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国際法の基礎|条約と国際慣習法の要点

行政書士試験の一般知識で出題される国際法の基礎を解説。条約・国際慣習法・法の一般原則の法源、条約の締結手続と国内法上の効力、国際連合の仕組み(安保理・総会)、国際司法裁判所の機能まで体系的に整理します。

はじめに|国際法の基礎を学ぶ意義

行政書士試験の一般知識等科目では、国際法に関する基本的な知識が出題されることがあります。国際法は日常的にはあまり馴染みのない分野かもしれませんが、基本的な概念を理解しておけば、確実に得点できる分野です。

また、行政書士の実務においても、外国人の在留資格に関する業務など、国際法の知識が役立つ場面があります。本記事では、国際法の法源、条約の締結手続、国際連合の仕組み、国際司法裁判所について、行政書士試験に必要な範囲で解説します。

国際法とは何か

国際法の定義

国際法とは、主として国家間の関係を規律する法のことをいいます。国内法が一国内の法秩序を規律するのに対して、国際法は国家と国家の間の法秩序を規律するものです。

国際法と国内法の主な違いは以下のとおりです。

国際法国内法規律対象主に国家間の関係国家内の私人・団体間の関係立法機関統一的な立法機関がない国会(議会)が立法執行機関統一的な執行機関がない行政機関が執行司法機関国際司法裁判所(ICJ)等国内の裁判所強制力統一的な強制力がない国家権力による強制力

国際法の最大の特徴は、国内法のような統一的な立法機関・執行機関・司法機関が存在しないことです。そのため、国際法は主に国家の「合意」に基づいて成立し、その遵守も基本的に国家の自主的な意思に委ねられています。

国際法の主体

国際法の主体(国際法上の権利義務の帰属主体)は、主に以下のとおりです。

  1. 国家: 国際法の最も重要な主体。主権国家は国際法上の完全な権利能力を有する
  2. 国際機関: 国際連合、EU(欧州連合)などの国際機関も、一定の範囲で国際法の主体となる
  3. 個人: 国際人権法の発展により、個人も一定の範囲で国際法の主体となることが認められている

国際法の法源

法源の意義

法源とは、法の存在形式、すなわち「法がどのような形で存在しているか」を意味します。国際法の法源については、国際司法裁判所規程38条が重要な規定を置いています。

同条は、国際司法裁判所が適用する法として以下を列挙しています。

  1. 条約(国際条約)
  2. 国際慣習法(国際慣習)
  3. 法の一般原則
  4. 補助的手段としての判例学説

条約

条約とは、国際法の主体(主に国家)の間で文書の形式により締結される国際的な合意をいいます。条約は、「条約」のほか、「協定」「議定書」「憲章」「規約」「宣言」など、さまざまな名称で呼ばれますが、名称にかかわらず、国家間の法的拘束力のある合意であれば、すべて国際法上の条約に該当します。

条約の特徴は以下のとおりです。

  • 文書による合意: 口頭の合意は条約にあたらない(ただし国際法上の拘束力を持ちうる)
  • 法的拘束力: 条約は締約国を法的に拘束する
  • 当事国間のみの効力: 条約は原則として、その条約の当事国のみを拘束する(条約の相対的効力の原則、「合意は第三者を害しも益しもしない」の原則)

国際慣習法

国際慣習法とは、国際社会において一般的に認められた慣行(一般慣行)であって、それが法的義務として受け入れられているもの(法的確信)をいいます。

国際慣習法が成立するための要件は、以下の2つです。

  1. 一般慣行(国家実行): 国家が一定の行為を繰り返し行っているという事実の存在
  2. 法的確信(opinio juris): その行為が法的な義務に基づいて行われているという認識

条約が当事国のみを拘束するのに対して、国際慣習法は原則としてすべての国家を拘束するという点で大きな違いがあります。

国際慣習法の例としては、以下のようなものがあります。

  • 外交官の不可侵権: 外交官の身体の不可侵や公館の不可侵
  • 領海の制度: 沿岸国が領海に対して主権を行使できること
  • 内政不干渉の原則: 他国の国内問題に干渉してはならない原則

法の一般原則

法の一般原則とは、文明国が共通して認める一般的な法原則をいいます。条約や国際慣習法にない場合の補充的な法源として位置づけられています。

法の一般原則の例としては、以下のようなものがあります。

  • 信義誠実の原則(信義則): 権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行うべきこと
  • 権利濫用の禁止: 権利の行使であっても、濫用にあたる場合は許されないこと
  • 不当利得の返還: 法律上の原因なく利得を得た者はそれを返還すべきこと

判例と学説

判例(国際裁判所の判決)と学説は、国際法の法源そのものではなく、法源を認定するための「補助的手段」として位置づけられています。つまり、判例や学説は法源の存在を確認するための参考資料にすぎず、それ自体が法源となるわけではありません。

条約の締結手続

条約締結の一般的な流れ

条約の締結は、一般的に以下の流れで行われます。

  1. 交渉: 当事国間で条約の内容について交渉する
  2. 採択: 条約の条文(テキスト)を確定する
  3. 署名: 交渉に参加した国の代表者が条約に署名する
  4. 批准(ratification): 各国が国内手続に従って条約への拘束に同意する
  5. 効力発生: 条約で定められた要件(一定数の批准など)を満たすと効力が発生する

日本における条約の締結手続

日本国憲法は、条約の締結に関して以下のように定めています。

内閣は、条約を締結すること。但し、事前に、時宜によつては事後に、国会の承認を経ることを必要とする。
――日本国憲法73条3号

条約の締結は内閣の権限ですが、国会の承認が必要とされています。手続の流れは以下のとおりです。

  1. 内閣が条約の交渉・署名を行う: 外務大臣が全権委任状を受けた者が交渉に当たる
  2. 国会の承認を得る: 原則として事前に、やむを得ない場合は事後に国会の承認を得る
  3. 天皇が条約を公布する: 内閣の助言と承認に基づいて天皇が公布(7条1号)
  4. 批准書の寄託・交換: 条約の相手国又は寄託者に批准書を送付して、条約が発効する

条約と国会の承認

すべての国際的合意について国会の承認が必要かどうかについては議論があります。実務上は、以下のような重要な条約について国会の承認が求められています。

  • 法律事項を含む条約: 国民の権利義務に影響を与える内容の条約
  • 財政事項を含む条約: 国の財政に影響を与える内容の条約
  • 政治的に重要な条約: 安全保障や外交に関する重要な条約

一方、既存の法律や予算の範囲内で実施できる技術的・行政的な取り決め(行政取極)については、国会の承認なしに内閣の権限で締結できるとされています。

条約の国内法上の効力

条約と国内法の関係

条約が国内法としてどのような効力を持つかについて、国際法上は二つの考え方があります。

  • 一元論: 国際法と国内法は一つの法秩序を構成するとする考え方
  • 二元論: 国際法と国内法は別個の法秩序であるとする考え方

日本国憲法の下では、適法に締結・公布された条約は、特別の国内法制定措置を要することなく、国内法としての効力を有するとされています。これは一元論的な理解に近いものです。

条約の国内法上の位置づけ

条約の国内法体系における位置づけ(序列)については、以下のように理解されています。

  1. 憲法: 最高法規
  2. 条約: 憲法の下位、法律の上位
  3. 法律: 条約の下位

つまり、条約は憲法よりも下位であるが、法律よりも上位であるとするのが通説的な見解です。

ただし、条約優位説(条約は憲法よりも上位)と憲法優位説(憲法は条約よりも上位)の対立があり、通説は憲法優位説をとっています。その根拠としては、以下の点が挙げられます。

  • 憲法98条1項が憲法を「最高法規」と定めている
  • 憲法81条が違憲審査制を定めており、条約も違憲審査の対象となりうる
  • 条約の締結には国会の承認が必要であるが、国会は憲法に拘束される

砂川事件と条約の違憲審査

条約が違憲審査の対象となるかについて言及した判例として、砂川事件(最大判昭和34年12月16日)があります。最高裁は、日米安全保障条約のような高度の政治性を有する条約については、「一見極めて明白に違憲無効であると認められない限りは、裁判所の司法審査権の範囲外」であるとし、統治行為論を適用しました。

国際連合の仕組み

国際連合の設立

国際連合(United Nations, UN)は、第二次世界大戦後の1945年に設立された国際機関です。国際の平和と安全の維持、国際協力の推進などを目的としています。2024年時点で193か国が加盟しています。

日本は1956年(昭和31年)に国際連合に加盟しました。

国際連合の主要機関

国際連合には、以下の6つの主要機関があります。

  1. 総会(General Assembly)
  2. 安全保障理事会(Security Council)
  3. 経済社会理事会(Economic and Social Council)
  4. 信託統治理事会(Trusteeship Council): 現在は活動を停止
  5. 国際司法裁判所(International Court of Justice, ICJ)
  6. 事務局(Secretariat)

総会

総会は、すべての加盟国で構成される国連の最高意思決定機関です。

  • 構成: 全加盟国(各国1票)
  • 議決: 重要事項は出席し投票する構成国の3分の2以上の多数、その他の事項は過半数
  • 重要事項の例: 平和と安全の維持に関する勧告、新加盟国の承認、予算に関する事項
  • 性格: 総会の決議は原則として勧告的効力を持つにとどまり、法的拘束力はない

安全保障理事会

安全保障理事会(安保理)は、国際の平和と安全の維持について主要な責任を負う機関です。

  • 構成: 常任理事国5か国(米国・英国・フランス・ロシア・中国)+非常任理事国10か国
  • 非常任理事国: 総会で選出。任期2年。連続再選は不可
  • 議決: 手続事項は15か国中9か国の賛成、実質事項は常任理事国の同意を含む9か国の賛成(拒否権=ビートー
  • 法的拘束力: 安保理の決定は、国連憲章第7章に基づく決定については法的拘束力を有する

拒否権(ビートー)の意義

安保理の実質事項の議決において、常任理事国が1か国でも反対すれば決議は成立しません。これを拒否権(ビートー)といいます。

拒否権は、常任理事国に特別な地位を与える制度であり、大国間の対立がある問題については安保理が機能しないという問題が生じています。冷戦期にはソ連(現ロシア)が、また近年では中国やロシアが拒否権を行使し、安保理の決議が採択されない事態がしばしば発生しています。

なお、常任理事国が棄権した場合は、拒否権の行使とはみなされず、決議は成立します。

国際連合の専門機関

国際連合には、特定の分野で活動する専門機関が設置されています。主要な専門機関は以下のとおりです。

略称正式名称活動分野WHO世界保健機関国際保健ILO国際労働機関労働条件・社会保障UNESCO国連教育科学文化機関教育・科学・文化IMF国際通貨基金国際通貨・金融の安定IBRD国際復興開発銀行(世界銀行)開発援助FAO国連食糧農業機関食糧・農業

国際司法裁判所(ICJ)

ICJの概要

国際司法裁判所(ICJ: International Court of Justice)は、国際連合の主要な司法機関です。オランダのハーグに所在しています。

ICJの構成

  • 裁判官: 15名
  • 任期: 9年(3年ごとに5名ずつ改選)
  • 再選: 可能
  • 選出方法: 総会と安保理の両方で選出

管轄権

ICJには、以下の2種類の権限があります。

  1. 訴訟管轄権(争訟的管轄権): 国家間の紛争を裁判する権限
  • 当事者は国家のみ(個人や国際機関は当事者になれない)
  • 管轄権は当事国の同意が必要(強制管轄権は限定的)
  • 判決は当事国を拘束する
  1. 勧告的管轄権: 総会・安保理等の要請に基づいて法的問題について意見を述べる権限
  • 勧告的意見(advisory opinion)は法的拘束力を持たない
  • 国際法の解釈に関する権威ある見解として重要な意義を有する

ICJの判決の効力

ICJの判決は、当該事件の当事国を拘束します。判決に不服がある場合でも上訴することはできません(一審制)。当事国が判決に従わない場合、安全保障理事会に対して措置を求めることができます。

選択条項受諾宣言

ICJの管轄権は原則として当事国の同意に基づきますが、ICJ規程36条2項は「選択条項受諾宣言」の制度を設けています。これは、同じ宣言を行った他の国との間で、ICJの管轄権を義務的に受諾するというものです。

日本は2015年時点で選択条項受諾宣言を行っていますが、一定の留保を付しています。

国際人権法の展開

世界人権宣言と国際人権規約

国際社会における人権保障の基盤となっているのが、世界人権宣言(1948年採択)と国際人権規約(1966年採択)です。

  • 世界人権宣言: 人権と基本的自由の尊重を定めた宣言。法的拘束力はないが、国際慣習法化している部分がある
  • 国際人権規約: 世界人権宣言を条約化したもの。以下の2つの規約から成る
  • 社会権規約(A規約): 経済的・社会的・文化的権利を保障
  • 自由権規約(B規約): 市民的・政治的権利を保障

日本は、1979年に国際人権規約を批准しています。

その他の主要な人権条約

条約採択年内容人種差別撤廃条約1965年あらゆる形態の人種差別の撤廃女性差別撤廃条約1979年女性に対するあらゆる形態の差別の撤廃子どもの権利条約1989年18歳未満のすべての者の権利の保護障害者権利条約2006年障害者の権利と尊厳の保護
確認問題

国際慣習法が成立するためには、一般慣行(国家実行)の存在のみで足り、法的確信(opinio juris)は必要とされない。○か×か。

○ 正しい × 誤り
解説
国際慣習法が成立するためには、(1)一般慣行(国家実行)の存在と(2)法的確信(opinio juris)の両方が必要です。一般慣行とは国家が一定の行為を繰り返し行っているという事実であり、法的確信とはその行為が法的な義務に基づいて行われているという認識です。単に国家が慣行として行っているだけでは足りず、それが法的義務であるとの認識が伴って初めて国際慣習法が成立します。
確認問題

国際連合の安全保障理事会において、常任理事国が棄権した場合、その棄権は拒否権(ビートー)の行使とみなされ、決議は成立しない。○か×か。

○ 正しい × 誤り
解説
常任理事国が棄権した場合は、拒否権の行使とはみなされず、決議は成立しえます。拒否権は常任理事国が「反対」票を投じた場合に行使されたとされます。棄権や欠席は拒否権の行使にあたらないという実行が確立しており、これは国際連合の慣行として定着しています。
確認問題

国際司法裁判所(ICJ)には国家だけでなく個人も訴訟の当事者となることができ、個人が国家を相手に訴訟を提起することが可能である。○か×か。

○ 正しい × 誤り
解説
国際司法裁判所(ICJ)の訴訟管轄権において、当事者となりうるのは「国家のみ」です。個人や国際機関がICJの訴訟の当事者となることはできません。個人の権利侵害については、国際人権条約に基づく個人通報制度や、国内裁判所での救済が別途設けられています。なお、ICJの勧告的意見については、国連の機関等が要請することができますが、これは訴訟ではなく法的問題に関する意見の表明です。

まとめ|国際法の基礎知識を確実に身につける

国際法は、行政書士試験の一般知識分野で出題されることのあるテーマです。

本記事のポイントを整理すると、以下のとおりです。

  • 国際法の法源: 条約・国際慣習法・法の一般原則(判例と学説は補助的手段)
  • 条約の締結: 内閣が締結し、国会の承認が必要(憲法73条3号)
  • 条約の国内法上の序列: 憲法 > 条約 > 法律(通説)
  • 国連総会: 全加盟国で構成。決議は原則として勧告的効力のみ
  • 安全保障理事会: 常任理事国5か国+非常任理事国10か国。常任理事国に拒否権あり
  • ICJ: 当事者は国家のみ。管轄権は原則として当事国の同意が必要
  • 国際慣習法の成立要件: 一般慣行+法的確信の2つが必要

これらの基本事項を押さえておけば、試験で国際法の問題が出題された場合にも対応できます。本記事の内容を繰り返し復習し、確実な得点力を身につけましょう。

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