危険負担|改正で債権者主義が廃止された理由
危険負担の意義と改正民法での変更点を詳しく解説。旧法の債権者主義の廃止理由、新法の反対給付の履行拒絶権(536条)、解除との関係まで行政書士試験の出題ポイントを網羅的に整理します。
はじめに|危険負担は改正で大きく変わったテーマ
危険負担とは、双務契約において一方の債務が当事者双方の責めに帰することができない事由により履行不能となった場合、他方の債務がどうなるかという問題です。
2020年4月施行の改正民法により、危険負担の規定は大きく変更されました。旧法で批判が強かった債権者主義の廃止と、反対給付の当然消滅から履行拒絶権への転換が改正の柱です。
行政書士試験では、改正前後の違いが問われる出題が続いています。本記事では、改正前の問題点と改正後の新しい制度を対比しながら整理します。
危険負担の基本的な意味
「危険」とは何か
危険負担における「危険」とは、双務契約の目的物の滅失・損傷などにより、一方の債務が履行不能となるリスクのことです。このリスクを債権者と債務者のどちらが負担するかが危険負担の問題です。
具体例で理解する
AがBに建物を売却する契約を締結した後、引渡し前にその建物が落雷で滅失したとします。
- Aの債務(建物引渡債務):履行不能
- Bの債務(代金支払債務):どうなるか?
ここで、Bの代金支払債務がどうなるかが危険負担の問題です。
改正前の制度|債権者主義と債務者主義
債務者主義(旧536条1項)
旧民法536条1項は、原則として債務者主義を定めていました。すなわち、双務契約の一方の債務が当事者双方の責めに帰することができない事由で履行不能となった場合、他方の債務も当然に消滅するとされていました。
先ほどの例でいえば、Aの建物引渡債務が履行不能になった場合、Bの代金支払債務も当然に消滅します。建物滅失のリスクは売主A(債務者)が負担するという結論です。
債権者主義(旧534条)
しかし、旧法には大きな例外がありました。旧民法534条は、特定物に関する物権の設定又は移転を双務契約の目的とした場合、その物が当事者双方の責めに帰することができない事由で滅失又は損傷した場合、その滅失又は損傷は債権者の負担に帰すると規定していました。
これを債権者主義といいます。先ほどの例でいえば、建物は特定物なので、建物が滅失しても買主B(債権者)は代金を支払わなければならないという結論になります。
債権者主義への批判
債権者主義は、以下の理由から強く批判されていました。
- 結論の不当性: まだ引渡しも受けていない物が滅失したのに代金を支払わなければならないのは不公平
- 理論的根拠の薄弱さ: 債権者主義は物権変動の意思主義(契約時に所有権移転)に基づくとされたが、所有権移転のタイミングは当事者の合意で変えられる
- 判例の不適用: 実務上、債権者主義の規定はほとんど適用されず、契約解釈や特約で回避されていた
改正後の制度|536条の履行拒絶権
債権者主義の廃止
改正民法では、旧534条(特定物の債権者主義)と旧535条(停止条件付双務契約の危険負担)が削除されました。これにより、批判の強かった債権者主義は廃止されました。
反対給付の履行拒絶権(新536条)
改正後の民法536条は以下のように規定しています。
当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる。 ― 民法 第536条第1項
改正前は「反対給付の債務が当然に消滅する」とされていたのが、改正後は「反対給付の履行を拒むことができる」に変わりました。
「当然消滅」から「履行拒絶権」への変更理由
改正前の「当然消滅」構成には問題がありました。
- 解除との矛盾: 旧法では、債務者に帰責事由がない場合は解除できなかった。そこで危険負担により反対給付が当然消滅するとして処理されていた
- 改正後は無過失解除が可能に: 改正民法では、債務者の帰責事由がなくても債権者は解除できるようになった(第541条・第542条)
- 制度の調整: 解除と危険負担の両方で反対給付が消滅すると制度が重複するため、危険負担は「履行拒絶権」にとどめ、確定的に法律関係を解消するには解除によるものとした
536条2項(債務者の帰責事由がある場合)
債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。この場合において、債務者は、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。 ― 民法 第536条第2項
債権者の帰責事由により履行不能となった場合は、債権者は反対給付の履行を拒めません。つまり、債権者は代金を支払わなければなりません。ただし、債務者が自己の債務を免れたことで得た利益(他に転売して得た利益など)は償還する必要があります。
改正前後の比較表
危険負担と解除の関係
改正後の制度的な位置づけ
改正後は、以下のように危険負担と解除が役割分担をしています。
- 危険負担(536条): 反対給付の履行拒絶権を付与する(暫定的な自己防衛手段)
- 解除(542条): 契約関係を確定的に解消する
債権者は、536条の履行拒絶権を行使して反対給付を拒みつつ、542条に基づき解除することで契約関係を確定的に終了させることができます。
催告解除と無催告解除
改正後は、履行不能の場合、催告なしに解除できます(第542条第1項第1号)。
次に掲げる場合には、債権者は、前条の催告をすることなく、直ちに契約の解除をすることができる。一 債務の全部の履行が不能であるとき ― 民法 第542条第1項第1号
危険負担と解除の使い分け
売買契約における危険の移転時期
引渡し時に危険が移転(567条)
改正民法は、売買契約における危険負担について特則を設けています。
売主が買主に目的物(売買の目的として特定したものに限る。以下この条において同じ。)を引き渡した場合において、その引渡しがあった時以後にその目的物が当事者双方の責めに帰することができない事由によって滅失し、又は損傷したときは、買主は、その滅失又は損傷を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。 ― 民法 第567条第1項
つまり、売買の目的物が引き渡された後に滅失・損傷した場合、そのリスクは買主が負担します。引渡し前は536条の原則どおり買主(債権者)は履行を拒絶できます。
受領遅滞中の危険移転(567条2項)
買主が受領を拒んだり受領できない場合(受領遅滞中)に、当事者双方の帰責事由なく目的物が滅失・損傷した場合も、買主がそのリスクを負担します。
試験での出題ポイント
- 改正で債権者主義(旧534条)が廃止された
- 改正後は「当然消滅」ではなく「履行拒絶権」
- 債権者の帰責事由がある場合は履行拒絶不可
- 解除との関係: 危険負担は暫定的、解除は確定的
- 売買の危険移転時期: 引渡し時(567条)
改正民法では、当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務が履行不能となった場合、反対給付の債務は当然に消滅する。
改正民法では、特定物に関する物権の設定・移転を目的とする双務契約において、目的物が滅失した場合の危険を債権者が負担する(債権者主義)。
債権者の責めに帰すべき事由によって債務が履行不能となった場合、債権者は反対給付の履行を拒むことができない。
まとめ
危険負担は、改正民法で最も大きく変わったテーマの一つです。
- 改正前: 債権者主義(旧534条)あり、反対給付の当然消滅
- 改正後: 債権者主義の廃止、反対給付の履行拒絶権(536条)
- 解除との関係: 危険負担は暫定的な防御手段、確定的処理は解除で
- 売買の特則: 引渡し時に危険が移転(567条)
改正前後の違いは試験で必ず問われます。「当然消滅→履行拒絶権」「債権者主義の廃止」という2つの変更点を正確に押さえましょう。
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