通達の法的性質と処分性|墓地通達事件ほか判例解説
通達の法的性質と処分性について墓地埋葬通達事件(最判昭和43年12月24日)を中心に解説。通達が国民の権利義務に影響するか、処分性の有無を判例で整理します。
通達の法的性質と処分性の問題は、行政書士試験の行政法科目において毎年のように出題される最頻出テーマの一つです。特に墓地埋葬通達事件(最判昭和43年12月24日)は、通達の法的性質に関するリーディングケースとして極めて重要です。本記事では、通達の定義・法的性質から、墓地埋葬通達事件の判旨、さらに行政立法の体系的整理まで徹底的に解説します。
通達とは何か
通達の法的性質と処分性の問題を理解するためには、まず通達とは何かを正確に把握する必要があります。
通達の定義
通達とは、上級行政機関が下級行政機関に対して発する命令であり、法令の解釈や行政の運用方針を示すものです。
各大臣、各委員会及び各庁の長官は、その機関の所掌事務について、命令又は示達するため、所管の諸機関及び職員に対し、訓令又は通達を発することができる。
― 国家行政組織法 第14条2項
通達は、行政組織の内部的な命令であり、法律や政令のように官報に公布されるものではありません。
通達の機能
通達は、行政実務において以下のような機能を果たしています。
通達は行政運営において極めて重要な役割を果たしていますが、法的には行政組織内部の命令にすぎず、法律とは異なる位置づけとなっています。
通達と法規命令の違い
通達の法的性質を理解するうえで、法規命令との違いを明確にすることが不可欠です。
行政立法の体系的整理
通達の法的性質を正確に理解するために、行政立法の全体像を整理しておきましょう。
行政立法の分類
行政立法とは、行政機関が定立する一般的な規範のことです。行政立法は、大きく「法規命令」と「行政規則」に分類されます。
法規命令の種類
法規命令はさらに「委任命令」と「執行命令」に分類されます。
行政規則の種類
行政規則には、通達のほかに以下のようなものがあります。
ここで重要なのは、行政手続法5条に基づく審査基準や12条に基づく処分基準も、法的性質としては行政規則に分類されるという点です。ただし、これらは行政手続法の規定により設定・公表が義務づけられており、行政庁は原則としてこれに従って処分を行うべきものとされています。
通達は法規命令に分類され、国民の権利義務を直接規律する効力を有する。○か×か。
事案の概要:墓地埋葬通達事件
墓地埋葬通達事件(最判昭和43年12月24日)は、通達の法的性質と処分性に関するリーディングケースです。
事実の経緯
墓地、埋葬等に関する法律(墓地埋葬法)は、埋葬や火葬の方法について定めた法律です。この法律の解釈について、厚生省(当時)が通達を発していましたが、その通達の内容が変更されたことが問題の発端です。
原告の主張
原告は、以下のように主張しました。
- 通達の変更により、従来認められていた埋葬方法が認められなくなり、自己の権利が侵害された
- 通達の変更は行政処分に該当するから、取消訴訟の対象となる
- 通達の変更は違法であるから取り消されるべきである
争点
本件の争点は、通達の変更が行政事件訴訟法3条2項にいう「行政庁の処分」に該当するかどうか、すなわち通達に処分性が認められるかどうかです。
この法律において「処分の取消しの訴え」とは、行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為の取消しを求める訴訟をいう。
― 行政事件訴訟法 第3条2項
処分性が認められるためには、「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」に該当する必要があります。最高裁の判例によれば、処分性が認められるためには「公権力の主体たる国または公共団体が行う行為のうち、その行為によって、直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められているもの」であることが必要です。
判旨:通達の法的性質と処分性の否定
最高裁は、通達の法的性質について詳細な判断を示し、処分性を否定しました。
通達の法的性質
最高裁は、通達の法的性質について以下のように判示しました。
元来、通達は、原則として、法規の性質をもつものではなく、上級行政機関が関係下級行政機関及び職員に対してその職務権限の行使を指揮し、職務に関して命令するために発するものであり、このような通達は右機関及び職員に対する行政組織内部における命令にすぎないから、これらのものがその通達に拘束されることはあっても、一般の国民は直接これに拘束されるものではない。
― 最判昭和43年12月24日(墓地埋葬通達事件)
この判示のポイントを整理すると以下の通りです。
裁判所への拘束力の否定
さらに、最高裁は通達の裁判所に対する拘束力についても明確に否定しました。
このような通達が法令の解釈についてなされたものである場合に、行政機関がこれと異なる解釈をとることが許されないとしても、裁判所がこれに拘束されるものではなく、通達の内容が法の正しい解釈に合致しない場合には、裁判所は独自にその法令を解釈し適用すべきものである。
― 最判昭和43年12月24日(墓地埋葬通達事件)
この判示は、通達が行政機関を拘束する一方で、裁判所は通達に拘束されず、独自に法令を解釈・適用すべきであることを明確にしたものです。
処分性の否定
以上を前提として、最高裁は通達の処分性を否定しました。
通達の内容が、法令の解釈や取扱いに関するものである場合には、それが国民の権利義務に重大なかかわりをもつようなものであっても、そのことから直ちに当該通達が取消訴訟の対象となるものとは解されない。
― 最判昭和43年12月24日(墓地埋葬通達事件)の趣旨
通達は行政組織内部の命令にすぎず、国民の権利義務を直接形成し又はその範囲を確定するものではないから、取消訴訟の対象となる「行政庁の処分」には該当しないとされました。
判旨の論理構造
判旨の論理構造を整理すると以下のようになります。
- 通達は行政組織内部の命令であり、法規の性質をもたない
- 国民は通達に直接拘束されない
- 裁判所も通達に拘束されない
- したがって、通達は国民の権利義務を直接形成するものではない
- よって、通達には処分性が認められない(取消訴訟の対象にならない)
墓地埋葬通達事件(最判昭和43年12月24日)によれば、通達は国民の権利義務に重大なかかわりをもつ場合には、取消訴訟の対象となる。○か×か。
通達の事実上の拘束力
通達は法的には国民を拘束しないとされますが、実際には通達が国民の権利義務に重大な影響を及ぼす場面があります。この「事実上の拘束力」の問題は、試験対策上も重要です。
事実上の拘束力とは
通達は、下級行政機関を拘束するため、行政の窓口では通達に従った運用がなされます。その結果、国民は事実上、通達の内容に従わざるを得ない状況に置かれることがあります。
例えば、税務通達によって一定の所得が課税対象と解釈された場合、国民は法律上は通達に拘束されないとしても、税務署がその通達に従って課税処分を行うため、事実上は通達の内容に従わざるを得ません。
事実上の拘束力の問題点
通達の事実上の拘束力には、以下のような問題点があります。
通達に不服がある場合の対処法
通達自体に処分性が認められないため、通達が違法であると考える国民は、以下のような方法で争うことになります。
- 具体的処分を待って争う: 通達に基づく具体的な処分(許可の拒否、課税処分等)がなされた場合に、その処分の取消訴訟を提起し、訴訟の中で通達の違法性を主張する
- 確認訴訟を提起する: 公法上の法律関係に関する確認の訴え(実質的当事者訴訟)により、通達に基づく法律関係の不存在確認等を求める
- 国家賠償訴訟を提起する: 通達に基づく行政活動により損害を受けた場合に、国家賠償を求める
関連判例:パチンコ球遊器通達事件
通達の処分性に関しては、パチンコ球遊器通達事件も重要な関連判例です。
パチンコ球遊器通達事件(最判昭和33年3月28日)
この事件は、国税庁長官がパチンコ球遊器に対する物品税の課税について通達を発したことに対して、パチンコ球遊器の製造業者が通達の取消しを求めた事案です。
最高裁は、以下のように判示して通達の処分性を否定しました。
通達は、元来、法令の解釈に関し、上級行政庁が下級行政庁に対してなす行政組織内部の命令にすぎず、法規としての性質を有するものではないから、通達を以て直ちに国民の権利義務を変動せしめるものではなく、従って通達自体の取消を求める訴は不適法である。
― 最判昭和33年3月28日(パチンコ球遊器通達事件)の趣旨
この判例は、墓地埋葬通達事件に先立って通達の処分性を否定したものであり、その後の墓地埋葬通達事件でより詳細な法的性質の判断が示されました。
墓地埋葬通達事件とパチンコ球遊器通達事件の比較
処分性に関する体系的整理
通達の処分性を理解するためには、処分性の判断基準の全体像を把握しておくことが有益です。
処分性の判断基準
処分性の一般的な判断基準は、以下の通りです。
公権力の主体たる国又は公共団体が行う行為のうち、その行為によって、直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているもの。
― 最判昭和39年10月29日
この定義に照らして、通達は「直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定すること」が法律上認められていないため、処分性が否定されます。
処分性が否定されるもの・肯定されるものの比較
通達の処分性が例外的に問題となる場面
通達は原則として処分性が否定されますが、通達の内容が実質的に法規命令と同様の効果を持つ場合には、例外的に処分性が問題となる場合があり得ます。
もっとも、判例上、通達の処分性が肯定された例は極めて限定的であり、試験対策上は「通達には処分性がない」という原則を確実に押さえることが重要です。
通達は行政組織内部の命令にすぎないため、裁判所は通達の内容に拘束されず、独自に法令を解釈し適用すべきである。○か×か。
試験での出題ポイント
通達の法的性質と処分性は、行政書士試験において最頻出テーマの一つです。
択一式での出題パターン
パターン1:通達の法的性質
「通達は法規命令に分類される」「通達は国民の権利義務を直接規律する」といった選択肢が出題されます。いずれも誤りです。通達は行政規則であり、国民を拘束しません。
パターン2:通達の処分性
「通達の変更に処分性は認められない」という選択肢が出題されます。これは正しい記述です。墓地埋葬通達事件の結論を押さえましょう。
パターン3:行政立法の分類問題
法規命令(委任命令・執行命令)と行政規則(通達・訓令等)の分類が出題されます。通達がどこに位置するかを正確に把握しましょう。
パターン4:通達と裁判所の関係
「裁判所は通達に拘束される」という選択肢が出題されます。これは誤りです。裁判所は通達に拘束されず、独自に法令を解釈・適用すべきとされています。
多肢選択式での出題パターン
判旨の穴埋めが出題されます。以下のフレーズは正確に暗記しましょう。
- 「通達は、原則として、法規の性質をもつものではなく」
- 「行政組織内部における命令にすぎない」
- 「一般の国民は直接これに拘束されるものではない」
- 「裁判所がこれに拘束されるものではなく」
- 「裁判所は独自にその法令を解釈し適用すべきものである」
頻出のひっかけパターン
まとめ
通達の法的性質と処分性に関する重要ポイントを整理します。
- 通達の法的性質: 通達は上級行政機関が下級行政機関に対して発する行政組織内部の命令であり、法規の性質をもたない。行政立法の分類上は「行政規則」に位置づけられる
- 拘束力の範囲: 通達は下級行政機関及び職員を拘束するが、国民及び裁判所を法的に拘束しない。裁判所は通達と異なる法令解釈を独自に行うことができる
- 処分性の否定: 通達は国民の権利義務を直接形成するものではないから、取消訴訟の対象となる「行政庁の処分」には該当しない。国民の権利義務に重大な影響がある場合でも同様である
通達の法的性質は、行政立法の分類(法規命令と行政規則の区別)と密接に関連しています。行政立法の体系全体を理解したうえで、通達の位置づけを把握することが、正確な理解への近道です。
よくある質問
Q1. 通達に不服がある場合、国民はどのように争うべきですか?
通達自体には処分性が認められないため、通達の取消しを求める取消訴訟を提起することはできません。通達に不服がある場合は、通達に基づく具体的な処分(許可の拒否、課税処分等)がなされた段階で、その処分の取消訴訟を提起し、訴訟の中で通達の解釈が法令に違反していると主張する方法が一般的です。
Q2. 行政手続法の審査基準・処分基準は通達とどのような関係にありますか?
行政手続法5条に基づく審査基準や12条に基づく処分基準は、法的性質としては通達と同様に行政規則に分類されます。ただし、行政手続法の規定により設定・公表が義務づけられている点で、一般的な通達とは異なります。また、行政手続法は審査基準に適合するかどうかを審査すべきことを定めており(6条)、行政庁は原則として審査基準に従って処分を行うべきものとされています。
Q3. 通達と告示はどのように異なりますか?
通達は行政組織内部の命令であるのに対し、告示は行政機関が一般に対して公に知らせる行為です。告示は、その内容によって法規命令の性質を持つ場合と、行政規則の性質を持つ場合があります。例えば、法律の委任に基づいて国民の権利義務に関する基準を定める告示は法規命令の性質を持ちますが、単に行政運営上の事項を公にする告示は行政規則にすぎません。
Q4. 通達の法的性質に関する問題は、試験のどの科目で出題されますか?
通達の法的性質は、主に行政法の行政立法の分野で出題されます。具体的には、法規命令と行政規則の分類に関する問題、通達の処分性に関する問題として出題されます。また、行政事件訴訟法の処分性の論点としても出題されることがあり、さらに国家賠償法の問題の中で通達の法的性質が前提知識として問われることもあります。
Q5. 実務上、通達はどの程度重要ですか?
通達は法的には行政規則にすぎませんが、実務上は極めて重要な役割を果たしています。税法の分野では膨大な通達が発出されており、税務行政は事実上、通達に基づいて運営されています。行政手続の分野でも、許認可の審査基準が通達の形式で定められていることが多く、実務家にとって通達の理解は不可欠です。
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