債務引受|併存的・免責的の違いを比較表で整理
併存的債務引受と免責的債務引受の要件・効果を比較表で整理。2020年改正民法で明文化された債務引受の制度と、契約上の地位の移転(539条の2)を行政書士試験の出題ポイントに沿って解説します。
はじめに|改正で明文化された債務引受
債務引受とは、債務者が負っている債務を第三者(引受人)が引き受ける制度です。改正前の民法には債務引受に関する明文規定がありませんでしたが、判例・学説で認められてきた制度であり、2020年施行の改正民法で初めて条文が整備されました。
行政書士試験では、改正民法の重要テーマとして出題が見込まれます。併存的債務引受と免責的債務引受の違いを正確に理解し、契約上の地位の移転(539条の2)とあわせて学習しましょう。
債務引受の全体像
債務引受の2つの類型
債務引受には、以下の2つの類型があります。
改正の経緯
改正前民法には債務引受に関する規定がなく、判例と学説によって認められてきました。改正民法(2020年4月1日施行)は、併存的債務引受を第470条・第471条に、免責的債務引受を第472条から第472条の4に規定し、制度を明文化しました。
併存的債務引受(470条・471条)
意義
併存的債務引受とは、引受人が債務者と連帯して同一内容の債務を負担する形態です。債務者は引き続き債務を負い、引受人が新たに加わります。
成立方法
併存的債務引受は、以下の2つの方法で成立します。
債権者と引受人の契約(470条2項)
併存的債務引受は、債権者と引受人となる者との契約によってすることができる。 ― 民法 第470条第2項
債務者の意思に反しても成立します。これは、債権者にとって債務者が増えることは有利であり、債務者にとっても不利益はないと考えられるためです。
債務者と引受人の契約(470条3項)
併存的債務引受は、債務者と引受人となる者との契約によってもすることができる。この場合において、併存的債務引受は、債権者が引受人となる者に対して承諾をした時に、その効力を生ずる。 ― 民法 第470条第3項
債務者と引受人の契約による場合は、債権者の承諾が効力発生要件です。ただし、債権者が承諾をした時点で効力が生じ、遡及効はありません。
効果
連帯債務の規定の準用
併存的債務引受における引受人の債務は、債務者の債務と連帯債務の関係に立ちます(民法第470条第1項後段)。
引受人は、債務者と連帯して、債務者が債権者に対して負担する債務と同一の内容の債務を負担する。 ― 民法 第470条第1項
引受人の抗弁
引受人は、併存的債務引受により負担した自己の債務について、その効力が生じた時に債務者が主張することができた抗弁をもって債権者に対抗することができます(民法第471条第1項)。
例えば、債務引受の効力発生時に原債務について同時履行の抗弁権がある場合、引受人もその抗弁を主張できます。
引受人の取消権・解除権
債務者が債権者に対して取消権又は解除権を有するときは、引受人は、これらの権利の行使によって債務者が免れるべき限度において、債権者に対して債務の履行を拒むことができます(民法第471条第2項)。引受人自身が取消しや解除を行えるのではなく、履行拒絶権を有するにとどまる点に注意してください。
免責的債務引受(472条〜472条の4)
意義
免責的債務引受とは、引受人が債務者に代わって債務を負担し、元の債務者が免責される形態です。
成立方法
免責的債務引受は、以下の2つの方法で成立します。
債権者と引受人の契約(472条2項)
免責的債務引受は、債権者と引受人となる者との契約によってすることができる。この場合において、免責的債務引受は、債権者が債務者に対してその契約をした旨を通知した時に、その効力を生ずる。 ― 民法 第472条第2項
債権者と引受人の契約で成立しますが、債務者への通知が効力発生要件です。
債務者と引受人の契約(472条3項)
免責的債務引受は、債務者と引受人となる者が契約をし、債権者が引受人となる者に対して承諾をすることによってもすることができる。 ― 民法 第472条第3項
債務者と引受人の契約に加え、債権者の承諾が効力発生要件です。免責的債務引受では債権者が債務者を失うことになるため、いずれの方法でも債権者の関与が必要とされています。
効果
債務者の免責
免責的債務引受の効力が生じると、引受人が債務者の債務と同一の内容の債務を負担し、債務者は自己の債務を免れます(民法第472条第1項)。
引受人の抗弁
引受人は、免責的債務引受により負担した自己の債務について、その効力が生じた時に債務者が主張することができた抗弁をもって債権者に対抗することができます(民法第472条の2第1項)。
引受人の取消権・解除権
併存的債務引受と同様、引受人は、債務者が取消権・解除権を有するとき、債務者が免れるべき限度で履行を拒むことができます(民法第472条の2第2項)。
担保の移転(472条の4)
免責的債務引受の最も重要な論点の一つが担保の移転です。
担保権の移転
債権者は、免責的債務引受により引受人が負担した債務について、引受人が設定した担保権のほか、引受人以外の者が設定した担保権を引受人の債務に移すことができます。ただし、引受人以外の者が設定した担保権の移転については、その者の承諾が必要です(民法第472条の4第1項・第2項)。
保証の移転
免責的債務引受に伴い、保証人の保証債務を引受人の債務に移転させるには、保証人の書面又は電磁的記録による承諾が必要です(民法第472条の4第3項)。
試験のポイント: 担保権の移転は「担保設定者の承諾」、保証の移転は「保証人の書面等による承諾」が必要です。いずれも引受人以外の第三者の保護のための規定です。
併存的債務引受と免責的債務引受の比較表
契約上の地位の移転(539条の2)
意義
契約上の地位の移転とは、契約の一方当事者が、契約上の地位(権利義務の一切)を第三者に移転する制度です。改正民法で初めて明文化されました。
契約の当事者の一方が第三者との間で契約上の地位を譲渡する旨の合意をした場合において、その契約の相手方がその譲渡を承諾したときは、契約上の地位は、その第三者に移転する。 ― 民法 第539条の2
要件
- 当事者と第三者の合意: 地位を譲渡する当事者と、地位を引き受ける第三者との間の合意
- 契約の相手方の承諾: 契約の相手方が譲渡を承諾すること
債務引受との関係
契約上の地位の移転は、債権の譲渡と債務の引受を一体として行うものと位置づけられます。例えば、賃貸人の地位の移転は、賃貸借契約上の債権(賃料請求権)と債務(使用収益させる義務)の双方が移転します。
なお、賃貸人の地位の移転については、賃貸物である不動産の譲渡の場合は、賃借人の承諾なく賃貸人の地位が当然に移転するとする特則があります(民法第605条の2)。
債務引受と類似する制度
債権譲渡との比較
第三者弁済との比較
試験での出題ポイント
- 併存的は債務者の意思に反しても可: 債権者と引受人の契約で足りる
- 免責的は債権者の関与が必須: どちらの方法でも債権者の通知又は承諾が必要
- 引受人は債務者の抗弁を援用可: 併存的・免責的ともに
- 引受人は取消権・解除権は行使不可: 履行拒絶権のみ
- 担保の移転には担保設定者の承諾: 保証の移転には書面等が必要
- 契約上の地位の移転: 相手方の承諾が必要(539条の2)
併存的債務引受は、債務者の意思に反する場合には成立しない。
免責的債務引受において、債務者と引受人が契約をする場合、債権者の承諾は不要である。
免責的債務引受に伴い、保証人の保証債務を引受人の債務に移転させるには、保証人の書面又は電磁的記録による承諾が必要である。
まとめ
債務引受は、2020年改正民法で明文化された重要な制度です。併存的債務引受は引受人が債務者と連帯して債務を負担し、免責的債務引受は債務者が免責される点が最大の違いです。
試験対策としては、成立方法(誰と誰の契約か、債権者の関与が必要か)、引受人の抗弁・履行拒絶権、担保・保証の移転の要件を比較表で正確に整理することが重要です。契約上の地位の移転(539条の2)もあわせて押さえておきましょう。
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