婚姻と離婚の法律関係|要件・効果を体系整理
婚姻の実質的要件・形式的要件から婚姻の効果(氏・同居義務・財産関係)、離婚の種類(協議離婚・調停離婚・裁判離婚)、財産分与まで体系的に解説。行政書士試験の家族法対策として、条文と判例を整理します。
はじめに|家族法は得点を伸ばせる分野
家族法(親族法・相続法)は、行政書士試験の民法で毎年出題される重要分野です。特に婚姻と離婚は、要件・効果が条文で明確に規定されているため、正確に覚えれば確実に得点できます。
本記事では、婚姻の成立要件から婚姻の効果、離婚の種類と財産分与まで、試験に必要な知識を体系的に整理します。
家族法分野は、財産法(総則・物権・債権)に比べて条文数が少なく、論点も限られています。そのうえ、婚姻・離婚・親子・相続といった日常生活に直結するテーマが多いため、イメージがわきやすく学習しやすいのが特徴です。一方で、近年は2022年・2024年と立て続けに重要な改正があり、改正前後の知識が混在しやすい「落とし穴」が増えています。本記事では、現行法を基準に整理しつつ、改正前との違いを明示することで、ひっかけ問題に強くなることを狙います。
行政書士試験における家族法の出題傾向としては、婚姻の要件・無効・取消し、夫婦の財産関係(特に日常家事債務)、離婚原因と有責配偶者の離婚請求、財産分与の性質といった論点が繰り返し問われています。条文の文言そのものが正誤の決め手になる問題が多いため、「数字(年齢・期間・人数)」と「条文の主語・要件」を正確に押さえることが得点の近道です。
婚姻の成立要件
婚姻が有効に成立するためには、実質的要件と形式的要件の両方を満たす必要があります。婚姻は身分行為であり、当事者の自由な意思(婚姻意思)を基礎とする点で、財産上の契約とは性質が異なります。そのため、代理にはなじまず、また条件・期限を付すこともできません。
実質的要件(積極的要件)
婚姻の実質的要件とは、婚姻が有効であるための実体的な条件です。
- 婚姻意思の合致: 当事者間に社会通念上の夫婦関係を創設する意思が必要。形式的に婚姻届を出しただけでは足りない(実質的意思説、判例の立場)
- 婚姻適齢: 婚姻は18歳にならなければすることができない(民法第731条)。2022年4月の改正で男女とも18歳に統一された
婚姻意思をめぐる判例
婚姻意思については、形式的意思説(婚姻の届出をする意思があれば足りる)と実質的意思説(社会通念上の夫婦関係を創設する意思が必要)が対立しますが、判例は実質的意思説に立っています。たとえば、子に嫡出子の身分を取得させる便宜のためだけにされた、いわゆる仮装婚姻の届出について、判例は次のように判示しました。
婚姻が真に社会観念上夫婦であると認められる関係の設定を欲する効果意思を欠く場合には、たとえ婚姻の届出自体について当事者間に意思の合致があり、その届出に基づいて戸籍上婚姻の記載がされたとしても、その婚姻は…無効である。
― 最判昭和44年10月31日
この判例は、婚姻届という形式が整っていても、実質的な婚姻意思がなければ婚姻は無効になることを示した重要判例です。なお、婚姻意思は届出の時点で存在することが必要とされますが、本人が婚姻届の作成時に意思を有し、その後届出の受理前に意識を失った場合であっても、受理の時点まで翻意したと認められる特段の事情がない限り、届出受理によって婚姻は有効に成立するとされています(最判昭和44年4月3日)。
実質的要件(消極的要件=婚姻障害)
以下に該当する場合は婚姻できません。これらは婚姻の成立を妨げる事由であり、「婚姻障害」と総称されます。
- 重婚の禁止: 配偶者のある者は、重ねて婚姻をすることができない(民法第732条)
- 再婚禁止期間: 2024年4月の民法改正により、女性の再婚禁止期間(旧733条)は廃止された
- 近親者間の婚姻禁止: 直系血族又は三親等内の傍系血族の間では婚姻できない(民法第734条第1項)。養子と養方の傍系血族との間でもこの制限は適用される
- 直系姻族間の婚姻禁止: 直系姻族の間では婚姻できない。姻族関係が終了した後も同様(民法第735条)
- 養親子等の間の婚姻禁止: 養子、その配偶者、養子の直系卑属又はその配偶者と養親又はその直系尊属との間では、離縁後でも婚姻できない(民法第736条)
婚姻障害の整理表
各婚姻障害について、禁止の範囲と関係終了後の扱いを整理すると次のようになります。
近親婚の禁止のうち、直系血族間の禁止は血縁の有無を問わず、養子縁組による法定血族にも及ぶ点に注意が必要です。一方、傍系血族については「三親等内」に限られるため、四親等(いとこ同士など)の婚姻は禁止されていません。試験では「いとこ同士は婚姻できる」という結論がよく問われます。
なお、2024年4月施行の改正により女性の再婚禁止期間(旧733条、原則100日)は廃止されました。これは、改正後は嫡出推定のルール(母が婚姻中に懐胎した子は夫の子と推定し、婚姻前に懐胎し婚姻後に生まれた子も夫の子と推定する等)が整備され、再婚後に生まれた子について父性の重複が生じにくくなったことによります。改正前は「女性は前婚の解消・取消しの日から100日を経過した後でなければ再婚できない」とされていた点との違いを明確に押さえておきましょう。
形式的要件(届出)
婚姻は、戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、その効力を生じます(民法第739条第1項)。届出は、当事者双方及び成年の証人2人以上が署名した書面で行います(同条第2項)。
婚姻届が受理された時点で婚姻が成立します。届出がない限り、たとえ事実上の夫婦関係があっても法律上の婚姻は成立しません(法律婚主義)。
届出の趣旨と内縁
日本の民法は、届出を婚姻の成立要件とする法律婚主義(届出婚主義)を採用しています。これは、婚姻関係を画一的・明確に公示し、第三者の取引の安全や身分関係の安定を図る趣旨です。
これに対し、婚姻の意思と共同生活の実体はあるが届出を欠く関係を「内縁」といいます。内縁は法律上の婚姻ではないため、夫婦同氏や配偶者相続権といった効果は生じませんが、判例は内縁を「婚姻に準ずる関係」と捉え、婚姻に関する規定を可能な限り準用する立場をとっています。たとえば、同居・協力・扶助義務、婚姻費用の分担、貞操義務などは内縁にも認められ、正当な理由なく内縁関係を破棄した者は不法行為責任を負うとされています(最判昭和33年4月11日)。一方、相続については準用が否定されており、内縁配偶者には相続権がありません。この「準用される効果/されない効果」の区別は出題ポイントです。
婚姻の無効と取消し
婚姻に瑕疵がある場合、その効果は「無効」と「取消し」に分かれます。無効は当然に効力を生じない(あるいは効力を否定できる)のに対し、取消しは取消権者が取消しを主張するまでは有効として扱われる点が決定的に異なります。
婚姻の無効(742条)
婚姻は、以下の場合に無効となります。
- 婚姻意思を欠く場合: 人違いその他の事由によって当事者間に婚姻をする意思がないとき
- 届出を欠く場合: 当事者が婚姻の届出をしないとき(ただし、届出が形式的要件を欠くにとどまるときは無効としない)
婚姻意思を欠く場合とは、前述の仮装婚姻のように、社会通念上の夫婦関係を創設する意思がないケースを指します。なお、証人を欠く届出など形式に不備があっても、いったん受理されてしまえば、その効力は妨げられません(739条2項の要件は受理の要件にすぎず、有効要件ではないと解されています)。つまり「成年の証人2人」が欠けていても受理後の婚姻は無効にならない、という点はひっかけとして狙われやすい部分です。
婚姻の取消し(743条〜749条)
婚姻障害に違反した婚姻は、取り消すことができます。婚姻の取消しは、将来に向かってのみ効力を生じます(民法第748条第1項)。遡及効はありません。
- 不適齢婚の取消し: 適齢に達した後は、本人のみが取消可能
- 重婚の取消し: 当事者、その親族、検察官が取消請求可能
- 詐欺・強迫による婚姻: 詐欺・強迫を知った後3か月以内に取消し
取消しの効果が遡及しない理由
財産行為の取消しは原則として遡及効を有しますが(民法121条)、婚姻の取消しはこれと異なり将来に向かってのみ効力を生じます(748条1項)。これは、婚姻という継続的な身分関係を遡って覆すと、その間に生まれた子の地位や夫婦間で形成された法律関係が著しく不安定になるためです。したがって、取消し前に生まれた子は嫡出子の身分を失いません。
財産関係についても配慮があり、婚姻の時に取消原因を知らなかった当事者(善意の当事者)は、婚姻によって得た利益のうち現に利益を受けている限度で返還すれば足ります(748条2項)。これに対し、取消原因を知っていた当事者(悪意の当事者)は、得た利益の全部を返還しなければならず、相手方が善意であったときは損害賠償の責任も負います(748条3項)。
婚姻取消しの取消権者・期間の整理表
詐欺・強迫による婚姻の取消権者が「本人のみ」である点(親族や検察官は請求できない)、期間が「3か月」である点は頻出です。財産行為における詐欺・強迫の取消しが追認できる時から5年(126条)であることと混同しないよう注意しましょう。
婚姻の効果
婚姻が成立すると、夫婦間および夫婦と第三者との間にさまざまな法律効果が生じます。これらは大きく「身分上の効果」と「財産上の効果」に分けて整理すると理解しやすくなります。
氏の変更
夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称します(民法第750条)。現行法では夫婦同氏制が採られています。
夫婦同氏制(750条)の合憲性については争いがありますが、最高裁は夫婦同氏を定める規定を合憲と判断しています(最大判平成27年12月16日、最大決令和3年6月23日)。試験では「選択的夫婦別氏制は現行法上認められていない」「夫婦同氏制を合憲とした判例がある」という点が問われ得ます。
同居・協力・扶助義務
夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。 ― 民法 第752条
夫婦には、同居義務・協力義務・扶助義務が課されます。正当な理由のない別居は、裁判離婚の原因となり得ます。
これらの義務のうち扶助義務は、相手方に自己と同程度の生活を保障する「生活保持義務」と解されており、単に最低限の生活を援助すれば足りる「生活扶助義務」(親族間の扶養義務)よりも程度が高いとされます。なお、同居義務は人格に深く関わるため、同居を命じる審判が出ても、その強制執行(直接強制・間接強制)はできないと解されています。
成年擬制
2022年4月の民法改正により成年年齢が18歳に引き下げられ、婚姻適齢も18歳に統一されたため、未成年者の婚姻がなくなり、成年擬制の規定(旧753条)は削除されました。
かつては未成年者が婚姻すると成年に達したものとみなされ(成年擬制)、単独で有効に契約を締結できるようになっていました。しかし成年年齢が18歳に引き下げられ、婚姻も18歳からとなった結果、「未成年で婚姻する」という事態が生じなくなったため、成年擬制の制度自体が不要となり削除されました。古い問題集には成年擬制の記述が残っていることがあるため、現行法では存在しない制度である点を確認しておきましょう。
夫婦間の契約取消権
夫婦間でした契約は、婚姻中、いつでも、夫婦の一方からこれを取り消すことができます(民法第754条)。ただし、判例は婚姻関係が破綻した後はこの規定の適用はないとしています(最判昭和33年3月6日)。
この規定の趣旨は、夫婦間の契約は愛情や情義に基づいてなされることが多く、これに法的拘束力を与えて訴訟で履行を強制させるのは適切でない、という点にあります。もっとも、婚姻関係が破綻して情義に基づく履行が期待できなくなった後にまでこの取消権を認めるのは、規定の趣旨に反します。そこで判例は、夫婦関係が円満を欠くに至った後にされた贈与等については754条による取消しを認めない、としています。「実質的に破綻している場合には取り消せない」という結論を押さえましょう。
夫婦間の財産関係
夫婦財産契約(755条〜759条)
夫婦が婚姻届出前に財産に関する契約を締結した場合、その契約に従います。登記をしないと夫婦の承継人及び第三者に対抗できません(民法第756条)。
夫婦財産契約は、婚姻の届出前に締結しなければならず、婚姻の届出後はその内容を原則として変更できません(758条1項)。また、第三者に対抗するには婚姻の届出までに登記をする必要があります。実際にはこの制度はほとんど利用されておらず、大多数の夫婦には次の法定財産制が適用されます。
法定財産制
夫婦財産契約がない場合は、法定財産制が適用されます。
- 婚姻費用の分担: 夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する(民法第760条)
- 日常家事債務の連帯責任: 夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは、他の一方は、これによって生じた債務について連帯してその責任を負う(民法第761条)
- 夫婦間の帰属不明財産: 夫婦のいずれに属するか明らかでない財産は、共有に属するものと推定する(民法第762条第2項)
夫婦別産制と帰属不明財産
日本の法定財産制は、夫婦の財産を各自の特有財産(自己の名で得た財産)とする夫婦別産制を基本としています(762条1項)。婚姻前から有する財産や、婚姻中に自己の名で得た財産は、その者の単独の所有となります。これに対し、いずれに属するか明らかでない財産は共有と「推定」されるにとどまります(762条2項)。あくまで推定であり、反証によって覆すことができる点が重要です。
専業主婦(夫)が家事労働によって他方配偶者の財産形成に寄与した場合の扱いについては、最高裁は762条1項の夫婦別産制を合憲としたうえで、内助の功は離婚時の財産分与(768条)や相続によって清算されるべきものと位置づけています(最大判昭和36年9月6日)。
日常家事債務と表見代理の関係
日常家事債務の連帯責任(761条)に関連して、夫婦の一方が日常家事の範囲を超える行為(例:他方名義の不動産を勝手に処分する行為)をした場合に、相手方となった第三者をどう保護するかが問題となります。判例は、761条は夫婦相互に日常家事に関する法律行為について代理権を相互に有することをも規定しているとしたうえで、日常家事の範囲を超える行為については、その行為が日常家事に関する法律行為の範囲内であると信ずるにつき正当の理由のある第三者に限り、110条(権限外の行為の表見代理)の趣旨を類推適用して保護されるとしました。
夫婦の一方が右のような日常の家事に関する代理権の範囲を越えて第三者と法律行為をした場合においては、その代理権の存在を基礎として一般的に民法110条所定の表見代理の成立を肯定することは…相当でなく、…その第三者においてその行為が当該夫婦の日常の家事に関する法律行為の範囲内に属すると信ずるにつき正当の理由のあるときにかぎり、民法110条の趣旨を類推適用して、その第三者の保護をはかれば足りる。
― 最判昭和44年12月18日
この判例は、110条をそのまま「直接適用」するのではなく、あくまで「日常家事の範囲内と信じる正当の理由」を要件とする限定的な「趣旨の類推適用」によって第三者を保護する、という枠組みを示した点に意義があります。「110条をそのまま適用する」という選択肢は誤りとなる点に注意が必要です。
離婚の種類
離婚には大きく分けて、当事者の合意による協議離婚と、裁判所が関与する離婚(調停・審判・裁判)があります。日本では協議離婚が大多数を占めますが、合意が調わない場合には裁判所の手続を経ることになります。
協議離婚(763条〜769条)
協議離婚とは、夫婦の協議によって離婚する方法です。日本の離婚の約9割が協議離婚です。
- 要件: 夫婦の離婚意思の合致+戸籍法に基づく届出
- 届出: 婚姻届と同様、成年の証人2人以上の署名が必要
- 離婚届の不受理申出: 協議離婚の意思がない場合、不受理申出制度により離婚届の受理を防止できる
協議離婚は、夫婦の合意と届出のみで成立し、裁判所の関与を要しません。離婚意思については、判例は婚姻意思のような実質的意思までは要求せず、届出をする意思(届出意思)があれば足りるとする傾向にあります(たとえば、生活保護受給など方便のための離婚届であっても、当事者に離婚届を出す意思があれば離婚は有効とされた事例があります)。婚姻意思(実質的意思説)と離婚意思の判断基準が異なる点は、比較問題として狙われます。
未成年の子がいる場合には、協議離婚の際に親権者を父母のどちらかに定めなければならず、これを定めなければ離婚届は受理されません(819条1項)。
調停離婚
離婚について当事者間で協議が調わないときは、家庭裁判所に離婚の調停を申し立てることができます。裁判離婚を求める場合も、まず調停を経なければなりません(調停前置主義、家事事件手続法第257条)。
調停前置主義とは、離婚など一定の家事事件について、訴えを提起する前にまず調停を申し立てなければならないとする原則です。家庭内の紛争は、当事者の話し合いによる円満な解決が望ましいという考えに基づきます。調停を経ずにいきなり訴えを提起した場合、裁判所は職権で事件を調停に付するのが原則です。
審判離婚
調停が成立しない場合に、家庭裁判所が相当と認めるときに職権で審判を下す離婚です(家事事件手続法第284条)。実務上はあまり多くありません。
審判離婚は、調停は成立しないものの、双方の主張の隔たりがわずかである場合などに、家庭裁判所が一切の事情を考慮して職権で離婚を成立させる制度です。ただし、当事者が審判の告知を受けた日から2週間以内に異議を申し立てると、審判は効力を失うため、実務での利用は限定的です。
裁判離婚(770条)
裁判離婚は、法定の離婚原因がある場合に裁判所の判決によって離婚する方法です。
夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。 ― 民法 第770条第1項
法定離婚原因(770条1項各号)は以下の5つです。
- 不貞行為: 配偶者に不貞な行為があったとき
- 悪意の遺棄: 配偶者から悪意で遺棄されたとき
- 3年以上の生死不明: 配偶者の生死が3年以上明らかでないとき
- 回復の見込みのない強度の精神病: 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき
- 婚姻を継続し難い重大な事由: その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき
裁判所は、1号から4号の事由があっても、一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは、離婚の請求を棄却することができます(民法第770条第2項、裁量棄却)。
法定離婚原因の整理と注意点
1号から4号は具体的・個別的な離婚原因(具体的離婚原因)、5号は抽象的・一般的な離婚原因(抽象的離婚原因)と位置づけられます。1号から4号に該当しなくても、5号の「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当すれば離婚が認められ得ます。実務上は、性格の不一致、長期間の別居、暴力(DV)、過度の宗教活動などが5号に基づく離婚原因として主張されることが多くなっています。
「不貞行為」とは、配偶者ある者が自由な意思に基づいて配偶者以外の者と性的関係を結ぶことをいい、相手方の同意の有無や継続性は問われません。「悪意の遺棄」とは、正当な理由なく同居・協力・扶助義務を履行しないことをいい、単なる別居とは区別されます。なお、3号の生死不明は「3年以上」、財産分与の請求期間(2年)など、各種の「期間」は混同しやすいため正確に区別しましょう。
有責配偶者からの離婚請求
判例(最大判昭和62年9月2日)は、有責配偶者からの離婚請求について、以下の3要件を満たせば認められるとしました。
- 別居期間が両当事者の年齢及び同居期間との対比において相当の長期間に及ぶこと
- 夫婦の間に未成熟の子が存在しないこと
- 離婚により相手方配偶者が精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態に置かれないこと
破綻主義への転換とその意義
かつての判例は、自ら婚姻関係を破綻させた有責配偶者(たとえば不貞をはたらいて家を出た者)からの離婚請求を、信義則に反するとして一律に認めない立場(消極的破綻主義、「踏んだり蹴ったり」判決として知られる最判昭和27年2月19日)をとっていました。しかし、昭和62年の大法廷判決は、婚姻関係が実体を失って形骸化している場合にまで婚姻の継続を強制するのは妥当でないとして、一定の要件のもとで有責配偶者からの請求も認める方向(積極的破綻主義への接近)へ転換しました。
有責配偶者からされた離婚請求であつても、夫婦の別居が両当事者の年齢及び同居期間との対比において相当の長期間に及び、その間に未成熟の子が存在しない場合には、相手方配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情の認められない限り、…離婚請求は…許される。
― 最大判昭和62年9月2日
この判例は、有責配偶者からの離婚請求も信義則に照らして容認され得ることを示した点に意義があります。ただし「相当の長期間の別居」「未成熟子の不存在」「相手方が苛酷な状態に置かれないこと」という3要素を総合考慮する枠組みであり、これらは絶対的な要件というより信義則判断の考慮要素である点に注意が必要です。
財産分与(768条)
意義
離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができます(民法第768条第1項)。
財産分与は、離婚に伴う財産的な後始末の制度であり、協議で定まらないときは家庭裁判所が当事者双方の協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか、その額・方法を定めます(768条3項)。
財産分与の性質
財産分与には、以下の3つの要素が含まれるとされています。
- 清算的要素: 婚姻中に夫婦が協力して形成した財産の清算
- 扶養的要素: 離婚後の一方の配偶者の生活保障
- 慰謝料的要素: 離婚に伴う精神的苦痛の慰謝(判例は含み得るとする)
これら3要素のうち中心となるのは清算的要素です。これは、夫婦別産制のもとでは婚姻中に協力して築いた財産が名義上一方に偏ることがあるため、離婚に際してその実質的な共同財産を清算するという考え方です。扶養的要素は、離婚後に経済的に自立できない一方配偶者の生活を一定期間保障する補充的なものとされます。慰謝料的要素については、判例は財産分与に含めることもできるとしつつ、財産分与とは性質を異にする部分があると整理しています(後述の最判昭和46年7月23日)。
財産分与と慰謝料の関係
財産分与が行われた場合でも、それが損害賠償の要素を含めた趣旨でない場合や、その額が不十分な場合には、別途慰謝料を請求できます(最判昭和46年7月23日)。
この判例は、財産分与と離婚慰謝料(不法行為に基づく損害賠償)は本来別個の制度であることを前提としつつ、財産分与の中で慰謝料的な給付がされたと認められ、かつその額・方法が精神的苦痛を慰謝するに足りると認められる場合には、重ねて慰謝料を請求することはできないが、そうでない場合には別途慰謝料請求ができる、という枠組みを示したものです。「財産分与を受けたら一切慰謝料を請求できない」わけではない点が出題ポイントです。
財産分与請求権の期間制限
財産分与の請求は、離婚の時から2年以内に行わなければなりません(民法第768条第2項ただし書)。この期間は除斥期間と解されています。
この「2年」は、不法行為に基づく慰謝料請求の消滅時効(損害および加害者を知った時から3年、724条)とは別個に進行します。したがって、財産分与の2年が経過しても、離婚による精神的苦痛に対する慰謝料請求は別途3年の枠組みで可能な場合があります。期間の数字(財産分与は2年、不法行為の主観的起算点は3年)を正確に区別しましょう。
離婚の効果
氏の変更
婚姻によって氏を改めた者は、離婚によって婚姻前の氏に復するのが原則です(民法第767条第1項)。ただし、離婚の日から3か月以内に届け出ることによって、離婚の際に称していた氏を引き続き称することができます(同条第2項、婚氏続称)。
婚氏続称(767条2項)は、離婚後も社会生活上・職業上で婚姻中の氏を使い続ける必要がある場合に配慮した制度です。届出は離婚の日から「3か月以内」に行う必要があり、家庭裁判所の許可は不要で、戸籍上の届出だけで足りる点が、後述の子の氏の変更(家庭裁判所の許可が必要)との違いです。
子の監護に関する事項
離婚の際には、子の監護者、面会交流、養育費などの子の監護に関する事項を定めます(民法第766条)。これらの事項は子の利益を最も優先して考慮しなければなりません。
協議離婚の場合、これらの事項はまず父母の協議で定めますが、協議が調わないときは家庭裁判所が定めます。面会交流や養育費の分担は、平成23年の改正で766条に明文化された事項です。
親権者の決定
未成年の子がいる場合、協議離婚では協議により父母の一方を親権者と定めなければならず(819条1項)、裁判離婚では裁判所が親権者を定めます(819条2項)。親権者を定めなければ協議離婚の届出は受理されません。なお、親権者と監護者は分離することができ、親権者を父、現実に子を監護する監護者を母とすることも可能です。
復氏と子の氏
離婚によって復氏した親の子は、家庭裁判所の許可を得て、離婚後の親の氏を称することができます(民法第791条)。子の氏は離婚によって自動的に変更されるわけではなく、別途手続きが必要です。
ここは間違えやすいポイントです。たとえば母が離婚により旧姓に復しても、子の氏は当然には変わりません(子は婚姻中の氏=父の氏のまま戸籍に残ります)。子を母と同じ氏にするには、子(15歳未満のときは法定代理人)が家庭裁判所の許可を得て、その旨を届け出る必要があります(791条)。親の婚氏続称が「届出のみ」で足りるのに対し、子の氏の変更には「家庭裁判所の許可」が必要である点を対比して覚えましょう。
よくある誤解・ひっかけ整理
家族法の婚姻・離婚分野では、改正の前後や類似制度の混同を狙ったひっかけが頻出します。誤解しやすいポイントを整理します。
試験での出題ポイント
- 婚姻適齢は男女とも18歳: 2022年改正で統一
- 再婚禁止期間は廃止: 2024年改正で削除
- 婚姻の届出: 成年の証人2人以上が必要
- 日常家事債務: 夫婦は連帯して責任を負う(761条)
- 法定離婚原因: 5つの事由を正確に覚える
- 有責配偶者からの離婚請求: 3要件を判例で確認
- 財産分与の期間: 離婚から2年以内
過去問では、婚姻意思に関する判例(実質的意思説)、日常家事債務と表見代理(最判昭和44年12月18日)、婚姻の無効・取消しの区別、有責配偶者の離婚請求(最大判昭和62年9月2日)、財産分与の性質と慰謝料の関係などが繰り返し問われています。条文の数字(年齢18歳・財産分与2年・3か月以内の届出など)と、判例の結論(趣旨の類推適用、別途慰謝料請求可など)をセットで押さえることが得点につながります。
2022年の民法改正後、婚姻適齢は男性18歳、女性16歳である。
夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは、他の一方はこれによって生じた債務について連帯してその責任を負う。
財産分与の請求は、離婚の時から3年以内に行わなければならない。
婚姻の取消しは、財産行為の取消しと同様に、その効力は婚姻の時に遡って生じる。
夫婦の一方が日常家事の範囲を超えて第三者と取引した場合、判例は民法110条の表見代理を直接適用して第三者を保護する。
まとめ
婚姻と離婚は、家族法の中核をなすテーマです。婚姻の成立には実質的要件(婚姻意思・婚姻適齢)と形式的要件(届出)が必要であり、婚姻障害に該当しないことも求められます。婚姻意思については判例が実質的意思説に立ち(最判昭和44年10月31日)、形式が整っていても実質的意思がなければ無効となる点を押さえましょう。
婚姻の効果では、夫婦同氏(750条)、同居・協力・扶助義務(752条)、夫婦間の契約取消権(754条と破綻後の不適用判例)、そして財産関係(日常家事債務の連帯責任761条、帰属不明財産の共有推定762条2項、表見代理の趣旨類推適用判例)が頻出です。
離婚については、協議離婚・調停離婚・審判離婚・裁判離婚の区別を理解し、法定離婚原因(770条1項各号)を正確に覚えること、有責配偶者からの離婚請求の3要素(最大判昭和62年9月2日)、財産分与の3つの性質と2年の期間制限を押さえることが重要です。近年の改正(婚姻適齢の統一・再婚禁止期間の廃止)は出題可能性が高いため、改正前後の比較を意識して学習してください。
関連分野もあわせて学習すると理解が深まります。家族関係から生じる相続については相続の基本|法定相続人・相続分・遺産分割を整理、民法全体の体系的な位置づけについては民法の全体像|総則・物権・債権・親族・相続の構造、行政書士試験で問われる手続面については行政事件訴訟法の全体像|抗告訴訟の類型を整理もあわせて確認してください。
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