(公開 2026/02/01) / 一般知識

労働法の基礎|労基法・労契法の頻出ポイント

労働基準法の基本原則・労働時間・解雇規制、労働契約法の解雇権濫用法理・雇止め法理・無期転換ルールなど、行政書士試験で問われる労働法の頻出ポイントを体系的に解説します。

はじめに|労働法は一般知識で得点源にできる分野

行政書士試験の一般知識等科目では、労働法に関する問題が出題されることがあります。労働基準法や労働契約法は、働く人の権利を守る基本的な法律であり、社会人として身近なテーマでもあるため、比較的取り組みやすい分野です。

労働法という名称の法律は存在しません。労働基準法、労働契約法、労働組合法、最低賃金法など、労働に関する法律群の総称として「労働法」と呼ばれています。本記事では、試験対策として特に重要な労働基準法と労働契約法を中心に、頻出ポイントを整理します。

一般知識等科目は、行政書士試験において「14問中6問以上(足切り)」をクリアすることが合格の絶対条件です(一般知識等科目で6問未満だと、法令科目で高得点でも不合格となります)。労働法は、政治・経済・社会の分野の中でも条文・数字・要件が明確で、暗記すれば得点しやすい分野です。出題範囲が広く対策が難しい一般知識等科目において、労働法は「確実に取りにいける」貴重な領域だと位置づけて学習しましょう。

労働法の出題は、(1)条文の数字(労働時間・休憩・解雇予告など)、(2)制度の趣旨と要件(無期転換・雇止めなど)、(3)基本原則の正確な理解(均等待遇の差別事由など)の3つの角度が中心です。本記事では、この3つの角度すべてに対応できるよう、条文の正確な引用・要件整理表・頻出論点・よくある誤解を厚く解説します。

労働基準法の基本原則

労働基準法の目的と性格

労働基準法は、労働条件の最低基準を定める法律です。1947年に制定され、すべての労働者に適用される強行法規としての性格を持ちます。

労働基準法で定める基準に達しない労働条件を定めた労働契約は、その部分について無効となり、無効となった部分は労働基準法で定める基準によります(第13条)。これを強行的・直律的効力といいます。

第十三条 この法律で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする。この場合において、無効となつた部分は、この法律で定める基準による。
― 労働基準法 第13条

ここでいう「強行的効力」とは、最低基準に達しない合意を無効にする効力をいい、「直律的(補充的)効力」とは、無効となった部分を法律の基準で自動的に埋める効力をいいます。たとえば「1日10時間労働・残業代なし」という契約を結んでも、その部分は無効となり、法定労働時間(1日8時間)や割増賃金の規定が当然に適用される、というのがこの条文の意味です。労働者が合意していても、最低基準を下回る部分は当然に無効になる点が重要で、ここに労働法の「労働者保護」という基本性格が現れています。

なお、労働基準法には罰則規定(第117条以下)が設けられており、強行法規としての実効性が刑事罰によって担保されています。これに対し、後述する労働契約法には罰則がなく、民事的なルール(裁判規範)を定める法律であるという違いがあります。「労基法=罰則あり・行政取締法規」「労契法=罰則なし・民事ルール」という対比は試験でも狙われやすいポイントです。

5つの基本原則

労働基準法は冒頭で以下の基本原則を定めています。

  1. 労働条件の原則(第1条): 労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない
  2. 労使対等の原則(第2条): 労働条件は、労働者と使用者が対等の立場において決定すべきもの
  3. 均等待遇の原則(第3条): 使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について差別的取扱いをしてはならない
  4. 男女同一賃金の原則(第4条): 使用者は、労働者が女性であることを理由として、賃金について男性と差別的取扱いをしてはならない
  5. 強制労働の禁止(第5条): 使用者は、暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によって、労働者の意思に反して労働を強制してはならない

このほか、第6条では中間搾取の排除(法律に基づいて許される場合のほか、業として他人の就業に介入して利益を得てはならない)、第7条では公民権行使の保障(労働者が選挙権その他公民としての権利を行使する時間を請求した場合は拒んではならない)が定められています。これらも基本原則として押さえておくとよいでしょう。

均等待遇の原則のポイント

第3条の均等待遇の原則で禁止される差別理由は「国籍」「信条」「社会的身分」の3つです。性別は含まれていません(性別による差別は男女雇用機会均等法で規制されます)。また、第4条の男女同一賃金の原則は賃金のみに関する規定であり、採用や昇進について定めたものではありません。

第三条 使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならない。
― 労働基準法 第3条

ここは行政書士試験で最も狙われやすい論点の一つです。誤りの選択肢として典型的なのが次の3パターンです。

誤りパターン正しい理解「性別」を差別禁止事由に含める第3条の事由は国籍・信条・社会的身分の3つのみ。性別は含まない「年齢」「性別」を加えるいずれも第3条には含まれない第4条が採用・昇進の差別も禁止すると述べる第4条は「賃金」についての女性差別のみを規定

「信条」とは特定の宗教的・政治的信念をいい、「社会的身分」とは生来的な地位(出身・門地など)を指すと解されます。なお、第3条は「雇入れ後」の労働条件についての差別を禁止するもので、判例上、雇入れ(採用)そのものの自由までは制限しないと解されている点(後述の三菱樹脂事件の考え方)も関連論点として押さえておきましょう。

労働契約と労働条件の明示

労働契約の成立

労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて合意することにより成立します(労働契約法第6条)。書面の作成は成立要件ではなく、口頭の合意でも成立します。

第六条 労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する。
― 労働契約法 第6条

労働契約は諾成契約であり、当事者の合意のみで成立します。後述する「労働条件の明示義務(労基法第15条)」や「就業規則の周知」は契約の成立要件ではなく、これらを欠いても契約自体は成立する点に注意が必要です。明示義務違反は労基法上の取締りの対象(行政指導・罰則)にはなりますが、契約が無効になるわけではありません。

労働条件の明示義務

使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければなりません(労働基準法第15条)。

書面(又は電磁的方法)による明示が必要な事項(絶対的明示事項)

  1. 労働契約の期間
  2. 期間の定めのある労働契約の更新基準
  3. 就業の場所・従事すべき業務
  4. 始業・終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇
  5. 賃金の決定・計算・支払の方法、締切日・支払日
  6. 退職に関する事項(解雇の事由を含む)

明示された労働条件が事実と異なる場合、労働者は即時に労働契約を解除することができます。

第十五条 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。(中略)
2 前項の規定によつて明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる。
― 労働基準法 第15条

明示事項には、必ず明示しなければならない「絶対的明示事項」と、定めをした場合に明示すれば足りる「相対的明示事項」があります。退職手当、臨時の賃金(賞与等)、安全衛生、職業訓練、表彰・制裁などは相対的明示事項にあたります。試験対策上は、上記の絶対的明示事項のうち昇給に関する事項を除いたものが書面明示の対象であること(昇給は口頭でもよい)、また2024年4月施行の改正で就業場所・業務の変更の範囲などが明示事項に追加されたことを押さえておくとよいでしょう。

賃金支払の4原則

賃金の支払いについて、労働基準法は以下の4つの原則を定めています(第24条)。

  1. 通貨払いの原則: 賃金は通貨で支払わなければならない(現物支給の原則禁止)
  2. 直接払いの原則: 賃金は直接労働者に支払わなければならない
  3. 全額払いの原則: 賃金はその全額を支払わなければならない
  4. 毎月1回以上・一定期日払いの原則: 賃金は毎月1回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない
第二十四条 賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。(中略)
2 賃金は、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。(後略)
― 労働基準法 第24条

それぞれの原則には例外があり、試験ではこの例外こそが問われます。整理しておきましょう。

原則趣旨主な例外通貨払い現物給与による不利益を防ぐ法令・労働協約に別段の定めがある場合、労働者の同意による口座振込み等直接払い中間搾取・ピンハネを防ぐ(未成年者の親権者への支払いは禁止=代理受領は不可)/使者への支払いは可全額払い労働者の生活保障法令による控除(所得税・社会保険料等)、労使協定による控除(社宅費等)毎月1回以上・一定期日生活リズムの安定臨時の賃金・賞与・1か月を超える期間の精勤手当等

特に直接払いの原則は重要で、未成年者であっても賃金は本人に支払わなければならず、親権者や後見人が代わって受け取ることはできません(第59条)。また、賃金債権が譲渡された場合でも、使用者は譲受人ではなく労働者本人に支払う必要があるとするのが判例(最判昭和43年3月12日・小倉電話局事件)です。全額払いの原則についても、使用者が一方的に相殺できないのが原則であり、過払賃金の調整的相殺が認められる範囲などが論点になります。

労働時間・休憩・休日

法定労働時間

使用者は、労働者に、休憩時間を除き1週間について40時間を超えて、また1日について8時間を超えて労働させてはなりません(第32条)。これを法定労働時間といいます。

第三十二条 使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。
2 使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。
― 労働基準法 第32条

「1週40時間・1日8時間」は労働法分野で最も基本的かつ頻出の数字です。なお、商業・映画演劇業・保健衛生業・接客娯楽業のうち常時10人未満の労働者を使用する事業(特例措置対象事業場)については、週44時間まで認められる特例があります。

労働時間とは「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」をいうとされ、これは客観的に判断されます(最判平成12年3月9日・三菱重工長崎造船所事件)。作業前の準備や着替えの時間などが労働時間に含まれるかが争われた事案で、判例は「使用者の指揮命令下に置かれたものと評価できるか否か」で判断するとしました。

休憩時間

使用者は、労働時間が6時間を超える場合は少なくとも45分8時間を超える場合は少なくとも1時間の休憩時間を労働時間の途中に与えなければなりません(第34条)。

休憩時間には以下の3つの原則があります。

  1. 途中付与の原則: 労働時間の途中に与えること
  2. 一斉付与の原則: 事業場の労働者に一斉に与えること(労使協定による例外あり)
  3. 自由利用の原則: 休憩時間を自由に利用させること

休憩時間の数字は混同しやすいため、表で整理します。

労働時間必要な休憩時間6時間以下不要6時間を超え8時間以下少なくとも45分8時間を超える少なくとも1時間

ちょうど6時間や8時間の場合は「超える」にあたらない点に注意してください(6時間ちょうどは休憩不要、8時間ちょうどは45分で足りる)。「超える」と「以上」の違いは試験で狙われやすい引っかけです。

休日

使用者は、労働者に対して毎週少なくとも1回の休日を与えなければなりません(第35条第1項)。これを法定休日といいます。ただし、4週間を通じ4日以上の休日を与える使用者にはこの規定は適用されません(変形休日制、第35条第2項)。

第三十五条 使用者は、労働者に対して、毎週少くとも一回の休日を与えなければならない。
2 前項の規定は、四週間を通じ四日以上の休日を与える使用者については適用しない。
― 労働基準法 第35条

「週1回」が原則であり、「毎週」が義務ではなく「4週4日」でもよいという例外がある点がポイントです。法定休日(週1回)と、それ以外の所定休日(週休2日制の2日目など)は区別され、割増賃金の率も異なります(法定休日労働は3割5分以上、法定外休日労働は時間外労働として2割5分以上)。

年次有給休暇

年次有給休暇は、雇入れの日から起算して6か月間継続勤務し、全労働日の8割以上出勤した労働者に対して、10労働日付与されます(第39条第1項)。その後は継続勤務年数に応じて付与日数が増加し、6年6か月以上で年20日が上限となります。

年次有給休暇は、原則として労働者が請求する時季に与えなければなりません(時季指定権)。ただし、その時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合には、使用者は他の時季に変更することができます(時季変更権、第39条第5項)。「事業の正常な運営を妨げる場合」とは、単に忙しいというだけでは足りず、代替要員の確保が困難であるなど客観的な事情が必要と解されています。年次有給休暇の利用目的は労働者の自由であり、使用者が干渉することはできません(最判昭和48年3月2日・白石営林署事件)。

働き方改革関連法により、年10日以上の有給休暇が付与される労働者については、使用者が年5日について時季を指定して取得させる義務が課されました(後述)。

36協定(サブロク協定)

使用者が法定労働時間を超えて労働させる場合や法定休日に労働させる場合には、労働者の過半数で組織する労働組合又は労働者の過半数を代表する者との書面による協定(36協定)を締結し、行政官庁(所轄労働基準監督署長)に届け出なければなりません(第36条)。

2018年の働き方改革関連法により、時間外労働の上限規制が法定化されました。原則として月45時間・年360時間が上限とされ、臨時的な特別の事情がある場合でも年720時間・単月100時間未満(休日労働含む)・複数月平均80時間以内(休日労働含む)を超えることはできません。

36協定は、時間外・休日労働を「適法に行わせるための免罰効果」を持つ協定です。36協定を締結・届出しただけでは個々の労働者に残業義務が当然に生じるわけではなく、別途、就業規則や労働契約に時間外労働を命じる根拠が必要と解されています(最判平成3年11月28日・日立製作所武蔵工場事件)。

時間外・休日・深夜労働には割増賃金の支払いが必要です(第37条)。割増率を整理すると次のとおりです。

種類割増率時間外労働(法定労働時間超)2割5分以上時間外労働が月60時間を超える部分5割以上休日労働(法定休日)3割5分以上深夜労働(午後10時〜午前5時)2割5分以上

月60時間超の時間外労働に対する5割以上の割増は、かつて中小企業には猶予されていましたが、2023年4月から中小企業にも適用されています。

解雇規制

解雇予告制度

使用者は、労働者を解雇しようとする場合には、少なくとも30日前にその予告をしなければなりません(第20条)。30日前に予告をしない場合は、30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払わなければなりません。

予告日数は、解雇予告手当を支払った日数分だけ短縮することができます(例: 10日分の解雇予告手当を支払えば20日前の予告で足りる)。

第二十条 使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少なくとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。(後略)
― 労働基準法 第20条

「30日前の予告」と「30日分の平均賃金」は、いずれか一方でも、両者の組み合わせ(予告日数+手当日数が合計30日以上)でも足ります。「30日前」を「14日前」「2週間前」とすり替える選択肢は頻出の誤りパターンです。

解雇予告が不要な場合

以下の場合には解雇予告が不要です。

  • 日日雇い入れられる者(1か月を超えて引き続き使用された場合を除く)
  • 2か月以内の期間を定めて使用される者(所定の期間を超えて引き続き使用された場合を除く)
  • 季節的業務に4か月以内の期間を定めて使用される者(所定の期間を超えて引き続き使用された場合を除く)
  • 試の使用期間中の者(14日を超えて引き続き使用された場合を除く)

ここで重要なのが、試用期間中の者は「14日を超えて」引き続き使用されると解雇予告が必要になるという点です。前掲の解雇予告制度(30日)と、この試用期間の数字(14日)を混同させる出題が典型的なので、しっかり区別しましょう。また、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合や、労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合には、所轄労働基準監督署長の認定(除外認定)を受けることで予告なしの解雇が認められます(第20条第1項ただし書)。

解雇制限

使用者は、以下の期間は労働者を解雇してはなりません(第19条)。

  1. 業務上の負傷・疾病による療養のための休業期間及びその後30日間
  2. 産前産後の休業期間及びその後30日間
第十九条 使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後三十日間並びに産前産後の女性が第六十五条の規定によつて休業する期間及びその後三十日間は、解雇してはならない。(後略)
― 労働基準法 第19条

注意点として、この解雇制限は業務上の負傷・疾病に限られ、私傷病(業務外の病気・けが)による休業期間は対象外です。また、療養開始後3年を経過しても傷病が治らない場合に打切補償(平均賃金の1200日分)を支払ったとき等は、解雇制限が解除されます。

労働契約法の重要規定

労働契約法の性格

労働契約法は、労働契約に関する民事的なルールを定めた法律です(2007年制定・2008年施行)。労基法と異なり罰則や行政監督の規定がなく、労働契約をめぐる裁判で適用される「裁判規範」としての性格を持ちます。判例法理を条文化した規定が多いのが特徴です。

第3条では労働契約の基本原則(労使対等の合意、就業の実態に応じた均衡考慮、仕事と生活の調和への配慮、信義誠実の原則、権利濫用の禁止)が定められています。

解雇権濫用法理(第16条)

解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして無効とされます。この規定は判例法理(日本食塩製造事件、高知放送事件等)を明文化したものです。

第十六条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
― 労働契約法 第16条

この法理は、もともと最高裁判例によって確立されたものです。

普通解雇事由がある場合においても、使用者は常に解雇しうるものではなく、当該具体的な事情のもとにおいて、解雇に処することが著しく不合理であり、社会通念上相当なものとして是認することができないときには、当該解雇の意思表示は、解雇権の濫用として無効になる。
― 最判昭和52年1月31日(高知放送事件)の趣旨

高知放送事件は、宿直勤務のアナウンサーが寝過ごしによる放送事故を2度起こして解雇された事案で、最高裁は、解雇は重きに失し社会通念上相当として是認できないとして解雇を無効としました。「解雇に値する理由があるかどうか(合理性)」と「解雇という重い処分が相当か(相当性)」の2段階で審査する点が重要です。

雇止め法理(第19条)

有期労働契約の期間満了時に使用者が更新を拒否することを「雇止め」といいます。以下のいずれかに該当する場合で、労働者が更新の申込みをしたときは、使用者が雇止めをすることが客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、従前の有期労働契約と同一の労働条件で更新されたものとみなされます。

  1. 有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあり、雇止めが期間の定めのない労働契約の解雇と社会通念上同視できると認められる場合
  2. 労働者が有期労働契約の契約期間の満了時にその有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があると認められる場合

この雇止め法理は、判例(最判昭和49年7月22日・東芝柳町工場事件、最判昭和61年12月4日・日立メディコ事件)で確立された法理を労働契約法第19条として明文化したものです。1号は「実質的に無期契約と同視できる」類型(東芝柳町工場事件型)、2号は「更新への合理的期待がある」類型(日立メディコ事件型)に対応します。要件を満たす場合、使用者の更新拒否が合理性・相当性を欠けば、従前と同一の労働条件で契約が更新されたものとみなされる点が効果として重要です。

無期転換ルール(第18条)

同一の使用者との間で有期労働契約が通算5年を超えて反復更新された場合、労働者の申込みにより、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換されます。使用者は当該申込みを承諾したものとみなされます。

  • 通算契約期間: 2つ以上の有期労働契約の契約期間を通算する
  • クーリング期間: 契約がない期間が6か月以上あれば、それ以前の契約期間は通算されない
  • 転換後の労働条件: 別段の定めがない限り、直前の有期労働契約と同一の労働条件

無期転換ルールについて、特に注意すべき点を整理します。

論点内容起算点2013年4月1日以後に開始する有期労働契約が対象「5年を超えて」通算5年「を超える」契約更新が要件(5年ちょうどでは不可)転換のタイミング申込み時点では契約は継続。転換後の無期契約は、申込み時の有期契約の期間満了日の翌日から効力発生労働条件「無期」になるだけで、別段の定めがなければ賃金等は従前と同一(正社員と同じになるわけではない)

「無期転換=正社員になる」という誤解が多いですが、転換されるのは契約期間が無期になるという点のみであり、別段の定めがない限り賃金・職務などの労働条件は有期のときと変わらない点に注意が必要です。

最低賃金法と労働組合法

最低賃金法

最低賃金法は、賃金の最低額を保障する法律です。最低賃金には2種類あります。

  1. 地域別最低賃金: 都道府県ごとに定められる最低賃金(すべての労働者に適用)
  2. 特定最低賃金(産業別最低賃金): 特定の産業について定められる最低賃金

最低賃金額に達しない賃金を定める労働契約は、その部分について無効となり、最低賃金と同額の定めをしたものとみなされます。

地域別最低賃金は、都道府県ごとに中央最低賃金審議会・地方最低賃金審議会の審議を経て決定され、すべての労働者・使用者に適用されます。地域別最低賃金と特定最低賃金の両方が適用される場合は、高い方の最低賃金額が適用されます。地域別最低賃金額を下回る賃金で働かせた使用者には罰則(最低賃金法第40条)が設けられている点も、労基法第13条同様の強行性として押さえておきましょう。

労働組合法の基本

労働組合法は、労働者の団結権・団体交渉権・団体行動権(争議権)を保障する法律です。これらはいわゆる労働三権であり、憲法第28条が保障する勤労者の権利を具体化するものです。

不当労働行為(第7条)

使用者の以下の行為は不当労働行為として禁止されています。

  1. 不利益取扱い: 組合員であること等を理由とする解雇その他の不利益取扱い
  2. 団体交渉の拒否(正当な理由のない): 正当な理由なく団体交渉を拒否すること
  3. 支配介入: 労働組合の結成・運営に対する支配・介入
  4. 経費援助: 労働組合の運営経費の援助(ただし、最小限の広さの事務所の供与等は除く)
  5. 報復的不利益取扱い: 不当労働行為の救済申立て等を理由とする不利益取扱い

不当労働行為に対しては、労働委員会に救済を申し立てることができます。

労働委員会は、使用者委員・労働者委員・公益委員の三者で構成される行政委員会です。不当労働行為の救済申立てを受けると、調査・審問を経て救済命令(原職復帰命令、バックペイ命令等)を発することができます。なお、正当な争議行為については、刑事免責(労組法第1条第2項)・民事免責(同第8条)が認められ、使用者は争議行為による損害について労働組合や組合員に損害賠償を請求できないのが原則です。これも労働三権保障の具体化として重要です。

重要判例の整理

労働法分野では、条文だけでなく判例の知識が問われることがあります。特に憲法・行政法とまたがる重要判例を、事案・判旨・意義の順で整理します。

三菱樹脂事件(採用の自由)

企業者は、かような経済活動の一環としてする契約締結の自由を有し、自己の営業のためにいかなる者を雇い入れるか、いかなる条件でこれを雇うかについて、原則として自由にこれを決定することができる。
― 最大判昭和48年12月12日(三菱樹脂事件)

学生運動歴を秘匿して入社した者が試用期間満了時に本採用を拒否された事案です。最高裁は、企業には採用の自由があり、特定の思想・信条を理由に雇入れを拒んでも当然に違法とはいえないとしました。労基法第3条が禁止するのは「雇入れ後」の労働条件における差別であって、採用そのものの自由は制限しないと解する立場の基礎となる判例です。

秋北バス事件(就業規則の法的性質)

当該事業場の労働者は、就業規則の存在および内容を現実に知ると否とにかかわらず、また、これに対して個別的に同意を与えたかどうかを問わず、当然に、その適用を受ける。
― 最大判昭和43年12月25日(秋北バス事件)

就業規則の不利益変更が争われた事案で、最高裁は就業規則に法規範類似の性質を認めました。この考え方は、現在では労働契約法第7条(就業規則の合理性・周知による労働契約の内容化)・第10条(就業規則の合理的な不利益変更)に明文化されています。

日本食塩製造事件(解雇権濫用法理の確立)

ユニオン・ショップ協定に基づく解雇の有効性が争われた事案で、最高裁は、使用者の解雇権の行使も「客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当として是認できない場合には、権利の濫用として無効になる」と判示しました(最判昭和50年4月25日)。前述の高知放送事件とあわせて、解雇権濫用法理(労契法第16条)の母体となった判例です。

これらの判例は、結論(誰が勝ったか)よりも、どのような法理を示したかを問われることが多いです。判旨のキーワード(「採用の自由」「就業規則の法規範性」「客観的に合理的な理由・社会通念上相当」)を正確に押さえましょう。

近年の労働法改正のポイント

働き方改革関連法(2018年成立)

2018年に成立した働き方改革関連法は、労働法制の大きな転換点となりました。

  1. 時間外労働の上限規制: 前述のとおり、罰則付きの上限が法定化
  2. 年次有給休暇の取得義務化: 年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対し、5日について時季を指定して取得させる義務
  3. 同一労働同一賃金: 正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間の不合理な待遇差の禁止
  4. 高度プロフェッショナル制度: 一定の年収要件を満たす高度な専門職について労働時間規制の適用を除外

同一労働同一賃金については、従来の労働契約法第20条(有期契約労働者の不合理な労働条件の禁止)がパートタイム・有期雇用労働法に移管・整備されました。この分野では、ハマキョウレックス事件(最判平成30年6月1日)、長澤運輸事件(同日)などの判例が、諸手当・賞与・退職金の不合理性を個別に判断する枠組みを示しています。

フリーランス保護法(2024年施行)

特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス保護法)が2024年に施行されました。フリーランスとして働く個人事業者を保護するため、発注者に対して取引条件の明示や報酬の支払期日に関するルールを定めています。

行政書士試験では、こうした最新の法改正も出題対象となりうるため、注意が必要です。

頻出論点・出題ポイントの総まとめ

試験直前に確認したい数字と要件を一覧にまとめます。

項目数字・要件根拠条文法定労働時間1週40時間・1日8時間労基法第32条休憩6時間超で45分、8時間超で1時間労基法第34条休日毎週1回(又は4週4日)労基法第35条解雇予告30日前又は30日分の平均賃金労基法第20条試用期間の解雇予告除外14日を超えると予告必要労基法第21条解雇制限業務上傷病・産前産後の休業期間+30日労基法第19条年次有給休暇の発生6か月継続勤務・8割以上出勤で10日労基法第39条有休の取得義務年10日以上付与者に年5日労基法第39条第7項無期転換通算5年を超える更新で申込権発生労契法第18条解雇権濫用法理合理的理由+社会通念上相当労契法第16条

よくある誤解・引っかけポイントも確認しておきましょう。

  • 均等待遇の差別事由に「性別」を含めない(国籍・信条・社会的身分の3つのみ)。
  • 解雇予告は「30日」、試用期間の除外は「14日」で混同しない。
  • 無期転換は「正社員化」ではない(別段の定めがなければ労働条件は従前と同一)。
  • 労働契約は口頭でも成立する(書面は成立要件ではない)。
  • 労基法には罰則があり、労契法には罰則がない

まとめ

労働法は、労働基準法と労働契約法を中心に押さえることが試験対策のポイントです。労働基準法の基本原則(均等待遇の差別禁止事由に性別が含まれないこと等)、労働時間・休憩・休日の数字(週40時間、1日8時間等)、解雇予告制度(30日前又は30日分の平均賃金)は頻出です。

労働契約法については、解雇権濫用法理(第16条)、雇止め法理(第19条)、無期転換ルール(第18条・通算5年超)を正確に理解しましょう。近年の働き方改革関連法による改正ポイント(時間外労働の上限規制、年次有給休暇の取得義務化等)も押さえておく必要があります。

一般知識等科目は足切りがある重要科目です。労働法は条文・数字・要件が明確で得点しやすい分野なので、本記事の頻出ポイントと判例を繰り返し確認し、確実な得点源にしてください。一般知識等科目の他分野や、関連する憲法の人権分野とあわせて学習すると効果的です。

関連記事として、一般知識等科目全体の対策は一般知識等科目の攻略法|足切り突破の学習戦略、憲法分野の人権保障については憲法の人権|行政書士試験の頻出論点もあわせて確認しましょう。

確認問題

労働基準法第3条の均等待遇の原則では、国籍、信条、社会的身分又は性別を理由とする差別的取扱いが禁止されている。

○ 正しい × 誤り
解説
労働基準法第3条の均等待遇の原則で禁止される差別理由は「国籍」「信条」「社会的身分」の3つであり、「性別」は含まれていません。性別による差別は、労働基準法第4条(男女同一賃金の原則、賃金のみ)や男女雇用機会均等法で規制されています。
確認問題

同一の使用者との間で有期労働契約が通算5年を超えて反復更新された場合、労働者の申込みにより無期労働契約に転換される。

○ 正しい × 誤り
解説
労働契約法第18条により、同一の使用者との間で有期労働契約が通算5年を超えて反復更新された場合、労働者が申込みをすれば期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換されます。使用者は当該申込みを承諾したものとみなされます。
確認問題

使用者が労働者を解雇する場合、少なくとも14日前に予告をしなければならない。

○ 正しい × 誤り
解説
使用者が労働者を解雇する場合、少なくとも「30日前」に予告をしなければなりません(労働基準法第20条)。30日前に予告しない場合は、30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払う必要があります。予告日数と解雇予告手当は合わせて30日分以上であれば足ります。なお「14日」は試用期間中の者について解雇予告が不要となる上限の日数(14日を超えて引き続き使用すると予告が必要)であり、混同に注意が必要です。
確認問題

労働時間が8時間ちょうどの場合、使用者は少なくとも1時間の休憩を与えなければならない。

○ 正しい × 誤り
解説
労働基準法第34条は、労働時間が6時間を「超える」場合に少なくとも45分、8時間を「超える」場合に少なくとも1時間の休憩を与えることを義務づけています。8時間「ちょうど」は「8時間を超える」にあたらないため、45分の休憩で足ります。1時間の休憩が必要になるのは8時間を超える場合です。
確認問題

解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、権利の濫用として無効となる。

○ 正しい × 誤り
解説
労働契約法第16条は、解雇権濫用法理を明文化した規定であり、解雇が客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当と認められない場合は、権利を濫用したものとして無効とすると定めています。これは日本食塩製造事件(最判昭和50年4月25日)や高知放送事件(最判昭和52年1月31日)などの判例法理を条文化したものです。
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