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商行為の特則と商法の基礎知識|行政書士試験対策

商法の商行為の特則を行政書士試験対策として解説。商人の意義、商行為の種類、民法との違い(連帯債務の推定、法定利率、留置権の拡張等)を比較表で整理します。

はじめに|商法は「民法との違い」が問われる

行政書士試験の商法分野は、択一式5問(20点)のうち会社法が4問、商法総則・商行為が1問という出題パターンが定着しています。商法総則・商行為からの1問は、配点こそ4点と少ないですが、出題範囲が限定されているため対策がしやすく、得点源にすることが可能です。

商法の学習で最も重要なのは、民法との違いを正確に理解することです。商法は民法の特別法であり、商取引の迅速性・安全性を確保するために、民法とは異なる特則を多数設けています。本記事では、商人の意義、商行為の種類、そして商行為の特則(民法との比較)を中心に解説します。

商人の意義(商法4条)

商人とは

商法における「商人」の定義は以下のとおりです。

類型定義条文固有の商人自己の名をもって商行為をすることを業とする者4条1項擬制商人店舗その他これに類似する設備によって物品を販売することを業とする者、又は鉱業を営む者4条2項

固有の商人は、商行為を業として行う者です。「自己の名をもって」とは、法律上の効果が自己に帰属することを意味し、「業とする」とは営利の目的で反復継続して行うことを意味します。

擬制商人は、商行為を行わなくても商人とみなされる者です。たとえば、農家が直売所で自ら生産した農産物を販売する場合、農産物の販売自体は商行為(501条・502条)に該当しなくても、店舗で物品を販売する者として擬制商人となります。

小商人

小商人(商法7条)とは、商人のうち営業の規模が小さいものとして法務省令で定めるものをいいます。具体的には、資本金額が50万円に満たない商人が該当します(商法施行規則3条)。小商人には商業登記・商号登記・商業帳簿に関する規定が適用されません。

商行為の種類

商法は商行為を以下の3種類に分類しています。

絶対的商行為(501条)

行為の客観的性質から、誰が行っても営利目的の有無にかかわらず当然に商行為となるものです。1回限りの行為でも商行為に該当します。

号数内容1号利益を得て譲渡する意思をもってする動産、不動産もしくは有価証券の有償取得又はその取得したものの譲渡を目的とする行為2号他人から取得する動産又は有価証券の供給契約及びその履行のためにする有償取得を目的とする行為3号取引所においてする取引4号手形その他の商業証券に関する行為
ポイント: 501条1号の「利益を得て譲渡する意思をもってする有償取得」は投機売買(安く仕入れて高く売る意思)を想定しています。この意思がなければ絶対的商行為には該当しません。

営業的商行為(502条)

営利の目的で反復継続して(営業として)行うとき商行為となるものです。1回限りの行為では商行為に該当しません。

502条は以下の13種類を列挙しています。

号数内容1号賃貸する意思をもってする動産もしくは不動産の有償取得又は賃貸を目的とする行為2号他人のためにする製造又は加工に関する行為3号電気又はガスの供給に関する行為4号運送に関する行為5号作業又は労務の請負6号出版、印刷又は撮影に関する行為7号客の来集を目的とする場屋における取引8号両替その他の銀行取引9号保険10号寄託の引受け11号仲立ち又は取次ぎに関する行為12号商行為の代理の引受け13号信託の引受け

附属的商行為(503条)

商人がその営業のためにする行為は、商行為とされます(503条1項)。また、商人の行為は、その営業のためにするものと推定されます(503条2項)。

附属的商行為は、行為自体は商行為に該当しなくても、商人がその営業のために行う限り商行為となるものです。たとえば、商人が営業のために事務用品を購入する行為は、それ自体は501条・502条の商行為に該当しませんが、503条により附属的商行為として商法の適用を受けます。

確認問題

営業的商行為(商法502条)に該当する行為は、1回限りの行為であっても商行為となる。

○ 正しい × 誤り
解説
営業的商行為(502条)は、営利の目的で反復継続して行う場合(営業として行う場合)に商行為となります。1回限りの行為では商行為に該当しません。1回限りの行為でも商行為となるのは絶対的商行為(501条)です。

商行為の特則|民法との比較

商法は、商取引の迅速性・確実性を確保するために、民法とは異なる多数の特則を設けています。行政書士試験では、この民法との違いが頻出です。

主要な特則の比較表

項目民法商法商法の条文法定利率年3%(変動制)(民法404条)年6%(固定)→ 廃止(後述)旧514条(削除)連帯債務連帯債務は法律の規定又は当事者の意思表示による数人の者がその一人又は全員のために商行為となる行為によって債務を負担したときは連帯債務となる511条1項保証保証債務は催告の抗弁権・検索の抗弁権あり主たる債務者が商人である場合の保証は連帯保証と推定511条2項留置権目的物と被担保債権の間に牽連性が必要商人間で牽連性不要(双方が商人で、双方にとって商行為から生じた債権であれば足りる)521条契約の申込み申込みの拒絶通知がなくても契約は成立しない商人が平常取引をする者からその営業の部類に属する契約の申込みを受けた場合、遅滞なく諾否通知を発しなければ承諾とみなされる509条報酬請求権特約がなければ報酬請求権なし(委任は原則無償)商人がその営業の範囲内において他人のために行為をしたときは、報酬を請求できる512条多数当事者の債権の不可分性分割債権・分割債務が原則数人の者がその一人又は全員のために商行為となる行為によって債務を負担したときは各自連帯して弁済する責任511条1項利息請求権特約がなければ無利息商人間の金銭消費貸借では法定利息を請求可能513条流質契約流質契約は禁止(民法349条)商行為によって生じた債務の担保として質権を設定する場合、流質契約が許容される515条

各特則の詳細解説

連帯債務の推定(511条)

民法では、複数の債務者がいる場合の原則は分割債務ですが、商法511条1項は、数人の者がその一人又は全員のために商行為となる行為によって債務を負担したときは、当然に連帯債務となることを定めています。

また、511条2項は、保証人がある場合において主たる債務が商行為によって生じたものであるとき、又は保証が商行為であるときは、主たる債務者と保証人は連帯して債務を負う(連帯保証となる)と規定しています。

試験のポイント: 民法の原則(分割債務・普通保証)が商法では修正されている(連帯債務・連帯保証)点を正確に区別しましょう。

商事留置権(521条)

民法上の留置権は、目的物と被担保債権との間に牽連性(個別的な関連性)が必要です。しかし、商法521条の商事留置権は、以下の要件を満たせば牽連性を要求しません。

商事留置権の要件

  1. 債権者・債務者の双方が商人であること
  2. 債権が双方の商行為から生じたものであること
  3. 弁済期が到来していること
  4. 債権者が債務者の所有する物又は有価証券を占有していること
具体例: 商人Aが商人Bとの取引で生じた売掛金を有している場合に、別の取引でBの動産を預かっているとき、民法上の留置権は認められませんが、商事留置権は認められます(牽連性不要)。

契約の申込みに対する諾否通知義務(509条)

商人が平常取引をする者(「平常取引関係にある者」)からその営業の部類に属する契約の申込みを受けたときは、遅滞なく契約の申込みに対する諾否の通知を発しなければなりません。これを怠ったときは、その商人は申込みを承諾したものとみなされます

民法にはこのような規定はなく、商取引の迅速な決済を促進するための商法独自の特則です。

報酬請求権(512条)

民法上、委任契約は原則として無償であり(ただし特約で有償にできる)、報酬の特約がなければ報酬を請求できません。しかし商法512条は、商人がその営業の範囲内において他人のために行為をしたときは、相当な報酬を請求することができると定めています。

これは、商人の行為は営利を目的とするものであるから、当然に報酬を請求できるとする趣旨です。

確認問題

商法上の商事留置権は、民法上の留置権と異なり、目的物と被担保債権との間に個別的な牽連性がなくても成立する。

○ 正しい × 誤り
解説
民法上の留置権は目的物と被担保債権との間に牽連性(個別的関連性)が必要ですが、商法521条の商事留置権は、双方が商人であり双方にとって商行為から生じた債権であれば、牽連性がなくても成立します。これは商取引の迅速性と安全性を確保するための商法独自の特則です。

商事時効の廃止(2017年民法改正)

改正前の商事時効

改正前の商法522条は、商行為によって生じた債権の消滅時効を5年と定めていました。民法の一般的な消滅時効(改正前は10年)よりも短い期間とすることで、商取引の早期決済を促進する趣旨でした。

2017年改正による廃止

2017年(平成29年)の民法改正(2020年4月1日施行)に伴い、商法522条は削除され、商事時効の制度は廃止されました。

その理由は以下のとおりです。

改正民法は、消滅時効の期間を以下のように統一しました。

起算点期間権利を行使することができることを知った時(主観的起算点)5年権利を行使することができる時(客観的起算点)10年

民法の時効期間が「知った時から5年」に統一されたため、商事時効(5年)を別途設ける必要がなくなり、商法522条は削除されました。

試験のポイント: 現行法では商事時効という特則は存在せず、商行為によって生じた債権の消滅時効も民法の一般原則(主観的起算点から5年、客観的起算点から10年)に従います。この改正は行政書士試験で問われる可能性があるため、注意が必要です。

商事法定利率の廃止

商事時効と同様に、改正前の商法514条が定めていた商事法定利率(年6%)も削除されました。

改正民法が法定利率を年3%(3年ごとに見直す変動制)と定めたため、商事法定利率を別途設ける合理性がなくなったことが理由です。

現行法では、商行為によって生じた債権の法定利率も民法404条の法定利率(年3%、変動制)が適用されます。

項目改正前改正後商事時効5年(商法522条)廃止(民法の原則に統一)商事法定利率年6%(商法514条)廃止(民法の法定利率に統一)
確認問題

現行法では、商行為によって生じた債権の消滅時効期間は商法の規定により5年とされている。

○ 正しい × 誤り
解説
2017年民法改正(2020年施行)に伴い、商事時効を定めていた商法522条は削除されました。現行法では、商行為によって生じた債権の消滅時効も民法の一般原則に従い、権利を行使することができることを知った時から5年、権利を行使することができる時から10年となります。

試験対策のまとめ

択一式で問われるポイント

  1. 商人の意義: 固有の商人(4条1項)と擬制商人(4条2項)の区別
  2. 商行為の3分類: 絶対的商行為(501条)、営業的商行為(502条)、附属的商行為(503条)の区別
  3. 民法との違い: 連帯債務の推定(511条)、商事留置権(521条)、諾否通知義務(509条)、報酬請求権(512条)
  4. 2017年改正による廃止: 商事時効(旧522条)と商事法定利率(旧514条)の削除

学習のコツ

商法の商行為分野は、民法との比較表を作成して横断的に整理するのが最も効率的な学習法です。出題の多くは「商法では民法と異なり〇〇となる」という形式ですので、両者の相違点を正確に把握することが合格への近道です。

特に、2017年改正で廃止された商事時効と商事法定利率については、「改正前はこうだったが、改正後は廃止された」という出題が考えられるため、改正の経緯も含めて押さえておきましょう。

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