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仮の救済制度|執行停止・仮の義務付け・仮の差止めを比較

行政事件訴訟法の仮の救済制度(執行停止・仮の義務付け・仮の差止め)を比較表で解説。各制度の要件・効力の違いと、内閣総理大臣の異議の制度を行政書士試験の出題ポイントに沿って整理します。

はじめに|仮の救済制度の重要性

行政事件訴訟は、判決が出るまでに長い時間がかかることがあります。その間に行政処分の効力が維持され続けると、原告に回復困難な損害が生じるおそれがあります。そこで行政事件訴訟法は、本案判決が出るまでの間、暫定的に原告の権利利益を保護するための仮の救済制度を設けています。

行政書士試験では、執行停止・仮の義務付け・仮の差止めの3つの仮の救済制度の要件の違いが頻出です。本記事では、各制度を比較しながら整理します。

執行不停止の原則

行政事件訴訟法の大前提として、取消訴訟の提起は処分の効力、処分の執行又は手続の続行を妨げません(第25条第1項)。これを執行不停止の原則といいます。

処分の取消しの訴えの提起は、処分の効力、処分の執行又は手続の続行を妨げない。 ― 行政事件訴訟法 第25条第1項

つまり、取消訴訟を提起しただけでは、処分は有効なまま執行されるのが原則です。この原則の例外として、仮の救済制度が用意されています。

執行停止(第25条)

制度の趣旨

執行停止は、取消訴訟の提起を前提として、処分の効力、処分の執行又は手続の続行の全部又は一部を停止する制度です。

要件

執行停止が認められるには、以下の要件が必要です。

積極要件:

  1. 取消訴訟が係属していること(本案訴訟の提起が前提)
  2. 重大な損害を避けるため緊急の必要があること(第25条第2項)

消極要件(認められない場合):

  1. 公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき(第25条第4項)
  2. 本案について理由がないとみえるとき(第25条第4項)

重大な損害の判断基準

裁判所は「重大な損害」を生ずるか否かの判断にあたり、損害の回復の困難の程度を考慮するものとし、損害の性質及び程度並びに処分の内容及び性質をも勘案するものとされています(第25条第3項)。

申立てと職権

執行停止は、原則として申立てによって行います。ただし、処分の効力の停止以外の執行停止(処分の執行の停止・手続の続行の停止)については、職権でも行うことができます。

重要ポイント: 処分の効力の停止は、申立てによってのみ可能であり、裁判所が職権で行うことはできません。

執行停止の効力

執行停止の決定があると、処分の効力、執行又は手続の続行が停止されます。ただし、処分の効力の停止は、処分の執行又は手続の続行の停止によって目的を達することができる場合には、することができません(補充性、第25条第2項ただし書)。

仮の義務付け(第37条の5第2項)

制度の趣旨

仮の義務付けは、義務付け訴訟の提起を前提として、行政庁に対し仮に一定の処分をすべきことを命じる制度です。2004年の行政事件訴訟法改正で新設されました。

要件

積極要件:

  1. 義務付け訴訟が係属していること
  2. 償うことのできない損害を避けるため緊急の必要があること
  3. 本案について理由があるとみえるとき

消極要件:

  1. 公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき

執行停止との要件の比較

項目執行停止仮の義務付け損害の要件重大な損害償うことのできない損害本案の要件理由がないとみえるときは不可(消極要件)理由があるとみえるとき(積極要件)緊急性緊急の必要緊急の必要公共の福祉重大な影響があるときは不可重大な影響があるときは不可

仮の義務付けの要件は、執行停止よりも厳格です。損害の要件が「重大な損害」ではなく「償うことのできない損害」であり、本案について「理由があるとみえる」ことが積極的に求められます。

仮の差止め(第37条の5第2項)

制度の趣旨

仮の差止めは、差止め訴訟の提起を前提として、行政庁に対し仮に一定の処分をしてはならないことを命じる制度です。仮の義務付けと同じく2004年改正で新設されました。

要件

仮の差止めの要件は、仮の義務付けと同一です。

積極要件:

  1. 差止め訴訟が係属していること
  2. 償うことのできない損害を避けるため緊急の必要があること
  3. 本案について理由があるとみえるとき

消極要件:

  1. 公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき

3つの仮の救済制度の比較

項目執行停止仮の義務付け仮の差止め前提訴訟取消訴訟義務付け訴訟差止め訴訟損害要件重大な損害償うことのできない損害償うことのできない損害本案要件理由がないとみえるときは×(消極)理由があるとみえるとき(積極)理由があるとみえるとき(積極)申立て必要(効力停止)/職権可(執行・続行停止)必要(申立てのみ)必要(申立てのみ)新設時期旧法から存在2004年改正2004年改正

内閣総理大臣の異議

執行停止に関して、行政事件訴訟法は内閣総理大臣の異議の制度を設けています(第27条)。

内閣総理大臣は、執行停止の申立てがあった場合又は執行停止の決定があった場合に、異議を述べることができます。内閣総理大臣が異議を述べたときは、裁判所は執行停止をすることができず、既にした執行停止の決定を取り消さなければなりません。

ただし、異議を述べるには理由を附さなければならないとされ、また、異議を述べたときは次の常会において国会に報告しなければなりません。

重要ポイント: 内閣総理大臣の異議の制度は、執行停止にのみ適用されます。仮の義務付け・仮の差止めには適用されません。

試験での出題ポイント

  1. 執行不停止の原則: 取消訴訟の提起だけでは処分の効力は停止しない
  2. 損害要件の違い: 執行停止は「重大な損害」、仮の義務付け・仮の差止めは「償うことのできない損害」
  3. 本案要件の違い: 執行停止は消極要件(理由がないとみえるときは×)、仮の義務付け・仮の差止めは積極要件(理由があるとみえるとき)
  4. 効力の停止は申立てのみ: 裁判所が職権でできるのは執行・続行の停止のみ
  5. 内閣総理大臣の異議: 執行停止にのみ適用。理由の附記と国会報告が必要
確認問題

取消訴訟を提起すると、処分の効力は当然に停止する。

○ 正しい × 誤り
解説
行政事件訴訟法第25条第1項は「処分の取消しの訴えの提起は、処分の効力、処分の執行又は手続の続行を妨げない」と規定しており、執行不停止の原則を定めています。処分の効力を停止するには、別途、執行停止の申立てが必要です。
確認問題

仮の義務付けが認められるためには、「重大な損害」を避けるため緊急の必要があることが要件である。

○ 正しい × 誤り
解説
仮の義務付け(及び仮の差止め)の損害要件は「償うことのできない損害」であり、執行停止の「重大な損害」よりも厳格な要件が課されています。仮の義務付け・仮の差止めは行政庁に積極的な作為・不作為を命じるものであるため、要件がより厳しく設定されています。
確認問題

内閣総理大臣の異議の制度は、執行停止だけでなく仮の義務付け・仮の差止めにも適用される。

○ 正しい × 誤り
解説
内閣総理大臣の異議の制度(行政事件訴訟法第27条)は、執行停止にのみ適用されます。仮の義務付け・仮の差止めには適用されません。

まとめ

行政事件訴訟法の仮の救済制度は、執行停止・仮の義務付け・仮の差止めの3つがあります。執行不停止の原則のもと、これらの制度は原告の権利利益を暫定的に保護する重要な役割を果たしています。

試験では、3つの制度の要件の違いが最重要です。特に損害要件(重大な損害 vs 償うことのできない損害)と本案要件(消極要件 vs 積極要件)の違いを正確に区別しましょう。また、内閣総理大臣の異議が執行停止にのみ適用されることも押さえておきましょう。

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