行政手続法の届出制度|申請との違いを明確に
行政手続法の届出制度を解説。届出の定義、効力発生時期(到達主義)、申請との違い、届出制度の具体例を整理し、行政書士試験の頻出ポイントをまとめます。
はじめに|届出は「申請」ではない
行政手続法は、行政庁に対する私人の行為として「申請」と「届出」を区別して規定しています。一見似ているように見えるこの2つの概念ですが、法的な性質は大きく異なります。
申請は行政庁の応答(許可・不許可等の処分)を求める行為であるのに対し、届出は一定の事項を行政庁に通知する行為にすぎず、行政庁の応答を求めるものではありません。
行政書士試験では、届出の定義、届出の効力発生時期、申請との違い、行政手続法第37条の解釈が出題されます。本記事では、届出制度を体系的に解説し、申請との違いを明確にします。
届出の定義|行政手続法第2条第7号
行政手続法第2条第7号は、届出を以下のように定義しています。
届出 行政庁に対し一定の事項の通知をする行為(申請に該当するものを除く。)であって、法令により直接に当該通知が義務付けられているもの(自己の期待する一定の法律上の効果を発生させるためには当該通知をすべきこととされているものを含む。)をいう。 ― 行政手続法 第2条第7号
定義のポイント
この定義から、届出には以下の要素があることがわかります。
- 行政庁に対する通知行為であること
- 申請に該当しないものであること
- 法令により直接に義務付けられた通知であること
- 自己の期待する法律上の効果を発生させるための通知を含むこと
「申請に該当するものを除く」の意味
届出は「申請に該当するものを除く」と規定されています。これは、申請と届出が排他的な関係にあることを意味します。ある通知行為が申請に該当する場合は、届出には当たりません。
申請の定義との比較
申請の定義(第2条第3号)
申請 法令に基づき、行政庁の許可、認可、免許その他の自己に対し何らかの利益を付与する処分(以下「許認可等」という。)を求める行為であって、当該行為に対して行政庁が諾否の応答をすべきこととされているものをいう。 ― 行政手続法 第2条第3号
申請と届出の違い
両者の関係
申請は行政庁の判断(許可・不許可)を経て初めて法律上の効果が生じるのに対し、届出は行政庁の判断を待たずに届出の到達によって効果が生じます。この違いは、行政手続法上の手続保障のあり方にも影響を与えます。
届出の効力発生時期|第37条
到達主義の採用
行政手続法第37条は、届出の効力発生時期について定めています。
届出が届出書の記載事項に不備がないこと、届出書に必要な書類が添付されていることその他の法令に定められた届出の形式上の要件に適合している場合は、当該届出が法令により当該届出の提出先とされている機関の事務所に到達したときに、当該届出をすべき手続上の義務が履行されたものとする。 ― 行政手続法 第37条
条文の意味
この条文から、以下のことがわかります。
- 形式上の要件に適合していれば: 届出書の記載事項に不備がなく、必要書類が添付されていることが前提
- 提出先に到達したとき: 届出が事務所に到達した時点で効力が発生する(到達主義)
- 手続上の義務が履行される: 届出義務が果たされたことになる
到達主義の意義
第37条が到達主義を採用した意義は、行政庁の受理行為を不要としたことにあります。
旧来の行政実務では、届出を「受理」するかどうかが行政庁の裁量に委ねられているかのような運用がなされることがありました。例えば、届出書の内容に問題があるとして「受理しない」(受理拒否)という対応がとられることがありました。
しかし、第37条によれば、届出が形式上の要件に適合している限り、提出先の事務所に到達した時点で届出の効力が生じます。行政庁の「受理」という行為は法律上不要であり、受理を拒否することはできません。
形式上の要件に不備がある場合
届出が形式上の要件に適合していない場合(記載事項の不備、添付書類の欠落等)は、到達しても届出の効力は生じません。この場合、届出義務は履行されたことにならないため、届出者は不備を補正して再度届出を行う必要があります。
ただし、行政庁が実体的な内容の当否を理由に届出を受け付けないことは許されません。形式上の要件に適合している限り、届出は到達により効力を生じます。
届出に対する行政庁の対応
受理の概念
行政手続法第37条の下では、法律上「受理」という概念は不要です。届出が形式上の要件を満たしていれば、到達により効力が生じるためです。
しかし、個別法において「届出を受理した」場合の効果を定めている場合があり、この場合の「受理」の意味が問題となることがあります。
届出に対する行政庁の義務
行政手続法は、届出に対する行政庁の応答義務を定めていません。これは、届出が行政庁の判断を求めるものではないことの当然の帰結です。
ただし、個別法で届出後の行政庁の対応(届出受理証の交付、届出事項の公表等)が定められている場合は、それに従います。
届出制度の具体例
届出が義務付けられている例
建築基準法の建築届出: 一定の建築物を建築しようとする場合の届出
住民基本台帳法の転入届・転出届: 住所を移転した場合の届出(第22条・第24条)
火災予防のための届出: 消防法に基づく防火対象物の使用開始届出
各種業法の届出: 開業届、廃業届、変更届等
届出と許可の使い分け
法令が「届出」制度を採用するか「許可」制度を採用するかは、規制の程度によります。
- 許可制: 行政庁の判断を経てから活動を開始する。規制の程度が強い
- 届出制: 届出をすれば活動を開始できる。規制の程度が弱い
届出制は、行政庁に情報を提供する義務を課すにとどまり、活動そのものを行政庁の裁量に委ねるものではありません。
届出と他の制度の比較
届出と通知
「届出」は行政手続法で定義された法概念ですが、法令上「通知」という文言が用いられる場合もあります。「通知」が行政手続法第2条第7号の届出に該当するかどうかは、個別の法令の解釈によります。
届出と報告
「報告」は、行政機関の求めに応じて一定の事項を報告する行為であり、法令により直接に義務付けられた「届出」とは区別されます。ただし、法令上「報告」と称していても、実質的に届出に該当する場合があります。
届出と申告
税法上の「申告」(確定申告等)は、納税義務の確定に関わる行為であり、行政手続法上の届出とは性質が異なります。税に関する法律の規定は行政手続法の適用除外とされています(行政手続法第3条第1項第15号)。
届出に関する紛争と救済
届出の受理拒否に対する救済
行政庁が形式上の要件を満たした届出の受理を拒否した場合、どのような救済手段が考えられるでしょうか。
行政手続法第37条の趣旨から、形式上の要件を満たした届出は到達により効力が生じるため、「受理拒否」は法的には意味を持ちません。しかし、事実上届出書を返却される等の対応がなされた場合は問題となります。
行政指導としての返却: 行政庁が届出書を返却する行為が行政指導に該当する場合、行政手続法第32条以下の規律に服します。届出者が従わない意思を表明した場合、行政庁は届出書の受領を拒否し続けることはできないと解されます。
不作為の違法確認訴訟: 届出が申請に該当する場合は不作為の違法確認訴訟(行政事件訴訟法第3条第5項)で争えますが、届出は申請ではないため、この訴訟類型は直接には利用できません。
実質的当事者訴訟: 届出の効力が生じていることの確認を求める実質的当事者訴訟が考えられます。
行政手続法の適用除外と届出
適用除外の確認
行政手続法第3条は、適用除外となる処分・行政指導等を列挙しています。届出についても、以下の場合は行政手続法の届出の規定(第37条)が適用されません。
- 国税又は地方税に関する法令の規定に基づく届出
- 学校、刑務所その他の収容施設に収容された者に対してされる届出に関する処理
適用除外に該当する届出については、個別法の定めに従うことになります。
試験での出題ポイント
- 届出は申請ではない: 行政庁の応答(諾否の判断)は不要
- 到達主義: 形式上の要件を満たした届出は到達により効力発生
- 受理は不要: 行政庁の受理行為は法律上必要ない
- 形式上の要件に不備がある場合: 到達しても効力は生じない
- 実体的内容を理由とする拒否は不可: 形式要件を満たせば到達で足りる
- 申請との違い: 行政庁の応答義務、審査基準の設定、標準処理期間
行政手続法上、届出は行政庁の受理を待って初めて効力を生じるとされている。
届出書の記載事項に不備がある場合であっても、届出が提出先の事務所に到達していれば、届出の効力は発生する。
行政手続法上、届出は行政庁の許認可等の処分を求める行為であり、申請の一種である。
まとめ
届出は、行政庁に対する通知行為であり、申請とは異なり行政庁の応答(許認可等の処分)を求めるものではありません。行政手続法第37条は到達主義を採用しており、形式上の要件を満たした届出は、提出先の事務所に到達した時点で効力が生じます。
行政庁の「受理」は法律上不要であり、形式上の要件を満たした届出の受理を拒否することはできません。ただし、形式上の要件に不備がある場合は、到達しても効力は生じません。
申請と届出の違い(行政庁の応答義務の有無、効力発生時期の違い)は試験で頻出のテーマですので、両者の定義と法的効果を正確に整理しておきましょう。