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客観訴訟|民衆訴訟と機関訴訟の違いを解説

行政事件訴訟法における客観訴訟(民衆訴訟・機関訴訟)を徹底解説。主観訴訟との違い、民衆訴訟の具体例(選挙訴訟・住民訴訟)、機関訴訟の具体例(国と地方の争い)、法律に定める場合にのみ提起可能な理由を整理します。

はじめに|行政事件訴訟の全体像

行政事件訴訟法は、行政事件訴訟を大きく4つの類型に分類しています(2条〜6条)。

  1. 抗告訴訟: 行政庁の公権力の行使に関する不服の訴訟
  2. 当事者訴訟: 当事者間の法律関係を確認し又は形成する訴訟
  3. 民衆訴訟: 国又は公共団体の機関の法規に適合しない行為の是正を求める訴訟
  4. 機関訴訟: 国又は公共団体の機関相互間における権限の存否又はその行使に関する紛争についての訴訟

このうち、抗告訴訟と当事者訴訟は「主観訴訟」と呼ばれ、個人の権利利益の保護を目的とします。一方、民衆訴訟と機関訴訟は「客観訴訟」と呼ばれ、行政の客観的な適法性の確保を目的とします。

行政書士試験では、客観訴訟の基本的な仕組みと具体例が毎年のように出題されます。本記事では、民衆訴訟と機関訴訟のそれぞれについて、条文に基づいて正確に整理します。

主観訴訟と客観訴訟の区別

主観訴訟とは

主観訴訟とは、個人の権利利益の保護を目的とする訴訟です。行政事件訴訟法上、抗告訴訟と当事者訴訟がこれに該当します。

主観訴訟の特徴は以下のとおりです。

  • 原告は自己の法律上の利益を主張する
  • 原告適格は「法律上の利益を有する者」に認められる(抗告訴訟の場合)
  • 法律に特別の定めがなくても提起可能(行政事件訴訟法の一般規定に基づく)

客観訴訟とは

客観訴訟とは、行政の客観的な適法性を確保することを目的とする訴訟です。民衆訴訟と機関訴訟がこれに該当します。

客観訴訟の最大の特徴は、法律に定める場合において、法律に定める者に限り提起することができるという点です(42条)。

行政事件訴訟法42条
民衆訴訟及び機関訴訟は、法律に定める場合において、法律に定める者に限り、提起することができる。
――行政事件訴訟法42条

これは、客観訴訟が個人の権利利益の保護ではなく、行政の適法性確保という公益目的の訴訟であることから、無制限に認めると訴訟が濫立するおそれがあるためです。

主観訴訟と客観訴訟の比較表

比較項目主観訴訟客観訴訟目的個人の権利利益の保護行政の客観的適法性の確保該当する訴訟類型抗告訴訟・当事者訴訟民衆訴訟・機関訴訟提起の要件法律上の利益があれば提起可能法律に定めがある場合のみ提起可能法的根拠行政事件訴訟法の一般規定個別法律の規定

民衆訴訟

民衆訴訟の定義

行政事件訴訟法5条
この法律において「民衆訴訟」とは、国又は公共団体の機関の法規に適合しない行為の是正を求める訴訟で、選挙人たる資格その他自己の法律上の利益にかかわらない資格で提起するものをいう。
――行政事件訴訟法5条

民衆訴訟の重要なポイントは「自己の法律上の利益にかかわらない資格で提起する」という点です。つまり、原告は自己の個人的な権利利益が侵害されたことを主張するのではなく、一般の国民・住民としての立場から行政の違法是正を求めます。

民衆訴訟の具体例

選挙訴訟(公職選挙法)

公職選挙法は、選挙の効力に関する訴訟(203条・204条)と、当選の効力に関する訴訟(207条・208条)を規定しています。

選挙の効力に関する訴訟

選挙の手続に違法があった場合に、選挙人又は候補者が選挙の効力を争う訴訟です。まず選挙管理委員会に異議を申し出て、その決定に不服がある場合に訴訟を提起します。

当選の効力に関する訴訟

当選人の当選の効力を争う訴訟です。当選人が被選挙権を有しなかった場合や、得票数の計算に誤りがあった場合などに提起されます。

選挙訴訟は、選挙人としての資格で提起するものであり、自己の個人的な権利利益とは無関係に提起できる点が民衆訴訟の典型例とされています。

住民訴訟(地方自治法242条の2)

住民訴訟は、地方公共団体の住民が、当該地方公共団体の違法な財務会計行為の是正を求める訴訟です。

住民訴訟の前提: 住民監査請求(242条)

住民訴訟を提起するためには、まず住民監査請求を経なければなりません。住民監査請求は、地方公共団体の住民が、当該地方公共団体の執行機関又は職員の違法又は不当な財務会計上の行為について、監査委員に対して監査を求め、必要な措置を講ずべきことを請求するものです。

住民訴訟の4類型(242条の2第1項)

  1. 1号請求(差止請求): 当該行為の全部又は一部の差止めを求める
  2. 2号請求(取消・無効確認請求): 行政処分たる当該行為の取消し又は無効確認を求める
  3. 3号請求(怠る事実の違法確認請求): 当該怠る事実の違法確認を求める
  4. 4号請求(損害賠償・不当利得返還請求): 当該職員又は相手方に対する損害賠償又は不当利得返還の請求を求める

住民訴訟は、住民が個人的に損害を受けたかどうかに関係なく、住民としての立場から地方公共団体の財務の適正を確保するために提起するものであり、民衆訴訟の代表例です。

住民訴訟の特徴

住民訴訟には、以下の特徴があります。

  • 住民監査請求前置: 住民監査請求を経なければ訴訟を提起できない
  • 出訴期間: 監査委員の監査結果等の通知があった日から30日以内
  • 対象: 違法な財務会計行為に限定される(不当な行為は対象外。住民監査請求では不当も対象)
  • 原告: 当該地方公共団体の住民(1人でも可)

ここで重要なのは、住民監査請求では「違法又は不当」な行為を対象とするのに対し、住民訴訟では「違法」な行為のみを対象とする点です。裁判所は行政の裁量判断の当・不当を審査する立場にないためです。

機関訴訟

機関訴訟の定義

行政事件訴訟法6条
この法律において「機関訴訟」とは、国又は公共団体の機関相互間における権限の存否又はその行使に関する紛争についての訴訟をいう。
――行政事件訴訟法6条

機関訴訟は、国や地方公共団体の「機関」間の争いを解決するための訴訟です。私人が当事者となるのではなく、国の機関と地方公共団体の機関、あるいは地方公共団体の機関同士が当事者となります。

機関訴訟の具体例

地方自治法に基づく訴訟

是正の要求・指示に関する訴訟(251条の5)

国地方係争処理委員会の審査の結果又は勧告に不服がある地方公共団体の長等は、高等裁判所に対し、国の行政庁を被告として訴訟を提起することができます。

違法な関与の取消訴訟

地方公共団体が、国の関与(是正の要求、指示等)が違法であると考える場合に、国地方係争処理委員会に審査の申出を行い、その結果に不服がある場合に訴訟を提起するルートが設けられています。

代執行に関する訴訟(245条の8)

法定受託事務に関して、国が地方公共団体に対し代執行を行おうとする場合、一定の手続を経た上で、最終的には高等裁判所に訴訟を提起することがあり得ます。

長と議会の間の訴訟

地方公共団体の長と議会の間の紛争も、機関訴訟の一例として位置づけられることがあります。例えば、議会の議決が違法であるとして長が争う場合などが考えられます。ただし、地方自治法上は再議制度(176条)等による解決が前提とされており、直接的な訴訟は限定的です。

機関訴訟の特徴

機関訴訟には、以下の特徴があります。

  • 法律に定める場合にのみ提起可能(42条)
  • 当事者は国又は地方公共団体の機関であり、私人ではない
  • 個人の権利利益の保護ではなく、機関間の権限紛争の解決が目的
  • 行政事件訴訟法の一般規定は原則として適用されない(43条参照)

客観訴訟に関する行政事件訴訟法の規定

法律の定めがある場合に限る(42条)

繰り返しになりますが、客観訴訟は法律に定める場合において、法律に定める者に限り提起することができます。これは、客観訴訟が個人の権利救済ではなく行政の適法性確保を目的とするため、訴訟の対象・原告資格を法律で限定する必要があるからです。

行政事件訴訟法の規定の準用(43条)

民衆訴訟と機関訴訟については、行政事件訴訟法の一般規定のうち、法律に特別の定めがある場合を除き、処分又は裁決の取消しを求めるものについては取消訴訟に関する規定が、それ以外のものについては当事者訴訟に関する規定が準用されます(43条)。

ただし、民衆訴訟については43条1項で、機関訴訟については43条2項で、それぞれ準用規定が定められており、その内容は微妙に異なります。

客観訴訟と憲法上の「法律上の争訟」

「法律上の争訟」との関係

憲法76条1項は「すべて司法権は、最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する」と規定しており、裁判所が扱うのは原則として「法律上の争訟」に限られます。

「法律上の争訟」とは、当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争であって、法令の適用により終局的に解決できるものを指します(最判昭和56年4月7日・板まんだら事件)。

客観訴訟は、個人の権利義務に関する紛争ではないため、厳密には「法律上の争訟」に該当しないと解されています。しかし、裁判所法3条1項は「裁判所は、日本国憲法に特別の定のある場合を除いて一切の法律上の争訟を裁判し、その他法律において特に定める権限を有する」と規定しており、この「その他法律において特に定める権限」として客観訴訟を裁判所が扱うことが正当化されています。

試験対策上の重要ポイント

頻出論点の整理

  1. 客観訴訟は法律に定めがある場合のみ提起可能(42条)
  2. 民衆訴訟と機関訴訟の違い: 民衆訴訟は国民・住民が提起、機関訴訟は機関が提起
  3. 民衆訴訟の具体例: 選挙訴訟・住民訴訟
  4. 機関訴訟の具体例: 国と地方公共団体の間の係争に関する訴訟
  5. 住民訴訟と住民監査請求の違い: 住民訴訟は「違法」のみ対象、住民監査請求は「違法又は不当」が対象
  6. 住民訴訟は住民監査請求前置が必要

よく出る引っかけパターン

  • 「民衆訴訟は自己の法律上の利益が侵害された者のみが提起できる」→ 誤り(自己の法律上の利益にかかわらない資格で提起する)
  • 「客観訴訟は行政事件訴訟法の一般規定が直接適用される」→ 誤り(準用規定あり。直接適用ではない)
  • 「住民訴訟では違法又は不当な財務会計行為を争うことができる」→ 誤り(住民訴訟は「違法」のみ。「不当」まで争えるのは住民監査請求)

まとめ

客観訴訟は、行政事件訴訟の全体像を理解する上で欠かせないテーマです。以下の点をしっかり整理しておきましょう。

  • 行政事件訴訟は、主観訴訟(抗告訴訟・当事者訴訟)と客観訴訟(民衆訴訟・機関訴訟)に大別される
  • 客観訴訟は個人の権利利益の保護ではなく、行政の客観的適法性の確保を目的とする
  • 客観訴訟は法律に定める場合において、法律に定める者に限り提起可能(42条)
  • 民衆訴訟の代表例は選挙訴訟と住民訴訟
  • 機関訴訟は国又は地方公共団体の機関相互間の権限紛争についての訴訟
  • 住民訴訟は住民監査請求前置が必要であり、「違法」な行為のみを対象とする

条文の正確な理解と具体例の把握が、この分野での得点につながります。

確認問題

客観訴訟である民衆訴訟と機関訴訟は、法律に定めがなくても、行政事件訴訟法の一般規定に基づいて提起することができる。○か×か。

○ 正しい × 誤り
解説
行政事件訴訟法42条は「民衆訴訟及び機関訴訟は、法律に定める場合において、法律に定める者に限り、提起することができる」と規定しています。客観訴訟は個人の権利利益の保護ではなく行政の適法性確保を目的とするため、法律に特別の定めがある場合にのみ提起が認められます。
確認問題

住民訴訟では、地方公共団体の違法な財務会計行為だけでなく、不当な財務会計行為についても争うことができる。○か×か。

○ 正しい × 誤り
解説
住民訴訟で争うことができるのは「違法」な財務会計行為に限られます。「違法又は不当」な行為を対象とするのは住民監査請求(地方自治法242条)です。裁判所は行政の裁量判断の当・不当を審査する立場にないため、住民訴訟では「不当」は対象外とされています。
確認問題

民衆訴訟は「自己の法律上の利益にかかわらない資格」で提起する訴訟であり、選挙訴訟や住民訴訟がその代表例である。○か×か。

○ 正しい × 誤り
解説
行政事件訴訟法5条は、民衆訴訟を「国又は公共団体の機関の法規に適合しない行為の是正を求める訴訟で、選挙人たる資格その他自己の法律上の利益にかかわらない資格で提起するもの」と定義しています。選挙訴訟(公職選挙法)と住民訴訟(地方自治法242条の2)はその代表例です。
#択一式 #行政事件訴訟法 #行政法

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