申請に対する処分|審査基準・標準処理期間を解説
行政手続法の申請に対する処分を徹底解説。申請の定義(2条3号)、審査基準の設定・公表義務(5条)、標準処理期間(6条)、審査・応答義務(7条)、理由の提示(8条)など、試験頻出条文を正確に整理します。
行政手続法の「申請に対する処分」(第2章、5条〜11条)は、行政書士試験において毎年のように出題される最重要分野です。審査基準の設定義務と公表義務の違い、標準処理期間の法的性質、理由の提示の要否など、条文の正確な理解が問われます。本記事では、各条文のポイントを一つひとつ丁寧に解説し、試験で問われるパターンを網羅的に整理します。
行政手続法の全体像と「申請に対する処分」の位置づけ
個別条文に入る前に、行政手続法(平成5年法律第88号、平成6年10月1日施行)の全体構造を押さえておくと、各規定の役割が立体的に理解できます。
行政手続法は、行政運営における公正の確保と透明性の向上を図り、もって国民の権利利益の保護に資することを目的とする法律です(1条1項)。条文上の目的として「公正の確保」「透明性の向上」「国民の権利利益の保護」の3つが掲げられている点は、目的規定そのものを問う出題でも狙われます。
行政手続法は、おおむね次のような章立てになっています。
本記事のテーマである第2章「申請に対する処分」は、国民が自ら行政庁に対して許認可等を求めて働きかける場面を規律します。これに対し第3章「不利益処分」は、行政庁が職権で国民に不利益を課す場面を規律します。国民の側から動くのが申請、行政庁の側から動くのが不利益処分という対比が、両者の手続の違い(事前手続の有無や基準の性質の差)を理解する出発点になります。
申請の手続の流れ(時系列イメージ)
第2章の各条文は、申請が処理されていく時間軸に沿って配置されていると捉えると暗記しやすくなります。
- 行政庁はあらかじめ審査基準を定め公にしておく(5条)/標準処理期間を定めるよう努め、定めたら公にする(6条)
- 申請が事務所に到達する → 行政庁は遅滞なく審査を開始しなければならない(7条)
- 形式上の不備があれば補正を求めるか拒否する(7条)/審査の進行状況などを情報提供するよう努める(9条)
- 必要に応じ公聴会等で第三者の意見を聴くよう努める(10条)
- 処分をする。拒否処分なら理由を同時に示す(8条)
この流れを頭に入れたうえで、各条文を順に見ていきます。
申請の定義(2条3号)
まず、行政手続法における「申請」の定義を正確に確認しましょう。
法令に基づき、行政庁の許可、認可、免許その他の自己に対し何らかの利益を付与する処分(以下「許認可等」という。)を求める行為であって、当該行為に対して行政庁が諾否の応答をすべきこととされているものをいう。
― 行政手続法 第2条3号
申請の3つの要件
申請に該当するためには、以下の3つの要件をすべて満たす必要があります。
申請に該当しないもの
- 法令の根拠のない事実上の要望・陳情
- 行政庁に諾否の応答義務がないもの(行政指導への協力要請等)
- 届出(届出は申請とは別の制度として37条で規定)
「諾否の応答をすべきこととされている」の意味
定義の核心は「行政庁が諾否の応答をすべきこととされているもの」という部分です。ここでいう「諾否の応答」とは、申請に対して「許可する/許可しない」というイエス・ノーの返事をする法的義務が行政庁にあることを指します。
逆に言えば、相手方の意思表示によって行政庁に応答義務が生じない働きかけは、たとえ「○○の許可をお願いします」という体裁を取っていても、行政手続法上の「申請」ではありません。たとえば、法律に根拠のない要綱に基づく協力依頼や、行政指導に従うかどうかの打診などがこれに当たります。
この点は、後述する「届出」(自己の行為を行政庁に通知するもので、応答が予定されていない)との区別とあわせて理解すると整理しやすくなります。届出は「行政庁の応答を予定しないもの」であり(2条7号参照)、申請は「諾否の応答が予定されているもの」である、という対比が決め手です。
申請に対する処分の「処分」とは
「申請に対する処分」の「処分」とは、申請を受けて行政庁が行う諾否の判断、すなわち許認可等をするか拒否するかの決定を指します。許可・認可・免許などの授益的処分のほか、これを拒否する処分(拒否処分・却下処分)も含まれる点に注意が必要です。理由の提示(8条)が拒否処分について規定されているのは、まさにこの拒否処分も「申請に対する処分」の一場面だからです。
行政手続法の適用除外(3条・4条)との関係
「申請に対する処分」の規定が常に適用されるわけではない、という点も試験では問われます。3条・4条には広範な適用除外が定められています。
たとえば3条1項各号には、刑事事件に関する処分、学校・刑事収容施設などにおける処分、外国人の出入国・難民認定・帰化に関する処分などが列挙され、これらには第2章〜第4章の2の規定が適用されません。特に外国人の出入国・帰化に関する処分が適用除外であることは、過去問でも問われたことのある定番論点です。
また、地方公共団体の機関が行う処分のうち、根拠規定が条例・規則に置かれているものについては、行政手続法の処分に関する規定は適用されず、各地方公共団体の行政手続条例が規律します(3条3項)。逆に、地方公共団体の機関が行う処分でも根拠が法律に置かれているものには行政手続法が適用されます。「処分の根拠が法律か条例か」で適用の有無が分かれる点は、ひっかけとして出題されやすいので押さえておきましょう。
審査基準(5条)
審査基準に関する5条は、行政手続法の中でも最も出題頻度が高い条文の一つです。
行政庁は、審査基準を定めるものとする。
― 行政手続法 第5条1項
行政庁は、審査基準を定めるに当たっては、許認可等の性質に照らしてできる限り具体的なものとしなければならない。
― 行政手続法 第5条2項
行政庁は、行政上特別の支障があるときを除き、法令により申請の提出先とされている機関の事務所における備付けその他の適当な方法により審査基準を公にしておかなければならない。
― 行政手続法 第5条3項
審査基準の3つのポイント
「定めるものとする」は法的義務
5条1項の「定めるものとする」という文言は、努力義務を意味する「努めなければならない」とは異なり、法的義務を課す表現です。試験ではこの文言の違いが繰り返し問われます。「ものとする」を努力義務と誤認させるひっかけが定番なので、5条1項は「審査基準を必ず定めなければならない」という強い義務であると理解してください。
なお、後述する6条の標準処理期間が「定めるよう努める」という努力義務であるのと真っ向から対比されます。「審査基準=設定は法的義務」「標準処理期間=設定は努力義務」——この対比が第2章で最も問われる論点です。
公表義務の例外「行政上特別の支障があるとき」
5条3項の公表義務には、「行政上特別の支障があるときを除き」という例外があります。これは、審査基準を公にすることで行政目的の達成が困難になるような限定的な場合(たとえば公表によって不正な申請を誘発するおそれがある場合など)を想定したものです。原則は公表義務であり、例外はあくまで限定的である点を押さえましょう。
また、公表の方法は「事務所における備付けその他の適当な方法」とされ、必ずしも官報やインターネットでの公示に限られません。閲覧できる状態にしておけば足りる点も、文言レベルで問われることがあります。
審査基準の定義
審査基準とは何かについて、2条8号ロで定義されています。
申請により求められた許認可等をするかどうかをその法令の定めに従って判断するために必要とされる基準
― 行政手続法 第2条8号ロ
審査基準は「命令等」(2条8号)に含まれるため、審査基準を定める際には意見公募手続(第6章)の対象となります。
審査基準と裁量・行政の自己拘束
審査基準は、行政庁が裁量権を行使する際の判断の物差しとなるものです。法令上は行政庁に裁量が認められている場合でも、いったん審査基準を定めて公にした以上、行政庁は合理的な理由なくこれと異なる取扱いをすると、平等原則違反として裁量権の逸脱・濫用と評価されるおそれがあります。これは講学上「行政の自己拘束」と呼ばれる考え方です。審査基準は単なる内部の指針にとどまらず、運用次第で処分の適法性を左右する重みを持つ、という理解が深掘りのポイントです。
行政手続法5条1項において、審査基準の設定は行政庁の努力義務にとどまる。○か×か。
標準処理期間(6条)
標準処理期間とは、行政庁が申請を受理してから処分をするまでの通常要すべき標準的な期間をいいます。
行政庁は、申請がその事務所に到達してから当該申請に対する処分をするまでに通常要すべき標準的な期間(法令により当該行政庁と異なる機関が当該申請の提出先とされている場合は、併せて、当該申請が当該提出先とされている機関の事務所に到達してから当該行政庁の事務所に到達するまでに通常要すべき標準的な期間)を定めるよう努めるとともに、これを定めたときは、当該申請の提出先とされている機関の事務所における備付けその他の適当な方法により公にしておかなければならない。
― 行政手続法 第6条
標準処理期間の2つのポイント
設定は努力義務だが、公表は法的義務という「ねじれ」
6条で最も狙われるのは、「設定は努力義務/公表は法的義務」というアンバランスな構造です。
- 標準処理期間を「定める」こと自体は努力義務(定めなくても直ちに違法ではない)
- しかし、いったん定めたなら、それを「公にしておく」ことは法的義務(公表しなければならない)
審査基準(5条)はそもそも設定が法的義務であるのに対し、標準処理期間(6条)は設定が努力義務である——この違いが第一の出題ポイント。そのうえで、6条では「設定」と「公表」で義務の性質が分かれている——これが第二の出題ポイントです。「標準処理期間の公表は努力義務である」とする選択肢は誤り(公表は法的義務)ですので注意してください。
標準処理期間の起算点
標準処理期間の起算点は「申請がその事務所に到達してから」です。申請が提出先とされている機関の事務所に到達した時点が基準であり、行政庁が申請を受理した時点ではありません。
条文括弧書きにあるとおり、提出先の機関と処分をする行政庁が異なる場合には、(1)提出先機関に到達してから処分をする行政庁に到達するまでの期間と、(2)行政庁に到達してから処分までの期間を「併せて」標準処理期間とすることができます。提出先と処分庁が別組織になっている許認可(経由機関がある場合)を念頭に置いた規定です。
標準処理期間の法的性質
標準処理期間はあくまで「標準的な期間」であり、これを超えたからといって直ちに処分が違法となるわけではありません。ただし、著しく遅延した場合には、不作為の違法確認訴訟(行政事件訴訟法3条5項)や不作為についての審査請求(行政不服審査法3条)の対象となり得ます。
標準処理期間を経過したこと自体は、不作為が違法かどうかを判断する一つの目安(事実上の重要な考慮要素)にはなりますが、経過=即違法という単純な関係ではない点に注意してください。「相当の期間」内に処分がされたかどうかが、不作為の違法を判断する基準となります。
申請に対する審査・応答義務(7条)
7条は、行政庁が申請を受けた場合の対応について規定しています。
行政庁は、申請がその事務所に到達したときは遅滞なく当該申請の審査を開始しなければならず、かつ、申請書の記載事項に不備がないこと、申請書に必要な書類が添付されていること、申請をすることができる期間内にされたものであることその他の法令に定められた申請の形式上の要件に適合しない申請については、速やかに、申請をした者(以下「申請者」という。)に対し相当の期間を定めて当該申請の補正を求め、又は当該申請により求められた許認可等を拒否しなければならない。
― 行政手続法 第7条
7条の重要ポイント
- 審査開始義務: 申請が事務所に到達したときは「遅滞なく」審査を開始しなければならない
- 到達主義: 申請の効力は事務所に到達した時点で発生する。行政庁の受理行為は不要
- 形式上の要件に適合しない場合: 補正を求めるか、拒否処分をしなければならない
- 申請の放置の禁止: 申請を受理せずに放置することは許されない
「到達主義」の意味
7条は「申請がその事務所に到達したとき」と規定しており、行政庁が申請を受理する行為を要件としていません。つまり、行政庁が窓口で申請書の受取を拒否しても、申請が事務所に到達した時点で審査開始義務が生じます。これは、行政庁による不当な申請拒否を防止する趣旨です。
「受理」概念の否定と申請放置の違法
行政手続法が制定される以前は、行政庁が申請書を「受理しない」という名目で窓口に留め置き、形式的に審査を開始しないまま事実上放置する運用(いわゆる「受理拒否」「返戻」)が問題視されていました。7条はこうした実務を断ち切るため、「受理」という観念を排し、到達によって審査開始義務が発生するという構成を採用しています。
したがって、7条の下では次のような取扱いはいずれも許されません。
- 申請書を受け取らずに窓口で突き返す(受取拒否)
- 受け取ったうえで何の応答もせず放置する(握りつぶし)
- 「もっと熟度を上げてから出し直すように」などと言って事実上返戻する
申請が形式上の要件に適合しないのであれば、行政庁は補正を求めるか、拒否処分をするか、いずれかをしなければならないのであって、放置という選択肢は法律上存在しません。「補正を求めるか拒否するか」の二択である点(補正を求めることが常に義務づけられているわけではない点)も、文言レベルで問われます。
補正と拒否の関係
形式上の不備がある場合、7条は「補正を求め、又は……拒否しなければならない」としています。条文上、補正の機会を与えることは必須ではなく、補正を求めるか拒否するかは行政庁の選択に委ねられています。ただし実務上は、軽微な不備であれば補正を求めるのが通常です。「形式不備があれば必ず補正を求めなければならない」という選択肢は誤りになりますので注意してください。
理由の提示(8条)
8条は、申請を拒否する処分をする場合の理由の提示について規定しています。
行政庁は、申請により求められた許認可等を拒否する処分をする場合は、申請者に対し、同時に、当該処分の理由を示さなければならない。ただし、法令に定められた許認可等の要件又は公にされた審査基準が数量的指標その他の客観的指標により明確に定められている場合であって、当該申請がこれらに適合しないことが申請書の記載又は添付書類その他の申請の内容から明らかであるときは、申請者の求めがあったときにこれを示せば足りる。
― 行政手続法 第8条1項
前項本文に規定する処分を書面でするときは、同項の理由は、書面により示さなければならない。
― 行政手続法 第8条2項
8条の重要ポイント
理由提示制度の趣旨
理由の提示が求められる趣旨は、講学上、(1)行政庁の判断の慎重・合理性を担保してその恣意を抑制する点(恣意抑制機能)と、(2)処分の理由を相手方に知らせて不服申立てに便宜を与える点(不服申立便宜機能)の2つにあると説明されます。この2つの趣旨は、後述する理由提示の程度に関する判例の理解にも直結します。理由がどの程度具体的でなければならないかは、この2つの目的を満たす程度かどうかで判断されるからです。
「同時に」がキーワード
8条1項本文は理由を「同時に」示すことを求めています。処分の後に遅滞なく示せば足りるのではなく、処分と同じタイミングで理由を提示しなければならない、という点が繰り返し問われます。但書の例外に当たる場合に限り、「申請者の求めがあったとき」に示せば足りる、という後出しが許されます。
但書の例外要件は「2つとも」必要
8条1項但書で例外が認められるのは、次の2つの要件をともに満たす場合に限られます。
- 法令の要件または公にされた審査基準が、数量的指標その他の客観的指標により明確に定められていること
- 当該申請がこれらに適合しないことが、申請書の記載・添付書類その他の申請内容から明らかであること
たとえば「年齢○歳以上」「面積○㎡以上」のように数値で明確に決まっている要件に申請が形式的に合致しないことが一目で分かる場合などが想定されます。この2要件のいずれかを欠けば原則どおり処分と同時に理由を示さなければなりません。「客観的指標で明確なら常に求めがあったときでよい」とするのは誤りで、不適合が申請内容から明らかであることまで必要です。
理由提示の程度に関する判例
理由の提示がどの程度の具体性を要するかについて、判例は以下のように判示しています。
いかなる事実関係に基づきいかなる法規を適用して当該処分がされたかを、申請者においてその記載自体から了知し得るものでなければならない。
― 最判平成23年6月7日(一級建築士免許取消事件)
単に根拠条文を示すだけでは理由の提示として不十分であり、処分の原因となった具体的事実関係と適用法規が分かる程度の記載が必要です。
一級建築士免許取消事件の事案・判旨・意義
この判例は理由提示の論点における最重要判例なので、事案・判旨・意義の3点で押さえておきましょう。
- 事案: 一級建築士に対する免許取消処分(不利益処分)について、処分通知書に処分の根拠規定は示されていたものの、処分基準(建築士法の懲戒に関する基準)のどの項目をどのように適用して取消しに至ったのかが具体的に示されていなかった。
- 判旨: 行政手続法14条の理由提示として、いかなる事実関係に基づきいかなる法規を適用して処分がされたかを、名宛人がその記載自体から了知し得るものでなければならない。処分基準が定められ公にされている場合には、いかなる理由に基づいてどの基準を適用して処分が選択されたのかを了知し得る程度の理由が示されなければならず、本件理由提示はこれを欠き違法である。
- 意義: 根拠条文を示すだけでは足りず、処分基準の適用関係まで示す必要があることを明らかにした。処分が違法となると結論づけた点で、理由提示義務の実質性を示した重要判例。
なお、この事件自体は不利益処分(14条)に関するものですが、判旨で示された「記載自体から了知し得る程度」という基準の考え方は、申請拒否処分(8条)の理由提示の程度を考えるうえでも参照されます。8条と14条は理由提示という同じ機能を担う規定であり、判例の射程をあわせて理解しておくと得点に直結します。
行政手続法8条1項により、行政庁は申請により求められた許認可等を拒否する処分をする場合、処分の後に遅滞なく理由を示せば足りる。○か×か。
行政手続法6条において、行政庁は標準処理期間を定めるよう努めれば足り、定めた場合でもこれを公にしておく法的義務はない。○か×か。
情報の提供(9条)と公聴会の開催等(10条)
情報の提供(9条)
行政庁は、申請者の求めに応じ、当該申請に係る審査の進行状況及び当該申請に対する処分の時期の見通しを示すよう努めなければならない。
― 行政手続法 第9条1項
行政庁は、申請をしようとする者又は申請者の求めに応じ、申請書の記載及び添付書類に関する事項その他の申請に必要な情報の提供に努めなければならない。
― 行政手続法 第9条2項
9条はいずれも努力義務です。審査の進行状況や処分時期の見通しを示す義務は法的義務ではありません。
1項は「すでに申請をした者」に対する審査の進行状況・処分時期の見通しの情報提供、2項は「これから申請をしようとする者」も含めた申請に必要な情報の提供を対象としています。1項が申請者、2項が申請をしようとする者または申請者という対象の違いにも注意しておくと、細かい肢にも対応できます。いずれも努力義務である点が共通です。
公聴会の開催等(10条)
行政庁は、申請に対する処分であって、申請者以外の者の利害を考慮すべきことが当該法令において許認可等の要件とされているものを行う場合には、必要に応じ、公聴会の開催その他の適当な方法により当該申請者以外の者の意見を聴く機会を設けるよう努めなければならない。
― 行政手続法 第10条
10条も努力義務です。公聴会の開催は法的義務ではありません。
10条のポイントは、対象が「申請者以外の者の利害を考慮すべきことが法令上の許認可等の要件とされているもの」に限られる点です。あらゆる申請について第三者の意見聴取が求められるわけではなく、法令が第三者の利害考慮を要件としている場合に、必要に応じて努力義務として課されるにすぎません。意見を聴く相手が「申請者本人」ではなく「申請者以外の第三者」である点も、申請者の権利保護を図る他の規定との違いとして押さえておきましょう。
複数の行政庁が関与する処分(11条)
行政庁は、申請の処理をするに当たり、他の行政庁において同一の申請者からされた関連する申請が審査中であることをもって自らすべき許認可等をするかどうかについての審査又は判断を殊更に遅延させるようなことをしてはならない。
― 行政手続法 第11条1項
一の申請又は同一の申請者からされた相互に関連する複数の申請に対する処分について複数の行政庁が関与する場合においては、当該複数の行政庁は、必要に応じ、相互に連絡をとり、当該申請者からの説明の聴取を共同して行う等により審査の促進に努めるものとする。
― 行政手続法 第11条2項
11条の重要ポイント
- 1項: 他の行政庁の審査を理由に、自らの審査・判断を殊更に遅延させてはならない(法的義務)
- 2項: 複数の行政庁の連絡・共同審査は努力義務(「努めるものとする」)
11条は、ある事業を行うために複数の許認可が必要で、それぞれ別の行政庁が所管しているような場面を想定した「審査の促進」のための規定です。1項は「殊更に遅延させてはならない」という不作為義務(禁止)であり、これは法的義務です。一方、2項の連絡調整・共同聴取は「努めるものとする」という努力義務にとどまります。1項=してはならない(法的義務)/2項=努める(努力義務)という対比で覚えると区別がつきやすくなります。
よくある誤解・ひっかけ
申請に対する処分の分野では、条文の文言をわずかにずらした選択肢が出題されます。典型的な誤りパターンを集めておきます。
特に「設定が法的義務か努力義務か」「公表が法的義務か努力義務か」を条文ごとに正確に切り分けられるかが、合否を分ける典型ポイントです。
試験での出題ポイント
申請に対する処分に関する出題は、条文の正確な文言の理解を問うものが大半です。特に以下の点は頻出です。
義務の性質の比較(最重要)
この「法的義務か努力義務か」の対比は、毎年のように択一式で問われます。特に、審査基準の設定(法的義務)と標準処理期間の設定(努力義務)の違い、審査基準の設定(法的義務)と処分基準の設定(努力義務、12条1項)の違いは必ず覚えましょう。
過去問で問われた角度
過去の本試験では、おおむね次のような角度から出題されてきました。出題の「切り口」を知っておくと、初見の肢にも対応しやすくなります。
- 文言の言い換え: 「定めるものとする」を「努めなければならない」に、「同時に」を「遅滞なく」に置き換えるなど、義務の強さや時期をずらす出題。
- 設定と公表の区別: 標準処理期間について「設定も公表も努力義務」とするなど、6条内部のねじれを突く出題。
- 適用対象の限定: 理由提示が「拒否処分」に限られること、公聴会が「第三者の利害が要件とされる処分」に限られることを問う出題。
- 適用除外との横断: 外国人の出入国・帰化に関する処分や、根拠が条例に置かれた地方公共団体の処分について、行政手続法の規定が適用されるかを問う出題。
- 不利益処分との比較: 審査基準と処分基準、8条と14条の理由提示の対象範囲の違いを問う横断出題。
- 判例との結合: 理由提示の程度について一級建築士免許取消事件の基準を当てはめさせる出題。
不利益処分との比較
申請に対する処分(第2章)と不利益処分(第3章)の対比は、試験で極めて重要です。
申請に対する処分では、国民の側から働きかけているため、不利益処分のような聴聞・弁明の機会の付与(13条)に相当する事前手続は予定されていません。申請者の手続的保護は、主として審査基準の公表(5条)と理由の提示(8条)によって図られている、という構造の違いを意識しておきましょう。
行政手続法上、申請に対する拒否処分をする場合には、不利益処分と同様に、処分に先立って聴聞または弁明の機会の付与を行わなければならない。○か×か。
関連論点
申請に対する処分は、行政手続法の他の制度や行政救済法と密接に関連します。理解を立体的にするため、隣接論点も押さえておきましょう。
- 届出(37条)との違い: 届出は法令により直接に届出義務が課されている行為で、形式上の要件に適合していれば、提出先の事務所に到達した時点で手続上の義務が履行されたものとされます。行政庁の応答(諾否)が予定されていない点が申請との決定的な違いです。
- 処分等の求め(36条の3): 法令違反の是正のための処分や行政指導を求める制度。申請(自己への利益付与を求める)とは別物です。
- 意見公募手続(パブリックコメント、39条以下): 審査基準は「命令等」に含まれるため、その制定にあたっては原則として意見公募手続が必要になります。
- 行政救済との接続: 申請が放置された場合は不作為についての審査請求(行政不服審査法)や不作為の違法確認訴訟・申請型義務付け訴訟(行政事件訴訟法)へ、拒否処分がされた場合は審査請求や取消訴訟・申請型義務付け訴訟へとつながります。
これらの関連分野は、次の記事もあわせて確認すると理解が深まります。
- 行政手続法の不利益処分|処分基準・聴聞・理由提示を解説/審査基準との対比で第3章を整理
- 行政不服審査法の審査請求|要件・手続を解説/不作為や拒否処分への不服申立てを整理
- 行政事件訴訟の類型|取消訴訟・義務付け訴訟を解説/申請放置・拒否処分への訴訟手段を整理
- 行政法の全体像|行政作用法・行政救済法を解説/行政手続法の位置づけを俯瞰する
まとめ
申請に対する処分に関する重要ポイントを整理します。
- 申請の定義: 法令に基づき許認可等を求める行為であって、行政庁が諾否の応答をすべきこととされているもの(2条3号)。「諾否の応答義務」が核心で、要望・陳情・届出は申請に当たらない
- 審査基準: 設定は法的義務(5条1項)、公表も法的義務(5条3項、例外あり)。「できる限り具体的なもの」とする義務がある(5条2項)。運用次第で行政の自己拘束を生む
- 標準処理期間: 設定は努力義務(6条)、設定した場合の公表は法的義務(6条)。起算点は申請が事務所に到達した時点。「設定は努力/公表は義務」のねじれに注意
- 審査・応答義務: 到達主義を採用(7条)。受理は不要で、申請が到達したら遅滞なく審査開始。形式不備の場合は補正を求めるか拒否する(放置は不可)
- 理由の提示: 拒否処分の場合、処分と同時に理由を示す(8条1項)。書面による処分は書面で理由を示す(8条2項)。但書の例外は2要件をともに満たす場合のみ。程度については一級建築士免許取消事件(最判平成23年6月7日)の基準
- 情報提供・公聴会・連絡調整: 9条・10条・11条2項は努力義務。11条1項の不当な遅延の禁止は法的義務
- 義務の性質: 審査基準の設定・公表は法的義務、標準処理期間の設定・情報提供・公聴会は努力義務。この区別は毎年出題される
- 不利益処分との対比: 審査基準(法的義務)と処分基準(努力義務)、8条(拒否処分のみ)と14条(すべての不利益処分)の理由提示。申請に対する処分には聴聞・弁明(13条)はない
条文の「法的義務か努力義務か」を正確に覚えることが、得点に直結します。5条〜11条の各条文を繰り返し読み込み、不利益処分(第3章)との横断で整理することで、得点を安定させましょう。