(公開 2025/12/04) / 行政法

法律による行政の原理|法律の留保を図解で解説

法律による行政の原理を体系的に解説。法治主義と法の支配の違い、法律の法規創造力・法律の優位・法律の留保の三原則、侵害留保説など各学説の比較、重要判例を網羅し、行政書士試験の得点力を高めます。

はじめに|法律による行政の原理とは

法律による行政の原理(法治行政の原理)は、行政法の最も基本的な原理です。行政活動は法律に基づき、法律に従って行われなければならないという考え方であり、近代法治国家の根幹をなす原則です。

この原理は、行政権の行使を法律によってコントロールし、国民の権利・自由を保障することを目的としています。行政書士試験では、この原理の内容と各学説の理解が繰り返し問われるため、正確な知識が不可欠です。

本記事では、法治主義と法の支配の異同、法律による行政の原理の三つの内容、法律の留保をめぐる学説の対立、そして関連する重要判例を解説します。

なぜ「法律による行政」が必要なのか

法律による行政の原理は、単なる技術的なルールではなく、二つの理念に支えられています。第一に自由主義です。行政が恣意的に国民の自由や財産に介入することを防ぎ、何が許され何が禁じられるかをあらかじめ法律で明らかにしておくこと(予測可能性の確保)が、個人の自由の前提となります。第二に民主主義です。行政活動を国民の代表機関である国会が制定した法律によって規律することで、行政に対する民主的なコントロールが及びます。

この二つの理念は、後述する法律の留保の学説対立においても底流となっています。侵害留保説が自由主義を、全部留保説が民主主義を、それぞれ重視する立場であることを意識すると、学説の対立構造が理解しやすくなります。

本記事で扱う論点の全体像

法律による行政の原理は、おおむね次のような階層構造で整理できます。先に全体像を押さえておくと、個別の論点が体系のどこに位置づけられるかが明確になります。

大項目内容試験での重要度法治主義と法の支配沿革・思想の比較一般知識・基礎法学でも問われる法律の法規創造力法規を定立できるのは法律のみ行政立法と関連して頻出法律の優位行政は法律に違反できない(消極)概念の区別が頻出法律の留保一定の行政には法律の根拠が必要(積極)学説対立が最頻出関連判例ため池条例・旭川国保など判旨の正確な理解

法治主義と法の支配の違い

行政書士試験で頻出のテーマとして、ドイツ由来の「法治主義(法治国原理)」とイギリス・アメリカ由来の「法の支配」の比較があります。両者は重なる部分もありますが、歴史的な背景と核心部分が異なります。

法治主義(Rechtsstaat)

法治主義はドイツで発展した概念です。行政活動が法律に基づいて行われることを要求しますが、その法律の内容の当否は問わないのが形式的法治主義の特徴です。

  • 形式的法治主義: 行政活動が形式的に法律に適合していれば足りる。法律の内容の正当性は問わない
  • 実質的法治主義: 法律の内容も正義や人権に適合していなければならない。第二次大戦後のドイツ基本法のもとで採用

形式的法治主義のもとでは、法律の内容がいかに不当であっても、議会が制定した法律に基づいている限り、行政活動は「合法」とされます。この限界がナチス政権下で露呈したことは歴史的に重要です。授権法(全権委任法)によって行政府が法律と同等の命令を制定できるようになり、「法律の形式さえ整っていれば内容を問わない」という形式的法治主義の弱点が、人権の大規模な侵害を招いたとされます。この反省から、戦後のドイツでは法律の内容そのものを違憲審査の対象とする実質的法治主義へと転換しました。

法の支配(Rule of Law)

法の支配はイギリスで発展した概念です。A.V.ダイシーが体系化したとされ、以下の要素を含みます。

  1. 専断的権力の排除: 政府は正規の法に基づいてのみ権力を行使しうる
  2. 法の前の平等: すべての人が通常の裁判所の管轄に服する
  3. 憲法の一般原則は裁判の結果である: 権利は裁判を通じて確立される(イギリス固有の特徴)

法の支配は法律の内容の正当性をも問うものであり、実質的な正義の実現を目指します。日本国憲法は法の支配の理念を基本原理として採用していると解されています。

法の支配の内容として、現代の学説では一般に次の要素が挙げられます。試験では「法の支配が要求する内容」として問われることがあります。

  • 憲法の最高法規性: 憲法に反する法律・命令等は効力を持たない
  • 基本的人権の保障: 法の内容が人権に適合していなければならない
  • 適正手続(デュー・プロセス)の保障: 手続の適正も要求される
  • 裁判所による権利保障: 権利侵害に対し裁判所による救済が用意されている

「法の支配」と「形式的法治主義」を区別する最大のポイントは、法律の内容の正当性を問うかどうかにあります。法の支配は内容を問い、形式的法治主義は問わない、という対比をまず押さえてください。

両者の比較

項目形式的法治主義法の支配起源ドイツイギリス法律の内容問わない正当性を要求裁判所の役割行政裁判所通常裁判所違憲審査認めない(形式的)認める重視するもの形式的合法性実質的正義

日本国憲法のもとでは、実質的法治主義と法の支配の両方の要素が取り入れられています。行政法の解釈においても、単なる形式的合法性だけでなく、実質的な権利保障が重視されます。

よくある誤解と出題の角度

  • 「法治主義=悪い概念」ではない: 問われるのはあくまで「形式的法治主義」の限界です。実質的法治主義は法の支配にかなり接近しており、現代では両者の差は相対化しているとされます。
  • 「法の支配では裁判所の役割が大きい」: 法の支配では通常裁判所が行政事件も扱う(司法国家)のに対し、伝統的なドイツ型法治主義では行政事件を行政裁判所が扱う(行政国家)という違いがあります。明治憲法下の日本は行政裁判所制度を採用していましたが、日本国憲法は通常裁判所がすべての法律上の争訟を扱う司法国家型を採用しました。
  • 沿革の細部: ダイシーの三原則のうち「憲法の一般原則は裁判の結果である」はイギリス固有の事情(成文憲法を持たない)に由来するもので、日本にそのまま妥当するわけではない点に注意が必要です。

法律による行政の原理の三つの内容

法律による行政の原理は、伝統的に以下の三つの内容から構成されると理解されています。ドイツの公法学者オットー・マイヤーによる整理に由来するとされ、現在でも行政法の出発点として広く用いられています。

法律の法規創造力

法律の法規創造力とは、国民の権利義務に関する一般的な法規範(法規)を定立できるのは、国会が制定する法律(またはその委任に基づく命令)のみであるという原則です。

国会は、国権の最高機関であって、国の唯一の立法機関である。
― 日本国憲法 第41条

この原則から、行政機関が法律の授権なしに独自に国民の権利義務に関するルールを定めることは許されません。ただし、法律の個別的な委任がある場合には、政令・省令(委任命令)で法規を定めることが認められます。

ここでいう「法規」とは、伝統的には国民の権利を制限し、または義務を課す一般的・抽象的な法規範を指します。したがって、行政内部の事務処理基準にすぎない行政規則(通達・要綱など)は、原則として法規には当たらず、法律の授権がなくても定めることができると解されます。逆に、外部の国民の権利義務を左右する内容を持つルールを行政が定めるには、法律の委任(授権)が必要です。

この原則は、行政立法の限界とも関連する重要な論点です。法律の委任なく国民の権利を制限する内容の行政規則(通達など)は、この原則に反することになります。委任命令(法規命令)と行政規則の区別、委任の限界(白紙委任の禁止)は、行政立法の分野で繰り返し出題されます。

法律の優位

法律の優位とは、行政活動は法律に違反して行われてはならないという原則です。法律の優位は消極的な原則であり、法律に違反する行政活動を禁止するものです。

この原則は異論なく認められています。法律の優位に反する行政行為は違法となり、取消しの対象となります。また、法律に違反する行政立法(命令・規則)は無効です。

この憲法は、国の最高法規であって、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない。
― 日本国憲法 第98条第1項

法律の優位は、法律が存在する場合に、行政がそれに反してはならないという限界を画する原則です。すべての行政活動に対して例外なく妥当する点が特徴です(侵害的・授益的を問わない)。この「適用範囲が無限定である」点が、後述する法律の留保(適用範囲が学説上争われる)との大きな違いになります。

法律の留保

法律の留保とは、一定の行政活動を行うには法律の根拠が必要であるという原則です。法律の留保は積極的な原則であり、行政活動の法的根拠を要求するものです。

法律の優位が「法律に違反してはならない」という消極的な要請であるのに対し、法律の留保は「法律の根拠がなければならない」という積極的な要請です。

問題となるのは、「どの範囲の行政活動に法律の根拠が必要か」という点であり、この点について複数の学説が対立しています。

三つの内容の整理(最頻出の比較)

三つの内容のうち、試験で最も狙われるのが法律の優位と法律の留保の区別です。次の表で性質の違いを必ず押さえてください。

内容性質要求すること適用範囲争いの有無法律の法規創造力立法権の専属法規定立は法律のみ法規一般おおむね争いなし法律の優位消極的法律に違反しないすべての行政活動争いなし法律の留保積極的法律の根拠が必要学説により範囲が異なる学説対立あり

ここで重要なのは、「法律の優位=消極/法律の留保=積極」という対比です。「ある行政活動が違法かどうか」が問題になっているのか(優位の問題)、「そもそも法律の根拠がなくてもその行政活動ができるのか」が問題になっているのか(留保の問題)を区別する視点が、択一問題を解く鍵になります。

法律の留保をめぐる学説

法律の留保の範囲について、主に以下の四つの学説が主張されています。それぞれ「どこまでの行政活動に法律の根拠を要求するか」という線引きが異なります。

侵害留保説(通説・判例)

侵害留保説は、国民の権利を制限し又は義務を課す行政活動(侵害的行政活動)には法律の根拠が必要であるとする立場です。

この説は、自由主義的法治国家の考え方に基づいており、行政法学の伝統的な通説です。給付行政(補助金の交付、公共施設の設置など)については、法律の根拠は不要と解します。

メリット: 行政の機動性を確保しつつ、国民の自由・財産を保護できる
批判: 給付行政が拡大した現代において、給付行政に法律の根拠を不要とするのは不十分ではないか

侵害留保説は、課税・営業許可の取消し・違法建築物の除却命令・課徴金の賦課・行政強制など、国民にとって不利益となる行政活動を念頭に置いています。明治憲法下から実務上採用されてきた立場であり、現在の実務・判例も基本的にこの立場に立っていると解されています。「侵害的行政には法律の根拠が必要、給付行政には不要」という結論を、まず確実に暗記してください。

全部留保説

全部留保説は、すべての行政活動に法律の根拠が必要であるとする立場です。民主主義の徹底を根拠とします。

すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
― 日本国憲法 第13条

メリット: 民主主義的統制を徹底できる
批判: 行政活動のすべてに法律の根拠を要求すると、行政が硬直化し、機動的な対応ができなくなる

全部留保説は、行政活動はすべて国民の代表である国会のコントロール下に置かれるべきだという発想に立ちます。もっとも、災害時の応急援助のように迅速性が求められる給付活動についてまで、逐一法律の根拠を要求するのは現実的でないとの批判が強く、通説とはなっていません。

権力留保説

権力留保説は、権力的な行政活動には法律の根拠が必要であるとする立場です。侵害留保説を拡張したものといえます。

侵害留保説が「侵害的」かどうかで区別するのに対し、権力留保説は「権力的」かどうかで区別します。したがって、給付行政であっても権力的な形式(行政行為の形式)で行われる場合には法律の根拠が必要となります。

たとえば、補助金の交付という授益的・給付的な活動であっても、それが行政行為(行政処分)の形式で一方的・権力的に行われる場合には、権力留保説では法律の根拠が必要となります。侵害留保説が「効果(侵害か授益か)」に着目するのに対し、権力留保説は「行為形式(権力的か非権力的か)」に着目する点が両説の違いです。

社会留保説(重要事項留保説)

社会留保説は、侵害的行政のみならず、給付行政についても、国民の基本権に重要な関わりを持つ行政活動には法律の根拠が必要であるとする立場です。ドイツの連邦憲法裁判所が採用した「本質性理論(Wesentlichkeitstheorie)」に対応するものです。

メリット: 現代行政の実態に即した柔軟な解決が可能
批判: 「重要事項」の範囲が不明確であり、基準としての明確性に欠ける

社会留保説(給付留保説と呼ばれることもある)は、社会保障給付など国民の生存にかかわる重要な給付行政には法律の根拠を要求すべきだという問題意識に立ちます。重要事項留保説(本質性理論)は、基本権にとって本質的・重要な事項は給付・侵害を問わず立法者自身が定めるべきだとする、より一般化された立場です。

各学説の比較

学説法律の根拠が必要な範囲根拠侵害留保説侵害的行政活動自由主義全部留保説すべての行政活動民主主義権力留保説権力的行政活動自由主義の拡張社会留保説基本権に重要な関わりを持つ行政活動民主主義と自由主義の調和

法律の根拠を要求する範囲の広さで並べると、侵害留保説 < 権力留保説・社会留保説 < 全部留保説という大小関係になります(権力留保説と社会留保説は着眼点が異なるため単純比較はできませんが、いずれも侵害留保説より広く、全部留保説より狭い)。この「範囲の広狭」の感覚をつかんでおくと、各説の位置づけを忘れにくくなります。

行政書士試験においては、侵害留保説が通説・判例であることを前提としつつ、各学説の内容と根拠、批判を正確に理解しておくことが重要です。

具体例で考える法律の留保

各説で結論が分かれるかどうかを、典型的な行政活動で確認しておきましょう。

行政活動性質侵害留保説権力留保説全部留保説課税・営業停止命令侵害的・権力的根拠必要根拠必要根拠必要補助金交付(処分形式)授益的・権力的不要必要必要公共施設の任意設置授益的・非権力的不要不要必要行政指導非権力的不要不要必要(争い)

このように、侵害的かつ権力的な活動についてはすべての説が法律の根拠を要求する一方、授益的・非権力的な活動になるほど説によって結論が分かれます。問題文で挙げられた具体例がどの欄に当たるかを判断できると、学説を当てはめた正誤判定が容易になります。

法律の留保に関する判例

奈良県ため池条例事件(最大判昭和38年6月26日)

この判例は、法律の留保との関連で重要な判例です。奈良県のため池の保全に関する条例が、法律の委任なく財産権を制限していることが争われました。

最高裁は、ため池の堤とうに農作物を植えることを禁止し、違反者に罰則を科す条例について、「ため池の破損、決かいの原因となるため池の堤とうの使用行為は、憲法でも、民法でも適法な財産権の行使として保障されていないもの」として、条例による規制を合憲としました。

この判例は、条例による財産権制限の合憲性を認めたものとして重要です。条例も「法律」に準じるものとして法律の留保を満たしうることを示唆しています。

事案: ため池の堤とう(堤防部分)を耕作してきた住民が、ため池の保全に関する条例により堤とうの使用を禁止され、これに違反した者に罰則が科される仕組みとなったため、条例が財産権を保障する憲法第29条に反するなどとして争った。

判旨の核心: 災害防止という公共の福祉のため、ため池の破損・決壊の原因となる堤とうの使用行為は、そもそも憲法上も民法上も適法な財産権の行使として保障されていないとし、こうした使用を条例で禁止・処罰しても憲法第29条に反しないとした。

意義・出題ポイント: 条例によって財産権の行使を規制できることを認めた点が重要です。憲法第29条第2項は「財産権の内容は…法律でこれを定める」としていますが、判例は条例による財産権規制も許されるとの方向を示しました。法律による行政の原理(法律の留保)との関係では、地方公共団体の自主立法である条例が「法律」に準じるものとして規制根拠となりうることを示した点が問われます。

個人タクシー事件(最判昭和46年10月28日)

道路運送法に基づく個人タクシーの免許申請拒否処分が争われた事件です。最高裁は、法律が行政庁に裁量を認めている場合であっても、申請人に対する聴聞等の適正手続が要請されるとしました。

行政庁の裁量についても、基準の内容が合理的なものであり、かつ、その基準の適用が公平・公正に行われるべきことは当然であり、裁量にも限界がある。

この判例は、法律による行政の原理が形式的な法律の根拠のみならず、手続的保障をも要求することを示した重要判例です。

事案: 多数の個人タクシー免許申請に対し、行政庁が内部的に審査基準を設けて審査し、申請を却下した。申請者が、不利益な事実について意見を述べる機会を与えられなかったとして処分の違法を争った。

判旨の核心: 多数の申請を公正に審査するには、内部的にせよ具体的な審査基準を設定し、申請人に対しその基準の適用上必要な事項について主張・立証の機会を与えなければならず、これを欠いた審査手続によってなされた拒否処分は違法であるとした。

意義・出題ポイント: 行政手続法(平成5年制定)が存在しなかった時代に、適正手続の保障を法律による行政の原理の要請として判例上認めた先駆的判例です。現在では申請に対する処分について審査基準の設定・公表が行政手続法で明文化されていますが、その理論的源流として位置づけられます。

旭川市国民健康保険条例事件(最大判平成18年3月1日)

国民健康保険料の賦課について、条例で規定していれば法律の委任がなくても憲法84条(租税法律主義)に反しないかが争われた事件です。

最高裁は、国民健康保険料は租税ではないとしつつ、「賦課徴収の強制の度合い等の点において租税に類似する性質を有するものについては、憲法84条の趣旨が及ぶ」としました。そのうえで、条例で賦課要件が明確に規定されていれば、憲法84条の趣旨に反しないと判断しました。

この判例は、法律の留保の現代的適用として重要です。

事案: 旭川市の国民健康保険条例が、保険料率の算定方法等を市長の告示に委ねていたことが、租税法律主義を定める憲法第84条に反するのではないかが争われた。

判旨の核心: 国民健康保険の保険料は、保険給付という反対給付を伴うものであり、租税そのものではない。もっとも、賦課徴収の強制の度合い等において租税に類似する性質を有するものには憲法第84条の趣旨が及ぶ。そのうえで、保険料の賦課要件が条例で適切に定められ、賦課に関する規律が法的に明確であれば、市長の告示への委任があっても憲法第84条の趣旨に反しないとした。

意義・出題ポイント: 「保険料は租税ではないが、租税に類似する性質を持つものには憲法第84条の趣旨が及ぶ」という二段構えの判断枠組みが重要です。租税法律主義(課税要件法定主義・課税要件明確主義)が、法律による行政の原理の租税分野における具体化であることを押さえてください。

武蔵野市給水拒否事件(最決平成元年11月8日)との関連

法律の留保とあわせて押さえておきたいのが、給付行政・行政指導の限界に関する判例です。武蔵野市が、宅地開発指導要綱に従わない事業者に対して水道の給水契約を事実上拒否したことが争われ、正当な理由なく給水契約の締結を拒んだとして水道法違反が問題とされた事案があります。要綱(行政規則)に基づく行政指導が、法律上の義務(水道法上の給水義務)を覆すことはできないという点で、法律の優位・法律による行政の原理と関連して理解されます。要綱は法規ではなく、法律に反する運用は許されないという結論を押さえておきましょう。

法治主義に関連するその他の原則

行政の法律適合性

行政活動は法律に適合しなければなりません。法律に違反する行政行為は違法となり、取消しまたは無効の対象となります。この原則は法律の優位から導かれるものです。

行政行為に瑕疵がある場合、その瑕疵が重大かつ明白であれば無効、それに至らなければ取り消しうべき行為となるのが原則です(重大明白説)。取り消しうべき行政行為には公定力が認められ、権限ある機関が取り消すまでは有効なものとして扱われる点も、法律による行政の原理と公定力の関係としてあわせて理解しておくとよいでしょう。

法律の委任と白紙委任の禁止

法律は政令や省令に具体的な内容の定めを委任できますが、一般的・包括的な委任(白紙委任)は許されません。

内閣は、この憲法及び法律の規定を実施するために、政令を制定する。但し、政令には、特にその法律の委任がある場合を除いては、罰則を設けることができない。
― 日本国憲法 第73条第6号

判例は、委任の範囲を具体的・個別的に定める必要があるとしています。罰則の委任については特に厳格な基準が適用されます(最大判昭和27年12月24日など)。

委任命令が委任の趣旨を逸脱しているかどうかは判例で繰り返し争われており、委任の範囲を超えた命令は無効とされます。委任立法の限界は法律の法規創造力の現れであり、本記事のテーマと密接に関連する論点です。委任命令と執行命令の区別、委任の趣旨を逸脱した命令の効力などは、行政立法の分野で頻出します。

信義誠実の原則(信義則)と法律による行政の原理の関係

私法上の信義則が行政法関係にも適用されるかという問題があります。判例は、租税法律関係においても信義則の適用を一定の要件のもとで認めています(最判昭和62年10月30日・租税法律関係と信義則)。もっとも、法律による行政の原理との調和が必要であり、信義則の適用は例外的な場合に限定されます。

上記判例は、租税法規の適用における納税者間の平等・公平という要請を犠牲にしてもなお課税庁の信頼供与に応えるべき特別の事情がある場合に限り、信義則の適用がありうるとしたものと理解されています。つまり、法律による行政の原理(合法性の原則)が原則であり、信義則による救済はあくまで例外的という位置づけです。法律による行政の原理と信義則・平等原則などの一般原則がどのように調整されるかは、応用論点として押さえておきましょう。

試験での出題ポイント

行政書士試験における法律による行政の原理の出題ポイントを整理します。

  1. 法治主義と法の支配の異同: 形式的法治主義と法の支配の違い(法律の内容を問うか否か、裁判所の役割、違憲審査の有無)が問われる。日本国憲法は法の支配の理念を採用している
  2. 法律の法規創造力・法律の優位・法律の留保の区別: 三つの内容を正確に区別できるようにする。特に法律の優位(消極的原則)と法律の留保(積極的原則)の違いは頻出
  3. 法律の留保の四つの学説: 侵害留保説・全部留保説・権力留保説・社会留保説の内容と根拠を正確に暗記する。通説は侵害留保説であることを忘れない
  4. 条例と法律の留保: 条例は「法律」に含まれるか、条例による権利制限の可否は重要論点
  5. 判例の正確な理解: 奈良県ため池条例事件、旭川市国民健康保険条例事件などの判旨を正確に押さえる

過去問で問われた典型的な角度

  • 概念のすり替え: 「法律の優位とは…法律の根拠を要求する原則である」のように、優位と留保の定義を入れ替えた誤りの選択肢が定番です。消極(優位)/積極(留保)の対比で見抜きます。
  • 学説の結論の取り違え: 「侵害留保説は給付行政にも法律の根拠を要求する」といった誤り。侵害留保説は給付行政には根拠不要、が正解の核です。
  • 通説の確認: 「全部留保説が通説である」などの誤り。通説・実務は侵害留保説です。
  • 根拠と学説の対応: 「全部留保説は自由主義を根拠とする」といった誤り。全部留保説の根拠は民主主義、侵害留保説の根拠は自由主義、という対応関係が問われます。
  • 判例の射程: 旭川国保事件について「保険料は租税であるから憲法84条が直接適用される」とする誤り。判例は「租税ではないが、租税に類似する性質のものには84条の趣旨が及ぶ」とした点が要注意です。

暗記すべき最重要ポイント(直前チェック)

  • 三原則=法規創造力・法律の優位・法律の留保
  • 法律の優位=消極的原則/法律の留保=積極的原則
  • 通説・判例=侵害留保説(侵害的行政に根拠必要、給付行政は不要)
  • 学説の根拠=侵害留保説:自由主義/全部留保説:民主主義
  • 日本国憲法は法の支配を採用、行政事件も通常裁判所が扱う(司法国家)
確認問題

法律の優位とは、一定の行政活動を行うには法律の根拠が必要であるという原則である。

○ 正しい × 誤り
解説
法律の優位とは、行政活動は法律に違反して行われてはならないという消極的な原則です。一定の行政活動に法律の根拠が必要であるという積極的な原則は「法律の留保」です。両者の区別は頻出論点です。
確認問題

法律の留保における侵害留保説は、国民の権利を制限し又は義務を課す行政活動(侵害的行政活動)に法律の根拠が必要であるとし、通説・判例の立場である。

○ 正しい × 誤り
解説
侵害留保説は、侵害的行政活動にのみ法律の根拠を要求する立場で、自由主義的法治国家の考え方に基づく伝統的な通説です。給付行政については法律の根拠は不要と解します。
確認問題

形式的法治主義は、行政活動が法律に基づいて行われることだけでなく、その法律の内容が正義に適合していることをも要求する。

○ 正しい × 誤り
解説
形式的法治主義は、行政活動が形式的に法律に適合していれば足りるとするもので、法律の内容の正当性は問いません。法律の内容も正義や人権に適合していなければならないとするのは「実質的法治主義」または「法の支配」の考え方です。
確認問題

全部留保説は、すべての行政活動に法律の根拠が必要であるとする立場であり、その主たる根拠は自由主義に求められる。

○ 正しい × 誤り
解説
全部留保説は、すべての行政活動に法律の根拠が必要であるとする点は正しいものの、その根拠は民主主義の徹底にあります。自由主義を根拠とするのは侵害留保説です。学説と根拠の対応関係が問われる典型的な誤りです。
確認問題

旭川市国民健康保険条例事件において、最高裁は国民健康保険料を租税そのものであると判断し、憲法84条が直接適用されるとした。

○ 正しい × 誤り
解説
最高裁は、国民健康保険料は保険給付という反対給付を伴うものであり租税そのものではないとしつつ、賦課徴収の強制の度合い等の点で租税に類似する性質を有するものには憲法84条の趣旨が及ぶとしました。直接適用ではなく「趣旨が及ぶ」とした点が重要です。

まとめ

法律による行政の原理は、行政法の最も基本的な原理であり、行政書士試験で繰り返し出題される重要テーマです。

この原理は、法律の法規創造力(国民の権利義務に関する法規を定めるのは法律のみ)、法律の優位(行政活動は法律に違反してはならない)、法律の留保(一定の行政活動には法律の根拠が必要)の三つの内容から構成されます。法律の優位が消極的原則、法律の留保が積極的原則であるという対比は、択一問題で最も狙われるポイントです。

特に法律の留保については、その範囲をめぐって侵害留保説(通説)、全部留保説、権力留保説、社会留保説の四つの学説が対立しており、各学説の内容・根拠・批判を正確に理解することが求められます。範囲の広狭でいえば侵害留保説が最も狭く、全部留保説が最も広いという感覚を持っておくと整理しやすくなります。

また、法治主義(ドイツ由来)と法の支配(イギリス由来)の違いも頻出論点です。形式的法治主義は法律の内容を問わないのに対し、法の支配は実質的な正義を要求します。日本国憲法は法の支配の理念を基本原理として採用しています。

判例については、奈良県ため池条例事件(条例による財産権規制の合憲性)、個人タクシー事件(適正手続の要請)、旭川市国民健康保険条例事件(租税類似の負担への憲法84条の趣旨の及び方)の三つを、事案・判旨・意義のセットで押さえておきましょう。

関連論点として、次の記事もあわせて学習すると理解が深まります。

次の記事では、法律による行政の原理のもとで行われる行政活動の中核である「行政行為」について、その種類や効力を体系的に解説します。

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