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遺留分侵害額請求の要件と改正ポイントを徹底解説

遺留分侵害額請求権(民法1046条)の要件と効果を徹底解説。改正前の「遺留分減殺請求」からの変更点と試験出題ポイントを整理します。

はじめに|遺留分は相続法の最重要テーマの一つ

遺留分制度は、被相続人の財産処分の自由と相続人の生活保障との調和を図る制度であり、行政書士試験の相続法分野において最も重要なテーマの一つです。

2019年7月1日施行の相続法改正(民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律)により、遺留分制度は根本的な変革を遂げました。最大の変更点は、従来の「遺留分減殺請求権」が「遺留分侵害額請求権」に改められ、物権的効力から金銭債権へと性質が変わったことです。

本記事では、遺留分制度の趣旨・遺留分権利者・遺留分の割合から始め、改正のポイントを丁寧に解説し、遺留分侵害額の算定方法、行使期間、遺留分の放棄まで、試験で問われるすべてのポイントを体系的に整理します。

遺留分制度の趣旨と基本構造

遺留分制度の趣旨

遺留分制度は、被相続人が有していた相続財産について、その一定割合を一定の範囲の相続人に保障する制度です。

被相続人は、遺言によって自由に財産を処分することができます(遺言の自由)。しかし、遺言の自由を完全に認めると、例えば「全財産を第三者に遺贈する」という遺言によって、配偶者や子が一切の財産を相続できなくなる事態が生じえます。

遺留分制度は、このような事態を防止し、相続人の最低限の取り分を保障することを目的としています。具体的には、以下の趣旨が認められています。

  1. 相続人の生活保障: 被相続人に依存して生活していた相続人の生活基盤を守る
  2. 潜在的持分の清算: 相続人が被相続人の財産形成に貢献した部分を清算する
  3. 遺産の公平な分配: 相続人間の公平を図る

遺留分制度の基本的な仕組み

遺留分制度の基本的な仕組みは、次のとおりです。

  1. 一定の相続人(遺留分権利者)に対して、相続財産の一定割合(遺留分)が保障される
  2. 被相続人の遺贈や贈与により遺留分が侵害された場合、遺留分権利者は侵害額に相当する金銭の支払を請求できる(遺留分侵害額請求権)
  3. 遺留分侵害額請求権は、形成権であり、相手方に対する意思表示によって行使する

遺留分権利者と遺留分の割合

遺留分権利者

遺留分を有するのは、以下の相続人です。

  1. 配偶者
  2. 子(代襲相続人を含む)
  3. 直系尊属
兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次条第一項に規定する遺留分を算定するための財産の価額に、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合を乗じた額を受ける。
一 直系尊属のみが相続人である場合 三分の一
二 前号に掲げる場合以外の場合 二分の一
― 民法 第1042条1項

兄弟姉妹には遺留分がありません。これは試験で繰り返し問われる超重要ポイントです。兄弟姉妹が相続人となる場合でも、被相続人は遺言で全財産を自由に処分することができます。

遺留分の割合

遺留分の割合(総体的遺留分)は以下のとおりです。

相続人の構成総体的遺留分配偶者のみ1/2子のみ1/2配偶者と子1/2配偶者と直系尊属1/2配偶者と兄弟姉妹1/2(兄弟姉妹に遺留分なし)直系尊属のみ1/3兄弟姉妹のみ遺留分なし

各遺留分権利者の個別的遺留分は、総体的遺留分に法定相続分を乗じて算出します。

具体例: 相続人が配偶者Aと子B・Cの3人の場合

  • 総体的遺留分: 1/2
  • Aの個別的遺留分: 1/2 × 1/2 = 1/4
  • Bの個別的遺留分: 1/2 × 1/2 × 1/2 = 1/8
  • Cの個別的遺留分: 1/2 × 1/2 × 1/2 = 1/8

代襲相続人の遺留分

被相続人の子が相続開始以前に死亡し、その子(被相続人の孫)が代襲相続人となる場合、代襲相続人も遺留分を有します。代襲相続人の遺留分は、被代襲者が受けるべきであった遺留分と同一です。

改正のポイント:遺留分減殺請求権から遺留分侵害額請求権へ

改正前の遺留分減殺請求権

改正前の遺留分減殺請求権は、物権的効力を有するとされていました。すなわち、遺留分権利者が遺留分減殺請求権を行使すると、遺贈や贈与の効力が遺留分を侵害する限度で失効し、目的物の所有権が遺留分権利者に復帰するとされていました。

この結果、遺留分減殺請求権の行使により、受遺者と遺留分権利者の間で目的物の共有状態が生じることがありました。

改正前の問題点

物権的効力を有する遺留分減殺請求権には、以下の問題点が指摘されていました。

  1. 共有状態の発生: 遺留分減殺請求権の行使により、事業用資産や不動産について受遺者と遺留分権利者の間で共有状態が生じ、事業承継や財産の利用・処分に支障が生じる
  2. 事業承継の阻害: 被相続人が後継者に事業用資産を集中させるために遺言をしても、遺留分減殺請求により共有状態が生じ、円滑な事業承継が困難になる
  3. 法律関係の複雑化: 目的物の共有持分の帰属が問題となり、法律関係が複雑化する

改正後の遺留分侵害額請求権(1046条)

改正民法は、遺留分に関する権利行使の効果を金銭債権化しました。

遺留分権利者及びその承継人は、受遺者(特定財産承継遺言により財産を承継し又は相続分の指定を受けた相続人を含む。以下この章において同じ。)又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる。
― 民法 第1046条1項

この改正により、以下の変更が生じました。

項目改正前(遺留分減殺請求権)改正後(遺留分侵害額請求権)法的性質形成権(物権的効力)形成権(金銭債権の発生)行使の効果遺贈・贈与の効力が失効、現物返還金銭債権が発生共有状態の発生ありなし価額弁償受遺者・受贈者の選択常に金銭での請求

改正の意義

この改正の核心的な意義は、遺留分侵害額請求権の行使によっても遺贈や贈与の効力は失われないという点にあります。受遺者や受贈者は目的物の所有権を失わず、遺留分権利者に対して金銭を支払えば足ります。

これにより、被相続人が特定の相続人に事業用資産を集中させる遺言をした場合でも、遺留分権利者が行使できるのは金銭請求権のみであり、事業用資産の共有状態は生じません。事業承継の円滑化が図られた点で、実務的にも大きな意義を有する改正です。

裁判所による期限の許与(1047条5項)

金銭債権化に伴い、受遺者・受贈者が直ちに金銭を準備できない場合に備えて、裁判所は、受遺者又は受贈者の請求により、遺留分侵害額の全部又は一部の支払につき、相当の期限を許与することができるとされています(1047条5項)。

遺留分侵害額の算定方法

基礎となる財産の算定(1043条・1044条)

遺留分を算定するための基礎となる財産の価額は、以下の算式で求められます。

遺留分算定の基礎となる財産 = 被相続人の相続開始時の積極財産 + 贈与の価額 - 債務の全額

遺留分を算定するための財産の価額は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除した額とする。
― 民法 第1043条1項

算入される贈与の範囲(1044条)

遺留分の算定に算入される贈与の範囲は、以下のとおりです。

贈与の相手方算入される範囲条文相続人以外の第三者相続開始前1年間にしたもの1044条1項相続人相続開始前10年間にした婚姻・養子縁組・生計の資本としての贈与(特別受益)1044条3項当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってした贈与期間制限なし1044条1項後段

相続人への贈与は10年以内、第三者への贈与は1年以内という期間の違いは、試験で頻出のポイントです。相続人への贈与の期間が長いのは、特別受益に相当する贈与が問題となるためです。

遺留分侵害額の計算

遺留分侵害額は、以下の算式で求められます(1046条2項)。

遺留分侵害額 = 遺留分の額 -(遺留分権利者が相続により取得した財産の価額 - 相続債務の負担額)- 遺留分権利者が受けた特別受益の額

具体例で確認しましょう。

被相続人甲の相続財産: 6,000万円(積極財産)、債務: 1,000万円
相続人: 配偶者A、子B
遺言: 全財産を子Bに相続させる
甲は生前、第三者Cに500万円を贈与(相続開始前1年以内)

  1. 遺留分算定の基礎となる財産: 6,000万円 + 500万円 - 1,000万円 = 5,500万円
  2. Aの遺留分の額: 5,500万円 × 1/2(総体的遺留分)× 1/2(法定相続分)= 1,375万円
  3. Aが相続により取得した財産: 0円(全財産がBに相続されるため)
  4. Aの相続債務負担額: 1,000万円 × 1/2 = 500万円
  5. Aの遺留分侵害額: 1,375万円 -(0円 - 500万円)- 0円 = 1,875万円

したがって、Aは遺留分侵害額請求権に基づき、1,875万円の金銭の支払を請求できます。

受遺者・受贈者が複数いる場合の負担順序(1047条)

遺留分侵害額の負担については、以下の順序が定められています。

  1. 受遺者と受贈者がいる場合: まず受遺者が負担し、受遺者が負担した後になお不足する場合に、受贈者が負担する(1047条1項1号)
  2. 受遺者が複数いる場合: 遺贈の目的の価額の割合に応じて負担する(1047条1項2号)
  3. 受贈者が複数いる場合: 後の贈与に係る受贈者から順次負担する(1047条1項3号)

遺留分侵害額請求権の行使と消滅

行使方法

遺留分侵害額請求権は形成権であり、受遺者又は受贈者に対する意思表示によって行使します。裁判上の行使は不要であり、裁判外の意思表示でも有効です(最判昭41.7.14参照)。

意思表示が相手方に到達した時点で、金銭債権が発生します。

消滅時効と除斥期間(1048条)

遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から十年を経過したときも、同様とする。
― 民法 第1048条
期間起算点性質1年相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時消滅時効10年相続開始の時消滅時効(改正後)

1年の消滅時効の起算点について、判例は、単に相続の開始を知っただけでは足りず、遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から起算するとしています。

遺留分の放棄(1049条)

相続開始前の遺留分の放棄

相続の開始前における遺留分の放棄は、家庭裁判所の許可を受けたときに限り、その効力を生ずる。
― 民法 第1049条1項

相続開始前に遺留分を放棄するには、家庭裁判所の許可が必要です。これは、被相続人や他の相続人からの圧力によって不当に遺留分を放棄させられることを防止するためです。

家庭裁判所は、放棄が本人の自由な意思に基づくものであるか、放棄に合理的な理由があるか、放棄の代償が提供されているかなどを考慮して、許可の可否を判断します。

相続開始後の遺留分の放棄

相続開始後の遺留分の放棄は、家庭裁判所の許可は不要であり、遺留分権利者の自由な意思によって行うことができます。これは、相続開始後は被相続人からの圧力がなくなるため、保護の必要性が低いと考えられるためです。

遺留分の放棄と相続の放棄の違い

項目遺留分の放棄相続の放棄相続開始前家庭裁判所の許可が必要(1049条1項)不可(915条1項)相続開始後自由にできる家庭裁判所への申述が必要(938条)効果遺留分のみを放棄。相続人たる地位は維持初めから相続人とならなかったものとみなす他の相続人への影響他の共同相続人の遺留分に影響を及ぼさない(1049条2項)他の相続人の相続分が変動しうる

遺留分の放棄は、他の共同相続人の遺留分に影響を及ぼしません(1049条2項)。例えば、子Aが遺留分を放棄しても、子Bの遺留分は増加しません。放棄された遺留分は、被相続人の処分の自由が拡大する結果となります。

試験における出題ポイント整理

最重要ポイント

  1. 兄弟姉妹には遺留分がない(1042条1項)
  2. 金銭債権化が改正の核心: 遺留分侵害額請求権は金銭債権を発生させるものであり、物権的効力はない
  3. 相続人への贈与は10年以内、第三者への贈与は1年以内が算入期間(1044条)
  4. 消滅時効: 知った時から1年、相続開始から10年
  5. 相続開始前の遺留分放棄には家庭裁判所の許可が必要

計算問題への対応

遺留分侵害額の計算は、記述式での出題が予想されます。以下の手順を覚えましょう。

  1. 遺留分算定の基礎となる財産を算出(積極財産+贈与-債務)
  2. 総体的遺留分を確認(1/2又は1/3)
  3. 個別的遺留分を算出(総体的遺留分×法定相続分)
  4. 遺留分侵害額を算出(個別的遺留分-取得財産+債務負担額-特別受益)
確認問題

兄弟姉妹にも遺留分は認められる。○か×か。

○ 正しい × 誤り
解説
民法1042条1項は、遺留分を有する相続人を「兄弟姉妹以外の相続人」と規定しています。したがって、兄弟姉妹には遺留分は認められません。これは、兄弟姉妹は被相続人と生活関係が密接でないことが多く、生活保障の必要性が低いと考えられるためです。
確認問題

改正民法において、遺留分侵害額請求権を行使すると、遺贈の効力が遺留分を侵害する限度で失効し、目的物の所有権が遺留分権利者に復帰する。○か×か。

○ 正しい × 誤り
解説
これは改正前の遺留分減殺請求権の効果です。改正民法では、遺留分侵害額請求権の行使により発生するのは金銭債権のみであり、遺贈の効力は失われず、目的物の所有権は受遺者に帰属したままです(民法1046条1項)。金銭債権化が改正の核心です。
確認問題

相続開始前に遺留分を放棄する場合、家庭裁判所の許可が必要である。○か×か。

○ 正しい × 誤り
解説
民法1049条1項は、「相続の開始前における遺留分の放棄は、家庭裁判所の許可を受けたときに限り、その効力を生ずる」と規定しています。これは、被相続人からの圧力による不当な遺留分放棄を防止するためです。なお、相続開始後の遺留分放棄は家庭裁判所の許可は不要です。

まとめ

本記事では、遺留分侵害額請求権の要件と改正ポイントについて解説しました。

要点を3つに整理します。

  1. 金銭債権化が改正の核心: 改正前の遺留分減殺請求権は物権的効力を有し、現物返還が原則であったが、改正後の遺留分侵害額請求権は金銭債権を発生させるのみ。遺贈・贈与の効力は影響を受けない。事業承継の円滑化と共有状態の回避が改正の趣旨。
  2. 遺留分の算定方法を正確に理解する: 遺留分算定の基礎となる財産(積極財産+贈与-債務)を算出し、総体的遺留分(1/2又は1/3)と法定相続分から個別的遺留分を計算する。相続人への贈与は10年以内、第三者への贈与は1年以内が算入される点を押さえる。
  3. 行使期間と遺留分の放棄: 消滅時効は知った時から1年・相続開始から10年。相続開始前の遺留分放棄には家庭裁判所の許可が必要。遺留分の放棄は他の共同相続人の遺留分に影響しない。

遺留分は、条文知識と計算力の両方が問われるテーマです。改正のポイントを正確に押さえ、計算問題にも対応できるよう練習を重ねましょう。

FAQ(よくある質問)

Q1. 遺留分侵害額請求権はいつまでに行使しなければなりませんか?

遺留分侵害額請求権は、遺留分権利者が相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年の消滅時効にかかります。また、相続開始時から10年を経過したときも消滅します(1048条)。時効の起算点は、単に相続開始を知っただけでは足りず、遺留分を侵害する贈与又は遺贈の存在を知った時です。

Q2. 遺留分侵害額請求権の行使は裁判で行う必要がありますか?

いいえ。遺留分侵害額請求権は形成権であり、受遺者又は受贈者に対する意思表示(内容証明郵便等)によって裁判外で行使できます。ただし、金銭の支払について合意が成立しない場合は、最終的に訴訟で解決することになります。

Q3. 遺留分を放棄した相続人は、相続権も失いますか?

いいえ。遺留分の放棄は、遺留分のみを放棄するものであり、相続人たる地位には影響しません。遺留分を放棄した相続人も、相続人として相続財産を取得する権利を有します。遺留分の放棄と相続の放棄は別の制度です。

Q4. 受遺者が遺留分侵害額に相当する金銭を直ちに用意できない場合はどうなりますか?

改正民法1047条5項により、受遺者又は受贈者の請求により、裁判所は遺留分侵害額の全部又は一部の支払につき相当の期限を許与することができます。金銭債権化に伴い、受遺者・受贈者の資金調達の困難に配慮した規定です。

Q5. 特別受益を受けた相続人の遺留分はどう計算されますか?

特別受益を受けた相続人の遺留分侵害額は、その個別的遺留分の額から、相続により取得した財産の価額を控除し、さらに特別受益の額を控除して算出されます(1046条2項)。特別受益を多く受けている相続人は、その分だけ遺留分侵害額が小さくなります。

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