行政不服審査法の審理員と審査会|改正の要点整理
2014年改正で導入された審理員制度と行政不服審査会の役割を徹底解説。審査請求の手続きの流れ、改正前との比較、試験頻出ポイントを体系的に整理します。
はじめに|行政不服審査法の大改正と審理員制度
行政不服審査法は、国民が行政庁の処分や不作為に対して不服を申し立てる手続きを定めた法律です。1962年に制定された旧法は約50年間にわたり大きな改正がなされていませんでしたが、2014年(平成26年)に全部改正が行われ、2016年(平成28年)4月1日から施行されました。
この改正の最大の目玉が審理員制度の導入と行政不服審査会の設置です。旧法では審査庁自身が審理を行う仕組みでしたが、公正性・透明性の向上を図るため、審理手続きを行う審理員と、第三者機関である審査会による二重のチェック体制が整備されました。
行政書士試験では、審理員の選任方法、審理手続きの流れ、行政不服審査会への諮問手続きが頻繁に出題されます。本記事では、改正のポイントを整理しながら、審理員制度と審査会の仕組みを体系的に解説します。
2014年改正の全体像
改正の背景
旧行政不服審査法には以下のような問題点が指摘されていました。
- 公正性の問題: 審査庁自身が審理を行うため、身内に甘い判断になりがち
- 不服申立ての二重構造: 異議申立てと審査請求の使い分けが複雑
- 手続きの不透明さ: 口頭意見陳述の機会が不十分
- 審理期間の長期化: 標準審理期間の定めがなかった
改正の主要ポイント
2014年改正では、以下の点が大きく変わりました。
審査請求の一元化|異議申立ての廃止
旧法の二重構造
旧法では、処分庁に上級行政庁がある場合は「審査請求」、上級行政庁がない場合(処分庁自身に対する不服申立て)は「異議申立て」という使い分けがありました。国民にとっては、どちらの手続きを選ぶべきかわかりにくいという問題がありました。
新法の一元化
新法では、不服申立ての種類を原則として審査請求に一元化しました(行政不服審査法第2条)。異議申立ては廃止されました。
この法律に基づく処分についての不服申立てとしては、審査請求をすることができる。 ― 行政不服審査法 第2条(趣旨)
ただし、以下の2つの手続きが例外的に設けられています。
- 再調査の請求(第5条): 個別法に定めがある場合に、処分庁に対して簡易な手続きで処分の見直しを求めることができる
- 再審査請求(第6条): 個別法に定めがある場合に、審査請求の裁決に不服がある者が更に上級庁に対して不服を申し立てることができる
審理員制度の仕組み
審理員とは
審理員とは、審査請求の審理手続きを行うために審査庁が指名する職員です(第9条第1項)。審査庁に所属する職員のうちから、処分に関与していない者が指名されます。
審査庁は、審査庁に所属する職員のうちから第三十一条第一項の規定により審理手続を主宰する者を指名するとともに、その旨を審査請求人及び処分庁等に通知しなければならない。 ― 行政不服審査法 第9条第1項(要旨)
審理員の除斥事由
以下の者は審理員に指名することができません(第9条第2項)。
- 審査請求に係る処分に関与した者又は審査請求に係る不作為に係る処分に関与し、若しくは関与することとなる者
- 審査請求人の配偶者、四親等内の親族又は同居の親族
- 審査請求人の代理人
- 審査請求に係る処分又は不作為に関し証人又は鑑定人となった者
- その他審理の公正を妨げるおそれのある者
審理員が不要な場合
以下の場合には審理員の指名は不要とされています(第9条第1項ただし書)。
- 審査庁が内閣府設置法等に規定する委員会もしくは審議会の場合
- 条例に基づく処分について条例で審理員を置かないこととした場合
- 審査庁が主任の大臣又は宮内庁長官もしくは内閣法制局長官の場合(行政不服審査会への諮問手続による代替)
審理手続きの流れ
手続きの全体像
審理手続きは以下のような流れで進行します。
- 審査請求の提起
- 審査庁による審理員の指名
- 審理員による審理手続きの実施
- 審理員意見書の作成・提出
- 行政不服審査会への諮問
- 行政不服審査会の答申
- 審査庁による裁決
審理手続きの具体的内容
審理員は以下の手続きを主宰します。
弁明書の提出要求(第29条): 審理員は処分庁等に対し、弁明書の提出を求めます。弁明書が提出されたときは、審査請求人に送付します。
反論書・意見書の提出(第30条): 審査請求人は弁明書に対する反論書を提出できます。参加人は意見書を提出できます。
口頭意見陳述(第31条): 審査請求人又は参加人の申立てがあった場合、審理員は口頭意見陳述の機会を与えなければなりません。口頭意見陳述においては、申立人は審理員の許可を得て処分庁等に質問を発することができます。
審査請求人又は参加人の申立てがあった場合には、審理員は、当該申立てをした者に口頭で審査請求に係る事件に関する意見を述べる機会を与えなければならない。 ― 行政不服審査法 第31条第1項
証拠書類等の提出(第32条・第33条): 審査請求人・参加人は証拠書類・証拠物を提出できます。処分庁等も書類その他の物件を提出できます。
物件の提出要求・鑑定等(第33条〜第36条): 審理員は、物件の提出要求、参考人への質問、鑑定の要求、検証、審理関係人への質問などを行うことができます。
審理員意見書
審理員は、審理手続きを終結したときは、審理員意見書を作成し、事件記録とともに審査庁に提出します(第42条)。審理員意見書には、処分についての意見(認容・棄却等の判断)とその理由が記載されます。
行政不服審査会の役割
行政不服審査会とは
行政不服審査会は、総務省に設置される第三者機関です(第67条)。審査庁の判断の客観性・公正性を担保するため、裁決の前に審査庁からの諮問に対して答申を行います。
組織
- 委員: 9人(非常勤。ただし3人以内は常勤とすることができる)
- 任期: 3年(再任可能)
- 任命: 両議院の同意を得て総務大臣が任命
- 3人の委員をもって構成する合議体で審査(会長が指名)
諮問手続き
審査庁は、審理員意見書の提出を受けたときは、原則として行政不服審査会等に諮問しなければなりません(第43条第1項)。
ただし、以下の場合は諮問不要です(第43条第1項各号)。
- 審査請求人が諮問を希望しない場合
- 審査請求が不適法で却下する場合
- 処分を全部取り消し又は撤廃する裁決をする場合(審査請求人の主張を全面的に認容)
- 処分の全部取消し等の裁決をする場合で処分庁等が審査庁の意見に同意している場合
- 審議会等の議を経てされた処分で、当該審議会等が審査庁からの諮問に答申している場合
- 法令に基づき審議会等の議を経て裁決をする場合
答申
行政不服審査会は、諮問を受けた事件について調査・審議を行い、答申を行います(第79条)。答申書の写しは審査請求人・参加人にも送付されます。
注意: 審査庁は答申に法的に拘束されるわけではありません。しかし、答申を尊重して裁決を行うことが期待されています。
地方公共団体の第三者機関
地方の審査会
地方公共団体における審査請求については、国の行政不服審査会ではなく、条例で設置される第三者機関が諮問先となります(第81条)。
地方公共団体は、行政不服審査法の規定の趣旨にのっとり、審査請求の審理の公正性を確保するため、条例で、審査庁から諮問を受けてこれに対する答申をする機関を置くことができます。
共同設置等
地方公共団体は、他の地方公共団体と共同して第三者機関を設置したり、他の地方公共団体の第三者機関に審議を委託したりすることも可能です。
改正前との比較|旧法と新法の対照
不服申立ての構造
旧法: 処分庁に上級行政庁がある場合→審査請求、ない場合→異議申立て。二重構造で複雑。
新法: 審査請求に一元化。処分庁が最上級行政庁の場合でも審査請求。再調査の請求と再審査請求は個別法の定めがある場合に限定。
審理の公正性確保
旧法: 審査庁自身が審理を行う。処分に関与した職員が審理に携わることも制度上排除されていなかった。
新法: 審理員制度の導入により、処分に関与していない職員が審理を担当。さらに行政不服審査会等の第三者機関によるチェックが加わった。
審査請求期間
旧法: 処分を知った日の翌日から60日以内(主観的期間)、処分の日の翌日から1年以内(客観的期間)。
新法: 処分があったことを知った日の翌日から3か月以内(主観的期間)、処分があった日の翌日から1年以内(客観的期間)。
処分についての審査請求は、処分があったことを知った日の翌日から起算して三月を経過したときは、することができない。 ― 行政不服審査法 第18条第1項
主観的期間が60日から3か月に延長された点は、試験でも頻出です。
試験での出題ポイント
- 審理員は審査庁所属の職員から指名: 外部の第三者ではなく、審査庁の職員であることに注意
- 処分に関与した者は審理員になれない: 除斥事由を正確に押さえる
- 審査請求期間は「3か月」: 旧法の60日との混同に注意
- 行政不服審査会の答申に法的拘束力はない: 審査庁は答申を尊重するが、拘束されない
- 諮問不要の場合を覚える: 特に「審査請求人が諮問を希望しない場合」「不適法で却下する場合」「全部認容する場合」
- 再調査の請求と再審査請求は個別法の根拠が必要: 行政不服審査法だけでは利用できない
審理員は、審査庁の外部から選任された第三者でなければならない。
行政不服審査法の改正により、審査請求期間は処分があったことを知った日の翌日から3か月に延長された。
審査庁は、行政不服審査会の答申に法的に拘束され、答申と異なる裁決をすることはできない。
まとめ
2014年の行政不服審査法の全部改正は、不服申立ての一元化(審査請求への一本化)、審理員制度の導入、行政不服審査会の設置、審査請求期間の延長(60日→3か月)を柱としています。
審理員は審査庁所属の職員から指名されますが、処分に関与した者は除外されるため、審理の公正性が一定程度担保されます。さらに、第三者機関である行政不服審査会による答申を通じて、裁決の客観性も確保される仕組みとなっています。
試験対策としては、審理員の選任要件、諮問が不要となる場合、審査請求期間の変更を正確に押さえておくことが重要です。