使用者責任(715条)の要件と判例を徹底解説
使用者責任(民法715条)の3つの要件と重要判例を徹底解説。「事業の執行につき」の解釈と免責事由について試験出題ポイントを整理します。
はじめに|使用者責任は試験で繰り返し問われる
使用者責任(民法715条)は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害について、使用者が賠償責任を負う制度です。行政書士試験では、択一式で頻繁に出題されるだけでなく、記述式でも出題可能性が高いテーマとして位置づけられています。
使用者責任が試験で特に重視される理由は、(1)「事業の執行について」の解釈に関する判例が豊富であること、(2)免責事由の実際上の機能について理解が問われること、(3)求償権の制限に関する著名な判例が存在すること、の3点にあります。
本記事では、715条の条文構造を確認した上で、3つの成立要件を丁寧に解説し、「事業の執行について」の外形理論、免責事由の実際、そして求償権の制限に関する重要判例を体系的に整理します。さらに、過去問で実際に問われた角度、受験生が陥りやすい誤解、関連論点との横断整理まで踏み込み、本記事だけで715条の出題範囲を網羅できるようにしました。
この記事で押さえるべき全体像
使用者責任の学習は、次の4ステップで進めると効率的です。まず条文の3要件を正確に押さえ、次に「事業の執行について」の外形理論を判例とセットで理解し、続いて免責事由が実際にはほぼ機能しないという「条文と判例のギャップ」を理解し、最後に求償・逆求償の処理を覚える、という順序です。この4ステップが、そのまま本記事の構成になっています。
民法715条の条文構造と趣旨
715条の条文
使用者責任の基本条文である民法715条を確認しましょう。
ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
― 民法 第715条1項
使用者に代わって事業を監督する者も、前項の責任を負う。
― 民法 第715条2項
前二項の規定は、使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない。
― 民法 第715条3項
条文を読む際は、3つの項がそれぞれ別の論点に対応していることを意識してください。1項本文が成立要件、1項ただし書が免責事由、2項が代理監督者責任、3項が求償権です。択一式では、この4ブロックのいずれを問うているのかを最初に見極めると、選択肢の正誤判断が速くなります。
使用者責任の法的性質と趣旨
使用者責任の趣旨は、報償責任の原理と危険責任の原理に基づきます。
- 報償責任: 他人を使用して利益を得ている者は、その活動から生じた損害についても責任を負うべきである(利益の存するところに損失もまた帰せしめる)。
- 危険責任: 他人を使用することで社会に危険を生じさせている者は、その危険が現実化した場合に責任を負うべきである。
使用者責任は、使用者自身に直接の故意・過失がなくても責任を負う点で、一般不法行為(709条)よりも加重された責任類型です。法的性質としては、被用者の不法行為を前提とした代位責任(他人の行為についての責任)と解されています。
この「代位責任」という性質は、後述する要件2(被用者自身に709条の不法行為が成立していること)の前提となります。被用者の不法行為が成立しないのに使用者だけが責任を負う、という構造ではない点が重要です。なお、学説には、使用者自身の選任・監督上の過失を擬制した責任とみる見解(自己責任説的な理解)もありますが、判例・通説は代位責任説を基礎としつつ、免責をほとんど認めないことで実質的に危険責任化させていると整理されます。
715条と709条の関係を図で整理する
被害者から見た請求関係を整理すると、次のようになります。被害者は、加害行為をした被用者本人に対して709条で請求することもでき、使用者に対して715条で請求することもできます。両者は不真正連帯債務の関係に立ち、被害者はどちらに対しても損害全額を請求できます。
国家賠償法1条との関係
使用者責任と類似の制度として、国家賠償法1条があります。国家賠償法1条は、公務員がその職務を行うについて他人に損害を加えた場合に、国又は公共団体がその損害を賠償する責任を負うとするものです。両者の違いを意識しておくと、横断的な出題にも対応できます。
国家賠償法1条は、使用者責任の特則的な性格をもつといわれます。両者を比較する出題では、特に「公務員個人が被害者に対して直接責任を負うか」という点と「求償の要件(重過失の要否)」が問われやすいので、上の表で対比して覚えておきましょう。なお、国家賠償法1条には715条1項ただし書のような免責事由が定められておらず、選任・監督に注意を尽くしたことを理由とする免責はできません。
使用者責任の3つの成立要件
ここからが715条の中核です。成立要件は3つに整理できます。下の表を頭に入れたうえで、各要件の中身を確認していきましょう。
これに加えて、使用者の免責事由(1項ただし書)が「主張・立証されないこと」が実際上の成立条件となりますが、これは消極的要件として後述します。
要件1:使用関係の存在
第一の要件は、加害者と使用者との間に使用関係(指揮監督関係)が存在することです。条文では「ある事業のために他人を使用する者」と表現されています。
使用関係の判断において重要なのは、実質的な指揮監督関係の有無です。雇用契約に基づく労働者と使用者の関係が典型ですが、判例は、雇用契約の有無にかかわらず、実質的な指揮監督関係があれば使用関係を認めています。
- 請負契約の注文者と請負人の関係でも、注文者が実質的に指揮監督していれば使用関係が認められうる
- 元請業者と下請業者の労働者との間でも、元請業者が実質的な指揮監督をしている場合には使用関係が認められうる
- 親会社と子会社の従業員の関係でも、実質的に親会社が指揮監督していれば使用関係が認められうる
判例は、使用関係を広く認める傾向にあります。これは、被害者保護を重視する使用者責任の趣旨に沿うものです。
使用関係は「一時的・無償」でも認められうる
使用関係は、継続的な雇用関係に限られません。報酬の有無や契約期間の長短は問われず、一時的・無償の手伝いであっても、その作業について実質的な指揮監督があれば使用関係が認められうるとされます。例えば、友人に車の運転を頼んだ場合のように、無償・一時的であっても、依頼者が運転について指示できる立場にあれば使用関係が肯定される余地があります。試験では「雇用契約がなければ使用関係は認められない」という誤った断定肢に注意してください。
請負・下請の処理に注意
請負の場合、原則として注文者は請負人の行為について責任を負いません(716条)。しかし、注文者が請負人を実質的に指揮監督していた場合には、もはや独立の請負人とはいえず、715条の使用関係が認められることがあります。このように、715条と716条は「実質的な指揮監督関係の有無」という同じ基準で振り分けられる関係にあります。元請・下請の事案で「下請の労働者が起こした事故について元請に責任を問えるか」という形は、過去問でも問われやすい角度です。
要件2:被用者の不法行為
第二の要件は、被用者が一般不法行為(709条)の要件を満たす不法行為を行ったことです。
使用者責任はあくまで代位責任であるため、被用者自身の行為が709条の要件(故意又は過失、権利侵害、損害の発生、因果関係、責任能力)を充足していることが前提となります。被用者に不法行為が成立しない場合、使用者責任も成立しません。
ただし、被用者の行為が不法行為の要件を満たしていれば足り、被用者が現に損害賠償の資力を有しているかどうかは問いません。被害者は、使用者と被用者のいずれに対しても損害賠償を請求できます。
「被用者の特定」は必須ではない
注意したいのは、加害行為をした被用者が具体的に誰であるかを特定できなくても、いずれかの被用者の不法行為であることが認められれば、使用者責任は成立しうるという点です。被用者個人の責任を追及する709条では加害者の特定が必要ですが、使用者責任ではその点が緩和されると理解しておくと、応用問題に対応できます。
被用者の責任能力は必要か
被用者の行為が709条の不法行為に当たる以上、被用者に責任能力があることが前提となります。被用者が責任無能力者で709条責任を負わない場合、理論上は使用者責任の前提を欠くことになりますが、この場合は監督義務者の責任(714条)など別の構成が問題となります。試験対策上は、まず「被用者に709条の不法行為が成立すること」を起点に処理する、という基本を押さえておけば十分です。
要件3:事業の執行について行われたこと
第三の要件は、被用者の不法行為が「その事業の執行について」行われたことです。この要件の解釈は、使用者責任の最も重要な論点であり、試験でも繰り返し問われています。
「事業の執行について」の解釈には、以下の学説がありますが、判例は外形理論(外形標準説)を採用しています。
ここで条文の文言にも注目してください。715条は「事業の執行につき(について)」と定めており、「事業の執行に際して」や「事業の執行のために」とは書かれていません。「につき」という文言は、事業の執行そのものより広く、外形的に事業の範囲内とみられる行為を含むものと解されています。この文言解釈が、外形理論を支える根拠の一つです。
「事業の執行について」の外形理論
外形理論の意義
外形理論とは、被用者の行為が、外形上、使用者の事業の範囲内に属するものと認められる場合には、「事業の執行について」に該当するとする考え方です。被用者の行為が実際に事業の執行そのものでなくても、外形的に見て事業の執行の範囲内に属すると認められれば、使用者責任が成立します。
この外形理論は、被害者保護の観点から、「事業の執行について」を広く解釈するものです。被害者は、被用者の行為が外形上事業の範囲内のものと信じたのであり、その信頼は保護されるべきだという考え方が基礎にあります。
取引行為型と事実行為型の違い
外形理論は、すべての類型に同じ論理で適用されるわけではありません。判例は、相手方の信頼が問題となる取引行為型と、被害者の信頼が観念しにくい事実行為型とで、外形理論の機能のさせ方を分けています。両者の違いを表で整理しておきましょう。
取引行為型の判例
取引行為型とは、被用者が使用者の事業に関連する取引行為を行った場合に、その行為が「事業の執行について」に該当するかが問題となる類型です。
最判昭40.11.30
被用者が会社の手形行為を担当する権限を有しないにもかかわらず、会社の代表取締役名義の約束手形を偽造して第三者に交付した事案について、最高裁は、その手形の振出しが外形上、被用者の職務の範囲内の行為と認められるとして、使用者責任の成立を肯定しました。
この判例は、被用者が自己の利益のために行った行為であっても、外形上、事業の執行の範囲内と認められれば、使用者責任が成立することを明らかにしたものです。
取引行為型では相手方の主観が問われる
取引行為型では、行為の外形に対する相手方(被害者)の信頼が保護の対象です。そのため、相手方が「これは被用者の権限外の行為だ」と知っていた場合(悪意)や、わずかの注意で気づけたのに気づかなかった場合(重過失)には、保護に値する信頼がないため、使用者責任は否定されます。最高裁も、取引の相手方が被用者の行為が職務権限内において適法に行われたものでないことを知り、又は重大な過失により知らなかった場合には「事業の執行について」に当たらないとしています(最判昭42.11.2参照)。「悪意又は重過失」が基準であって、軽過失では否定されない点が出題ポイントです。
事実行為型の判例
事実行為型とは、被用者が暴力行為や交通事故などの事実行為を行った場合に、「事業の執行について」該当性が問題となる類型です。
最判昭44.11.18
会社の従業員が、業務上の運転中に自己の用事で寄り道をして交通事故を起こした事案について、外形上、なお事業の執行の範囲内にあると認められるとして、使用者責任を肯定しました。
最判昭46.6.22
会社の従業員がマイカーで通勤途中に交通事故を起こした事案について、マイカー通勤が会社の業務と密接な関連を有する場合には、「事業の執行について」に該当しうるとしました。
喧嘩・暴力行為と「事業の執行について」
事実行為型のうち、被用者が職場で同僚や第三者に暴力をふるった事案も問題となります。判例は、被用者の暴力行為であっても、それが事業の執行行為を契機とし、これと密接な関連を有すると認められる場合には、「事業の執行について」に当たるとしています。単なる私的な喧嘩であれば事業の執行性は否定されますが、業務上の口論が発展して暴力に至ったような場合には肯定されうる、という区別です。事実行為型では取引のような相手方の信頼が観念しにくいため、外形理論というより「事業執行行為との密接な関連性」で判断されると整理しておくとよいでしょう。
被害者の悪意・重過失と外形理論
外形理論は被害者保護のための法理であるため、被害者が、被用者の行為が事業の執行ではないことを知っていた場合(悪意の場合)、又は知らないことに重大な過失がある場合(重過失の場合)には、外形理論の適用は否定されます。
この「悪意・重過失で否定される」というルールは、主に取引行為型で意味をもちます。交通事故のような事実行為型では、被害者がその行為を信頼して取引に入ったわけではないため、悪意・重過失の議論は基本的に問題になりません。択一式では、事実行為型の事案に「被害者が悪意なら使用者責任は否定される」と接続する誤り肢が作られやすいので注意してください。
免責事由(715条1項ただし書)
免責事由の内容
715条1項ただし書は、使用者が以下のいずれかを証明した場合に免責されると規定しています。
- 被用者の選任について相当の注意をしたこと
- 事業の監督について相当の注意をしたこと
- 相当の注意をしても損害が生ずべきであったこと
免責事由の立証責任は使用者側にあります。被害者が「使用者に選任・監督上の過失があったこと」を立証する必要はなく、使用者の側が「相当の注意をしたこと」を立証しなければ免責されない、という立証責任の配分(中間責任)も押さえておきましょう。一般不法行為(709条)が被害者側に過失の立証を求めるのと対照的です。
実際上の機能
条文上は免責事由が規定されていますが、判例は免責をほとんど認めていません。これは、使用者責任の趣旨(報償責任・危険責任)からすれば、使用者が自らの事業活動のリスクを引き受けるのは当然であり、選任・監督の注意を尽くしたとしても免責すべきではないとの考え方に基づきます。
判例法上、715条1項ただし書の免責がほぼ認められないことは、実質的に使用者の責任を無過失責任に近いものとしています。この点は、試験で繰り返し問われるポイントであり、「条文上は免責事由があるが、判例上は実質的に無過失責任」という理解が重要です。
ここで注意したいのは、条文の建前と判例の運用を混同しないことです。択一式では、「使用者は被用者の選任・監督について相当の注意をしたことを証明しても免責されない」と書くと、条文の文言(ただし書)に反するため誤りになります。逆に「条文上は免責されうるが、判例上はほぼ認められない」という記述は正しい。条文レベルの正誤と判例レベルの実態を区別して答える訓練が必要です。
代理監督者の責任(715条2項)
使用者に代わって事業を監督する者(工場長、支店長など)も、使用者と同様の責任を負います。代理監督者も715条1項ただし書の免責を主張できますが、やはり実際上は免責が認められることは稀です。
代理監督者とは、「客観的に見て、使用者に代わって現実に事業を監督する地位にある者」を指します。単なる地位・肩書ではなく、現実に被用者を指揮監督していたかどうかで判断されます。代理監督者が責任を負う場合でも、本来の使用者の責任が消えるわけではなく、使用者と代理監督者がともに責任を負いうる点に注意してください。
使用者の求償権と信義則による制限
使用者の被用者に対する求償権(715条3項)
715条3項は、使用者が被害者に損害を賠償した場合、被用者に対して求償権を行使できると規定しています。しかし、求償権の行使が無制限に認められると、使用者は自らの事業活動で利益を得ながら、損失はすべて被用者に転嫁することになり、不公平な結果となります。
茨城石炭商事事件(最判昭51.7.8)
この問題について最も重要な判例が、最判昭51.7.8(茨城石炭商事事件)です。
事案は、石油等の輸送販売を業とする会社の従業員がタンクローリーを運転中に交通事故を起こし、被害者に損害を加えたため、会社が使用者責任に基づき被害者に賠償金を支払い、その後、被用者に対して求償権を行使したというものです。
最高裁は、以下のように判示しました。
使用者が、その事業の執行につきなされた被用者の加害行為により、直接損害を被り又は使用者としての損害賠償責任を負担したことに基づき損害を被った場合には、使用者は、その事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防若しくは損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、被用者に対し右損害の賠償又は求償の請求をすることができるにすぎない。
― 最判昭和51年7月8日(茨城石炭商事事件)
本判決は、求償権の行使を信義則により制限し、損害の公平な分担の見地から相当と認められる限度にとどめるべきとしました。本件では、使用者の求償は損害額の4分の1の限度で認められました。
この判例で示された考慮要素は以下のとおりです。
求償が制限される根拠と覚え方
求償が制限される根拠は、使用者責任の趣旨(報償責任・危険責任)にあります。利益を得ている使用者がリスクをすべて被用者に転嫁できるとすれば、危険責任・報償責任の原理に反するからです。考慮要素は数が多く丸暗記は難しいので、「使用者側の事情(事業の性格・規模・施設・損失分散の配慮)」と「被用者側の事情(業務内容・労働条件・勤務態度・加害行為の態様)」の2グループに分けて理解すると整理しやすくなります。本件で求償が「4分の1」に制限されたという結論も、数字として問われることがあるので押さえておきましょう。
逆求償の問題
逆求償とは、被用者が被害者に損害賠償をした場合に、使用者に対して求償できるかという問題です。
715条3項は使用者から被用者への求償のみを規定しており、被用者から使用者への逆求償については明文の規定がありません。しかし、最高裁は、被用者から使用者への逆求償を認めました。
最判令2.2.28
最高裁は、被用者が使用者の事業の執行について第三者に損害を加え、その損害を賠償した場合には、被用者は、損害の公平な分担という見地から相当と認められる額について、使用者に対して求償することができると判示しました。
この判例は、使用者から被用者への求償の制限(茨城石炭商事事件)の裏返しとして、被用者から使用者への逆求償を認めたもので、試験でも出題が予想される重要な判例です。
逆求償の趣旨と射程
最判令2.2.28の論理は明快です。使用者から被用者への求償が損害の公平な分担の見地から制限される以上、被用者が先に全額を賠償した場合に使用者へ求償できないとすれば、たまたま誰が先に支払ったかという偶然の事情によって最終的な負担が大きく変わってしまい、不公平です。そこで、被用者から使用者への逆求償も、同じく「損害の公平な分担」の見地から認められるとされました。求償・逆求償いずれも判断基準は「損害の公平な分担」で一貫している、と覚えると混乱しません。比較的新しい判例であり、出題可能性が高いので、年号(令和2年)と結論(逆求償肯定)はセットで記憶しておきましょう。
求償・逆求償の関係を一覧で整理
過去問で問われた角度・出題ポイント
使用者責任は出題実績が豊富なテーマです。過去問・予想問題で繰り返し問われてきた角度を整理しておきます。
- 3要件のうちどれを欠くかを問う:使用関係がない、被用者の不法行為が成立しない、事業の執行性がない、のいずれかを事案に当てはめさせる形。
- 外形理論の射程:取引行為型で相手方が悪意・重過失なら否定される点、事実行為型では悪意・重過失の議論が基本的に問題にならない点。
- 免責事由の条文と実態のギャップ:「条文上は免責されうるが判例上はほぼ認められない」を正確に書けるか。
- 求償の制限と数字:茨城石炭商事事件の「信義則による制限」「損害の公平な分担」、本件で4分の1に制限された結論。
- 逆求償の肯否:最判令2.2.28で逆求償が認められたこと。
- 709条との関係:被用者本人も709条で直接責任を負い、被害者はどちらにも全額請求できること(不真正連帯)。
- 716条・国賠法1条との横断比較:使用関係と請負の振り分け、国賠法1条との免責・求償の違い。
記述式(多肢選択を含む)では、茨城石炭商事事件の「損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度」というキーフレーズや、逆求償を認めた最判令2.2.28の結論を答えさせる形が想定されます。判旨のキーワードを正確に再現できるようにしておきましょう。
よくある誤解と注意点
学習者がつまずきやすいポイントを、誤解の形で列挙します。
- 誤解1:「使用者が免責を証明すれば責任を免れる」とだけ覚える。条文上はそのとおりですが、判例上はほぼ免責されず実質無過失責任に近い、という運用面まで理解していないと正誤判断を誤ります。
- 誤解2:「雇用契約がなければ使用関係はない」。実質的な指揮監督関係があれば、無償・一時的な手伝いや下請関係でも使用関係は認められます。
- 誤解3:「被用者が特定できなければ使用者責任は成立しない」。被用者個人の特定は必須ではなく、いずれかの被用者の不法行為と認められれば足ります。
- 誤解4:「使用者が賠償すれば被用者は責任を免れる」。被用者本人の709条責任は消えません。被害者はなお被用者に請求でき、使用者は被用者に求償しうる(ただし制限あり)。
- 誤解5:「求償は常に全額認められる」。茨城石炭商事事件により、損害の公平な分担の見地から信義則上相当な限度に制限されます。
- 誤解6:「逆求償はできない」。明文はありませんが、最判令2.2.28で肯定されています。
使用者責任と他の制度との関係
法人の不法行為責任(一般法人法78条等)との関係
法人の代表者が職務を行うについて他人に損害を加えた場合、法人は損害賠償責任を負います(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律78条、会社法350条)。この法人の不法行為責任と使用者責任は、いずれも他人の行為について責任を負う点で共通しますが、法人の不法行為責任では免責が認められない点で異なります。
代表者の行為については法人の不法行為責任(会社法350条等)、従業員の行為については使用者責任(715条)が問題になる、という役割分担を意識しておくと、事案処理を間違えにくくなります。
注文者の責任(716条)との関係
注文者は、請負人がその仕事について第三者に加えた損害について、原則として責任を負いません(716条本文)。ただし、注文者が注文又は指図について過失があったときは、責任を負います(716条ただし書)。
注文者の責任(716条)と使用者責任(715条)の境界は、注文者が請負人に対して実質的な指揮監督をしていたかどうかで判断されます。実質的な指揮監督がある場合には、請負関係ではなく使用関係と認定され、715条が適用される可能性があります。
共同不法行為(719条)との関係
使用者と被用者は、被害者に対して共同不法行為者として連帯責任を負う場合もあります。使用者自身にも709条の要件を満たす不法行為が認められる場合には、719条の共同不法行為が成立する余地があります。
動物占有者の責任(718条)など中間責任との比較
民法には、714条(責任無能力者の監督義務者の責任)、715条(使用者責任)、718条(動物占有者の責任)など、立証責任を加害者側に転換した「中間責任」型の規定が複数あります。いずれも「相当の注意をしたこと」を加害者側が立証すれば免責される建前ですが、714条・715条では判例上ほとんど免責が認められない点が共通しています。中間責任のグループとしてまとめて整理しておくと、横断問題に強くなります。
使用者責任(715条)において、使用者が被用者の選任及び事業の監督について相当の注意をしたことを証明した場合、使用者は免責される。この免責は判例上も容易に認められている。○か×か。
使用者が被害者に損害賠償をした場合、被用者に対して求償権を行使できるが、判例によれば、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度においてのみ求償できる。○か×か。
被用者が被害者に損害賠償をした場合に、使用者に対して逆求償することは認められない。○か×か。
取引行為型の使用者責任において、被用者の行為が職務権限内で適法に行われたものでないことを相手方が知っていた場合(悪意)でも、外形上事業の範囲内であれば使用者責任は常に成立する。○か×か。
まとめ
本記事では、使用者責任(民法715条)の要件と重要判例について解説しました。
要点を整理します。
- 3つの成立要件: ①使用関係(実質的指揮監督)、②被用者の709条不法行為、③事業の執行についての3要件を満たすと使用者責任が成立する。使用関係は雇用契約がなくても、実質的指揮監督があれば認められる。
- 「事業の執行について」の外形理論: 判例は外形理論を採用し、被用者の行為が外形上事業の範囲内と認められれば使用者責任が成立するとしている。取引行為型では相手方の悪意・重過失があれば否定される一方、事実行為型ではこの議論は基本的に問題にならない。
- 免責事由の実際上の機能: 条文上は選任・監督の注意を証明すれば免責されるが、判例上はほぼ免責が認められず、実質的に無過失責任に近い。この「条文と判例のギャップ」を理解しておくこと。
- 求償権の制限と逆求償: 茨城石炭商事事件(最判昭51.7.8)による求償権の信義則上の制限(本件で4分の1)と、最判令2.2.28による逆求償の肯定は、いずれも試験の頻出ポイントである。両者の判断基準はともに「損害の公平な分担」で一貫している。
使用者責任は、条文構造がシンプルなぶん、判例知識が合否を分けるテーマです。本記事で取り上げた判例の事案・判旨を正確に理解し、確実な得点力を身につけましょう。
FAQ(よくある質問)
Q1. 使用者責任と注文者の責任(716条)の違いは何ですか?
使用者責任(715条)は「使用関係(指揮監督関係)」がある場合に成立し、使用者は被用者の不法行為について広く責任を負います。一方、注文者の責任(716条)は「請負関係」における注文者の責任であり、原則として注文者は責任を負わず、注文又は指図について過失がある場合にのみ責任を負います。両者の区別は、実質的な指揮監督関係の有無によって判断されます。
Q2. 使用者責任が成立する場合、被害者は被用者にも直接請求できますか?
はい、できます。使用者責任が成立する場合、被用者自身も709条に基づく不法行為責任を負っています。被害者は、使用者と被用者のいずれに対しても損害賠償を請求できます。使用者の責任と被用者の責任は不真正連帯の関係にあり、被害者はどちらか一方又は双方に全額を請求できます。
Q3. アルバイトや派遣社員の場合も使用者責任は成立しますか?
はい、成立しえます。使用者責任における「使用関係」は、雇用契約の形式ではなく、実質的な指揮監督関係の有無で判断されます。アルバイトであっても使用者の指揮監督下にあれば使用関係が認められます。派遣社員の場合は、派遣元と派遣先のどちらが実質的に指揮監督しているかによって、いずれに使用者責任が成立するかが決まります。
Q4. 被用者が業務時間外に起こした事故でも使用者責任は成立しますか?
外形理論の観点から、被用者の行為が外形上事業の範囲内と認められるかどうかで判断されます。例えば、会社の車で通勤中の事故の場合、外形上事業の執行の範囲内と認められる可能性があります。単に業務時間外であるというだけでは、使用者責任は否定されません。
Q5. 国家賠償法1条と使用者責任(715条)はどう違いますか?
最大の違いは、(1)国家賠償法1条では公務員個人は被害者に対して直接責任を負わない(判例)のに対し、715条では被用者個人も709条に基づき直接責任を負う点、(2)国家賠償法1条では免責事由がないのに対し、715条では免責事由が規定されている(ただし実際上は機能していない)点です。
Q6. 使用者が複数いる場合(元請と下請など)、どちらが責任を負いますか?
実質的な指揮監督関係がどちらにあるかで判断されます。元請業者が下請業者の労働者を実質的に指揮監督していた場合には、元請業者にも使用者責任が認められうる一方、下請業者も雇用主として使用者責任を負いえます。双方に使用関係が認められれば、いずれも被害者に対して責任を負う可能性があります。
Q7. 求償が制限されるのは、被用者の過失が軽い場合だけですか?
過失の程度(軽過失か重過失か、故意か)は重要な考慮要素の一つですが、それだけで決まるわけではありません。茨城石炭商事事件は、事業の性格・規模、施設の状況、業務内容、労働条件、勤務態度、損失分散の配慮の程度など諸般の事情を総合して、損害の公平な分担の見地から相当な限度を決するとしています。被用者の過失が重い場合でも、使用者側の事情によっては求償が制限されることがあります。
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