/ 行政法

法律による行政の原理|法律の留保を図解で解説

法律による行政の原理を体系的に解説。法治主義と法の支配の違い、法律の法規創造力・法律の優位・法律の留保の三原則、侵害留保説など各学説の比較、重要判例を網羅し、行政書士試験の得点力を高めます。

はじめに|法律による行政の原理とは

法律による行政の原理(法治行政の原理)は、行政法の最も基本的な原理です。行政活動は法律に基づき、法律に従って行われなければならないという考え方であり、近代法治国家の根幹をなす原則です。

この原理は、行政権の行使を法律によってコントロールし、国民の権利・自由を保障することを目的としています。行政書士試験では、この原理の内容と各学説の理解が繰り返し問われるため、正確な知識が不可欠です。

本記事では、法治主義と法の支配の異同、法律による行政の原理の三つの内容、法律の留保をめぐる学説の対立、そして関連する重要判例を解説します。

法治主義と法の支配の違い

行政書士試験で頻出のテーマとして、ドイツ由来の「法治主義(法治国原理)」とイギリス・アメリカ由来の「法の支配」の比較があります。両者は重なる部分もありますが、歴史的な背景と核心部分が異なります。

法治主義(Rechtsstaat)

法治主義はドイツで発展した概念です。行政活動が法律に基づいて行われることを要求しますが、その法律の内容の当否は問わないのが形式的法治主義の特徴です。

  • 形式的法治主義: 行政活動が形式的に法律に適合していれば足りる。法律の内容の正当性は問わない
  • 実質的法治主義: 法律の内容も正義や人権に適合していなければならない。第二次大戦後のドイツ基本法のもとで採用

形式的法治主義のもとでは、法律の内容がいかに不当であっても、議会が制定した法律に基づいている限り、行政活動は「合法」とされます。この限界がナチス政権下で露呈したことは歴史的に重要です。

法の支配(Rule of Law)

法の支配はイギリスで発展した概念です。A.V.ダイシーが体系化したとされ、以下の要素を含みます。

  1. 専断的権力の排除: 政府は正規の法に基づいてのみ権力を行使しうる
  2. 法の前の平等: すべての人が通常の裁判所の管轄に服する
  3. 憲法の一般原則は裁判の結果である: 権利は裁判を通じて確立される(イギリス固有の特徴)

法の支配は法律の内容の正当性をも問うものであり、実質的な正義の実現を目指します。日本国憲法は法の支配の理念を基本原理として採用していると解されています。

両者の比較

項目形式的法治主義法の支配起源ドイツイギリス法律の内容問わない正当性を要求裁判所の役割行政裁判所通常裁判所違憲審査認めない(形式的)認める重視するもの形式的合法性実質的正義

日本国憲法のもとでは、実質的法治主義と法の支配の両方の要素が取り入れられています。行政法の解釈においても、単なる形式的合法性だけでなく、実質的な権利保障が重視されます。

法律による行政の原理の三つの内容

法律による行政の原理は、伝統的に以下の三つの内容から構成されると理解されています。

法律の法規創造力

法律の法規創造力とは、国民の権利義務に関する一般的な法規範(法規)を定立できるのは、国会が制定する法律(またはその委任に基づく命令)のみであるという原則です。

国会は、国権の最高機関であって、国の唯一の立法機関である。 ― 日本国憲法 第41条

この原則から、行政機関が法律の授権なしに独自に国民の権利義務に関するルールを定めることは許されません。ただし、法律の個別的な委任がある場合には、政令・省令(委任命令)で法規を定めることが認められます。

この原則は、行政立法の限界とも関連する重要な論点です。法律の委任なく国民の権利を制限する内容の行政規則(通達など)は、この原則に反することになります。

法律の優位

法律の優位とは、行政活動は法律に違反して行われてはならないという原則です。法律の優位は消極的な原則であり、法律に違反する行政活動を禁止するものです。

この原則は異論なく認められています。法律の優位に反する行政行為は違法となり、取消しの対象となります。また、法律に違反する行政立法(命令・規則)は無効です。

この憲法は、国の最高法規であって、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない。 ― 日本国憲法 第98条第1項

法律の留保

法律の留保とは、一定の行政活動を行うには法律の根拠が必要であるという原則です。法律の留保は積極的な原則であり、行政活動の法的根拠を要求するものです。

法律の優位が「法律に違反してはならない」という消極的な要請であるのに対し、法律の留保は「法律の根拠がなければならない」という積極的な要請です。

問題となるのは、「どの範囲の行政活動に法律の根拠が必要か」という点であり、この点について複数の学説が対立しています。

法律の留保をめぐる学説

法律の留保の範囲について、主に以下の四つの学説が主張されています。

侵害留保説(通説・判例)

侵害留保説は、国民の権利を制限し又は義務を課す行政活動(侵害的行政活動)には法律の根拠が必要であるとする立場です。

この説は、自由主義的法治国家の考え方に基づいており、行政法学の伝統的な通説です。給付行政(補助金の交付、公共施設の設置など)については、法律の根拠は不要と解します。

メリット: 行政の機動性を確保しつつ、国民の自由・財産を保護できる
批判: 給付行政が拡大した現代において、給付行政に法律の根拠を不要とするのは不十分ではないか

全部留保説

全部留保説は、すべての行政活動に法律の根拠が必要であるとする立場です。民主主義の徹底を根拠とします。

すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。 ― 日本国憲法 第13条

メリット: 民主主義的統制を徹底できる
批判: 行政活動のすべてに法律の根拠を要求すると、行政が硬直化し、機動的な対応ができなくなる

権力留保説

権力留保説は、権力的な行政活動には法律の根拠が必要であるとする立場です。侵害留保説を拡張したものといえます。

侵害留保説が「侵害的」かどうかで区別するのに対し、権力留保説は「権力的」かどうかで区別します。したがって、給付行政であっても権力的な形式(行政行為の形式)で行われる場合には法律の根拠が必要となります。

社会留保説(重要事項留保説)

社会留保説は、侵害的行政のみならず、給付行政についても、国民の基本権に重要な関わりを持つ行政活動には法律の根拠が必要であるとする立場です。ドイツの連邦憲法裁判所が採用した「本質性理論(Wesentlichkeitstheorie)」に対応するものです。

メリット: 現代行政の実態に即した柔軟な解決が可能
批判: 「重要事項」の範囲が不明確であり、基準としての明確性に欠ける

各学説の比較

学説法律の根拠が必要な範囲根拠侵害留保説侵害的行政活動自由主義全部留保説すべての行政活動民主主義権力留保説権力的行政活動自由主義の拡張社会留保説基本権に重要な関わりを持つ行政活動民主主義と自由主義の調和

行政書士試験においては、侵害留保説が通説・判例であることを前提としつつ、各学説の内容と根拠、批判を正確に理解しておくことが重要です。

法律の留保に関する判例

奈良県ため池条例事件(最大判昭和38年6月26日)

この判例は、法律の留保との関連で重要な判例です。奈良県のため池の保全に関する条例が、法律の委任なく財産権を制限していることが争われました。

最高裁は、ため池の堤とうに農作物を植えることを禁止し、違反者に罰則を科す条例について、「ため池の破損、決かいの原因となるため池の堤とうの使用行為は、憲法でも、民法でも適法な財産権の行使として保障されていないもの」として、条例による規制を合憲としました。

この判例は、条例による財産権制限の合憲性を認めたものとして重要です。条例も「法律」に準じるものとして法律の留保を満たしうることを示唆しています。

個人タクシー事件(最判昭和46年10月28日)

道路運送法に基づく個人タクシーの免許申請拒否処分が争われた事件です。最高裁は、法律が行政庁に裁量を認めている場合であっても、申請人に対する聴聞等の適正手続が要請されるとしました。

行政庁の裁量についても、基準の内容が合理的なものであり、かつ、その基準の適用が公平・公正に行われるべきことは当然であり、裁量にも限界がある。

この判例は、法律による行政の原理が形式的な法律の根拠のみならず、手続的保障をも要求することを示した重要判例です。

旭川市国民健康保険条例事件(最大判平成18年3月1日)

国民健康保険料の賦課について、条例で規定していれば法律の委任がなくても憲法84条(租税法律主義)に反しないかが争われた事件です。

最高裁は、国民健康保険料は租税ではないとしつつ、「賦課徴収の強制の度合い等の点において租税に類似する性質を有するものについては、憲法84条の趣旨が及ぶ」としました。そのうえで、条例で賦課要件が明確に規定されていれば、憲法84条の趣旨に反しないと判断しました。

この判例は、法律の留保の現代的適用として重要です。

法治主義に関連するその他の原則

行政の法律適合性

行政活動は法律に適合しなければなりません。法律に違反する行政行為は違法となり、取消しまたは無効の対象となります。この原則は法律の優位から導かれるものです。

法律の委任と白紙委任の禁止

法律は政令や省令に具体的な内容の定めを委任できますが、一般的・包括的な委任(白紙委任)は許されません。

内閣は、この憲法及び法律の規定を実施するために、政令を制定する。但し、政令には、特にその法律の委任がある場合を除いては、罰則を設けることができない。 ― 日本国憲法 第73条第6号

判例は、委任の範囲を具体的・個別的に定める必要があるとしています。罰則の委任については特に厳格な基準が適用されます(最大判昭和27年12月24日など)。

信義誠実の原則(信義則)と法律による行政の原理の関係

私法上の信義則が行政法関係にも適用されるかという問題があります。判例は、租税法律関係においても信義則の適用を一定の要件のもとで認めています(最判昭和62年10月30日・租税法律関係と信義則)。もっとも、法律による行政の原理との調和が必要であり、信義則の適用は例外的な場合に限定されます。

試験での出題ポイント

行政書士試験における法律による行政の原理の出題ポイントを整理します。

  1. 法治主義と法の支配の異同: 形式的法治主義と法の支配の違い(法律の内容を問うか否か、裁判所の役割、違憲審査の有無)が問われる。日本国憲法は法の支配の理念を採用している
  2. 法律の法規創造力・法律の優位・法律の留保の区別: 三つの内容を正確に区別できるようにする。特に法律の優位(消極的原則)と法律の留保(積極的原則)の違いは頻出
  3. 法律の留保の四つの学説: 侵害留保説・全部留保説・権力留保説・社会留保説の内容と根拠を正確に暗記する。通説は侵害留保説であることを忘れない
  4. 条例と法律の留保: 条例は「法律」に含まれるか、条例による権利制限の可否は重要論点
  5. 判例の正確な理解: 奈良県ため池条例事件、旭川市国民健康保険条例事件などの判旨を正確に押さえる
確認問題

法律の優位とは、一定の行政活動を行うには法律の根拠が必要であるという原則である。

○ 正しい × 誤り
解説
法律の優位とは、行政活動は法律に違反して行われてはならないという消極的な原則です。一定の行政活動に法律の根拠が必要であるという積極的な原則は「法律の留保」です。両者の区別は頻出論点です。
確認問題

法律の留保における侵害留保説は、国民の権利を制限し又は義務を課す行政活動(侵害的行政活動)に法律の根拠が必要であるとし、通説・判例の立場である。

○ 正しい × 誤り
解説
侵害留保説は、侵害的行政活動にのみ法律の根拠を要求する立場で、自由主義的法治国家の考え方に基づく伝統的な通説です。給付行政については法律の根拠は不要と解します。
確認問題

形式的法治主義は、行政活動が法律に基づいて行われることだけでなく、その法律の内容が正義に適合していることをも要求する。

○ 正しい × 誤り
解説
形式的法治主義は、行政活動が形式的に法律に適合していれば足りるとするもので、法律の内容の正当性は問いません。法律の内容も正義や人権に適合していなければならないとするのは「実質的法治主義」または「法の支配」の考え方です。

まとめ

法律による行政の原理は、行政法の最も基本的な原理であり、行政書士試験で繰り返し出題される重要テーマです。

この原理は、法律の法規創造力(国民の権利義務に関する法規を定めるのは法律のみ)、法律の優位(行政活動は法律に違反してはならない)、法律の留保(一定の行政活動には法律の根拠が必要)の三つの内容から構成されます。

特に法律の留保については、その範囲をめぐって侵害留保説(通説)、全部留保説、権力留保説、社会留保説の四つの学説が対立しており、各学説の内容・根拠・批判を正確に理解することが求められます。

また、法治主義(ドイツ由来)と法の支配(イギリス由来)の違いも頻出論点です。形式的法治主義は法律の内容を問わないのに対し、法の支配は実質的な正義を要求します。日本国憲法は法の支配の理念を基本原理として採用しています。

次の記事では、法律による行政の原理のもとで行われる行政活動の中核である「行政行為」について、その種類や効力を体系的に解説します。

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