連帯債務の絶対効と相対効|改正で何が変わった?
連帯債務の絶対効と相対効の違いを改正前後で比較。改正で履行の請求・免除・時効完成が相対効に変更された理由、求償権の仕組み、不真正連帯債務との関係まで行政書士試験の頻出論点を網羅的に解説します。
はじめに|連帯債務は改正の目玉テーマ
連帯債務とは、数人の債務者が同一内容の給付について、各自が独立して全部の給付をなすべき債務を負い、そのうち一人が弁済すれば他の債務者も債務を免れる関係をいいます。
改正民法では、連帯債務に関する規定が大きく変更されました。特に、絶対効事由の大幅な縮小(履行の請求・免除・時効完成が相対効に変更)は試験で最も問われるポイントです。
本記事では、連帯債務の基本的な仕組みと改正のポイントを整理し、試験対策に役立つ知識をまとめます。
連帯債務の基本
連帯債務の成立
連帯債務は、以下の場合に成立します。
- 法律の規定: 共同不法行為(民法719条)など
- 当事者の意思表示: 契約で連帯債務とする旨の合意
連帯債務の効力
債権者は、連帯債務者の一人に対し、又は同時に若しくは順次に全ての連帯債務者に対し、全部又は一部の履行を請求することができる。 ― 民法 第432条
債権者は、連帯債務者の誰に対しても、全額の請求ができます。たとえば、A・B・Cが連帯して300万円の債務を負っている場合、債権者DはA・B・Cのいずれか一人に対して300万円全額を請求できます。
連帯債務の性質
- 各債務者の債務は独立: 一人の債務が無効でも、他の債務者の債務には影響しない
- 全額給付義務: 各債務者は全額を弁済する義務を負う
- 一人の弁済で全員が免責: 一人が全額弁済すれば、他の債務者の債務も消滅する
絶対効と相対効の意味
絶対効とは
絶対効とは、連帯債務者の一人について生じた事由が、他の連帯債務者にも影響を及ぼすことをいいます。
たとえば、弁済が絶対効を有する(一人が弁済すれば他の債務者の債務も消滅する)のは当然のことです。
相対効とは
相対効とは、連帯債務者の一人について生じた事由が、他の連帯債務者には影響を及ぼさないことをいいます。
連帯債務者の一人について生じた事由は、次条から第440条までに規定する場合(弁済・更改・相殺・混同)を除き、他の連帯債務者に対してその効力を生じない。ただし、債権者及び他の連帯債務者の一人が別段の意思を表示したときは、当該他の連帯債務者に対する効力は、その意思に従う。 ― 民法 第441条
改正後は、相対効が原則です。絶対効を有するのは限定された事由のみです。
改正後の絶対効事由
改正後に絶対効とされているのは、以下の4つです。
1. 弁済とこれに準じるもの
一人の連帯債務者が弁済(代物弁済・供託を含む)をした場合、債権は消滅し、全員が免責されます。これは連帯債務の本質から当然のことです。
2. 更改(438条)
連帯債務者の一人と債権者との間に更改があったときは、債権は、全ての連帯債務者の利益のために消滅する。 ― 民法 第438条
連帯債務者の一人と債権者との間で更改がなされると、旧債務は消滅し、全員が免責されます。
3. 相殺(439条)
連帯債務者の一人が債権者に対して債権を有する場合において、その連帯債務者が相殺を援用したときは、債権は、全ての連帯債務者の利益のために消滅する。 ― 民法 第439条第1項
連帯債務者の一人が債権者に対して反対債権を有し、相殺を援用した場合、その相殺の限度で全員の債務が消滅します。
ただし、相殺を援用しない連帯債務者は、その反対債権を有する連帯債務者の負担部分の限度において、債権者に対して債務の履行を拒むことができます(439条2項)。
4. 混同(440条)
連帯債務者の一人と債権者との間に混同があったときは、その連帯債務者は、弁済をしたものとみなす。 ― 民法 第440条
連帯債務者の一人が債権者を相続した場合など、混同が生じた場合は弁済とみなされます。
改正で相対効に変更された事由
改正前後の比較表
履行の請求が相対効に変更された理由
改正前は、連帯債務者の一人に対する履行の請求が他の債務者にも効力を及ぼしました。これにより、一人に請求すれば全員の消滅時効が中断するという便宜がありました。
しかし、債権者が連帯債務者の一人に請求した事実を他の債務者が知らないまま時効が中断されるのは不公平であるとの批判がありました。改正後は、履行の請求は相対効となり、一人に対する請求は他の連帯債務者には影響しません。
ただし、441条ただし書により、債権者と他の連帯債務者が「別段の意思を表示した」場合は、請求に絶対効を認めることができます。
免除が相対効に変更された理由
改正前は、連帯債務者の一人に対する免除があると、その者の負担部分について他の債務者も免責されました。
たとえば、A・B・Cが各100万円ずつの負担部分で300万円の連帯債務を負っていた場合、Aが免除を受けると、B・Cの債務は200万円に減少していました。
改正後は、免除は相対効となったため、Aが免除を受けてもB・Cの債務は300万円のままです。ただし、求償の場面で調整が図られます(後述)。
時効の完成が相対効に変更された理由
改正前は、連帯債務者の一人について消滅時効が完成すると、その者の負担部分について他の債務者も免責されました。
改正後は、時効の完成も相対効です。一人について時効が完成しても、他の連帯債務者の債務額には影響しません。
求償権の仕組み
弁済した場合の求償権(442条)
連帯債務者の一人が弁済をし、その他自己の財産をもって共同の免責を得たときは、その連帯債務者は、その免責を得た額が自己の負担部分を超えるかどうかにかかわらず、他の連帯債務者に対し、その免責を得るために支出した財産の額(その財産の額が共同の免責を得た額を超える場合にあっては、その免責を得た額)のうち各自の負担部分に応じた額の求償権を有する。 ― 民法 第442条第1項
弁済した連帯債務者は、他の連帯債務者に対して各自の負担部分に応じた金額を求償できます。改正前は「自己の負担部分を超える」弁済をした場合にのみ求償できましたが、改正後は負担部分を超えなくても求償が可能になりました。
免除と求償の関係
改正後は免除が相対効となったため、新たな問題が生じます。
A・B・Cが各100万円の負担部分で300万円の連帯債務を負い、Aが免除を受けた場合を考えます。改正後、B・Cの債務は300万円のままです。Bが300万円を弁済した場合、BはAとCに各100万円を求償できます。しかし、Aは債権者から免除を受けているのに、Bからの求償を受けるのは酷ではないかという問題があります。
この点について、改正民法の立案担当者は、BがAに求償した場合、Aは最終的に債権者に対して不当利得返還請求ができると説明しています。もっとも、実務上の処理は今後の判例の蓄積を待つ必要があります。
通知義務(443条)
連帯債務者間の求償に関連して、弁済前後の通知義務が定められています。
- 事前通知: 弁済等をしようとする場合、他の連帯債務者に通知すべき
- 事後通知: 弁済等をした場合、他の連帯債務者に通知すべき
通知を怠ると、他の連帯債務者が二重弁済をした場合の求償関係に影響が生じます。
不真正連帯債務との関係
不真正連帯債務とは
不真正連帯債務とは、法律の規定や当事者の合意によらず、事実上、数人の債務者が同一内容の給付義務を負う関係をいいます。
典型例として、使用者の損害賠償責任(民法715条)と被用者の不法行為責任(民法709条)が不真正連帯債務の関係にあるとされてきました。
改正による区別の実益の減少
改正前は、連帯債務には絶対効事由が多く認められていたため、絶対効が認められない不真正連帯債務との区別に実益がありました。
改正後は、連帯債務においても相対効が原則となったため、連帯債務と不真正連帯債務の区別の実益は大幅に減少しています。
連帯債務と保証債務の比較
試験での出題ポイント
- 絶対効事由は4つのみ: 弁済・更改・相殺・混同
- 請求・免除・時効完成は相対効に変更
- 441条ただし書: 別段の意思表示で絶対効にできる
- 相殺の援用: 援用しない他の債務者は負担部分の限度で履行拒絶可
- 求償権: 負担部分を超えなくても求償可能(改正)
- 不真正連帯債務との区別の実益の減少
改正民法では、連帯債務者の一人に対する履行の請求は、他の連帯債務者に対しても効力を生じる(絶対効を有する)。
連帯債務者の一人が債権者に対して反対債権を有する場合、他の連帯債務者はその者の負担部分の限度において債務の履行を拒むことができる。
改正民法では、連帯債務者の一人が弁済をした場合、自己の負担部分を超える額を弁済したときに限り、他の連帯債務者に対して求償権を有する。
まとめ
連帯債務は、改正民法で絶対効事由が大幅に縮小された重要テーマです。
- 絶対効事由: 弁済・更改・相殺・混同の4つのみ
- 相対効に変更: 履行の請求・免除・時効の完成
- 原則は相対効: 441条で明文化、ただし別段の意思表示で変更可能
- 求償権: 負担部分を超えなくても行使可能に
- 不真正連帯債務との区別: 改正後は実益が減少
改正前後の比較表を使って、どの事由が絶対効でどの事由が相対効に変わったかを正確に整理しておきましょう。
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