遺言の種類と方式|自筆証書遺言・公正証書遺言の要件
民法の遺言の種類と方式を解説。自筆証書遺言(968条、財産目録のPC作成可)、公正証書遺言(969条)の作成要件、遺言の撤回、遺留分制度を整理します。
はじめに|遺言は行政書士試験の頻出テーマ
遺言に関する規定は、行政書士試験の親族・相続分野において毎年のように出題される重要テーマです。遺言の方式(自筆証書遺言・公正証書遺言など)の作成要件、遺言の撤回、遺言の効力に加え、遺留分制度まで幅広い知識が問われます。
特に2019年の民法改正(2019年1月13日施行)では、自筆証書遺言の方式が緩和され、財産目録についてはPC等で作成することが認められたことが重要な改正点です。また、2020年施行の改正では遺留分侵害額請求権が金銭債権化されました。
本記事では、遺言の種類と方式を体系的に整理し、自筆証書遺言と公正証書遺言を中心に詳しく解説していきます。
遺言の基本原則
遺言能力(961条〜963条)
遺言をするには、遺言能力が必要です。
民法961条
「十五歳に達した者は、遺言をすることができる。」
遺言能力に関する重要なルールは以下のとおりです。
- 15歳以上であれば遺言ができる(961条)
- 遺言には行為能力の規定は適用されない(962条)
- したがって、未成年者でも15歳以上であれば単独で遺言できる(法定代理人の同意は不要)
- 成年被後見人も、事理弁識能力を一時回復した時に、医師2人以上の立会いのもとで遺言ができる(973条)
注意: 通常の法律行為では、未成年者は法定代理人の同意を得なければなりませんが(5条)、遺言については行為能力の規定が適用されないため(962条)、15歳以上であれば単独で有効に遺言できます。
遺言の要式性
遺言は要式行為です。民法が定める方式に従わなければ、遺言としての効力を生じません(960条)。
民法960条
「遺言は、この法律に定める方式に従わなければ、することができない。」
これは、遺言者の真意を確保し、偽造・変造を防止するための規定です。遺言者の死後に効力が生じるため、本人の意思を確認することができなくなることから、厳格な方式が要求されています。
共同遺言の禁止(975条)
民法975条
「遺言は、二人以上の者が同一の証書ですることができない。」
2人以上の者が同一の証書で遺言をすること(共同遺言)は禁止されています。夫婦であっても、1通の遺言書に連名で遺言することはできません。
その理由は、各遺言者の自由な意思決定を確保し、遺言の撤回の自由を保障するためです。
遺言の方式|普通方式と特別方式
民法が定める遺言の方式は、大きく普通方式と特別方式に分かれます。
行政書士試験で重要なのは、普通方式の3種(特に自筆証書遺言と公正証書遺言)です。特別方式は出題頻度が低いですが、概要は押さえておきましょう。
自筆証書遺言(968条)
要件
民法968条
「1項:自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。」
自筆証書遺言の成立要件は以下の4つです。
日付に関する重要判例
- 「令和8年2月吉日」→ 無効(日付が特定できないため)
- 「令和8年2月28日」→ 有効(特定の日が記載されている)
- 「満70歳の誕生日」→ 有効(日付が特定できるため、判例)
財産目録の方式緩和(968条2項)|2019年改正
民法968条2項
「前項の規定にかかわらず、自筆証書にこれと一体のものとして相続財産(第九百九十七条第一項に規定する場合における同項に規定する権利を含む。)の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない。この場合において、遺言者は、その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名し、印を押さなければならない。」
2019年の改正により、自筆証書遺言に添付する財産目録については自書が不要となりました。具体的には、以下の方法で作成できます。
- パソコンで作成した目録
- 代筆による目録
- 不動産の登記事項証明書のコピー
- 預金の通帳のコピー
ただし、自書によらない財産目録を添付する場合は、遺言者がその目録の毎葉に署名・押印しなければなりません(968条2項後段)。両面に記載がある場合は両面に署名・押印が必要です。
試験のポイント: 改正後も、遺言書の本文(全文)は依然として自書が必要です。自書が不要となったのは「財産目録」の部分のみです。
自筆証書遺言の加除・変更(968条3項)
自筆証書遺言の加除その他の変更は、遺言者がその場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じません(968条3項)。方式が厳格であるため、実務上は書き直す方が簡便です。
自筆証書遺言書保管制度
2020年7月10日から、法務局における自筆証書遺言書保管制度が開始されました(法務局における遺言書の保管等に関する法律)。
法務局に保管された自筆証書遺言については、検認が不要です(同法11条)。通常の自筆証書遺言は、家庭裁判所の検認が必要とされていますが(1004条1項)、保管制度を利用することでこの手続が不要になります。
自筆証書遺言において、財産目録を含む遺言書の全文をパソコンで作成し、署名・押印することで有効な遺言書を作成できる。
公正証書遺言(969条)
要件
民法969条
公正証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。
一 証人二人以上の立会いがあること
二 遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授すること
三 公証人が、遺言者の口述を筆記し、これを遺言者及び証人に読み聞かせ、又は閲覧させること
四 遺言者及び証人が、筆記の正確なことを承認した後、各自これに署名し、印を押すこと。ただし、遺言者が署名することができない場合は、公証人がその事由を付記して、署名に代えることができる。
五 公証人が、その証書は前各号に掲げる方式に従って作ったものである旨を付記して、これに署名し、印を押すこと。
公正証書遺言の作成手順をまとめると以下のとおりです。
証人の欠格事由(974条)
以下の者は、遺言の証人又は立会人になることができません(974条)。
- 未成年者
- 推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族
- 公証人の配偶者、四親等内の親族、書記及び使用人
試験のポイント: 証人欠格事由に該当する者が証人として立ち会った公正証書遺言は、方式違反により無効となります。
公正証書遺言のメリットとデメリット
メリット
- 公証人が関与するため、方式不備による無効のリスクが低い
- 原本が公証役場に保管されるため、偽造・変造・紛失のリスクがない
- 検認が不要(1004条2項)
- 自書できない者(手が不自由な者など)でも作成できる
デメリット
- 公証役場に出向く必要がある(出張も可能だが費用が加算)
- 公証人手数料がかかる
- 証人2人以上を確保する必要がある
- 遺言内容が公証人と証人に知られる
秘密証書遺言(970条)
要件
秘密証書遺言は、遺言の内容を秘密にしたまま、遺言の存在だけを証明してもらう方式です。
- 遺言者が、その証書に署名・押印する
- 遺言者が、その証書を封じ、証書に用いた印章をもってこれに封印する
- 遺言者が、公証人1人及び証人2人以上の前に封書を提出して、自己の遺言書である旨並びにその筆者の氏名及び住所を申述する
- 公証人が、その証書を提出した日付及び遺言者の申述を封紙に記載した後、遺言者及び証人とともに署名・押印する
秘密証書遺言は、本文を自書する必要がありません(PC作成・代筆可)。ただし、実務上は利用されることが極めて少ない方式です。
注意: 秘密証書遺言が方式に不備がある場合でも、自筆証書遺言の方式を満たしていれば、自筆証書遺言としての効力が認められます(971条)。
遺言の撤回(1022条)
撤回の自由
民法1022条
「遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができる。」
遺言者は、いつでも自由に遺言の全部又は一部を撤回することができます。遺言の撤回権は放棄することができません(1026条)。
法定撤回(1023条・1024条)
以下の場合には、遺言の撤回があったものとみなされます。
具体例
- Aが「甲土地をBに遺贈する」という遺言をした後、「甲土地をCに遺贈する」という遺言をした場合、前の遺言(B への遺贈)は撤回されたものとみなされます(1023条1項)
- Aが「甲土地をBに遺贈する」という遺言をした後、甲土地をDに売却した場合、遺言は撤回されたものとみなされます(1023条2項)
試験のポイント: 撤回された遺言は、その撤回行為が撤回された場合でも、原則として復活しません(1025条本文)。ただし、撤回行為が詐欺又は強迫によるものであった場合は、遺言が復活します(1025条ただし書)。
遺言の効力
遺言の効力発生時期(985条)
民法985条1項
「遺言は、遺言者の死亡の時からその効力を生ずる。」
遺言は、遺言者が作成した時点では効力を生じず、遺言者の死亡の時に効力が発生します。
遺言の検認(1004条)
遺言書の保管者又は遺言書を発見した相続人は、相続の開始を知った後、遅滞なく、遺言書を家庭裁判所に提出して検認を請求しなければなりません(1004条1項)。
ただし、以下の遺言については検認は不要です。
- 公正証書遺言(1004条2項)
- 法務局保管の自筆証書遺言(遺言書保管法11条)
注意: 検認は遺言の有効・無効を判断する手続ではなく、遺言書の偽造・変造を防止するための手続(証拠保全手続)です。検認を経なくても遺言自体が無効になるわけではありません。
遺言者が前の遺言と矛盾する内容の新たな遺言をした場合、前の遺言の矛盾する部分は撤回されたものとみなされる。
遺留分制度
遺留分とは
遺留分とは、一定の相続人に法律上保障された最低限の相続分のことです。被相続人が遺言で全財産を第三者に遺贈しても、遺留分権利者は一定割合の財産を確保できます。
遺留分権利者と遺留分の割合(1042条)
重要: 兄弟姉妹には遺留分がありません。したがって、遺言で全財産を配偶者に遺贈した場合、兄弟姉妹は遺留分侵害額請求をすることができません。
各相続人の個別的遺留分
各相続人の個別的遺留分は、全体の遺留分に法定相続分を乗じて算出します。
計算例:被相続人の遺産6000万円、相続人が配偶者と子2人の場合
- 全体の遺留分:6000万円 × 1/2 = 3000万円
- 配偶者の遺留分:3000万円 × 1/2(法定相続分)= 1500万円
- 子1人あたりの遺留分:3000万円 × 1/2(法定相続分)× 1/2(子の頭割り)= 750万円
遺留分侵害額請求権(1046条)|2020年改正
民法1046条1項
「遺留分権利者及びその承継人は、受遺者(特定財産承継遺言により財産を承継し又は相続分の指定を受けた相続人を含む。以下この章において同じ。)又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる。」
改正前と改正後の比較
改正のポイント: 改正前は、遺留分減殺請求権の行使により目的物の現物返還が原則とされていたため、遺贈の目的物が共有状態になるという問題がありました。改正後は、遺留分侵害額請求権は金銭債権に一本化され、金銭の支払いを請求する権利となりました。これにより、事業用資産や不動産が共有状態になることを防止できるようになりました。
遺留分侵害額請求権の期間制限(1048条)
遺留分侵害額請求権は、以下の期間制限に服します。
遺留分の放棄(1049条)
相続の開始前における遺留分の放棄は、家庭裁判所の許可を受けた場合に限り、その効力を生じます(1049条1項)。
注意: 相続開始後の遺留分の放棄は、家庭裁判所の許可なく自由に行えます。家庭裁判所の許可が必要なのは、相続開始前の放棄の場合です。
また、共同相続人の一人がした遺留分の放棄は、他の共同相続人の遺留分に影響を及ぼしません(1049条2項)。
2020年の民法改正により、遺留分侵害額請求権は金銭債権とされ、目的物の現物返還を請求することはできなくなった。
自筆証書遺言と公正証書遺言の比較表
試験対策のまとめ
択一式で問われるポイント
- 自筆証書遺言の4つの要件(全文の自書・日付の自書・氏名の自書・押印)を正確に暗記する
- 財産目録のPC作成が認められた改正点と、毎葉への署名・押印の要件を押さえる
- 公正証書遺言の作成手順(証人2人以上、口授、筆記、読み聞かせ等)を理解する
- 証人の欠格事由(未成年者、推定相続人等)を暗記する
- 遺言の撤回の自由と法定撤回の事由を整理する
- 遺留分侵害額請求権の金銭債権化(改正ポイント)を理解する
- 兄弟姉妹には遺留分がないことを押さえる
記述式で問われる場合
遺言が記述式で出題される場合は、以下の点に注意して解答を構成します。
- 遺言の方式に不備がないかを確認する
- 遺留分が問題となる場合は、遺留分権利者の範囲と個別的遺留分を計算する
- 「遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる」 という改正後の正確な文言を使用する
- 期間制限にも注意する(1年の消滅時効、10年の除斥期間)
遺言と遺留分は、相続分野の中でも特に出題頻度が高いテーマです。自筆証書遺言と公正証書遺言の作成要件の違い、遺留分侵害額請求権の改正ポイントを確実に整理し、正確な知識を身につけておきましょう。
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