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相続の承認と放棄|単純承認・限定承認・相続放棄の要件

民法の相続の承認と放棄を解説。単純承認(法定単純承認含む)、限定承認(共同相続人全員で)、相続放棄の要件・手続き・効果と熟慮期間(3か月)を整理します。

はじめに|相続の承認・放棄は試験頻出テーマ

相続の承認と放棄に関する規定は、行政書士試験の民法(親族・相続分野)において、ほぼ毎年出題される重要テーマです。相続が開始した後、相続人には単純承認・限定承認・相続放棄の3つの選択肢が与えられており、それぞれの要件・手続き・効果を正確に理解しておくことが求められます。

本記事では、相続の開始と相続人の範囲を確認した上で、単純承認(法定単純承認を含む)、限定承認、相続放棄の各制度を詳しく解説します。特に、熟慮期間(3か月)の起算点や、法定単純承認に該当する行為など、試験で問われやすい論点を重点的に整理していきます。

相続の開始と相続人

相続の開始(882条)

民法882条
「相続は、死亡によって開始する。」

相続は被相続人の死亡によって当然に開始します。相続開始の原因は死亡のみであり、失踪宣告による死亡みなし(31条)の場合も含みます。

相続人の範囲と順位

民法が定める相続人(法定相続人)は以下のとおりです。

順位相続人条文備考常に相続人配偶者890条他の相続人と常に共同相続第1順位(代襲相続人を含む)887条子が先に死亡した場合は孫が代襲相続第2順位直系尊属889条1項1号第1順位の相続人がいない場合第3順位兄弟姉妹(代襲相続人を含む)889条1項2号第1・第2順位の相続人がいない場合

代襲相続(887条2項・3項、889条2項)

  • 子が相続開始以前に死亡・相続欠格・廃除により相続権を失った場合、その者の子(被相続人の孫) が代わりに相続します(代襲相続)
  • 子の代襲相続は再代襲(孫→ひ孫)もあります(887条3項)
  • 兄弟姉妹の代襲相続は一代限り(甥・姪まで)で、再代襲はありません
注意: 相続放棄をした者は初めから相続人とならなかったものとみなされるため(939条)、相続放棄は代襲相続の原因にはなりません

法定相続分(900条)

相続人の組合せ配偶者の相続分他の相続人の相続分配偶者と子1/2子が1/2(子が複数の場合は均等)配偶者と直系尊属2/3直系尊属が1/3配偶者と兄弟姉妹3/4兄弟姉妹が1/4配偶者のみ全部ー
改正のポイント: 2013年の民法改正(最大決平成25年9月4日の違憲決定を受けた改正)により、嫡出でない子(非嫡出子)の相続分は嫡出子と同等になりました。

熟慮期間(915条)

3か月の考慮期間

民法915条1項
「相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。」

相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内(熟慮期間)に、単純承認・限定承認・相続放棄のいずれかを選択しなければなりません。

起算点の解釈

「自己のために相続の開始があったことを知った時」とは、以下の2つの事実を知った時をいいます。

  1. 相続の開始の事実(被相続人が死亡したこと)
  2. 自己が相続人となった事実

たとえば、第2順位の直系尊属が相続人となる場合、被相続人の死亡を知っただけでは足りず、第1順位の子が全員相続放棄をしたことを知った時から3か月の熟慮期間が起算されます。

熟慮期間の伸長

利害関係人又は検察官の請求により、家庭裁判所が熟慮期間を伸長することができます(915条1項ただし書)。相続財産の調査に時間がかかるなど、3か月では判断が困難な場合に利用されます。

熟慮期間の経過

熟慮期間内に限定承認も相続放棄もしなかった場合は、単純承認をしたものとみなされます(921条2号)。これが法定単純承認の一つです。

確認問題

熟慮期間の起算点は、被相続人が死亡した時(相続開始の時)である。

○ 正しい × 誤り
解説
熟慮期間の起算点は「自己のために相続の開始があったことを知った時」です(民法915条1項)。被相続人の死亡の事実と自己が相続人であることの両方を知った時から3か月間が熟慮期間となります。被相続人の死亡を知らなかった場合や、先順位の相続人の放棄によって初めて相続人となった場合には、その事実を知った時が起算点になります。

単純承認(920条・921条)

単純承認の効果

民法920条
「相続人は、単純承認をしたときは、無限に被相続人の権利義務を承継する。」

単純承認をすると、相続人は被相続人の権利義務を無限に承継します。これは、プラスの財産(資産)だけでなく、マイナスの財産(負債)もすべて引き継ぐことを意味します。被相続人の負債が資産を上回る場合でも、相続人は自己の固有財産をもって弁済しなければなりません。

法定単純承認(921条)

以下のいずれかに該当する場合、相続人は単純承認をしたものとみなされます。これを法定単純承認といいます。

号数法定単純承認の事由具体例1号相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき相続財産である不動産を売却した場合2号熟慮期間内に限定承認も相続放棄もしなかったとき3か月の熟慮期間が経過した場合3号限定承認又は相続放棄をした後に、相続財産の全部又は一部を隠匿・消費・悪意で財産目録に記載しなかったとき相続放棄後に相続財産を隠した場合

921条1号の「処分」に関する重要論点

  • 処分に該当するもの: 相続財産の売却、贈与、抵当権の設定など
  • 処分に該当しないもの: 保存行為(相続財産の修繕など)、短期賃貸借(602条に定める期間内のもの)
  • 葬式費用の支出: 判例は、社会的にみて不相当に高額でない限り、処分に該当しないとしています
  • 形見分け: 経済的価値が僅少な物の形見分けは処分に該当しないとされていますが、高価な物の形見分けは処分に該当し得ます
試験のポイント: 法定単純承認の事由に該当すると、その後に相続放棄や限定承認をすることができなくなります。特に921条1号の「処分」に何が該当するかは、択一式で頻出です。

限定承認(922条〜937条)

限定承認とは

民法922条
「相続人は、相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務及び遺贈を弁済すべきことを留保して、相続の承認をすることができる。」

限定承認とは、相続財産の範囲内でのみ被相続人の債務を弁済することを条件として相続を承認する制度です。プラスの財産が多ければその中から負債を弁済し、残った財産を取得できます。マイナスの財産の方が多くても、相続財産の範囲を超えて弁済する必要はありません。

限定承認の要件

要件内容期間熟慮期間(3か月)以内に行うこと手続家庭裁判所に申述すること(924条)共同相続の場合共同相続人全員で行わなければならない(923条)財産目録の作成財産目録を作成して家庭裁判所に提出すること(924条)

共同相続人全員での限定承認(923条)

民法923条
「相続人が数人あるときは、限定承認は、共同相続人の全員が共同してのみこれをすることができる。」

限定承認は、共同相続人の全員が共同して行わなければなりません。一部の相続人だけで限定承認をすることはできません。

ただし、相続放棄をした者は初めから相続人とならなかったものとみなされるため(939条)、一部の相続人が相続放棄をした場合は、残りの相続人全員で限定承認をすることは可能です。

限定承認のメリットとデメリット

メリット

  • 相続財産の範囲を超える債務を負わなくて済む
  • 相続財産にプラスがある場合は取得できる

デメリット

  • 共同相続人全員の合意が必要(一人でも反対すると不可)
  • 手続が煩雑(清算手続が必要)
  • 実務上、利用件数は非常に少ない

相続放棄(938条〜940条)

相続放棄の要件

民法938条
「相続の放棄をしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。」
要件内容期間熟慮期間(3か月)以内に行うこと(915条1項)手続家庭裁判所に申述すること(938条)方法各相続人が単独で行うことができる

限定承認と異なり、相続放棄は各相続人が単独で行うことができます。共同相続人全員の合意は不要です。

相続放棄の効果(939条)

民法939条
「相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。」

相続放棄の効果は遡及的です。放棄をした者は、相続開始の時に遡って、初めから相続人とならなかったものとみなされます。

この遡及効により、以下の重要な法的効果が生じます。

  • 放棄者は被相続人の一切の権利義務を承継しない(資産も負債も承継しない)
  • 放棄者の子は代襲相続しない(相続放棄は代襲相続の原因にならない)
  • 放棄者がいた場合、他の同順位の相続人の相続分が増加する
  • 同順位の相続人が全員放棄した場合、次順位の相続人が相続人となる

相続放棄前の財産処分との関係

相続放棄をする前に相続財産を処分(売却・贈与など)してしまうと、法定単純承認(921条1号)に該当し、相続放棄ができなくなります。相続放棄を検討している場合は、相続財産に手を付けないよう注意が必要です。

相続放棄と債権者の関係

相続放棄は、被相続人の債権者に対しても効力を有します。放棄した相続人に対して債権者は弁済を請求することができません。

ただし、相続放棄が詐害行為取消権(424条)の対象となるかについて、判例(最判昭和49年9月20日)は、相続放棄は財産的行為ではなく身分行為であるから、詐害行為取消しの対象とはならないとしています。

相続放棄後の管理義務(940条)

民法940条1項
「相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第952条第1項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。」

相続放棄をした者であっても、放棄の時に相続財産を現に占有している場合は、次の相続人等に引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって保存する義務を負います。

改正のポイント: 940条は2023年の改正(令和3年改正、2023年4月1日施行)により変更されました。改正前は放棄者に善管注意義務が課されていましたが、改正後は「自己の財産におけるのと同一の注意」に軽減され、また「現に占有しているとき」に限定されました。
確認問題

共同相続人のうち一部の者だけで限定承認をすることは、その他の相続人が相続放棄をしていない場合でも認められる。

○ 正しい × 誤り
解説
民法923条は「相続人が数人あるときは、限定承認は、共同相続人の全員が共同してのみこれをすることができる」と規定しています。一部の相続人だけで限定承認をすることはできません。ただし、他の相続人が先に相続放棄をしている場合は、放棄者は初めから相続人とならなかったものとみなされるため、残りの相続人全員で限定承認をすることは可能です。

各制度の比較表|横断整理

項目単純承認限定承認相続放棄条文920条・921条922条〜937条938条〜940条効果無限に権利義務を承継相続財産の範囲内で弁済初めから相続人とならない期間熟慮期間経過で法定単純承認熟慮期間(3か月)以内熟慮期間(3か月)以内手続不要(意思表示・法定)家庭裁判所への申述家庭裁判所への申述共同相続の場合各自が単独で可全員共同で行う各自が単独で可撤回の可否撤回不可(919条1項)撤回不可(919条1項)撤回不可(919条1項)取消しの可否制限あり(919条2項)制限あり(919条2項)制限あり(919条2項)

承認・放棄の撤回と取消し

民法919条
「1項:相続の承認及び放棄は、第915条第1項の期間内でも、撤回することができない。」
「2項:前項の規定は、第一編(総則)及び前編(親族)の規定により相続の承認又は放棄の取消しをすることを妨げない。」

承認・放棄は撤回不可です。ただし、詐欺・強迫による取消しや、未成年者・成年被後見人等の行為能力の制限による取消しは可能です(919条2項)。

確認問題

相続の放棄をした者の子は、代襲相続により被相続人の財産を相続することができる。

○ 正しい × 誤り
解説
相続放棄をした者は「初めから相続人とならなかったものとみなす」とされ(民法939条)、相続放棄は代襲相続の原因(相続開始以前の死亡・相続欠格・廃除)に含まれていません(887条2項)。したがって、相続放棄をした者の子が代襲相続することはできません。

試験対策のまとめ

択一式で問われるポイント

  1. 熟慮期間の起算点(「自己のために相続の開始があったことを知った時」)を正確に理解する
  2. 法定単純承認の3つの事由(921条各号)を暗記し、特に「処分」に該当する行為を判断できるようにする
  3. 限定承認は共同相続人全員相続放棄は各自単独で行える点を区別する
  4. 相続放棄の遡及効(939条)と代襲相続の関係を整理する
  5. 承認・放棄の撤回不可(919条1項)と取消しの可否(919条2項)を押さえる

記述式で問われる場合

相続の承認・放棄が記述式で出題される場合は、以下の流れで解答を構成します。

  1. 相続人の範囲と順位を確定する
  2. 熟慮期間内であるかを確認する
  3. 法定単純承認に該当する事由がないかを検討する
  4. 承認・放棄の効果を正確に記述する

相続の承認・放棄は、条文の文言を正確に暗記することが求められる分野です。特に「共同相続人全員」「家庭裁判所への申述」「初めから相続人とならなかったものとみなす」といったキーワードは、択一式の正誤判断でも記述式の解答でも決定的に重要ですので、確実に押さえておきましょう。

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