当事者訴訟とは|実質的当事者訴訟の活用と判例
当事者訴訟の種類(形式的・実質的)と活用場面を解説。2004年改正による確認訴訟の明文化、在外邦人選挙権訴訟等の重要判例を整理し、試験頻出ポイントをまとめます。
はじめに|当事者訴訟は行政訴訟の「もう一つの柱」
行政事件訴訟法は、行政事件訴訟を抗告訴訟、当事者訴訟、民衆訴訟、機関訴訟の4種類に分類しています(第2条)。行政書士試験では取消訴訟を中心とする抗告訴訟の出題が多いですが、当事者訴訟も重要な出題対象です。
特に2004年(平成16年)の行政事件訴訟法改正では、実質的当事者訴訟としての確認訴訟の活用が明文化され、その重要性が飛躍的に高まりました。処分性が認められない行政活動に対する救済手段として、当事者訴訟の活用場面は広がっています。
本記事では、形式的当事者訴訟と実質的当事者訴訟の違いを明確にし、2004年改正の内容と重要判例を解説します。
当事者訴訟の定義と種類
行政事件訴訟法第4条
行政事件訴訟法第4条は、当事者訴訟を以下のように定義しています。
この法律において「当事者訴訟」とは、当事者間の法律関係を確認し又は形成する処分又は裁決に関する訴訟で法令の規定によりその法律関係の当事者の一方を被告とするもの及び公法上の法律関係に関する確認の訴えその他の公法上の法律関係に関する訴訟をいう。 ― 行政事件訴訟法 第4条
この条文から、当事者訴訟は以下の2種類に分けられます。
形式的当事者訴訟
形式的当事者訴訟とは、当事者間の法律関係を確認し又は形成する処分又は裁決に関する訴訟で、法令の規定によりその法律関係の当事者の一方を被告とするものです。
本来は抗告訴訟(取消訴訟等)として行政庁を被告とすべきところ、訴訟の便宜から、法令の規定により当事者の一方を被告とする形が採られる訴訟です。
具体例:
- 土地収用法に基づく損失補償に関する訴訟(土地収用法第133条): 土地収用の損失補償の額に不服がある場合、起業者又は土地所有者を被告として訴訟を提起する
- 特許権等の査定に関する訴訟: 当事者対立構造をとるもの
形式的当事者訴訟では、処分自体の違法性を争うのではなく、処分により形成された法律関係の内容(金額等)を争います。
実質的当事者訴訟
実質的当事者訴訟とは、公法上の法律関係に関する確認の訴えその他の公法上の法律関係に関する訴訟です。行政事件訴訟法第4条後段に規定されています。
抗告訴訟とは異なり、行政庁の処分を前提とせず、公法上の法律関係そのものを直接の審判対象とします。
具体例:
- 公法上の当事者間の権利義務の確認を求める訴訟
- 公務員の地位の確認を求める訴訟
- 国籍の確認を求める訴訟
- 公法上の金銭債権に基づく給付を求める訴訟
2004年改正と確認訴訟の明文化
改正の背景
2004年改正前は、実質的当事者訴訟としての確認訴訟の活用が十分ではありませんでした。処分性の認められない行政活動に対して、取消訴訟を提起できない場合の救済手段が不明確だったのです。
改正の内容
2004年改正では、行政事件訴訟法第4条後段に「公法上の法律関係に関する確認の訴え」という文言が明示されました。
改正前の第4条後段: 「公法上の法律関係に関する訴訟」
改正後の第4条後段: 「公法上の法律関係に関する確認の訴えその他の公法上の法律関係に関する訴訟」
「確認の訴え」を明文で例示することにより、実質的当事者訴訟としての確認訴訟が積極的に活用されることが期待されました。
改正の意義
この改正により、以下のような場面で実質的当事者訴訟としての確認訴訟が活用できるようになりました。
- 処分性が認められない行政活動に対する救済: 行政契約、行政計画、通達等
- 将来の法律関係の確認: 将来の処分の予防的な救済
- 公法上の地位の確認: 公務員の地位、国籍の確認等
在外邦人選挙権訴訟|最大判平成17年9月14日
事案の概要
在外日本人(海外に居住する日本国民)が、公職選挙法上、在外選挙制度の対象が比例代表選出議員の選挙に限定されており、小選挙区選出議員の選挙について投票する機会が与えられていないことが、憲法15条1項、43条1項、44条ただし書に違反すると主張して訴訟を提起した事件です。
最高裁の判断
最高裁大法廷は、以下の判断を示しました。
違憲判断: 在外日本人の小選挙区選挙における投票を認めないことは、憲法15条1項、43条1項、44条ただし書に違反する。
確認訴訟の活用: 本判決で最も注目されるのは、原告が次回の衆議院議員総選挙の小選挙区選出議員の選挙において投票をすることができる地位にあることの確認を求めた点について、最高裁がこれを適法と認めたことです。
本件の確認請求は、(中略)公法上の法律関係に関する確認の訴えとして、確認の利益が認められ、適法であるというべきである。 ― 最大判平成17年9月14日(趣旨)
判決のポイント
- 実質的当事者訴訟としての確認訴訟の活用例: 2004年改正後の確認訴訟の代表的な活用例
- 公法上の地位の確認: 選挙権を行使できる地位の確認が認められた
- 立法不作為の違憲確認: 法律の規定が憲法に違反することの確認を間接的に得る手段
その他の重要判例
国籍確認訴訟(最大判平成20年6月4日)
フィリピン人の母と日本人の父との間に生まれた非嫡出子について、国籍法の準正要件(父母の婚姻)を満たさないことを理由に日本国籍が認められなかった事案です。
最高裁は、国籍法第3条1項の準正要件が憲法14条1項に違反するとした上で、日本国籍を有することの確認を認めました。これは実質的当事者訴訟としての確認訴訟の活用例です。
公務員の免職処分と地位確認
公務員が違法な免職処分を受けた場合、取消訴訟のほかに、実質的当事者訴訟として公務員たる地位の確認を求めることも可能です。
在外日本人最高裁裁判官国民審査訴訟(最大判令和4年5月25日)
在外日本人が最高裁判所裁判官の国民審査に投票する権利を有することの確認を求めた事件です。最高裁は、在外日本人に国民審査権の行使を認めない最高裁判所裁判官国民審査法の規定は憲法に違反するとし、確認訴訟を適法と認めました。
当事者訴訟の訴訟要件
被告
実質的当事者訴訟の被告は、原則として国又は公共団体です(行政事件訴訟法第11条が準用されないため、当事者間の法律関係に応じて被告が決まる)。
形式的当事者訴訟の被告は、法令の規定により当事者の一方が被告となります。
管轄
当事者訴訟の管轄は、行政事件訴訟法第12条が準用され、被告の普通裁判籍の所在地を管轄する裁判所又は処分・裁決をした行政庁の所在地を管轄する裁判所に提起できます。
出訴期間
実質的当事者訴訟には、取消訴訟のような出訴期間の制限はありません。これは、実質的当事者訴訟が処分の効力を争うものではなく、公法上の法律関係そのものを争うものだからです。
形式的当事者訴訟には、個別法で出訴期間が定められている場合があります(例: 土地収用法第133条第2項は6か月以内)。
確認の利益
実質的当事者訴訟としての確認訴訟を提起するためには、民事訴訟と同様に確認の利益が必要です。確認の利益は、以下の要素から判断されます。
- 対象の適切性: 確認を求める対象が法律関係であること
- 方法の適切性: 確認訴訟によることが紛争解決の手段として適切であること
- 即時確定の利益: 現に法律関係に関する紛争が存在し、判決による確認が必要であること
抗告訴訟との関係
処分性がある場合
行政庁の処分に処分性が認められる場合、原則として抗告訴訟(取消訴訟等)によるべきとされています。処分性がある場合に、あえて実質的当事者訴訟としての確認訴訟を提起することの可否については議論がありますが、取消訴訟の排他的管轄が及ぶ範囲では、取消訴訟によるべきとするのが通説的見解です。
処分性がない場合
処分性が認められない行政活動(行政契約、行政計画、行政指導等)に対しては、取消訴訟を提起できないため、実質的当事者訴訟としての確認訴訟が有効な救済手段となります。
補充性の関係
実質的当事者訴訟には、無名抗告訴訟のような厳格な補充性の要件はありません。ただし、確認の利益の判断において、他により適切な訴訟形態がある場合には、方法の適切性が否定されることがあります。
当事者訴訟における仮の救済
仮処分の可否
行政事件訴訟法第44条は、行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為については民事保全法に規定する仮処分をすることができないと規定しています。
しかし、当事者訴訟は公権力の行使に対する訴訟ではないため、当事者訴訟については仮処分が可能です。2004年改正により、行政事件訴訟法第44条にただし書が追加され、この点が明確化されました。
試験での出題ポイント
- 形式的当事者訴訟と実質的当事者訴訟の区別: 形式的は処分の法律関係、実質的は公法上の法律関係
- 2004年改正で確認訴訟が明文化: 第4条後段の改正内容
- 在外邦人選挙権訴訟: 確認訴訟の代表的活用例
- 出訴期間の制限なし: 実質的当事者訴訟には出訴期間の制限がない
- 仮処分が可能: 抗告訴訟と異なり、当事者訴訟では仮処分が認められる
- 確認の利益が必要: 対象・方法・即時確定の利益
実質的当事者訴訟としての確認訴訟は、2004年の行政事件訴訟法改正前には存在しなかった新しい訴訟類型である。
在外邦人選挙権訴訟(最大判平成17年9月14日)において、最高裁は公法上の法律関係に関する確認の訴えとして選挙権を行使する地位の確認を認めた。
当事者訴訟においては、行政庁の処分に対する抗告訴訟の場合と異なり、民事保全法に規定する仮処分をすることができる。
まとめ
当事者訴訟は、形式的当事者訴訟(処分の法律関係を争う訴訟で当事者の一方を被告とするもの)と実質的当事者訴訟(公法上の法律関係に関する訴訟)の2種類に分かれます。
2004年改正により確認訴訟の活用が明文化され、在外邦人選挙権訴訟をはじめとする重要判例が蓄積されています。処分性が認められない行政活動に対する救済手段として、実質的当事者訴訟の重要性はますます高まっています。
実質的当事者訴訟には出訴期間の制限がなく、仮処分も認められるなど、抗告訴訟とは異なる特徴を持ちます。両者の違いを正確に理解しておきましょう。