準(直接的な法的拘束力を持つ基準)ではないことを理解しておきましょう。環境基準は、各種の公害規制法令における規制基準を設定する際の参考となるものですが、環境基準自体が直接に事業者を規制するものではありません。
環境基本計画
環境基本計画の位置づけ
環境基本計画は、環境基本法15条に基づいて政府が策定する、環境の保全に関する基本的な計画です。環境大臣が中央環境審議会の意見を聴いて案を作成し、閣議決定により策定されます。
環境基本計画には、以下の事項が定められます。
- 環境の保全に関する総合的かつ長期的な施策の大綱
- 環境の保全に関する施策を総合的かつ計画的に推進するために必要な事項
環境基本計画の変遷
環境基本計画はこれまで複数回策定されており、時代の変化に応じて内容が改定されてきました。近年の計画では、脱炭素社会の実現、循環経済(サーキュラーエコノミー)の推進、自然共生社会の構築などが重点分野として位置づけられています。
環境影響評価法(環境アセスメント法)
環境影響評価とは
環境影響評価(環境アセスメント)とは、大規模な開発事業を実施する前に、その事業が環境に与える影響を調査・予測・評価し、その結果を公表して住民や関係機関の意見を聴きながら、環境への配慮を行う手続をいいます。
環境影響評価法は、1997年(平成9年)に制定され、1999年(平成11年)に施行されました。
環境影響評価の対象事業
環境影響評価の対象となる事業は、以下の2種類に分けられます。
- 第一種事業: 必ず環境影響評価を実施しなければならない大規模事業
- 高速道路、ダム、鉄道、飛行場、発電所など
- 事業の規模要件が法律で定められている
- 第二種事業: 第一種事業に準ずる規模の事業で、環境影響評価を実施するかどうかを個別に判断する事業(スクリーニング手続)
環境影響評価の手続の流れ
環境影響評価の手続は、おおまかに以下の流れで進みます。
- 配慮書: 事業の位置・規模等の検討段階で、環境保全について配慮すべき事項を検討
- 方法書(スコーピング): 環境影響評価の項目と方法を決定。住民や知事等の意見を聴取
- 準備書: 調査・予測・評価の結果をまとめた書類を作成。住民への縦覧・説明会を実施
- 評価書: 住民や知事等の意見を踏まえて最終的な評価書を作成。環境大臣の意見も聴取
- 報告書: 事業実施後に、環境への影響の調査結果を報告
戦略的環境アセスメント(SEA)
戦略的環境アセスメント(SEA: Strategic Environmental Assessment)は、個別の事業の計画段階よりもさらに上位の段階(政策・計画・プログラムの段階)で環境影響を評価する仕組みです。
2011年の環境影響評価法改正により、「配慮書」の手続が導入されたことで、日本でもSEAの考え方が取り入れられました。
公害対策の歴史と法制度
四大公害訴訟
日本の環境法制度は、高度経済成長期に発生した深刻な公害問題を契機として発展しました。特に有名なのが、以下の四大公害訴訟です。
これらの訴訟では、いずれも原告(被害者)側が勝訴し、企業の損害賠償責任が認められました。
公害対策関連法
四大公害訴訟を契機に、以下のような公害対策関連法が整備されました。
- 大気汚染防止法: 工場や事業場からのばい煙、揮発性有機化合物等の排出を規制
- 水質汚濁防止法: 工場や事業場からの排水に含まれる有害物質等の排出を規制
- 土壌汚染対策法: 特定有害物質による土壌汚染の状況の把握と健康被害の防止
- 騒音規制法: 工場・事業場や建設工事からの騒音を規制
- 振動規制法: 工場・事業場や建設工事からの振動を規制
- 悪臭防止法: 事業活動に伴って発生する悪臭を規制
公害健康被害補償法
公害により健康被害を受けた者に対する補償制度を定めた法律が、公害健康被害の補償等に関する法律(公害健康被害補償法)です。汚染原因者から徴収した負担金を財源として、被害者に対する補償給付(療養の給付、障害補償費、遺族補償費等)が行われます。
循環型社会形成推進基本法
循環型社会とは
循環型社会形成推進基本法は、2000年(平成12年)に制定された法律で、大量生産・大量消費・大量廃棄型の社会から、資源を効率的に利用する循環型社会への転換を目指すものです。
同法は、廃棄物・リサイクル対策の基本的な枠組みとして、以下の優先順位を定めています。
- 発生抑制(リデュース): そもそも廃棄物を出さない
- 再使用(リユース): 使えるものはそのまま使う
- 再生利用(リサイクル): 使えないものは資源として再生利用
- 熱回収: 再生利用できないものは焼却して熱エネルギーを回収
- 適正処分: 上記のいずれにも該当しないものを適正に処分
この「3R(リデュース・リユース・リサイクル)」の優先順位は、試験で問われることがあります。リデュース(発生抑制)が最も優先されるという点を覚えておきましょう。
個別リサイクル法
循環型社会形成推進基本法のもとで、個別の分野ごとにリサイクル法が制定されています。
廃棄物処理法
廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃棄物処理法)は、廃棄物の排出抑制と適正な処理を定めた法律です。行政書士業務では、産業廃棄物収集運搬業や処分業の許可申請を扱うことがあり、実務的にも重要な法律です。
廃棄物は、一般廃棄物と産業廃棄物に分類されます。
- 一般廃棄物: 産業廃棄物以外の廃棄物。処理責任は市区町村
- 産業廃棄物: 事業活動に伴って生じた廃棄物のうち法令で定めるもの。処理責任は排出事業者
地球温暖化対策
地球温暖化対策推進法
地球温暖化対策の推進に関する法律(地球温暖化対策推進法)は、温室効果ガスの排出削減を推進するための法律です。
2020年10月に日本政府は「2050年カーボンニュートラル」を宣言し、2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにする目標を掲げました。この目標は、2021年の法改正により地球温暖化対策推進法にも明記されています。
パリ協定
パリ協定は、2015年にフランスのパリで開催されたCOP21(国連気候変動枠組条約第21回締約国会議)で採択された国際的な枠組みです。
パリ協定の主な内容は以下のとおりです。
- 世界の平均気温の上昇を産業革命前に比べて2℃より十分低く抑え、1.5℃に抑える努力を追求する
- 各国が自主的に温室効果ガスの削減目標(NDC)を設定し、5年ごとに見直す
- 先進国だけでなくすべての国が参加する(京都議定書との違い)
環境基本法16条に基づく「環境基準」は、事業者に対する直接的な規制基準であり、環境基準を超える排出を行った事業者には罰則が科される。○か×か。
循環型社会形成推進基本法が定める廃棄物処理の優先順位は、再生利用(リサイクル)、再使用(リユース)、発生抑制(リデュース)の順である。○か×か。
2015年に採択されたパリ協定は、京都議定書と同様に先進国のみに温室効果ガスの排出削減義務を課すものである。○か×か。
まとめ|環境法の基礎を効率的に学ぶ
環境法は、行政書士試験の一般知識分野で出題される可能性のある重要テーマです。
本記事のポイントを整理すると、以下のとおりです。
- 環境権: 判例は具体的な権利として正面から認めていない
- 環境基本法: 1993年制定。3つの基本理念(恵沢の享受と継承・持続的発展・国際的協調)
- 環境基準: 行政上の目標であり、直接的な規制基準ではない
- 環境アセスメント法: 大規模事業の実施前に環境への影響を評価する手続
- 四大公害訴訟: 水俣病(熊本)、新潟水俣病、イタイイタイ病、四日市ぜんそく
- 循環型社会の3R: リデュース(最優先)、リユース、リサイクルの順
- パリ協定: すべての国が参加(京都議定書との違い)
これらの基礎知識を押さえておけば、試験で出題された場合にも対応できるでしょう。本記事の内容を繰り返し確認して、確実な得点力を身につけましょう。