薬局距離制限事件|職業の自由と規制目的二分論を解説
薬局距離制限事件(最大判昭和50年4月30日)を徹底解説。職業の自由(憲法22条1項)に対する規制の合憲性判断枠組み「規制目的二分論」を整理します。
薬局距離制限事件(最大判昭和50年4月30日)は、職業の自由(憲法22条1項)に対する規制の合憲性審査基準として「規制目的二分論」を展開した最重要判例です。行政書士試験では、小売市場事件(最大判昭和47年11月22日)とセットで出題されることが極めて多く、消極目的規制と積極目的規制の審査基準の違いを正確に理解することが求められます。本記事では、事案の詳細から判旨の論理構造、試験対策のポイントまでを体系的に解説します。
事案の概要
事実の経緯
薬局距離制限事件は、広島県において薬局の開設許可申請をしたところ、薬事法(当時)に基づく距離制限の規定により申請が不許可とされた事案です。
広島県は、薬事法6条2項(当時)を受けた広島県条例に基づき、既存の薬局から一定の距離(おおむね100メートル以上)を確保していなければ薬局の開設を許可しないという配置規制(距離制限)を設けていました。原告は、この距離制限に適合しないとして薬局開設の許可申請を却下されたため、当該規制が憲法22条1項に違反するとして処分の取消しを求めました。
この距離制限規定は、もともと薬事法には存在しなかったものが、昭和38年(1963年)の法改正によって新たに追加されたものでした。背景には、医薬品の大量販売・廉売(ディスカウント販売)の広がりがあり、これに対する既存の中小薬局からの保護要求が政治的に強く存在していたという事情があります。この立法の経緯は、後述するとおり「規制目的が本当に国民の健康保護にあったのか、それとも既存業者の保護にあったのか」という二分論の評価にも関わる重要な前提です。
当事者の主張
原告(薬局開設を申請した者)は、薬局という職業を選択し営業する自由は憲法22条1項によって保障されており、既存薬局との距離が近いというだけで開業を一律に禁止する距離制限は、職業選択の自由に対する過度の制約であって違憲であると主張しました。
これに対し被上告人(広島県知事側)は、距離制限は薬局の偏在を防止して適正配置を実現し、過当競争による経営の不安定化と、それに伴う不良医薬品の供給という国民の生命・健康への危険を未然に防ぐための合理的な規制であると反論しました。すなわち、規制の正当性を「国民の健康保護」という公益に求めた点が、本件の審査枠組みを決定づける争点となりました。
争点
本件の争点は、薬局の開設に対する距離制限(配置規制)が、職業選択の自由を保障する憲法22条1項に違反するかどうかです。
何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。
― 日本国憲法 第22条1項
薬局の開設は「職業の自由」の一内容として憲法22条1項により保障されます。問題は、この自由に対する距離制限という規制が、「公共の福祉」による制約として正当化されるかどうかです。
憲法22条1項が保障する「職業の自由」の内容
薬局距離制限事件を理解する前提として、憲法22条1項が保障する権利の内容を正確に押さえておく必要があります。条文の文言は「職業選択の自由」ですが、判例・通説はこれを広く「職業の自由」として捉え、その内容を以下の2つに整理しています。
狭義の職業選択の自由
第一は、文字どおりどの職業に就くかを自分で決定する自由、すなわち「狭義の職業選択の自由」です。これは、自己の従事すべき職業を決定する自由であり、特定の職業に就くことを国家から強制されない自由でもあります。薬局を開設するかどうかを選ぶ自由は、まさにこの狭義の職業選択の自由に属します。
営業の自由
第二は、選択した職業を遂行する自由、すなわち「営業の自由」です。職業を選択しただけでは生計を維持できず、選んだ職業を実際に遂行・継続できなければ意味がありません。そこで判例・通説は、22条1項が保障する「職業選択の自由」には、選んだ職業を遂行する自由=営業の自由も当然に含まれると解しています。薬局を開設した後に営業を続ける自由は、この営業の自由に属します。
薬局距離制限事件の最高裁判決も、職業の自由をこの広い意味で捉えており、距離制限が問題となるのは「薬局という職業を選んで開業する自由」(狭義の職業選択の自由)への制約という側面です。
なお、営業の自由の根拠条文をめぐっては、22条1項に求める見解(通説・判例)のほか、財産権を保障する29条に求める見解、22条と29条の双方に求める見解なども存在します。試験対策としては、判例・通説が営業の自由を22条1項の保障内容に含めて理解していることを押さえておけば足ります。
憲法22条1項は、何人も、公共の福祉に反しない限り、職業選択の自由を有すると規定しているが、職業選択の自由を保障するというなかには、広く一般に、いわゆる営業の自由を保障する趣旨を包含しているものと解すべきである。
― 最大判昭和47年11月22日(小売市場事件)
判旨の全体構造
職業の自由と規制の必要性
最高裁は、まず職業の自由の意義と、規制の必要性について以下のように述べました。
職業は、人が自己の生計を維持するためにする継続的活動であるとともに、分業社会においては、これを通じて社会の存続と発展に寄与する社会的機能分担の活動たる性質を有し、各人が自己のもつ個性を全うすべき場として、個人の人格的価値とも不可分の関連を有するものである。
― 最大判昭和50年4月30日
最高裁は、職業の自由が個人の人格的価値と不可分の関連を有する重要な権利であることを確認しつつ、職業活動が本質的に社会的な活動であるため、他者の利益との調整のために一定の規制に服することもやむを得ないとしました。
職業の自由に対する規制の段階論
最高裁は、職業の自由に対する規制について、規制の強度に応じた段階論を展開しました。
薬局の距離制限は、開業自体を制限するものであるため、職業活動の態様の規制にとどまらず、職業選択の自由そのものに対する規制(第2段階)に該当します。そのため、より厳格な審査が必要となります。
規制目的二分論
規制目的二分論の枠組み
薬局距離制限事件で最高裁が示した最も重要な法理が「規制目的二分論」です。これは、職業の自由に対する規制を、その目的に応じて消極目的規制と積極目的規制に分類し、それぞれ異なる審査基準を適用するという枠組みです。
職業の許可制は、法定の条件をみたし、許可を受けたもののみにその職業の遂行を許し、それ以外の者に対してはこれを禁止するものであるから、職業の自由に対する公権力による制限の中でも、かなり強力な制限に属するものである。(中略)一般に許可制は、単なる職業活動の内容及び態様に対する規制を超えて、狭義における職業の選択の自由そのものに制約を課するもので、職業の自由に対する強力な制限であるから、その合憲性を肯定しうるためには、原則として、重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることを要する。
― 最大判昭和50年4月30日
消極目的規制(警察規制)
消極目的規制とは、国民の生命・健康・安全に対する危険の防止や社会的弊害の除去を目的とする規制です。「警察規制」とも呼ばれます。
消極目的規制に対しては、「より制限的でない他の選びうる手段」(LRA: Less Restrictive Alternative)の存在が問われます。つまり、同じ目的を達成するために、より緩やかな手段が存在する場合には、より制限的な手段は必要性を欠き、違憲となり得ます。
厳格な合理性の基準では、裁判所は具体的に次の2点を実質的に審査します。第一に、規制の目的が国民の生命・健康に対する危険防止という重要な公共の利益にあるか(目的の正当性・重要性)。第二に、規制手段がその目的達成のために必要かつ合理的であり、より緩やかな手段では目的を達成できないといえるか(手段の必要性・合理性)。薬局距離制限事件では、後者の審査において距離制限が必要性・合理性を欠くと判断され、違憲の結論に至りました。この「目的と手段の合理的関連性を裁判所が実質的に審査する」という点が、明白性の基準との決定的な違いです。
積極目的規制(政策的規制)
積極目的規制とは、社会経済政策の実現や弱者保護など、積極的な政策目的のために行われる規制です。
積極目的規制に対しては、立法府の政策判断が広く尊重されます。社会経済政策の当否については、裁判所よりも立法府のほうが専門的判断能力を有するという考慮に基づいています。
二分論の図式的整理
薬局距離制限事件において、最高裁は薬局の配置規制を積極目的規制として位置づけ、明白性の基準を適用して合憲と判断した。○か×か。
本件への適用と結論
距離制限の目的の検討
最高裁は、薬局の距離制限の目的を以下のように認定しました。
薬局の距離制限は、薬局等の偏在(特定の地域に過度に集中すること)を防止し、それによって不良医薬品の供給を防ぐことを目的とするものです。すなわち、薬局が過当競争に陥ることで経営が不安定化し、その結果として不良医薬品が供給されるという危険を防止するという論理です。
最高裁は、このような目的は国民の生命・健康に対する危険の防止を目的とする消極目的規制に該当すると判断しました。
規制手段の必要性・合理性の検討
最高裁は、消極目的規制である距離制限について、厳格な合理性の基準に基づき、以下のような検討を行いました。
薬局等の設置場所の地域的制限の必要性と合理性を裏づける理由として被上告人の指摘する薬局等の偏在――Loss Leaderによる不当廉売のために、一部地域における薬局等の競争の激化――Loss Leader排除の困難——Loss Leaderの定着の因果関係についてみると、薬局等の偏在が不良医薬品の供給の危険を生ずる蓋然性を示す証拠は全く認められない。
― 最大判昭和50年4月30日(要旨)
最高裁は以下の理由から、距離制限は必要性・合理性を欠くと判断しました。
- 因果関係の不存在: 薬局が集中することで不良医薬品が供給されるという因果関係は認められない
- より緩やかな手段の存在: 不良医薬品の供給を防止するためには、薬事監視体制の強化、薬剤師の資質の向上、行政指導等の、より緩やかな規制手段で対処できる
- 手段の過度性: 距離制限は開業そのものを制限するものであり、目的に対して過度な制限である
判決の結論
以上のように、薬局の開設等の許可基準の一つとして地域的な配置基準を定めた薬事法6条2項、4項(これらの規定に基づく距離制限を内容とする県条例を含む。)は、不良医薬品の供給の防止等の目的のために必要かつ合理的な規制を定めたものということができないから、憲法22条1項に違反し、無効である。
― 最大判昭和50年4月30日
最高裁は、薬局の距離制限は憲法22条1項に違反し無効であると判断しました。これは、法律の規定そのものを違憲とした数少ない判決の一つであり、憲法学上も極めて重要な意義をもちます。
本判決の意義
薬局距離制限事件は、次の3つの点で重要な意義をもちます。
第一に、最高裁が法令そのものを違憲とした数少ない判決(いわゆる「法令違憲」判決)の一つである点です。最高裁が法令違憲とした例は限られており、本判決はその代表例として必ず押さえるべきものです。
第二に、職業の自由に対する規制の合憲性審査について、規制の目的に応じて審査密度を変える「規制目的二分論」を明確に意識した判断枠組みを示した点です。本判決は、消極目的規制に対しては「厳格な合理性の基準」を適用すべきことを明らかにし、その帰結として違憲の結論を導きました。
第三に、消極目的規制の審査において「より緩やかな規制手段」(LRA)の有無を実質的に検討し、規制目的と規制手段との間の合理的関連性を厳格に審査した点です。立法府の判断を一定程度尊重しつつも、その判断を裁判所が実質的に審査して違憲とした本判決は、違憲審査制が形式的なものにとどまらないことを示しました。
小売市場事件との比較
小売市場事件(最大判昭和47年11月22日)の概要
小売市場事件は、小売商業調整特別措置法に基づく小売市場の許可制(距離制限を含む)の合憲性が争われた事案です。最高裁は、この規制を合憲と判断しました。
両判例の比較ポイント
小売市場事件では、中小小売商の保護という社会経済政策上の目的(積極目的)のための規制として位置づけ、立法府の裁量を広く尊重する明白性の基準を適用して合憲としました。
個人の経済活動に対する法的規制措置については、(中略)立法府がその裁量権を逸脱し、当該法的規制措置が著しく不合理であることの明白である場合に限つて、これを違憲として、その効力を否定することができるものと解するのが相当である。
― 最大判昭和47年11月22日
これに対し、薬局距離制限事件では、国民の生命・健康に対する危険の防止という消極目的の規制として位置づけ、より厳格な審査基準(厳格な合理性の基準)を適用して違憲としました。
試験では、この2つの判例を対比して出題するパターンが非常に多いため、規制目的の違いと適用される審査基準の違いを正確に区別できるようにしておく必要があります。
小売市場事件(最大判昭47.11.22)において、最高裁は小売市場の距離制限を消極目的規制と位置づけ、厳格な合理性の基準を適用して合憲と判断した。○か×か。
職業の自由に関する関連判例
規制目的二分論と職業の自由を体系的に理解するためには、薬局距離制限事件・小売市場事件以外の重要判例もあわせて押さえておく必要があります。これらの判例は、二分論がその後どのように展開し、また修正されていったかを示すものです。
公衆浴場距離制限事件
公衆浴場(銭湯)の開設にも距離制限が設けられており、その合憲性が複数回にわたって争われました。判例の流れを正確に理解しておく必要があります。
まず、最大判昭和30年1月26日は、公衆浴場の距離制限について、「国民保健および環境衛生」の維持という消極目的的な観点を中心に挙げつつ、これを合憲と判断しました。これは規制目的二分論が確立する前の判例です。
その後、薬局距離制限事件で消極目的規制に厳格な合理性の基準が示されたこととの整合性が問題となりましたが、最高裁は平成期に入って公衆浴場の距離制限を改めて合憲と判断しています。
公衆浴場業者が経営の困難から廃業や転業をすることを防止し、国民の保健福祉を維持することは、まさに公共の福祉に適合するところであり、(中略)右の適正配置規制及び距離制限も、その手段として十分の必要性と合理性を有していると認められる。
― 最判平成元年1月20日(公衆浴場距離制限事件)
注目すべきは、平成元年1月20日判決と平成元年3月7日判決とで、規制目的の捉え方に違いがある点です。1月20日判決は公衆浴場業者の経営安定(積極目的的側面)を主に重視したのに対し、3月7日判決は国民保健の維持(消極目的)と業者保護(積極目的)の両面を認めました。いずれも合憲の結論ですが、公衆浴場の距離制限が消極目的にも積極目的にも位置づけ得ることを示しており、規制目的二分論の限界を示す例としてしばしば引用されます。
西陣ネクタイ訴訟(生糸輸入規制事件)
西陣ネクタイ訴訟(最判平成2年2月6日)は、繭糸価格安定法に基づき、生糸の輸入を生糸価格安定のために政府等の一元的輸入機関に限定した規制(輸入制限)の合憲性が争われた事案です。西陣織のネクタイ業者が、安価な外国産生糸を自由に輸入できなくなり損害を被ったとして、規制の違憲性を主張しました。
最高裁は、この規制を積極目的規制(国内の養蚕・製糸業者の保護という社会経済政策上の規制)と位置づけ、小売市場事件と同様の明白性の基準を適用して合憲と判断しました。
積極的な社会経済政策の実施の一手段として、個人の経済活動に対し一定の合理的規制措置を講ずることは、憲法が予定し、かつ、許容するところであるから、裁判所は、立法府の右裁量的判断を尊重するのを建前とし、(中略)著しく不合理であることの明白である場合に限つて、これを違憲とすべきものと解するのが相当である。
― 最判平成2年2月6日(西陣ネクタイ訴訟)
この判決は、小売市場事件で示された積極目的規制に対する明白性の基準を踏襲したものであり、規制目的二分論の積極目的側を確認する判例として重要です。
酒類販売業免許制事件
酒類販売業免許制事件(最判平成4年12月15日)は、酒税法が酒類の販売業を営むには免許を要するとし、需給調整等を理由に免許を与えないことができるとしている点が、職業の自由に違反しないかが争われた事案です。
最高裁は、酒類販売業の免許制を、酒税の適正かつ確実な賦課徴収を図るという「租税の適正な徴収」を目的とする規制であると位置づけました。そして、この目的は消極目的とも積極目的とも明確に分類しにくいため、最高裁は規制目的二分論を機械的に適用せず、立法府の政策的・技術的な裁量を尊重しつつ、規制が著しく不合理でない限り合憲とする立場を採り、免許制を合憲と判断しました。
租税の適正かつ確実な賦課徴収を図るという国家の財政目的のための職業の許可制による規制については、(中略)立法府の政策的、技術的な裁量にゆだねるほかはなく、右裁量の範囲を逸脱し、著しく不合理なものでない限り、これを憲法22条1項の規定に違反するものということはできない。
― 最判平成4年12月15日(酒類販売業免許制事件)
この判決は、規制目的が消極・積極のいずれにも分類しにくい「財政目的(租税徴収目的)」の規制について、二分論の枠組みをそのまま当てはめず、緩やかな審査で合憲としたものであり、二分論の射程の限界を示す重要判例です。
関連判例の整理表
酒類販売業免許制事件(最判平4.12.15)において、最高裁は酒類販売業の免許制を消極目的規制と明確に位置づけ、厳格な合理性の基準を適用して違憲と判断した。○か×か。
規制目的二分論への批判と限界
二分論の問題点
規制目的二分論は、職業の自由に対する規制の合憲性判断の枠組みとして有用ですが、学説上はいくつかの批判も提起されています。
- 目的の二分が困難な場合がある: 実際の規制は消極目的と積極目的の両方の性格を併せもつ場合が多く、一義的に分類することが難しい。たとえば、公衆浴場の距離制限は消極目的(衛生)と積極目的(経営安定)の両面を有する
- 積極目的規制への審査が緩やかすぎる: 明白性の基準では事実上ほぼ全ての規制が合憲となり、裁判所の違憲審査機能が形骸化するとの批判がある
- 消極目的・積極目的の分類が結論を左右する: 規制をどちらに分類するかで審査の厳格度が大きく変わるため、分類自体が恣意的になり得る
森林法共有林事件における規制目的二分論の不採用
最高裁は、森林法共有林事件(最大判昭和62年4月22日)において、財産権(29条)の違憲審査基準を論じるにあたり、規制目的二分論を採用せず、より柔軟な比較衡量的アプローチを採りました。これは、規制目的二分論が職業の自由に限定された枠組みであり、必ずしも他の権利の審査に汎用的に用いられるものではないことを示しています。
判例の展開
規制目的二分論は、薬局距離制限事件と小売市場事件で示された後、その後の判例においてそのまま踏襲されたわけではありません。公衆浴場の距離制限に関する判例(最判平成元年1月20日、最判平成元年3月7日)では、公衆浴場の配置規制を消極目的にも積極目的にも位置づけ得る事案において、最高裁は規制目的の厳密な二分を行わず、合憲の結論を導きました。また、酒類販売業免許制事件(最判平成4年12月15日)では、租税の適正な徴収という財政目的の規制について、消極・積極のいずれにも分類せず、立法府の政策的・技術的裁量を尊重する緩やかな審査で合憲としています。
このように、判例は規制目的二分論を一つの判断枠組みとしつつも、事案に応じて柔軟な判断を行っています。試験対策としては、まず薬局距離制限事件と小売市場事件の枠組みを正確に理解した上で、その限界についても知っておくことが望ましいです。
二分論を相対化する視点
近年の有力な学説は、規制目的二分論を絶対的な基準とせず、これを審査の出発点・目安として相対化する立場を採っています。具体的には、規制の目的だけでなく、規制によって制約される職業の自由の重要性、規制の態様(許可制か届出制か、開業規制か営業態様規制か)、規制の強度といった諸要素を総合的に考慮して審査密度を決めるべきだとする見解が有力です。
実際の最高裁も、薬局距離制限事件で「職業の自由は事の性質上立法による制約の要請が強く、その規制を要求する社会的理由ないし目的も多種多様で、規制の強弱もさまざまである」と述べており、規制目的の二分のみで審査基準が一義的に決まると判示しているわけではありません。試験では二分論の枠組みが問われますが、それが万能の基準ではない点も理解しておくと、応用問題に対応しやすくなります。
試験での出題ポイント
択一式・多肢選択式での出題パターン
薬局距離制限事件に関する出題パターンは主に以下のとおりです。
- 規制目的二分論の枠組み: 消極目的規制には厳格な合理性の基準、積極目的規制には明白性の基準が適用されることの理解
- 小売市場事件との比較: 規制目的の分類(消極/積極)と審査基準の違い、結論(違憲/合憲)の違いが問われる
- 違憲判決の確認: 薬局距離制限事件は法律を違憲と判断した数少ない判例であることが問われる
- より緩やかな規制手段: 薬局距離制限が違憲とされた理由として、同じ目的を達成するためにより緩やかな手段があることが指摘された点が出題される
- 職業の自由の規制段階論: 職業活動の態様の規制と職業選択の自由そのものの規制の区別が問われる
多肢選択式での穴埋めポイント
多肢選択式では、判旨のキーワードを穴埋めで問う形式が多く見られます。以下のキーワードを押さえておきましょう。
- 「職業は、(中略)個人の人格的価値とも不可分の関連を有する」
- 「消極的、警察的措置」
- 「積極的な社会経済政策」
- 「必要かつ合理的な措置」
- 「著しく不合理であることの明白」
- 「より緩やかな規制手段」
頻出のひっかけポイント
薬局距離制限事件において、最高裁は、薬局の距離制限が違憲であると判断した理由の一つとして、不良医薬品の供給を防止するためにはより緩やかな規制手段(薬事監視体制の強化等)があることを挙げた。○か×か。
まとめ
薬局距離制限事件に関する重要ポイントを整理します。
- 規制目的二分論の枠組み: 消極目的規制(警察規制)には「厳格な合理性の基準」、積極目的規制(政策的規制)には「明白性の基準」が適用される。この二分論は職業の自由の領域で最も重要な違憲審査の枠組み
- 薬局距離制限は消極目的規制として違憲: 国民の生命・健康に対する危険防止を目的とする消極目的規制と位置づけ、距離制限は必要性・合理性を欠く(より緩やかな手段がある)として違憲と判断
- 小売市場事件との比較が超頻出: 小売市場事件(積極目的・明白性の基準・合憲)と薬局距離制限事件(消極目的・厳格な合理性の基準・違憲)の対比は、行政書士試験で最も出題頻度の高いテーマの一つ
薬局距離制限事件は、職業の自由の違憲審査基準を理解する上で避けて通ることのできない判例です。規制目的二分論の枠組みを正確に理解し、小売市場事件との比較を確実に押さえることで、択一式・多肢選択式の双方で確実に得点できるようになります。
よくある質問(FAQ)
Q1. 規制目的二分論は判例が明確に採用した理論ですか?
薬局距離制限事件と小売市場事件の判旨を総合すると、最高裁は規制の目的に応じて異なる審査密度を適用する姿勢を示しており、規制目的二分論の枠組みに沿った判断をしているといえます。ただし、判決文中に「規制目的二分論」という用語が明示的に使われているわけではなく、あくまで学説がこれらの判例を整理・説明する際に用いる理論的枠組みです。試験対策としては、この二分論の枠組みで判例を理解しておけば十分です。
Q2. 公衆浴場の距離制限に関する判例はどのように位置づけられますか?
公衆浴場の距離制限に関しては、最判平成元年1月20日と最判平成元年3月7日があります。これらの判例は、公衆浴場の配置規制について、国民の保健福祉の維持向上という消極目的的な側面と、公衆浴場の経営安定を図るという積極目的的な側面の両方を認めた上で、合憲の結論を導きました。これは、規制目的二分論の枠組みだけでは説明しにくい事案であり、二分論の限界を示す判例として位置づけられています。
Q3. 薬局距離制限事件の判決後、薬事法はどうなりましたか?
薬局距離制限事件で違憲と判断された薬事法6条2項等の規定は、その後の法改正によって削除されました。現在の医薬品医療機器等法(旧薬事法を改称)には、薬局の開設に関する距離制限の規定は存在しません。この判決は、立法に直接的な影響を与えた違憲判決の代表例です。
Q4. 職業の自由の「規制段階論」とはどのようなものですか?
薬局距離制限事件の判旨では、職業の自由に対する規制を段階的に捉えています。第一段階は職業活動の内容・態様に対する規制(営業時間の制限など)であり、第二段階は職業選択の自由そのものに対する規制(許可制など)です。規制が強いほど、その合憲性を認めるために必要な正当化の程度も高くなります。薬局の距離制限は第二段階(許可制による開業規制)に該当するため、より厳格な審査が求められました。
Q5. 「より緩やかな規制手段」(LRA)の基準は、他の判例でも用いられていますか?
「より緩やかな規制手段」の有無を審査するアプローチは、厳格な合理性の基準の核心的な判断要素です。このアプローチは薬局距離制限事件のほかにも、表現の自由の内容中立規制の審査などで類似の発想が用いられています。ただし、LRAの基準がどの程度厳格に適用されるかは、規制される権利の性質や規制の態様によって異なります。
Q6. 西陣ネクタイ訴訟と小売市場事件はどう違うのですか?
両者はいずれも積極目的規制に明白性の基準を適用して合憲とした点で共通します。違いは規制対象です。小売市場事件は小売市場の開設(許可制・距離制限)という開業規制が問題となったのに対し、西陣ネクタイ訴訟(最判平成2年2月6日)は生糸の輸入を一元的輸入機関に限定するという輸入制限が問題となりました。西陣ネクタイ訴訟は、小売市場事件で確立された積極目的規制への緩やかな審査が、開業規制以外の経済規制にも及ぶことを確認した判例として位置づけられます。
Q7. 酒類販売業免許制が消極目的規制でも積極目的規制でもないとされるのはなぜですか?
酒類販売業免許制事件(最判平成4年12月15日)で問題となった免許制の目的は、「酒税の適正かつ確実な賦課徴収」という財政目的(租税徴収目的)です。これは国民の生命・健康を守る消極目的でも、社会経済政策・弱者保護を図る積極目的でもなく、二分論の枠組みでは捉えきれません。そのため最高裁は二分論を機械的に適用せず、租税立法に関する立法府の政策的・技術的裁量を尊重して、規制が著しく不合理でない限り合憲とする緩やかな審査を行いました。二分論の射程外の事案として、薬局距離制限事件・小売市場事件とあわせて整理しておくとよいでしょう。
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