行政不服審査法の全体像|行政書士試験の重要論点を整理
行政不服審査法の全体像を体系的に解説。審査請求の手続き、審理員制度、行政不服審査会、再調査の請求、教示制度など、行政書士試験で頻出の論点を整理します。
行政不服審査法は、行政書士試験の行政法科目において行政手続法と並ぶ最重要法律の一つです。択一式では毎年2〜3問が出題され、審査請求の手続き・審理員制度・裁決の種類・教示制度など、幅広い論点から問われます。2014年(平成26年)に全部改正された現行法の全体像を体系的に整理しましょう。
行政不服審査法の目的と基本原則
行政不服審査法は、行政庁の違法又は不当な処分その他公権力の行使に当たる行為に関して、国民が簡易迅速かつ公正な手続の下で広く行政庁に対する不服申立てをすることができるための制度を定める法律です。
この法律は、行政庁の違法又は不当な処分その他公権力の行使に当たる行為に関し、国民が簡易迅速かつ公正な手続の下で広く行政庁に対する不服申立てをすることができるための制度を定めることにより、国民の権利利益の救済を図るとともに、行政の適正な運営を確保することを目的とする。
― 行政不服審査法 第1条1項
1条の重要キーワード
行政不服審査法の3つの基本原則
行政不服審査法は、以下の3つの基本原則を有しています。
- 一般概括主義(一般法としての性格): 処分に対する不服申立てについて一般的に適用される法律である。個別法に特別の定めがある場合は個別法が優先する
- 書面審理主義: 審理は原則として書面により行われる(口頭意見陳述の機会はあるが、基本は書面審理)
- 自由選択主義: 行政不服申立てと取消訴訟のいずれを先に提起するかは、原則として申立人の自由な選択に委ねられている
行政不服審査法は、行政庁の違法な処分のみを対象とし、不当な処分は対象としていない。○か×か。
不服申立ての種類
2014年改正により、不服申立ての種類は大幅に簡素化されました。改正前は「異議申立て」「審査請求」「再審査請求」の3類型がありましたが、改正後は審査請求に一元化されました。
改正前後の比較
現行法における不服申立ての体系
現行の行政不服審査法では、不服申立ての種類は以下のとおりです。
- 審査請求(2条・4条): 不服申立ての原則的な手段。処分庁の最上級行政庁に対して行う
- 再調査の請求(5条): 法律に特別の定めがある場合に限り、処分庁に対して行う。大量処分を迅速に見直すための簡易な手続
- 再審査請求(6条): 法律に特別の定めがある場合に限り、審査請求の裁決に不服がある者が行う
審査請求の対象
審査請求は、処分についての審査請求と不作為についての審査請求の2つに大別されます。
処分についての審査請求(2条)
行政庁の処分に不服がある者は、第四条及び第五条第二項の定めるところにより、審査請求をすることができる。
― 行政不服審査法 第2条
不作為についての審査請求(3条)
法令に基づき行政庁に対して処分についての申請をした者は、当該申請から相当の期間が経過したにもかかわらず、行政庁の不作為(法令に基づく申請に対して何らの処分をもしないことをいう。以下同じ。)がある場合には、次条の定めるところにより、当該不作為についての審査請求をすることができる。
― 行政不服審査法 第3条
審査請求の対象に関する重要ポイント
審査請求をすべき行政庁(4条)
審査請求は、原則として処分庁等の最上級行政庁に対して行います。ただし、以下の場合は異なります。
審査請求の手続き
審査請求書の提出(19条)
審査請求は、審査請求書を提出して行わなければなりません(19条1項)。口頭での審査請求は原則として認められませんが、他の法律又は条例に口頭ですることができる旨の定めがある場合は、口頭で行うことも可能です(20条)。
審査請求書には、以下の事項を記載する必要があります。
処分についての審査請求の場合(19条2項):
- 審査請求人の氏名又は名称及び住所又は居所
- 審査請求に係る処分の内容
- 審査請求に係る処分があったことを知った年月日
- 審査請求の趣旨及び理由
- 処分庁の教示の有無及びその内容
- 審査請求の年月日
審査請求期間(18条)
審査請求には期間制限があり、この期間を徒過すると審査請求が不適法として却下されます。
処分についての審査請求は、処分があったことを知った日の翌日から起算して三月(当該処分について再調査の請求をしたときは、当該再調査の請求についての決定があったことを知った日の翌日から起算して一月)を経過したときは、することができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない。
― 行政不服審査法 第18条1項
注意点:
- 主観的期間は「知った日の翌日から3か月」であり、「3か月以内」ではない(初日不算入の原則)
- 客観的期間は「処分があった日の翌日から1年」である
- いずれの期間も「正当な理由」があるときは例外が認められる
- 不作為についての審査請求には審査請求期間の制限はない
審理員制度
審理員制度は、2014年改正で新設された制度であり、審理の公正性を確保するための重要な仕組みです。
審理員の選任(9条)
審査庁は、審査庁に所属する職員のうちから第三十一条から第三十六条までに規定する審理手続を行う者を指名するとともに、その旨を審査請求人及び処分庁等に通知しなければならない。
― 行政不服審査法 第9条1項
審理員となることができない者(9条2項)
審理の公正性を確保するため、以下の者は審理員となることができません。
- 審査請求に係る処分若しくはその不作為に係る処分に関与した者又はこれらの処分若しくは不作為に係る再調査の請求についての決定に関与した者
- 審査請求人
- 審査請求人の配偶者、四親等内の親族又は同居の親族
- 審査請求人の代理人
- 審査請求人についての後見人、後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人又は補助監督人
- その他政令で定める者
審理員が行う審理手続
審理員は、以下の審理手続を主宰します。
審理員制度の例外(9条1項ただし書)
以下の場合は、審理員の指名を要しません。
- 審査庁が内閣府設置法に規定する委員会若しくはこれに置かれる委員会又は地方自治法に規定する委員会若しくは委員である場合
- 条例に基づく処分について条例に特別の定めがある場合
- その他政令で定める場合
審理員は、審査請求に係る処分に関与した者であっても、審査庁が特に必要と認めた場合には審理員に指名することができる。○か×か。
行政不服審査会への諮問
審査庁は、審理員意見書の提出を受けた後、原則として行政不服審査会等に諮問しなければなりません(43条1項)。これは審理の客観性・公正性を外部の第三者機関によって担保する仕組みです。
行政不服審査会の概要
諮問が不要な場合(43条1項各号)
以下の場合は、行政不服審査会等への諮問が不要です。
- 審査請求人が諮問を希望しない旨を表明している場合
- 審査請求が不適法であり却下する場合
- 審査請求に係る処分を全部取り消し又は撤廃する場合等(審査請求に係る事実上の行為の全部を撤廃すべき旨を命じ又は撤廃する場合を含む)
- 審理員意見書に記載された審理員の意見を相当と認める場合で、審査請求人・参加人がそれぞれ審査庁の裁決の内容に同意している場合
- 法律に諮問を要しない旨の定めがある場合
裁決の種類
審査庁は、審理員意見書及び行政不服審査会等の答申を踏まえて裁決を行います。裁決には以下の種類があります。
処分についての審査請求に対する裁決
事情裁決の要件と効果
事情裁決は、処分が違法又は不当であっても、取消し等が公の利益に著しい障害を生ずる場合に例外的に行われる裁決です。
審査請求に係る処分が違法又は不当ではあるが、これを取り消し、又は撤廃することにより公の利益に著しい障害を生ずる場合において、審査請求人の受ける損害の程度、その損害の賠償又は防止の程度及び方法その他一切の事情を考慮した上、処分を取り消し、又は撤廃することが公共の福祉に適合しないと認めるときは、裁決主文で、当該処分が違法又は不当であることを宣言する。
― 行政不服審査法 第45条3項(要旨)
事情裁決では、裁決の主文で処分が違法又は不当であることを宣言しなければなりません。
不作為についての審査請求に対する裁決
再調査の請求
再調査の請求は、大量の処分を迅速に見直す必要がある場合に設けられた簡易な手続です。
再調査の請求の要件
行政庁の処分につき処分庁以外の行政庁に対して審査請求をすることができる場合において、法律に再調査の請求をすることができる旨の定めがあるときは、当該処分に不服がある者は、処分庁に対して再調査の請求をすることができる。
― 行政不服審査法 第5条1項
再調査の請求と審査請求の関係
再調査の請求をした場合でも、審査請求をすることが可能です。ただし、再調査の請求をした後に審査請求をする場合は、再調査の請求についての決定を経た後でなければなりません。もっとも、再調査の請求をした日の翌日から起算して3か月を経過しても決定がない場合等は、決定を経ずに審査請求をすることができます(5条2項ただし書)。
教示制度
教示制度は、不服申立ての機会を実質的に保障するための重要な制度です。
審査請求の教示(82条)
行政庁は、審査請求若しくは再調査の請求又は他の法令に基づく不服申立て(以下この条において「不服申立て」と総称する。)をすることができる処分をする場合には、処分の相手方に対し、当該処分につき不服申立てをすることができる旨並びに不服申立てをすべき行政庁及び不服申立てをすることができる期間を書面で教示しなければならない。ただし、当該処分を口頭でする場合は、この限りでない。
― 行政不服審査法 第82条1項
教示制度の重要ポイント
教示をしなかった場合の救済(83条)
行政庁が教示をしなかった場合、処分に不服がある者は、当該処分庁に不服申立書を提出することができます。この場合、処分庁は速やかに不服申立書を適切な審査庁に送付し、その旨を不服申立人に通知しなければなりません。
行政事件訴訟法との関係(自由選択主義)
行政不服審査法と行政事件訴訟法の関係は、自由選択主義が原則です。
自由選択主義とは
処分に不服がある者は、行政不服申立て(審査請求)と取消訴訟のいずれを先に提起するかを自由に選択できます。つまり、審査請求を経ずに直接取消訴訟を提起することも、審査請求を経てから取消訴訟を提起することも可能です。
処分の取消しの訴えは、当該処分につき法令の規定により審査請求をすることができる場合においても、直ちに提起することを妨げない。
― 行政事件訴訟法 第8条1項本文
審査請求前置主義(例外)
ただし、個別の法律に審査請求前置の定めがある場合は、審査請求に対する裁決を経た後でなければ取消訴訟を提起できません(行政事件訴訟法8条1項ただし書)。
審査請求前置が定められている例:
- 国税通則法に基づく処分(国税不服審判所への審査請求を経る必要)
- 生活保護法に基づく処分
- 労働者災害補償保険法に基づく処分
ただし、審査請求前置が定められている場合でも、以下のときは裁決を経ずに取消訴訟を提起できます(行政事件訴訟法8条2項)。
- 審査請求があった日から3か月を経過しても裁決がないとき
- 処分、処分の執行又は手続の続行により生ずる著しい損害を避けるため緊急の必要があるとき
- その他裁決を経ないことにつき正当な理由があるとき
行政不服審査法と行政事件訴訟法の比較
行政不服審査法による審査請求の主観的審査請求期間は、処分があったことを知った日の翌日から起算して6か月である。○か×か。
試験での出題ポイント
行政不服審査法に関する問題は、以下のパターンで出題されます。
条文知識として暗記すべき事項
- 1条の目的規定: 「簡易迅速かつ公正」「違法又は不当」「国民の権利利益の救済」「行政の適正な運営の確保」の4つのキーワード
- 審査請求期間: 主観的期間3か月、客観的期間1年
- 審理員制度: 審理員の選任方法、除斥事由
- 裁決の種類: 却下・棄却・認容の区別、事情裁決の要件
- 教示制度: 書面による教示義務、教示すべき内容
頻出のひっかけパターン
まとめ
行政不服審査法の全体像に関する重要ポイントを整理します。
- 目的: 簡易迅速かつ公正な手続の下で国民の権利利益の救済を図るとともに、行政の適正な運営を確保すること。審査対象は「違法又は不当」
- 不服申立ての種類: 審査請求が原則。再調査の請求・再審査請求は法律に特別の定めがある場合のみ
- 審査請求期間: 主観的期間は知った日の翌日から3か月、客観的期間は処分の日の翌日から1年
- 審理員制度: 2014年改正で新設。審査庁が所属職員から指名。処分関与者等は審理員になれない
- 行政不服審査会: 審理員意見書の提出後に原則として諮問。第三者機関による審理の客観性確保
- 裁決の種類: 却下・棄却・認容が基本。事情裁決は公の利益に著しい障害が生ずる場合の例外的処理
- 教示制度: 不服申立てできる処分をする際は、書面による教示義務あり
- 自由選択主義: 審査請求と取消訴訟は原則として自由に選択可能。個別法で審査請求前置が定められる場合あり
行政不服審査法は、2014年の全部改正により審理員制度や行政不服審査会など新たな制度が導入されました。改正の趣旨を踏まえた出題が増加しているため、旧法との違いも含めて正確に理解しておくことが重要です。