消費貸借と使用貸借の比較|改正で諾成契約に
消費貸借の改正(諾成的消費貸借587条の2・書面要件)、利息の約定、使用貸借の改正(諾成契約化・借主の死亡で終了)を解説。賃貸借との比較表も掲載し、行政書士試験の契約法対策を万全にします。
はじめに|貸借型契約3兄弟を比較する
民法には「貸借」を内容とする契約が3つあります。消費貸借・使用貸借・賃貸借の3つです。これらは「物を借りて使い、返す」という点で共通しますが、返還の対象(同種同量の物か、借りた物そのものか)と対価の有無(有償か無償か)で区別されます。
2020年の民法改正では、消費貸借と使用貸借の成立要件が大きく変更されました。いずれも諾成契約として成立しうることが明文化されたのです。本記事では、改正の要点を中心に消費貸借と使用貸借を詳しく解説し、賃貸借との比較も行います。
消費貸借の基本(587条)
消費貸借とは
消費貸借は、当事者の一方が種類、品質及び数量の同じ物をもって返還をすることを約して相手方から金銭その他の物を受け取ることによって、その効力を生ずる。
――民法587条
消費貸借は、借りた物そのものではなく、同種・同等・同量の物を返還する契約です。
最も典型的な例: 金銭の貸し借り(金銭消費貸借)
要物契約としての消費貸借
587条の消費貸借は要物契約です。すなわち、当事者の合意だけでは成立せず、目的物の交付(金銭の引渡しなど)があって初めて成立します。
これは、消費貸借が歴史的に「物を受け取ること」を成立要件としてきたことに由来します。
諾成的消費貸借(587条の2)
改正で新設された諾成的消費貸借
前条の規定にかかわらず、書面でする消費貸借は、当事者の一方が金銭その他の物を引き渡すことを約し、相手方がその受け取った物と種類、品質及び数量の同じ物をもって返還をすることを約することによって、その効力を生ずる。
――民法587条の2第1項
改正前の消費貸借は要物契約のみでしたが、改正により書面でする場合には諾成契約として成立することが認められました。
書面要件の趣旨
諾成的消費貸借に書面要件が課された理由は、軽率な合意を防止するためです。金銭の貸し借りは口約束でも行われがちですが、諾成契約として法的拘束力を認めるためには、書面による慎重な意思確認が必要と考えられました。
なお、電磁的記録(メール等)による場合も書面に含まれます(587条の2第4項)。
借主の解除権(587条の2第2項)
書面でする消費貸借の借主は、貸主から金銭その他の物を受け取るまで、契約の解除をすることができる。この場合において、貸主は、その契約の解除によって損害を受けたときは、借主に対し、その賠償を請求することができる。
――民法587条の2第2項
諾成的消費貸借では、借主は目的物を受け取るまで契約を解除できます。これは、まだ金銭を受け取っていない段階で返還義務を負い続けることは借主に酷だからです。
ただし、解除により貸主に損害が生じた場合は、損害賠償を請求されることがあります。
利息に関する規定
利息の約定(589条)
貸主は、特約がなければ、借主に対して利息を請求することができない。
――民法589条1項
消費貸借は原則として無利息です。利息を請求するためには、当事者間の特約(利息の合意)が必要です。
前項の特約があるときは、貸主は、借主が金銭その他の物を受け取った日以後の利息を請求することができる。
――民法589条2項
利息は借主が目的物を受け取った日以後について発生します。
利息制限法との関係
金銭消費貸借の利息については、利息制限法による上限規制があります。
利息制限法の上限を超える利息の約定は、超過部分について無効です。
消費貸借の返還時期(591条)
返還時期の定めがある場合
返還時期の定めがある場合、借主はその時期に返還しなければなりません。ただし、借主は期限の利益を放棄して期限前に返還することができます(136条2項)。
改正民法では、期限前弁済によって貸主に損害が生じた場合の賠償義務が明文化されました。
当事者が返還の時期を定めた場合において、借主がその時期の前に返還をしたことによって貸主に損害が生じたときは、貸主は、借主に対し、その賠償を請求することができる。
――民法591条3項
返還時期の定めがない場合
返還時期の定めがない場合、貸主は相当の期間を定めて返還の催告をすることができます(591条1項)。借主はいつでも返還できます(591条2項)。
使用貸借の基本
使用貸借とは(593条)
使用貸借は、当事者の一方がある物を引き渡すことを約し、相手方がその受け取った物について無償で使用及び収益をして契約が終了したときに返還をすることを約することによって、その効力を生ずる。
――民法593条
使用貸借は、借りた物そのものを返還する無償の貸借契約です。
改正による諾成契約化
改正前の使用貸借は、消費貸借と同様に要物契約でしたが、改正により諾成契約に変更されました。書面要件もありません。
消費貸借の諾成契約化には書面要件が課されましたが、使用貸借には書面要件がない点に注意してください。
使用貸借の特徴
使用貸借の終了
終了事由
使用貸借が終了する事由は以下の通りです。
借主の死亡による終了(597条3項)
使用貸借は、借主の死亡によって終了する。
――民法597条3項
使用貸借は、借主の死亡により終了します。これは使用貸借が当事者間の人的信頼関係に基づく契約であるため、借主の相続人に承継させるのは適当でないと考えられたためです。
一方、貸主の死亡では使用貸借は終了しません。貸主の地位は相続人に承継されます。
改正前との違い
改正前は「使用貸借は、借主の死亡によって、その効力を失う」(旧599条)と規定されていましたが、改正後は597条3項として整理し直されました。実質的な内容に変更はありません。
使用貸借における借主の義務
用法遵守義務(594条)
借主は、契約又はその目的物の性質によって定まった用法に従い、使用収益をしなければなりません(594条1項)。
善管注意義務
借主は、善良な管理者の注意をもって目的物を保管しなければなりません。改正前は「自己の財産に対するのと同一の注意」で足りるとされていましたが、改正により善管注意義務に引き上げられました(400条が適用)。
費用負担(595条)
借主は、借用物の通常の必要費を負担します(595条1項)。特別の必要費や有益費については、196条の規定に従って貸主に償還を請求できます(595条2項)。
3つの貸借型契約の比較
比較表
使用貸借と賃貸借の最重要相違点
使用貸借と賃貸借の最大の違いは、以下の3点です。
- 対価の有無: 使用貸借は無償、賃貸借は有償
- 借主の死亡: 使用貸借は終了、賃貸借は終了しない
- 対抗力: 使用貸借の借主は第三者に対抗できない、賃貸借は対抗要件を備えれば対抗可能
準消費貸借(588条)
準消費貸借とは
金銭その他の物を給付する義務を負う者がある場合において、当事者がその物を消費貸借の目的とすることを約したときは、消費貸借は、これによって成立したものとみなす。
――民法588条
準消費貸借とは、既存の金銭債務を消費貸借に切り替える契約です。
具体例: 代金100万円の支払債務を負うAが、Bとの間で「100万円を消費貸借として、毎月10万円ずつ分割返済する」と合意した場合。売買代金債務が消費貸借の返還債務に切り替わります。
改正により、準消費貸借は旧債務の存在を要件としなくなった(既存の給付義務があれば足りる)と解されています。
まとめ
消費貸借と使用貸借の改正ポイントを整理します。
- 消費貸借: 要物契約が原則だが、書面による諾成契約も認められた(587条の2)
- 諾成的消費貸借の借主: 目的物を受け取るまで解除可能(損害賠償の可能性あり)
- 利息: 特約がなければ無利息が原則
- 使用貸借: 要物契約から諾成契約に変更(書面要件なし)
- 借主の死亡: 使用貸借は終了する(賃貸借は終了しない)
消費貸借と使用貸借の諾成契約化、および使用貸借と賃貸借の違いは頻出論点です。
諾成的消費貸借(587条の2)は、口頭の合意のみで成立する。
使用貸借は、借主の死亡により終了するが、貸主の死亡によっては終了しない。
改正民法において、使用貸借は要物契約である。
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