94条2項類推適用の判例群|権利外観法理を解説
民法94条2項の類推適用に関する重要判例群を徹底解説。虚偽表示の条文が類推適用される3つのパターンと権利外観法理の展開を整理します。
民法94条2項の類推適用は、行政書士試験の民法分野において最も重要な論点の一つです。条文上は通謀虚偽表示の場面を想定した規定ですが、判例は「権利外観法理」に基づいてこの規定を広く類推適用し、真の権利関係と異なる外観を信頼した第三者を保護しています。本記事では、94条2項の直接適用の基本から、類推適用の3つのパターン、110条との重畳適用、関連判例の事案と判旨、過去問で問われた角度まで、試験対策に必要な知識を網羅的に解説します。
民法94条2項の条文と趣旨
まず、94条2項の類推適用を理解するための前提として、94条の条文と制度趣旨を正確に把握しておきましょう。類推適用は「条文の射程外の事案に、条文の趣旨が妥当するから条文を借りて適用する」という技法ですから、出発点となる条文の趣旨を正しく押さえることが何よりも重要です。
民法94条の規定
相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする。
― 民法 第94条1項
前項の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。
― 民法 第94条2項
94条1項は、当事者が通謀(通じ合って)して行った虚偽の意思表示は無効であることを定めています。たとえば、AがBと示し合わせて、Aの土地をBに売却したように仮装する場合がこれにあたります。AB間の売買契約は虚偽表示として無効です。
ここで重要なのは、94条1項が成立するためには「通謀」、すなわち表意者と相手方が示し合わせて虚偽の外観を作り出す合意が必要だという点です。一方的に虚偽の表示をしただけ(相手方が事情を知らない)であれば、それは心裡留保(93条)の問題であって94条1項の虚偽表示にはあたりません。この「通謀の有無」が、後に述べる直接適用と類推適用を分ける決定的な分水嶺になります。
94条2項の制度趣旨
94条2項は、虚偽表示が無効であっても、その無効を善意の第三者に対抗することはできないと定めています。これは、虚偽の外観を作り出した者と、その外観を信頼した第三者のうち、いずれを保護すべきかという利益衡量に基づく規定です。
虚偽の外観を自ら作り出した者(真の権利者)には「帰責性」があり、虚偽の外観を信頼した者(善意の第三者)には「信頼の保護」が必要です。帰責性のある者よりも信頼を寄せた第三者を保護すべきであるというのが、94条2項の基本的な価値判断です。
この趣旨は、しばしば「禁反言(エストッペル)」や「自己責任」の原則とも説明されます。自ら虚偽の外観を作り出しておきながら、後になって「あれは嘘だった、無効だ」と第三者に主張するのは矛盾した態度であり、信義に反する。だから真の権利者は、自ら作り出した外観を信頼した第三者に対しては「無効」を主張できない――こう理解すると、なぜ類推適用が許されるのかも見通しやすくなります。
権利外観法理とは
権利外観法理(外観法理・表見法理)とは、真の権利関係と異なる外観が存在する場合において、その外観の作出について真の権利者に帰責性があり、かつ第三者がその外観を信頼した場合には、第三者を保護するという法理です。一般に次の3要素から構成されると整理されます。
94条2項は、この権利外観法理を実定法上に体現した代表的な規定であり、判例はこの法理に基づいて94条2項の類推適用を展開しています。権利外観法理を採用した規定は他にも多く、たとえば表見代理(109条・110条・112条)、表見支配人(会社法)、即時取得(192条)などがあります。94条2項類推適用は、これらと同じ思想の延長線上にあると理解しておくと、横断的な学習に役立ちます。
94条2項の直接適用:通謀虚偽表示の場合
類推適用を理解するために、まず直接適用の場面を確認しておきましょう。
典型的な事例
AとBが通謀して、A所有の不動産をBに売却したように仮装し、BへのA名義からの所有権移転登記を行ったとします。その後、Bがこの不動産をCに売却しました。
この場合、AB間の売買は通謀虚偽表示として無効です(94条1項)。したがって、所有権はAに帰属したままであり、Bは無権利者です。本来であれば、無権利者Bから買い受けたCも所有権を取得できないはずです。
しかし、CがAB間の売買が虚偽表示であることについて善意(知らなかった)であれば、94条2項により、AはCに対してAB間の売買の無効を対抗できません。結果として、Cは保護されます。
「善意」の意味と立証責任
94条2項の「善意」とは、虚偽表示であることを知らなかったことを意味します。判例によれば、善意については無過失は不要です(最判昭35.2.2)。つまり、過失があっても善意であれば保護されます。
直接適用で無過失が不要とされる理由は、通謀虚偽表示の当事者である真の権利者の帰責性が極めて高いからです。自ら相手方と示し合わせて虚偽の外観を作り出したのですから、その者を犠牲にして第三者を保護するハードルは低くてよい、という価値判断です。この「帰責性が高ければ第三者の保護要件は緩和される」という発想は、後述する類推適用の3パターンを理解する鍵になります。
また、善意の立証責任は第三者にあるとされていますが、通常は善意が推定されるため、実際には虚偽表示の当事者が第三者の悪意を立証しなければなりません。なお、第三者が保護されるためには対抗要件としての登記を備えている必要はないとするのが判例(最判昭44.5.27)です。第三者は権利取得を主張する者であって、94条2項により真の権利者との関係では「無効を対抗されない」地位に立つため、登記なくして保護されると説明されます。
「第三者」の範囲
94条2項の「第三者」とは、虚偽表示の当事者及びその一般承継人以外の者であって、虚偽表示の外形について新たに独立した法律上の利害関係を有するに至った者をいいます(大判大9.7.23)。
第三者にあたる者の例と、あたらない者の例を整理しておきましょう。
このように「新たに・独立した・法律上の・利害関係」という4つのメルクマールに照らして該当性を判断する点が、択一式で繰り返し問われます。
パターン1:94条2項の単独類推適用
ここからが試験で最も重要な部分です。94条2項が類推適用される3つのパターンを正確に区別して理解しましょう。3パターンの違いは突き詰めれば「真の権利者の帰責性の程度」の違いであり、それに応じて「第三者の保護要件(善意か善意無過失か)」が変動する、という一点に集約されます。
パターン1の類型
パターン1は、通謀はないものの、真の権利者が虚偽の外観の作出に積極的に関与した場合に、94条2項を単独で類推適用するものです。
この類型の特徴は、相手方との「通謀」はないものの、真の権利者自身が虚偽の外観を意図的に作り出している点にあります。通謀がないため94条2項を直接適用することはできませんが、真の権利者に高い帰責性があることから、類推適用が認められます。
具体的な事例
Aが、自己所有の不動産の登記名義を、通謀することなく一方的にBに移転した場合を考えます。たとえば、Aが不動産の管理をBに委ねるために、Bに白紙委任状と登記済証を交付したところ、BがAに無断でB名義に所有権移転登記を行ったとします。この場合、AとBの間に通謀はありませんが、Aが白紙委任状等を交付したことにより虚偽の外観の作出に積極的に関与しています。
その後、B名義の登記を信頼してBから不動産を買い受けたCが善意であれば、94条2項が類推適用され、Cは保護されます。
もう一つの典型例が、いわゆる「意思外形対応型」と呼ばれる事案です。Aが自ら、または承認のもとで、真実と異なる登記(外形)を作り出し、その外形が真の権利者の意思と対応している場合です。Aが「Bの名義にしておこう」と自ら意図して作った外形である以上、その外形を信頼した第三者を保護しても、Aにとって不当な不意打ちにはなりません。
関連判例
最判昭和29年8月20日は、真の権利者が虚偽の外観の作出に積極的に関与した場合に94条2項の類推適用を認めた初期の判例として位置づけられます。本人が他人名義の不実の登記の存在を知りながら異議をとどめなかった事案で、虚偽表示に関する94条2項を類推適用しました。
最判昭和41年3月18日は、不動産の所有者が、他人名義で登記を行うことを承認していた場合について、94条2項の類推適用を認めました。所有者自身が他人名義の外形作出を承認していた以上、その帰責性は通謀虚偽表示に準じる程度に高いと評価できるため、第三者は善意で保護されます。
パターン1の要件
パターン1の要件を整理すると、以下のとおりです。
- 虚偽の外観の存在: 真の権利関係と異なる外観(不実の登記等)が存在すること
- 真の権利者の帰責性: 真の権利者が虚偽の外観の作出に積極的に関与したこと
- 第三者の善意: 第三者が虚偽の外観を信頼したこと(善意で足り、無過失は不要)
ポイントは、パターン1では真の権利者の帰責性が「自ら外観を作出・承認した」という通謀虚偽表示に準じる高い水準にあるため、第三者の保護要件が直接適用と同じく「善意」で足りる点です。無過失まで要求しないところに、帰責性と保護要件の相関がはっきり表れています。
94条2項の類推適用(パターン1)においては、第三者の保護要件として善意に加えて無過失も必要とされる。○か×か。
パターン2:94条2項・110条の法意の類推適用(重畳適用)
パターン2は、真の権利者の虚偽の外観作出への関与が薄い場合に、94条2項と110条の法意を併せて類推適用するものです。「94条2項 110条 重畳適用」という形で検索・出題される、まさに本論点の核心部分です。
パターン2の類型
パターン2が問題となるのは、真の権利者が虚偽の外観の作出に一定程度関与してはいるものの、その関与がパターン1ほど積極的ではない場合です。たとえば、真の権利者が当初作り出した外観(第一の外形)と、第三者が現に信頼した外観(第二の外形)が食い違っており、第二の外形は真の権利者の意思に基づかず作出された、という構造をとることが多く、講学上「意思外形非対応型」と呼ばれます。
このような場合、真の権利者の帰責性がパターン1よりも低いため、第三者の側にも高い保護要件(善意無過失)が求められます。ここで110条の法意が加味されるのです。真の権利者が作り出した外形を、第三者がそれを超える形で信頼した点が、表見代理(与えた権限を超えた行為)と構造的に似ているため、110条の「正当な理由(=善意無過失)」の要件を借りてくるわけです。
110条の法意とは
民法110条は、表見代理の一類型として「権限外の行為の表見代理」を定めています。
前条第一項本文の規定は、代理人がその権限外の行為をした場合において、第三者が代理人の権限があると信ずべき正当な理由があるときについて準用する。
― 民法 第110条
110条の「正当な理由」とは、第三者が代理権の存在を信じたことについて善意かつ無過失であることを意味します。この「善意無過失」の要件が、パターン2に取り込まれるのです。
ここで注意したいのは、パターン2はあくまで「110条の法意(趣旨)」の類推であって、110条そのものの適用ではないという点です。本件には代理関係も基本代理権も存在しないため110条を直接・準用する余地はなく、表見代理を支える「与えた外観の範囲を超えた信頼は善意無過失でなければ保護しない」という発想(法意)だけを借りてくる、という建て付けになっています。
具体的な事例
Aが所有する不動産について、AがBに対して何らかの代理権(たとえば賃貸借契約の締結に関する代理権)を付与したところ、Bがその代理権の範囲を超えて、A所有の不動産をB名義に所有権移転登記をしてしまった場合を考えます。
Aは、Bに代理権を与えたことにより、虚偽の外観の作出に一定程度関与しています。しかし、所有権移転登記まで行うことは想定していなかったのであり、その関与はパターン1ほど積極的ではありません。
このような場合に、94条2項と110条の法意を併せて類推適用し、第三者Cが善意かつ無過失であれば保護されるとするのがパターン2です。
関連判例
最判昭和43年10月17日は、94条2項と110条の法意の類推適用を認めたリーディングケースです。真の権利者が虚偽の登記名義の作出に一定の関与をしていた事案で、第三者に善意無過失を要求しました。真の権利者が自ら作出を意図した外形を超える外形が作られ、第三者がその外形を信頼したという「意思外形非対応型」の事案類型を扱った代表判例として位置づけられます。
このほか、最判昭和45年6月2日なども、第一の外形作出に本人が関与した後、それと食い違う第二の外形が作られた事案で、94条2項・110条の法意を類推適用し、第三者に善意無過失を要求した例として挙げられます。事案の細部は問われませんが、「意思外形非対応型では善意無過失」という結論はしっかり押さえましょう。
パターン2の要件
パターン2の要件を整理すると、以下のとおりです。
- 虚偽の外観の存在: 真の権利関係と異なる外観(不実の登記等)が存在すること
- 真の権利者の帰責性: 真の権利者が虚偽の外観の作出に一定の関与をしていること(パターン1より低い帰責性)
- 第三者の善意無過失: 第三者が虚偽の外観を信頼したことについて善意かつ無過失であること
「重畳適用」「併用」「法意の類推」といった表現はいずれも同じ事象を指します。択一・記述いずれでも、「94条2項及び110条の法意を類推適用し、第三者は善意無過失であれば保護される」という結論を、条文番号とセットで正確に書けるようにしておきましょう。
パターン3:94条2項の類推適用(不実の登記の放置)
パターン3は、不実の登記が存在することを知りながらこれを放置した場合に、94条2項を類推適用するものです。作為(自ら作出)ではなく不作為(放置)による帰責性が問題となる類型です。
パターン3の類型
パターン3が問題となるのは、真の権利者が自ら積極的に虚偽の外観を作り出したわけではないが、不実の登記の存在を知りながらこれを放置した場合です。この場合、真の権利者には「明示的に承認した」という帰責性はありませんが、「放置した」という不作為による帰責性が認められます。
放置型は、外観を「作った」のではなく「ありうべき外観を消さなかった」点に帰責性の根拠を求めます。したがって、真の権利者が不実の登記の存在を全く知らなかった場合(認識がない場合)には、原則として帰責性が認められず、類推適用も否定されます。「知りながら」「あえて」放置したという認識・容認が要件となる点が重要です。
具体的な事例
A所有の不動産について、AがBの所有名義で登記されていることを知りながら、AがBに対して登記の抹消を求めず、長期間にわたって放置していた場合を考えます。その後、B名義の登記を信頼してBから不動産を買い受けたCが現れたとします。
Aは虚偽の登記を自ら作出したわけではありませんが、不実の登記を知りながら放置したという帰責性があります。この場合、94条2項の類推適用により、善意のCが保護されます。
関連判例
最判昭和45年9月22日は、不実の登記を知りながら放置した場合について、94条2項の類推適用を認めた重要判例です。
不動産の所有者が、登記名義を他の者に移すことを承諾し、またはこれを知りながらあえて放置した場合において、登記名義人から当該不動産を取得した第三者は、民法94条2項の類推適用により保護される。
― 最判昭和45年9月22日
パターン3の要件
パターン3の要件を整理すると、以下のとおりです。
- 不実の登記の存在: 真の権利関係と異なる不実の登記が存在すること
- 真の権利者の認識と放置: 真の権利者が不実の登記の存在を知りながらこれを放置したこと
- 第三者の善意: 第三者が不実の登記を信頼したこと(善意で足りるのが原則だが、事案によっては善意無過失が要求される場合もある)
重要判例:最判平成18年2月23日(深掘り)
3パターンの整理を踏まえたうえで、近年の到達点を示すリーディングケースとして最判平成18年2月23日を押さえておくと、理解が一段深まります。判例の射程を示す重要判例として、近年の試験対策本でも頻繁に取り上げられます。
事案
不動産の所有者Aが、Bにだまされるなどして、自らは外形作出に深く関与していないにもかかわらず、結果としてB名義の不実の登記が作出・存続した、という事案を素材としています。Aの関与の程度が、従来の意思外形対応型(パターン1)よりさらに薄いケースです。
判旨
自らの意思に基づいて虚偽の外観(不実の登記)の作出に積極的に関与した場合やこれを知りながらあえて放置した場合と同視し得るほど重い帰責性が認められるときは、第三者が善意無過失であれば、民法94条2項、110条の類推適用により保護される。
― 最判平成18年2月23日(趣旨)
意義
この判例の意義は、94条2項類推適用の根拠を「真の権利者の帰責性の程度」と「第三者の信頼の程度」の相関で統一的に説明し、外観作出への直接関与がなくても、それと「同視し得るほど重い帰責性」があれば、94条2項・110条の類推により善意無過失の第三者を保護しうると示した点にあります。帰責性が相対的に薄い分、第三者には善意無過失という重い要件が課されるという相関が、ここでも貫かれています。試験では「本人の関与が薄い事案でも、帰責性が放置と同視できるほど重ければ、善意無過失の第三者は保護される」という結論を押さえれば十分です。
3パターンの比較整理
3つのパターンを比較して整理すると、以下の表のようになります。この比較は試験対策上極めて重要です。
比較表
帰責性と保護要件の相関関係
3パターンに共通する重要な原則は、「真の権利者の帰責性が高ければ高いほど、第三者の保護要件は緩和される」という相関関係です。
- パターン1:真の権利者の帰責性が高い→第三者は善意で足りる
- パターン2:真の権利者の帰責性が中程度→第三者に善意無過失が必要
- パターン3:真の権利者の帰責性は放置程度→事案に応じて善意又は善意無過失
この相関関係は権利外観法理の本質を表しており、試験でもこの理解が問われます。直接適用(通謀虚偽表示)が「帰責性最大→善意で足りる」の極にあり、平成18年判例が「帰責性が薄い→善意無過失」の側にあると位置づけると、全体像が一本の物差しの上に整理できます。
善意の「第三者」の範囲に関する共通ルール
94条2項の類推適用において保護される「第三者」の範囲は、直接適用の場合と同様に解されています。すなわち、虚偽の外観について新たに独立した法律上の利害関係を有するに至った者が「第三者」に該当します。
また、転得者(虚偽の名義人から取得した者からさらに取得した者)についても、善意であれば保護されるのが原則です。ここで重要なのが「絶対的構成」と「相対的構成」という対立する見解です。
- 絶対的構成: いったん善意の第三者が現れて確定的に権利を取得すれば、その後の転得者は善意・悪意を問わず保護される。判例(大判昭6.10.24)はこの立場をとると理解されています。
- 相対的構成: 各取得者ごとに善意・悪意を判断し、悪意者は保護されないとする立場。
判例が絶対的構成をとると、いったん善意者が介在すれば権利関係が早期に安定するという長所があります。逆に、悪意の転得者がいったん善意者を「わら人形」として介在させて保護を受ける、いわゆる「悪意者の介在」の問題が指摘されますが、判例は法律関係の安定を重視して絶対的構成を採用していると説明されます。
94条2項・110条の法意の類推適用(パターン2)では、第三者の保護要件として善意のみで足り、無過失は不要である。○か×か。
94条2項の直接適用において、第三者が保護されるためには、虚偽表示につき善意であることに加え、当該不動産につき所有権移転登記を備えていることが必要である。○か×か。
試験での出題ポイント
94条2項の類推適用は、行政書士試験の民法分野で繰り返し出題される超重要論点です。出題パターンを把握して確実に得点しましょう。
択一式での出題パターン
パターンの区別に関する問題
「真の権利者が虚偽の外観の作出に積極的に関与した場合、第三者に善意無過失が必要である」という記述の正誤が問われます。積極的関与(パターン1)の場合は善意で足り、善意無過失は不要ですので、この記述は誤りです。逆に「関与が薄い事案でも善意で足りる」という記述も、パターン2・平成18年判例に照らせば誤りになります。要件と帰責性の対応を反対にした「ひっかけ」が頻出です。
権利外観法理に関する問題
94条2項の類推適用が権利外観法理に基づくことを前提とした出題がなされます。権利外観法理の要素として、(1)虚偽の外観の存在、(2)真の権利者の帰責性、(3)第三者の信頼の3要素を正確に理解しておきましょう。
直接適用と類推適用の区別
通謀虚偽表示の場合は直接適用、通謀がない場合は類推適用であることの区別が問われます。「通謀がないのに直接適用」とする記述は誤りです。
第三者の範囲・登記の要否
「差押債権者は第三者にあたる」「第三者は登記不要で保護される」といった、第三者の意義・保護要件の細部を問う出題も見られます。直接適用の知識(前述)がそのまま類推適用にも妥当する点を押さえましょう。
多肢選択式・記述式での出題パターン
記述式では、94条2項の類推適用の要件を条文番号とともに正確に記述することが求められます。「民法94条2項の類推適用により」「民法94条2項及び110条の法意を類推適用し」という表現を、事案の帰責性の程度に応じて正しく使い分けることがポイントです。40字記述では、(1)誰が誰に何を主張できるか(結論)、(2)その根拠となる条文(94条2項類推、必要に応じ110条法意)、(3)第三者の主観要件(善意/善意無過失)の3点を盛り込むと得点が安定します。
よくある誤りと注意点
関連論点との接続
94条2項類推適用は、単独で完結する論点ではなく、民法の他の制度と密接に結びついています。横断的に押さえることで、応用問題にも対応できます。
不動産登記の公信力との関係
日本の不動産登記には公信力がありません。したがって、不実の登記を信頼しただけでは権利を取得できないのが原則です。94条2項類推適用は、この原則の例外を、登記そのものの効力としてではなく「真の権利者の帰責性」を媒介にして認めるものです。公信力(無条件に登記を信頼すれば保護)と外観法理(帰責性があってはじめて保護)の違いを問う出題があります。
表見代理(109条・110条・112条)との関係
パターン2で借りてくる110条はもちろん、表見代理は権利外観法理の代表例です。「与えた外観の範囲を超えた信頼には、より重い主観要件(正当な理由=善意無過失)を課す」という発想が、94条2項類推適用のパターン2に流用されている点を意識すると、両論点を一体で理解できます。
物権変動・177条との関係
94条2項類推適用が適用されると、真の権利者は第三者に対して所有権の喪失を対抗されることになります。この結果、誰が確定的に所有権を取得するか、第三者間の優劣をどう処理するかという物権変動・対抗要件(177条)の議論につながります。仮装譲渡された不動産をめぐる事例問題では、94条2項類推適用→物権変動→対抗要件の順で論点が連鎖することが多いので、流れで押さえましょう。
まとめ
民法94条2項の類推適用に関する重要ポイントを整理します。
- 権利外観法理の理解: 94条2項の類推適用は、真の権利関係と異なる外観が存在する場合に、その外観の作出について帰責性がある真の権利者よりも、外観を信頼した第三者を保護する「権利外観法理」に基づくものである
- 3パターンの区別: パターン1(単独類推・積極的関与・善意で保護)、パターン2(110条法意併用=重畳適用・一定の関与・善意無過失で保護)、パターン3(放置型・知りながら放置・善意又は善意無過失)の3パターンを正確に区別することが試験対策の鍵である
- 帰責性と保護要件の相関: 真の権利者の帰責性が高いほど第三者の保護要件は緩和され、帰責性が低いほど保護要件は厳格化されるという相関関係が、直接適用から平成18年判例まで一貫して3パターンを貫く原則である
- 第三者の要件: 直接適用・類推適用を通じて、第三者は登記不要で保護され、直接適用や帰責性の高い類型では善意で足りる(無過失不要)
94条2項の類推適用は、物権変動や不動産登記の問題とも密接に関連しています。177条の対抗要件制度や110条の表見代理との関係も含めて、横断的に理解を深めておきましょう。
よくある質問
Q1. なぜ94条2項の「直接適用」ではなく「類推適用」なのですか?
94条2項は「前項の規定による意思表示の無効」、すなわち通謀虚偽表示(94条1項)による無効についての規定です。そのため、通謀(相手方と通じてした虚偽の意思表示)がない場面には直接適用できません。しかし、通謀がなくても真の権利者に帰責性があり、第三者に保護の必要性がある場面では、94条2項の趣旨(権利外観法理)が妥当するため、「類推適用」という形で適用されるのです。
Q2. 94条2項の類推適用と110条の表見代理はどう関係していますか?
パターン2では、94条2項と110条の「法意」が併せて類推適用されます。ここでの110条の「法意」とは、110条が定める「正当な理由」の要件、すなわち善意無過失の要件を指します。真の権利者の帰責性がパターン1ほど高くない場合に、110条の法意を加味することで第三者に善意無過失を要求し、真の権利者と第三者の利益の均衡を図っています。なお適用されるのは110条そのものではなく「法意」である点に注意が必要です。
Q3. 登記に公信力がないのに、なぜ登記を信頼した者が保護されるのですか?
日本の不動産登記制度には公信力がなく、登記を信頼しただけでは権利を取得できないのが原則です。しかし、94条2項の類推適用は、登記の公信力を認めたものではなく、虚偽の外観の作出について真の権利者に帰責性がある場合に限って第三者を保護するものです。真の権利者の帰責性がない場合には保護されないため、公信力とは異なる法理です。
Q4. 3パターンはどのように使い分けるのですか?
使い分けの基準は、真の権利者の帰責性の程度です。真の権利者が虚偽の外観の作出に積極的に関与した場合はパターン1、一定の関与にとどまる(意思と外形が食い違う)場合はパターン2、不実の登記の存在を知りながら放置したにすぎない場合はパターン3です。試験では、事実関係から真の権利者の帰責性の程度を判断し、適切なパターンと第三者の主観要件(善意か善意無過失か)を選択することが求められます。
Q5. 真の権利者が不実の登記の存在を知らなかった場合はどうなりますか?
放置型(パターン3)は「知りながらあえて放置した」ことが帰責性の根拠ですから、真の権利者が不実の登記の存在を全く知らなかった場合には、原則として帰責性が認められず、94条2項の類推適用は否定されます。ただし、本人の関与の経緯によっては、平成18年判例のように「放置と同視し得るほど重い帰責性」が認められ、善意無過失の第三者が保護される場合もあります。
関連記事
民法の関連記事
その他の関連記事
法律科目対策
条文ドリル × 肢別演習で効率的に学ぶ
条文の穴埋めドリルと肢別演習で、法律科目の知識を効率的に定着。 行政書士試験の法令科目対策に対応しています。