占有権と即時取得|善意取得の要件を正確に
占有の意義と種類(自主占有・他主占有)、占有訴権の3類型、即時取得(192条)の要件と効果、盗品・遺失物の回復請求(193条・194条)を網羅的に解説。行政書士試験の頻出論点を正確に押さえます。
はじめに|占有と即時取得は物権法の基礎
占有権は、物権法の中でも特異な存在です。所有権などの本権とは異なり、物を事実上支配しているという状態そのものを保護する制度です。そして、この占有を前提として成り立つのが即時取得(善意取得)の制度です。
行政書士試験では、占有の種類(自主占有・他主占有など)、占有訴権の3類型、即時取得の要件(特に「平穏」「公然」「善意」「無過失」の要否)、盗品・遺失物の回復請求など、多角的な出題がなされます。本記事ではこれらの論点を体系的に整理します。
占有権の意義
占有権とは
占有権とは、自己のためにする意思をもって物を所持することによって取得される権利です(180条)。
占有権は、自己のためにする意思をもって物を所持することによって取得する。
――民法180条
ここでいう「自己のためにする意思」とは、所持する物について自己の利益のために支配する意思を意味します。所有の意思とは異なり、賃借人や受寄者にも認められます。
占有の機能
占有制度には、以下の機能があります。
- 権利の推定機能: 占有者は適法な権利を有するものと推定される(188条)
- 公示機能: 動産については占有が物権変動の公示方法となる(178条)
- 権利取得機能: 即時取得(192条)や時効取得(162条)の基礎となる
- 社会秩序維持機能: 事実上の支配状態を保護し、自力救済を防止する
占有の種類
自主占有と他主占有
この区別は取得時効(162条)の要件との関係で重要です。取得時効が成立するためには「自己の物として」の占有、すなわち自主占有が必要です。
判例の立場: 占有が自主占有か他主占有かは、占有取得の原因たる事実(権原の客観的性質)によって客観的に定まります(最判昭和45年6月18日)。占有者の内心の意思では決まりません。
善意占有と悪意占有
その他の占有の種類
占有の推定(186条)
占有者は、所有の意思をもって、善意で、平穏に、かつ、公然と占有をするものと推定する。
――民法186条1項
前後の両時点において占有をした証拠があるときは、占有は、その間継続したものと推定する。
――民法186条2項
186条1項により、占有者は自主占有・善意・平穏・公然であると推定されます。この推定を覆すためには、相手方が反証を行う必要があります。
占有の移転(承継)
占有の承継(187条)
占有者の承継人は、その選択に従い、自己の占有のみを主張し、又は自己の占有に前の占有者の占有を併せて主張することができます(187条1項)。
占有者の承継人は、その選択に従い、自己の占有のみを主張し、又は自己の占有に前の占有者の占有を併せて主張することができる。
――民法187条1項
ただし、前の占有者の占有を併せて主張する場合は、その瑕疵も承継することに注意が必要です(187条2項)。
具体例: Aが悪意で10年間占有した土地をBが善意で取得した場合
- Bが自己の占有のみを主張: 善意・無過失なら10年の取得時効(162条2項)
- Bが前の占有者Aの占有を併せて主張: Aの悪意の瑕疵を承継するため、20年の取得時効(162条1項)が必要。ただし、A10年+B10年で合計20年に達すれば時効取得可能
占有の移転方法
占有訴権の3類型
占有回収の訴え(200条)
占有を侵奪された場合に、その物の返還と損害賠償を請求できます。
占有者がその占有を奪われたときは、占有回収の訴えにより、その物の返還及び損害の賠償を請求することができる。
――民法200条1項
注意: 占有回収の訴えは、侵奪者の特定承継人に対しては提起できません(200条2項本文)。ただし、その承継人が侵奪の事実を知っていた場合は例外です(200条2項ただし書)。
占有保持の訴え(198条)
占有を妨害されている場合に、妨害の停止と損害賠償を請求できます。
占有保全の訴え(199条)
占有が妨害されるおそれがある場合に、妨害の予防または損害賠償の担保を請求できます。
提訴期間の制限(201条)
占有保持の訴えと占有回収の訴えには1年以内という期間制限があることを覚えておいてください。
即時取得(192条)
即時取得の意義
即時取得とは、動産の取引において、無権利者から動産を取得した者が一定の要件を満たす場合に、その動産の権利を取得できる制度です。
取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する。
――民法192条
即時取得の要件
即時取得が成立するためには、以下の要件をすべて満たす必要があります。
占有改定では即時取得は成立しない
要件6について、判例は占有改定(183条)による占有取得では即時取得は成立しないとしています(最判昭和35年2月11日)。
占有改定は、前主が占有を継続したまま意思表示のみで占有を移転する方法です。この場合、取得者は現実に物を支配しておらず、外観上の変化がないため、即時取得の趣旨である取引の安全の保護に値しないと考えられています。
即時取得が認められる占有取得方法をまとめると以下の通りです。
即時取得の効果
即時取得が成立すると、取得者は原始取得として動産の権利を取得します。前主の権利を承継するのではなく、新たに権利を取得する点が重要です。
盗品・遺失物の回復請求(193条・194条)
原則:2年間の回復請求(193条)
即時取得の成立により、本来の所有者は権利を失うことになります。しかし、物が盗品または遺失物であった場合、所有者は被害の時または遺失の時から2年間は占有者に対して回復を請求できます(193条)。
前条の場合において、占有物が盗品又は遺失物であるときは、被害者又は遺失者は、盗難又は遺失の時から二年間、占有者に対してその物の回復を請求することができる。
――民法193条
代価弁償の特則(194条)
占有者が盗品・遺失物を競売もしくは公の市場において、又は同種の物を販売する商人から善意で購入した場合、所有者は代価を弁償しなければ回復を請求できません(194条)。
占有者が、盗品又は遺失物を、競売若しくは公の市場において、又はその物と同種の物を販売する商人から、善意で買い受けたときは、被害者又は遺失者は、占有者が支払った代価を弁償しなければ、その物を回復することができない。
――民法194条
この規定は、善意の購入者の信頼を保護するものです。
193条・194条の適用関係
占有と取得時効の関係
占有の要件が時効取得に影響する
取得時効(162条)の要件には「所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と」占有することが含まれます。これらの要素は186条1項により推定されますが、他主占有が立証された場合は取得時効が成立しません。
他主占有から自主占有への転換
他主占有者は、原則として取得時効を主張できません。しかし、以下の場合には自主占有への転換が認められます(185条)。
- 占有者が自己に占有をさせた者に対して所有の意思があることを表示したとき
- 新たな権原により更に所有の意思をもって占有を始めたとき
たとえば、賃借人が賃貸人に対して「この土地は自分のものだ」と主張し、それ以降所有者として振る舞った場合、その時点から自主占有に転換する可能性があります。
まとめ
占有権と即時取得は、物権法の基盤をなす重要な分野です。
- 占有の推定(186条1項): 自主占有・善意・平穏・公然と推定
- 即時取得の要件: 動産の取引行為、善意無過失、現実の引渡し等(占有改定は不可)
- 盗品・遺失物: 2年間の回復請求可、競売等からの購入は代価弁償が必要
- 占有訴権: 3類型あり、1年以内の提訴期間制限に注意
特に即時取得の要件は細部まで出題されるため、占有改定では成立しないこと、善意だけでなく無過失も必要であることを正確に押さえてください。
即時取得は、占有改定による占有の取得でも成立する。
盗品の被害者は、盗難の時から2年間は、善意の占有者に対して無償でその物の回復を請求できるのが原則である。
民法186条1項により、占有者は善意・無過失で占有をするものと推定される。
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