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国家賠償法の全体像|1条と2条の横断整理

国家賠償法の全体構造を1条(公権力の行使)と2条(公の営造物の設置管理)で横断比較。求償権の違い、相互保証主義、費用負担者の整理まで行政書士試験の頻出論点を網羅的に解説します。

はじめに|国家賠償法は全6条の小さな法律

国家賠償法は、わずか全6条の短い法律ですが、行政書士試験では毎年のように出題される最重要テーマの一つです。公権力の行使に起因する損害を対象とする1条責任と、公の営造物の設置・管理の瑕疵に起因する損害を対象とする2条責任の2本柱で構成されています。

試験では、1条と2条の要件を混同させるひっかけ問題や、求償権の違いを問う出題が定番です。本記事では、1条と2条を横断的に比較し、国家賠償法の全体像を正確に把握できるように整理します。

国家賠償法の全体構造

憲法17条を受けた具体化立法

国家賠償法は、憲法17条の規定を具体化した法律です。

何人も、公務員の不法行為により、損害を受けたときは、法律の定めるところにより、国又は公共団体に、その賠償を求めることができる。 ― 日本国憲法 第17条

明治憲法下では「国家無答責の法理」により、国の公権力の行使について損害賠償責任が認められていませんでした。日本国憲法はこの考え方を否定し、国家賠償法の制定によって具体的な請求権の根拠が整備されました。

国家賠償法の条文構成

国家賠償法は以下の6条で構成されています。

  • 第1条: 公権力の行使に基づく損害賠償責任
  • 第2条: 公の営造物の設置・管理の瑕疵に基づく損害賠償責任
  • 第3条: 費用負担者の賠償責任
  • 第4条: 民法の適用
  • 第5条: 他の法律の適用(失火責任法など)
  • 第6条: 相互保証主義

1条責任の要件|公権力の行使型

国家賠償法1条1項は、公務員の公権力の行使に起因する損害について、国又は公共団体の賠償責任を定めています。

国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。 ― 国家賠償法 第1条第1項

1条責任の5要件

1条責任が成立するには、以下の5つの要件が必要です。

  1. 「国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員」の行為であること
  2. 「その職務を行うについて」の行為であること(職務関連性)
  3. 「故意又は過失」があること
  4. 「違法に」行われたこと
  5. 「他人に損害を加えた」こと(損害の発生・因果関係)

「公権力の行使」の広い解釈

判例は「公権力の行使」を広く解釈しています。純粋な私経済作用と国家賠償法2条の対象となる営造物の設置・管理を除くすべての活動がこれに含まれるとされています。

  • 行政処分(許可、命令など)
  • 権力的事実行為(強制執行、即時強制など)
  • 非権力的活動(行政指導、公立学校での教育活動など)
  • 立法行為・司法行為(例外的に違法となる場合)

「職務を行うについて」の外形標準説

判例(最判昭和31年11月30日)は、職務関連性の判断基準として外形標準説を採用しています。客観的に職務行為の外形を備える行為であれば足り、公務員の主観的意図は問わないとされます。たとえば、非番の警察官が制服を着て犯罪行為を行った場合でも、外形上は職務行為と認められる場合があります。

過失と違法性の関係

1条責任では過失違法性が独立した要件として規定されています。もっとも、学説では「違法性」の判断に公務員の注意義務違反(過失)を取り込んで一元的に判断する見解(職務行為基準説)が有力であり、判例も実質的にこの立場に近い判断を行っています。

2条責任の要件|営造物の設置管理型

国家賠償法2条1項は、公の営造物の設置又は管理に瑕疵がある場合の損害賠償責任を定めています。

道路、河川その他の公の営造物の設置又は管理に瑕疵があつたために他人に損害を生じたときは、国又は公共団体は、これを賠償する責に任ずる。 ― 国家賠償法 第2条第1項

2条責任の3要件

  1. 「公の営造物」であること
  2. 「設置又は管理に瑕疵」があること
  3. 「他人に損害を生じた」こと(損害の発生・因果関係)

「公の営造物」の意味

公の営造物とは、国又は公共団体が公の目的に供している有体物をいいます。不動産に限らず動産も含まれます。

  • 該当例: 道路、河川、公園、学校の施設、公用車、信号機
  • 非該当例: 行政サービスなどの無体物

所有権の有無は問いません。私人所有の物であっても、国又は公共団体が事実上管理している場合は「公の営造物」に該当します。

「設置又は管理の瑕疵」の意味

「瑕疵」とは、営造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいいます(最判昭和45年8月20日・高知落石事件)。

国家賠償法2条1項の営造物の設置又は管理の瑕疵とは、営造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいい、これに基づく国及び公共団体の賠償責任については、その過失の存在を必要としないと解すべきである。 ― 最判昭和45年8月20日

この判示のとおり、2条責任は無過失責任です。設置者・管理者に故意・過失がなくても、客観的に安全性を欠いていれば責任が成立します。

機能的瑕疵

営造物自体の物理的な欠陥だけでなく、営造物の利用に関連する危険も瑕疵に含まれます。

  • 道路脇のがけ崩れの危険(最判昭和46年4月23日)
  • 空港の騒音被害(最大判昭和56年12月16日・大阪空港訴訟)
  • 道路の工事標識の不備

河川と道路の瑕疵の判断基準の違い

判例は、道路河川で瑕疵の判断基準を区別しています。

  • 道路: 人工公物であり、設置者が安全性を完全にコントロールできるため、比較的厳格に瑕疵が認定される
  • 河川: 自然公物であり、本来的に危険を内包しているため、財政的・技術的・社会的制約の下で過渡的安全性をもって足りるとされる(最判昭和59年1月26日・大東水害訴訟)

1条と2条の比較表|横断整理

ここで、1条責任と2条責任の要件を比較表で整理します。

比較項目1条(公権力の行使)2条(営造物の設置管理)責任の対象公務員の行為公の営造物の物的欠陥故意・過失必要(過失責任)不要(無過失責任)違法性必要不要(瑕疵で判断)「瑕疵」の要件なし通常有すべき安全性の欠如公務員の特定不要(判例)問題とならない求償の相手公務員個人設置・管理費用負担者又は原因者求償の要件故意又は重過失他に損害原因の責任者あり

公務員個人への直接請求の可否

1条責任について、被害者が加害公務員個人に対して直接損害賠償を請求できるかが問題となります。判例(最判昭和30年4月19日)は、公務員個人は被害者に対して直接の責任を負わないとしています。これは国又は公共団体が代位的に責任を負う制度であるためです。

求償権の違い|1条と2条で異なるポイント

1条の求償権(第1条第2項)

前項の場合において、公務員に故意又は重大な過失があつたときは、国又は公共団体は、その公務員に対して求償権を有する。 ― 国家賠償法 第1条第2項

1条の求償権は、公務員に故意又は重大な過失があった場合にのみ認められます。軽過失の場合、国又は公共団体は公務員個人に求償できません。これは、公務員が萎縮して職務を行えなくなることを防ぐ趣旨です。

2条の求償権(第2条第2項)

前項の規定により損害を賠償した者は、他に損害の原因について責に任ずべき者があるときは、これに対して求償権を有する。 ― 国家賠償法 第2条第2項

2条の求償権は、損害の原因について「責に任ずべき者」がある場合に認められます。たとえば、道路の瑕疵について施工業者に原因がある場合、賠償した国又は公共団体はその業者に対して求償できます。2条の求償権には、1条のような「故意又は重大な過失」の限定はありません。

求償権の比較まとめ

項目1条の求償権2条の求償権求償の相手加害公務員個人他の損害原因者(施工業者等)求償の要件故意又は重大な過失他に責任者がいること軽過失の場合求償不可限定なし

費用負担者の責任と相互保証主義

第3条|費用負担者の責任

公の営造物の設置・管理者と費用負担者が異なる場合、費用負担者も賠償責任を負います。

前2条の規定によつて国又は公共団体が損害を賠償する責に任ずる場合において、公務員の選任若しくは監督又は公の営造物の設置若しくは管理に当る者と公務員の俸給、給与その他の費用又は公の営造物の設置若しくは管理の費用を負担する者とが異なるときは、費用を負担する者もまた、その損害を賠償する責に任ずる。 ― 国家賠償法 第3条第1項

たとえば、国道の管理を都道府県が行っている場合、管理者である都道府県だけでなく、費用を負担している国も損害賠償責任を負います。被害者はいずれに対しても請求可能です。

第4条|民法の適用

国家賠償法に規定がない事項については、民法の規定が適用されます。たとえば、消滅時効や損害賠償の範囲については民法の規定に従います。

第5条|他の法律の適用

国又は公共団体の損害賠償責任について、国家賠償法以外に民法以外の特別な法律に別段の定めがある場合は、その法律の規定によります。失火責任法の適用が問題となる場面が試験で出題されます。

第6条|相互保証主義

この法律は、外国人が被害者である場合には、相互の保証があるときに限り、これを適用する。 ― 国家賠償法 第6条

国家賠償法は、外国人にも適用されますが、相互保証主義が採られています。すなわち、当該外国人の本国が日本人に対して同様の賠償制度を設けている場合に限り、国家賠償法が適用されます。

相互保証が認められない国の国民は、国家賠償法に基づく請求はできませんが、民法の不法行為規定(民法709条等)に基づく請求は可能と解されています。

重要判例の整理

1条関連の重要判例

判例論点結論最判昭和30年4月19日公務員個人の責任個人は直接責任を負わない最判昭和31年11月30日職務関連性の判断基準外形標準説を採用最判昭和57年4月1日(芦別事件)パトカー追跡と第三者損害追跡行為の違法性を個別判断最判平成17年9月14日在外邦人選挙権訴訟立法不作為の違法を認定

2条関連の重要判例

判例論点結論最判昭和45年8月20日(高知落石事件)瑕疵の意義・無過失責任通常有すべき安全性の欠如最判昭和53年7月4日道路管理瑕疵と不可抗力不可抗力は免責事由となりうる最判昭和59年1月26日(大東水害訴訟)河川管理の瑕疵過渡的安全性で足りる最大判昭和56年12月16日(大阪空港訴訟)営造物の機能的瑕疵騒音被害も瑕疵に含まれる

試験での出題ポイント

国家賠償法は、以下のポイントが特に問われます。

  • 1条と2条の過失要件の違い: 1条は過失責任、2条は無過失責任
  • 求償権の要件の違い: 1条は「故意又は重大な過失」、2条は「他に責任者あり」
  • 公権力の行使の範囲: 判例は広く解釈
  • 営造物の瑕疵の判断基準: 道路と河川で異なる
  • 相互保証主義の適用: 外国人への適用条件
確認問題

国家賠償法1条に基づく賠償責任は無過失責任であり、公務員に故意・過失がなくても国又は公共団体は賠償責任を負う。

○ 正しい × 誤り
解説
1条責任は過失責任です。公務員に「故意又は過失」があることが要件です。無過失責任なのは2条責任(公の営造物の設置・管理の瑕疵)です。1条と2条の過失要件の違いは試験頻出です。
確認問題

国家賠償法1条に基づき国が賠償した場合、公務員に軽過失しかなくても、国はその公務員に対して求償権を行使できる。

○ 正しい × 誤り
解説
1条2項により、求償権は公務員に「故意又は重大な過失」があった場合にのみ認められます。軽過失の場合は求償できません。公務員の萎縮を防ぐ趣旨です。
確認問題

国家賠償法は外国人にも適用されるが、その適用は相互の保証があるときに限られる。

○ 正しい × 誤り
解説
国家賠償法6条は「この法律は、外国人が被害者である場合には、相互の保証があるときに限り、これを適用する」と定めています。相互保証主義が採られています。

まとめ

国家賠償法は全6条の短い法律ですが、1条と2条を中心に多くの論点を含んでいます。

  • 1条責任: 公権力の行使に関する過失責任。求償は故意又は重大な過失の場合のみ
  • 2条責任: 営造物の設置管理に関する無過失責任。求償は他に責任者がいる場合
  • 3条: 費用負担者も賠償責任を負う
  • 6条: 外国人には相互保証主義

1条と2条の横断比較(過失の要否、求償権の要件)は試験で最も問われるポイントです。比較表を使って正確に整理しておきましょう。

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