贈与と交換の要点|書面によらない贈与の撤回
贈与契約の意義(549条)、書面によらない贈与の撤回(550条)、特殊な贈与(定期贈与・負担付贈与・死因贈与)、交換契約(586条)を行政書士試験向けに解説。撤回可能な範囲と制限を正確に押さえます。
はじめに|贈与は無償契約の基本形
贈与は、民法が定める典型契約(13種類)の中で最初に規定されている契約類型です(549条〜554条)。無償契約の基本形として位置づけられており、売買など有償契約とは異なるルールが適用されます。
行政書士試験では、書面によらない贈与の撤回(550条)が最も頻出の論点です。「どの時点まで撤回できるか」「書面とは何か」といった細かい知識が問われます。また、特殊な贈与類型(定期贈与・負担付贈与・死因贈与)や交換契約(586条)も出題範囲に含まれます。
贈与契約の意義(549条)
贈与とは
贈与は、当事者の一方がある財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる。
――民法549条
贈与は以下の特徴を持つ契約です。
贈与の対象
贈与の対象は「財産」であり、動産・不動産・債権・知的財産権など、財産的価値のあるものであれば広く含まれます。労務の提供は贈与の対象にはなりません。
書面によらない贈与の撤回(550条)
条文
書面によらない贈与は、各当事者が撤回することができる。ただし、履行の終わった部分については、この限りでない。
――民法550条
撤回の趣旨
書面によらない贈与が撤回可能とされる理由は、贈与が無償契約であるため、贈与者の意思を慎重に確認する必要があるからです。口頭での贈与の約束は軽率になされることがあり、贈与者を保護する必要があります。
一方、書面で贈与した場合は、十分な熟慮の上で行ったと考えられるため、撤回は認められません。
「書面」とは何か
ここでいう「書面」について、判例は以下のように解釈しています。
- 贈与契約書: 当然に書面に該当
- 贈与の内容を記載した文書: 贈与者の贈与意思が確認できるものであれば足りる
- 公正証書: 当然に書面に該当
判例は「書面」を比較的広く解しており、贈与がされたことを確実に看取しうる程度の書面があれば足りるとしています(最判昭和60年11月29日)。
「履行の終わった部分」とは
書面によらない贈与であっても、履行が終わった部分については撤回できません。
不動産贈与について、判例は引渡しまたは登記のいずれかがなされれば「履行の終わった部分」に該当するとしています。引渡しと登記の両方が必要ではありません。
撤回権者
550条は「各当事者が撤回することができる」と規定しています。つまり、贈与者だけでなく受贈者も撤回できます。ただし、実際に撤回を行使するのはほとんどの場合、贈与者です。
贈与者の担保責任(551条)
贈与者の責任は軽減されている
贈与者は、贈与の目的である物又は権利の瑕疵又は不存在について、その責任を負わない。ただし、贈与者がその瑕疵又は不存在を知りながら受贈者に告げなかったときは、この限りでない。
――民法551条1項(改正前の趣旨)
改正民法では、贈与者は契約の内容に適合しない目的物を引き渡した場合でも、贈与の目的として特定した時の状態で引き渡せば担保責任を負いません(551条1項)。
これは贈与が無償契約であるため、有償契約である売買と比べて贈与者の責任を軽くしているものです。
負担付贈与の場合(551条2項)
負担付贈与については、贈与者は、その負担の限度において、売主と同じく担保の責任を負う。
――民法551条2項
負担付贈与では、受贈者が負担を履行する分だけ対価的な要素があるため、負担の限度で売主と同様の担保責任(契約不適合責任)を負います。
特殊な贈与類型
定期贈与(552条)
定期の給付を目的とする贈与は、贈与者又は受贈者の死亡によって、その効力を失う。
――民法552条
定期贈与とは、毎月○万円を贈与するというように、定期的な給付を内容とする贈与です。
定期贈与は当事者間の信頼関係に基づく契約であるため、贈与者または受贈者の死亡により効力を失います。相続人に承継されません。
負担付贈与(553条)
負担付贈与については、この節に定めるもののほか、その性質に反しない限り、双務契約に関する規定を準用する。
――民法553条
負担付贈与とは、受贈者に一定の義務(負担)を課す贈与です。
具体例:
- 「この家をあげるから、私が死ぬまで面倒を見てください」
- 「100万円をあげるから、犬の世話をしてください」
負担付贈与には双務契約の規定が準用されるため、同時履行の抗弁権(533条)や危険負担の規定が適用されます。
負担付贈与の撤回
負担付贈与も書面によらなければ撤回可能です。ただし、受贈者がすでに負担を履行している場合は、信義則上、撤回が制限される可能性があります。
死因贈与(554条)
贈与者の死亡によって効力を生ずる贈与については、その性質に反しない限り、遺贈に関する規定を準用する。
――民法554条
死因贈与とは、贈与者の死亡を条件(停止条件)として効力を生じる贈与です。
死因贈与の撤回: 判例は、死因贈与も遺贈に関する規定(1022条:遺言の撤回)が準用されるとして、贈与者は原則としていつでも撤回できるとしています(最判昭和47年5月25日)。ただし、負担付死因贈与で受贈者がすでに負担を履行している場合は、特段の事情がない限り撤回できないとされています(最判昭和57年4月30日)。
交換契約(586条)
交換とは
交換は、当事者が互いに金銭の所有権以外の財産権を移転することを約することによって、その効力を生ずる。
――民法586条1項
交換とは、当事者が互いに金銭以外の財産権を移転することを内容とする契約です。
交換の特徴
売買規定の準用(586条2項)
当事者の一方が他の権利とともに金銭の所有権を移転することを約した場合におけるその金銭については、売買の代金に関する規定を準用する。
――民法586条2項
交換には売買の規定が準用されます。したがって、契約不適合責任の規定も交換に適用されます。
交換と売買の違い
交換で差額がある場合に金銭で補充することは認められており(586条2項)、その金銭部分には売買の代金に関する規定が準用されます。
贈与と類似する制度との比較
贈与と使用貸借
贈与と信託
贈与は受贈者が目的物を自由に処分できるのに対し、信託は受託者が信託目的に従って管理・処分する点で異なります。
まとめ
贈与と交換のポイントを整理します。
- 贈与は諾成・無償・片務契約: 合意のみで成立、対価は不要
- 書面によらない贈与は撤回可能: 履行の終わった部分は撤回不可
- 不動産贈与の「履行」: 引渡しまたは登記のいずれかで履行終了
- 特殊な贈与: 定期贈与(死亡で失効)、負担付贈与(双務契約の規定準用)、死因贈与(遺贈の規定準用)
- 交換: 金銭以外の財産権の相互移転、売買の規定を準用
書面によらない贈与の撤回と死因贈与の撤回は試験頻出です。特に不動産贈与における「履行の終わった」の判断基準は細部まで正確に覚えてください。
書面によらない不動産の贈与において、引渡しは完了しているが登記は未了である場合、贈与者は贈与を撤回できる。
死因贈与は、贈与者が生存中はいつでも撤回することができるのが原則である。
負担付贈与については、その性質に反しない限り、双務契約に関する規定が準用される。
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