詐害行為取消権の要件と効果|改正の重要ポイント
詐害行為取消権の要件(被保全債権・詐害行為・受益者の悪意)と改正民法で変わったポイントを詳しく解説。行使方法の訴え限定、相対効の明確化、期間制限の変更など行政書士試験の出題傾向に沿って整理します。
はじめに|詐害行為取消権は債権者代位権と並ぶ保全手段
詐害行為取消権(債権者取消権)は、債務者が債権者を害する法律行為(詐害行為)を行った場合に、債権者がその行為の取消しを裁判所に請求できる制度です。債権者代位権と並んで、債務者の責任財産を保全するための制度として位置づけられます。
改正民法では、詐害行為取消権に関する規定が大幅に整備されました。要件の明確化、行使方法の訴え限定、効果の相対効の明確化、期間制限の変更など、多くの改正がなされています。
本記事では、改正後の詐害行為取消権の要件と効果を中心に解説し、改正のポイントを整理します。行政書士試験では、改正で新設・明文化された条文(424条の2から425条の4まで)が繰り返し問われており、債権者代位権との比較や、相当価格処分行為・偏頗行為といった類型ごとの要件の違いが頻出ポイントになっています。条文の数が多く、かつ要件が細かいため、暗記に頼ると混乱しやすい分野ですが、「なぜその要件が課されるのか」という趣旨から整理すると一気に見通しが良くなります。
詐害行為取消権の制度趣旨
詐害行為取消権は、債権の効力の一つである「責任財産保全機能」を実現するための制度です。債権者は、債務者が任意に弁済しない場合、最終的には強制執行によって債務者の財産から満足を得ます。この強制執行の引き当てとなる債務者の財産を「責任財産」と呼びます。
ところが、債務者が自らの財産を第三者に贈与したり、不当に安く売り払ったりして責任財産を減らしてしまうと、債権者は強制執行をしても十分な満足を得られなくなります。そこで、債権者を害するような財産の流出(詐害行為)について、これを取り消して責任財産を取り戻す(逸出財産を回復する)権利が詐害行為取消権です。
ここで重要なのは、詐害行為取消権が他人(債務者)の法律行為を取り消すという強力な効果を持つ点です。本来、契約は当事者を拘束するのが原則であり、第三者である債権者がこれを覆すのは例外的な事態です。さらに、取引の相手方である受益者は、いったん有効に取得した財産を奪われることになります。そのため、取引の安全と債権者保護のバランスをどう取るかが制度全体を貫く視点であり、受益者の悪意要件や類型ごとの加重要件は、すべてこのバランス調整として理解できます。
詐害行為取消権の法的性質については、かつて形成権説・請求権説・折衷説(責任説を含む)が激しく対立していました。判例は、取消しという形成的効果と財産の取戻しという給付的効果を併有するとする折衷説に立つと理解されてきました。改正民法はこの判例の枠組みを基本的に維持しつつ、効果について大幅な明文整備を行っています。
詐害行為取消権の意義
債権者代位権との違い
債権者代位権は、債務者が権利を行使しない「不作為」に対する保全手段です。これに対し、詐害行為取消権は、債務者が積極的に責任財産を減少させる「作為」に対する保全手段です。
両制度の共通点と相違点を深掘りする
両制度はいずれも責任財産保全のための制度であり、債務者の無資力を共通の要件とします。被保全債権が金銭債権であること(または金銭債権に転化しうるものであること)が原則である点も共通します。
一方で、行使方法は大きく異なります。債権者代位権は裁判外でも行使でき、相手方(第三債務者)に直接権利を行使できますが、詐害行為取消権は必ず訴えによらなければなりません。これは、すでに成立した取引を覆すという重大な効果を伴うため、裁判所の審理を経て慎重に判断させる趣旨です。
また、両制度ともに金銭の支払や動産の引渡しを目的とする場合には、債権者は自己への直接の支払・引渡しを求めることができます(債権者代位権につき423条の3、詐害行為取消権につき424条の9)。この点で、債権者は事実上の優先弁済(取り戻した財産を自己の債権と相殺して回収する)を受けられることになり、平等弁済を建前とする制度趣旨との緊張関係が生じます。試験では「直接自己への引渡しを請求できる」という結論と、それが平等弁済の例外的取扱いになっている点を押さえておきましょう。
条文(424条1項)
債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした行為の取消しを裁判所に請求することができる。ただし、その行為によって利益を受けた者(以下この款において「受益者」という。)がその行為の時において債権者を害することを知らなかったときは、この限りでない。
― 民法 第424条第1項
この条文には、詐害行為取消権の基本的な枠組みがすべて凝縮されています。すなわち、(1)債権者(被保全債権の存在)、(2)債務者が債権者を害することを知ってした行為(詐害行為+債務者の詐害意思)、(3)裁判所に請求(訴えによる行使)、(4)ただし書による受益者の善意の抗弁(受益者の悪意要件)という4つの要素です。改正法は、この1項を出発点として、類型ごとの特則(424条の2以下)を順に配置する構造を採っています。
詐害行為取消権の要件
詐害行為取消権の要件は、(1)被保全債権に関する要件、(2)詐害行為に関する客観的要件、(3)債務者の主観(詐害意思)、(4)受益者の主観(悪意)に整理できます。転得者に対して行使する場合は、さらに転得者の悪意が加わります。
要件整理表
要件1: 被保全債権が存在すること
詐害行為取消権の被保全債権は、原則として金銭債権です。
特定物の引渡しを目的とする債権(特定物債権)であっても、それが究極において金銭債権(損害賠償債権など)に転化しうるものであれば、被保全債権になりうるとされています。これは判例(最大判昭和36年7月19日)が認めた立場で、改正前から確立しています。たとえば、不動産の二重譲渡で第一買主の所有権移転登記請求が果たせなくなる場合、その登記請求権の保全のために詐害行為取消権を行使できるかが問題となりますが、判例は、特定物債権も最終的に損害賠償債権に転じうる以上、債務者の一般財産によって保全される必要があると述べ、これを肯定しています。
特定物債権といえどもその目的物を債務者が処分することにより無資力となった場合には、該特定物債権者は右債務者の処分行為を詐害行為として取り消すことができるものと解するを相当とする。
― 最大判昭和36年7月19日
ただし、この場合でも被保全債権が最終的には金銭的価値に還元される点に変わりはなく、取消しによって回復されるのは責任財産です。第一買主が登記そのものを自己に移転させるよう請求できるわけではない点に注意が必要です。
被保全債権の発生時期の制限(424条3項)
債権者は、その債権が第1項に規定する行為の前の原因に基づいて生じたものである場合に限り、同項の規定による請求(以下「詐害行為取消請求」という。)をすることができる。
― 民法 第424条第3項
被保全債権は、詐害行為の前の原因に基づいて生じたものでなければなりません。詐害行為後に発生した債権の債権者は、詐害行為取消権を行使できません。
ここでのポイントは、条文が「債権が行為の前に生じた」ではなく「行為の前の原因に基づいて生じた」と規定している点です。これは、債権そのものの成立時期が詐害行為の後であっても、その発生原因が詐害行為の前に存在していれば足りるという趣旨です。たとえば、詐害行為の前に締結された契約から後に具体的な債権が発生したような場合、その債権は被保全債権となりえます。これは改正前の判例の立場(債権成立の基礎となる法律関係が行為前に存在すれば足りる)を明文化したものと理解されています。
なぜこのような時期制限があるかというと、債権者が責任財産をあてにできるのは、その債権を取得した時点で存在していた財産だからです。債権取得後に債務者が積極的に財産を流出させた場合に限って、債権者の期待が裏切られたといえるのであり、債権者が後から登場したにすぎない場合まで過去の取引を覆させる必要はない、という考え方です。
強制執行可能な債権であること(424条4項)
被保全債権が強制執行により実現できないものであるときは、詐害行為取消請求をすることができません。詐害行為取消権は、最終的に責任財産から強制執行で満足を得るための前段階の制度ですから、そもそも強制執行ができない債権(たとえば自然債務や、不執行の合意がある債権)については、責任財産を保全する意味がないからです。
要件2: 債務者が「債権者を害する行為」をしたこと
客観的要件(詐害行為性)
債務者の行為が「債権者を害する」とは、その行為により債務者の責任財産が減少し、債権者が十分な弁済を受けられなくなることをいいます。具体的には、行為の結果として債務者が無資力(債務超過)になる、または既に無資力の状態がさらに悪化することが必要です。
無資力の判断時期について、判例・通説は、詐害行為の時点と取消権行使(事実審の口頭弁論終結)の時点の両方で無資力であることを要するとしています。詐害行為の時点では無資力でも、その後に債務者が資力を回復していれば、債権者を害する状態は解消されているため、取消しを認める必要がないからです。
詐害行為の対象となる行為
詐害行為取消権の対象は「財産権を目的とする行為」です(424条2項)。
前項の規定は、財産権を目的としない行為については、適用しない。
― 民法 第424条第2項
したがって、婚姻・離婚・養子縁組・相続放棄といった身分行為は、財産権を目的としないため、原則として取消しの対象になりません。判例は、相続放棄は詐害行為取消権の対象とならないとしています(最判昭和49年9月20日)。相続放棄は、積極的に財産を減少させる行為ではなく、財産の増加を消極的に拒む行為にすぎないこと、また身分行為としての性質を重視すべきことが理由です。
相続の放棄のような身分行為については、民法424条の詐害行為取消権行使の対象とならないと解するのが相当である。
― 最判昭和49年9月20日
一方で、財産分与については、原則として詐害行為取消権の対象とならないものの、不相当に過大であり財産分与に仮託してされた財産処分と認められる特段の事情がある場合には、その不相当に過大な部分について取消しの対象となりうるとされています(最判昭和58年12月19日、最判平成12年3月9日)。また、遺産分割協議は財産権を目的とする行為として詐害行為取消権の対象となりうるとするのが判例です(最判平成11年6月11日)。相続放棄と遺産分割協議で結論が分かれる点は、行政書士試験でも狙われやすいので明確に区別しておきましょう。
詐害行為の類型と改正による明文化
改正民法では、詐害行為の類型に応じた要件が条文で明確化されました。改正前は判例法理によって個別に処理されていた論点を、行為の客観的な害性の程度に応じて要件を加重する形で整理したものです。原則として、害性が低い行為ほど、取消しのために債務者・受益者の主観的な悪質性(通謀的害意など)が強く要求される構造になっています。
相当価格処分行為(424条の2)
不動産を相当な価格で売却する行為のように、財産の種類が変わるだけで総額が減少しない行為について、以下のすべてを満たす場合に限り取消しが認められます。
- その行為が、不動産の金銭への換価その他の当該処分による財産の種類の変更により、債務者において隠匿、無償の供与その他の債権者を害することとなる処分(隠匿等の処分)をするおそれを現に生じさせるものであること
- 債務者が、その行為の当時、対価として取得した金銭その他の財産について、隠匿等の処分をする意思を有していたこと
- 受益者が、その行為の当時、債務者が隠匿等の処分をする意思を有していたことを知っていたこと
債務者が、その有する財産を処分する行為をした場合において、受益者から相当の対価を取得しているときは、債権者は、次に掲げる要件のいずれにも該当する場合に限り、その行為について、詐害行為取消請求をすることができる。
― 民法 第424条の2
相当な対価を得ている以上、形式的には責任財産の総額は減っていません。それでも取消しを認めるのは、不動産のような捕捉しやすい財産を、隠しやすい金銭に変えてしまうこと自体が債権者にとって不利益だからです。そのため、(1)財産が隠匿しやすくなる客観的おそれ、(2)債務者の隠匿意思、(3)受益者がその意思を知っていたこと、という重い要件が課されています。これは改正前の判例(不動産の売却は原則詐害行為だが、生活費・営業資金の確保など正当な目的の弁済への充当は詐害行為にならないとした判例など)の考え方を、より制限的な方向で明文化したものといえます。
特定の債権者に対する担保供与・弁済(偏頗行為、424条の3)
既存の債務に対する担保供与や弁済は、本来は責任財産の総額を減少させるものではなく(債務が減るのと引き換えに財産が出ていく)、特定の債権者への優先的な満足を与えるにすぎないため、原則として詐害行為にあたりません。しかし、債務者の財産状態が危機的な局面では、特定の債権者だけを優遇する行為(偏頗行為)は他の債権者を害するため、以下の場合には取消しが認められます。
債務者がした既存の債務についての担保の供与又は債務の消滅に関する行為について、債権者は、次に掲げる要件のいずれにも該当する場合に限り、詐害行為取消請求をすることができる。
一 その行為が、債務者が支払不能(債務者が、支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済することができない状態をいう。次条第1項第二号において同じ。)の時に行われたものであること。
二 その行為が、債務者と受益者とが通謀して他の債権者を害する意図をもって行われたものであること。
― 民法 第424条の3第1項
- 支払不能の時になされた行為であること
- 債務者と受益者が通謀して他の債権者を害する意図で行ったこと(通謀的害意)
さらに、その行為が債務者の義務に属せず、又はその時期が債務者の義務に属しないもの(非義務行為。たとえば本来の弁済期前の弁済や、約定にない担保の供与)である場合には、要件が緩和され、支払不能になる前30日以内に行われたものであっても取消しの対象となります(424条の3第2項)。義務がないのにあえて特定の債権者を優遇する行為は害性が高いため、時期の要件が前倒しされているわけです。
ここで「支払不能」は、破産法上の概念と同様、支払能力を欠くために弁済期にある債務を一般的・継続的に弁済できない状態を指します。単なる一時的な資金不足とは区別される点に注意しましょう。
過大な代物弁済等(424条の4)
債務額を超える財産による代物弁済などは、その超過部分について取消しを請求できます。
債務者がした債務の消滅に関する行為であって、受益者の受けた給付の価額がその行為によって消滅した債務の額より過大であるものについて、第424条に規定する要件に該当するときは、債権者は、前条第1項の規定にかかわらず、その消滅した債務の額に相当する部分以外の部分については、第424条に規定する要件に該当することをもって、詐害行為取消請求をすることができる。
― 民法 第424条の4
代物弁済は債務消滅行為(偏頗行為)の性質を持ちますが、給付した財産の価額が消滅した債務額を上回る「過大」な部分は、もはや弁済ではなく実質的に責任財産を無償で減少させる行為に近くなります。そこで、過大な部分については424条の3の重い要件(通謀的害意等)ではなく、424条本来の一般的な要件(詐害意思+受益者の悪意)で取消しができるとされています。たとえば、200万円の債務の弁済として時価500万円の不動産を引き渡した場合、超過する300万円相当の部分について取消しを請求できることになります。
要件3: 債務者の詐害意思
債務者が「債権者を害することを知ってした」行為であることが必要です。債務者に詐害の認識があれば足り、債権者を害する積極的な意図(害意)までは不要とされるのが原則です。
もっとも、前述のとおり、相当価格処分行為(424条の2)や偏頗行為(424条の3)では、行為の客観的な害性が低いことの裏返しとして、債務者の隠匿意思や通謀的害意といった、より強い主観的要件が個別に要求されます。「詐害意思は認識で足りる」という原則と、類型ごとに主観的要件が加重される例外をセットで理解しておくことが重要です。
要件4: 受益者の悪意(424条1項ただし書)
受益者が行為の時において「債権者を害することを知らなかった」場合は、取消権は認められません。つまり、受益者の悪意が要件です。
ただし書の文言から明らかなように、受益者の善意は取消しを否定する側(受益者)が主張・立証すべき事項です。すなわち、債権者は受益者の悪意を積極的に立証する必要はなく、受益者の側が「自分は善意だった」ことを抗弁として主張・立証しなければなりません。立証責任の所在は試験で問われやすいので、「受益者の善意は抗弁=受益者が立証」と覚えておきましょう。
要件5: 転得者への行使の場合(424条の5)
受益者からさらに財産を譲り受けた者(転得者)に対して詐害行為取消権を行使する場合は、転得者が転得の当時、債務者がした行為が債権者を害することを知っていたことが必要です。さらに、転得者の前者(受益者又は他の転得者)についてもそれぞれ悪意であることが必要です。
債権者は、受益者に対して詐害行為取消請求をすることができる場合において、受益者に移転した財産を転得した者があるときは、次の各号に掲げる区分に応じ、それぞれ当該各号に定める場合に限り、その転得者に対しても、詐害行為取消請求をすることができる。
― 民法 第424条の5
ここで重要なのは、転得者に対する行使の要件として、転得者自身の悪意のみならず、その前にいるすべての者(受益者・中間転得者)が悪意であることが必要とされる点です。つまり、間に一人でも善意の者が介在すると、その時点で財産は確定的に善意者のもとに帰属するため、それ以降の悪意の転得者に対しても取消しはできません。これは取引の安全を重視した規律で、改正前の判例(善意者が介在しても悪意の転得者に対して取消しを認めた立場)を変更した点として極めて重要です。
立証責任についても受益者の場合と異なります。受益者では善意が抗弁(受益者が立証)ですが、転得者に対する行使では、転得者の悪意を債権者の側が立証しなければなりません。条文が「知っていたとき」と積極的に規定しているためです。立証責任の所在が受益者と転得者で逆転している点は、ひっかけの典型なので注意してください。
詐害行為取消権の行使方法
訴えによる行使(裁判上のみ)
詐害行為取消権は、必ず訴えによって行使しなければなりません。裁判外での行使は認められません。これは、すでに成立した法律行為を覆すという重大な効果を伴うため、裁判所の審理を通じて慎重に判断させ、法律関係の安定を図る趣旨です。
債権者は、その債権が第424条第1項に規定する行為の前の原因に基づいて生じたものである場合に限り、同項の規定による請求をすることができる。
(行使は訴えによる旨は424条の7・425条等の構造から導かれる)
この「裁判外で行使できない」という点は、裁判外でも行使できる債権者代位権との最大の違いであり、出題の定番です。
被告
- 受益者に対する場合: 受益者が被告
- 転得者に対する場合: 転得者が被告
改正前は債務者を被告とする見解もありましたが、改正後は受益者又は転得者のみが被告となります。債務者は被告とならない点が条文で明確化されました(424条の7第1項)。
詐害行為取消請求に係る訴えについては、次の各号に掲げる区分に応じ、それぞれ当該各号に定める者を被告とする。
一 受益者に対する詐害行為取消請求に係る訴え 受益者
二 転得者に対する詐害行為取消請求に係る訴え その詐害行為取消請求の相手方である転得者
― 民法 第424条の7第1項
訴訟告知義務(424条の7第2項)
債権者は、詐害行為取消請求に係る訴えを提起したときは、遅滞なく、債務者に対し、訴訟の告知をしなければならない。
― 民法 第424条の7第2項
詐害行為取消訴訟を提起した場合、債権者は遅滞なく債務者に訴訟告知をしなければなりません。これは、改正により認容判決の効力が債務者にも及ぶこととされた(425条)ことに対応する手続的保障です。判決の効力を受ける債務者に、訴訟に関与する機会(補助参加など)を与えるための仕組みであり、改正の目玉の一つです。
取消しの範囲(424条の8)
取消しの範囲は、債権者の被保全債権の額の限度に制限されます。
債権者は、詐害行為取消請求をする場合において、債務者がした行為の目的が可分であるときは、自己の債権の額の限度においてのみ、その行為の取消しを請求することができる。
― 民法 第424条の8第1項
行為の目的が可分であるとき(たとえば金銭の支払)は、債権者は自己の債権額の限度でしか取消しを請求できません。これは、詐害行為取消権が責任財産の保全を目的とする以上、保全に必要な範囲を超えて取引を覆すべきではないという考え方によります。逆に、目的物が不可分(一個の不動産など)の場合は、債権額を超えていても全部について取消しを請求できます。
直接の引渡し請求(424条の9)
債権者は、取消しとともに財産の返還を請求する場合において、その返還の目的が金銭の支払又は動産の引渡しであるときは、受益者・転得者に対し、直接自己に対してその支払又は引渡しをするよう求めることができます。
債権者は、第424条の6第1項前段又は第2項前段の規定により受益者又は転得者に対して財産の返還を請求する場合において、その返還の請求が金銭の支払又は動産の引渡しを求めるものであるときは、受益者に対してその支払又は引渡しを、転得者に対してその引渡しを、自己に対してすることを求めることができる。
― 民法 第424条の9第1項前段
不動産の場合は、債務者名義への登記の回復を求めることになり、債権者が自己名義への移転を求めることはできません。動産・金銭との取扱いの違いに注意しましょう。なお、金銭の直接引渡しを受けた債権者は、債務者への返還債務と自己の被保全債権とを相殺することで、事実上の優先弁済を受けられます。
詐害行為取消権の効果
認容判決の効力(425条)
詐害行為取消請求を認容する確定判決は、債務者及びその全ての債権者に対してもその効力を有する。
― 民法 第425条
改正前の判例は、詐害行為取消権の効果は相対効であるとしていました。すなわち、取消しの効果は債権者と受益者・転得者の間でのみ生じ、債務者には及ばないとされていました(大連判明治44年3月24日以来の確立した判例)。この相対効構成は、債務者が訴訟に関与していないのに不利益を受けるのは妥当でないという配慮に基づくものでしたが、その結果、取消しの効果が債務者に及ばないことから、取り戻した財産の帰属関係が技巧的・不明確になるという批判がありました。
改正後は、425条により認容判決の効力が債務者及びすべての債権者にも及ぶことが明文化されました。これにより、取り戻された財産は債務者の責任財産に復帰し、他の債権者もこれに対して強制執行をかけられることが明確になりました。ただし、債務者の手続保障のために前述の訴訟告知義務(424条の7第2項)が課されています。
なお、425条は「判決の効力が及ぶ」と規定するものであり、取消しの効果自体が当然に絶対効になったわけではない点には注意が必要です。改正法は相対効か絶対効かという理論的な対立に決着をつける形ではなく、判決効の主観的範囲を拡張するという実務的な手当てを行ったものと理解されています。
返還の方法(424条の6)
取消しが認められた場合、受益者又は転得者は財産を返還しなければなりません。
債権者は、受益者に対する詐害行為取消請求において、債務者がした行為の取消しとともに、その行為によって受益者に移転した財産の返還を請求することができる。受益者がその財産の返還をすることが困難であるときは、債権者は、その価額の償還を請求することができる。
― 民法 第424条の6第1項
- 現物返還が原則: 逸出した財産そのものの返還
- 価額償還: 現物返還が困難な場合は、その価額を償還(424条の6第1項後段・第2項後段)
受益者の反対給付の返還請求権(425条の2)
詐害行為(たとえば売買)が取り消されると、受益者は取得した財産を返還しますが、他方で受益者が債務者に支払った代金等の反対給付については、受益者が債務者に対してその返還を請求できます。
債務者がした財産の処分に関する行為(債務の消滅に関する行為を除く。)が取り消されたときは、受益者は、債務者に対し、その財産を取得するためにした反対給付の返還を請求することができる。債務者がその反対給付の返還をすることが困難であるときは、受益者は、その価額の償還を請求することができる。
― 民法 第425条の2
取消しの効果が債務者にも及ぶこととされたため(425条)、受益者と債務者の間の清算関係を明文で整理する必要が生じ、425条の2から425条の4が新設されました。これらは改正前は判例・解釈に委ねられていた部分であり、改正による明文化の代表例です。
受益者の債権の回復(425条の3)
債務者がした債務消滅行為(弁済など)が取り消され、受益者が債務者から受けた給付を返還したとき(または価額を償還したとき)は、受益者の債務者に対する債権は原状に復します。
債務者がした債務の消滅に関する行為が取り消された場合(第424条の4の規定により取り消された場合を除く。)において、受益者が債務者から受けた給付を返還し、又はその価額を償還したときは、受益者の債務者に対する債権は、これによって原状に復する。
― 民法 第425条の3
弁済が取り消されると形式的には債務が消えていない状態に戻るため、受益者が弁済として受け取ったものを返した場合には、消えたはずの債権が復活するという当然の帰結を明文化したものです。
転得者の反対給付の返還請求権等(425条の4)
転得者に対する取消しが認められた場合、転得者は、その前者である受益者(または前の転得者)に対して行使できたはずの反対給付返還請求権・債権回復の限度で、債務者に対して権利を行使できます。
債務者がした行為が転得者に対する詐害行為取消請求によって取り消されたときは、その転得者は、次の各号に掲げる区分に応じ、それぞれ当該各号に定める権利を行使することができる。ただし、その転得者がその前者から財産を取得するためにした反対給付又はその前者から財産を取得することによって消滅した債権の価額を限度とする。
― 民法 第425条の4
転得者が二重に不利益を受けないよう、清算関係を整える趣旨です。条文の細部までは深入りせず、「転得者にも前者に対する反対給付返還の限度で債務者への権利行使が認められる」という方向性を押さえれば十分でしょう。
期間制限(426条)
詐害行為取消請求に係る訴えは、債務者が債権者を害することを知って行為をしたことを債権者が知った時から2年を経過したときは、提起することができない。行為の時から10年を経過したときも、同様とする。
― 民法 第426条
改正前は主観的期間が2年、客観的期間が20年でしたが、改正により客観的期間が20年から10年に短縮されました。これらは出訴期間(出訴期間=提訴できる期間の制限)と解されています。改正前の426条は「時効によって消滅する」という文言を用いていましたが、改正法は「訴えは……提起することができない」という出訴期間の規定に改められています。条文の文言が時効から出訴期間に変わった点も、細かいですが正確に押さえておくと安心です。
主観的期間(2年)の起算点は、債権者が「債務者が債権者を害することを知って行為をしたこと」を知った時です。単に行為があったことを知っただけでは足りず、詐害の事実(債務者の詐害意思を含む)を知ることが必要である点に注意しましょう。
改正のポイントまとめ
頻出論点・よくある誤解
誤解1: 「詐害行為取消権は裁判外でも行使できる」
誤りです。詐害行為取消権は必ず訴えによらなければなりません。裁判外でも行使できるのは債権者代位権です。両者を取り違えるのが典型的な失点パターンです。
誤解2: 「債務者を被告とする」
誤りです。改正後、被告は受益者または転得者であり、債務者は被告となりません。ただし、債務者には訴訟告知をしなければならず、認容判決の効力が及びます。「被告ではないが判決効は及ぶ」という関係を正確に押さえましょう。
誤解3: 「受益者の悪意は債権者が立証する」
不正確です。受益者の善意は受益者の側が抗弁として立証します(424条1項ただし書)。一方、転得者の悪意は債権者が立証します(424条の5)。立証責任が受益者と転得者で逆転している点に注意が必要です。
誤解4: 「相続放棄も詐害行為取消しの対象になる」
誤りです。相続放棄は財産権を目的としない身分行為であり、詐害行為取消権の対象になりません(最判昭和49年9月20日)。一方、遺産分割協議は対象となりうる(最判平成11年6月11日)ので、両者を区別しましょう。
誤解5: 「相当価格で売却した行為は責任財産が減らないから常に取り消せない」
不正確です。相当な対価を得ていても、隠匿等の処分のおそれ・債務者の隠匿意思・受益者の悪意という要件を満たせば取り消せます(424条の2)。総額が減らなくても、捕捉しやすい財産を隠しやすい金銭に変える点に害性があるからです。
過去問で問われる角度
行政書士試験では、次のような切り口が繰り返し問われています。
- 債権者代位権との比較: 行使方法(裁判外の可否)、効果の及ぶ範囲、無資力要件の要否を対比させる出題。
- 被保全債権の発生時期: 「行為の前の原因に基づいて生じた」という424条3項の要件。詐害行為後に取得した債権では行使できない。
- 詐害行為の対象: 相続放棄(対象外)と遺産分割協議(対象)の区別、財産分与の原則と例外。
- 改正点の確認: 客観的期間の20年→10年への短縮、訴訟告知義務、判決効の拡張、転得者への行使要件の変更。
- 行使の効果: 直接自己への支払・引渡し請求(金銭・動産)と、不動産では債務者への登記回復にとどまること。
数値・期間(2年/10年)、立証責任の所在(受益者の善意は抗弁・転得者の悪意は債権者立証)、被告の特定(受益者・転得者であって債務者ではない)は、いずれも一問一答形式で問われやすい暗記ポイントです。
関連論点
詐害行為取消権を学ぶ際は、責任財産保全のもう一つの制度である債権者代位権とセットで理解すると効果的です。また、債務者の無資力という共通要件は、債権総論全体を貫く重要概念です。改正民法では債権分野全般で多くの明文化・変更がなされており、横断的に学習することで知識が定着します。
詐害行為取消権は、裁判外で行使することもできる。
改正民法では、詐害行為取消請求に係る訴えの客観的期間(行為の時からの期間)が20年から10年に短縮された。
詐害行為取消請求を認容する確定判決の効力は、訴訟の当事者間にのみ生じ、債務者やその他の債権者には及ばない。
相続の放棄は、債務者の責任財産を減少させる行為であるから、詐害行為取消権の対象となる。
転得者に対して詐害行為取消請求をするには、その転得者が悪意であればよく、間に介在する受益者が善意であっても取消しを請求できる。
まとめ
詐害行為取消権は、債務者の積極的な責任財産の減少に対する保全手段です。
- 要件: 被保全債権の存在(行為前の原因・強制執行可能)、詐害行為(無資力・財産権を目的とする行為)、債務者の詐害意思、受益者の悪意。転得者への行使には前者全員の悪意が必要。
- 類型: 相当価格処分行為(424条の2)・偏頗行為(424条の3)・過大代物弁済(424条の4)で要件が加重・調整される。
- 行使方法: 訴えによる(裁判外不可)。被告は受益者・転得者であって債務者ではないが、債務者には訴訟告知が必要。
- 効果: 認容判決は債務者・全債権者に及ぶ(425条)。金銭・動産は直接自己への引渡しを請求できる。
- 期間制限: 知った時から2年、行為の時から10年(出訴期間)。
改正で多くの論点が明文化されたため、新しい条文(424条の2〜425条の4)の正確な内容を把握することが試験対策の鍵です。あわせて、責任財産保全制度として対をなす制度や、債務者の無資力という共通要件を横断的に学習すると、知識が体系的に整理されます。
関連記事として、同じ民法・債権分野の論点や、行政書士試験の他カテゴリの基本論点もあわせて確認しておくとよいでしょう。
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